自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
少女きりこと黒猫ラムセス2世の物語。迫力がある容貌のため、きりこは、小さい頃から子供たちを率い、仕切っていました。ですが、ブスであると看做されてから力を失い、美人な女の子たちに敵わなくなります。けれどどうして自分がブスといわれるのか分からず、引きこもるようになるのですが、開けっぴろげな猫たちとの交流の中で、自分を見つめ直していき・・・
単なる「良いはなし」になってしまいそうなのですが、現実的で俗っぽい話が混ざっています(子供たちの中での理不尽な関係とか、男は自分より優れた女を嫌う、とか、セックスばかりしている女性が強姦されると誰も同情しない変な世の中のこと、とか)。設定(猫が喋りだす)も文章も軽いです。そのために面白い小説になっています。
人間の世界と猫の世界が対比されるところが面白いです。雄猫は良い匂いのお尻とセックスしたいだけであり、人間の男もそれと変わらないだろうに社会があるために本音が言えない、とか。けれど、一般論で全てを説明していくので底が浅い感じがします。
決して悪くはないのですが、随分とずるい構成になっていると感じてしまいました。ラストの辺りで、ブスってなんだろう、なぜ人は外見で人を判断するのか、ときりこは考えていきます。そして、「いれものとなかみ両方込みで、その人なんだ」と悟るのですが、ようするに大切なところで反論しようのない正しい結論がでて、おしまいなのです。
ブスと言われている人にとって苦しいのは、容貌に自信が持てず、誰ともコミュニーケションをとることができなくなることなのに、きりこはいつでも人間と変わらない猫と会話しているわけです。ある意味では、まだ全然救いのある浅い苦しみではないか。
そして、ラストの告白はちょっとあまりにも狙いすぎではないか、と感じました。着地が綺麗過ぎて、かえってわざとらしい・・・
読んだ本
西加奈子『きりこについて』
読んでいる最中
グレッグ・イーガン『祈りの海』
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