自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
主に英語圏で発生した争乱の中で核兵器は拡散して各地で使用され、結果として人類は壊滅的な損害を受けました。「大災禍」と呼ばれるその世界的大混乱の後、人間は人間を人材リソースとして絶対視し、各個人にWatchMeを埋め込んで監視することにします。病は撲滅され、若くして死ぬ人間もいなくなり、太った人もやせた人もいなくなりました。そして優しさが蔓延、人々は互いに思いやることを強制されます・・・ 「ユートピア」の実現でした。
ですが、そのような社会に対して憎しみを抱く少女・御冷ミァハはデッドメディアに浸ります。そして、ある日彼女はキアンと霧慧トァンとともに自殺を図りますが自身だけが死亡。生き残ってしまったトァンはWHOの人間となって戦地に赴き、煙草や酒に浸るのですが・・・
『虐殺器官』の続編として読むことも可能。「わたし」の死を扱った作品。
HTMLを意識したらしき文体/文章がかっこいいです。そういえば、『涼宮ハルヒ』の引用や、舞城王太郎作品の題名が出てきて少し笑いました。
健康を絶対視する社会体制が、ファシズムとなっていく様は不気味ですが他人事とは思えません。作中では生命主義というイデオロギーが個人を抹消していくわけですが現実世界においても同じことが起こっています。かつて社会主義はファシズムへ陥りました。現在、資本主義は人間や命さえも、金銭で交換可能なものに落とし込もうとしています。
あらゆる思想(たとえ優れたものであったとしても)は、巨大なシステムへと発展する中で個人を消し去るものへと変貌せざるを得ないのではないか、と感じました。
最終的に、物語は「わたし」の消滅の場面にまで到達してしまいます。その「わたし」というものは、ある程度は近代以降に生まれた「発明品」なのかも知れないけど、なくなるとなったら大異変だろうなぁ、と感じます。
伊藤計劃の遺作。第40回星雲賞日本長編部門受賞。
今日読んだ本
伊藤計劃『ハーモニー』
今読んでいる本
古井由吉『円陣を組む女たち』
ジョージ・オーウェル『パリ・ロンドン放浪記』
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