武田泰淳は、著者・司馬遷に思いを馳せながら、『史記』を丹念に考察していきます。司馬遷は古代中国の歴史家。宮刑(去勢)に処された後、憤りながら『史記』を記しました。武田泰淳は、『史記』の構成に司馬遷の思いが込められていると推測します。文学的に読み解いていくわけです。しかし、そういった読み方は無味乾燥な学術的な分析よりも正確なのではないか、と感じます。
名著。
『司馬遷-史記の世界』を読むと、『史記』という作品のことがよくわかります。著者は細部にこだわりながらも、作品を全体的かつ総合的に把握していきます。
独特の言い回しもありますが、そういった言葉が逆に『史記』を明らかにしています。『史記』の根幹に全体的持続がある、という説明は非常に面白いです。誰もが持続を志向しながら非持続的にならざるをえず、転換、あるいは断絶していくが、全体としてみれば持続がある、と武田泰淳は示します。
ポー『ユリイカ』の影響が随所に表れています。武田泰淳の根源には『ユリイカ』があると安藤礼二は指摘していましたが、その理由がよくわかりました。
武田泰淳は司馬遷に自分を重ね合わせていた、というのが通説のようですが、わからないでもないです。司馬遷は、屈辱的で、無力な位置に置かれながら記録することによって、世界全体を把握してこうとします。そういった望みは文学者の多くが持っている気がします。
読んだ本
武田泰淳『司馬遷-史記の世界』
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漢文素読に必要とされる知識が詰まっています。簡潔に重要なことが示されているため、非常にわかりやすいです。基本的な単語と故事成語が数多くのっているので、辞典として使うこともできます。とりあえず、一通り読んでおくと勉強になります。
漢文を学ぶための入門書。
読んでいて、漢文を素読することができたら楽しいだろう、と思いました。漢文を読むことができれば、大昔の人たちが考えていたことを推測できるようになるのです。結構、解釈するのが難しいようですが。
漢文を本当に読むことができるようになるためには、実際に漢文を読んでみることがとても大切だと感じました。とりあえず、いろいろな本に触れてみようと思います。
読んだ本
吹野安、小笠原博慧『漢文の語法と故事成語』
円城塔の短編集。『Boy’s Surface』『Goldberg Invariant』『Your Heads Only』『Gernsback Intersection』収録。全くまとめることはできないのですが、けっこう愉快で意味不明な小説です。
絡み合いながらどうにも並行的と呼ぶしかない世界たちを道に飛び出した猫みたいに組み立てていく文章、あるいは人間の頭脳内における世界の再構築に関する考察ではなく、旋回する世紀に関して。または、内包されている物語と登場人物に対する言及とそこから始まる恋愛の展開を見つめる視点の複合化。そして、花嫁の侵攻と防衛。というような感じ、か。適当だけど・・・
奇怪なSF小説。
再度読んでみると結構楽しいです。文章の粗さは気になりますが。
読んだ本
円城塔『Boy’s Surface』(再読)
著者は、マルクスとカントを結び付けて、ヘーゲルを批判します。さらに「資本=ネーション=ステート」が世界を包み込んでいる現状を拒否しつつ、国家や労働闘争では現状を崩すことができないと主張します。そして、生活協同組合と、自覚的な消費活動が現状を突破する、と結論付けます。
批評家、柄谷行人が記した書。
柄谷行人はこれまで、文学批評を行ってきましたが、同時に現実に対する評論なども書き続けてきました。その集大成と呼び得るもの、なのだと思います。
柄谷行人は、「夢想家」と呼ぶことができるかもしれません。しかし、詐欺師でもあるのではないか、と感じないでもないです。到達することができない理想の世界を描き出していくその力量はすぐれていますが、道程は指し示していません。
しかし、哲学者は基本的に誰でも詐欺師だということもできます。しかし、柄谷行人はとくに徹底した、慎みのない詐欺師のような気がしないでもないです。
そもそも、主張自体に矛盾があります。あらゆる資本主義批判に共通することではありますが、資本主義を批判する本を出版して、結局、儲けているわけです。そして、世界同時革命というようなことを書きながら、具体的な行動を起こすわけではありません。批評家・哲学者としての個人的な評価を高めるのみです。
簡潔にまとめてしまうのであれば、「到達することができない世界」を述べることによって、柄谷行人は現世的な栄誉と富を得ているわけです。結構、滑稽な状態ではあります。まぁ、現状をただ単に追認する人間より、はるかに立派ではないか、と思わないでもないのですが・・・
読んだ本
柄谷行人『世界史の構造』
『光の曼陀羅 日本文学論』
著者は、折口信夫を中心にして、日本の際立った文学者を紹介していきます。作品のみではなく、作家とその作家たちの関係から文学をみていく部分が面白いです。
歌人でもあった中井英夫が、折口信夫のことを評価していた、ということを初めて知りました。中井英夫は『虚無への供物』の著者として知られていますが、一方では、多くの前衛的な詩人を世の中に出していきました。その詩人の系譜が、折口信夫から始まる、と読み解く著者の視点は非常に面白いです。
それから、南方熊楠という人のことも『光の曼陀羅』を読んで初めてなんとなくわかったような気がしました。単なる科学者というわけではなく、世界をどう見るかということを宗教的に考えていた人だったのか・・・
折口信夫は男色を好んだそうですが、そこには深遠な理由があるのだということを読んでいるとわかります。それにしても、文学者、哲学者の中には、けっこう同性愛者がいるような気もします。フーコーも同性愛者だったそうです。プラトンから始まるのか・・・
第3回大江健三郎賞受賞作。
『死者の書・身毒丸』
折口信夫の小説。非常に読みづらいです。しかし、読んでみるとわからないわけでもありません。結構、面白いです。ただし、とりあえず、解説を読んでから、読んだほうが良いかもしれない、とは思います。
エジプトの神話をもってきて、その上に穆天子の伝説を振り掛けて、さらに物語の舞台を日本の古代にしたものが、折口信夫の『死者の書』です。
擬音語などの使い方がすごいです。奇妙な小説だと感じます。
読んだ本
安藤礼二『光の曼陀羅 日本文学論』
折口信夫『死者の書・身毒丸』
憲法フェスティバルの軌跡をつづった書籍。一九八七年、憲法をいろんな人に知ってもらい、憲法の意義を考えてもらうために憲法フェスティバルは始まったそうです。初回から多くの人が参加。非常に面白いものになったそうです。
いただいた本をやっと読むことができました。非常に面白かったです。
憲法フェスティバルをつくっていく時に行われたという議論は、自由の森学園の行事を作っていく時に行われている議論とも似通っている部分がある気がしました。憲法フェスティバルは人員を動員するのではなく、「市民が自発的に集う」ことを大切にしながらこれまで続けてきたそうです。
いろんな人が自発的に関わることができる祭りはどうしたら作ることができるのか、という問いは本当に難しいです。
読んだ本
憲法フェスティバル実行委員会『憲法くん出番ですよ』
『文芸誤報』は、『週刊朝日』に連載されていた記事をまとめて単行本化したもの。多くの書評が掲載されています。斎藤美奈子の文章は非常に鋭くて、小気味良いです。しかも、作品との距離の取り方も巧みです。だから、納得できます。
斎藤美奈子はいろんな方法を用いて、作品の良さ、悪さを抉り出していきます。側面から作品を笑い飛ばすこともあるし、ほめて落とすこともあるし、微妙にほめることもあります。見習いたいとは思いますが、難しいかも知れません。高度なテクニックだから・・・
石田衣良「美丘」や、水野敬也「夢をかなえるゾウ」をスパッと切り捨てていきます。爽快です。読みたい本がさらに増えてしまいました。困ってしまいます・・・
読んだ本
斎藤美奈子『文芸誤報』
女性が殺害され、焼却される事件が発生。幼馴染を殺され、後追い自殺を図った高校生、甘祢山紫郎は音宮美夜に出会います。そして、彼女とともに事件解決を目指します。音宮美夜は共感覚を持っています。音を視覚的に捉えることができるのです。二人は、犯人フレイムを追いつめられるのか・・・
ミステリ小説。
メフィスト賞らしい作品といえるかも知れません。陳腐な設定は多いです。しかし、動機がとにかく衝撃的。
共感覚というものを物語の中に巧みに組み入れていく点は面白いです。しかし、全体的には陳腐です。面白いアイディアと典型的なミステリ的展開が組み合わされているわけです。だからこそ、メフィスト賞を受賞したのかも知れません。
第43回メフィスト賞受賞作。
読んだ本
天祢涼『キョウカンカク』
留置所にいれられている私が語ります。私は高校最後の夏の終わりごろに裏山で「セミ」と出会います。彼女は首を吊ろうとしていました。私は止めることができず、何となくイルカの物語を語ります。すると彼女は私のことを「イルカ」と名付けました。その後、彼女とともに一週間、ともに過ごすのですが・・・
よく練られています。文章も悪くはありません。最後まで丹念に綴られています。しかし、メフィスト賞を受賞した割には小粒です。投げ捨てたくなるような表現や展開は見つからないのです。だから、読んでいても面白くありません。
村上春樹の影響が強く感じられると指摘する人もいるようですが、的確だと思います。セリフなどがいちいちくさいのです・・・
第42回メフィスト賞受賞作。
読んだ本
白河三兎『プールの底に眠る』
レポートを書くために、参考文献として利用した本。
宇野直人、江原正士『李白 巨大なる野放図』平凡社。対談形式なので、非常に読みやすかったです。
李白という人のことがよくわかります。一生放浪し続けた自由奔放な詩人、ということになっていますが、やはり悩みも多かったようです。苦悩しない人間は、世の中にいないとは思いますが。
宇野直人、江原正士『杜甫 偉大なる憂鬱』平凡社。こちらも、対談形式なので、非常に読みやすかったです。杜甫の漢詩は、それなりに当時の中国の社会状況を知っていないと楽しめない、という指摘は、なるほどと思いました。
鈴木修次『杜甫』清水書院。
読んだ本
宇野直人、江原正士『李白 巨大なる野放図』
宇野直人、江原正士『杜甫 偉大なる憂鬱』
鈴木修次『杜甫』清水書院
宇野直人、江原正士『李白 巨大なる野放図』平凡社。対談形式なので、非常に読みやすかったです。
李白という人のことがよくわかります。一生放浪し続けた自由奔放な詩人、ということになっていますが、やはり悩みも多かったようです。苦悩しない人間は、世の中にいないとは思いますが。
宇野直人、江原正士『杜甫 偉大なる憂鬱』平凡社。こちらも、対談形式なので、非常に読みやすかったです。杜甫の漢詩は、それなりに当時の中国の社会状況を知っていないと楽しめない、という指摘は、なるほどと思いました。
鈴木修次『杜甫』清水書院。
読んだ本
宇野直人、江原正士『李白 巨大なる野放図』
宇野直人、江原正士『杜甫 偉大なる憂鬱』
鈴木修次『杜甫』清水書院
砂漠の惑星では、ハハと呼ばれる装置が荒れた大地を耕し、様々な種子を撒いていました。ハハの後ろ側には、緑があらわれました。なので、そのハハに寄生して生きるものたちもいます。そういった生き物のなかに、ニジダマもいました。ニジダマは、交易人の世話をしていたとき、憧れてしまい・・・
SF小説。
ここまで素朴な小説を書けてしまう人が、今でも日本にいたとは思いませんでした。非常に整っています。読んでいると、退屈になってきてしまいます。組み立てられた世界自体は面白そうだとは思いますが、想定の範囲内です。そして、人物描写も、それほどくっきりしていません。
一味二味足りないです。足りないものが多すぎて、なんとも言い難いのですが・・・
抒情的な作風で知られていると著者は自己紹介しますが、そういう感じはしません。なんというか抑えられています。あえて、なのかも知れません。
読んだ本
藤田雅矢『星の綿毛』
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