自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
誰も言及しないけれど実は「妊娠小説」というジャンルがはっきりと存在している、と著者は主張します。望んでいないのに子どもを授かってしまうことを妊娠と呼びますが(嬉しい場合は懐妊・おめでた)、妊娠を扱った小説は非常に多く、その先祖を探すべく時代を遡っていけば明治にまでいきつくのだそうです。妊娠小説の父は森鴎外の『舞姫』、そして、妊娠小説の母は島崎藤村の『新生』。その系譜は途切れることなく現在にまでいきつくのです・・・
『妊娠小説』は文芸評論家・斎藤美奈子が始めて出版した本。
非常に分かりやすく、それでいて面白いです。こういう切り口があったのか、と感心させられました。
妊娠小説は、ほとんどの場合、なぜか必ず「生む」ことを望む女が、「生まない」ことを望む男の意思に押さえつけられる物語として捉えることができるのだそうです。結局、男性の優位が保たれているところを見ると保守的ともいえるわけです。
そしてきっちりとした型が見られるのだそうです。男が妊娠を告げられたときの反応も、女が妊娠に気付くときの反応もワンパターン。登場人物たちはぐだぐだ言い訳して、絶対に避妊しないし、その言い訳は妊娠した後に書かれている・・・ 面白すぎて笑ってしまいました。そんな共通性がみられるのか・・・
「妊娠」はけっこう大事だから多くの作家たちが、都合よく利用するのだという主張には納得しました。
石原慎太郎の『太陽の季節』も、倉橋由美子『パルタイ』も、村上春樹のデビュー作『風の歌を聴け』も、村上龍『テニスボーイの憂鬱』も妊娠小説。かすり気味だけど、大江健三郎『死者の奢り』なんかもやっぱり妊娠小説。そして、三島由紀夫の小説はたいてい妊娠小説と聞いて驚きました・・・
今日読んだ本
斎藤美奈子『妊娠小説』
今読んでいる本
道尾秀介『鬼の跫音』
ジャネット・ウィンターソン『永遠を背負う男』
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