自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
フォート・イザベル癩病院に務めているエドワード・サンダーズ博士は、クレア博士夫妻から貰った手紙が検閲されていたことに不審を抱き、夫妻の住むカメルーンを訪れます。彼は奇妙な感覚に囚われます。白と黒がくっきりと分かれていて、妙に世界が薄暗いのです。サンダーズ博士はそこでジャーナリスト・ルイーズ・プレと出会い、親しくなり、彼女とともに行動します。彼らは、結晶化した植物を見つけ、右腕が結晶化した男の死体が流れてくるのを発見します。それはルイーズの知り合いでした。いったい何が起きているのか?
陰影に富んだSF小説。
対照的な白と黒のイメージがふんだんに用いられているため、まるで銅版画のようです。何もかもがくっきりとしています。どろどろした人間関係が渦巻いている上に、じっとりとして薄暗い現実世界に、華麗な結晶世界が少しずつ割り込んでくるわけです。
あまりにも壮烈で、それでいてグロテスクで美しい現象の中にあって人々は決断を迫られます。結晶化すると、その生物は死なずにその状態のまま停止します。ようするに不死性を手に入れられるわけです。現実世界にとどまって死ぬか、それとも結晶世界にとりこまれるか?
とはいえ、全体としては淡々としていて哲学的です。妙にしっとりとしています。宇宙がじょじょに結晶化していくというのに、主人公サンダーズはそれをどうすることもできずにただ受け止めます。そして不倫相手であるスザンヌ・クレアと彼女の面影を感じさせるルイーズ・プレの間を行き来します。
瑕疵がないわけではありません。微妙に差別的な部分もあるのではないか。しかし、引き込まれます。
綺麗にまとまっている美しい物語です。
読んだ本
J・G・バラード『結晶世界』
読んでいる最中
ジョン・アーヴィング『ガープの世界 下巻』
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