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自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
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★★★★

著者:  カズオ・イシグロ
出版社: 中央公論社

  主人公は、ダーリントンホールの執事スティーヴンス。彼はかつての主人ダーリントン卿を失い、新たにアメリカ人の主人ファラディ氏を迎えることとなります。ファラディ氏はジョークが好きなアメリカ人だったため、スティーブンスは戸惑いました。そんなある日のこと、主人に勧められ、イギリス西岸のクリーヴトンへと出掛けます。旧友ミス・ケントンと再会し、再び彼女とともにダーリントンホールを運営できたら嬉しい、と彼は考えたからです。小旅行の最中、美しいイギリスの田園風景に触発されるためかスティーブンスは回想ばかりを繰り返します・・・

  イギリスの小説。

  小説は、執事スティーブンスのしっとりとした語りで進んでいきます。その語り口がまたいいのですが、彼が書きたくないと思っていることは注意深く取り除かれています(たとえば、ミス・ケントンへの恋情とか)。つまり、大切なことは書かれていないわけです。そこが奥深いです。

  スティーブンスは品格ある執事であり続けるためにミス・ケントンに近寄ろうとはしません。ほとんどつっけんどんといってもいいような態度をとるわけです。2人は互いのことを想っているのに決して向き合うことは出来ません。本当にどうしようもないです。非常に哀しいです。

  そして、一方ではスティーブンスとその主人ダーリントン卿は、時代の荒波にのまれていきます。

  ダーリントン卿はイギリス流の騎士道精神に則った人間であろうとし続けたためにナチスドイツに操られ、スティーブンスは品格ある執事であり続けようとしたためにそれを助けることになってしまいます。あまりにも痛々しいです。ただただ誠実に、立派に生きようとすることで失われていくものがどれほど多いか、と考えさせられます。

  でも、執事スティーブンスの生き方は間違っていたけれど、それでも彼は立派だったのではないか、と感じます。とはいえ、「時代を読みきることが出来なかった程度の立派さ」といってしまうこともできるかも知れません。だから、余計に悲しい。

  ブッカー賞受賞作。


自森人読書 日の名残り
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