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自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
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昨日書き忘れたので。
『羊をめぐる冒険 上』『羊をめぐる冒険 下』
青春三部作最後の長編。僕と鼠と羊男をめぐる物語。多くの台詞はわざとらしくて、様々な設定は寓話的で深くて、全ての言葉が脱臼しているようにみえて、複雑に絡み合っています。意味を見出していこうと思えば、どこにでも意味を発見できます。しかし、だからこそ、難しいです。迷わされます。

小説。

細部にこだわろうとすれば、面白い題材は、幾らでも見つかります。一つひとつの言葉が、意味深長だからです。全てに何らかの寓意が込められていると信じ、作品を解読していこうとするならば、それは壮絶な作業になります。細部にとらわれていると全体が見えなくなってくる気がします。

もしかしたら、批評を無化するような働きが村上春樹の小説にはあるのではないかと感じます。詩人吉本隆明の評論のようです。村上春樹は、いつでも詩を書いているのかも知れません。そうだとするならば、各所に存在している一種の欠乏が、理解できます。

現実に近いけれど、現実には嵌まり込まない「完全にアナーキーな観念の王国」を築き上げようとしてるのは、羊ではなく、村上春樹なのではないか。


読んだ本
村上春樹『羊をめぐる冒険 上』(再読)
村上春樹『羊をめぐる冒険 下』(再読)
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くどいけど、再び・・・

署名の趣旨
   普天間基地の閉鎖・撤去を求めます
   沖縄県内への移設に反対します

詳しくは下のウェブサイトに書かれています。

普天間基地撤去を求める高校生の会http://jimorikouken.web.fc2.com/
『アラマタ大事典』
荒俣宏がつくった大事典。いろんなもののことがのっています。端から端まで読む、というようなものではないけれど、パラパラめくるのが楽しいです。ヘンテコな項目も多いです。面白いです。ダ・ヴィンチという項目があれば、ロボットという項目もあります。


読んだ本
荒俣宏『アラマタ大事典』
『日本を創った思想家たち』
著者が、日本を創った思想家だと思う人物を紹介していきます。非常に胡散臭いです。マルクス主義や保守主義という言葉を安易に用いているようです。そして、それらを説明する気配がありません。論理的ではないです。しかも、フェアではありません。一部分だけをきりとり、全体を論じることがありません。

日本の伝統を重んじるべき、というような主張を繰り返すところには、いまいち賛同できません。日本や、伝統といった言葉を、ほとんど吟味していないからです。

鷲田小彌太という人自体が信用できないし、彼は『新しい歴史教科書をつくる会』の別働隊なのではないか、と感じました。


今日読んだ本
鷲田小彌太『日本を創った思想家たち』
『幸いなるかな本を読む人』
長田弘の詩集。多くの本が意識されています。たとえば、冒頭には梶井基次郎の「檸檬」を感じさせる詩が収録されています。

タイトルがまず素晴らしい、と感じます。非常に惹かれます。本を読むということ自体を、詩にしてしまうところが良いです。ただし、様々な本を読んでいないと楽しめないかも知れません。

「21世紀へようこそ」がとくに印象に残りました。


今日読んだ本
長田弘『幸いなるかな本を読む人』
『『はらぺこあおむし』と学習権―教育基本法の改定に思う』
『『はらぺこあおむし』と学習権』は、大田堯が、教育基本法改定を受け、教育を再考していくときにどうすれば良いのかということを語ったもの。鮮やかです。全く無味乾燥ではありません。力強いイメージと、明快なキーワードが溢れています。冒頭で、まず『はらぺこあおむし』が紹介されます。そして、自己創出力という言葉に繋げられていきます。

ブックレット。

人間は機械ではないから、自分で自分をかえていくことができます。それが自己創出力です。学習権はその自己創出力に根ざしているのだという指摘は、非常に面白いです。教育は洗脳であるというような短絡的な考え方があるけれど、そうではないのだということを示してくれるところが良いです。

国家のための教育ではなく、1人ひとりの人間のための教育を追及するためにはどうすれば良いのかということを考えるとき、大切になってくる考え方とキーワードが溢れています。それが、堅い文章ではなく、絵の具のような文章で書かれています。

ブックレットだからコンパクトですぐに読めるし、本当に良いです。


読んだ本
大田堯『『はらぺこあおむし』と学習権―教育基本法の改定に思う』(再読)
『筒井康隆の文芸時評』
筒井康隆が「文藝」で行っていた文芸時評を幾つか収録したもの。筒井康隆は、小説にとって大切なのは面白さであると唱え、その考え方に則って小説を読解していきます。けっこう気軽だから読みやすいです。そして、明快です。何より、紹介されている本を読みたいと思わされます。だから良いです。

書評として、非常に面白いです。

筒井康隆は、とにかくよく読んでいます。積み重ねが大切なのだということがよく分かります。山のように小説を読まなければ、小説を語ることは出来ないのだとわかります。

時には、もう少しじっくりと一つの作品に取り組むことも必要だろうとは思いますが、これは文芸時評なのだから、このくらいの軽さであっても構わないと感じます。それに、読みは、丁寧です。ズバッといくけれど、その前に熟慮しているのだということが伝わってきます。

正当な書評がない文壇に対する非難も、満ちています。それもまた面白いです。


読んだ本
筒井康隆『筒井康隆の文芸時評』
『in our time』
1925年に刊行された短篇集『In Our Time』の中にさしはさまれている小品(ショートショートと言っても良いほど短い)を幾つか集めたのが、『in our time』。避難していく人間の群れ、闘牛、大臣の射殺などが描かれています。むだなものが完全に削ぎ落とされています。残っているのは、ザクッとした描写だけ。訳が良いです。柴田元幸訳。

ヘミングウェイの短編集。

『老人と海』は、好きではありませんでした。なんというか惹かれなかったのです。ですが、『in our time』は面白かったです。清いからです。ヘミングウェイが分かります。

書きたいことが満ち溢れていても、それらをこぼさずに書き込んでいくことはできません。訳が分からなくなってしまうからです。だから、小説家は、本当に伝えたいと思っていることだけを選び抜き、並べていきます。しかし、ヘミングウェイには書きたいことがないのではないか、と読んでいて感じます。絞っているのではなく、逆に、捻り出しているような印象を受けます。

ただし、描写自体は練り抜かれています。

作者のこだわりが隅々にまでいきわたっています。そして、それによって、徹底的に、縛り付けられています。だから、読みやすいけれど、なんだか妙に息詰まります。それが良いかなぁと感じます。


読んだ本
アーネスト・ヘミングウェイ『in our time』
『生きる わたしたちの思い』
『生きる』の発展版。インターネット上で作られた詩。mixi発だそうです。「生きているということ いま生きているということ」という言葉の後に、様々な人が言葉を連ねています。読んでいると、世の中には色々な人がいるのだなぁと感じます。

どちらかというと、もともとの詩の方が、好きな気もしますが。

『一秒の言葉』
『一秒の言葉』は、セイコーのCMのためにつくられたものだけれど、その後、様々な場所で用いられているそうです。単純だけど、だからこそ、すっと心の中に入ってきます。

そういえば、『一秒の言葉』の著者・小泉吉宏は、『ブッタとシッタカブッタ』の人だそうです。そうなのか・・・


読んだ本
谷川俊太郎with friends『生きる わたしたちの思い』
小泉吉宏『一秒の言葉』


読んでいる本
アーネスト・ヘミングウェイ『in our time』
『戦後日本は戦争をしてきた』
『戦後日本は戦争をしてきた』は、姜尚中、小森陽一の対談集。二人が、日本の平和主義を見直していきます。非常に面白いです。ただし、「グローバリゼーションの深化が、数多くの自殺者と犯罪者を生み出している」というような主張には、もう少し裏付けが欲しい気もします。分からないわけではないけれど、観念的だから、危ういのではないか。ただし、それが、『戦後日本は戦争をしてきた』の面白さでもあります。言葉に対する強いこだわりが感じられます。

二人は、言葉によって、今の日本の状態をただしていこうとします。力強いです。

テロという言葉を二人が再考していく部分は、とても面白いです。自分が発した言葉に誤りがあったのに責任をとろうとしないジャーナリズムや学者や政治家に対する批判も、小気味良いです。

「憲法は守るだけでは意味がない、生かすべきだ」という言葉は、非常に重いです。多くの人がそういうふうに語っています。しかし、なかなかに難しい気もします。それでも、守りに入っていては、展望がひらけない、とも思いました。

「現実を批判するのは現実ではない。現実を批判するのは理想なのだ。(矢内原忠雄という人が用いた言葉だそうです)」という言葉が引用されているのですが、印象に残ります。何らかの指針/理想がなければ、進んでいけません。現実主義という言葉は、よく分からない、と感じます。


読んだ本
姜尚中、小森陽一『戦後日本は戦争をしてきた』
『アインシュタインの夢』
アインシュタインは、毎日、奇妙な夢に悩まされていました。夢の中では、時間が循環し、停止し、逆行し、分岐し、目に見える次元になります。そして、同時に、空間や世界も変形します。誰もが終わりの日を知っている世界もありました。時間とはいったい何なのか。アインシュタインは悩まされますが・・・

SF小説、なのか。

読んでいると楽しくなってきます。時間というもののことが分からなくなってきます。ただし、時間が、世界そのものや、空間といったものと密接に結びついているのだということはよく分かります。

アインシュタインは、一度だけ、正しい、つまり現実と一致した法則を持つ夢を見ます。その夢が描き出している世界もまた奇妙です。なんというか、変な気分になります。


読んだ本
アラン・ライトマン『アインシュタインの夢』
『ダーシェンカ』
愛犬ダーシェンカのことをカレル・チャペックが書いています。写真なども、多くのっています。だから、ダーシェンカのかわいらしさが分かります。

ダーシェンカは大きくなっていきますが、最初はこどもです。だから落ち着きがありません。写真をとるのが、とても大変だということが書かれていますが、共感します。動き回る動物を飼っている人ならば、誰でもわかるのではないか。


読んだ本
カレル・チャペック『ダーシェンカ』

読んでいる最中
コードウェイナー・スミス『ノーストリリア』
菅浩江の短編集『雨の檻』が読み終わりました。

『カトレアの真実』
死病に罹った女のところに、カトレアの刺青をした男が現れます。

『お夏 清十郎』
日本舞踊の家元・奈月は時遡能力を持っています。彼女は、過去へ戻り、踊りを身につけるのですが・・・

『ブルー・フライト』
試験管ベビー達には、〈遺言〉が与えられています。しかし、〈遺言〉を果たせなくなったとき・・・ 菅浩江のデビュー作。


読んだ作品
菅浩江『カトレアの真実』
菅浩江『お夏 清十郎』
菅浩江『ブルー・フライト』


読んでいる最中
コードウェイナー・スミス『ノーストリリア』
『ヴィーナス・プラスX』
チャーリー・ジョンズは、銀色の空の下で目覚めます。彼はローラへの愛を忘れられません。しかし、そこは、彼が生きてきた世界とは、異なっていたし、ローラはいませんでした。周りにいるのは、奇天烈な格好をしたレダム人です。彼らは、自分たちの世界をどう思うか、率直な意見を聞かせてくれれば、もとの世界に戻す、と約束してくれたのですが・・・

1960年に発表されたSF小説。

異世界レダムの物語と、アメリカの一般的な家庭の物語が交互に綴られています。セックス/ジェンダーの問題を浮き彫りにしています。

読みすすめていくと、レダム人が築き上げた奇天烈な世界のことが、少しずつ分かってきます。その過程は楽しいです。彼ら(という言い方は間違っているけど)は、男ではないし、女でもありません。性別が存在しないのです。だから、彼らは人間の異常さを映し出す鏡になります。

最後まで、予想がつきません。意外なラストが待っています。

シオドア・スタージョンのテーマは、愛です。しかし、その愛は性愛を含みますが、性愛だけではありません。深いです。原始的なキリスト教が唱えた愛というものに関する考察がなされています。

チャーリー・ジョンズは同性愛を蔑みます。差別を捨て切れません。人より上に立ちたいと望んでしまう人間は、差別を捨て切れないのかも知れない、と感じます。しかし、そういった差別を帰してしまったレダムがユートピアといえるのかどうか。考えさせられます。殺し合いが続く人間の世界と比べてみれば、それほど悪くない、とは思いますが。


読んだ本
シオドア・スタージョン『ヴィーナス・プラスX』

読んでいる最中
コードウェイナー・スミス『ノーストリリア』
菅浩江『雨の檻』
菅浩江の短編『雨の檻』を読んでいる最中。
『雨の檻』

『雨の檻』
新天地を目指す恒星間宇宙船の船窓には、いつも陰気な風景が映っています。雨が決してやまないのです。体が弱い少女シノは船室から出られず、その風景を見つめています・・・

『カーマイン・レッド』
絵描きを目指す少年は、学校で、正確だけど、動きがない絵を描くロボットと出会い・・・

『セピアの迷彩』
オリジナルとクローンの確執の物語。

『そばかすのフィギュア』
自分が生み出したキャラクター・アーダがフィギュアになることを知り、少女は喜ぶのですが・・・


読んだ作品
菅浩江『雨の檻』
菅浩江『カーマイン・レッド』
菅浩江『セピアの迷彩』
菅浩江『そばかすのフィギュア』


読んでいる最中
コードウェイナー・スミス『ノーストリリア』
シオドア・スタージョン『ヴィーナス・プラスX』
菅浩江『雨の檻』
『探偵倶楽部』
探偵倶楽部は、金を持った特定の人たちにのみ雇われている団体です。依頼を受ければ、何でも調べ、事件を解決していきます。しかし、表立って動くことはありません。『偽装の夜』『罠の中』『依頼人の娘』『探偵の使い方』『薔薇とナイフ』収録。

ミステリ小説。

『探偵倶楽部』というタイトルは印象的ですが、探偵倶楽部の人たちは、それほど活躍しません。彼らは脇役に徹しています。影のような存在なのです。しかし、印象的です。絶対に感情を表さず、依頼者にいつでも正確な情報をもたらします。

事件自体は華やかではありません。しかし、事件の真相が明らかにされていく過程は鮮やかです。よく練られています。それに、ストンと終わります。切れ味が良いです。

『薔薇とナイフ』がとくに印象的。ぞっとするような結末が待っています。東野圭吾は、ぞっとするほど、醒めています。シビアなのです。日本の人間は意味もなく血縁に意味を見出すのだし、世間には俗なことを好む俗物が溢れているのだというような認識が根底にはあるみたいです。

しかし、淡白なので、その冷淡な視線は印象に残りません。巧いのかも知れません。怖いほど、冷淡なミステリのはずなのに、多くの人間が普通に読んでいるのだから。

角川書店。


読んだ本
東野圭吾『探偵倶楽部』

読んでいる最中
コードウェイナー・スミス『ノーストリリア』
『聖☆おにいさん 5』
イエスとブッタは、現代日本で生活しているのですが・・・

おもしろすぎる。登場人物が増えていくので楽しいです。


読んだ本
中村光『聖☆おにいさん 5』

読んでいる最中
コードウェイナー・スミス『ノーストリリア』
『イン・ザ・ペニー・アーケード』
ミルハウザーの小説。第一部『アウグスト・エッシェンブルク』/第二部『太陽に抗議する』『橇滑りパーティー』『湖畔の一日』/第三部『雪人間』『イン・ザ・ペニー・アーケード』『東方の国』。

第一部『アウグスト・エッシェンブルク』
物語の舞台は、19世紀のドイツ。アウグストは時計職人の息子です。彼は、時計職人になるため、歯車のことを学びます。しかし、12歳の時に動く絵をつくり、14歳の時には自動人形を作り始めます。そして、天才的な技を用いて、自動人形に魂を込めようとします。彼は、大手百貨店を経営するプライゼンタンツに見出され、ベルリンに赴くのですが・・・

第二部『太陽に抗議する』 家族とともに海岸へ赴いたエリザベスは、全てを憎む黒づくめの少年を見かけます・・・

『橇滑りパーティー』 キャサリンは橇滑りパーティーに集まった若者たちに紛れています。しかしピーターに不意に告白され、不快に感じ・・・

『湖畔の一日』
ジュディスは休暇の間、マウンテン・ロッジに赴いていました。陰気な女とよく会うので不快に思うのですが・・・

第三部『雪人間』外は雪景色。雪人間が現れます。

『イン・ザ・ペニー・アーケード』
12歳の誕生日を迎え、ペニー・アーケード(遊園地)へ行きました。しかし、そこはなんだか変化していて・・・

『東方の国』
当方の国には、金色の鳥がいて、雲は全て名付けられ、砂時計がさまざまな場所に置かれています。断片的。美しい東方の国のことを綴ったもの。イタロ・カルヴィーノ的。

とくに、『アウグスト・エッシェンブルク』が印象に残ります。アウグストは天才的な技を持ち、禁欲的な姿勢を保ちつつ、美しい人形を作り続けます。しかし、結果的には、全てを引きずりおろそうとする人々と、大量生産された欲望を誘う俗っぽい人形たちに敗北します。痛々しいです。しかし、それが当然の流れなのかも知れません。


読んだ本
スティーヴン・ミルハウザー『イン・ザ・ペニー・アーケード』

読んでいる最中
中村光『聖☆おにいさん 5』
『DEATH NOTE 1』
久しぶりに読みました。本当に頭が良い人は、主人公達ほど考えないような気もしましたが、面白いです。なんというか、頭脳戦、という感じで。


読んだ本
小畑健、大場つぐみ『DEATH NOTE 1』(再読)

読んでいる最中
スティーヴン・ミルハウザー『イン・ザ・ペニー・アーケード』
『球形時間』
女子高生サヤは、所謂「いまどきの高校生」です。彼女はイザベラに喫茶店で出会います。一方、軽いノリの同級生カツオはマックンと抱き合っています。そうしている内に、不気味な大学生とも親しくなります。担任教師のソノダヤスオは教員としての仕事にうんざりしていて、日々悩んでいます。そして、不気味なナミコはそういった人たちの様子をじっと眺めていて・・・

奇怪な小説。

さらりさらりと読めてしまいますが、意外に難しいです。球形時間とは何なのか最後まで明示されることはありません。日本に流れているのが球形の時間なのではないか、という指摘とも受け取れます。

言葉はふわりふわりと浮かんでいます。サヤは言葉で遊びます。

全体的に捉え難いし、それが故にいまいちよく分からないのですが、何を言いたいのか分からないからといって、文句をつけるのは間違っているような気がします。作品の世界そのものが、そういうふうになっているからです。

作品自体が、なんとなく、気持ち悪いけれど、その気持ち悪さは、日本の気持ち悪さなのではないか、と感じます。教室の中には個人が存在しません。そして、正しそうな理論を掲げている人たちも、結局のところ生理的な快・不快に則って行動します。その空間の中にある人たちは連結し、女性から表出する「もの(月経や毛)」を徹底的に消そうとします。そして、その過度な発露が、ナミコです。

物語として完成されていないように思えるし、気持ち悪いけれど、実はこの作品こそが、日本というものを表しているような気もします。


読んだ本
多和田葉子『球形時間』

読んでいる最中
スティーヴン・ミルハウザー『イン・ザ・ペニー・アーケード』
『ヘヴン』
僕は斜視です。だから、学校では、「ロンパリ」と呼ばれ、殴られ、蹴られ、笑われ続けています。その苛めを主導しているのは二ノ宮。彼はクラスの頂点に立ち、大人からも一目置かれています。だから、僕はどうしようもありません。そんな僕は、不潔な格好をしているため同じように陰惨な苛めを受けているコジマから手紙を貰い、親しくなります。彼女は離別した父親と繋がっているために、そのような格好をしていました。

小説。

主人公は、暴力について考えていきます。そして、コジマや、二ノ宮の友である百瀬の言葉に翻弄されつつも、必死に何かを選び取ろうとします。しかし、結局、憎らしい二ノ宮を殺したり、石で殴ったりすることはなかなかできません。したくないからです。

非常に深いです。僕のような中学生が、哲学的な言葉を放つはずはないし、浮ついている、というような指摘もありますが、それらの指摘は、はずれているような気がします。『ヘヴン』は、思索のための小説なのだから。

読んでいると痛くなってきます。コジマは、あらゆる人間は加害者か、あるいは被害者にならざるを得ないのだし、そうであるならば最も弱き者になるしか、加害者にならない方法はないというふうに考えていきます。その考え方自体はよく分かるし、共感します。だけど、それは、あらゆる人間に罪を押し付けることにもなります。非常に嫌悪されることは明らかです。あらゆる宗教が、そういう側面を持っているような気もしますが。

一方、百瀬は、全てを「たまたま」、つまり偶然という言葉で説明しようとします。そして、全ては巡りあわせでしかない、というふうに断言します。怖いけれど、強い気がします。

川上未映子は正面から苛めというものに挑みかかります。古風ともいえます。しかし、迫力があるし、言葉の使い方は巧みだし、何よりその挑み方が良いです。苛めは良くない、というような分かりやすくて美しい結論を導き出すのではなく、苛めや暴力を根本的に捉えようとしていくことに感動します。主人公にとって、ラストの光景は、ヘヴンなのだろうか、と考えてしまいました。

本屋大賞候補作。


読んだ本
川上未映子『ヘヴン』

読んでいる最中
スティーヴン・ミルハウザー『イン・ザ・ペニー・アーケード』
『本屋大賞2010』

■2010年(第7回)
 ◎ 冲方丁  『天地明察』
 2 夏川草介 『神様のカルテ』
 3 吉田修一 『横道世之介』
 4 三浦しをん  『神去なあなあ日常』
 5 小川洋子  『猫を抱いて象と泳ぐ』
 6 川上未映子 『ヘヴン』
 7 藤谷治 『船に乗れ!』
 8 有川浩 『植物図鑑』
 9 東野圭吾  『新参者』
10 村上春樹 『1Q84』


読んだ本
本の雑誌編集部『本屋大賞2010』

読んでいる最中
スティーヴン・ミルハウザー『イン・ザ・ペニー・アーケード』
『アメリカ文学史のキーワード』
物語になっているので、面白いと感じます。マーク・トウェインの位置はそこなのか、と納得します。日本の文学史の中から、キーワードを拾い上げていくことができたら、面白いのかも、とも感じます。


読んだ本
巽孝之『アメリカ文学史のキーワード』(再読)

読んでいる最中
スティーヴン・ミルハウザー『イン・ザ・ペニー・アーケード』
『ライ麦畑でつかまえて』
ホールデン・コールフィールドは成績が悪かったため学校を退学になります。その後、生まれ育ったニューヨークへ戻ろうとするのですが、インチキに満ち溢れた周囲に馴染むことはできません。苛立ちに任せ、大人社会を罵倒し続けます。しかし、その中で、うまく立ち回ることは出来ません。彼は、家族と過ごした少年の頃を懐かしみます。

反青春小説。

教養小説、青春小説であるならば、主人公は成長していきます。大人になるため、ステップアップしていくのです。しかし、ホールデン・コールフィールドは成長しません。彼は、大人たちのインチキを非難し続けることだけに力を注ぎます。

ホールデンは、いくらでも言葉を紡ぎます。脈絡や根拠といったものは気にせず、目の前にあるインチキや汚さや不正をあげつらいます。その喋り方が面白い、のかも知れません。いや、その喋り方こそが、『ライ麦畑でつかまえて』そのものか。

これといって筋はありません。

作品を紹介する際、主人公は、「反逆的だけど、無垢な少年」だというふうに、よく表現されます。だけど、傷つきやすく、危ういビョーキの少年のようです。何らかの基準を認めて、それに逆らうわけではなく、いつでもなんとなく生理的に跳ね返ってしまうのだから、反逆的というよりは、反発的といった方がいいような気もします。

最終的に、主人公は精神病院に収容されます。

痛々しいです。しかし、当然の結果かも知れないとも感じます。ホールデンのような喋り方をすれば、傷つくだろうし、壊れるだろうなぁ・・・ 跳ね返ってくるわけだから。


読んだ本
J.D.サリンジャー『ライ麦畑でつかまえて』

読んでいる最中
スティーヴン・ミルハウザー『イン・ザ・ペニー・アーケード』
『ふわふわの泉』
浜松西高校化学部部長、浅倉泉は、ただ一人の部員である保科昶とともに、文化祭の準備をしていました。その過程で、運悪く、落雷に襲われます。ですが、その結果、ダイヤモンドより硬くて空気より軽い不可思議な物質を生み出します。それは化学者ならば、誰もが夢見る「立方晶窒化炭素」というものでした。泉は、それを「ふわふわ」と呼びます。そのふわふわの発明は、人間のライフスタイルと世界を、あっという間に変えていくことになります・・・

SF小説。

物語は高校の部室から始まり、宇宙にまで達します。トントンとすすんでいくので気軽に読めます。非常に楽しいです。強気な天才化学者・浅倉泉と、秀才・保科昶のコンビが良いです。

突拍子がないと感じる部分もあるけれど、全体に漂うゆるい雰囲気に合っています。

ジョークに満ち溢れているし、甘いし、ゆるいけれど、出鱈目ではありません。熱いこだわりが感じられます。法螺だけど、科学と知性に則った法螺だから、面白いです。

細部が凝っています。最後の辺りでは、軌道カタパルトの運用に関して、大雑把に解説していく部分があります。それには感動しました。素人にわかるように説明するのは容易なことではないだろうと感じます。

読んでいると、楽しくなってくる良作。

第33回星雲賞日本長編部門受賞作。


読んだ本
野尻抱介『ふわふわの泉』

読んでいる最中
J.D.サリンジャー『ライ麦畑でつかまえて』
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