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自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
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★★★

著者:  玄月
出版社: 文藝春秋

  『蔭の棲みか』は玄月の短編集。『蔭の棲みか』『おっぱい』収録。

  『蔭の棲みか』
  主人公は、「枯れた」老人、ソバン。彼は、かつての戦争で機銃掃射を浴びたため右手首から先を失っていました。その彼の手と彼の存在はバラックの集まる集落では一種の伝説と化しています。ですが、老人自身はかつて息子に「なぜ日本軍人だったのか」と非難され、その上息子が学生運動に参加して死に、さらに妻も事故で失ってから無為の日々を過ごしていました。近頃では、ボランティアとして独居老人の訪問を行っている主婦・佐伯さんの訪問だけが楽しみとなっていたのですが・・・

  『おっぱい』
  完全に切れてしまったようでどこかつながっている祐司、由子夫婦のもとに、康先生と彼の盲目の娘、美花が訪ねてきます。彼らのつきあいはどこかぎくしゃくとしているのですが・・・

  『舞台役者の孤独』
  最も読みづらいです。勝手に物語を妄想する青年、望が主人公。彼は父母や弟を失い、さらには養ってもらっていた伯父叔母を失う中で、死というものを上手に認識できなくなっていました。けれど弟の死を忘れることはないように、公園の滑り台のところにきて、韓国教会の十字架の影を眺めていたのですが・・・

  どの短編にも在日韓国人や不法滞在者の人たちが登場します。作者、玄月自身も在日韓国人だそうです。小説は独特の暗い雰囲気を持っています。

  収録されている3つの物語をどのように解釈すれば良いのか、考えてしまいます。在日韓国人の歴史そのものを背負っているかのような老人、ソバンは最終的に、「単一民族国家」日本を守ろうとする官憲に噛み付きます。それは、過去を清算するための攻撃だとは思えません。もしもそうだとしたら誰も救われない。無邪気な「単一民族国家」という考えに対する反抗ではないか。

  『おっぱい』は、第121回芥川賞候補作。『舞台役者の孤独』は第8回小谷剛文学賞受賞作。『蔭の棲みか』は第122回芥川賞受賞作。


自森人読書 蔭の棲みか
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