自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
下村湖人は、孔子の言行を記した『論語』を現代的に読み直していき、『論語』を基にした短い物語を書きました。その物語を多数収録したのが『論語物語』。基本的には平易です。だから読みやすいです。そして、孔子の弟子たちが、現世的な欲を捨てることができない人間なので、面白いです。孔子も超人ではなく、人間のようです。
『論語』を平易に読み解いた書。
孔子は一生不遇でした。理想の政治を行うことができず、弟子とともに、各地を放浪し続けました。しかし、後世、孔子の思想は中国の基本として、体制からも、民間の人たちからも大切にされていきます。孔子は、イエス・キリストのようです。しかし、下村湖人は孔子を最も徳がある優れた人物として取り上げますが、絶対視しません。そのあたりが面白いです。
ハンセン病の伯牛と、彼を見舞う孔子のことをつづった物語がとくに印象的です。孔子はイエスのように病人を触るだけで治すことはできません。死んでいく弟子に対して、天命に従って、道とともにあれ、と説くのみです。受け入れがたい現実というものが眼前に現れた時、自分ならばどうするかと考えてしまいます。
『論語』という古典を自分の血肉にしていくことを下村湖人は目指したようです。そして、厳密な意味にこだわるのではなく、その精神に迫っていこうとします。
そのためには『論語』の原文を読解することが必要です。しかし、容易なことではありません。原文は簡潔なので、多くの解釈が生まれました。その中から、どの解釈を選択するか、ということは孔子の形、『論語』という書物をつくる、ということです。読むという行為は非常に創造的だ、と改めて感じました。
読んだ本
下村湖人『論語物語』
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