自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
★★★★★
著者: ジョン・アーヴィング
出版社: 新潮社
T・S・ガープという男の物語。
看護師ジェニー・フィールズは、欲望というものを理解しない女性でした。彼女は、子供は欲しいけど、夫は欲しくないと感じており、純粋に子どもをつくるためだけにセックスしようと考えていました。ある日、戦場で障害を負い、ガープという単語しか発することの出来ない子どものようなガープ三等曹長と出会います。ジェニーは、チャンスだと思い、彼を看護している最中に勝手にセックスしてしまいます。そしてガープを産みます。その後、ジェニーのもとでガープは成長していき、レスリングに精を出し、セックスに対しても関心を持ち始め、そして小説を書くことにも興味を示し・・・
長大な小説(上下)。
様々なエピソードが、平易な文体でテンポよく綴られていきます。死や暴力、レイプ、不倫、フェミニズム運動といった世間では重大とされていることも、ばかげたことも同じように並べられ、綴られていきます。非常に面白いのですが、奇妙な気分に陥ります。コミックみたい、というか。クシャッとまるめてしまえそう、というか。悲しいときでも軽快なのです。
真面目な場面でも滑稽な事態が発生します。たとえば、主人公はある理由のために女装して母親の葬式に出席することになるのですが結局のところばれて叩き出されます。全てがコメディとして回収されていきます。大真面目な軽薄さ/陽気さが感じられます。それなのに笑えません。なんというか少し哀しくて苦い気分になるからです。著者はカート・ヴォネガットに師事したことがあるそうですが、いかにもヴォネガットっぽい。
そして、著者はディケンズを尊敬する、とも言っているそうですが、似ているかも知れません。ストーリーは流れるように進み、魅力的で特徴的な、一癖あるキャラクターが次から次へと登場します。
とくに、ガープの母親ジェニー・フィールズは物凄いです。彼女は欲望を理解せず、聖母の如く父親の存在しない子を産み、その後その経緯を綴った「性の容疑者」という本を出版し、「女性運動家」として尊敬されるようになります。そして、看護婦として誰に対しても温かく接し、様々な人間を引き寄せるのに「女性運動家」というレッテルに違和感を覚えています。本当に奇妙な人ですが魅力的です。他にも同じように一風変わった人たちが現れます。
グロテスクで物悲しい小説内小説『ペンション・グリルパルツァー』がなかなかに良いです。熊や、異形な者たちが登場。ジョン・アーヴィングの小説はやたらとフリークスで満ちていて現実離れしているように思えるけど、それは健全/マッチョであることが前提とされている現実社会(というか、アメリカ?)の奇妙さをあらわにするための仕掛けなのかも知れない、と考えたりもしました。
とくに素晴らしいのはエピローグ。なんというか、物語を読み終えた、という気分にさせてくれます。
自森人読書 ガープの世界
著者: ジョン・アーヴィング
出版社: 新潮社
T・S・ガープという男の物語。
看護師ジェニー・フィールズは、欲望というものを理解しない女性でした。彼女は、子供は欲しいけど、夫は欲しくないと感じており、純粋に子どもをつくるためだけにセックスしようと考えていました。ある日、戦場で障害を負い、ガープという単語しか発することの出来ない子どものようなガープ三等曹長と出会います。ジェニーは、チャンスだと思い、彼を看護している最中に勝手にセックスしてしまいます。そしてガープを産みます。その後、ジェニーのもとでガープは成長していき、レスリングに精を出し、セックスに対しても関心を持ち始め、そして小説を書くことにも興味を示し・・・
長大な小説(上下)。
様々なエピソードが、平易な文体でテンポよく綴られていきます。死や暴力、レイプ、不倫、フェミニズム運動といった世間では重大とされていることも、ばかげたことも同じように並べられ、綴られていきます。非常に面白いのですが、奇妙な気分に陥ります。コミックみたい、というか。クシャッとまるめてしまえそう、というか。悲しいときでも軽快なのです。
真面目な場面でも滑稽な事態が発生します。たとえば、主人公はある理由のために女装して母親の葬式に出席することになるのですが結局のところばれて叩き出されます。全てがコメディとして回収されていきます。大真面目な軽薄さ/陽気さが感じられます。それなのに笑えません。なんというか少し哀しくて苦い気分になるからです。著者はカート・ヴォネガットに師事したことがあるそうですが、いかにもヴォネガットっぽい。
そして、著者はディケンズを尊敬する、とも言っているそうですが、似ているかも知れません。ストーリーは流れるように進み、魅力的で特徴的な、一癖あるキャラクターが次から次へと登場します。
とくに、ガープの母親ジェニー・フィールズは物凄いです。彼女は欲望を理解せず、聖母の如く父親の存在しない子を産み、その後その経緯を綴った「性の容疑者」という本を出版し、「女性運動家」として尊敬されるようになります。そして、看護婦として誰に対しても温かく接し、様々な人間を引き寄せるのに「女性運動家」というレッテルに違和感を覚えています。本当に奇妙な人ですが魅力的です。他にも同じように一風変わった人たちが現れます。
グロテスクで物悲しい小説内小説『ペンション・グリルパルツァー』がなかなかに良いです。熊や、異形な者たちが登場。ジョン・アーヴィングの小説はやたらとフリークスで満ちていて現実離れしているように思えるけど、それは健全/マッチョであることが前提とされている現実社会(というか、アメリカ?)の奇妙さをあらわにするための仕掛けなのかも知れない、と考えたりもしました。
とくに素晴らしいのはエピローグ。なんというか、物語を読み終えた、という気分にさせてくれます。
自森人読書 ガープの世界
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