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自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
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★★★

作者:  詠坂雄二
出版社: 光文社

  電氣人閒というのは、一部の地域でしか語り継がれていない奇怪な都市伝説でした。電氣人閒とは次のようなものなのだそうです。「語ると現れる。人の思考を読む。導体を流れ抜ける。電気で綺麗に人を殺す。かつて旧軍により作られたらしい」。電氣人閒のことをレポートのテーマとして取り上げた女子学生・赤鳥美晴が不審な死を遂げます。いったい何が起こっているのか・・・

  捻くれたミステリのようなホラーのような怪奇小説、なのかなぁ。

  様々な決まりごとを提示し、それを破らないところは、普通の本格ミステリのようです。フリーライター詠坂雄二が強引に論理的なオチをつけ、事件を終わらせるところまでは確かにミステリの枠内に収まっています。

  しかし、その先にまだトンデモない結末が待ち受けています。様々な設定(語ると現れる。人の思考を読む。導体を流れ抜ける。電気で綺麗に人を殺す」)が全て巧みに用いられていたということに気付かされます。少しアンフェアではないかとも感じますが、面白いので構わないとも感じます。

  最後の2行がとくに愉快です。面白すぎ。

  会話がやたらと多くてあっさりと読めてしまうところも良いです。詠坂雄二というキャラクターの台詞に注目するとラストがわかってしまいます・・・ メタミステリのよう。考え抜かれているということがよく分かります。

  まぁバカミスに分類されるべき作品だとは思うのですが、ここまで練りこむのは大変だろうと感じます。傑作と言うわけではないのですが、よくやるよ、と褒めたくなります。


自森人読書 電氣人閒の虞
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★★

著者:  東野圭吾
出版社: 講談社

  ピエロは物言えぬ傍観者として十字屋敷で巻き起こる事件の一部始終を観察しています。それを知らない犯人は複雑な動きを見せ、様々な犯罪を繰り返します。葬式のためオーストラリアから帰ったばかりの竹宮水穂は次々と巻き起こる事件に遭遇し、困惑します。そして、ピエロを追って現れた人形師の悟浄とともに事件について考えるのですが・・・ 竹宮水穂の視点の間に、ピエロの視点がちょこちょこ挟まります。

  奇を衒ったミステリ。

  登場人物には魅力が感じられないし、会話もつまらないことこの上ありません。とはいえ、物の視点を真面目に作品中に取り入れたところは愉快だし、ミステリとしてはそれなりに面白いです。ありがちな館ものなのだけど、様々な人間が動き回っているため複雑。把握するのは大変だけど、その絡み具合が面白いです。

  しかも無駄がないです。伏線が上手に張られていて、それがみごとに収斂していきます。よく考えるなぁ、と感心します。

  ラストはじんわりと怖いです。

  基本的にコンパクトだし、サクッとしていて読みやすいので時間はとりません。東野圭吾のミステリ小説は軽いところがいいです。軽いだけで深みがない、というふうな言い方もできてしまうかも知れないのですが。


自森人読書 十字屋敷のピエロ
★★

著者:  道尾秀介
出版社: 角川グループパブリッシング

  『鬼の跫音』は、道尾秀介の短編集。『鈴虫』『(ケモノ)』『よいぎつね』『箱詰めの文字』『冬の鬼』『悪意の顔』収録。

  『鈴虫』
  警察官が私のものに現れたため、私は11年前に起こったS殺人事件のことを思い出します。あのときのことを知っているのは鈴虫だけのはずなのに・・・

  『(ケモノ)』
  出来の良い家族の仲で、僕だけが穀潰しなので蔑まれていました。僕はある日、椅子の脚を折ってしまい、中からSのメッセージを発見します。

  『よいぎつね』
  私は二十余年ぶりに街へ戻ってきます。しかしかつて肝試しとして女を陵辱したことを思い出し、恐怖に震え・・・

  『箱詰めの文字』
  小説家である私のもとに青年が現れます。彼は、「あなたの部屋から盗んだ招き猫の貯金箱を返しに来ました」と告げるのですが、しかし私には心当たりがなくて・・・

  『冬の鬼』
  鬼の跫音が聞こえてくる・・・ 日記を振り返っていくと恐るべき事実が明らかになります。

  『悪意の顔』
  陰湿ないじめを繰り返すSに私は辟易させられるのですが。

  ホラーのようなミステリのような作品ばかりが収められています。非常にどす黒く、基本的に薄暗いです。少し江戸川乱歩を連想するし、あとは黒い水脈系統の作家たちの影響も感じます。虫や鳥獣がわざとらしく登場するところが印象的。

  そういえば、Sという人物がどの短編にも登場しますが、同じ人物ではありません。もしかしたら、悪意と狂気を体現した存在なのかなぁ、と感じます。

  あまりこういう黒い小説は好きではないし、全体的に玉石混交という感じだし、道尾秀介の巧みさが全面的に発揮されているとは思えませんでした。とはいえ、仰天させられるものもありました。『冬の鬼』のオチは怖かったです。


自森人読書 鬼の跫音
★★

著者:  東野圭吾
出版社: 講談社

  横須賀市にある小さな洋食屋アリアケを経営していた有明幸博、塔子らが深夜殺害されます。功一、泰輔、静奈ら3人の子供たちは家を抜け出して流星群を見に行ったため無事でしたが、彼らは身よりがなかったため養護施設に収容されました。そして、その後3人は様々な人たちに騙され、強く生きることを誓って詐欺師になります。そうして、事件から14年。洋食チェーンの御曹司・戸神行成に高価な宝石を売りつけようとした3人は、行成の父を見かけ、衝撃を受けます。その人は、事件当時殺人現場から逃げ去っていった男に似ていたのです・・・

  やっぱり、東野圭吾作品は分厚くても文章はサクッとしていて面白いです。

  しかし、毎度のことではあるのですが、物語に深みがあるわけではありません。とにかく軽いし、淡白です。

  そして、これもまた毎度のことながら、東野圭吾の作品に登場するヒロインには魅力が感じられません。なんというか、血の通った人間とは思えないのです。典型的でありきたりな「ヒロイン」なのです。もう少しどうにかならないのかなぁ。

  そして最も問題なのは、最後の謎解き。意外ではあるけれど、そこまで衝撃的ではありません。パズル的な謎解きを得意とする東野圭吾の良さがいまいち発揮されていない気がします。

  まぁ普通に面白いけど、それ以上のものはないという感じです。

  2009年第6回本屋大賞ノミネート作(9位)。


自森人読書 流星の絆
★★★★★

著者:  アントニー・バークリー
出版社: 東京創元社

  スコットランド・ヤードのモレスビー首席警部は、ロジャー・シェリンガムが率いる犯罪研究会に未解決事件の報告を持ち込みます。同研究会の者達は事件解決を目指し、推理合戦を繰り広げるのですが、7通りの暫定的な答えが出され・・・

  「多重解決」を目指した実験的なミステリ小説。

  期待していたものとは違ったので、最初は少し戸惑いました。あまりパッとしないし、扱う事件自体が地味(というか単純)なので、たらたらとした説明に疲れてしまうのです。だけど、2つ目の推理が終わった辺りから、面白くなってきます。名作といわれるだけのことはある、と感じました。

  海外の小説は、登場人物の名前が覚えにくいところが難点。しかし、それを堪えてでも読むだけの面白さはあったなぁ、と僕は感じました。

  最終的に、最も正しい(と思われる)答えを出すのは、おどおどした探偵・アンブローズ・チタウィックです。彼の挙動が面白いです。

  「本格推理小説は論理的」とよく言われますが、それはたいていの場合嘘だという作中のミステリ作家による指摘は面白いです。作者アントニー・バークリーは、ミステリというものをおちょくっているようです。だけど、それでいて彼がミステリというものを深く愛しているのだということも伝わってきます。けっこう味わい深いミステリ小説です。


自森人読書 毒入りチョコレート事件
★★★

著者:  鯨統一郎
出版社: 東京創元社

  アトランティス大陸、ストーンヘンジ、ピラミッド、ノアの方舟、始皇帝、ナスカの地上絵、モアイ像の謎が「解明」されます。

  『邪馬台国はどこですか?』の姉妹編というか続編。トンデモ歴史ミステリ。

  またまた宮田さんがとんでもない方向へ強引に議論を引っ張っていくところは非常に楽しいのですが、前作よりはパワーダウンしたような気がします。けっこうオチで平凡というか予想の範囲内なのです。もう少しドッカーンと滅茶苦茶な結論を出して欲しかった・・・

  その上、今回はかなりハードルが高いです。多分、世界史を一通り知っている人しか楽しめないだろうなぁ、と感じます。始皇帝は暴虐な悪い人だという通説を知った上で読まないといけません。そうでないとあまり理解できない。

  しかし、一読の価値はあると僕は思います。やはり面白いからです。阿呆の極地とも言うべき、最後のこじつけには茫然とさせられます。トンデモ国粋主義者が飛びつきそうな結論が出されます。いやー、トンデモ理論というものは案外簡単に生み出せるのだなぁ、と思いました。

  そういえば、鯨統一郎の小説を真面目に批判している人がいますが、真面目な批判なんて全く意味がないと僕は思います。鯨統一郎の小説はこういう強引でひねくれていてバカな小説なんだから、それを批判してもしかたない・・・


自森人読書 新・世界の七不思議
★★★★★

著者:  山田風太郎
出版社: 文芸春秋

  太政官弾正台の大巡察、香月経四郎と川路利良は様々な事件に遭遇します。香月経四郎は、異様な力を持つフランス人美女エスメラルダとともに事件を解決していきます。彼女は、死者の霊を呼ぶことが出来るのです。死者が語る「真実」とは・・・

  歴史ミステリ。ひねられた壮大な物理トリックはたまらない。

  連作短編集のような感じなのですが、最後の章『正義の政府はあり得るか』で全ての謎が回収されます。どんでん返しは本当に衝撃的。香月経四郎の壮烈さには驚かされます。

  太平洋戦争に影響されたらしい山田風太郎自身の歴史観が、はっきりと示されているところは非常に印象的。彼は、革命や戦争を美しいものとして書くことはありません。むしろその滑稽な部分や、グロテスクなところに目を向けます。綺麗な大義名分などに実はないとよく身をもって理解しているんだろうなぁ・・・ 明治ものシリーズも、忍法帖シリーズに劣らず面白いです。

  いろんな人がちょこっと登場するところも楽しいです。福沢諭吉を逞しくてしたたかでかなりの詭弁家として書いているところにはなるほどなぁと感じます。それに対し、勝海舟をくえない大物として書いているところには共感。内村鑑三が登場したときにはほー、と感心していました。西郷隆盛、江藤新平なども顔を見せます。その他にも多くの有名人が登場。それを確認していくだけでも楽しいです。

  山田風太郎「明治もの」シリーズの傑作。


自森人読書 明治断頭台
★★

著者:  本多孝好
出版社: 双葉社

  『MISSING』は本多孝好のデビュー短編集。『眠りの海』『祈灯』『蝉の証』『瑠璃』『彼の棲む場所』収録。

  『眠りの海』
  崖から飛び降りようとして失敗し、少年に助けられた高校教師。彼は、教え子と惹かれあうものの周囲から糾弾され、自動車事故を起こして彼女を殺してしまったことを語りだします・・・ 小説推理新人賞受賞作。ミステリ色が強い作品。

  『祈灯』
  妹の友達に不思議な女の子がいます。彼女は、かつて事故で妹を失ってから、自分は妹だと思い込み、そのように振舞っていました。なぜ彼女はそんなふうになってしまったのか・・・?

  『蝉の証』
  僕は、老人ホームにいる祖母を見舞いました。相川という老人のところに現れたという若い男のことを調査することになります。収録されているものの中で最も恥ずかしい短編だなぁと感じました。会話も何もかもわざとらしすぎて、少し気持ち悪くないか。

  『瑠璃』
  僕は、従姉のルコに憧れていました。家族が旅行でいない間、彼女との楽しい日々を過ごし、さらに焦がれるのですが。切ない物語。

  『彼の棲む場所』
  マスコミで大活躍している良識派の人物の心の中には恐ろしく暗い感情がわだかまっていました、というはなし。かなり怖いです。

  後半になるにしたがってじょじょにミステリ色が薄くなっていきます。恥ずかしいほどの青臭さと爽やかさと人間の心の暗部をえぐるようなグロテスクさが同居しています。村上春樹の不思議さをとりのぞき、もう少し口当たりをよくしたような感じ。最初のうちは面白かったんだけどなぁ・・・


自森人読書 MISSING
★★★★

作者:  ジェームズ・アンダースン
出版社: 東京創元社

  イギリスのミステリ小説。

  ある夜、夫スティーヴンが蒼白な顔をして帰ってきました。何事かあったのかと疑う妻アリソンはいろいろ問うのですが、夫は「仕事が速く終わったので帰ってきた」というのみ。深夜、2人の警察官が現れます。彼らは、「殺人現場にスティーヴンがいたという目撃証言があった」と告げ、スティーヴンを連行していきます。ですが、アリソンは夫の無実を確信していました。彼女はそれを証明するべく走り回ることになります。そこへ、事件の被害者であるリンダ(モデルを名乗っていた美女)の兄、ロジャーが加わってきて・・・

  あらすじを説明しても、あんまり面白そうに感じないかも知れません。ミステリとしては、あまりにもありきたりな感じなので。

  でも、読んでみると二転三転していくところが非常に面白いです。よく練られています。技巧派というのはそういうことか。いろいろと証拠がでてきてけっこう混乱するのですが、テンポよく進んでいくので、読みやすいです。

  意外なラストには、ため息をついてしまいました。そうくるか。解説の指示に従って最初からペラペラめくってみると、いろんなところに犯人を示唆する部分があった・・・ さすが。

  きちりときれいに収まる本格ミステリの秀作。


自森人読書 証拠が問題
★★

作者:  柳広司
出版社: 理論社

  主人公は、夏目漱石の家に居候している探偵小説好きな書生。彼は、癇癪もちで、世間知らずで、とにかくとぼけた漱石先生に悩まされながらも、彼と彼の家に現れる変人たちと名前のない猫に混じって楽しい毎日を送っていたのですが、おかしな謎がゴロゴロ現れ・・・ 連作短編ミステリ集。『吾輩は猫でない?』『春風影裏に猫が家出する』

  猫にこだわったらしき、事件が5つ起きます。

  愉快な作品です。夏目漱石とその周囲に集まってくる変人達の掛け合いがおかしいです。皆、ちょっとどころじゃない変人さを発揮します。

  でも、夏目漱石の『我輩は猫である』を読んだ後だともっと楽しめます。それにしても『吾輩は猫である』という作品はとにかくいろんな人にいじられ、パロディ作品が書かれているなぁ、と思いました。それだけ『吾輩は猫である』が愛されているということか。

  柳広司は、当時の時事ネタ・出来事をうまくからめていきます。けっこう社会派ではないか。現実離れしたスパイたちを描いた作品『ジョーカー・ゲーム』よりもこちらの方が僕は好きでした。なんというか、作品自体に愛嬌があります。

  理論社ミステリーYA!シリーズ。


自森人読書 漱石先生の事件簿―猫の巻
★★★★★

著者:  アガサ・クリスティ
出版社: 早川書房

  地元の名士ロジャー・アクロイドは、医師ジェイムズ・シェパードを夕食に誘います。その席で、アクロイドはシェパードにあることを打ち明けました。しかし、その直後に自室で刺殺されてしまいます。そのまえにも、婦人が睡眠薬を飲んで死んでいました。ジェイムズ・シェパードはそれらの出来事を全て正確に手記にまとめ、誰が犯人か明らかにしようとしました。そして、すでに引退していたエルキュール・ポアロも依頼を受け、その事件を解決しようと立ち上がります・・・

  名探偵ポアロが活躍するミステリ小説。

  発表された当時、フェア・アンフェア論争を引き起こしたそうです。あまりにも意外な人が犯人なのです。僕は、フェアだと思うし、面白いから別にアンフェアだろうとなんだろうと構わないと思っています。だけど、そこは難しいところなのかも知れません。手記だということが明かされる時期が遅いし。

  それにしても仕掛けられた叙述トリックがみごと。タイトルにすら、トリックが仕掛けられているとも読める・・・ びっくりしました。

  推理小説史に残る名作といえます。それにしてもこのようなトリックを説得力ある文章で書き上げたことが凄い。アガサ・クリスティはやっぱり、ミステリの女王なのだなぁ、と感じます。後々、これを模倣する作品が溢れるようになります。

  未読の人はとにかく何も知らないうちに読んでみた方がいいのではないか、と思います。衝撃的な真相が待ち受けているので。


自森人読書 アクロイド殺し
★★★★

作者:  西澤保彦
出版社: 講談社

  ファーストフード店にいた6人の男女は、突然の大地震に遭遇して怪しげなフィルターに逃げ込みます。ですが、それは数十年前アメリカ政府が研究し続けたのに、その仕組みを解明できなかった、不可思議な人格転移装置でした。男女の中の一人、江利夫は起きると自分の心が別人の体の中に入っていることに気付きます。彼は、他の人とともに話し合おうとするのですが、そんな誰が誰か分かりづらい複雑な状況の中で、突如として連続殺人事件が起こります。さて、誰が誰を殺したのか?

  SFの要素を含んだミステリ小説。

  不思議なシステムが面白い物語を形作っていますが、状況を把握することがまず面倒です。ややこしい複雑なパズルみたいな感じ。この物語を考えた西澤保彦は凄い、と感じました。

  まぁ、その人格転移システムが複雑だから、その代わりとしてそれを説明するための文章は分かりやすいし、読みやすいです(そこまで凝ったものだったら読解が困難になるし、ミステリではなくなってしまう気がする)。ライトノベルと近いものがあります。

  全ての謎のヒントは最初から示されています。そこも凄かったです。

  ラストのオチは、そこまでビッグなものではありません。ですが、綺麗に収まっていてなかなか良いなぁ、と感じました。ついでに、大森望の長い解説も面白くて良いです。SFにもミステリにも詳しい大森望だからあのような解説を書けるんだろうなぁ。


自森人読書 人格転移の殺人
★★

作者:  森博嗣
出版社: 講談社

  S&Mシリーズの第4巻。

  N大学構内で女子大生の連続殺人事件が起こります。その死体には、不可思議な傷が残されていました。そのため、その学校の生徒でロック歌手として活躍している結城稔が疑われます。彼の歌っている歌詞と、その殺人事件には似ている部分があったからです。その謎に、学生・西之園萌絵とその教授・犀川創平が挑みます。

  今回の密室はつまらないです。というか「密室」なんて現実的にはありえないし、どう定義するかの問題だから意味がないということを犀川創平が述べますが、確かにそのとおりだと感じました(少し作者の言い訳を代弁しているような気もしたけど)。

  犀川創平に対して果敢にアタックをかける西之園萌絵が可笑しいです。2人の恋愛、というか一方的な恋愛はどこへいきつくのか。

  そういえば今回、犀川創平は中国へ行ってしまいます。なのでじれったいです。探偵役の彼が帰って来ない限り、物語は完結しないわけで。

  そういえば、犯人の心にはいまいち納得できないです。まぁ納得できなくなて当然なのか。今回もやっぱり森博嗣お得意の「狂気」、普通からはずれた論理に憑かれた心の物語でした。


自森人読書 詩的私的ジャックJack the Poetical Private
★★

作者:  森博嗣
出版社: 講談社

  S&Mシリーズの第3巻。

  犀川創平助教授とその生徒・西之園萌絵は「天才数学者」天王寺翔蔵博士の住む、三ツ星館を訪れ、クリスマスパーティーに参加します。姿を現さない博士は、参加した人たちにプラネタリウムを見せました。その最中に庭にたっている巨大なオリオン像を消してみせ、翌日にはもとに戻すと彼は告げました。12年前にも同じことをやってみせた博士。いったいどうやって・・?翌日、言葉通り、オリオン像はもと通りになっていました。しかも、その像の前には死体が転がっていました・・・

  ミステリとしてはかなり分かりやすいです。けど、やっぱり面白い。

  最後まで謎が残されたところがとても印象的でした。いろいろと考えることが出来て、興味深いです。いったい誰が笑っているのか。

  人類史上最大のトリックは、「人々に神がいると信じさせたことだ」という犀川創平の言葉がとても印象的でした。いつもながら気障な台詞が格好良いです。ついでに「天才数学者」天王寺翔蔵博士もなかなか格好良いような感じのことを言いまくります。

  ミステリとして読まなくても面白いです。


自森人読書 笑わない数学者Mathematical Goodbye
★★★

作者:  帚木蓬生
出版社: 新潮社

  主人公は佐伯教授。彼はパリの国際ウイルス会議に出席し、講演を行います。その直後、突然全く面識のない元学者の老人から声を掛けられました。彼はベルナールと名乗りました。ベルナールは、事故死したと伝え聞いていた元同僚・黒田が実は事故死ではなかったと告げます。佐伯は半信半疑ながらも、ベルナールに教えたられたピレネー近くの田舎へと赴き、黒田の墓と対面し、墓を守る女性ジゼルと出会うのですが・・・

  帚木蓬生のデビュー作。

  ミステリーか、もしくはサスペンスに分類されるような作品。孤独な男だった黒田はどのように生きたのか。それを旧友・佐伯がしっかりと追い、ゆっくりと解き明かしていきます。

  静かな物語です。派手さはないけれど、重みがあります。物語は一本道のようにまっすぐ続いています。だから、けっこう単調です。だんだんと飽きてきます。でも、細部にわたる丹念な風景描写が素晴らしいです。臨場感があります。

  作者・帚木蓬生が医者だからか、細胞などについての説明が細かいです。半分くらいは理解できなかったです。難しい・・・

  良心を完全に失った悪人は登場しません。帚木蓬生の、人への信頼のようなものが表れた作品。読んでいて心地よいです。


自森人読書 白い夏の墓標
★★★★

著者:  米澤穂信
出版社: 新潮社

  連作短編集のようなもの。『身内に不幸がありまして』『北の館の罪人』『山荘秘聞』『玉野五十鈴の誉れ』『儚い羊たちの晩餐』収録。

  『身内に不幸がありまして』
  お嬢様に仕えることに至上の喜びを見出している夕日と、お嬢様の物語。そんな些細なことで人を殺すのか・・・ と気味悪さを感じました。

  「ラスト一行の衝撃にこだわり抜いた」作品群だそうです。でも、最後にオチがくるというだけのはなし。あまりアッと驚かされることはなかったです(『山荘秘聞』だけは別だけど)。むしろ、全体に漂う暗い、というか黒い雰囲気が良いです。殺人が起きたりもするのですが、どの事件の加害者もみな動機がおかしいです。普通ではない、というか。

  随所に読書会「バベルの会」が登場します。もしかしたら、『儚い羊たちの祝宴』に収録されている全ての物語は「バベルの会」の人たちの妄想(創作)なのかも、と思ってしまったのですが、どうなのだろう。そうだとすると・・・

  最後の『儚い羊たちの祝宴』がまた良いです。少し物足りない気もしたけど、全体をきちりとしめています。もしかしたら彼女が創った「バベルの会」が「過去のバベルの会」を勝手に創り出したのではないか(「過去のバベルの会」は妄想上のものだということ)。『儚い羊たちの祝宴』こそが最初の物語なのではないか。だとすると全てはひっくり返って・・・


自森人読書 儚い羊たちの祝宴
★★

作者:  霞流一
出版社: 勁文社

  戦前に活躍したミステリ作家・大阪圭吉に捧げられた作品。

  コハダトーイという玩具会社を創った小羽田伝介は、幻の機関車・C63型蒸気機関車を再現。息子にプレゼントします。息子は「虎徹号」と命名し、それを中央線で走らせようとしました。しかし、そのお披露目の日、出発駅である北別府駅で死体が発見されます。しかも、「虎徹号」が虎のお面を被った2人組に乗っ取られ・・・・・

  最後の最後に、面白い仕掛けがあります。

  霞流一は「バカミスの第一人者」といわれているそうですが確かに阿呆らしく(その上かなり残酷)、すっ呆けたような謎解きと展開が多いです。だけど、僕はもっとアッと言わせてほしかったので、いまいち釈然としない気もしました。たとえば、鯨統一郎が書いているような作品こそがバカミスなのではないか。なので、あまり高い評価にならないです。

  まぁ作品自体の「バカっぽさ」はかなりのもの。バカの力が遺憾なく発揮されています。登場人物たちと彼らの奇天烈な挙動はなかなか面白いです。とくにキラリ(蜂草輝良里)という針師の女性がおかしい。警察にもつてがある人、一応の探偵役。

  合わない人は合わないだろうアクの強い作品。


自森人読書 スティームタイガーの死走
★★

作者:  蒼井上鷹
出版社: 双葉社

  短編集。『大松鮨の奇妙な客』『においます?』『私はこうしてデビューした』 『清潔で明るい食卓』『タン・バタン』『最後のメッセージ』 『見えない線』『九杯目には早すぎる』『キリング・タイム』収録。

  『大松鮨の奇妙な客』
  蓑田は頼まれて不倫疑惑がある男性を尾行します。その男は、寿司ネタを残しておいて、それを特製茶碗蒸しに放り込み、ぐちゃぐちゃにして食おうとして店から追い出されました。いったいなんためにそんなことをしたのか?

  蒼井上鷹のデビュー作。

  5つの短編と4つの掌編(ショートショート)が収録されています。小物が抱く、どうしようもない悪意を上手に書く作家、と解説で紹介されていましたが、その通りだと感じました。少しサイコホラーっぽいです。若竹七海と似ているかも知れません。

  オチが見事にきいている短編はなかなかに面白いです。しかし当たり外れも激しくて、つまらない短編は全然面白くないです。

  ただ、文章は具体的な描写が多く、それでいて深いわけではなく、非常に読みやすいです。だから、ぱぱっと読めます。暇つぶしにぴったりということができるかも知れません。少し、阿刀田高に似ている気がします。

  まぁ悪くはないのですが、もう少し個性的な部分がないと目にとまらない気もします。あと、似たような短編ばかりなので、最後のほうになるとしだいに飽きてきます。けれど、蒼井上鷹という作家には期待します。面白い短編・掌編をこれからたくさん書いてくれるのかも知れない。


自森人読書 九杯目には早すぎる
★★★★

著者:  海堂尊
出版社: 文藝春秋

  桜宮市の東城大学医学部付属病院は、天才外科医・桐生恭一を招聘し、彼を中心にして、「チーム・バチスタ」を結成します。桐生恭一は、失敗する確率が非常に高いバチスタ手術を20件以上、次々と成功させていきました。それはチーム・バチスタの奇跡と呼ばれました。ですが、最近になって相次いで3回も手術が失敗。不定愁訴外来の田口医師は、高階病院長に依頼され、その事態を調査するのですが・・・

  快作。とても面白かったです。

  最初は田口が丹念に事態を調査していきます。単調にならないように、人の書き分けがきちりとなされています。前半だけでも、作者・海堂尊は凄い人だなぁと感じました。

  しかし、中盤から「ロジカル・モンスター」白鳥圭輔が登場してくるともっと楽しくなってきます。白鳥は全てをぶっ壊して前進していきます。本当に傍若無人。「ロジカル・モンスター」とか言うわりには、ただ単に相手を怒らせるだけの調査手法も笑えます。

  基本的な構造は、古典的なミステリ小説と何も変わらないのに、「医療」という題材が新しいからかなぜか斬新な小説に見えます。あと、社会やマスコミに対する鋭い批判が盛り込まれているところも良かったです。そして、重いテーマを扱いながらも軽快に進んでいくところも読みやすくて良いです。

  第4回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。海堂尊のデビュー作。


自森人読書 チーム・バチスタの栄光
★★

著者:  東野圭吾
出版社: 文藝春秋

  連作短編集。『燃える(もえる)』『転写る(うつる)』『壊死る(くさる)』『爆ぜる(はぜる)』『離脱る(ぬける)』収録。

  『燃える』
  夜中人通りの少ない道で騒いでいた若者の頭が突如発火し、若者が死亡しました。どうして火がついたのか。原因は不明。刑事・草薙に依頼され、湯川学がその謎に挑みます。

  『転写る』
  刑事・草薙は、姪の文化祭を見にいき、そこで騒ぎに出会います。不思議なデスマスクを見た女性が、そのマスクは失踪した兄に酷似していると言い出したのです。警察が追求すると、デスマスクの出てきた池から死体が発見されます。そのデスマスクはいったい何なのか?

  『壊死る』
  浴槽で死亡している男が発見されます。死体の胸には奇妙な痣があり、その部分の皮膚が壊死していました。それは何を示しているのか?

  『爆ぜる』
  アパートで撲殺された男が発見されます。一方、1週間前、湘南海岸で突然爆発が起こり、女性が死亡していました。その2つの事件に関連があるのか。

  『離脱る』
  本来ならば見えるはずのない光景が見えたと少年が言います。その言葉はある殺人事件の証言になるものだったので警察は混乱します。その証言は本当なのか・・・

  ドラマ化されています。福山雅治演ずるガリレオ湯川学が格好良かったです。原作よりもドラマの方が面白かったかもしれない。原作は普通の小説なので。


自森人読書 探偵ガリレオ
★★★★

著者:  米澤穂信
出版社: 角川書店

  何事に対しても消極的な立場をとり、「省エネ主義者」を自認する折木奉太郎は、高校に入学した後、外国から手紙をよこす姉の手紙がきっかけで「古典部」に入部。実はこの3年間入部者が皆無だったため潰れかけていたのですが、彼の入部によって古典部は廃部をまぬがれます。彼は、1人で呑気にしていようと思っていたのですが、些細な謎にも異常な関心を示す少女・千反田えるが入部してきたことで状況は一変。さらに、奉太郎にとって親友にして宿敵でもある福部里志が加わります。

  彼らは、古典部伝統の文集はなぜ『氷菓』と名づけられたのか考えることで、33年前におきた「ある事件」の謎にも挑むことになります・・・

  なんとなく全体的に地味な印象を受けます。わざと大きなところをはずして、小技で固めているみたいな感じです。少し退屈な気分になりますが、読み始めたならば最後まで読んだ方が良いと思います。そうしないと、米澤穂信の良さは分からない。

  ラスト、『氷菓』の意味が判明した時、衝撃を受けました。薄ら寒いです。

  主人公、折木奉太郎は「灰色」の青春を送ろうとしている男なのですが、同じように作者もけっこうひねくれている感じがします。そこが良いです。

  第5回角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞受賞作。米澤穂信のデビュー作。〈古典部〉シリーズの第1作目。


自森人読書 氷菓
★★★

作者:  恩田陸
出版社: 講談社

  物語の舞台は縦横に水路が入り乱れ、3本の塔がたつM町。その町に、失踪したと思われていた男、市川吾郎が現れ、少しの間生活した後、町の水無月橋にて殺されます。いったいどうして彼は殺されてしまったのか。謎が謎を呼び、何もかもが判明しません。その内、作品の舞台となっている町自体が、謎を孕んでいることが発覚し・・・

  中盤まではぐいぐい惹きつけられました。ですが、恩田陸作品らしく、そのままクライマックスに突入! とはなりません・・・

  じょじょに、殺人事件の解決が物語の主題ではなくなっていきます。しかも物語の語り手が、どこまで信用できるか不明なので混乱します。もうフェアとか、アンフェアとかそういう次元を超越しています。一般のミステリー小説の範疇からはずれた作品。

  とくに、一番最後の章(落ち)には愕然としました。なかったほうが良かったかも知れない、とさえ思いました。殺人の謎を未解決のままにしておいたら、読者は怒るだろうけど、「これはミステリではない、不条理小説だ」というふうに納得してくれたのでは・・・? いや、それでは消化不良か。

  けど、この『きのうの世界』のラストだって全くすっきりしません。

  読後空虚な気分に陥ります(それが恩田陸作品を読む楽しみでもあるのだけど)。最後で拍子抜けする、いかにも恩田陸らしいミステリ。


自森人読書 きのうの世界
★★★

著者:  芦辺拓
出版社: 集英社

  ミニコミ誌「オンザロック」をともにつくっている13人の学生達は、元病院の古びたアパート「泥濘荘」を借りてそこに下宿していました。12月のある日、彼らは地下レストランに繰り出し、アイドル並みの美貌を誇る水松みさとらも加えて忘年会を行い、楽しみます。しかし、十沼が「泥濘荘」に帰ると、鯖田の死体がぶらさがっていて・・・

  凝ったミステリ小説。吊り首、毒死、枕刺しなどなどいろんな方法で人間が次々と殺されていきます。しかも、密室で。あまりにもたくさん人が殺されます。もう誰が誰だかわからないくらい。登場人物が全員死んでしまうのでないか、と不安になりました。

  二部構成。

  第一部は十沼の手記という体裁をとっています。散漫で、ぐちゃぐちゃな印象を受けました。二部は多分、もう少し客観的な視点から書かれています(それでもやっぱりごちゃごちゃしていますが)。探偵、森江春策が本格的に登場するのは二部になってから。

  たくさんでてくる謎はけっこう面白かったけど、最後の辺りの謎解きには唖然とします。そんなに都合良くいくか、と言いたくなりました。あと、文章がガサガサしていたのが気になりました。アクが強い、といえばいいのか。とにかく読みづらいです。物語自体はなかなか面白いのに・・・

  第一回鮎川哲也賞受賞作。芦辺拓のデビュー作。


自森人読書 殺人喜劇の13人
★★★★★

作者:  宮部みゆき
出版社: 新潮社

  怪我を負って休職中の刑事、本間俊介は遠縁の親戚、栗坂和也に依頼され、彼の婚約者、関根彰子の行方を捜すことになります。簡単な仕事かと思いきや、彼女の行方は追えば追うほど、霞に隠れてしまいます。どうやら彼女は徹底的に痕跡を消し去り、自らの意思で失踪したらしい、ということが分かりました。いったいなぜ彼女は去らねばならなかったのか? 彼女は何者なのか?

  ラストがあまりにも印象的。

  社会派ミステリ。クレジットカード社会の現実をきちりと取り上げた作品。随分と分厚いのですが、消費者金融というものや、自己破産という考え方や、ローン地獄という状態を丹念に書こうとすれば、長くなるのは当然のような気がします。

  だから社会の勉強のような難しい説明も含まれています。けれど、宮部みゆきはやはり読みやすいです。物語を追っていけば理解できるようにきちりと構成されているからだと思います。様々な事実がじょじょに明らかにされていく過程は非常に楽しめます。

  サスペンス小説としてもなかなかです。「関根彰子」を騙る女性の壮絶な人生には気迫迫るものがあります。頑張ってと少しだけ言いたくなりました。

  ミステリ史上に残る名作。第6回山本周五郎賞受賞作。『このミステリーがすごい! 1988年-2008年版 20年のベスト・オブ・ベスト』第1位にもなっています。


自森人読書 火車
★★

著者:  東野圭吾
出版社: 講談社

  前原昭夫は妻、息子、認知症の母とともに生活していました。そんなある日、妻からの連絡があって帰宅すると家の中に幼い少女の死体が転がっています。どうやら息子が連れ込んで殺してしまったらしいと知り、前原昭夫は悩んだ末、その犯罪を隠蔽しようとするのですが・・・

  ミステリ。加賀恭一郎シリーズ。

  今回のテーマは家族。巧みに社会問題が取り入れられています。日本は高齢化社会に突入したというのに、具体的な方策はたてられないまま時間は過ぎ去り、非常に辛く大変な老人介護は各家庭に押し付けられているわけですが・・・

  『容疑者Xの献身』と同じように犯罪の隠蔽が行われるのですが、今回の方法もかなり怖いです。加賀恭一郎が明らかにしていく真実には驚かされました(『赤い指』というタイトルが、そのまま答えになっています、うまいタイトル)。

  初めて加賀家のことも語られます。

  直木賞受賞後第一作。今回もまたまた面白いです。『容疑者Xの献身』が男女の愛(一方的な愛、のような気がするけど)をテーマにしたものとするならば、『赤い指』のテーマは親子。非常に地味な展開だし、重いんだけど、面白いです。社会のことを考えさせられます。

  とはいえ、基本的にはパズル的なミステリーです。東野圭吾作品は何であったとしてもそれなりに読めます。本当に面白い。


自森人読書 赤い指
ウェブサイトhttp://jimoren.my.coocan.jp/
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