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自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
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★★★

著者:  青来有一
出版社: 新潮社

  「釘」「石」「虫」「蜜」「貝」「鳥」といった短編で構成されています。谷崎潤一郎賞受賞作じゃなかったら、多分一生手に取ることはなかっただろう作品。

  長崎(平戸等)に生きる人々と、その地に投下された原爆を巡る物語。文章は決して難解ではありません。むしろさらさらして読みやすい部類に入ると思うのですが、中身はかなり難しいです。どういうふうに受け取れば良いのか悩みます。

  テーマのひとつは、「信仰」。

  原爆が投下されてしまって、それでもまだ神を信じられるのか? 原爆が落ちた瞬間に神は死んだのではないか? そう問う作中の人物もいます。しかし彼らは、それでも信仰を捨てはしません。「神様は原爆投下の時だけ偶然長崎から目を離していたのかも知れない、そうとしか思えない」と述懐する人がいます。ご先祖様の守ってきたキリスト教を捨てるなんて考えられない、と言う人もいます。

  長崎には、古くからキリスト教信仰が存在していました。江戸時代には激しい弾圧を受けたこともあります。火炙りになりながら信仰を守った人も多いのです。だから、その伝統を引き継ぐんだ、というわけですが・・・

  でも原爆が投下されて、それでもやっぱりまだ信じられるの? 神がいると断言できるか? 難しい問いです。

  あと、「せっくす」もテーマなのではないか。「石」の語り手は知恵遅れの中年の男なのですが、彼は露骨というか純粋にセックスを望みます。欲望というのは何か。欲望をただ追いかければ、世間から外れてしまうのだけど、そこでどう折り合いをつけるのか。狂気や精神病もかなりでてきます。

  そういういろんな要素が絡まりあって、かなり悩ませられる小説になっています。ですが文章と、その文章によって生まれている風景は美しいから、かなり複雑です。美しい自然の中に眠る人の暗闇を描いた小説と読めば良いのかなぁ・・・

  第43回谷崎潤一郎賞受賞作。


自森人読書 爆心
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