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自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
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★★★★

著者:  フワン・ラモン・サラゴサ
出版社: 新潮社

  『殺人協奏曲』はスペインの小説。三部構成。マルコスという男の物語。霊界ではどの時代にマルコスを送り込むか検討しました。そして様々な時代に送り込むのですが、彼が善い人間なのか悪い人間なのか明確にはなりません。

  第一部ローマ 紀元七八年
  物語の舞台はウェスパシアヌス帝統治下のローマ。デナリウスという男が現れ、蒸気機械をつくりだします。彼はそれを大量生産するべく計画をたてます。マルコスは研究者としてそれに協力し、その中でメラニアという女性と出会い、仲良くなりました。ですが、彼らの発明はアドルフスの帝国転覆計画に利用されそうになり・・・

  第二部ワシントン 二〇一六年
  物語の舞台は大統領選挙間近のワシントン。その中で、ナショナルデモクラシー党を率いるアドルフ・スターンは民主的に独裁政権を築こうとします。彼が利用したのは、3人のラマ僧が持っている超能力でした。その力を用いてテレビ越しに民衆を操作しようとしたのです。それに、マルコスとメラニアは協力してしまうのですが・・・

  第三部パリ 一七七六年
  物語の舞台はフランス革命間近のパリ。悪辣なアドルフは、権力を握るために革命を起こそうとしていました。そして、電気を用いて敵対者を殺そうとします。それに、マルコスとメラニアは協力してしまいます。

  変則的な歴史小説。

  歴史の中に存在する法則性のようなものを明らかにすることを目指しているようです。一途に新たなものを発明しようとする男マルコスと、彼に惹かれる女メラニアとその新発明を利用して権力を握ろうとする男アドルフと彼に惹かれる女セリアがいつでも登場。その図式は崩れません。

  なかなかに凝っているし、演劇のようで楽しいです。スペインには面白い小説があるのだなぁ、と感じました。


自森人読書 殺人協奏曲
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★★★★★

著者:  早乙女愛
出版社: 岩波書店

  1944年10月10日、沖縄本島の那覇はアメリカ空軍の空襲を受け、大変な被害を受けました。それは10・10空襲と呼ばれていますがその空襲が沖縄戦の始まりだというふうによく言われています。しかし、実はそれ以前にも沖縄の子どもたちの命が数多く失われていました。疎開のために九州を目指して沖縄を出立し、アメリカ軍に沈められた船があったのです。対馬丸といいます。

  『海に沈んだ対馬丸―子どもたちの沖縄戦』は、7人の生存者の証言をもとにしながら、対馬丸沈没のときの様子を明らかにした1冊。

  20万人の方が亡くなったと言われても、いまいち理解できません。だからこそ「100万人死んだ」とか普通に書いてある軍記物が読めるのだろうと思います。一方『海に沈んだ対馬丸』は視点をぐっと個人にたぐり寄せています。ずっと泣いていたという妙、泣かず無駄口も叩かない強い清。1人ひとりの人が克明に描かれていてそれが積み重なり、伝わってきます。ずしりと重く考えさせられる本です。

  ふと思い出したのですが、中学修学旅行のとき、お会いした金城重明さん(「集団自決」を経験した方)は「沖縄戦は、軍官民共生共死が強要された残酷な戦い」と語っていました。その第一歩が、この対馬丸による子ども達の疎開とその沈没なのではないか。対馬丸の沈没は「離れるも地獄、残るも地獄」といわれた沖縄戦の端緒、ひいては「人類史上最大の戦争」第二次世界大戦の一部なのであって、その背景も含めて考えていくことが大切だと感じました。

  妙さんが「戦争が終わってからが本当に大変だった」と語っているのも印象的でした。事実のもみ消しによって対馬丸のことを喋る事が許されず、沖縄とは異なる地での暮らしに苦しみ、戦後は故郷・沖縄が米軍に接収されることになる・・ 記録上の終戦は本当の終戦ではない、たくさんの傷痕が残されていたんだという当たり前のことを痛感しました。


自森人読書 海に沈んだ対馬丸―子どもたちの沖縄戦
★★★★

著者:  山田風太郎
出版社: 富士見書房

  長大なため上下巻に分かれています。

  柳生十兵衛が額を割られ、殺されているのが発見されます。一流の剣士として知られていた彼がいかにして殺されたのか、その顛末を綴る物語だという説明が入り・・・ 江戸時代を舞台にした柳生十兵衛と竹阿弥、そしてその子たち金春七郎、りんどうらの物語が始まっていきます。途中からは突如として室町編に突入。一休さんも登場。ここまでが上巻。

  下巻になると物語は佳境に突入。室町時代の冷徹な柳生十兵衛と江戸時代の陽気な柳生十兵衛がくるくる入れ替わるため、そのたびに物語は大混乱。しかも、2人とも修行と言いつつ片っ端から人を殺しまくり、物凄く都合の良いときにタイムスリップして入れ替わるから笑えます。そして、15歳の一休さんと15歳の義円(足利義満の子)がくるくる動き回り、そのたびに敵に捕まります・・・ その2人のちょっと間抜けな魔童子たちのおかげで物語はどんどん進んでいくわけです。

  もう完全にSF小説。能や剣の道を極めることで、タイムスリップが可能になってしまうところは人を食っていて面白いです。

  1991~2年に書かれた作品。山田風太郎は70歳の時に『柳生十兵衛死す』を書いたそうです。強烈なエログロナンセンス要素が抜け落ち、とんでもない忍法も陰を潜め、案外渋いのですが、やはり、とんでもない物語です。芸といっても過言ではない「とぼけ」が最高。もうどこもかしこも笑えます。

  ラストは、山田風太郎らしく哀しいです。


自森人読書 柳生十兵衛死す
★★★★

著者:  長沢和俊
出版社: 中央公論社

  海上貿易・交流というものに着目した本。昔から世界を股にかけ、活躍していた人達がいたということを知ることが出来ます。

  選択科目「世界史前近代史」の課題で、義浄という人物のことを調べることとなり、借りて読みました。義浄も登場していました(義浄というのは中国の僧侶。海路を使い、東南アジア経由でインドへ赴き、さまざまなことを学んだ後に帰還して則天武后に迎えられたという凄い人。彼の残した著作は、当時のインドや東南アジアの社会の仕組み・仏教の広がり具合を研究する上で役立っているそうです。)。

  全体的には少し散漫な印象を受けましたが、様々なことを調べ始める上での手がかりとしては役立つかもしれない、と感じました。

  「散漫」とは書きましたが、世界の海上交易・交流についてコンパクトにまとめられているのでとても便利だし、さらっと読む分には非常に楽しめます。「前3000年頃からインドとメソポタミヤの間には海上貿易があったと考えられている」という驚きの事実や、ローマ皇帝の使者が後漢時代に中国の首都・洛陽へ赴いていたこと(以前中国史調べていたときに少し齧ったことはあったけどゃっぱり凄いことだなぁと再確認)、フビライに会ったマルコ・ポーロのことまで、それなりに詳しく知ることが出来ます。

  陸地を中心にして世界を見ていると足を掬われる、ということを指摘する学者が結構多いようですが(たとえば、「今の史観は間違っている。日本の海洋国家としての側面が軽視されている」と力説する人はよく見かける)、『海のシルクロード史』を読むとそれらの主張にも説得力を感じます。

  昔、世界は物凄く閉塞的・封建的だったとよく言われますが、そのような中で海に漕ぎ出し、深遠なる学問や危険の上に成り立つ自由や巨億の利益を追求していた人々がいたのかと思うと面白いです。


自森人読書 海のシルクロード史
★★★★★

著者:  山田風太郎
出版社: 角川書店

  時は江戸時代初期。徳川家康は、ぼけっとした竹千代と利発な国千代のどちらを第三代将軍にするべきかとひどく悩んでいました。思い余って家康が天海僧正に悩みを打ち明けらると天海は恐ろしいことを提案します。それは「400年来の怨敵同士、伊賀・甲賀の忍者たちをそれぞれ竹千代、国千代につけて戦わせ、勝った側を次期将軍につけたら良い」というものでした。家康はそれをのみます。そして、彼の命に従い、最初から仲の悪かった伊賀組十人衆と甲賀組十人衆は死闘を繰り広げることになります・・・

  1959年に出版された忍法帖もの第1作目。記念碑的傑作。

  敵味方に分かれて戦うことになってしまう悲劇のカップル、甲賀弦之介と伊賀の朧の運命はとても気になります。

  ナメクジ男、血を噴射する女、髪を束ねた黒い鞭みたいな縄を駆使する美少年、何度殺されても蘇る男などなどが次々登場し、大乱戦を繰り広げます。山田風太郎の忍法帖シリーズさえあれば、『ジョジョの奇妙な冒険』とかそういう系統の少年漫画は読まなくても良いかなぁ、と思うほど。というか、山田風太郎が少年漫画の原型なんだろうなぁ・・・

  冒頭にある真面目な歴史の講釈、次から次へと現れては驚愕の技を繰り出す人間を超えたトンデモ忍者たち、真面目腐っているけど全く説明になっていない忍術の説明、エログロナンセンスが妙な味をかもし出しています。

  しかし、細部がおかしいだけでなくて、物語の骨格もしっかりとしており、面白い。笑えるのに哀しい。忍法帖シリーズを代表して、★5つ。


自森人読書 甲賀忍法帖
★★★

著者:  和田竜
出版社: 小学館

  「でくのぼう」として皆から馬鹿扱いされる大男、成田長親が主人公。彼は忍城城主の一族。農民とともに田んぼへ繰り出したりもするのですが、全く役に立たないため結果として馬鹿にされてしまいます。そんなふうにして呑気に過ごしていると、成田家の仕える北条家が天下統一を目指す豊臣秀吉と敵対したため、忍城は2万の豊臣軍の大軍勢に包囲されてしまいます。成田長親と幼馴染の家老・正木丹波守利英、荒々しい巨漢・柴崎和泉守、毘沙門天の生まれ変わりを自称する美青年・酒巻靱負らは石田三成と戦うことに・・・

  歴史小説。

  いかにもコミック的。あっさりと読めてしまうし、物凄く分かりやすいです。別に嫌いではないのですが、登場するキャラクターたちがあまりにもありきたり過ぎないだろうか、と感じてしまいました。「ダメダメなのに実は凄いものを秘めている」という主人公の設定からして普通過ぎるし、いかにも悪役らしい悪役が登場するところにも興醒めでした。

  そういえば、人間は皆好きなように自分の論理で生きているわけですが、そこらへんの描き方が巧いような気がします。ただし浅いような気がします。さくっと書くことによってすがすがしさが漂っているところは悪くないのかも知れないのだけど。

  まぁ『のぼうの城』から、新しい歴史小説の流れが生まれていくのかも知れない。楽しみではあります。

  2009年第6回本屋大賞ノミネート作(2位)。


自森人読書 のぼうの城
★★★★★

著者:  ローズマリー・サトクリフ
出版社: ほるぷ出版

  主人公は、イケニ族族長の末息子、ルブリン・デュ。彼は褐色の肌をしていたため、白い肌の者が多いイケニ族の中では目立ちました。しかも、その肌の色は、かつてイケニ族と闘い、敗れ、去っていった先住民を思わせるものがありました。彼は、つばめが飛ぶのを見て、空に描かれる華麗な模様を捕まえようとしました。そういう芸術的な才能を秘めていたのです。しかし、その後、一族は征服されてしまい、ルブリンは敵に捕らわれることになります・・・

  イギリスバークシャーの丘陵地帯には、白い馬の絵があります。地肌の白い土を露出させることで描かれたものです。「アフィントンの白馬」と呼ばれています。その絵は、古代ケルト人によって描かれたといわれていますが、その詳細はまったく分かっていません。

  「アフィントンの白馬」はいかにして描かれたのか。作者がそれを想像して書いたのが、『ケルトの白馬』という小説。

  いかにも彼女らしい作品。どことなく黄昏時を思わせるような暗い雰囲気が漂っています。ですが、中心にあるのは緑の丘陵に描かれた白い馬と、その地に息づく人々の力強い物語です。自由への憧憬が、背景にある雄大な自然と絡み合い、巨大なものを創り上げる部分には感動します。美しくて、重いものを含んでいます(少し暗すぎる気もするけど・・・)。


自森人読書 ケルトの白馬
★★★★★

著者:  金庸
出版社: 徳間書店

  中国の武侠小説。

  主人公は、令狐冲なる快男子。華山派の一番弟子にして酒好きの男。彼は、武林の先達である劉正風と曲洋から「笑傲江湖」の楽譜を託されます。その後、その2人は死亡。その一件のために令狐冲は、師匠である岳不羣から謹慎を言い渡されます。ですが、その謹慎中に、風清揚という人と出会い、伝説の剣術・独孤九剣を授けられます。そうして令狐冲は無敵になります。その後、破門されるのですが、彼は持ち前の義侠心を失うことなく、血みどろの世界をくぐりぬけていきます・・・

  傑作。

  あまりにも面白いので、次から次へと借りてきて次から次へと読んでしまいました。全7巻ですが、そんなことは全く気になりません。

  まず登場人物が魅力的です。主人公、令狐冲のように心がまっすぐな者もいれば、彼に思いを寄せつつそれを明かせぬ魔教の娘・任盈盈がいて、かと思えばどんどん悪の道に堕ちていく者もいたり、東方不敗みたいに何もかもを捨てて秘法を手に入れようとする奴もいて、とにかく愉快です。しかも、惜しいと思うほどあっさり魅力的なキャラクターが物語から退場したりします。どきどきします。

  展開はまったく予測できません。令狐冲はどこまでも苦難の道をたどっていくことになります。思いを寄せていた女性には振られるし、味方を殺したと疑われるし、裏切られるし、体は傷だらけになるし、武術が使えなくなったりするし、本当に悲惨。けど彼はどこまでまっすぐな心を失わず、いろんな人に支えられながら江湖を潜り抜け、最強になっていきます。

  もう、本当に面白いです。


自森人読書 秘曲 笑傲江湖


著者:  畠中恵
出版社: 講談社

  連作短編集。『序』『チョコレイト甘し』『シュウクリーム危し』『アイスクリン強し』『ゼリケーキ儚し』『ワッフルス熱し』収録。

  舞台は明治の東京。主人公は、皆川真次郎(ミナ)。彼は、西洋菓子屋・風琴屋を営む青年。居留地で育ったため、ピストルの扱いが上手。彼は、毎回のように厄介事を持ってくる元武士の巡査・長瀬らとともにいろんな事件を解決していきます。そして、そこにいろんな形で女学生の小泉沙羅が絡んできます。彼らの毎日には何もない日などありません・・・

  それなりに面白いのですが、やっぱり畠中恵は詰めが甘いような感じがします。西洋菓子が単なる小道具と化していて、全然おいしそうではありません。

  『美味礼讃』などを読んで料理人達のこだわりを知った後で、こちらを読むと、主人公真次郎が料理人として失格としか思えないです。だって、真次郎は、(諸事情あったとはいえ)急ごしらえで料理をつくってそれを出すのだから。

  しかも、畠中恵は「明治時代」を書こうとしているみたいなのですが、明治期の貧困などの問題をさらっと扱っているから、「時代を包む早急な雰囲気」と、それが生み出す危険性が全く伝わってこない。

  登場人物たちは多すぎてごちゃごちゃしている上に、書き込みが少なくて存在感が希薄。真次郎や巡査らは「俺ら金欠」と連呼するのですが、そのわりにはみんな根本的に裕福な中流階級の人たちだから、全然危機的に思えない。どうせ沙羅の財布があるんだし。しかも、成金の商人・小泉琢磨氏は頭良すぎ。日本は戦争に勝ったら増長するから負けた方が良い、とかそんなこと言い切れる「成金」なんてありえないだろう・・・

  とにかく物語にリアリティが感じられません。軽いミステリとしては面白いけど。


自森人読書 アイスクリン強し


著者:  火坂雅志
出版社: 光栄

  神風が吹かず、蒙古(モンゴル)によって鎌倉政権が滅ぼされてしまった架空の世界が物語の舞台です。蒙古の支配は長年にわたり、その間に抵抗は全て押し潰されたかに見えました。しかし、その蒙古に対して叛旗を翻す男が現れます。その名は、楠木正成。彼は後醍醐天皇を奉じて、力戦し、日本の独立を目指します。

  歴史シュミレーションとしては乱雑すぎ。展開は都合が良すぎ。全てが非常に甘いです。これだからif歴史小説は評価されないのだ、と感じました。

  と、批判していまいましたが、僕はif歴史小説がけっこう好きです。if歴史小説に付きまとうどうしようもない安っぽくて荒っぽい感じ、そのいかにもキナ臭い感じが面白いのです。あと、if歴史小説には作者の思想や好き嫌いがはっきりと表れます。そこも面白い(といいつつ、結局★1つですが)。

  というわけで、『楠木正成 異形の逆襲』もそれなりに楽しませてもらいました。

  暇つぶしにちょうど良い小説。

  そういえば、『天地人』が大河ドラマになったけど、火坂雅志の歴史小説のレベルは全般的にかなり低い、と僕は思っています(『天地人』も、愛だのなんだのと綺麗ごとばかりが飛び出す酷い小説なので、途中で放り投げてしまった)。彼の作品をあえて読もうとは思わないです(ひどい言い草ですが・・・)。むしろ、伝奇ものが本領なのではないか。


自森人読書 楠木正成 異形の逆襲
★★★

著者:  遠藤周作
出版社: 新潮社

  「イエス・キリスト」とはどんな人だったのか?

  それは多くの人が抱き、追求してきた問いです。『イエスの生涯』は、優れた文学者でありながら、悩み多きキリスト教信者でもあった(日本人でありながら、キリスト教を信ずることは矛盾するのではないか、と彼は悩んでいたという)、遠藤周作が彼なりに思索し、イエス・キリストという人のことを読み解いていった結果生まれた彼のイエス像を綴ったものです。

  あとがきでは、井上洋治が「永遠の同伴者としてのイエス」こそがこの本のテーマである、と書いています。全くその通りで、人類全体に寄り添い、1人ひとりを慮り、一生を送った人イエスという人のことが書かれています。

  「右の頬を打たれたならば、左の頬を差し出せ」という言葉が象徴している、といわれますが、キリスト教の根本には「博愛」という思想があります。そこに遠藤周作も注目しているようです。

  作中で、遠藤周作は「キリストは、神の愛、愛の神を説いた」というふうに書いています。神を、それまでの(たとえばユダヤ教の)罪に対して残酷な罰をくだす厳格な父ではなくて、罪人ですら愛する母として説いたから、イエスが支持を受けたという考え方は非常に面白いと感じました。

  つまり弱き者のためにある、のか・・・

  しかし、どうして博愛を説いたキリスト教が、ヨーロッパ中世において権力者の支配の道具になり下がってしまったのか。遠藤周作は、そういうふうにして変わってしまった「キリスト教」をぶち壊し、それを再び普遍的なもの(たとえば、日本人にも通ずるもの)として捉え直そうとしているようですが、そこには共感します。


自森人読書 イエスの生涯
★★★★★

著者:  手塚治虫
出版社: 講談社


  「アドルフ」というファーストネームを持つ男たちの物語。ナチスドイツを率いるアドルフ・ヒトラー。ナチス党員の父と日本人の母の間に生まれたハーフ、アドルフ・カウフマン。ドイツから神戸に亡命したユダヤ人の少年、アドルフ・カミル。彼ら3人は時にめぐり合い、ぶつかり合います。そんな中、「ヒトラーにはユダヤ人の血が流れていた」という情報を巡って、いろんな人が密かに暗闘を繰り広げ、3人もそれに巻き込まれていきます・・・・・

  狂言廻しは日本人、峠草平。

  とにかく面白いです。ベルリンオリンピック、ゾルゲ事件などいろんな歴史的事実が散りばめられています。歴史好きにはたまらないはず。

  でも、別に歴史が好きではないという人でも楽しめるようになっています。物語の主人公は、主にカウフマンとカミルの2人なのですが、彼らの間には一時友情が生まれます。しかし、ナチス党員とユダヤ人がいつまでも友達でいられるはずがなく、彼らの関係は歴史の渦の中で歪んでいきます。そこらへんが非常によく描かれています。

  手塚治虫の漫画はどれも面白いけど、『アドルフに告ぐ』はとくに面白いです。

  そういえば、ラストはあまりにも哀しいです。


自森人読書 アドルフに告ぐ
★★

著者:  筑波常治
絵:  坂本玄
出版社: 国土社

  「堂々日本人物史―戦国・幕末編」シリーズのなかの1冊。子ども向けのものです。僕は、偶然地元の図書館にあったこのシリーズを通して日本の戦国・江戸時代の詳しい流れを知るようになりました。なので、このシリーズには愛着があります。

  足利義昭は、周辺の三好氏などに篭絡されて室町幕府(足利家)が失ってしまった権威と権力を取り戻すため画策した足利家の人です。落ちぶれていろんなところを放浪しますが、当時勃興してきていた強大な織田信長を頼ります。そして、彼に保護され、彼と組んで京都に入り、室町幕府最後の将軍となりました。ですが、今度は織田信長と対立し、彼を追い落とそうとして画策。失敗して追放され、そうしてとうとう室町幕府は滅亡してしまいます・・・

  物語は、足利義昭が僧侶となった晩年の場面から始まります。そこが印象的でした。

  旧体制を立て直そうとしながら失敗し、結局織田信長の天下取りを大きく助けることになってしまった一生涯。悲惨だし、本当に大変だったろうなぁ、と思います。まぁ足利義昭自身、相当な謀略家だったようなので、可愛そうとは思わないけど(自業自得ともいえる)。

  もしも彼のような立場におかれたら、誰だって彼のように権威と権力を追い求めてしまうのではないか、と僕は思いました。文化人となって茶道などの世界に没頭する、という逃げ道もあるにはあるけど、周りからせっつかれてそれはそれで過酷な道だったのではないか。


自森人読書 足利義昭
★★★

著者:  藤沢周平
出版社: 文藝春秋

  藤沢周平の短編集。

  『夢ぞ見し』『春の雪』『夕べの光』『遠い少女』『長門守の陰謀』 収録。

  『夢ぞ見し』。昌江は、ぶっきらぼうで無口で帰りの遅い夫・甚兵衛にうんざりしていました。理由を聞いても口の重い甚兵衛の返事は煮え切らないのです。そんなある日、美男の若者が突然現れ、家に泊まらせることになります。昌江はときめくのですが・・・

  だいたいそんな感じの短編が5つ集められています。どれも、普通の人が、何らかの理由によって(偶然から、とか、出来心から、とか)大事に巻き込まれるというパターンの小説です。ただし、表題作の『長門守の陰謀』だけはちょっと色合いが違います。その短編は、長門守と庄内藩との間に巻き起こった暗闘をさらさらとまとめた作品。僕は、とくに『夢ぞ見し』が良かったと感じました。

  藤沢周平は、物語を組み立てていくのが非常に巧みです。余分な部分がなく、しかも文章は簡素かつ堅実なので、非常に理解しやすいし、まっすぐに読み進めていくことが出来ます。だからいろんな人に愛されるのではないか、と感じました。

  しかし短編なのですらっとしているのだけど、溢れるような迫力とかはありません。長編を読みたいなぁと思いました。


自森人読書 長門守の陰謀
★★★★★

著者:  桜庭一樹
出版社: 東京創元社

  鳥取県紅緑村の旧家、赤朽葉家を描いた大河小説。三部構成。

  第一部は瞳子の祖母・万葉が主人公。彼女は、山の子として生まれながら普通の若夫婦に拾われて育てられます。その後、旧家・赤朽葉家に嫁入りして、「千里眼奥様」と呼ばれるようになります。第二部は瞳子の母・毛毬が主人公。万葉・曜司の間に生まれた長女。暴れん坊で美人。レディース(暴力団)の頭として中国地方を駆け巡るのですが・・・ 第三部は瞳子自身が主人公。彼女は何事にもやる気を見出せないフリーター。祖母・万葉の衝撃的な告白を受けて、動揺するのですが真実を探し当てようとします・・・

  文章が結構読みづらくて疲れたけど、非常に面白かったです。これまで読んできた桜庭一樹作品の中では一番良かったかも知れない。こういう大河小説が好きなので、堪らなかったです。欠点もあっただろうけど、それほど気になりませんでした。桜庭一樹の最高傑作なのではないか。

  桜庭一樹は、よく「時代がどうのこうの」と問います。これまでの作品ではそれがいまいちしっくり来なかったのですが、この大河小説『赤朽葉家の伝説』にはマッチしていました。あまりにも通俗的かつありきたりな解釈でまとめてしまうので、(大学紛争を繰り広げたのは澱んだ目をした哀しい学生達とか、最近の若者は何事にもやる気を見出せない、とか)もう少し捻れないのか、とも思ったけど、そこは本筋ではないから別にどうでも良いか。

  赤朽葉タツのネーミングセンスが最高です。泪(なみだ)、毛毬(けまり)、鞄(かばん)、孤独(こどく)って、孫達に名付けるなんて凄すぎる・・・

  そして、毛毬の大活躍はおかしいです。

  第60回日本推理作家協会賞長編及び連作短編集部門受賞作。2008年第5回本屋大賞ノミネート作(7位)。直木賞候補作。


自森人読書 赤朽葉家の伝説
★★★

作者:  山田風太郎
出版社: 角川書店

  明治元年、官軍は江戸に入場すると、そこを我が物顔で徘徊し、荒らしました。その最中、薩摩兵が斬殺され、晒し者になるという事件が発生。人斬り半次郎こと中村半次郎(後の桐野利秋)は激怒。「報復として、薩摩兵が1人死ぬごとに旗本を10人処刑する」と言い出します・・・

  時代小説。

  そこから、処刑場に連れ出される10人の旗本(幕府側の武士)が紹介されていきます。列伝のような感じ。いろんな人がいます。身分は低いけど商才に長けた男、戦国時代の武将のような荒くれ男、清爽なる美少年、人殺しが趣味の男、死にたがり屋の無気力男などなど。

  捕まえられた旗本たちは、一応みんな武士の端くれのはずなのですが、性格も人柄もなにもかもが全くバラバラです。非常に個性的。それらの人々に対して突然同等な「死」が与えられます。徹底的な敗北を喫して(自分の価値観を破壊され)、死の危機に晒された人間が最期にどのような顔を見せるのか、作者はそれをきちりと描写します。非常に考えさせられる物語です。

  山田風太郎は、明治維新と太平洋戦争における敗戦とを重ね合わせているようです。冒頭で自らそう書いています。確かに似ているかも知れない。『修羅維新牢』も、終戦後の騒動を仮託した物語なのかもなぁ・・・ そういうふうに受け取ると、また面白いです。

  チョイ役の勝海舟(安房上)が非常に格好いいです。セリフとその行動全部が。勝海舟って大人物だったのでは、と僕は思っているので納得の描写でした。


自森人読書 修羅維新牢
★★★★★

著者:  酒見賢一
出版社: 新潮社

  中国の春秋戦国時代、兼愛・非戦などの思想を唱え、一大勢力を築いた墨子教団。しかし、どのような組織も必ず衰えるものです。墨子教団は、田襄子(3代目)という人物がリーダーとなってから、じょじょに腐敗していきます。そんな中、教団の俊英・革離は、墨子本来の教えを実現するために活動。小国の梁国国王、梁溪に頼まれて大国・趙を追い返すべく、ただ1人梁城に赴くことになります。革離は、城をまとめ上げて徹底的に防御を固めました。さて革離は、圧倒的な趙軍を撃退できるのか・・・

  歴史小説。

  薄い本です。しかし、文章は硬質で中身はぎっちり。読みごたえがあります。まずはなんといっても、主人公・革離の八面六臂の活躍に感動させられます。そして、革離が実現しようとする墨子の思想は、考えさせられます。

  「侵略戦争の廃絶」というのは、今でも実現していないことです。「防衛」と「侵略」との間に、線を引くことが難しいからです。墨子は、侵略戦争を実力によって阻止しようとしました。ようするに、「一方的に攻め込まれている弱い側につき、強い側を挫く」ということを行ったのです。史書には、それが成功したと書かれています。非常に興味深いことです。

  でも、僕は「どの陣営にも属さない第三勢力が強大な軍事力を持つことで、戦争の抑止を目指す」という墨子の思想は、空想でしかないと感じました。一時成功したとしても、それをシステム化して何十年にも渡って稼働させるのは不可能ではないか。日本の娯楽作品には頻出します。たとえば、かわぐちかいじ『沈黙の艦隊』や、『機動戦士ガンダムSEED』など。しかし、本当に実現したというはなしは聞いたことがありません。というか、何をもって公平となすのか分からない。

  事実、墨子教団も戦国時代の終わりごろになって歴史上から忽然と姿を消しました。作者・酒見賢一は「のちに中央集権型の大帝国を築く、秦に合流した(もしくは呑み込まれた)のでは?」と推測しています。弱者を慮ることを第一としたはずの墨子教団が強者に呑みこまれたのか・・・

  漫画化、日韓合同による映画化も行われているそうです。


自森人読書 墨攻
★★★

著者:  宮崎市定
出版社: 中央公論社

  宮崎市定は、東洋史学界をリードした人物。日本における中国研究を語る上では、決して欠かせない人、といわれているそうです。中国の科挙という制度を、分かりやすく解説したりしています。歴史区分を巡っては、京都学派に属しているそうです。

  『大唐帝国―中国の中世』は、その京都学派の唱える学説を用いて、三国時代末期から大唐帝国滅亡までを「中世」というふうに区分し、その間に起きた出来事を簡潔にまとめたものです。約700年間の歴史を1冊の本の中に凝縮しているわけです。とっつきにくいということはありません。表現は平易。かなり分かりやすいです。

  古くなってしまった部分も、もちろんあります。昔の本なので。

  まぁ専門家ではないので分からないけど、根本的かつ重大な誤りというのは多分ない、と思います。けれど、なにより面白いところが良いです。ごちゃごちゃした五胡十六国時代なども、分かりやすく説明されているのに、下手な歴史小説より断然面白い。

  要点を押さえつつ、決して無味乾燥な記録にとどまらないところがさすが。読み応えがあるし、楽しいです。もちろん煬帝や、楊貴妃などは登場してくるし、もっとマイナーな人たちもきちりと紹介されています。

  文化史などはほとんど省略されています。歴史を追っていくことに重点が置かれています。読むと、中国史の中頃をだいたい理解できます。


自森人読書 大唐帝国―中国の中世
★★★

作者:  山田風太郎
出版社: 河出書房

  快作の塊と言えば良いのか、それとも怪作の塊と言えばいいのか。いろんな意味で凄い山田風太郎「忍法帖」シリーズの中の1冊。やっぱり面白い。

  武田信玄が京を目指す途上で病に倒れたところから、物語は始まります。武田家は7人の影武者を繰り出し、必死になってそのことを隠匿しようとしました。そこで登場するのが大軍師、山本勘介です。彼は、自らの献策(啄木鳥戦法)が失敗したため責任を取って川中島の戦いで自ら命を落とした、とされています。しかし、実は生きていて、12年間に渡って寺に籠もり、修行をしていました。そして信玄の死で危うくなった武田家を救うため、再び俗世へ帰ってきたのです・・・

  信玄の死を隠し、信玄の影武者を守るために戦うのは2人の真田忍者。猿飛天兵衛と霧隠地兵衛。逆に徳川家康の命令を受け、信玄の死を暴こうと襲い掛かるのは9人の伊賀忍者。御所満五郎、黄母衣内記、蝉丸右近、墨坂又太郎、漆戸銀平次、箙陣兵衛、六字花麿、虚栗七太夫、塔ヶ沢監物。

  その両者の間で、いつも通り山田風太郎風のエログロナンセンスな「忍術」による戦いが繰り広げられるわけです。ハチャメチャで面白い忍術を、よくあれだけ考え付くなぁと感心します。しかもそれを惜しげもなく次から次へと繰り出す勇気も凄い。ネタが尽きないのだろうか。

  それらの「忍術」は本当に破壊的な威力を発揮するわけですが、それでいて物語の流れがぶち壊れるということはありません。綺麗な文章にのせられたまま、どんどん読め進めることができてしまいます。滑らかな文章と、中身のえげつなさとの間に存在するギャップも、山田風太郎の面白さの1つではないかと思います(逆に、綺麗な文章だからこそ引き立つともいえるかも知れない)。


自森人読書 信玄忍法帖
★★★

著者:  北方謙三
出版社: 中央公論新社

  河内の悪党である楠木正成は、腐敗しきった鎌倉幕府を打倒するために立ち上がりました。彼は、ほとんど味方のいない状況のなかで孤軍奮闘。そして後醍醐天皇率いる反幕府勢力の先駆として、新たなる時代を切り開きます。

  しかし、その結果実現した後醍醐天皇による建武の新政は、武士を軽視したためにすぐさま破綻。足利尊氏が叛旗を翻し、日本は二分されてしまいました(南北朝時代が始まる)。そんな中で、楠木正成は忠義のために無茶な命令に従い、小勢でもって足利軍に挑みかかります。そして最終的には死地へと赴くことになります・・・

  重厚な歴史小説。「北方太平記」シリーズ最後の作品。

  楠木正成を描いた小説はそれこそごまんとあります。特色みたいなものが表れてこないとつらい。そこで、北方謙三は楠木正成が幕府打倒へと動き出すまでを丹念に書きます。キーワードは「物流」。楠木正成は、「物流」を握っていたが故に巨大な勢力となり、幕府と対抗できたという設定です。

  その「物流」の重要視は、そのまま北方『水滸伝』に流用されていったみたいです。物の流れを握る者だからこそ大権力に対抗できるんだ、というその考え方はなかなか面白いです。というか、そうでもしないと「跋扈する強大な反政府組織」というものに説得力が持たせられない。

  副主人公の大塔宮護良親王がやたらと格好良く書かれています(ちょっと物分りが良すぎて、格好良すぎのような気がするけど)。だから、彼の死が楠木正成を絶望に追い込み、死地へ追いやった、という描写も納得できます。


自森人読書 楠木正成
★★★

著者:  平岩弓枝
出版社: 文藝春秋

  連作短編集。『初春の客』『花冷え』『卯の花匂う』『秋の蛍』『倉の中』『師走の客』『江戸は雪』『玉屋の紅』収録。

  御宿かわせみの女主人、庄司るいと、神林家当主の弟、神林東吾は相思相愛の仲。2人は、御宿かわせみに降りかかる不可解な出来事や事件や災難を次々解決し、全て押しのけて進んでいきます。2人を止められる者は誰もいない・・・

  時代小説の傑作だそうです。捕物帳でもあるので、ミステリの要素も含まれています。たとえば、『初春の客』は、長崎から連れてこられたという女と黒い犬(実は「黒ん坊」/黒人)が失踪したので、それを捜索する物語。結果として、東吾とその相棒、源三郎は金座・銀座役人の不正に立ち向かうこととなります。それが記念すべき『御宿かわせみ』シリーズ第1作目。

  きちりきちりと物語が収まっていて確かに面白いけど、「傑作」というほどではないんじゃないか、と感じました。ですが、これで終わりではなくて明治まで延々と物語が続いていく、と聞きました。主人公も代替わりしていくらしいです。それは確かに凄いし、面白そうだ・・・

  つまり長らく書き続けられ、そして愛読されてきた作品なわけか。数度にわたってドラマ化もされているそうです。それでさらに読者を増やしたのかもしれない。

  そういえば、御宿かわせみで「おんやどかわせみ」と読むそうです。


自森人読書 御宿かわせみ
★★★

著者:  北方謙三
出版社: PHP研究所

  『楊家将』の続編。オリジナルの物語。

  楊業亡き後、辛くも生き延びた六郎延昭・七郎延嗣が、楊家軍を再興。南宋を守るべくもう一度立ち上がります。一方、楊家軍の宿敵である耶律休哥は、石幻果(実は、記憶を失った四郎延朗)という優れた弟子を育成する傍ら、またもや南宋との戦いに参加してきます。そうして、再び激しい戦いが巻き起こることになります・・・

  中国の架空歴史小説。

  「涙なしには読めない」というけど、確かに悲しい結末が待っています。石幻果の苦悩と動向が見どころではないかと感じます。自分が、実は四郎延朗であると気付いてからの彼は苦しみ続けることになります。

  面白いのですが、好きになれない部分もあります。北方謙三は、原作の持つ荒唐無稽な展開や、おどろおどろしい魔法的な力、つまり伝承・伝説のような部分を全部削ってしまい、やたらと悲壮感ばかりを強調します。そういうふうに意訳してしまったら、中国の歴史小説ではなくなってしまうのではないか、と感じることもあります

  『楊家将』を、安能務や山田風太郎に超訳して欲しかった、と感じました。というか、とにかく北方謙三以外の人の書いた『楊家将』が読んでみたいです。そうしたら、どれほどぶっ飛んだ物語になっただろう。


自森人読書 血涙 ―新楊家将
★★★

著者:  四方田犬彦
出版社: 集英社

  大雑把に、しかし要点は押さえつつ日本の映画史を振り返っていくもの。まぁ見たことのない映画ばかりが紹介されているので、読んでもなんともいえないのですが。いろんな流れがあるということがよく分かりました。大きく分けて、「時代もの」と「現代もの」があるんだなぁ・・・

  弁士(映画の横で説明する人/だったけど、弁士で映画を選ぶ観客が現れるほど重要な存在だったらしい)の存在が日本の映画に大きな影響を及ぼした、という指摘があります。確かに、作者の言うとおりの気がします。日本映画の特徴として長い語りはよくあるよなぁ(そういえば、弁士の生き残りが『エロ事師たち』でも登場していて、おかしかったなぁ・・・ エロシーンに絶句していて何も説明できない)

  最近では、ピンク映画が新たな才能を生み出す土壌になっている、というのは面白い。そういう一種「低俗」とされているものから、新しいものは生まれるのかも知れない、と感じました。周防正行(『それでもボクはやってない』)も、もとはそちらからやってきたんだし。

  怪獣映画の大流行は、日本映画にしかない、というふうに書いてあるけど意外でした。もしかしたら、長いつながりがあるから、日本の怪獣映画は面白いのかも知れないなぁ。たとえば、ハリウッドで制作された『ゴジラ』は酷かった気がします。あれでは、もうトカゲか、もしくはヤモリかそんなようなものです。絶対に「ゴジラ」とはいえない・・・

  最後の辺りで、宮崎駿と押井守が並べられて紹介されていますが。2人は並び立つような存在なのだろうか。僕には、スタジオジブリが圧倒的としか思えないんだけど。まぁ国際的な評価とかそういう点では伯仲しているのかも知れない。よく知らないけど。


自森人読書 日本映画史100年
★★★

著者:  浅田次郎
出版社: 新潮社

  舞台は幕末の江戸。主人公は文武両道に秀でた愚直な武士、別所彦四郎。彼の家は、危急の時には将軍の影武者をまかされていました。しかし、天下泰平の時代が続いて、全然その役目を果たす機会がありません。別所彦四郎は次男だったため、ぼんくらな兄の下につくことになります。そんな彼が、ある日偶然、寂れた稲荷神社に祈ったところ、なんと災いの神たちが彼のもとへやってきて・・・

  時代小説。

  登場人物たちが面白いです。まず、主人公である別所彦四郎が、かなりいい加減な男な上に、身勝手な男なのでいらいらするし、はらはらします。そして、貧乏神やら疫病神やら死神やらが次々と現れるのですが、みんな個性的です。

  それらの神々と別所彦四郎とのやり取りが、また面白いです。

  最初のうちはコミカルなのですが、段々とシリアスになっていきます。江戸幕府の終わりが近づいてくるからです。人情ものとしてもなかなかなのですが、「武士」というものの意味や意義を問うているところは考えさせられます。しかし、いまいちラストには納得できませんでした。なんというか主人公の行動が論理的ではないし、彼が飛び出していく根拠が浅い気がしました。

  まぁ深く考えずに、軽い気持ちで読めばいいのか。

  そういえば、会話の中に一回だけ相撲取りの雷電が登場します。おー、江戸なのだなぁ、と感じました。


自森人読書 憑神
★★★★★

著者:  古川日出男
出版社: 文藝春秋

  こういう小説、大好きです。

  語り手は、神の視点に立ってイヌに呼びかけます。それに応えて、いろんな時代を生きるイヌたちは各々吠えます。それらイヌたちの声を拾いながら、物語はどこまでも疾走していきます。犬の樹形図をたどりつつ、「戦争の世紀」20世紀の主に後半(第二次世界大戦後)を読み解いていく壮大な小説。かといって決して難解にはならないし、長大にもならないし、イヌを変に擬人化することもありません。

  イヌたちが、人の街をぶち壊していきながらも反撃を受けてしまう最後の場面は圧巻。

  読者にいろんなものを放り投げてくるような語り口です。面倒な説明は、かなり削られています。しかも歴史を語るときでもきっちりしてはいません。暴走していきます。かなり汚い言葉遣いとすらいえます。最初は読みづらいなぁと感じたけどすぐ慣れました。リズム感があります。歴史書みたいな難しい文体よりは、よほど入りやすいと思います。

  物語の面白さをどこまでも追求する『ベルカ、吠えないのか?』こそ、キャラ小説的、ライトノベル的なものに拮抗しえる作品の1つといえるのではないか、と僕は感じました(ライトノベルも面白いとは思うけど、こういう物語を大切にする小説も残って欲しい・・・)。

  豊崎由美が激賞しているのも頷けます。よくぞこんな物語が書けるなぁ、と感心するしかないです。数世代にも渡る人間のドラマというのは古くから存在します(聖書から始まっているわけだから)が、イヌたちの戦後史というのは斬新です。とにかく面白い。

  2006年第3回本屋大賞ノミネート作(8位)。


自森人読書 ベルカ、吠えないのか?
ウェブサイトhttp://jimoren.my.coocan.jp/
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