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自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
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★★★

著者:  佐藤亜紀
出版社: 新潮社

  主人公は、バルタザールとメルヒオール。二人は一つの体の中に同居しているのです。彼らは貴族なのですが、世界が変わっていく中で母親は憤死し、家はじょじょに落ちぶれていきます。そうした中で父の後妻と不倫関係に陥ったりして苦しむのですが、父の死とともに家を手放し、故郷を離れることになりました。しかも、ナチスが台頭してきていて・・・

  一つの体に二つの人格というのは、漫画などでもよくあるパターンのような気もするけど、佐藤亜紀はそれをみごとに活かし、物語を構成していきます。

  前半部分『転落』は、ようするにヨーロッパを舞台にした『人間失格』ではないか、と感じました(いや、僕の読みが底抜けにおかしいだけかも知れないけど)。主人公とその周囲の人たち、そして物語自体にも反時代的・反社会的な香りがプンプン漂っています。

  主人公の愚かさには呆れます。勝手に堕落し、転落してください、と思ってしまいます。神話的世界においては、「運命に導かれて破滅した人」が登場しても納得できます。けど、物語の舞台が近代だと嫌な奴にしか思えない。

  文体も、物語も、全体的にとにかく格好良いです。いかにも文学好きな人が好きそうな小説。惚れ惚れするけど、読むのは一度だけで良いや、と思ってしまいました。なんというか、どことなく漂う衒学趣味の影と、その濃厚さに飽きる、というか疲れるのです。僕が小説読みとして未熟なだけかも知れないけど。

  「日本人が書いたものとは思われない」と評していた人がいたけど、確かに。

  日本ファンタジーノベル大賞受賞作。佐藤亜紀のデビュー作。


自森人読書 バルタザールの遍歴
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