自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
雪沼とその周辺に生きる人たちの姿を描き出した連作短編集。『スタンス・ドット』『イラクサの庭』『河岸段丘』『送り火』『レンガを積む』『ピラニア』『緩斜面』収録。それぞれの物語は微妙にリンクし合っています。
『スタンス・ドット』が最も印象的でした。その日限りでボウリング場を閉める老人と、そこにトイレを借りるため偶然入ってきた男女の物語。
日常の一場面を静かに切り取った短編ばかりが集められています。全体的に何もないようでいて温かいです。
だけど、どこかに寂しさも併せ持っているような気がしました。登場人物に年を取った人が多いためかも知れない。多くのものを失い、深い悲しみや暗がりを抱えてそれでも生きていく彼らの心情がにじみ出ているのではないか。そうではなくて、彼らだけでなくて雪沼という町自体が世間の喧騒に取り込まれなかった代わりに、ぽつんと取り残されてしまったのかも知れない。
「雪沼」というくらいだから、雪が降ってくるのかと思いきや、回想のシーンにしか登場しません。雪のことを思うと、どれだけのことが書かれていないのか、この物語の中に収まりきらないものがどれほどあるのか、ということを考えてしまいます。巧いというしかないです。
非常に上品な小説。
『スタンス・ドット』は、第29回川端康成文学賞受賞。『雪沼とその周辺』は、第40回谷崎潤一郎賞・第8回木山捷平文学賞受賞。
今日読んだ本
堀江敏幸『雪沼とその周辺』
今読んでいる本
玄月『蔭の棲みか』
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