自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
物語の語り手はアントワーヌ。彼は甥のヌヴェールから送られてきた様々な(矛盾する部分もある)手紙を引用しつつ、ヌヴェールのことを綴っていきます。ヌヴェールは親族や女性との関係がこじれ、流刑地である悪魔島に刑務官として送られました。彼は何もかもがよく分からないまま島で動き回っているということが、手紙から伝わってきます。そして、手紙だけでなく、それに呼応した他人の手紙や書類、様々な書物からの引用、2つの刊行者注が混ざり合っています。
1945年に発表されたカサーレスの小説。
認識に関する問題を扱っているようです。語り手は信用できません。しかも送られてきたヌヴェールの手紙も真実だけが綴られているのかよく分かりません。それ以前に、ヌヴェールは状況を把握できていません。だから、混乱します。
何がなんだか分からないというわけではないのですが、何が真実か、現実か定かではないのです。
ミステリのような、一種のオチもあります。オチもまた人間の認識に関する問題とからんできます。その部分はSFのようです。目新しいわけではないけれど、やはり驚かされるし、世界が本当にこのような姿をしているのか考えさせられます。
もしかしたら、全てがヌヴェールの妄想かもしれないけど・・・
カサーレスは、ボルヘスに見出され、彼とともに活躍したそうです。アルゼンチンには面白い小説家がたくさんいるみたいだし、もっと読んでみたいと感じます。
読んだ本
アドルフォ・ビオイ・カサーレス『脱獄計画』
読んでいる本
中西宏次『戦争のなかの京都』
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