自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
加藤周一は、日本文学の歴史を追い、そして、文学者たちの思想や、あり方を明快に分析していきます。「近代文学」に偏ることはありません。その知識の幅広さには、感心させられます。しかも、文章が非常に良いです。明快なのに、その内部は入り組んでいます。簡素なのに、しかも、包括的なのです。惹き込まれていきます。
「第十章 第四の転換期 下」では、まず吉田松陰が扱われます。「吉田松陰の思想には独創性がなく、計画には現実性がなかった」にも関わらず、吉田松陰は詩人だったが故に、周囲の若者たちに理想を吹き込みます。
その後、福沢諭吉と中江兆民が扱われます。徹底した「西洋化」を目指した福沢諭吉は、その良さと同時に、悪さもを取り込み、一方では体に染み付いた漢籍を活かした文体を生みだしたのだそうです。彼は、自立を訴え、政府を遠くから支持しました。一方、中江兆民は自由民権のために闘います。彼の視野の広さは素晴らしいです。
そういうふうにして、様々な人物が扱われていくのですが、文章は全く乱れません。加藤周一の頭脳は、辞書のようです。しかも、読み物としても面白いです。
『日本文学史序説』を読んでいると、日本文学の歴史が分かります。
全く別の視点を用意することも可能ではあるし、特定の部分に関して反論することはできるかも知れません。しかし、加藤周一の幅広さには敵わない気がします。
読んだ本
加藤周一『日本文学史序説〈下〉』
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