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自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
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★★★★★

著者:  莫言
出版社: 岩波書店

  中国のマジックリアリズム小説。眩暈がしてきます。読んでいて本当に疲れました・・・ 物語はちょっと変な構造をしています。

  「酒国にて、街の政府高官が嬰児の丸焼きを食しているという情報を得た特捜検事は事態を重く見て、『丁鈎児(ジャック)』という捜査官を送り込みます。彼は、潜入捜査を行おうとするのですが、なぜか全てがばれていて、女と酒によって取り込まれていきます。そして、彼は激しい混乱の中で破滅していきます・・・」というのは、莫言が執筆中の『酒国』という小説です。つまり作中作。

  その莫言という高名な小説家は、酒国に住む文学青年・李一斗と往復書簡を交わしていました。その手紙が物語の途中途中に挿入されます。そしてその手紙とともに載せられているのは、文学青年が次から次へと送りつけてくるグロテスクな短編小説。文学青年は、それらの作品を世間に発表して欲しいと願うのですが、手厳しい体制批判が含まれているためか出版されません。青年はじょじょに体制批判を避け、莫言に媚びるような手紙を送ってくるようになってきます・・・

  文学青年の書いた短編小説の世界観は、『酒国』ともリンクしてきます。そうして『酒国』という小説と、往復書簡と、文学青年の書いた短編小説と、莫言自身の手記とが渾然一体となり、グロテスクで、どこかおかしくて、不可解な混乱が生まれています。

  本当に訳が分からないです。

  もうめちゃくちゃというしかない。でも楽しいです。美味しそうな嬰児料理と、溢れかえって物語を破壊しつく酒。体制を嘲笑しつつ、それを強く批判するその姿勢。醜い自分を自覚して自虐する莫言の自己反省。ぐちゃぐちゃだけど、この『酒国』と言う物語そのものが、今の中国それ自体を表している、という指摘には頷かされます。

  精神的余裕がある時に読まないと、精神崩壊を招きそうな強烈な作品。


自森人読書 酒国―特捜検事丁鈎児の冒険
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