忍者ブログ
自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
[33] [34] [35] [36] [37] [38] [39] [40] [41] [42] [43]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

『グラン・ヴァカンス-廃園の天使〈1〉』
物語の舞台は、南欧の田舎をモチーフにした仮想空間「数値海岸」。そこでは、1050年の間、永遠のヴァカンスに倦むこともなくAIたちが同じ夏の1日を繰り返していました。ホストである人間が現れなくなったからです。ある日のこと、十二歳の少年ジュール・タピーはジュリーとともに硝視体<グラス・アイ>を拾うため海岸へ赴きます。ですが、区界を破壊する<蜘蛛>が現れ・・・

SF小説。

ヴァーチャル空間を舞台にしたSF小説は数多く存在しています。だから、『グラン・ヴァカンス』自体に独創性というものを感じることはないし、使い古された設定の焼き直しということもできます。だけど、描写が凝っていて、物語も面白いです。

キャラ設定などは、いかにも漫画的/映像的。構成は練られているようには感じられません。とはいえ、小説でしか表現できないようなものもしっかりと盛り込まれています。

官能的、かつグロテスク。

気持ち悪いところがいいです。ヴァーチャル空間が舞台だからこそありえる幻想性というか、脆弱な世界の描き方が秀逸。物語の中に、全ての基盤がぐらっと揺らぐ瞬間というものが存在します。

文章はさほど巧いとは感じられません。日本語として変な部分が多いので気になりました。主語が明確ではなくて妙にぐらぐらしています。けれど、軽いので非常に読みやすいです。


読んだ本
飛浩隆『グラン・ヴァカンス-廃園の天使〈1〉』

読んでいる最中
ジェイムズ・エルロイ『ブラック・ダリア』
奥田英朗『オリンピックの身代金』
PR
245ハサミ男
★★★★ 殊能将之

244文学賞メッタ斬り!
★★★★★ 大森望、豊崎由美

243職人を生きる
★★★ 鮫島敦

242生首に聞いてみろ
★★★ 法月綸太郎

241ささらさや
★★★ 加納朋子
★★★★

著者:  殊能将之
出版社: 講談社

  少女が次々と惨殺されます。その首にはハサミが突き立てられていました。マスコミは犯人を「ハサミ男」と呼び、凶悪な犯行をセンセーショナルに報じます。一方、警察は犯人逮捕に全力を注ぐのですが、犯人はまったく姿を見せません。そして、とうとう3人目の被害者がでてしまいます。しかし、3人目の少女を殺したのは「ハサミ男」ではありませんでした。自分が狙っていた獲物を奪われた本物の「ハサミ男」は、2人目の「ハサミ男」、つまり模倣犯を追跡するのですが・・・

  トリッキーな叙述ミステリ。殊能将之のデビュー作。

  読んでいる最中、「語り手は誰か」ということを考えてみて一度はトリックに気付きかけました。しかし、視点が錯綜するのでやっぱり違うかも、と考えを改めたら騙されました。だけど、ミステリを齧ったことがある人ならば、真相に気付くかも知れません。この物語の仕掛けは、ある意味では定番ともいえるものだからです。

  とはいえ、全体の構成が見事だし、明快なところもなかなかに良いです。そして、伏線を回収していく手際も素晴らしいです。

  いかにも、京極夏彦的。二重人格なとなどが出てきてその上やたらと分厚くて、しかも最も肝心なところで読者の期待をみごとに裏切るのです。信じられないような偶然が発生します。著者はあえて、そのような偶然を挟み込んだのではないか、と感じます。

  不吉すぎるラストが印象的。

  第13回メフィスト賞受賞作。


自森人読書 ハサミ男
★★★★★

著者:  大森望、豊崎由美
出版社: PARCO出版

  大森望と、豊崎由美の対談。2人が日本のいろんな文学賞を紹介しつつ、その文学賞の褒められるべき点と、良くない点を挙げていきます。

  大森望、豊崎由美両人の凄いところは、とにかくなんでも読んでいること、です。読書量が圧倒的。「それ(書評)が仕事だから当然」ともいえるけど、凄いとしか言いようがないです。

  しかもその2人は、「メイン」とはいえないような読書領域を持っているところが強みです。大森望はSF、豊崎由美は海外文学(その上、純文学もきちりと読んでいる)を徹底的に読んでいるみたいです。だから、視野が広い。ベストセラーになるような「易しい」本だけしか眼中にないようでは面白い書評家にはなれない、ということがよく分かります。

  『文学賞メッタ斬り!』を最後まで読んでいると、「個人的にチェックしときたいと思うのは・・・ 新人賞では、メフィスト賞とファンタジーノベル大賞。新人賞ではない賞の中では、谷崎潤一郎賞、泉鏡花賞。その4つ以外はまぁどうでも良いや」という豊崎由美の言葉(と言いつつ、仕事だから他の受賞した作品も読むんだろうけど・・・)に頷かされます。

  とにかく『文学賞メッタ斬り!』は面白いです。どうしたら新人賞などをもらえるのか、という案内ではなくていろんな賞の紹介です。賞をあげるかどうかの決定の裏側には、人間関係やその賞の選考委員の人たちの好悪がからまっている、という2人の指摘は参考になります。

  まぁ基本的には賞なんて気にせず、面白い本を読んでいけばいいんだと思いました(面白い賞は押さつつ)。


自森人読書 文学賞メッタ斬り!
2009年に出版された本を全く読んでいないのですが、とりあえず読んだ本の中だけであげると・・・

森見登美彦『恋文の技術』
伊藤計劃『ハーモニー』
神林長平『アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風』

くらいか。

ほんとに全く読んでいないです・・・ それに、魚住直子『園芸少年』とかはちょっと微妙だし。
『アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風』
『戦闘妖精・雪風』シリーズ第3作目。さらに、思弁的かつ抽象的な物語になってきています。戦闘シーンはほとんどありません。

情報軍に属するロンバート大佐はジャムと組んでFAFを乗っ取るべくクーデターを起こします。彼は不可解なジャムになりきることでジャムに打ち勝とうとしていたのです。そして、クーデターを起こしてから、すぐに地球に在住しているジャーナリスト、リン・ジャクスンへ向けて手紙を書きます。それは、人間に対する宣戦布告でした。

友達に借りた本なのですぐに読もうと思っていたのに、分厚くてその上2段組なので、読みきるのに時間がかかりました。非常に面白かったのですが、これまでの2作以上に難解なので何度も訳が分からなくなりました。登場人物は、誰もが理屈に拘ります。とにかく徹底的に理屈を捏ね繰り回すのです。疲れるけど愉快です。

クーリィ准将の存在というものが非常に巨大になってきます。彼女が特殊戦というものの性質を決定付けるからです。

あと、機械である雪風に擬似的な人格のようなものが生まれたことが明確になる部分が面白いです。むしろ、人間の意識は機械に見透かされているということまで明らかになり、状況はさらに複雑怪奇になります。誰が敵で、誰が味方なのかよく分かりません。

しかも、不確定性の原理についても語られだすので混乱します。SFとしてはありがちなネタではある気もしますが、それにしても様々な要素が盛り込まれすぎていてよく分からなくなってくるのです。しかし、著者の狙いはそれなのかも知れません。

続編が非常に楽しみです。


読んだ本
神林長平『アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風』

読んでいる最中
ジェイムズ・エルロイ『ブラック・ダリア』
奥田英朗『オリンピックの身代金』
『ア・ルース・ボーイ』
斉木鮮は、英語教員に「ア・ルース・フィッシュ(だらしのないやつ)」だと非難されます。それは決して褒め言葉ではありませんでした。ですが、looseは「自由な」という意味も併せ持っていました。その言葉に勇気付けられた鮮は、教師を殴って進学校を中退。そして、赤子を抱えた元彼女・幹のもとへと赴き、彼女との生活を始めます。赤子を梢子と名付け、アルバイトに精を出すのですが・・・

成長の物語。

さっくりとしていますが、なかなかに面白いです。主人公は、母親との不和を引きずり続け、苦悩します。ですが、彼は幹、梢子と生活するうちに成長していき、最終的に幹とセックスすることでトラウマから脱出します。悩みは基本的に淡白なもののように感じられるし、ラストは随分と安易な気もします。けど、だからこそ、『ア・ルース・ボーイ』という作品は現代的なのかも知れません。

真摯な主人公は全くうじうじせず、淡々と苦境を乗り越えていきます。少しも大仰ではなく、気負いもなく、それでいてまっすぐ。

私小説なのに、客観的な視点から書かれている気もします。だから、妙にあっさりとした印象を受けるのかも知れません。

新聞配達などのアルバイトについて綴られている部分が面白かったです。

山田詠美の解説が面白いです。ただし、山田詠美の小説はそれほど好きではないし、彼女が褒めている佐伯一麦の小説にも感心はしなかったのですが・・・

第4回三島由紀夫賞受賞作。


読んだ本
佐伯一麦『ア・ルース・ボーイ』

読んでいる最中
神林長平『アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風』
ジェイムズ・エルロイ『ブラック・ダリア』
★★★

著者:  鮫島敦
出版社: 岩波書店

  今は、職人として生きるということが難しい時代だろうなぁと読みながら感じました。中学をでたらすぐに技を磨くのが良い、と言う人もいるけど、多くの人は漫然と中学・高校・大学へと上がっていく気がします。僕も、中学を卒業したときすぐに職人になるという道を選ぶ勇気はなかったです。ただでさえ、新学歴社会とかそんなことが叫ばれている中で、「技で生きる」なんて可能なのかなぁ・・・

  本の中でも、「学歴」と「職人として生きること」について触れられていたけど、やっぱり釈然としないです。現代は、昔と比べて自由になったと言われるけど、案外生き方が限定される不自由な時代なのかもなぁ、とも考えました。人間も、機械と同じように幅広い有用性というか、万能性が求められてしまう、というか。一芸に秀でているだけでは生きていけないといえば良いのか。

  「相互扶助・相互監視(プライバシーの存在しえないようなつながり)」を兼ね備えた「ムラ」がなくなった代わりに「個人」が生まれて激しい競争の時代になった、という日本・明治の近代論みたいなものを読んだことがあるけど、それともかかわりがあるのかなぁ(その後も「ムラ」的関係は続いて、終戦後の占領統治下において個人主義が完全に導入された、という人もいるけど) それまでは互いに欠けた部分を補完しあえていたのに、1人ひとりに独り立ちが求められたことによって、1つのことをやって生きていくことが不可能になったのではないか。それは良いことなのか。悪いことなのか。判断が難しい。というか、難しくてよく分からない・・・

   随分と変なところに迷い込んでしまったので話を戻すと。いくら腕を磨いて良い物をつくっても、かってもらえないのでは生きていけないということも悩ましいなぁと感じました。海外からやってくる大量生産された安い物に対して立ち向かうためには、まず買う側の意識を変えて買ってもらう必要があります。だけどそれはかなり難しいことだというのは明らかです。だって、命に直接関わる食べ物を選ぶときだって、消費者の基準は「安さ」だから。

  グローバリゼーションの問題とも言える気がします。ソ連が崩壊して曲がりなりにも二分されていた世界が「1つ」になったことで問題が溢れかえっているといわれるわけですが。その中で、貴重な文化(言語とかも)もどんどん失われていくのかなぁ。そうだとしたら、「残念な出来事」ではすまない気がします。何もかも1色に染まってしまったら、とても、つまりらない世界になってしまうのではないか。

  それでは、人類は豊かになったはずなのに文化的には貧しくなっているということではないか(まぁ、よく言われる陳腐な論だけど・・・)。いろんな「色」を残すという点からも、職人を次の世代へとつなげていくべく奮闘している人たちには頑張って欲しいなぁと思いました。


自森人読書 職人を生きる
★★★

著者:  法月綸太郎
出版社: 角川書店

  現代彫刻家の川島伊作が病死。彼は、その死の直前に、自分の娘をモデルにした石膏像を完成させて息を引き取ったはずでした。しかし数日後確認したところ、いつの間にか石膏像の首がなくなっていました。そしてそのモデルになっていた娘まで行方不明になってしまい・・・ 名探偵・法月綸太郎にこの謎は解けるのか?

  ミステリ小説。

  タイトルにはどっきりさせられるし、ストーリーは緻密なので、なかなかの力作だとは感じさせられますが。

  基本的に単調だし、張り巡らされた伏線は細かいものばかり。そして、偶然という言葉が持ち出されることが多いのには興醒め。ラストで数々の事実がきちりきちりとはまってくのは楽しいけれど、読後疲労感に襲われます。清涼院流水みたいなすっぽ抜けよりはまだましかも知れないが、法月綸太郎の重さも同じくらい疲れる・・・

  あと、豊崎由美が、「女性を道具みたいに都合よく殺したり妊娠させたりし過ぎ」「1回レイプしただけで都合よく妊娠するかよ?」と書評『正直書評。』で指摘していたけど、その批判は的を射ている気がします。どう考えても、全体の構成に無理がありすぎじゃないか。

  パズルみたいなミステリが大好きな人にはおすすめかも知れません。


自森人読書 生首に聞いてみろ
★★★

作者:  加納朋子
出版社: 幻冬舎

  連作短編集。『トランジット・パッセンジャー』『羅針盤のない船』『笹の宿』『空っぽの箱』『ダイヤモンドキッズ』『待っている女』『ささら さや』『トワイライト・メッセンジャー』収録。

  『トランジット・パッセンジャー』は、自分が突然車に轢かれて死ぬところから始まります。びっくり。そして葬式の場面へと移っていきます・・・ どういうことなのかと思いきや、彼は、幽霊になってこの世に留まり続け、そして妻・さやとユウ坊を見守っていくことに。ほっとします(主人公が幽霊になってほっとするっていうのも変な話だけど)。

  『羅針盤のない船』は、さやがユウ坊を義姉にとられかけるところから始まります。さやは、さやの伯母が遺してくれた家が「佐々良(ささら)」というところにある、ということを思い出したそこへ引っ越すことに・・・ 『笹の宿』では、引越しの際不手際で、旅館・笹の屋に泊まることにしたサヤが奇怪な事態に出会います。しかし、幽霊になったおばあちゃんにとりついて夫が戻ってきて・・・ 『空っぽの箱』は、さやの家に集う3人のおばあさんたちのストーリー、みたいなもの。『ダイヤモンドキッズ』はユウ坊の誘拐未遂事件を描いた作品。『待っている女』はサヤのお隣さんの物語。そのお隣さんはいつも戸を開けて誰かを待っているようなのだが、何を待っているのか全く分からないのですが・・・

  『ささら さや』は、元夫の家族によるユウ坊誘拐作戦再び、の回。ユウ坊が熱をだして慌てていたサヤは、なんとユウ坊をさらわれてしまいますが・・・ 最後の『トワイライト・メッセンジャー』は、幽霊になってしまった夫の1人語り。俺はもうすぐ去るけど、頑張れよ、みたいなメッセージ。最後の物語が一番印象的でした。

  なかなか面白いです。ミステリというよりは、ほんわかとした家族の小説みたいな感じです。その中で巻き起こる日常の謎はまぁそこまで面白いとは言えないんだけど、登場人物たちが魅力的。人を惹きつけるサヤ、幽霊になってこの世に留まり続けるサヤの夫。強烈なおばあちゃん達。みんな面白いです。


自森人読書 ささらさや
『サンクチュアリ』
ウィリアム・フォークナーの出世作。架空の街ヨクナパトーファを舞台にしたヨクナパトーファ・サーガの4作目にあたるそうです。

1.女子大生テンプルは男友達に誘われ、車に乗り込むのだが、車はミシシッピー州のジェファスンの町はずれで大木に突っこんでしまう。二人は助けを求めるため、廃屋に立ち寄った。そこは数人の部下を率いるギャング・ポパイの根城だった。

2.ポパイは老人トミーを射殺し、テンプルを玉蜀黍の穂軸で強姦するのだが、彼の代わりにグッドウィンというポパイの部下が捕まる。グッドウィンには女と赤子がいた。その二人のためにも、弁護人ホレスはグッドウィンの無罪を証明しようとするのだが・・・

時間軸がおかしくなっていて、1と2が並行的に綴られていきます。なので、まずあらすじが把握しづらいです。しかも文章は即物的だから登場人物の心境は想像するしかないのですが、何を考えているのかいまいち分からない登場人物たちには感情移入しづらいです。

しかし、どの登場人物も強烈な個性を持っています。最も印象的なのはポパイ。彼は性的不能者であり、その上酒を飲むことができません。それが故に蔑まれるのですが、そういった侮蔑に対抗するかのように犯罪を繰り返します。

ヨクナパトーファは荒れ果てています。正義とか、神とかそういうものが通用しない世界なのです。その町に住む人間たちは、栄光や救いを求めることなく、暗闇の中で汚く生きて、死んでいくだけ。

フォークナーというのは、こういう感じなのか。

新潮社。


読んだ本
ウィリアム・フォークナー『サンクチュアリ』

読んでいる最中
神林長平『アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風』
『沈まぬ太陽〈2〉アフリカ篇(下)』
『沈まぬ太陽〈1〉 アフリカ篇(上)』の続き。

異国を10年にもわたって盥回しにされた恩地は精神を病み、家族も苦しむのですが・・・

救いのあるラストでよかったです。まだまだ続くわけですが。


読んだ本
『沈まぬ太陽〈2〉アフリカ篇(下)』

読んでいる最中
ウィリアム・フォークナー『サンクチュアリ』
神林長平『アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風』
新年になってしまった・・・

あまり実感が湧かないのですが、多分めでたい。
『さよならダイノサウルス』
ブランドン・サッカレー(ブランディ)と、マイルズ・ジョーダン教授(クリックス)は恐竜が滅びた理由を探るため、6500万年前にタイムスリップします。ですが、2人はテスという一人の女性を巡って争っている最中でした。そのため、彼らは恐竜と出会うのですが、なかなか協調できません。そうして2人がいがみ合っているうちに恐竜の体内からは青いゼリーのようなものがでてきて、しかも恐竜が喋りだし・・・ というようなことが書いてある文書をブランドンは発見し、困惑するのですが・・・

優れたSFミステリ。

恐竜が滅びた理由、恐竜が巨大でも大丈夫な理由などなどが次々と解明されます。それらの真相はまったくもって奇想天外というしかなく、SFとして非常に面白いです。

しかも、タイムマシン、恐竜、異星人などなどがてんこもり。それなのに、古臭さ/安っぽさは感じられません。様々な謎が散りばめられているためか、読み進めることができます。

物語は伏線だらけ。むしろ、伏線だけといってもよく、もう少し深みが欲しい気がしないでもないです。まぁこれくらいさっくりとしているからこそ読みやすいのか。


読んだ本
ロバート・J・ソウヤー『さよならダイノサウルス』

読んでいる最中
神林長平『アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風』
『アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風』『ブラック・ダリア』『オリンピックの身代金』『ケルベロス第五の首』『ア・ルース・ボーイ』『さよならダイノサウルス』『沈まぬ太陽〈2〉アフリカ篇(下)』『サンクチュアリ』

冬休み中に読みたい本がたくさん積んであるのですが、多分読めないだろうなぁ・・・
テレビを見ている時間を減らせば読める気もするのですが。

来年中に読みたい本も溜まっています・・・

『どん底』『荒野の呼び声』『ジャン・クリストフ』『車輪の下』『ニルスのふしぎな旅』『青い鳥』『狭き門』『マルテの手記』『ブラウン神父の童心』『神々は渇く』『失われた時を求めて』『狂人日記』『ワインズバーグ・オハイオ』『チボー家の人々』『三人の巨匠』『ユリシーズ』『青い麦』『魔の山』『グレート・ギャツビー』『燈台へ』『ナジャ』『チャタレイ夫人の恋人』『悲しみよこんにちわ』『時間割』『路上』『長距離走者の孤独』『ブリキの太鼓』『走れウサギ』『カッコーの巣の上で』『寒い国から帰ってきたスパイ』『調書』『アルジャーノンに花束を』『アメリカの鱒釣り』『めくるめく世界』『キマイラ』『重力の虹』『収容所群島』『死父』『交換教授』『シャイニング』『冬の夜ひとりの旅人が』『ヴァリス』『ホワイト・ジャズ』『ソフィーの世界』『朗読者』『ボーン・コレクター』『アムステルダム』『恥辱』
『ロボット<R.U.R.>』
R.U.Rの社長・ドミンは、ロボットを開発し、全世界に売り込みます。ロボットは人間と同じような肉体を持っているのですが感情は持っていなかったため給料を与えずとも徹底的に使い込むことができました。人間は全てをロボットに任せてしまい、働かなくなります。権同盟会長の娘ヘレナは、それを阻止しようとロボット製造工場がある孤島に乗り込むのですが逆に結婚を申し込まれ・・・

1921年に発表された戯曲。

この作品がロボットという言葉を生み、広めたそうです。人間にいいように酷使されていたロボットが叛乱を起こす、というストーリーは非常に印象的でした。

科学が進歩した結果、便利な物がたくさん生まれたわけですが、それを運用するだけの能力/倫理観を人間が持っているか、と問うているのかなぁ、と感じました。大戦すらまだ経ていない1921年にこの作品は発表されたわけですが、未来を見通した著者の目線は本当に素晴らしいと感じました。

失敗作とされていたロボットこそが最も人間的だったというラストは痛快です。著者は人間のことを憂慮しつつも皮肉っているわけか。

岩波書店。


読んだ本
カレル・チャペック『ロボット<R.U.R.>』

読んでいる最中
ロバート・J・ソウヤー『さよならダイノサウルス』
『この人の閾』
『この人の閾』は保坂和志の短編集。『この人の閾』『東京画』『夏の終わりの林の中』『夢のあと』収録。

『この人の閾』
主人公は37歳の三沢。彼は小島さんと会うために小田原へいくのだけど、一時という約束だったのに夕方になるまで会えないと分かります。なので、かつての学友・関根真紀と再会。2人の子供を持つ彼女と庭の草をむしります。芥川賞受賞作。

『東京画』
主人公は、東京都にある、環七近くのXXを巡っています。随分とたらたらとしています。でも、暗い雰囲気がよくでていて良いかも知れない。

『夏の終わりの林の中』
主人公は、ひろ子とともに自然教育園を散策します。さほど関係ないけど、『地球の長い午後』を連想。

『夢のあと』
主人公とれい子は、鎌倉にある笠井さんの家を訪ねます。3人は笠井さんが幼い頃過ごした土地を巡るのですが、記憶は美化されるということを悟り・・・

多分、空間と関係を描いた小説。

あらすじを説明することにはそれほど意味がないような気がします。2人の会話を綴っていたのに、突如として一度引くところがあります。そういういかにも映像的な部分が優れているのだけど、非常に説明しづらいです。

記憶が非常に重要な要素となっている気がします。人間だけが記憶を持っているのだろうか、と考えてしまいました。

著者は様々な物が開発され、全てがきっちりしていくこと、ひいては社会が進歩していくことに対して違和感を抱いてるようなのですが、その感覚はポストモダン的ともいえるし、いかにも現代的。進歩を肯定する通常のSFとはまっこうから対立するということができるかも知れないのですが、似た問題意識を抱いてるということも可能です。もしかしたら、保坂和志はSF作家になったかも知れないのか・・・


読んだ作品
保坂和志『この人の閾』
保坂和志『東京画』
保坂和志『夏の終わりの林の中』
保坂和志『夢のあと』


読んでいる最中
ロバート・J・ソウヤー『さよならダイノサウルス』
カレル・チャペック『ロボット<R.U.R.>』
『日の名残り』
主人公は、ダーリントンホールの執事スティーヴンス。彼はかつての主人ダーリントン卿を失い、新たにアメリカ人の主人ファラディ氏を迎えることとなります。ファラディ氏はジョークが好きなアメリカ人だったため、スティーブンスは戸惑いました。そんなある日のこと、主人に勧められ、イギリス西岸のクリーヴトンへと出掛けます。旧友ミス・ケントンと再会し、再び彼女とともにダーリントンホールを運営できたら嬉しい、と彼は考えたからです。小旅行の最中、美しいイギリスの田園風景に触発されるためかスティーブンスは回想ばかりを繰り返します・・・

イギリスというもの自体を描いた小説のようです。

小説は、執事スティーブンスのしっとりとした語りで進んでいきます。その語り口がまたいいのですが、彼が書きたくないと思っていることは注意深く取り除かれています(たとえば、ミス・ケントンへの恋情とか)。つまり、大切なことは書かれていないわけです。そこが奥深いです。

スティーブンスは品格ある執事であり続けるためにミス・ケントンに近寄ろうとはしません。ほとんどつっけんどんといってもいいような態度をとるわけです。2人は互いのことを想っているのに決して向き合うことは出来ません。あまりにも哀しくて胸を抉られます。

そして、スティーブンスとその主人ダーリントン卿は、時代の荒波にのまれていきます。

ダーリントン卿は騎士道精神に則った人間であろうとし続けたためにナチスドイツに操られ、スティーブンスは品格ある執事であり続けようとしたためにそれを助けることになってしまいます。あまりにも痛々しいです。ただただ誠実に、立派に生きようとすることで失われていくものがどれほど多いか、と考えさせられます。

でも、執事スティーブンスは決して惨めではない、と感じます。彼の生き方は間違っていたけれど、それでも立派だったのではないか。

ブッカー賞受賞作。


読んだ本
カズオ・イシグロ『日の名残り』

読んでいる最中
ロバート・J・ソウヤー『さよならダイノサウルス』
「国境なき医師団」という言葉はよく聞くから知っているけど、具体的にどのようなことをしている人たちなのか、まったく知りませんでした。『国境なき医師が行く』を読み、国境なき医師団の人たちが具体的にどこへいき、どういうことをしているのか分かって面白かったです。
『国境なき医師が行く』

国境なき医師団の人たちがとても壮絶な日々を送っているのだということがよく分かりました。医師であるならば、それだけでもたくさんの人の命を入れ替わり立ち代り預かるわけだから、とにかくタフで思い切りが良くないと勤まらないのだろうけど、国境なき医師団の人の場合はわざわざ設備がしっかりしていない地に赴くわけだから、さらに勇気が必要なのだろうなぁ、と感じました。

読んでいて、とても怖かったです。エマニュエルという少年や、サンバーという老人を治療したとき失敗し、死なせてしまったというふうに紹介されていたけど、たとえ失敗しても落ち込んでいる暇はなく、次の患者を助けるために動き出さないといけない、というのは本当に過酷な状況ではないか。肉体的にも精神的にも追い詰められるよなぁ・・・ それでもへこたれない著者は凄い人だなぁ、と感じました。

陳腐だけど、読みながらどうしても『ブラックジャック』を連想してしまいました。現実にブラックジャックみたいな生き方をするのは無理だろうとこれまで思っていたけど、著者の生き方はそれにちょっと近い気がしました。自分の信じるところを通し、人の命を救うことに全力を注ぐっていうのはほんとにかっこいい。

エピローグが非常に印象的でした。NPO・NGO活動に関わった人たちが帰ってきたとき、行き場に困る今の状況はおかしいと感じました。それでは怖くてなかなか海外に飛び出していくことはできない気がします。日本の人たちがここまでボランティアや様々な活動を理解しようとしないのは、嫉妬にかられているからなのかそれとも何ごとにも無関心だからなのか、よく分からないです。でも、おかしいとは感じます。


読んだ本
久留宮隆『国境なき医師が行く』

読んでいる最中
カズオ・イシグロ『日の名残り』
『考える人 2008年春号』
海外の長篇小説ベスト100が載っていたので読みました。

1  G・ガルシア=マルケス  『百年の孤独』◇
2  マルセル・プルースト 『失われた時を求めて』
3  フョードル・ドストエフスキー 『カラマーゾフの兄弟』
4  ミゲル・デ・セルバンテス 『ドン・キホーテ』
5  フランツ・カフカ 『城』
6  フョードル・ドストエフスキー 『罪と罰』
7  ハーマン・メルヴィル 『白鯨』
8  レフ・トルストイ 『アンナ・カレーニナ』
9  フランツ・カフカ 『審判』
10 フョードル・ドストエフスキー 『悪霊』


読んだ本
新潮社『考える人 2008年春号』

読んでいる最中
カズオ・イシグロ『日の名残り』
『人間ぎらい』
アルセストは潔癖を好む青年でした。彼は嘘とお世辞と阿諛追従ばかりが満ちている社交界を憎み、妥協しませんでした。詩が下手な友人には詩が下手だと言い、決して自分の意見をまげなかったわけです。しかし、美しい未亡人セリメーヌに恋してしまいます。彼女は誰に対しても笑顔を浮かべ、親しくする浮気性な女性でした。友人フィラントの忠告を受け入れないアルセストは、自分の力でセリメーヌを変えてみせると豪語するのですが・・・

フランスの古典劇。戯曲。

あっさりとしているのだけど、深いです。初演は1666年だそうですが、現代の人間が読んでも理解できるし、共感できるのではないか、と感じます。

アルセストは嘘とお世辞を言わず、剛直に生きていこうとしたために追い詰められ、恋に破れ、傷付いていきます。直情を貫こうとすれば人間社会では生きていくことが出来ず、かといって社会に適応しようとすれば自分を偽ることになるわけです。その問題で悩んでいる人も多いのではないか。まぁ青臭い悩みということもできるけど、切実な問題だと思えます。

フィラントのように良識を身につければ誰とでも付き合えるのかも知れないけど、様々な矛盾を自分のうちに受け入れることはなかなかに難しいといえます。それこそが大人になる、ということなのかも知れないけど。


今日読んだ本
モリエール『人間ぎらい』

読んでいる最中
カズオ・イシグロ『日の名残り』
新潮社『考える人 2008年春号』
『どろぼう熊の惑星』
『どろぼう熊の惑星』はR・A・ラファティの日本版オリジナル短編集。『このすばらしい死骸』『秘密の鰐について』『寿限無、寿限無』『コンディヤックの石像』『とどろき平』『また、石灰岩の島々も』『世界の蝶番はうめく』『処女の季節』『意思と壁紙としての世界』『草の日々、藁の日々』『ダマスカスの川』『床の水たまり』『どろぼう熊の惑星』『イフリート』『公明にして正大』『泉が干あがったとき』『豊かで不思議なもの』収録。

奇天烈な法螺吹きSF小説ばかりが収録されています。

分かりやすい『寿限無、寿限無』などはとくにおかしかったです。しかし、もう少しよく分からない短編もそれぞれ面白い。寓話的な『泉が干あがったとき』もいいなぁ、と感じました。

『寿限無、寿限無』
優柔不断な天使ボシェルは罰を受けます。6匹の猿にランダムにタイプを打たせ、シェイクスピアの全著作が収録されている<ブラックリスト・リーダーズ版>を一文字違わず再現するように命じられたのです。しかし、何千年たっても何万年たっても、完成せず・・・

『泉が干あがったとき』
泉の水が干あがってしまい、人々のアイディアは枯れてしまいます。事態を憂慮した有識者が集まるのですが、彼らも意味があることを考え付くことが出ません。それはどうしてなのか、というと多くの生物がはぐくんできた創造的なものを生み出す泉を、人間が勝手に、しかも大量に消費尽くしてきたから。

童話のように残酷。すぐに人間が殺されたり、首をちょん切られたりします。随分とシュールなのですが、シュールとかそういう言葉で説明するのは少し違うかもしれません。企みや気負いが感じられません。小説というよりは、おとぎ話といったほうがぴったりきます。

言葉遊びに満ち、偶然が物語を支配しているようにみえて、しっかりとしたストーリーが存在しています。物語がどのように展開していくか読めないことも多くてはらはらします。


読んだ本
R・A・ラファティ『どろぼう熊の惑星』

読んでいる最中
カズオ・イシグロ『日の名残り』
モリエール『人間ぎらい』
ウェブサイトhttp://jimoren.my.coocan.jp/
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
ブログ内検索
最新CM
[07/03 かおり]
最新TB
バーコード
アクセス解析
Powered by ニンジャブログ  Designed by ゆきぱんだ
Copyright © いろいろメモ(旧・自由の森学園図書館の本棚) All Rights Reserved
忍者ブログ / [PR]