『殺人協奏曲』はスペインの小説。三部構成。マルコスという男の物語。霊界ではどの時代にマルコスを送り込むか検討しました。そして様々な時代に送り込むのですが、彼が善い人間なのか悪い人間なのか明確にはなりません。
第一部ローマ 紀元七八年
物語の舞台はウェスパシアヌス帝統治下のローマ。デナリウスという男が現れ、蒸気機械をつくりだします。彼はそれを大量生産するべく計画をたてます。マルコスは研究者としてそれに協力し、その中でメラニアという女性と出会い、仲良くなりました。ですが、彼らの発明はアドルフスの帝国転覆計画に利用されそうになり・・・
第二部ワシントン 二〇一六年
物語の舞台は大統領選挙間近のワシントン。その中で、ナショナルデモクラシー党を率いるアドルフ・スターンは民主的に独裁政権を築こうとします。彼が利用したのは、3人のラマ僧が持っている超能力でした。その力を用いてテレビ越しに民衆を操作しようとしたのです。それに、マルコスとメラニアは協力してしまうのですが・・・
第三部パリ 一七七六年
物語の舞台はフランス革命間近のパリ。悪辣なアドルフは、権力を握るために革命を起こそうとしていました。そして、電気を用いて敵対者を殺そうとします。それに、マルコスとメラニアは協力してしまいます。
変則的な歴史小説。
歴史の中に存在する法則性のようなものを明らかにすることを目指しているようです。一途に新たなものを発明しようとする男マルコスと、彼に惹かれる女メラニアとその新発明を利用して権力を握ろうとする男アドルフと彼に惹かれる女セリアがいつでも登場。その図式は崩れません。
なかなかに凝っています。スペインには面白い小説があるのだなぁ、と感じました。
読んだ本
フワン・ラモン・サラゴサ『殺人協奏曲』
読んでいる最中
カート・ヴォネガット『スローターハウス5』
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電氣人閒というのは、一部の地域でしか語り継がれていない奇怪な都市伝説でした。電氣人閒とは次のようなものなのだそうです。「語ると現れる。人の思考を読む。導体を流れ抜ける。電気で綺麗に人を殺す。かつて旧軍により作られたらしい」。電氣人閒のことをレポートのテーマとして取り上げた女子学生が不審な死を遂げます。いったい何が起こっているのか・・・
捻くれたミステリのようなホラーのような怪奇小説なのかなぁ。
様々な決まりごとを提示し、それを破らないところは本格ミステリのようです。フリーライター詠坂雄二が強引に論理的なオチをつけ、事件を終わらせるところまでは確かにミステリの枠内に収まっています。
ですが、その先にまだトンデモない結末が待ち受けています。様々な設定(語ると現れる。人の思考を読む。導体を流れ抜ける。電気で綺麗に人を殺す」)が巧みに用いられていたということに気付かされます。少しアンフェアではないかとも感じますが、面白いので構わないとも感じます。
詠坂雄二というキャラクターの台詞に注目するとラストがわかってしまいます・・・ メタミステリのよう。
最後の2行がとくに愉快です。
読んだ本
詠坂雄二『電氣人閒の虞』
読んでいる最中
森見登美彦『四畳半神話大系』
コスモポリタンズ
『コスモポリタンズ』はサマセット・モームの掌編小説集。『素材』弁護士メイヒュー』『隠者ハリー』『幸福者』『夢』『異国の土』『ランチ』『漁夫の子サルヴァトーレ』『生家』『物識先生』『家探し』『困ったときの友』『ある紳士の自画像』『落ち行くさき』『審判の座』『蟻とキリギリス』『フランス人ジョウ』『傷痕のある男』『詩人』『ルイーズ』『店じまい』『約束』『真珠の首飾り』『物もらい』『ストレート・フラッシュ』『会堂守り』『洗濯盥』『社交意識』『四人のオランダ人』収録。
奇想天外な人生を送った人に寄り添った掌編がとくに面白いです。
『フランス人ジョー』
木曜島でであったジョゼフ・ドゥ・パオリという男の物語。彼は、ナポレオン・ボナパルトとも血縁なのだと名乗ります。ロシア軍やプロシャ軍と闘い、帝政が滅ぶと共産党員になり、そのために逮捕されてニュー・カレドニアに流刑になるのですが長い航海に乗り出して脱出。料理人になったり、フランス語を覚えたり金鉱で働いたり、飢えたり、そして未開の奥地へ赴き、王様になります。しかし、イギリスと衝突して放逐され、木曜島において真珠採取船体の船主になるのだけど、持ち舟が全て嵐で沈没してしまい、今では病院に収容されているのだそうです。老人は自分は不幸だし、神は信じていないよ、告げます。そしてオチは。
<「わしにはなんにも望むものなんかないよ」と彼はいった。「ただ死にたいと思うだけさ」彼の黒い光った眼が輝いた。「しかしともかく、もしタバコを一箱いただけるのだったら、かたじけなく思うね」>
あとは、『ランチ』に登場する女性も凄いです。私を翻弄しまくり、高額のランチをすべておごらせ・・・
読んだ本
サマセット・モーム『コスモポリタンズ』
読んでいる最中
森見登美彦『四畳半神話大系』
『コスモポリタンズ』はサマセット・モームの掌編小説集。『素材』弁護士メイヒュー』『隠者ハリー』『幸福者』『夢』『異国の土』『ランチ』『漁夫の子サルヴァトーレ』『生家』『物識先生』『家探し』『困ったときの友』『ある紳士の自画像』『落ち行くさき』『審判の座』『蟻とキリギリス』『フランス人ジョウ』『傷痕のある男』『詩人』『ルイーズ』『店じまい』『約束』『真珠の首飾り』『物もらい』『ストレート・フラッシュ』『会堂守り』『洗濯盥』『社交意識』『四人のオランダ人』収録。
奇想天外な人生を送った人に寄り添った掌編がとくに面白いです。
『フランス人ジョー』
木曜島でであったジョゼフ・ドゥ・パオリという男の物語。彼は、ナポレオン・ボナパルトとも血縁なのだと名乗ります。ロシア軍やプロシャ軍と闘い、帝政が滅ぶと共産党員になり、そのために逮捕されてニュー・カレドニアに流刑になるのですが長い航海に乗り出して脱出。料理人になったり、フランス語を覚えたり金鉱で働いたり、飢えたり、そして未開の奥地へ赴き、王様になります。しかし、イギリスと衝突して放逐され、木曜島において真珠採取船体の船主になるのだけど、持ち舟が全て嵐で沈没してしまい、今では病院に収容されているのだそうです。老人は自分は不幸だし、神は信じていないよ、告げます。そしてオチは。
<「わしにはなんにも望むものなんかないよ」と彼はいった。「ただ死にたいと思うだけさ」彼の黒い光った眼が輝いた。「しかしともかく、もしタバコを一箱いただけるのだったら、かたじけなく思うね」>
あとは、『ランチ』に登場する女性も凄いです。私を翻弄しまくり、高額のランチをすべておごらせ・・・
読んだ本
サマセット・モーム『コスモポリタンズ』
読んでいる最中
森見登美彦『四畳半神話大系』
物語の舞台は近未来の地球。人格や意識や記憶さえもコンピュータの中に取り込むことが可能になり、富豪たちは<コピー>としてコンピュータの中でいつまでも生き続けるようになります。そこへ、ダレムという男が現れます。彼は、たとえ宇宙が消滅しても安全でいられる場所を見出すことができると言い出すのですが・・・
随分と難解なSF小説。
主な主人公は二人。ポールとマリアです。ポールはポール・ダラムの<コピー>(つまり仮想世界の住人)。マリアは「オートヴァース」というモデル世界を弄くることを趣味にしている現実世界の女性。そして、そこに大富豪トマス・リーマンの〈コピー〉の物語と、やはり〈コピー〉のピー、ケイトの物語が絡んできます。視点がくるくるとかわるので混乱しますが、それさえつかめれば、だいたい分からないことはありません。
<コピー>のような存在が生まれとき、社会はどのようにそれを受け入れるのか考えさせられます。「コンピュータの中に住む人間」として扱うのか、それとも「ソフトウェア」として扱うのか。物語の中で、<コピー>は単なる「ソフトウェア」として扱われています。
それを突き詰めて考えていくと、人間とは何なのか、という問いに突き当たります。コンピュータによって再現された人間が、人間といえるのか。物語の中でも多くの人間がその問いに悩まされています。読者も悩まされることになります。
そのような中で、ポールは驚くべき事実を発見します。少し理解し難いのだけど、下巻はそのはなしになるのかなぁと思います。
読んだ本
グレッグ・イーガン『順列都市〈上〉』
読んでいる最中
サマセット・モーム『コスモポリタンズ』
★★★
著者: 東野圭吾
出版社: 講談社
ミステリをからかった、自虐的/パロディ的な連作短編ミステリ小説集。名探偵・天下一大五郎と、警部の大河原番三が活躍。2人は、ありがちで陳腐なストーリーと、ミステリ小説にはいつも存在する「暗黙の了解」の数々と、自分に割り振られた役割に呆れ、そしてうんざりしながらも次から次へと事件を解決していきますが・・・
『名探偵の掟』の中で、東野圭吾はそこらへんに転がるありきたりで安直で型にはまりきったミステリを痛烈に風刺します。そういうものがミステリ小説をだめにしていく、と彼は慮っているのだと思います。この本はかなり笑えます。しかし笑えるだけでなくて考えさせられもします。
パターン化して、袋小路に陥る本格ミステリというものをどうするのか、と東野圭吾は問うています。彼がミステリと真摯に向き合っているということがよく分かります。
これが、1996年に刊行されたのは象徴的。1996年にはメフィスト賞が誕生し、そこから「薄っぺらい」「どれ読んでも同じ」「ミステリではなくてキャラ小説」と酷評されることもある(僕は面白いと思うけど)森博嗣や、本格ミステリをぶち壊すような壮大な法螺吹き清涼院流水や、真剣なミステリのアホらしさを暴き、ゲテモノと酷評された蘇部健一が現れることになります。
「名探偵の登場」「不可解な謎(トリック)」「謎の論理的かつ鮮やかな解明」を大切にする「本格ミステリ」というものがこれからも生き残っていくことは可能なのか。出せば売れるということで、ミステリ界の(どころか出版業界全体の)守り神のような位置を占める東野圭吾が、本格ミステリを大切にしてくれているというのは、本格ミステリにとって幸運なことではないか。
『名探偵の掟』は東野圭吾の「本格ミステリ」への真摯な態度(というか、愛なのか)がよく分かる1冊です。
自森人読書 名探偵の掟
著者: 東野圭吾
出版社: 講談社
ミステリをからかった、自虐的/パロディ的な連作短編ミステリ小説集。名探偵・天下一大五郎と、警部の大河原番三が活躍。2人は、ありがちで陳腐なストーリーと、ミステリ小説にはいつも存在する「暗黙の了解」の数々と、自分に割り振られた役割に呆れ、そしてうんざりしながらも次から次へと事件を解決していきますが・・・
『名探偵の掟』の中で、東野圭吾はそこらへんに転がるありきたりで安直で型にはまりきったミステリを痛烈に風刺します。そういうものがミステリ小説をだめにしていく、と彼は慮っているのだと思います。この本はかなり笑えます。しかし笑えるだけでなくて考えさせられもします。
パターン化して、袋小路に陥る本格ミステリというものをどうするのか、と東野圭吾は問うています。彼がミステリと真摯に向き合っているということがよく分かります。
これが、1996年に刊行されたのは象徴的。1996年にはメフィスト賞が誕生し、そこから「薄っぺらい」「どれ読んでも同じ」「ミステリではなくてキャラ小説」と酷評されることもある(僕は面白いと思うけど)森博嗣や、本格ミステリをぶち壊すような壮大な法螺吹き清涼院流水や、真剣なミステリのアホらしさを暴き、ゲテモノと酷評された蘇部健一が現れることになります。
「名探偵の登場」「不可解な謎(トリック)」「謎の論理的かつ鮮やかな解明」を大切にする「本格ミステリ」というものがこれからも生き残っていくことは可能なのか。出せば売れるということで、ミステリ界の(どころか出版業界全体の)守り神のような位置を占める東野圭吾が、本格ミステリを大切にしてくれているというのは、本格ミステリにとって幸運なことではないか。
『名探偵の掟』は東野圭吾の「本格ミステリ」への真摯な態度(というか、愛なのか)がよく分かる1冊です。
自森人読書 名探偵の掟
★★★★
著者: 貫井徳郎
出版社: 東京創元社
残酷な連続幼女殺人事件が発生。捜査一課長・佐伯は必死で事件解決を目指しますが、捜査は難航。彼が、ある代議士の落としだねだったこと、キャリア組であること、その上妻が上司の娘であることなどが、周囲のノンキャリアの警官達の反発を買い、捜査本部の内部は分裂状態となります。しかも、メディアと世論は無能な警察を徹底的に非難。その上、佐伯が妻子と別居し、愛人宅に通っていたことが発覚し、徹底的に攻め立てられます・・・
捜査一課長・佐伯のシーンと、奇怪かつ不気味な新興宗教にはまっていく「彼」のシーンが、交互にテンポ良く流れていきます。
途中まではハードボイルドっぽい雰囲気。ミステリというよりは、サスペンスものとしての色合いが濃いです。なので、あまり好みの小説ではないかも知れない、と思いつつ読み進めていました。ですが最後のところで驚かされました。かなりよく考えられていることが分かります。叙述ミステリ。凄いです、これがデビュー作ということに驚かされます。
新興宗教の問題などを扱っているので、かなり重たいものを含んでいます。人の心の闇を抉り出したノワール小説(暗黒小説)としての一面を備えているわけです。それでいて一級のミステリ。まぁミステリを読みなれた人にとっては予想できるトリックなのですが、そこは肝ではない気がします。
最後のシーンには愕然とさせられます。重いものを目の前に突きつけられます。どこにも答えが見つけられないし、救いがありません。どうすれば良いのか、途方に暮れます。「彼」の苦しみが重くのしかかってきます。
自森人読書 慟哭
著者: 貫井徳郎
出版社: 東京創元社
残酷な連続幼女殺人事件が発生。捜査一課長・佐伯は必死で事件解決を目指しますが、捜査は難航。彼が、ある代議士の落としだねだったこと、キャリア組であること、その上妻が上司の娘であることなどが、周囲のノンキャリアの警官達の反発を買い、捜査本部の内部は分裂状態となります。しかも、メディアと世論は無能な警察を徹底的に非難。その上、佐伯が妻子と別居し、愛人宅に通っていたことが発覚し、徹底的に攻め立てられます・・・
捜査一課長・佐伯のシーンと、奇怪かつ不気味な新興宗教にはまっていく「彼」のシーンが、交互にテンポ良く流れていきます。
途中まではハードボイルドっぽい雰囲気。ミステリというよりは、サスペンスものとしての色合いが濃いです。なので、あまり好みの小説ではないかも知れない、と思いつつ読み進めていました。ですが最後のところで驚かされました。かなりよく考えられていることが分かります。叙述ミステリ。凄いです、これがデビュー作ということに驚かされます。
新興宗教の問題などを扱っているので、かなり重たいものを含んでいます。人の心の闇を抉り出したノワール小説(暗黒小説)としての一面を備えているわけです。それでいて一級のミステリ。まぁミステリを読みなれた人にとっては予想できるトリックなのですが、そこは肝ではない気がします。
最後のシーンには愕然とさせられます。重いものを目の前に突きつけられます。どこにも答えが見つけられないし、救いがありません。どうすれば良いのか、途方に暮れます。「彼」の苦しみが重くのしかかってきます。
自森人読書 慟哭
『私の家では何も起こらない』は恩田陸の連作短編集。『私の家では何も起こらない』『私は風の音に耳を澄ます』『我々は失敗しつつある』『あたしたちは互いの影を踏む』『僕の可愛いお気に入り』『奴らは夜に這ってくる』『素敵なあなた』『俺と彼らと彼女たち』『私の家へようこそ』『附記・われらの時代』収録。
ある女流作家は、小さな丘の上に建つ二階建ての古い家に住むことにします。しかし、その館は幾つもの悲惨な事件・出来事の舞台になっていて・・・
幽霊がでてくるし、随分と不気味な物語ばかりが収録されています。ホラーのようですが、さほど怖いわけではありません。いかにも恩田陸っぽい小説、としか書きようがないです。非常に微妙だし、しかもそれが面白さにも繋がっていない気もします。決して、つまらないというわけではないのですが。
女流作家というのは「O」という人。恩田陸か、と書くのも野暮か。
読んだ本
恩田陸『私の家では何も起こらない』
読んでいる最中
グレッグ・イーガン『順列都市〈上〉』
僕は、妻に去られてしまい、5歳の息子クイちゃんとともに日々を過ごしています。クイちゃんは幼稚園にいきません。そして、毎日のように容貌魁偉な便利屋・松井さんとその妹美紗ちゃんが住んでいる家に出掛けていきます。そして、僕と美紗ちゃんとともに稲村ガ崎周辺を散歩します・・・
いつものように理屈っぽい小説。
時間や空間といった目では見えないものを書こうとしているのではないか、と感じました。しかし、「見えないものを書こうとしている」という大雑把なまとめ方をされることを拒否している小説のような気もしました。だから、非常に扱いづらいのですが、非常に面白いことは確か。文字や言葉で掬い取れないものを掬い取ろうとしている小説のようにも感じました。
見えない物を扱っているのですが、決してスピリチュアルに走ることはありません。むしろ、主人公は非常に論理的、合理主義的な人間です。彼は真理があると思ってはいないし、世界を割り切ることは出来ない、と悟っています。
主人公である僕は、息子に文字を教えようとしません。彼は、書くことよりも考えることの方が大切なのだというふうに考えているからです。それが非常に印象的でした。別に文字を使わなくても、論理性を手に入れることはできるのだろうか、と考えてしまいました。
保坂和志の小説には、いつもふらふらしている登場人物がいます。その人物が、重要なテーマのようなものを漏らします。今回はゲイ二階堂がその役。「・・・いかにして、いまここにいるあんたやおれを受け入れられるか・・・」というようなことを彼は喋ります。『季節の記憶』のキーワードは「いまここ」か。
少し『よつばと!』のようだと感じます。子供に対して、どのように世界を説明していけばよいのか、と考える大人たちの姿が印象的でした。
平林たい子賞、谷崎潤一郎賞受賞作。
読んだ本
保坂和志『季節の記憶』
読んでいる最中
グレッグ・イーガン『順列都市〈上〉』
恩田陸『私の家では何も起こらない』
★★★
著者: いしいしんじ
出版社: 新潮社
主人公は、「トリツカレ男」とみんなから呼ばれているジュゼッペ。彼は夢中になるとそれに凝ってしまい、他のことを全て忘れてしまう男でした。オペラ、三段跳び、サングラス集めなどなんにでもトリツカレました。そんな彼は、ある時ペチカという少女に恋します。ですが、ジュゼッペは何に関しても器用なのに、ペチカに告白することはできませんでした・・・・・ ジュゼッペはペチカを幸せにするために影で奮闘することになります。
童話的な空気が漂っています。ファンタジックな純愛小説といえば良いのか。とにかく良い話です。短いのですっと読めてしまいます。
『~~男』というタイトルを見ると身構えてしまいます。2チャンネルの書き込みをそのまま本にしてしまった純愛もの『電車男』や、ものすごくトリッキーな本格ミステリ小説『ハサミ男』が頭の中にあったからです。しかも、最初タイトル見たときは、「トリ」とか「カツ」とか連想してしまいました・・・
ですが、『トリツカレ男』というタイトルからはまったく想像もできないような物語でした。まぁとにかく良い話なのです。直球です。とはいえほんわかしていて生々しさはないし、ほんともう欠点はどこにも見つかりません。もう文句は何も言えない・・・
しいて挙げるならば疑問が2つ。童話っぽいのに、薄暗い残酷さがないのでは単なる「良い話」になってしまうのではないか。深い暗示的な部分が欠けているのではないか(宮沢賢治みたいな深さがないのではないか、という意味です。まぁ宮沢賢治と比較するなんて酷なことですが・・・)。しかし、決してつまらないことはないです。おすすめです。
自森人読書 トリツカレ男
著者: いしいしんじ
出版社: 新潮社
主人公は、「トリツカレ男」とみんなから呼ばれているジュゼッペ。彼は夢中になるとそれに凝ってしまい、他のことを全て忘れてしまう男でした。オペラ、三段跳び、サングラス集めなどなんにでもトリツカレました。そんな彼は、ある時ペチカという少女に恋します。ですが、ジュゼッペは何に関しても器用なのに、ペチカに告白することはできませんでした・・・・・ ジュゼッペはペチカを幸せにするために影で奮闘することになります。
童話的な空気が漂っています。ファンタジックな純愛小説といえば良いのか。とにかく良い話です。短いのですっと読めてしまいます。
『~~男』というタイトルを見ると身構えてしまいます。2チャンネルの書き込みをそのまま本にしてしまった純愛もの『電車男』や、ものすごくトリッキーな本格ミステリ小説『ハサミ男』が頭の中にあったからです。しかも、最初タイトル見たときは、「トリ」とか「カツ」とか連想してしまいました・・・
ですが、『トリツカレ男』というタイトルからはまったく想像もできないような物語でした。まぁとにかく良い話なのです。直球です。とはいえほんわかしていて生々しさはないし、ほんともう欠点はどこにも見つかりません。もう文句は何も言えない・・・
しいて挙げるならば疑問が2つ。童話っぽいのに、薄暗い残酷さがないのでは単なる「良い話」になってしまうのではないか。深い暗示的な部分が欠けているのではないか(宮沢賢治みたいな深さがないのではないか、という意味です。まぁ宮沢賢治と比較するなんて酷なことですが・・・)。しかし、決してつまらないことはないです。おすすめです。
自森人読書 トリツカレ男
『1Q84』村上春樹(新潮社)○
『神様のカルテ』夏川草介(小学館)○
『神去なあなあ日常』三浦しをん(徳間書店)
『植物図鑑』有川浩(角川書店)○
『新参者』東野圭吾(講談社)○
『天地明察』冲方丁(角川書店)
『猫を抱いて象と泳ぐ』小川洋子(文藝春秋)○
『船に乗れ!』藤谷治(ジャイブ)○
『ヘヴン』川上未映子(講談社)○
『横道世之介』吉田修一(毎日新聞社)
柳広司『ダブル・ジョーカー』も、万城目学『プリンセス・トヨトミ』も、伊坂幸太郎『あるキング』も、山田詠美『学問』も、奥田英朗『無理』も、森見登美彦『恋文の技術』『宵山万華鏡』も入っていない・・・ まぁ半分くらいは予想当たったけど(○が予想したもの)。
しかし、万城目学/森見登美彦がそろって落ちてしまい、つまらないなぁ・・・
『神様のカルテ』夏川草介(小学館)○
『神去なあなあ日常』三浦しをん(徳間書店)
『植物図鑑』有川浩(角川書店)○
『新参者』東野圭吾(講談社)○
『天地明察』冲方丁(角川書店)
『猫を抱いて象と泳ぐ』小川洋子(文藝春秋)○
『船に乗れ!』藤谷治(ジャイブ)○
『ヘヴン』川上未映子(講談社)○
『横道世之介』吉田修一(毎日新聞社)
柳広司『ダブル・ジョーカー』も、万城目学『プリンセス・トヨトミ』も、伊坂幸太郎『あるキング』も、山田詠美『学問』も、奥田英朗『無理』も、森見登美彦『恋文の技術』『宵山万華鏡』も入っていない・・・ まぁ半分くらいは予想当たったけど(○が予想したもの)。
しかし、万城目学/森見登美彦がそろって落ちてしまい、つまらないなぁ・・・
★★★
著者: 川上弘美
出版社: 中央公論社
短編集。『物語が、始まる』『トカゲ』『婆』『墓を探す』収録。川上弘美が本として、一番最初にだしたのが短編集『物語が、始まる』だそうです(それまでも、SF雑誌や、ネットなどに作品を発表していたそうですが)。『物語が、始まる』というタイトルの1冊から、作家人生を始めるというのは、なんだか格好良いなぁと思います。
『物語が、始まる』
公園の砂場で拾った「雛型」とのラブ・ストーリー。私は「雛型」と一緒に住んでいる内に、これまでつきあっていた人となんとなく別れてしまいます。そして、「雛形」とともに暮らすことになりました。その2人はとても仲が良いのに、関係はどことなく微妙なまま。恋人にはなりきれないのですが。
随分とシュール。それなのに文章は柔らかいし、物語は自然に流れていくので、その不可解さに気付けなくなってきます。面白い。でも、ちょっと退屈。最後まで読むのが大変です。もう少しスリムにして欲しかったような気もします。
時折はさまれる文章の繰り返しが不思議な感じを醸し出しています。あとは、いろんな言葉を漢字ではなくてひらがなで書くところとかも不思議な感じ(「ぶぶん」とか)。川上弘美の文章は、噛みしめるとけっこう楽しめます。そこらへんが、芥川賞を受賞(後に出された『蛇を踏む』という小説で受賞)した理由、つまり純文学作家ということなのかなぁ。
川上弘美の小説を、もう少し読んでみようと思いました。
自森人読書 物語が、始まる
著者: 川上弘美
出版社: 中央公論社
短編集。『物語が、始まる』『トカゲ』『婆』『墓を探す』収録。川上弘美が本として、一番最初にだしたのが短編集『物語が、始まる』だそうです(それまでも、SF雑誌や、ネットなどに作品を発表していたそうですが)。『物語が、始まる』というタイトルの1冊から、作家人生を始めるというのは、なんだか格好良いなぁと思います。
『物語が、始まる』
公園の砂場で拾った「雛型」とのラブ・ストーリー。私は「雛型」と一緒に住んでいる内に、これまでつきあっていた人となんとなく別れてしまいます。そして、「雛形」とともに暮らすことになりました。その2人はとても仲が良いのに、関係はどことなく微妙なまま。恋人にはなりきれないのですが。
随分とシュール。それなのに文章は柔らかいし、物語は自然に流れていくので、その不可解さに気付けなくなってきます。面白い。でも、ちょっと退屈。最後まで読むのが大変です。もう少しスリムにして欲しかったような気もします。
時折はさまれる文章の繰り返しが不思議な感じを醸し出しています。あとは、いろんな言葉を漢字ではなくてひらがなで書くところとかも不思議な感じ(「ぶぶん」とか)。川上弘美の文章は、噛みしめるとけっこう楽しめます。そこらへんが、芥川賞を受賞(後に出された『蛇を踏む』という小説で受賞)した理由、つまり純文学作家ということなのかなぁ。
川上弘美の小説を、もう少し読んでみようと思いました。
自森人読書 物語が、始まる
『笑う月』は安部公房の短編集。小説のような、エッセイのような作品が17篇収められています。『催眠誘導術』『笑う月』『たとえば、タブの研究』『発想の種子』『藤野君のこと』『蓄音機』『ワラゲン考』『アリスのカメラ』『シャボン玉の皮』『ある芸術家の肖像』『阿波環状線の環』『案内人』『自己犠牲』『空飛ぶ男』『鞄』『公然の秘密』『密会』収録。
夢を扱ったエッセイと掌編が集められているのですが、どれも面白いです。不可解な小説を書くためにはどうすればいいか、少しだけ分かります。安部公房は、夢というものを小説に取り入れているそうです。
夢をそのまま使うというわけではないようですが、ネタにするみたいです。しかし、夢というものは随分と扱いづらいもののような気もします。他人の夢のはなしほどつまらないものはない、という言葉があります。『たとえば、タブの研究』は少し愉快。そこまで理詰めで考えるのか・・・
『公然の秘密』は、ちょうど自由の森学園日本語の授業で扱っているところ。一番小説っぽい作品。
読んだ本
安部公房『笑う月』
読んでいる最中
グレッグ・イーガン『順列都市〈上〉』
★★★
著者: 青来有一
出版社: 新潮社
「釘」「石」「虫」「蜜」「貝」「鳥」といった短編で構成されています。谷崎潤一郎賞受賞作じゃなかったら、多分一生手に取ることはなかっただろう作品。
長崎(平戸等)に生きる人々と、その地に投下された原爆を巡る物語。文章は決して難解ではありません。むしろさらさらして読みやすい部類に入ると思うのですが、中身はかなり難しいです。どういうふうに受け取れば良いのか悩みます。
テーマのひとつは、「信仰」。
原爆が投下されてしまって、それでもまだ神を信じられるのか? 原爆が落ちた瞬間に神は死んだのではないか? そう問う作中の人物もいます。しかし彼らは、それでも信仰を捨てはしません。「神様は原爆投下の時だけ偶然長崎から目を離していたのかも知れない、そうとしか思えない」と述懐する人がいます。ご先祖様の守ってきたキリスト教を捨てるなんて考えられない、と言う人もいます。
長崎には、古くからキリスト教信仰が存在していました。江戸時代には激しい弾圧を受けたこともあります。火炙りになりながら信仰を守った人も多いのです。だから、その伝統を引き継ぐんだ、というわけですが・・・
でも原爆が投下されて、それでもやっぱりまだ信じられるの? 神がいると断言できるか? 難しい問いです。
あと、「せっくす」もテーマなのではないか。「石」の語り手は知恵遅れの中年の男なのですが、彼は露骨というか純粋にセックスを望みます。欲望というのは何か。欲望をただ追いかければ、世間から外れてしまうのだけど、そこでどう折り合いをつけるのか。狂気や精神病もかなりでてきます。
そういういろんな要素が絡まりあって、かなり悩ませられる小説になっています。ですが文章と、その文章によって生まれている風景は美しいから、かなり複雑です。美しい自然の中に眠る人の暗闇を描いた小説と読めば良いのかなぁ・・・
第43回谷崎潤一郎賞受賞作。
自森人読書 爆心
著者: 青来有一
出版社: 新潮社
「釘」「石」「虫」「蜜」「貝」「鳥」といった短編で構成されています。谷崎潤一郎賞受賞作じゃなかったら、多分一生手に取ることはなかっただろう作品。
長崎(平戸等)に生きる人々と、その地に投下された原爆を巡る物語。文章は決して難解ではありません。むしろさらさらして読みやすい部類に入ると思うのですが、中身はかなり難しいです。どういうふうに受け取れば良いのか悩みます。
テーマのひとつは、「信仰」。
原爆が投下されてしまって、それでもまだ神を信じられるのか? 原爆が落ちた瞬間に神は死んだのではないか? そう問う作中の人物もいます。しかし彼らは、それでも信仰を捨てはしません。「神様は原爆投下の時だけ偶然長崎から目を離していたのかも知れない、そうとしか思えない」と述懐する人がいます。ご先祖様の守ってきたキリスト教を捨てるなんて考えられない、と言う人もいます。
長崎には、古くからキリスト教信仰が存在していました。江戸時代には激しい弾圧を受けたこともあります。火炙りになりながら信仰を守った人も多いのです。だから、その伝統を引き継ぐんだ、というわけですが・・・
でも原爆が投下されて、それでもやっぱりまだ信じられるの? 神がいると断言できるか? 難しい問いです。
あと、「せっくす」もテーマなのではないか。「石」の語り手は知恵遅れの中年の男なのですが、彼は露骨というか純粋にセックスを望みます。欲望というのは何か。欲望をただ追いかければ、世間から外れてしまうのだけど、そこでどう折り合いをつけるのか。狂気や精神病もかなりでてきます。
そういういろんな要素が絡まりあって、かなり悩ませられる小説になっています。ですが文章と、その文章によって生まれている風景は美しいから、かなり複雑です。美しい自然の中に眠る人の暗闇を描いた小説と読めば良いのかなぁ・・・
第43回谷崎潤一郎賞受賞作。
自森人読書 爆心
★★★
作者: 柳広司
出版社: 双葉社
結城中佐は日本陸軍内部に「D機関」という諜報機関を設立し、本物のスパイを育成しようとします。彼は、軍人らしくない者ばかりを集め、自分を殺すことと敵を殺すことを禁じました。死ほど目立つものはないからです。スパイというものは決して目立ってはならない、とかつてスパイだった結城中佐は考えていました・・・ 『ジョーカー・ゲーム』『幽霊』『ロビンソン』『魔都』『XX』収録。
スパイ小説。
非常に面白いです。「D機関」とそこに属する人たちが、とにかくかっこいいです。だけど、かっこよすぎて非現実的ではないか、と感じてしまいました。本当に天皇制を信奉しない日本人を育成する機関が存在したら、徹底的に弾圧されるのではないか。
まぁ『ジョーカー・ゲーム』はフィクションだから無理があっても構わないし、一種の思考実験のようで面白い気もしますが、どうせだったらもう少し現実味をもたせてほしかったです。まぁ、、説明すればするほど逆に嘘みたいになってくるかも知れないから、さっくりとした説明のみでも良いのかも知れないけど。
あとは、影の黒幕のはずの結城中佐が、饒舌すぎてかえって大物に見えないことは気になりました。そして、一番つまらないと感じたのは結城中佐が決して過ちを犯さないということ。まぁ安心して読めるけど、どうしても緊張感に欠けます。そこらへんが、物語の面白さを半減しているのではないか、と思いました。けど、まだまだ小手調べなのかも知れません。続編が次々出てくるのかも。
続編がでたら是非とも読みたいと思います。
2009年第6回本屋大賞ノミネート作(3位)。第30回吉川英治文学新人賞、第62回日本推理作家協会賞受賞作。
自森人読書 ジョーカー・ゲーム
作者: 柳広司
出版社: 双葉社
結城中佐は日本陸軍内部に「D機関」という諜報機関を設立し、本物のスパイを育成しようとします。彼は、軍人らしくない者ばかりを集め、自分を殺すことと敵を殺すことを禁じました。死ほど目立つものはないからです。スパイというものは決して目立ってはならない、とかつてスパイだった結城中佐は考えていました・・・ 『ジョーカー・ゲーム』『幽霊』『ロビンソン』『魔都』『XX』収録。
スパイ小説。
非常に面白いです。「D機関」とそこに属する人たちが、とにかくかっこいいです。だけど、かっこよすぎて非現実的ではないか、と感じてしまいました。本当に天皇制を信奉しない日本人を育成する機関が存在したら、徹底的に弾圧されるのではないか。
まぁ『ジョーカー・ゲーム』はフィクションだから無理があっても構わないし、一種の思考実験のようで面白い気もしますが、どうせだったらもう少し現実味をもたせてほしかったです。まぁ、、説明すればするほど逆に嘘みたいになってくるかも知れないから、さっくりとした説明のみでも良いのかも知れないけど。
あとは、影の黒幕のはずの結城中佐が、饒舌すぎてかえって大物に見えないことは気になりました。そして、一番つまらないと感じたのは結城中佐が決して過ちを犯さないということ。まぁ安心して読めるけど、どうしても緊張感に欠けます。そこらへんが、物語の面白さを半減しているのではないか、と思いました。けど、まだまだ小手調べなのかも知れません。続編が次々出てくるのかも。
続編がでたら是非とも読みたいと思います。
2009年第6回本屋大賞ノミネート作(3位)。第30回吉川英治文学新人賞、第62回日本推理作家協会賞受賞作。
自森人読書 ジョーカー・ゲーム
3つの中篇によって構成されています。『ケルベロス第五の首』『『ある物語』ジョン・V・マーシュ作』『V.R.T.』収録。
〈物語の設定〉 双子惑星サント・クロアとサント・アンヌでは、地球から移住してきた人類が繁栄しています。そして、かつてサント・アンヌに住んでいた原住民は人類によって駆逐され、滅亡したことになっています。ですが、原住民を見かけたという噂は絶えません。学者の中には、何にでも変身できる原住民は人類ととって代わり、人類を滅ぼしてしまったのだという人もいるのですが・・・
『ケルベロス第五の首』
物語の舞台は、奴隷売買で栄える惑星惑星サント・クロワの中の一都市ポール・ミミゾンにある娼館「犬の家」。少年の回想です。かつて、少年は家庭教師ミスター・ミリオン、弟デイヴィットとともに「犬の家」で生活しています。他にも父と叔母ジーニーが住んでいるのですが顔を合わせることはありませんでした。ある日、父に呼ばれ、ナンバーファイブという名前を与えられ、様々なことを問われるようになります。それと前後して、少年は弟とともに、美しい少女フィードリアと出会い、演劇の公演を行うようになります。
『『ある物語』ジョン・V・マーシュ作』
マーシュが採集し、書き記した「アボ」の伝説が綴られています。物語の舞台はサント・アンヌ。「揺れるスギの枝」は「東の風(ジョン・イーストウィンド)」と「砂歩き(ジョン・サンドウォーカー)」を産みます。「東の風」は川に誘拐されてしまいます。ですが、「砂歩き」はたくましく成長していき・・・
『V.R.T.』
囚人143号はなぜか逮捕され、監獄に閉じ込められてしまいます。物語は、囚人143号の手記や日記、彼を尋問したときの記録などを読み続ける取調官の視点から綴られています。少しカフカっぽいです。
SF小説。
非常に魅力的な小説。まず、細部が素晴らしいです。とくに、『『ある物語』ジョン・V・マーシュ作』は面白いです。伝説や神話にも似た壮大さが感じられるし、それでいて謎に満ちているのです。
何を書いてもネタバレになりそうだけど、ネタバレはありえない気もします。なぜならば謎解きが存在しないからです。『V.R.T.』は自分殺しの物語ではないか、という推測は成り立つけれど、それらが正しいのか判定することは出ません。自分とは何か、記憶とは何か、歴史とは何か、様々なことを考えさせられます。
読んだ本
ジーン・ウルフ『ケルベロス第五の首』
読んでいる最中
グレッグ・イーガン『順列都市〈上〉』
『ジョーカー・ゲーム』の続編。諜報活動に身を投じたこともある結城中佐はスパイ養成学校をつくり、日本陸軍内部に「D機関」という諜報機関を設立。自殺することと敵を殺すことを禁じ、本物のスパイを育成することを目指します『ダブル・ジョーカー』『蠅の王』『仏印作戦』『柩』『ブラックバード』収録。
表題作『ダブル・ジョーカー』
「D機関」を嫌う軍部は、エリート風戸に任せ、新たに諜報機関「風機関」を立ち上げます。躊躇なく殺し、潔く死ぬことを重要視した組織でした。「D機関」と「風機関」は互いを出し抜こうとして争うのですが・・・
スパイ小説。
前作以上に面白かったです。「風機関」の不甲斐なさは愉快です。そして、やはり、「D機関」はやたらと強くてかっこいいです。しかし、不慮の事故に襲われ、とうとう最悪の事態が発生してしまいます。
やはり、「D機関」という組織に全くといっていいほどリアリティが感じられないのですが、だからこそ魅力的なのかも知れません。超人的な日本人が次々と愚かな敵を出し抜いていくところはある意味では爽快。それに、陸軍中野学校というモデルもあるわけだから、日本だってやられてばかりでもなかった、といふうに受け止めることも出来ます。それでいいのか、という疑問も湧きますが。
スタイリッシュなスパイ小説として、面白いです。
読んだ本
柳広司『ダブル・ジョーカー』
読んでいる最中
ジーン・ウルフ『ケルベロス第五の首』
ジョニーは、昔人間ドン・コヴェーロのマフィアに飼われていた雄兎です。主人が殺されてしまったため、野良兎となり、探偵事務所を開設しました。そこへ失踪兎の捜索依頼が舞い込みます。彼はラビッチたちとヤりまくりつつ愛について語り、その上事件を追うのですが、事件は兎の集団失踪事件にまで発展し・・・
兎が主人公のハードボイルド小説。
呆れるような内容。主人公が兎だということが存分に活かされているし、その上ミステリとしてもそれなりに面白いのだけど、読んでいるとなんというか、もうどうでもよくなってきます。とにかく、ジョニーという存在が愉快。
主人公ジョニーの台詞がいちいち耳障りというか、いかにもハードボイルドと言う感じでかっこよくて笑えます。あとは、ジョニーの扱われ方が愉快です。最初の内は兎世界で探偵として活躍するのですが・・・
文章が読みづらいし、世界観もいまいち把握しづらいのですが、一級のバカミスということができるかも知れません。とくに、「終幕 ジョニー・イン・ザ・ブルー・スカイ」は、なんとも言いがたいです。
『ジョニー・ザ・ラビット』を読む暇があったら他の本を読みたい、とは感じましたが、面白くないことはないです。ここまでくると、ハードボイルドというものが本当にバカバカしいもののように思えてきます。
読んだ本
東山彰良『ジョニー・ザ・ラビット』
読んでいる最中
柳広司『ダブル・ジョーカー』
ジーン・ウルフ『ケルベロス第五の首』
★★★★
著者: 池上永一
出版社: 角川書店
地球温暖化の結果、海面は際限なく上昇。人類はそれを阻止するために経済の形を変えてしまいました。炭素を削ることが最上の価値というふうになったのです。日本政府は、東京にアトラスという巨大な都市を建築。その周りの関東平野は全て森にしてしまいました。住居を奪われた反政府ゲリラは東京の森林化に反対し、アトラスに挑みかかります。それを率いるのはセーラー服の少女、國子。
ぶっ飛んだSF小説。「B級映画的な大作」というのはそういうことか。辞書のような厚さですが、読みづらさはありません。全体の雰囲気はコミック的。まぁアニメ化されるのも当然です。魅力的で、個性的な登場人物たちと、ジェットコースターのような物語。どちらも素晴らしい。しかし、かなりハチャメチャです。「國子が神武天皇の○○」と分かった部分では脱力・・・
スペースコロニーという言葉から、ガンダムの影響を受けている、もしくは意識しているのが感じられます。人間の世界を呑みこむ凶悪な森というのは『ナウシカ』を連想させます。そういうアニメやマンガを連想させる数々の設定には親近感を覚えます。
よく戦闘がでてくるけど、戦争になっていません。ふざけているほど圧倒的な人たちがめちゃくちゃな活躍を見せます。たとえば、主人公・國子はブーメランで戦車部隊をぶっ潰して壊滅させます。その場面では笑うしかない。ありえないだろう・・・ ニューハーフ・モモコの強さも面白すぎる。
気になったのは、『シャングリ・ラ』に登場する人物達はみんな徹底的なまで明るくてバカなこと。なんというか、未来の物語のはずなのに登場人物たちの考えていることは紀元前の人間とほとんど同じ。動物的です。「民主主義」なんてものは欠片も存在していません(民主主義なんて、男の屁理屈ということか)。そこにも笑うしかない・・・
沖縄の民謡『てぃんさぐぬ花』が途中で登場します。池上永一は沖縄の人なんだなぁ、と実感します。
自森人読書 シャングリ・ラ
著者: 池上永一
出版社: 角川書店
地球温暖化の結果、海面は際限なく上昇。人類はそれを阻止するために経済の形を変えてしまいました。炭素を削ることが最上の価値というふうになったのです。日本政府は、東京にアトラスという巨大な都市を建築。その周りの関東平野は全て森にしてしまいました。住居を奪われた反政府ゲリラは東京の森林化に反対し、アトラスに挑みかかります。それを率いるのはセーラー服の少女、國子。
ぶっ飛んだSF小説。「B級映画的な大作」というのはそういうことか。辞書のような厚さですが、読みづらさはありません。全体の雰囲気はコミック的。まぁアニメ化されるのも当然です。魅力的で、個性的な登場人物たちと、ジェットコースターのような物語。どちらも素晴らしい。しかし、かなりハチャメチャです。「國子が神武天皇の○○」と分かった部分では脱力・・・
スペースコロニーという言葉から、ガンダムの影響を受けている、もしくは意識しているのが感じられます。人間の世界を呑みこむ凶悪な森というのは『ナウシカ』を連想させます。そういうアニメやマンガを連想させる数々の設定には親近感を覚えます。
よく戦闘がでてくるけど、戦争になっていません。ふざけているほど圧倒的な人たちがめちゃくちゃな活躍を見せます。たとえば、主人公・國子はブーメランで戦車部隊をぶっ潰して壊滅させます。その場面では笑うしかない。ありえないだろう・・・ ニューハーフ・モモコの強さも面白すぎる。
気になったのは、『シャングリ・ラ』に登場する人物達はみんな徹底的なまで明るくてバカなこと。なんというか、未来の物語のはずなのに登場人物たちの考えていることは紀元前の人間とほとんど同じ。動物的です。「民主主義」なんてものは欠片も存在していません(民主主義なんて、男の屁理屈ということか)。そこにも笑うしかない・・・
沖縄の民謡『てぃんさぐぬ花』が途中で登場します。池上永一は沖縄の人なんだなぁ、と実感します。
自森人読書 シャングリ・ラ
★★★★★
作者: 田中芳樹
出版社: 徳間書店
ヤンの後継者ユリアンは、民主主義の精神を残すために帝国との和平の道を模索します。一方、帝国の皇帝ラインハルトは若くして病の床につきました。万全と思えた帝国にも揺らぎがでてくるとみた地球教は最後の反撃に出ます。そうして、圧倒的な帝国と弱小な共和国、地球教の3勢力が、最後の踏ん張りを見せ、ぶつかり合いますが・・・
シリーズ完結篇。とうとう英雄達の伝説の時代が終焉を迎えます。
終わってしまうのは残念と感じます。なんだか感慨深いです。メルカッツは、ヤンの旗艦とともにこの世から去っていきます。戦乱の時代の幕引きとして彼の死が必要だったのだろうか。
女たらしで白兵戦の天才でもある同盟のシェーンコップ、誰からも嫌われつつ策謀を巡らしてきた帝国の参謀オーベルシュタインが死亡。この2人がまさか死ぬとは、と思わされます。やっぱり『銀河英雄伝説』の魅力は、アクの強い登場人物だなぁ、と感じさせられます。
同盟の人たちはこれからどうなるのか。気になります。無職になってしまったわけだから。キャゼルヌはあと片づけまで背負い、アッテンボローは飄々と、オリビエ・ポプランはしぶとく生き延び、ユリアンとカリンは結ばれ・・・ これからどうなっていくのだろうか。
だけど想像の余地を残しつつも、きっちりとおしまいになるところが良い気がします。だらだら続く続編は、たいていつまらないものだし。
自森人読書 銀河英雄伝説10 落日篇
作者: 田中芳樹
出版社: 徳間書店
ヤンの後継者ユリアンは、民主主義の精神を残すために帝国との和平の道を模索します。一方、帝国の皇帝ラインハルトは若くして病の床につきました。万全と思えた帝国にも揺らぎがでてくるとみた地球教は最後の反撃に出ます。そうして、圧倒的な帝国と弱小な共和国、地球教の3勢力が、最後の踏ん張りを見せ、ぶつかり合いますが・・・
シリーズ完結篇。とうとう英雄達の伝説の時代が終焉を迎えます。
終わってしまうのは残念と感じます。なんだか感慨深いです。メルカッツは、ヤンの旗艦とともにこの世から去っていきます。戦乱の時代の幕引きとして彼の死が必要だったのだろうか。
女たらしで白兵戦の天才でもある同盟のシェーンコップ、誰からも嫌われつつ策謀を巡らしてきた帝国の参謀オーベルシュタインが死亡。この2人がまさか死ぬとは、と思わされます。やっぱり『銀河英雄伝説』の魅力は、アクの強い登場人物だなぁ、と感じさせられます。
同盟の人たちはこれからどうなるのか。気になります。無職になってしまったわけだから。キャゼルヌはあと片づけまで背負い、アッテンボローは飄々と、オリビエ・ポプランはしぶとく生き延び、ユリアンとカリンは結ばれ・・・ これからどうなっていくのだろうか。
だけど想像の余地を残しつつも、きっちりとおしまいになるところが良い気がします。だらだら続く続編は、たいていつまらないものだし。
自森人読書 銀河英雄伝説10 落日篇
『ルバイヤート』とは、ペルシャの詩人オマル・ハイヤームの四行詩集のこと。第二次世界大戦中、著者である陳舜臣はそれを手放さず、何度も繰り返し読み、自分の手で翻訳していたそうです。それをまとめたのが、この陳舜臣訳『ルバイヤート』。
詳細な註解と解説がついています。とくに解説が素晴らしいです。
オマル・ハイヤームは著名な数学者・天文学者・詩人。陳舜臣は「自由思想家」と読んでいますが、当時彼ほど近代的な合理主義者は世界にいなかったようです。初めて三次方程式の解法を体系化し、非常に正確なジャラリー暦を発明。
しかし、勤勉な人というわけではないみたいです。『ルバイヤート』を読んでいると、現代人の感覚とさほど変わらないものが見られます。彼は、神を疑い、イスラーム教を疑い、死が待ちうけている未来を直視しても意味はないし、世界は不可知であるから諦めるしかないと言います。そして、もう今を楽しみ、酒を飲むしかないと嘆くのです。再三にわたって酒が登場します。
四行詩は絶句とも似通っている部分があると陳舜臣は指摘していますが、確かに似ているかも知れません。四行で終わるところ、脚韻を踏んでいるところ、簡潔なところが一致します。そういえば、酒好きなところも同じかも知れない。
読んでいて、陳舜臣は凄い人だと改めて感じました。彼は台湾の人。1924年に神戸で生まれ、大学ではヒンディー語とペルシャ語を学び、戦後日本でミステリ作家としてデビュー。その後中国の歴史小説を発表し、一つのジャンルを形成。彼が、日本語で小説を書いてくれることに感謝しないといけないのかも。
読んだ本
オマル・ハイヤーム、陳舜臣『ルバイヤート』
読んでいる最中
サマセット・モーム『コスモポリタンズ』
260告白
★★★★ 湊かなえ
259ベルカ、吠えないのか?
★★★★★ 古川日出男
258我らが隣人の犯罪
★★★ 宮部みゆき
257百年の誤読
★★★★ 岡野宏文、豊崎由美
256クライマーズ・ハイ
★★★★ 横山秀夫
★★★★ 湊かなえ
259ベルカ、吠えないのか?
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258我らが隣人の犯罪
★★★ 宮部みゆき
257百年の誤読
★★★★ 岡野宏文、豊崎由美
256クライマーズ・ハイ
★★★★ 横山秀夫
★★★★
作者: 湊かなえ
出版社: 双葉社
娘を喪って学校を去ることとなった女性教師は終業式のHRの時、告げます。「愛美は事故で死んだのではありません。このクラスの生徒に殺されたのです」と。そして、ある「制裁」をくだして退職していきます。ですが、事件は終結せず、どこまでも負の連鎖は続いていくことになります・・・
高く評価する人がいる一方で、激しく拒否反応を示す人も多い作品。面白いとは思うけど、僕は好きにはなれません・・・ 陰鬱です。「まとも」な人間が一人も登場しない小説です。
心の暗黒面を描いています。母親の息子への偏愛、歪んだマザーコンプレックス、ゆがんだ憎悪、幼い悪意。しかし、どれもこれもそうたいしてものではなくて、やたらとみみっちい。ちょっとだけ常識の範疇から飛び出してしまった、というような感じ。ですがそれが効果をあげています。かえって、妙に生々しくてリアルなのてす。
最後は、ある意味爽快。バーンと母(聖母崇拝)を吹っ飛ばしてしまいます。
「ケータイ小説的」と言って否定する人もいるけど、それは全く的を射ていないのではないか。むしろ、湊かなえという人はかなり実力のある人だと思います。上手いし、読みやすいです。
これは、完璧なエンターテインメント小説として捉えれば良いのだと思います。薬丸岳『天使のナイフ』みたいな社会的な問いを含んでいるわけでもないし。でも、正直、エイズですら道具にして物語を仕立て上げてしまうところや、「熱血」や「感動」や「正義」を蔑む作者の視点は好きになれないなぁ・・・ 凄いとは思うけど、誰かにおすすめしようとは思わないです。
第29回小説推理新人賞、2009年第6回本屋大賞受賞作。どうしてこれが本屋大賞なのか・・・
自森人読書 告白
作者: 湊かなえ
出版社: 双葉社
娘を喪って学校を去ることとなった女性教師は終業式のHRの時、告げます。「愛美は事故で死んだのではありません。このクラスの生徒に殺されたのです」と。そして、ある「制裁」をくだして退職していきます。ですが、事件は終結せず、どこまでも負の連鎖は続いていくことになります・・・
高く評価する人がいる一方で、激しく拒否反応を示す人も多い作品。面白いとは思うけど、僕は好きにはなれません・・・ 陰鬱です。「まとも」な人間が一人も登場しない小説です。
心の暗黒面を描いています。母親の息子への偏愛、歪んだマザーコンプレックス、ゆがんだ憎悪、幼い悪意。しかし、どれもこれもそうたいしてものではなくて、やたらとみみっちい。ちょっとだけ常識の範疇から飛び出してしまった、というような感じ。ですがそれが効果をあげています。かえって、妙に生々しくてリアルなのてす。
最後は、ある意味爽快。バーンと母(聖母崇拝)を吹っ飛ばしてしまいます。
「ケータイ小説的」と言って否定する人もいるけど、それは全く的を射ていないのではないか。むしろ、湊かなえという人はかなり実力のある人だと思います。上手いし、読みやすいです。
これは、完璧なエンターテインメント小説として捉えれば良いのだと思います。薬丸岳『天使のナイフ』みたいな社会的な問いを含んでいるわけでもないし。でも、正直、エイズですら道具にして物語を仕立て上げてしまうところや、「熱血」や「感動」や「正義」を蔑む作者の視点は好きになれないなぁ・・・ 凄いとは思うけど、誰かにおすすめしようとは思わないです。
第29回小説推理新人賞、2009年第6回本屋大賞受賞作。どうしてこれが本屋大賞なのか・・・
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