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自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
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★★

著者:  笹生陽子
出版社: 角川書店

  主人公は兎丸エイジという17歳の少年。彼は、奔放な母と腕白な異父弟・ヒロトに振り回され、高校に通いつつも一方では家事全般を担当し、兎丸家というものを支えています。父親は不在。そもそもエイジが生まれる前からいません。母が外国へと出張に赴き、ヒロトが水疱瘡にかかった時に、杉尾さんを家に呼んでから普通の日々が崩れ始め・・・

  なかなか面白かったです。父親と出会い、心をぐらつかせてしまう少年の物語。

  青春小説というものは、どうしても美しい物語になりがちです(たとえば『翼はいつまでも』という青春小説は、青春をファンタジックなまでに美しく描き出す)。しかし、『ぼくは悪党になりたい』は、キラキラしていない青春というものをみごとに捉えています。本当はそんな感じだよなぁ、と納得。

  エイジはどんどんと追い詰められていきます。けど全体の雰囲気は明るくて良いです。

  それにしてもエイジは本当に阿呆だなぁ。まぁ堕ち続けていく惨めな最後らへんの場面では少し応援したくなるけど、全体としてはじれったいなぁと思いました。勝手にして下さい、という感じ。彼が、自分とうまく付き合いきれていないのがよく分かります。

  最後も悪党になるわけじゃないし、本当に中途半端です。真面目な人間が、いきなり悪党になろうとしてもできるわけがないのか。そこがリアル。


自森人読書 ぼくは悪党になりたい
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★★★★

著者:  北野勇作
出版社: 徳間書店

  かめくんは、「木星戦争」に投入されるために開発されたレプリカメのはずなのですが、クラゲ荘に住み、中州中央図書館に通い、巨大カメに乗ってザリガニと戦い、猫を気にかけ、りんごを愛し、穏やかな日々を過ごしていました。『かめくん』は、そんなほのぼのとしたかめくんの日常を描いています。ちょっととぼけた雰囲気をまとったSF小説。

  表紙がまず良いです。各章のタイトルも最高。
    第一章  模造亀(レプリカメ)
    第二章  機械亀(メカメ)
    第三章  亀記憶(カメモリー)
    第四章  亀手紙(カメール)
  ってな感じ。

  そして中身も非常に面白かったです。かめくんのほのぼのした雰囲気がまず良い、と感じました。そして、現実と物語が互いに侵入しあっている世界と、かめくんの哲学と、擬音語の多用と、随所に仕込まれたパロディと、そしてほのかな物悲しさといったものが混じりあっていて面白い物語を形作っています。ほのぼのしているのに、哀しくて、滑稽で、シュール。

  かめくんの哲学を読んでいて、この作品は確かにSFだ、と感じました。

  第22回日本SF大賞を受賞。


自森人読書 かめくん
自由の森学園では、今日、明日と関東ブロックフボコンが行われています。今日は分科会がありました。自由の森学園の授業が体験できるということで。「自由の森学園の合唱(音楽)」「間伐して森も人も元気になろう!(林業)」「世界を「他人ごと」から「自分ごと」にするには?(社会)」などの講座も、ありました。

そして、明日は大田堯さんの講演があります。自由の森学園の理事だったことがある方だそうです。面白そうです。

百日咳の流行のため、高3は参加できないのですが・・・
菅浩江の短編集『雨の檻』が読み終わりました。

『カトレアの真実』
死病に罹った女のところに、カトレアの刺青をした男が現れます。

『お夏 清十郎』
日本舞踊の家元・奈月は時遡能力を持っています。彼女は、過去へ戻り、踊りを身につけるのですが・・・

『ブルー・フライト』
試験管ベビー達には、〈遺言〉が与えられています。しかし、〈遺言〉を果たせなくなったとき・・・ 菅浩江のデビュー作。


読んだ作品
菅浩江『カトレアの真実』
菅浩江『お夏 清十郎』
菅浩江『ブルー・フライト』


読んでいる最中
コードウェイナー・スミス『ノーストリリア』
『ヴィーナス・プラスX』
チャーリー・ジョンズは、銀色の空の下で目覚めます。彼はローラへの愛を忘れられません。しかし、そこは、彼が生きてきた世界とは、異なっていたし、ローラはいませんでした。周りにいるのは、奇天烈な格好をしたレダム人です。彼らは、自分たちの世界をどう思うか、率直な意見を聞かせてくれれば、もとの世界に戻す、と約束してくれたのですが・・・

1960年に発表されたSF小説。

異世界レダムの物語と、アメリカの一般的な家庭の物語が交互に綴られています。セックス/ジェンダーの問題を浮き彫りにしています。

読みすすめていくと、レダム人が築き上げた奇天烈な世界のことが、少しずつ分かってきます。その過程は楽しいです。彼ら(という言い方は間違っているけど)は、男ではないし、女でもありません。性別が存在しないのです。だから、彼らは人間の異常さを映し出す鏡になります。

最後まで、予想がつきません。意外なラストが待っています。

シオドア・スタージョンのテーマは、愛です。しかし、その愛は性愛を含みますが、性愛だけではありません。深いです。原始的なキリスト教が唱えた愛というものに関する考察がなされています。

チャーリー・ジョンズは同性愛を蔑みます。差別を捨て切れません。人より上に立ちたいと望んでしまう人間は、差別を捨て切れないのかも知れない、と感じます。しかし、そういった差別を帰してしまったレダムがユートピアといえるのかどうか。考えさせられます。殺し合いが続く人間の世界と比べてみれば、それほど悪くない、とは思いますが。


読んだ本
シオドア・スタージョン『ヴィーナス・プラスX』

読んでいる最中
コードウェイナー・スミス『ノーストリリア』
菅浩江『雨の檻』
菅浩江の短編『雨の檻』を読んでいる最中。
『雨の檻』

『雨の檻』
新天地を目指す恒星間宇宙船の船窓には、いつも陰気な風景が映っています。雨が決してやまないのです。体が弱い少女シノは船室から出られず、その風景を見つめています・・・

『カーマイン・レッド』
絵描きを目指す少年は、学校で、正確だけど、動きがない絵を描くロボットと出会い・・・

『セピアの迷彩』
オリジナルとクローンの確執の物語。

『そばかすのフィギュア』
自分が生み出したキャラクター・アーダがフィギュアになることを知り、少女は喜ぶのですが・・・


読んだ作品
菅浩江『雨の檻』
菅浩江『カーマイン・レッド』
菅浩江『セピアの迷彩』
菅浩江『そばかすのフィギュア』


読んでいる最中
コードウェイナー・スミス『ノーストリリア』
シオドア・スタージョン『ヴィーナス・プラスX』
菅浩江『雨の檻』
『探偵倶楽部』
探偵倶楽部は、金を持った特定の人たちにのみ雇われている団体です。依頼を受ければ、何でも調べ、事件を解決していきます。しかし、表立って動くことはありません。『偽装の夜』『罠の中』『依頼人の娘』『探偵の使い方』『薔薇とナイフ』収録。

ミステリ小説。

『探偵倶楽部』というタイトルは印象的ですが、探偵倶楽部の人たちは、それほど活躍しません。彼らは脇役に徹しています。影のような存在なのです。しかし、印象的です。絶対に感情を表さず、依頼者にいつでも正確な情報をもたらします。

事件自体は華やかではありません。しかし、事件の真相が明らかにされていく過程は鮮やかです。よく練られています。それに、ストンと終わります。切れ味が良いです。

『薔薇とナイフ』がとくに印象的。ぞっとするような結末が待っています。東野圭吾は、ぞっとするほど、醒めています。シビアなのです。日本の人間は意味もなく血縁に意味を見出すのだし、世間には俗なことを好む俗物が溢れているのだというような認識が根底にはあるみたいです。

しかし、淡白なので、その冷淡な視線は印象に残りません。巧いのかも知れません。怖いほど、冷淡なミステリのはずなのに、多くの人間が普通に読んでいるのだから。

角川書店。


読んだ本
東野圭吾『探偵倶楽部』

読んでいる最中
コードウェイナー・スミス『ノーストリリア』
『聖☆おにいさん 5』
イエスとブッタは、現代日本で生活しているのですが・・・

おもしろすぎる。登場人物が増えていくので楽しいです。


読んだ本
中村光『聖☆おにいさん 5』

読んでいる最中
コードウェイナー・スミス『ノーストリリア』
『イン・ザ・ペニー・アーケード』
ミルハウザーの小説。第一部『アウグスト・エッシェンブルク』/第二部『太陽に抗議する』『橇滑りパーティー』『湖畔の一日』/第三部『雪人間』『イン・ザ・ペニー・アーケード』『東方の国』。

第一部『アウグスト・エッシェンブルク』
物語の舞台は、19世紀のドイツ。アウグストは時計職人の息子です。彼は、時計職人になるため、歯車のことを学びます。しかし、12歳の時に動く絵をつくり、14歳の時には自動人形を作り始めます。そして、天才的な技を用いて、自動人形に魂を込めようとします。彼は、大手百貨店を経営するプライゼンタンツに見出され、ベルリンに赴くのですが・・・

第二部『太陽に抗議する』 家族とともに海岸へ赴いたエリザベスは、全てを憎む黒づくめの少年を見かけます・・・

『橇滑りパーティー』 キャサリンは橇滑りパーティーに集まった若者たちに紛れています。しかしピーターに不意に告白され、不快に感じ・・・

『湖畔の一日』
ジュディスは休暇の間、マウンテン・ロッジに赴いていました。陰気な女とよく会うので不快に思うのですが・・・

第三部『雪人間』外は雪景色。雪人間が現れます。

『イン・ザ・ペニー・アーケード』
12歳の誕生日を迎え、ペニー・アーケード(遊園地)へ行きました。しかし、そこはなんだか変化していて・・・

『東方の国』
当方の国には、金色の鳥がいて、雲は全て名付けられ、砂時計がさまざまな場所に置かれています。断片的。美しい東方の国のことを綴ったもの。イタロ・カルヴィーノ的。

とくに、『アウグスト・エッシェンブルク』が印象に残ります。アウグストは天才的な技を持ち、禁欲的な姿勢を保ちつつ、美しい人形を作り続けます。しかし、結果的には、全てを引きずりおろそうとする人々と、大量生産された欲望を誘う俗っぽい人形たちに敗北します。痛々しいです。しかし、それが当然の流れなのかも知れません。


読んだ本
スティーヴン・ミルハウザー『イン・ザ・ペニー・アーケード』

読んでいる最中
中村光『聖☆おにいさん 5』
2009年 第45回 --
2008年 第44回 桐野夏生 『東京島』
2007年 第43回 青来有一  『爆心』◇
2006年 第42回 小川洋子  『ミーナの行進』◇
2005年 第41回 町田康  『告白』◇、山田詠美 『風味絶佳』

   31~40回
2004年 第40回 堀江敏幸  『雪沼とその周辺』◇
2003年 第39回 多和田葉子  『容疑者の夜行列車』◇
2002年 第38回 --
2001年 第37回 川上弘美  『センセイの鞄』◇
2000年 第36回 辻原登 『遊動亭円木』、 村上龍 『共生虫』
1999年 第35回 高樹のぶ子 『透光の樹』
1998年 第34回 津島佑子 『火の山―山猿記』
1997年 第33回 保坂和志  『季節の記憶』◇、三木卓 『路地』
1996年 第32回 --
1995年 第31回 辻邦生 『西行花伝』

   21~30回
1994年 第30回 辻井喬 『虹の岬』
1993年 第29回 池澤夏樹 『マシアス・ギリの失脚』
1992年 第28回 瀬戸内寂聴 『花に問え』
1991年 第27回 井上ひさし 『シャンハイムーン』
1990年 第26回 林京子 『やすらかに今はねむり給え』
1989年 第25回 --
1988年 第24回 --
1987年 第23回 筒井康隆 『夢の木坂分岐点』
1986年 第22回 日野啓三 『砂丘が動くように』
1985年 第21回 村上春樹 『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』

   11~20回
1984年 第20回 黒井千次 『群棲』、高井有一 『この国の空』
1983年 第19回 古井由吉 『槿』
1982年 第18回 大庭みな子 『寂兮寥兮』
1981年 第17回 後藤明生 『吉野大夫』、深沢七郎 『みちのくの人形たち』
1980年 第16回 河野多惠子 『一年の牧歌』
1979年 第15回 田中小実昌 『ポロポロ』
1978年 第14回 中村真一郎 『夏』
1977年 第13回 島尾敏雄 『日の移ろい』
1976年 第12回 藤枝静男  『田紳有楽』◇
1975年 第11回 水上勉 『一休』

   第1~10回
1974年 第10回 臼井吉見 『安曇野』
1973年 第9回 加賀乙彦 『帰らざる夏』
1972年 第8回 丸谷才一 『たった一人の反乱』
1971年 第7回 野間宏 『青年の環』
1970年 第6回 埴谷雄高 『闇のなかの黒い馬』、吉行淳之介『暗室』
1969年 第5回 円地文子 『朱を奪うもの』『傷ある翼』『虹と修羅』
1968年 第4回 --
1967年 第3回 安部公房  『友達』◇、 大江健三郎 『万延元年のフットボール』◇
1966年 第2回 遠藤周作  『沈黙』◇
1965年 第1回 小島信夫  『抱擁家族』◇
『DEATH NOTE 1』
久しぶりに読みました。本当に頭が良い人は、主人公達ほど考えないような気もしましたが、面白いです。なんというか、頭脳戦、という感じで。


読んだ本
小畑健、大場つぐみ『DEATH NOTE 1』(再読)

読んでいる最中
スティーヴン・ミルハウザー『イン・ザ・ペニー・アーケード』
『球形時間』
女子高生サヤは、所謂「いまどきの高校生」です。彼女はイザベラに喫茶店で出会います。一方、軽いノリの同級生カツオはマックンと抱き合っています。そうしている内に、不気味な大学生とも親しくなります。担任教師のソノダヤスオは教員としての仕事にうんざりしていて、日々悩んでいます。そして、不気味なナミコはそういった人たちの様子をじっと眺めていて・・・

奇怪な小説。

さらりさらりと読めてしまいますが、意外に難しいです。球形時間とは何なのか最後まで明示されることはありません。日本に流れているのが球形の時間なのではないか、という指摘とも受け取れます。

言葉はふわりふわりと浮かんでいます。サヤは言葉で遊びます。

全体的に捉え難いし、それが故にいまいちよく分からないのですが、何を言いたいのか分からないからといって、文句をつけるのは間違っているような気がします。作品の世界そのものが、そういうふうになっているからです。

作品自体が、なんとなく、気持ち悪いけれど、その気持ち悪さは、日本の気持ち悪さなのではないか、と感じます。教室の中には個人が存在しません。そして、正しそうな理論を掲げている人たちも、結局のところ生理的な快・不快に則って行動します。その空間の中にある人たちは連結し、女性から表出する「もの(月経や毛)」を徹底的に消そうとします。そして、その過度な発露が、ナミコです。

物語として完成されていないように思えるし、気持ち悪いけれど、実はこの作品こそが、日本というものを表しているような気もします。


読んだ本
多和田葉子『球形時間』

読んでいる最中
スティーヴン・ミルハウザー『イン・ザ・ペニー・アーケード』
『ヘヴン』
僕は斜視です。だから、学校では、「ロンパリ」と呼ばれ、殴られ、蹴られ、笑われ続けています。その苛めを主導しているのは二ノ宮。彼はクラスの頂点に立ち、大人からも一目置かれています。だから、僕はどうしようもありません。そんな僕は、不潔な格好をしているため同じように陰惨な苛めを受けているコジマから手紙を貰い、親しくなります。彼女は離別した父親と繋がっているために、そのような格好をしていました。

小説。

主人公は、暴力について考えていきます。そして、コジマや、二ノ宮の友である百瀬の言葉に翻弄されつつも、必死に何かを選び取ろうとします。しかし、結局、憎らしい二ノ宮を殺したり、石で殴ったりすることはなかなかできません。したくないからです。

非常に深いです。僕のような中学生が、哲学的な言葉を放つはずはないし、浮ついている、というような指摘もありますが、それらの指摘は、はずれているような気がします。『ヘヴン』は、思索のための小説なのだから。

読んでいると痛くなってきます。コジマは、あらゆる人間は加害者か、あるいは被害者にならざるを得ないのだし、そうであるならば最も弱き者になるしか、加害者にならない方法はないというふうに考えていきます。その考え方自体はよく分かるし、共感します。だけど、それは、あらゆる人間に罪を押し付けることにもなります。非常に嫌悪されることは明らかです。あらゆる宗教が、そういう側面を持っているような気もしますが。

一方、百瀬は、全てを「たまたま」、つまり偶然という言葉で説明しようとします。そして、全ては巡りあわせでしかない、というふうに断言します。怖いけれど、強い気がします。

川上未映子は正面から苛めというものに挑みかかります。古風ともいえます。しかし、迫力があるし、言葉の使い方は巧みだし、何よりその挑み方が良いです。苛めは良くない、というような分かりやすくて美しい結論を導き出すのではなく、苛めや暴力を根本的に捉えようとしていくことに感動します。主人公にとって、ラストの光景は、ヘヴンなのだろうか、と考えてしまいました。

本屋大賞候補作。


読んだ本
川上未映子『ヘヴン』

読んでいる最中
スティーヴン・ミルハウザー『イン・ザ・ペニー・アーケード』
『本屋大賞2010』

■2010年(第7回)
 ◎ 冲方丁  『天地明察』
 2 夏川草介 『神様のカルテ』
 3 吉田修一 『横道世之介』
 4 三浦しをん  『神去なあなあ日常』
 5 小川洋子  『猫を抱いて象と泳ぐ』
 6 川上未映子 『ヘヴン』
 7 藤谷治 『船に乗れ!』
 8 有川浩 『植物図鑑』
 9 東野圭吾  『新参者』
10 村上春樹 『1Q84』


読んだ本
本の雑誌編集部『本屋大賞2010』

読んでいる最中
スティーヴン・ミルハウザー『イン・ザ・ペニー・アーケード』
『アメリカ文学史のキーワード』
物語になっているので、面白いと感じます。マーク・トウェインの位置はそこなのか、と納得します。日本の文学史の中から、キーワードを拾い上げていくことができたら、面白いのかも、とも感じます。


読んだ本
巽孝之『アメリカ文学史のキーワード』(再読)

読んでいる最中
スティーヴン・ミルハウザー『イン・ザ・ペニー・アーケード』
355砂の女
★★★★★ 安部公房

354第三の時効
★★★★★ 横山秀夫

553ぼくのミステリな日常
★★★ 若竹七海

352向日葵の咲かない夏
★★★★ 道尾秀介

351私と月につきあって
★★★ 野尻抱介
★★★★★

著者:  安部公房
出版社: 新潮社

  昆虫採集に出かけた男は砂丘に迷い込み、村落の人間に助けを求めた。だが、彼らは男を助けるどころか、砂の中に埋もれゆく一軒の家に閉じ込めてしまう。男は、その家にもとからいた女とともに砂掻きをしながら、生活していくことになるのだが、どうしても納得できず何度も脱出を試みる。しかし、決してうまくいかない。女は逆に、男を家に縛りつけようとした。村の人々はそれを冷静に観察していて・・・

  1/8mmの砂に包まれた小説。

  砂に埋もれつつある村なんてものは、存在しないはずです。それなのに細部の描写が生々しいだからか、いかにも本当にある出来事のような気がしてきます。安部公房の創りだす気持ち悪い世界というものは凄いです。

  文章は、非常に読みやすいです。普通のサスペンス小説でも読んでいるような気分で読めます。中身を理解できたとはいえないけど・・・

  「罰がなければ逃げる楽しみもない」という扉の言葉に呼応して、世界が逆転してしまう三章が非常に面白いです。それまでの過程があるので、結局男がたどり着いてしまった境地になんとなく納得できてしまいます。「希望」とはいったい何なのか。どこにもそんなものはなくて、本当は自分で勝手に思い描くものなのかも知れない。

  第14回読売文学賞を受賞。1968年、フランスの最優秀外国文学賞を受賞。映画化もされています。


自森人読書 砂の女
★★★★★

著者:  横山秀夫
出版社: 集英社

  F県警捜査第一課が活躍する短編集。どのような手段を用いててでも、絶対に獲物を落とす鬼のように刑事たちの物語。あまりにも壮絶。これは架空の物語だろう、本物の現場だってここまで荒んではいないだろう、と思わされるほど(警察内部がどうなっているか本当のところは知らないけど)。

  『沈黙のアリバイ』
  一班の班長である朽木が主人公。新入りの刑事島津が「落とした」はずの犯人が、裁判になった途端、完全無罪を主張。犯人は自分にはアリバイがあると言い出します。島津は逃げるようにして辞任。朽木は追い詰められました。さて、彼は犯人のアリバイを暴くことが出来るのか?

  『第三の時効』
  一時的に二班へ行かされた一班の刑事、森と二班の班長、楠見が主人公。容疑者が海外渡航をした場合、その期間だけ時効が延びます。それが「第二の時効」。しかし、楠見は犯人を焙り出すべく、ただ1人で、恐るべき計画を立案し、実行します。「第三の時効」とはいったい何なのか・・・?

  『囚人のジレンマ』
  一班、二班、三班それぞれが抱え持っている事件と、その三つの班を監督する立場にある田畑第一捜査課長の物語。部下が無能であれば苦労を味わい、部下が有能であればもっと大きな苦労を味わうことに・・・ 田畑という人は大変な苦労を背負っているみたいです。

  『密室の抜け穴』
  県北部で白骨死体が発見されます。事件をまかされたのは三班。しかし、事件現場に到着した直後に班長・村瀬が倒れ、班は危機的状況に陥ってしまいました。班を率いる立場にある東出と石上が反目し合ったのです。とはいえ、なんとか容疑者の絞込みには成功し、容疑者を監視していたら、さらに問題が発生。暴対課の顔を立てて刑事3人を捜査に加えたら、監視下で犯人が忽然と消失。警察内はごたごたしまくり・・・

  『ペルソナの微笑』
  隣のV県で、アオ(青酸カリ)によってホームレスが殺されたという情報が入ります。自分の県で、13年前に子どもを利用した残酷な殺人事件が起こったことがありました。それとの関わりを調べるために一班が出動します。

  『モノクロームの反転』
  一家3人が刺殺されます。一班とと三班が出動。事件解決に乗り出すのですが、2つの班は互いにいがみ合い、ひどいことになります。無事事件解決にこぎつけることは出来るのか・・・


自森人読書 第三の時効
★★★

著者:  若竹七海
出版社: 東京創元社

  連作短編集のように見えて実は・・・ 凝った作品。

  若竹七海は、月刊社内報の編集長に抜擢され、それまでのだらだらした日々から脱出。張り切って仕事にとりかかります。ですが、「あまり硬い内容にはせず、小説を載せよ」と言われて困惑。プロに頼むほどの予算はありません。そこで、大学時代の先輩に頼んでみたら、「知人でミステリっぽい短編を書いてくれる人がいる」と言われ、その人に連載を頼むことに。条件は匿名、というもので・・・

  若竹七海のデビュー作。

  幽霊話みたいなものも含まれているのですが、12個の短編どれもが面白かったです。基本的には何らかの仕掛けがあります。次はどんなふうなトリックでくるのか、と楽しみでした(密室やら、叙述トリックやらいろいろある)。少し強引なものもあるけれど、捻りがきいていてみごと。

  日常の描写が秀逸。文章もきちりと整っています。あと登場人物の会話が面白いです。ぽんぽんはずんでいきます。

  最後のオチにも驚かされました。単なる短編集では終わりません。だけど、「最後短編同士のつながりが明らかにされるところが素晴らしい」という絶賛を聞いてしまってから読んだら、そこまで凄い、と思えなかったです。ちょっと期待しすぎてしまったのかも知れない。

  しかし、とにかく個々の短編が良いです。


自森人読書 ぼくのミステリな日常
『ライ麦畑でつかまえて』
ホールデン・コールフィールドは成績が悪かったため学校を退学になります。その後、生まれ育ったニューヨークへ戻ろうとするのですが、インチキに満ち溢れた周囲に馴染むことはできません。苛立ちに任せ、大人社会を罵倒し続けます。しかし、その中で、うまく立ち回ることは出来ません。彼は、家族と過ごした少年の頃を懐かしみます。

反青春小説。

教養小説、青春小説であるならば、主人公は成長していきます。大人になるため、ステップアップしていくのです。しかし、ホールデン・コールフィールドは成長しません。彼は、大人たちのインチキを非難し続けることだけに力を注ぎます。

ホールデンは、いくらでも言葉を紡ぎます。脈絡や根拠といったものは気にせず、目の前にあるインチキや汚さや不正をあげつらいます。その喋り方が面白い、のかも知れません。いや、その喋り方こそが、『ライ麦畑でつかまえて』そのものか。

これといって筋はありません。

作品を紹介する際、主人公は、「反逆的だけど、無垢な少年」だというふうに、よく表現されます。だけど、傷つきやすく、危ういビョーキの少年のようです。何らかの基準を認めて、それに逆らうわけではなく、いつでもなんとなく生理的に跳ね返ってしまうのだから、反逆的というよりは、反発的といった方がいいような気もします。

最終的に、主人公は精神病院に収容されます。

痛々しいです。しかし、当然の結果かも知れないとも感じます。ホールデンのような喋り方をすれば、傷つくだろうし、壊れるだろうなぁ・・・ 跳ね返ってくるわけだから。


読んだ本
J.D.サリンジャー『ライ麦畑でつかまえて』

読んでいる最中
スティーヴン・ミルハウザー『イン・ザ・ペニー・アーケード』
★★★★

著者:  道尾秀介
出版社: 新潮社

  主人公はミチオという小学生の少年。彼は、夏休み前の終業式の日、欠席したS君にプリントを渡すため、S君の家を訪ねます。声をかけても応答がないので中に入っていくと、S君が首を吊っているところを発見。ミチオはすぐさま学校に引き返し、担任の岩村先生にそのことを告げます。ですが、岩村先生と警察官が事件現場へ急行すると死体が消えていました。いったい何が起こったというのか。蜘蛛になったS君がミチオの前に現れたことで、さらに事態は混乱していきます・・・

  「生まれ変わり」が自然な形で登場するので、SFか、もしくはファンタジーなのかと思いきやそういうことはなく、ミステリです。けっこう陰惨な場面が多いです。

  以前読んだ『姑獲鳥の夏』には納得することが出来ませんでした。なんというか、いかにも大仰なところにうんざりしてしまい、途中で読み進めるのが面倒になってきたのです(そこが良いと言う人もいるけど)。しかし、同じ系統といってしまって構わないような『向日葵の咲かない夏』には感心しました。歪んだミチオの世界というものに説得力があったからです。

  途中で怪しいな、とは思いました。たとえばミカのこととか。しかし、最後のあたりになって仰天しました。まさか、○○○だったとは・・・ そこまでは想像できなかったです。

  現代社会が生み出してしまった歪んだ家族を、子どもの視点から見つめた作品としても読めます。考えさせられます(著者が書こうとしたものは別のところにあるのかもしれないけど)。「物語」をつくり出してしまう人間というものの心の闇を描き出した傑作。


自森人読書 向日葵の咲かない夏
★★★

著者:  野尻抱介
出版社: 富士見書房

  森田ゆかり、マツリ、三浦茜は美少女3人組。宇宙飛行士として活躍中。今回は、フランスが発射する宇宙飛行機の補助として、月の裏側へ向かう旅へ出掛けることになります。月面に水があるのかどうか、それを確かめることが目的でした。フランスの美少女5人組とペアを組むのですが、突然のアクシデントに見舞われてしまい、打ち上げが延期になりかけますが・・・

  SF小説。ロケットガールシリーズの3巻目。

  身体の軽い女子高生は、宇宙飛行士として最適である、という理由から、女子高生が宇宙を目指すことになります。けっこう軽いし、ストーリー展開自体も予想の範囲内からはずれることはあまりないのですが、面白いです。

  ただし、搭乗員が欠けてしまう理由には、びっくりしました。ジョークなのかなぁ。ありえない気がしないでもない・・・

  すぐれたシュミレーションなのかも知れない、と感じました。よく練られているし、著者も書きながら楽しんでいるみたいです。余裕があります。

  それに、ドラマがあります。月に赴いた主人公たちが絶体絶命の危機に陥った時、起死回生の策として提示されるものがあるのだけど、それも、宇宙やロケットのことがよく分かっている人でないと思いつかないものです。野尻抱介は、SFの人なのだなぁと感じました。

  優れたハードSF。


自森人読書 私と月につきあって
『ふわふわの泉』
浜松西高校化学部部長、浅倉泉は、ただ一人の部員である保科昶とともに、文化祭の準備をしていました。その過程で、運悪く、落雷に襲われます。ですが、その結果、ダイヤモンドより硬くて空気より軽い不可思議な物質を生み出します。それは化学者ならば、誰もが夢見る「立方晶窒化炭素」というものでした。泉は、それを「ふわふわ」と呼びます。そのふわふわの発明は、人間のライフスタイルと世界を、あっという間に変えていくことになります・・・

SF小説。

物語は高校の部室から始まり、宇宙にまで達します。トントンとすすんでいくので気軽に読めます。非常に楽しいです。強気な天才化学者・浅倉泉と、秀才・保科昶のコンビが良いです。

突拍子がないと感じる部分もあるけれど、全体に漂うゆるい雰囲気に合っています。

ジョークに満ち溢れているし、甘いし、ゆるいけれど、出鱈目ではありません。熱いこだわりが感じられます。法螺だけど、科学と知性に則った法螺だから、面白いです。

細部が凝っています。最後の辺りでは、軌道カタパルトの運用に関して、大雑把に解説していく部分があります。それには感動しました。素人にわかるように説明するのは容易なことではないだろうと感じます。

読んでいると、楽しくなってくる良作。

第33回星雲賞日本長編部門受賞作。


読んだ本
野尻抱介『ふわふわの泉』

読んでいる最中
J.D.サリンジャー『ライ麦畑でつかまえて』
『東京バンドワゴン』
物語の舞台は、明治18年創業の老舗古書店「東京バンドワゴン」です。語り手は亡くなった堀田サチ。彼女は空の上から大家族を守ります。「東京バンドワゴン」には、サチの夫3代目店主の祖父勘一、勘一の息子60代の金髪ロックンローラー我南人、我南人の子供たち藍子、紺、青や、藍子の娘小学6年生の花陽、紺の妻・亜美とその息子小学4年生の研人らがいます。そういった大家族の春夏秋冬の物語。

ほのぼのとした小説。

「日常の謎」を扱ったミステリとしても読めます。些細な謎を扱っています。しかし、そこに重きを置いているわけではありません。昭和のホームドラマのようです。ほんわかとした温かみがあります。

祖母の語り口が良いのかも知れません。

祖母は、様々な軋轢にも動じません。すでに亡くなっているので口出しできないし、家族のことを信頼しているからです。そして、家族はその信頼にこたえ、様々な問題をしっかりと解決していきます。

登場人物が非常に多いです。最初の内は混乱して、わかりづらいのだけど、誰もが印象に残ります。とくに、loveを大切にする、我南人は強烈。いいなぁと感じます。暑いなぁと感じないわけではないけれど、なんというか、良いです。


読んだ本
小路幸也『東京バンドワゴン』

読んでいる最中
野尻抱介『ふわふわの泉』
『西瓜糖の日々』
アイデスiDeathには、西瓜糖でできたものが多くあります。というより、西瓜糖でできたものが満ち溢れています。そこに住むわたしには名前がありません。ポーリーンと愛し合っているけれど、かつてはマーガレットに惹かれていました。マーガレットは、よく忘れられた世界へと出掛けていたが、今はもういません・・・

不可解な小説。

ブローティガンらしい世界があります。そこでは、西瓜糖によって様々な物がつくられています。かつては、言葉を喋る虎が生きていました。主人公の両親を食い、主人公の算数を助けてくれたのは、その虎たちです。

アイデスiDeathとは、そのままに受け取ると、「私」が死んだところという意味になります。

言葉はあっさりしていて、細切れなのだけど、積み重なることで、ひとつの世界がつくられています。何より、まず雰囲気が良いです。妙に淡くて、しかも、不思議な哀しみが詰まっています。

ほとんどの会話はかみ合っていないように思えるし、まるで、謎を提示しているようです。各々の場面は、非常に鮮明なのですが、全体としては寓話的です。様々な意味を見出していく、あるいは当てはめていくことが可能です。

しかし、すっぽりと何かが抜けていて、それを言葉で説明するのは難しいのではないか、と感じないでもないです。


読んだ本
リチャード・ブローティガン『西瓜糖の日々』

読んでいる最中
小路幸也『東京バンドワゴン』
ウェブサイトhttp://jimoren.my.coocan.jp/
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