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自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
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★★★★

著者:  多和田葉子
出版社: 青土社

  あなたの旅行記。『第1輪 パリへ』『第2輪 グラーツへ』『第3輪 ザグレブへ』『第4輪 ベオグラードへ』『第5輪 北京へ』『第6輪 イルクーツクへ』『第7輪 ハバロフスクへ』『第8輪 ウィーンへ』『第9輪 バーゼルへ』『第10輪 ハンブルグへ』『第11輪 アムステルダムへ』『第12輪 ボンベイへ』『第13輪 どこでもない町へ』収録。

  最初は、ある程度普通っぽいのですが、じょじょに幻想的な雰囲気になってきます。夢が入り混じってくるような感じ。けど、ホラーというわけではありません。全体的には静かな雰囲気が漂っているし、とぼけた味わいがあります。『容疑者の夜行列車』というタイトルは少し不穏ですが、中身はもう少し落ち着いたような感じがしました。

  『第5輪 北京へ』に登場する学生が印象的でした。疑心暗鬼に陥る私を裏切らない人。

  明確な目的もなく、ただ夜行列車に乗るあなた。日常と非日常の狭間を揺れるあなたはいったいどこへ向かおうとしているのか。

  夜行列車での旅を、人生の比喩と捉えるのはたぶんめちゃくちゃで陳腐すぎる、とは思いますが、やっぱり人生に似ているような気がしました。みんな自分の人生を普通のものと思っているだろうけど、本当は普通なんてことはないのではないか。それを非常に面白い形で表したのが『容疑者の夜行列車』ではないか。読んでいると、目的のない曖昧模糊とした妙に不可思議な旅を楽しめます。

  第14回伊藤整文学賞、第38回谷崎潤一郎賞受賞作。


自森人読書 容疑者の夜行列車
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