自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
武田泰淳は、著者・司馬遷に思いを馳せながら、『史記』を丹念に考察していきます。司馬遷は古代中国の歴史家。宮刑(去勢)に処された後、憤りながら『史記』を記しました。武田泰淳は、『史記』の構成に司馬遷の思いが込められていると推測します。文学的に読み解いていくわけです。しかし、そういった読み方は無味乾燥な学術的な分析よりも正確なのではないか、と感じます。
名著。
『司馬遷-史記の世界』を読むと、『史記』という作品のことがよくわかります。著者は細部にこだわりながらも、作品を全体的かつ総合的に把握していきます。
独特の言い回しもありますが、そういった言葉が逆に『史記』を明らかにしています。『史記』の根幹に全体的持続がある、という説明は非常に面白いです。誰もが持続を志向しながら非持続的にならざるをえず、転換、あるいは断絶していくが、全体としてみれば持続がある、と武田泰淳は示します。
ポー『ユリイカ』の影響が随所に表れています。武田泰淳の根源には『ユリイカ』があると安藤礼二は指摘していましたが、その理由がよくわかりました。
武田泰淳は司馬遷に自分を重ね合わせていた、というのが通説のようですが、わからないでもないです。司馬遷は、屈辱的で、無力な位置に置かれながら記録することによって、世界全体を把握してこうとします。そういった望みは文学者の多くが持っている気がします。
読んだ本
武田泰淳『司馬遷-史記の世界』
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