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自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
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著者:  奥田英朗
出版社: 角川書店

  1964年(昭和39年)。東京オリンピックを目前に控え、日本中が熱気に包まれていました。市民や警察は勿論のこと、労務者、学生、左翼、はてはヤクザまでがアジアで初めてのオリンピックを誇りに思い、待ち望んでいました。しかし、マルクス経済学を学ぶ東大院生・島崎国男は、出稼ぎ労務者だった兄が東京の建設現場で事故死したことをきっかけにして、その状況に疑問を持ち始めます。彼は兄の遺骨を実家がある秋田の寒村に持ち帰ったときには極貧の中で苦しむ人々を目の当たりにし、夏休みの間労働者と肩を並べて働いたときには理不尽かつ過酷な労働現場を知ります。彼は悩みます。ですが、オリンピックを妨害することで国家に戦いを挑むことを決め・・・

  社会派サスペンス小説。

  521p二段組。長大なのですが、とにかく引き込まれます。高度成長期の日本というものが細部にいたるまで描写しつくされています。西洋的な生活を送りつつビートルズに熱狂する市民と長時間労働に苦しみ明日のことなど考えることも出来ない薄汚れた労務者。開発が進み、娯楽が溢れる進歩的な東京と、次男三男に居場所はなく結婚は村が取り仕切る封建的な秋田。それらの対比が印象的。

  そして、群像劇としても優れています。登場するキャラクターたちがとにかく魅力的。

  島崎と意気投合する年老いたスリ村田留吉。官僚しかいない一族の中でテレビ会社に就職した須賀忠。オリンピックの日に出産予定の妻と二歳になる息子と郊外で生活している優秀な警官落合昌夫。誰もが、善意と悪意を併せ持った個性的な人間なのです。

  そして、とにかく主人公・島崎が魅力的。彼は誰からも好かれる控えめな優男。東大の大学院にまで進むのですが、輝かしい日本/東京をつくるために踏みにじられている人々と出会い、その状況を是正しようと思いながら具体的な手段を見つけられません。そして、労務者の仲間から貰ったヒロポンに手を出したために薬物中毒に陥ります。ですが、感覚が鋭敏になるヒロポンをうまく用い、テロを決行。日本を脅かし、八千万円を奪い取ろうとします。国家の権威を剥ぎ取ろうとしたわけです。彼は少しずつ追い詰められていくのだけど、それでも基本的には誠実だし、愚直です。関係ない他人に迷惑をかけようとしません。

  度重なる偶然と警察の内部対立が彼を救うのですが、少し都合よすぎる気がしないでもないです。けれど、好人物過ぎてテロリストになりきれていない島崎が活躍するためには、偶然が必要な気もします。

  無邪気に未来を信じる人間が溢れかえるオリンピック開会式の会場で、過酷な現実に目を向けてた人間があっけなく射殺されるクライマックスの場面はあまりにも印象的。奥田英朗の最高傑作なのではないか、と感じます。

  第43回吉川英治文学賞受賞作。


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