自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
三十年前、わたしが住んでいた町で、サンティアゴ・ナサールが惨殺されました。犯人は、善人として知られていたビカリオ兄弟。彼らは、処女でなかったことが発覚したため結婚式の数時間後に夫バヤルドに追い返されてしまった妹アンヘラ・ビカリオの名誉を守るため立ち上がったのです。とはいえ、兄弟は迷い、誰かにとめてもらうためナサールの殺害を多くの人に向かって予告していました。にも関わらず、誰にも止められることなく、犯罪を実行されてしまいました。わたしは、事件の前後に起こったことを調べ、整理し、再構成していきます。なぜ犯罪は起こってしまったのか?
中篇小説。
ルポタージュのよう。実際に起こった殺人事件を基にしているそうです。とはいえ、小説として面白いです。とくに優れているのは構成。とにかく緻密。分解された断片が組み合わさると事件の全容がみえてきます。
「偶然」が山のように積み重なり、事件は起きてしまったのだということが分かります。サンティアゴは殺される運命だった、としか思えません。しかし、それは本当に偶然だったのか。村の人々は、事件をとめなかったのではなく、密かに望んでいたのでは?
事件が起こったため、外部から現れた近代的な異邦人バヤルド・サン・ロマンは犠牲になってしまいます。彼は、洗練された身のこなしと強引さを併せもったお坊ちゃまでしたが、アンヘラに求婚したものの結婚式の数時間後に処女ではないと知って追い返してしまい、全てを失います。
殺されたサンティアゴは、アラブ人。彼もまた町という共同体からは少しはなれたあぶれ者。バヤルドもサンティアゴも、共同体によって弾かれたということが出来るのかも。
一方、ビカリオ兄弟は復讐を遂げたために男と褒め称えられて名をあげ、アンヘラは名誉を手に入れます。しかも、アンヘラはその後、町をはなれ、自由と愛を手に入れます。彼らにとって、事件は悲劇ではないのかも。
新潮社。
読んだ本
G・ガルシア=マルケス『予告された殺人の記録』
読んでいる最中
レイ・ブラッドベリ『塵よりよみがえり』
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