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自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
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『バルタザールの遍歴』
日本ファンタジーノベル大賞を受賞した作品。佐藤亜紀のデビュー作。

主人公は、バルタザールとメルヒオール。一つの体の中にバルタザールとメルヒオールという二人の人間が宿っているのです。彼らは貴族なのですが、世界が変わっていく中で母親は憤死し、じょじょに落ちぶれていきます。そうした中で家を手放し、故郷を離れることになりました。しかも、ナチスが台頭してきていて・・・

前半部分『「転落』は、ようするにヨーロッパを舞台にした『人間失格』ではないか、と感じました。いや、全然違うと反論されるかも知れないけど。

一つの体に二つの人格というのは、少女漫画でもよくあるパターンのような気もするけど、佐藤亜紀はそれをみごとに活かし、物語を構成していきます。文体も、物語も、全体的にとにかく格好良いです。いかにも文学好きな人が好きそうな小説。

惚れ惚れするけど、読むのは一度だけで良いや、と思ってしまいました。なんというか、飽きます。勝手に堕落し、転落してください、と思ってしまいます。

今日読んだ本
佐藤亜紀『バルタザールの遍歴』

今読んでいる本
貴志祐介『天使の囀り』
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『供花』は詩集。
『供花』
町田康、詩だとますます意味が分からない。
もう文章がほとんど意味をなしていない・・・・・
どういうふうにも読める気もします。


今日読んだ本
町田康『供花』

今読んでいる本
佐藤亜紀『バルタザールの遍歴』
『くっすん大黒』
愉快な小説。なんというか、まぁいかにも生粋の純文学っぽいのだけど、ユーモアも含んでいてなかなか良いです。でも、いかにもねらっているっぽい部分がいまいち。

とはいえ、あえて「文学」していないわけではないのに文学になっているのだろうところはさすが。

町田康のデビュー作。


今日読んだ本
町田康『くっすん大黒』
町田康『河原のアパラ』


今読んでいる本
佐藤亜紀『バルタザールの遍歴』
『SFはこれを読め!』
世の中には面白そうな本がたくさんあるんだなぁ、と思いました。
まずはハイペリオンを読んでみたいなぁ。


今日読んだ本
谷岡一郎『SFはこれを読め!』

今読んでいる本
町田康『くっすん大黒』
佐賀に行っている間、SF小説の大作をいろいろ読んでいました。

『ディスコ探偵水曜日 上』はトンデモミステリのふりをしたトンデモSF。舞城王太郎世界が全開。表紙を見ると、タイトルよりも舞城王太郎という文字の方が大きい・・・
『ディスコ探偵水曜日 上』
主人公は、ディスコウェンズデイ(水曜日)という名前。ロリコンにたいして批判的な人たちをまるで挑発するような部分があります。しかもかつて大和民族はユダヤ人だったという本を引用していたり。とにかくいろいろと凄い・・・ けどここまで(400ページ超)で、まだ上巻。うわー、まだ同じ量物語が展開されていくのか・・・

『宇宙消失』
『宇宙消失』は、量子論を利用したSF小説。ある意味、トンデモなんだけど、きちりと細部も書かれているので、ハードSFに分類される作品。

『百億の昼と千億の夜』
『百億の昼と千億の夜』は巨編。以前、萩尾望都が漫画にしたものを読んだことはあったのだけど、原作を読んだのは初めてでした。素晴らしい作品。各所に言葉の間違いがあるのが気になったけど・・・


佐賀に行っている間に読んだ本
舞城王太郎『ディスコ探偵水曜日 上』
グレッグ・イーガン『宇宙消失』
光瀬龍『百億の昼と千億の夜』


今読んでいる本
谷岡一郎『SFはこれを読め!』
町田康『くっすん大黒』
佐賀に行ってました
今日まで佐賀の実家に帰っていました。
いろいろ本が読めてよかったです。
アロマパラノイド
ノンフィクションライターの八辻由紀子は、UFOに心惹かれている人たちに取材する中で、偶然限定本の『レビアタンの顎』を手に入れます。それは殺人者が自分の殺人について告白したものでした。著者は、言語に代わるものとして匂いを提示。それでもって別の形で、世界を理解することができると著者は説くのですが、八辻由紀子には新興宗教の一種としか思えませんでした。ですが、彼女はその本を手に取ってから突如として怪異に襲われるようになり・・・・・

いまいちでした。

『アロマパラノイド 偏執の芳香』は、『香水 ある人殺しの物語』という小説の二番煎じというか、劣化バージョンでしかないような気がしました。『香水 ある人殺しの物語』は、上品な文章によって狂気や錯乱、その他猥雑なものでさえも美しく見せてくれたのに、『アロマパラノイド 偏執の芳香』はただ単にごちゃごちゃです。まとまりがないし、綺麗ではありません(物語の構成はみごとにぴちりとはまっているだけど)。

とにかく、UFOだの、電波だの、インドの神話だの、いろんなものを詰め込みすぎて、匂いの物語ではなくなっていく部分が納得できませんでした。

クライマックスにおける異形同士の対決も、意味が分からないです。外国のホラー映画みたいに、化け物を退治してめでたしめでたしというのは安易ではないか。しかもその後にまだ何かありそう、と思わせぶりなシーンを挟む手法もありきたり。

まぁそれなりに面白いんだけど、そもそもホラー小説が好きではないので、あんまり楽しめなかったです。


今日読んだ本
牧野修『アロマパラノイド 偏執の芳香』

今読んでいる本
舞城王太郎『ディスコ探偵水曜日』
『戦争を演じた神々たち』
SF小説。連作短編集。『天使が舞い降りても』『けだもの伯爵の物語』『楽園の想いで』『異世界Dの家族の肖像』『宇宙で最高の美をめぐって』『戦争の起源』収録。

「目くるめく」という言葉はこのような作品にこそ使うべきではないか、と感じました。壮大な宇宙規模の物語が、展開されていきます。しかも、映像では表現できないような状況・物事が、文字で表現されていきます。小説を読む楽しみがここにあると感じました。

『天使が舞い降りても』
作用と半作用の物語。老人AUMは、鮮烈な印象を残します。世界のエコーである彼にとっては、呼び出されれば何もかもが容易なのか・・・

『けだもの伯爵の物語』
心を解き放つ棺桶を手に入れた伯爵家の冒険。けだもの伯爵が怖いけど、面白いです。

「楽園の想いで」
紆余曲折あって盗賊になってしまう女王の物語。彼女は聖女から貶められて「ただの人」になるわけですが、誰もが結局はただの人なのたろう、と感じました。

「異世界Dの家族の肖像」
人間が生み出したぐるぐると巡る生態系を描いた作品。神話的。

「宇宙で最高の美をめぐって」
最高の美をめぐってたくさんの人が大騒ぎして駆け回る物語。美は善にも悪にもなりうる、というラストの言葉には考えさせられました。

「戦争の起源」
楽園に資本主義が持ち込まれてしまうという物語。

とにかく、『戦争を演じた神々たち』の面白さは読まないことには分からないです。あらすじを説明しても全然面白さが伝わらない。物語はぎゅっと凝縮されているので、さくさく読むことが出来ます。おすすめ。

第15回日本SF大賞受賞作。


今日読んだ本
大原まり子『戦争を演じた神々たち』

今読んでいる本
牧野修『偏執の芳香 アロマパラノイド』
たくさんの写真が印象的でした。
「岩波ジュニア新書」の中の1冊だけど、ジュニアじゃない人にも読んで欲しい本だと感じました。現場に赴いて事実を知り、それを語ろうとする豊田直巳さんの視点・立場は素晴らしいと感じました。とても読みやすくて分かりやすい文章も良かったです。僕が知りたいと思っていたことが書かれていたので、とても面白く読むことが出来ました。戦争を止めたい―フォトジャーナリストの見る世界
僕も、イラク戦争に協力する日本政府に対して違和感を覚えることがあります。というより、自衛隊派兵はおかしいのでは、と思っています。だけど、高校生がそのような感想を抱いても、それはただの感想にしか過ぎません。

しかし豊田直巳さんは実際に戦地へ赴いて事実を確認しています。だから豊田直巳さんの書くものには裏付けがあるということになります。「政府による「人道支援」よりも、ペシャワール会による支援の方がより大きなものをアフガニスタンにもたらした」「イラク人にとってはフセインもアメリカも変わらない」と書かれていますが(そして、現地に赴いた多くの人が同じことを言っている)、それなのにテレビはそのような情報を報道しません。

どうして事実が伝わらないのか。日本のマスコミはどうしてこうも頼りにならないのか(アメリカと、そして日本政府の視点偏重なのか)。本当に考えさせられました。人道支援・国際援助などといって、日本政府は色々なことをやっていますが、それは本当の人道支援にはなっていないのでは(アメリカに対して媚びを売っているだけでは)? としっかり追求すべきだろうと思いました。

『週間金曜日』とか、『通販生活』とかを読んでいるので、僕は一応、劣化ウラン弾のことと、それが白血病を生んでいる(としか考えられない)ということを知っています。でも周囲でそれを知っている人はあまりいません。多分、事実を知らない人たちは自分達が何を知らないかということを分からないから、知ろうともしないのだろうと思いますが、それで良いとは思えないです。

悪事を傍観することは、悪事に加担することと等しいとも言えるわけだから。知らなかったなどという言葉は言い訳にはならない。

最後、沖縄、さらに東京に話を持ってくるところが良かったです。ぐっと身近に感じました。

多くの人にとっては沖縄の出来事さえも遠いのかも知れないけど、僕は修学旅行で沖縄へ行ったことを思い出します。渡嘉敷のガマの中で、親を殺してしまったという金城重明さんは「集団自決」という言葉を避け、「集団強制死」があったと語ってくれました。とても重い内容でした。

けど、金城重明さんの言葉が持つ重み全てを僕が受け止めて理解するのは不可能だけど、そこで理解できないと諦めるのは逃げているだけなのだから、卑怯だろうとも思いました。というか、そんなふうに人の思いに心を馳せることは無理と言い出したら、歴史に学ぶことが不可能になってしまう・・・

とか、うだうだ考えている間にも、どこかで誰かが殺されているのかも知れない、いや、いるのだろうと思うと本当にどうすれば良いのか分からなくなります。そして、実際に行動している豊田直巳さんやその他多くの人たちの凄さも分かります。昨年の学習発表会では、自森の図書館に『週刊金曜日』編集長代理の片岡伸行と、『DAYS JAPAN』編集部の樋口聡という方が来て、語ってくれました。

その時にも感じたのですが、文章にしろ、写真にしろ、どのような方法でも良いから、事実を発信していこうとする動きがもっと拡大してくれたら良いなぁと感じました。豊田直巳さんにもぜひ頑張って欲しいです。とはいえ、それを他人事のように捉えてはいけない、とも感じました。僕も、自分の出来うる範囲で、自分が正しいと思うものに対して賛同したり、広めたりしていこう(具体的には買うという行為になったりするのかなぁ)、と思います。とはいえ、言うは易しで、そこが本当に難しいんだけど・・・


今日読んだ本
豊田直巳『戦争を止めたい―フォトジャーナリストの見る世界』

今読んでいる本
大原まり子『戦争を演じた神々たち』
★★★

著者:  永井均
出版社: 講談社

  ●悪いことはなぜしてはいけないか

  ●ぼくはなぜ存在するのか

  『<子ども>のための哲学』は、2つの問いを永井均が突き詰めて考えていく本。まぁ書いてあることは分からなくもないけど、すすんでいくにつれ、なんだか言いくるめられているような気分になってきます。なんか、どこかおかしいような感じがするんだけどなぁ。

  「道徳っていうのはまやかしだ、ウソだ」「だけどそれがあることによって世の中が良くなる」という部分には違和感を覚えます。確かにその通りかも知れないけど、結果として「まやかし」が世の中の秩序を保っているというのなら、それは「まやかし」ではないのではないか。というか、誰かが「道徳」を「まやかし」と気付いた時点で「道徳」は「まやかし」になるんじゃないかなぁ。

  そういう訳じゃないのか・・・ 分からない。とても難しい。ややこしい。哲学って考えれば考えるほどどんどん難しくなっていくなぁ。いやぁ、答えをださないために考えているような気分になってきます。そもそも「考える」っていうのはなんだろう。「考える」という言葉の意味を考えだすともっと意味が分からなくなってきます。思考とはいったい何だろうか・・・・・

  う~ん、「極端に言えば哲学っていうのはようするに病気だ」という言葉はまさにその通りかも知れない。

  誰かの哲学を追っていっても、だめだ。自分で哲学しなければ、哲学にはならないんだ、というラストの辺りの文章が印象的でした。


自森人読書 <子ども>のための哲学
『アイスクリン強し』
連作短編集。『序』『チョコレイト甘し』『シュウクリーム危し』『アイスクリン強し』『ゼリケーキ儚し』『ワッフルス熱し』収録。

舞台は明治の東京。主人公は、皆川真次郎(ミナ)。彼は、西洋菓子屋・風琴屋を営む青年。居留地で育ったため、ピストルの扱いが上手。彼は、毎回のように厄介事を持ってくる元武士の巡査・長瀬らとともにいろんな事件を解決していきます。そして、そこにいろんな形で女学生の小泉沙羅が絡んできます。彼らの毎日には何もない日などありません・・・

それなりに面白いのですが、やっぱり畠中恵は詰めが甘いような感じがします。西洋菓子が単なる小道具と化していて、全然おいしそうではありません。

『美味礼讃』などを読んで料理人達のこだわりを知った後で、こちらを読むと、主人公真次郎が料理人として失格としか思えないです。だって、真次郎は、(諸事情あったとはいえ)急ごしらえで料理をつくってそれを出すのだから。

しかも、畠中恵は「明治時代」を書こうとしているみたいなのですが、明治期の貧困などの問題をさらっと扱っているから、「時代を包む早急な雰囲気」と、それが生み出す危険性が全く伝わってこない。

登場人物たちは多すぎてごちゃごちゃしている上に、書き込みが少なくて存在感が希薄。真次郎や巡査らは「俺ら金欠」と連呼するのですが、そのわりにはみんな根本的に裕福な中流階級の人たちだから、全然危機的に思えない。どうせ沙羅の財布があるんだし。しかも、成金の商人・小泉琢磨氏は頭良すぎ。日本は戦争に勝ったら増長するから負けた方が良い、とかそんなこと言い切れる「成金」なんてありえないだろう・・・

リアリティが感じられません。


今日読んだ本
畠中恵『アイスクリン強し』

今読んでいる本
豊田直巳『戦争を止めたい―フォトジャーナリストの見る世界』
SF小説。
『アイの物語』
近未来、地球はアンドロイドによって支配されていました。そんな中、ロボットを襲って食料を奪っていた「語り部」の青年は、美人のアンドロイドと闘って敗れ、捕まってしまいます。彼は殺されるのかと脅えるのですが、アンドロイド・アイビスは物語を語り始めました・・・・・
『宇宙をぼくの手の上に』『ときめきの仮想空間』『ミラーガール』『ブラックホール・ダイバー』『正義が正義である世界』『詩音が来た日』『アイの物語』といった短編の間に、青年とアイビスの会話(インターミッション)が挟まっています。

豪華です。しかし、そのわりにはソフトな読み心地。

アイとは何であるのか、というその一点がこの物語の肝。たくさんの意味が込められています。

アイビスの語る物語はどれも綺麗なはなしばかり。しかし、アイビス(そして作者である山本弘)は、その綺麗過ぎということを逆手にとります。「現実よりも素晴らしいフィクションのどこがいけないのか?」と問いかけてくるのです。美しい物語にこそ真実は宿っている、物語には共感を創る力がある、というその主張には共感します。

心の中につくった仮想空間に閉じこもってしまう人間の心の作用を、アイビス達アンドロイドはゲドシールドと呼びます。そして、彼女は人間を憐れみ、そしてその誤りを静かに指摘します。作者山本弘も同じ考えなのだろうと思います。彼は「と学会」の会長です。真実を拒絶し、トンデモないことを言い続ける人たち(ゲームをしすぎるとバカになるとか、アポロ11号の月面着陸はウソだったとか、超古代文明は存在したとか)の本をたくさん読み、紹介してきた人です。彼の言葉だからこそ説得力があります。

とにかく強いメッセージ性を持った小説。僕は強く共感しました。「人間はみな痴呆症」「連綿と続いていく記憶だけが世界を断絶から救う」というアンドロイドの言葉は感動的。そして、ただ許容して欲しい、というアンドロイドの言葉が素晴らしすぎる。


今日読んだ本
山本弘『アイの物語』

今読んでいる本
畠中恵『アイスクリン強し』
SFミステリ。
『人格転移の殺人』
ファーストフード店にいた6人の男女は、突然の大地震に遭遇して怪しげなフィルターに逃げ込みます。ですが、それは数十年前アメリカ政府が研究し続けたのに、その仕組みを解明できなかった、不可思議な人格転移装置でした。男女の中の一人、江利夫は起きると自分の心が別人の体の中に入っていることに気付きます。彼は、他の人とともに話し合おうとするのですが、そんな誰が誰か分かりづらい複雑な状況の中で、突如として連続殺人事件が起こります。さて、誰が誰を殺したのか?

不思議なシステムが面白い物語を形作っていますが、状況を把握することがまず面倒です。これを考えた西澤保彦は凄い。

全ての謎のヒントは最初から示されています。そこも凄い。


今日読んだ本
西澤保彦『人格転移の殺人』

今読んでいる本
山本弘『アイの物語』
『三文オペラ』
どうしようもない人たちがどうしようもないことを繰り返す劇。
名作だそうですが、読んでも良さがわからなかったです。いかにも、安っぽい感じが良いのだろうか。


今日読んだ本
ベルトルト・ブレヒト『三文オペラ』

今読んでいる本
西澤保彦『人格転移の殺人』
SF小説。
『戦闘妖精・雪風<改>』
突如として南極大陸に出現した超空間通路を通って、未知の存在ジャムが地球に攻め込んできた。それに対して人類は必死で反撃し、ジャムを地球から撃退することに成功する。そして逆に、通路の向こう側にある惑星フェアリイにFAFを派遣してジャムを押し込めようとするが、そこでは一進一退の攻防が続いていた。
そのフェアリイを部隊に活躍しているのが、特殊戦の深井零。彼は戦術戦闘電子偵察機・雪風に乗り込んで雪風とともに、孤独な戦いを続ける。彼の任務は、味方を見捨ててでも戦闘の情報を得て、それを持ち帰るというものだった・・・

加筆訂正と新解説が加わった改訂版だそうです。

いかにもSFっぽい設定と文章を楽しめました。とくに戦闘の場面は凄いなぁ、と感じました。未知なる存在との戦闘機による戦いの描写がぎっちりと詰まっています。

物語の中に、「人間とは何か?」という問いが含まれていてとても考えさせられました。
非人間的だとよく批判される主人公、深井零はけっこう情に篤い男です。それでは「人間的」とはどういうことなのか。利己的に振る舞って他人を顧みないと冷酷といわれるのだから、逆に言えば「他者との協調」こそが人間性の発露なのかも知れない。でも、結局は自分の世界に生きている自分が「他者と繋がる」ためにはどうすれば良いのか。
本当に難しい・・・

神林長平がよくテーマとして扱うものに「言葉」と「機械」があるそうですが、人間というものをどう捉えるか考える時、その2つは欠かせないなぁ、と感じました。自分の利便のために存在しているものなのに、使っているうちに自分の意思を離れていくものとどう付き合うのか。

そういえば、『スカイ・クロラ』はこの小説の影響を受けているのだろうなぁ、と感じました。


今日読んだ本
神林長平『戦闘妖精・雪風<改>』

今読んでいる本
ベルトルト・ブレヒト『三文オペラ』
津原泰水の連作短編集。『反曲隧道』『蘆屋家の崩壊』『猫背の女』『カルキノス』『ケルベロス』『埋葬虫』『水牛群』収録。
『蘆屋家の崩壊』
30になってもぶらぶらしている俺と、伯爵と呼ばれている怪奇小説作家の物語。毎度、彼らが不思議な事態と遭遇します。

タイトルは、『アッシャー家の崩壊』のパロディだけど、中身は違います。ミステリのような、ホラーのような、ファンタジーのような、SFのような作品。日常の中に忍び込んでくる怪奇を描き出した小説。まず最初にある『反曲隧道』が良いです。いかにもこれから幻想の世界にお連れしますよ、という雰囲気で。

『埋葬虫』が一番怖いです。
猿渡は学生時代の旧友と再会し、年代もののカメラを借りるのですが、その時森の写真を撮ってきて欲しいと頼まれます。そのカメラは、旧友のものではなく、彼の会社の後輩のものでした。彼とその後輩は、ともにマダガスカルへ行ったのですが、後輩は虫を食ったために体を虫に乗っ取られ、もう長くなくて、森の写真を見たいというのが末期の頼みだったのです・・・

主人公がハードボイルドチックな格好付けた正しい男なのがいまいちでした。語り手すら信用できないような恩田陸の小説のあとに読むとちょっと見劣りする、というか。けど、『蘆屋家の崩壊』も充分面白いです。ぞくっとします。


今日読んだ本
津原泰水『蘆屋家の崩壊』

今読んでいる本
神林長平『戦闘妖精・雪風<改>』
『あずまんが大王 2』
面白い。というかおかしい・・・ けど、どちらかというと『よつばと!』の方がもっと面白い気もします。

『SFが読みたい! 2000年版』ベストSFは読んでいない本だらけ・・・
『SFが読みたい! 2000年版』
ベスト10までの中に読んでいる本がないです(かろうじて11位の『私と月につきあって』を読んだことがあったくらい)。

 1 藤崎慎吾 『クリスタルサイレンス』
 2 神林長平 『グッドラック 戦闘妖精雪風』
 3 谷甲州 『エリコ』
 4 新井素子 『チグリスとユーフラテス』
 5 森岡浩之 『夢の樹が接げたなら』
 6 牧野修 『偏執の芳香 アロマパラノイド』
 7 高見広春 『バトル・ロワイアル』
 8 田中啓文 『水霊 ミズチ』
 9 山之口洋 『オルガニスト』
10 津原泰水 『蘆屋家の崩壊』

この頃はまだグレッグ・イーガンが新人だったのが意外でした。あと、裏表紙の宣伝が『イティハーサ』だったので、おーと思いました。


今日読んだ本
あずまきよひこ『あずまんが大王 2』
SFマガジン編集部・編『SFが読みたい! 2000年版』


今読んでいる本
津原泰水『蘆屋家の崩壊』
神林長平『戦闘妖精・雪風<改>』
『「ケータイ時代」を生きるきみへ』
著者の尾木直樹さんは以前、自由の森学園の公開教育研究会に来て、講演してくれたことがあります。
その時のテーマは『いじめ』でした。尾木直樹さんは「いじめられている側に頑張れ、と声をかける日本の文化人たちはおかしい。たとえば、児童文学作家あさのあつこ。『いつか輝ける日が来る。その日まで頑張れ』などと新聞に書いているが、全く状況を理解できていない。今にも自殺してしまうかもしれないのに」というようなことを述べていました。非常に的を射ているのではないか、と感じました。
なのでこの本をまず手に取り、感想を書こうかなぁと思いました

いろいろな危険が具体的に書かれていて、分かりやすかったです。

「単純にケータイを否定するだけではだめだ。ケータイとどう付き合っていくか考えないといけない」という尾木直樹さんの立場には賛成です。愛知の高校生達の活動、私学フェス(私学助成金削減反対/公私格差是正を求める活動。パレードなどでは毎年1万人とか集めてる)では、ケータイをフル活用しているそうです。ケータイは使い方によっては強い武器になるわけです。


今日読んだ本
尾木直樹『「ケータイ時代」を生きるきみへ』

今読んでいる本
あずまきよひこ『あずまんが大王 2』
『高円寺純情商店街』はなかなか面白かったです。


ねじめ正一自身の少年時代の経験をもとにして、高円寺商店街の日々の風景を描き出した小説。ほのぼのとしていますが、正一少年の小さな不満などもきちりとかかれていてよかったです。共感しました。

しかし、「懐かしく温かい商店街」の風景自体には思いを馳せることができませんでした。過去にはそんな時代もあったのか(少し美化されているにしろ)、と感じだけでした。

彼は江州屋のせがれ。「削りがつをと言えば江州屋」という言葉が示すとおり、彼の家は乾物屋でした。彼は自分の家の家業を少しいやだなと重いながら、でもやっぱりいやだとは言えず、すこし良いかもとも思っているのですが・・・

直木賞受賞作。


今日読んだ本
ねじめ正一『高円寺純情商店街』

今読んでいる本
尾木直樹『「ケータイ時代」を生きるきみへ』
昨日、自由の森学園の学校説明会がありました。
鬼沢さんの学校説明が素晴らしかったです。少し遠慮気味のような気もしたけど、あれくらいでちょうど良いのかもしれない。とにかく、自由の森学園の学校の考え方と、方針を余さず伝えていました。理路整然としていました。

内沼さんの司会も良かったです。あと、写真部のスライド写真と自森の感想も良かったです。周辺の風景写真がもう少し欲しいと感じたけど、それは僕の勝手な感想。

聞いていて感じたのですが。きれいごとは捨てて、きれいごとを語らないと学校説明会にならない、と感じました。つまり「自森のありのままを伝えようとする」のではなくて、「自森の素晴らしいところ」を強く強調しないといけない。そうしないと学校説明にならない・・

カメラを持っていくのを忘れてしまい・・・ 写真なしです。
読んでいて、眩暈がしました。傑作だと思います。
『六月の夜と昼のあわいに』
『六月の夜と昼のあわいに』は恩田陸の短編集。『恋はみずいろ』『唐草模様』『Y字路の事件』『約束の地』『酒肆ローレライ』『窯変・田久保順子』『夜を遡る』『翳りゆく部屋』『コンパートメントにて』『Interchange』収録。

またまたいつもと同じなのか、と思いきや、やっぱり同じなのですが、なんだか感動してしまいました。今度はそれぞれの短編の前に、詩と絵が載っています。それ全体で1つの作品、ということなのだろうけど、全く意味が汲み取れません。愉快です。

現代美術みたいな感じ。恩田陸の方がもう少し親切かもしれないけど。

『窯変・田久保順子』は唐突です。あまりにもブラック。これは、一種のジョークなのだろうか。笑えない・・・

『Interchange』は感動的。

全体的に不思議な味がします。


今日読んだ本
恩田陸、杉本秀太郎『六月の夜と昼のあわいに』

今読んでいる本
ねじめ正一『高円寺純情商店街』
『蔭の棲みか』は玄月の短編集。
『蔭の棲みか』
『蔭の棲みか』
主人公は、「枯れた」老人、ソバン。彼は、かつての戦争で機銃掃射を浴びたため右手首から先を失っていました。その彼の手と彼の存在はバラックの集まる集落では一種の伝説と化しています。ですが、老人自身はかつて息子に「なぜ日本軍人だったのか」と非難され、その上息子が学生運動に参加して死に、さらに妻も事故で失ってから無為の日々を過ごしていました。近頃では、ボランティアとして独居老人の訪問を行っている主婦・佐伯さんの訪問だけが楽しみとなっていたのですが・・・

『おっぱい』
完全に切れてしまったようでどこかつながっている祐司、由子夫婦のもとに、康先生と彼の盲目の娘、美花が訪ねてきます。彼らのつきあいはどこかぎくしゃくとしているのですが・・・

『舞台役者の孤独』
最も読みづらいです。勝手に物語を妄想する青年、望が主人公。彼は父母や弟を失い、さらには養ってもらっていた伯父叔母を失う中で、死というものを上手に認識できなくなっていました。けれど弟の死を忘れることはないように、公園の滑り台のところにきて、韓国教会の十字架の影を眺めていたのですが・・・

どの短編にも在日韓国人や不法滞在者の人たちが登場します。作者、玄月自身も在日韓国人だそうです。

独特の暗い雰囲気を持っています。

収録されている3つの物語をどのように解釈すれば良いのか、考えてしまいます。在日韓国人の歴史そのものを背負っているかのような老人、ソバンは最終的に、「単一民族国家」日本を守ろうとする官憲に噛み付きます。それは、過去を清算するための攻撃だとは思えません。もしもそうだとしたら誰も救われない。無邪気な「単一民族国家」という考えに対する反抗ではないか。

『おっぱい』は、第121回芥川賞候補作。『舞台役者の孤独』は第8回小谷剛文学賞受賞作。『蔭の棲みか』は第122回芥川賞受賞作。


今日読んだ作品
玄月『蔭の棲みか』
玄月『おっぱい』
玄月『舞台役者の孤独』


今読んでいる本
恩田陸、杉本秀太郎『六月の夜と昼のあわいに』
堀江敏幸『雪沼とその周辺』
雪沼とその周辺に生きる人たちの姿を描き出した連作短編集。『スタンス・ドット』『イラクサの庭』『河岸段丘』『送り火』『レンガを積む』『ピラニア』『緩斜面』収録。それぞれの物語は微妙にリンクし合っています。

『スタンス・ドット』が最も印象的でした。その日限りでボウリング場を閉める老人と、そこにトイレを借りるため偶然入ってきた男女の物語。

日常の一場面を静かに切り取った短編ばかりが集められています。全体的に何もないようでいて温かいです。

だけど、どこかに寂しさも併せ持っているような気がしました。登場人物に年を取った人が多いためかも知れない。多くのものを失い、深い悲しみや暗がりを抱えてそれでも生きていく彼らの心情がにじみ出ているのではないか。そうではなくて、彼らだけでなくて雪沼という町自体が世間の喧騒に取り込まれなかった代わりに、ぽつんと取り残されてしまったのかも知れない。

「雪沼」というくらいだから、雪が降ってくるのかと思いきや、回想のシーンにしか登場しません。雪のことを思うと、どれだけのことが書かれていないのか、この物語の中に収まりきらないものがどれほどあるのか、ということを考えてしまいます。巧いというしかないです。

非常に上品な小説。

『スタンス・ドット』は、第29回川端康成文学賞受賞。『雪沼とその周辺』は、第40回谷崎潤一郎賞・第8回木山捷平文学賞受賞。


今日読んだ本
堀江敏幸『雪沼とその周辺』

今読んでいる本
玄月『蔭の棲みか』
『白い夏の墓標』
主人公は佐伯教授。彼はパリの国際ウイルス会議に出席し、講演を行います。その直後、突然アメリカの元学者ベルナールなる老人から声を掛けられました。ベルナールは、事故死したと伝え聞いていた元同僚・黒田が実は事故死ではなかったと告げます。佐伯は半信半疑ながらも、ベルナールに教えたらたピレネー近くの田舎へと赴き、黒田の墓と対面します・・・

帚木蓬生のデビュー作。

作者・帚木蓬生が医者だからか、細胞などについての説明は細かいです。半分くらいは理解できなかったです。難しい・・・

全体的に少し単調なのですが、細部にわたる描写は素晴らしいです。静かで息詰まる物語です。多分、サスペンスに分類されるものだろうけど、恋愛小説としても読めます。

帚木蓬生の、人への信頼のようなものが表れた作品。


今日読んだ作品
帚木蓬生『白い夏の墓標』

今読んでいる本
堀江敏幸『雪沼とその周辺』
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