自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
主人公は、ダーリントンホールの執事スティーヴンス。彼はかつての主人ダーリントン卿を失い、新たにアメリカ人の主人ファラディ氏を迎えることとなります。ファラディ氏はジョークが好きなアメリカ人だったため、スティーブンスは戸惑いました。そんなある日のこと、主人に勧められ、イギリス西岸のクリーヴトンへと出掛けます。旧友ミス・ケントンと再会し、再び彼女とともにダーリントンホールを運営できたら嬉しい、と彼は考えたからです。小旅行の最中、美しいイギリスの田園風景に触発されるためかスティーブンスは回想ばかりを繰り返します・・・
イギリスというもの自体を描いた小説のようです。
小説は、執事スティーブンスのしっとりとした語りで進んでいきます。その語り口がまたいいのですが、彼が書きたくないと思っていることは注意深く取り除かれています(たとえば、ミス・ケントンへの恋情とか)。つまり、大切なことは書かれていないわけです。そこが奥深いです。
スティーブンスは品格ある執事であり続けるためにミス・ケントンに近寄ろうとはしません。ほとんどつっけんどんといってもいいような態度をとるわけです。2人は互いのことを想っているのに決して向き合うことは出来ません。あまりにも哀しくて胸を抉られます。
そして、スティーブンスとその主人ダーリントン卿は、時代の荒波にのまれていきます。
ダーリントン卿は騎士道精神に則った人間であろうとし続けたためにナチスドイツに操られ、スティーブンスは品格ある執事であり続けようとしたためにそれを助けることになってしまいます。あまりにも痛々しいです。ただただ誠実に、立派に生きようとすることで失われていくものがどれほど多いか、と考えさせられます。
でも、執事スティーブンスは決して惨めではない、と感じます。彼の生き方は間違っていたけれど、それでも立派だったのではないか。
ブッカー賞受賞作。
読んだ本
カズオ・イシグロ『日の名残り』
読んでいる最中
ロバート・J・ソウヤー『さよならダイノサウルス』
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