自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
私は、半ばは研究を目的として、そして半ばは判然としない理由でイギリスとベルギーを行き来していました。1967年、アントワープ駅で、駅を観察し、メモをとっているアウステルリッツと出会います。そして、建築に関する話題をかわします。その後、会うこともなくなるのですが、1996年にアウステルリッツと再会します。そして、アウステルリッツの物語を聞くことになります。彼は15歳までウェールズの牧師のもとで育てられたのですが、実はアウステルリッツという姓だと教師から告げられ、自分を探すたびに出て・・・
ドイツ語の小説。
旅行記のようなエッセイのような小説のような、不思議な散文です。堀江敏幸を連想しました。しかも、各所に本文と関連した写真や図版が挟まれています。不思議な雰囲気を醸しだしています。
アウステルリッツは建築史を纏められず、文章を一行だって書くことが出来なくなり、論理を追求するのが欺瞞に思えてきてしまいます。文をみていてもほどけてしまうのです。そして、「綴じた紙もばらの紙も、メモ9用箋も、メモノートも、書類綴じも、講義録も、私の文字という文字の書かれている一切合財をなにもかもひっくるめて家から運び出し、庭の奥のコンポストの山にぶちまけて、その上から厚く枯れ葉をかぶせ、土をかけて」しまいます。それは、19世紀までの建築だけを考え、自分の生まれを忘れようとしていたから起こってしまったようです。
しかし、その自己欺瞞に気づき、過去を見つめると意外な事実がわかってきます。彼の生まれ故郷はチェコ。5歳のとき、彼はナチスによるユダヤ人狩りを恐れた親によって列車に乗せられ、ウェールズへと送られました。そして、その地で名前と出自と故郷と言葉を失ったまま生きることになります。そういったことが少しずつ沈鬱な文体で語られていきます。
ホロコーストの問題を扱っています。アウステルリッツは救いがたい事態に直面し、ヴォネガットと同じように線形ではない時間というものに目を向けるようになります。それが印象的でした。最後の辺りでは図書館のことが綴られます。過去へ目を向けなくなる世界に対して疑問を呈しているみたいです。蓄積は大切なのか。
「アウステルリッツ」からはアウシュビッツという単語が連想されます。しかし、アウステルリッツはアウシュビッツにたどり着くことはありません。それが不思議です。巨大建造物は最初から崩壊の陰をまとっているとアウステルリッツは指摘します。いびつな近代世界も、いつかは崩壊するのか。
読んだ本
W・G・ゼーバルト『アウステルリッツ』
読んでいる途中
椰月美智子『坂道の向こうになる海』
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