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自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
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★★★★

著者:  伊藤計劃
出版社: 早川書房

  主に英語圏で発生した争乱の中で核兵器は拡散して各地で使用され、結果として人類は壊滅的な損害を受けました。「大災禍」と呼ばれるその世界的大混乱の後、人間は人間を人材リソースとして絶対視し、各個人にWatchMeを埋め込んで監視することにします。病は撲滅され、若くして死ぬ人間もいなくなり、太った人もやせた人もいなくなりました。そして優しさが蔓延、人々は互いに思いやることを強制されます・・・ 「ユートピア」の実現でした。ですが、そのような社会に対して憎しみを抱く少女・御冷ミァハはデッドメディアに浸ります。そして、ある日彼女はキアンと霧慧トァンとともに自殺を図りますが自身だけが死亡。生き残ってしまったトァンはWHOの人間となって戦地に赴き、煙草や酒に浸るのですが・・・

  『虐殺器官』の続編として読むことも可能。「わたし」の死を扱った作品。

  HTMLを意識したような文体/文章がかっこいいです。そういえば、『涼宮ハルヒ』の引用や、舞城王太郎作品の題名が出てきて少し笑いました。

  作中では、健康な状態を絶対視する社会体制と生命主義というイデオロギーが個人を抹消していくわけですが、他人事とは思えません。現実世界においても同じことが起こっているということもできるのかなぁ、と感じます。

  独善的/独裁的なシステムを正当化するものになってしまったかつての社会主義にしろ、人間や命さえも金銭で交換可能なものに落とし込もうとしている資本主義にしろ、人を幸せにするために創られたあらゆる思想(たとえ優れたものであったとしても)は、巨大なシステムの運用のために利用される中で、個人を消し去る危ないものへと変貌せざるを得ないのかなぁ、と感じました。

  最終的に、物語は反転し、「わたし」の消滅の場面にまで到達してしまいます。そうして完璧なハーモニーが生まれるわけですが、「わたし」というものは近代以降に生まれた「発明品」的なものなのかも知れないけど、なくなるとなったら大異変だろうなぁ、と感じます。それは進化といえるのかいまいち分からなかったです。

  伊藤計劃の遺作。第40回星雲賞日本長編部門、日本SF大賞受賞作。


自森人読書 ハーモニー
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