★★★★★
著者: 古川日出男
出版社: 文藝春秋
こういう小説、大好きです。
語り手は、神の視点に立ってイヌに呼びかけます。それに応えて、いろんな時代を生きるイヌたちは各々吠えます。それらイヌたちの声を拾いながら、物語はどこまでも疾走していきます。犬の樹形図をたどりつつ、「戦争の世紀」20世紀の主に後半(第二次世界大戦後)を読み解いていく壮大な小説。かといって決して難解にはならないし、長大にもならないし、イヌを変に擬人化することもありません。
イヌたちが、人の街をぶち壊していきながらも反撃を受けてしまう最後の場面は圧巻。
読者にいろんなものを放り投げてくるような語り口です。面倒な説明は、かなり削られています。しかも歴史を語るときでもきっちりしてはいません。暴走していきます。かなり汚い言葉遣いとすらいえます。最初は読みづらいなぁと感じたけどすぐ慣れました。リズム感があります。歴史書みたいな難しい文体よりは、よほど入りやすいと思います。
物語の面白さをどこまでも追求する『ベルカ、吠えないのか?』こそ、キャラ小説的、ライトノベル的なものに拮抗しえる作品の1つといえるのではないか、と僕は感じました(ライトノベルも面白いとは思うけど、こういう物語を大切にする小説も残って欲しい・・・)。
豊崎由美が激賞しているのも頷けます。よくぞこんな物語が書けるなぁ、と感心するしかないです。数世代にも渡る人間のドラマというのは古くから存在します(聖書から始まっているわけだから)が、イヌたちの戦後史というのは斬新です。とにかく面白い。
2006年第3回本屋大賞ノミネート作(8位)。
自森人読書 ベルカ、吠えないのか?
著者: 古川日出男
出版社: 文藝春秋
こういう小説、大好きです。
語り手は、神の視点に立ってイヌに呼びかけます。それに応えて、いろんな時代を生きるイヌたちは各々吠えます。それらイヌたちの声を拾いながら、物語はどこまでも疾走していきます。犬の樹形図をたどりつつ、「戦争の世紀」20世紀の主に後半(第二次世界大戦後)を読み解いていく壮大な小説。かといって決して難解にはならないし、長大にもならないし、イヌを変に擬人化することもありません。
イヌたちが、人の街をぶち壊していきながらも反撃を受けてしまう最後の場面は圧巻。
読者にいろんなものを放り投げてくるような語り口です。面倒な説明は、かなり削られています。しかも歴史を語るときでもきっちりしてはいません。暴走していきます。かなり汚い言葉遣いとすらいえます。最初は読みづらいなぁと感じたけどすぐ慣れました。リズム感があります。歴史書みたいな難しい文体よりは、よほど入りやすいと思います。
物語の面白さをどこまでも追求する『ベルカ、吠えないのか?』こそ、キャラ小説的、ライトノベル的なものに拮抗しえる作品の1つといえるのではないか、と僕は感じました(ライトノベルも面白いとは思うけど、こういう物語を大切にする小説も残って欲しい・・・)。
豊崎由美が激賞しているのも頷けます。よくぞこんな物語が書けるなぁ、と感心するしかないです。数世代にも渡る人間のドラマというのは古くから存在します(聖書から始まっているわけだから)が、イヌたちの戦後史というのは斬新です。とにかく面白い。
2006年第3回本屋大賞ノミネート作(8位)。
自森人読書 ベルカ、吠えないのか?
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★★★
著者: 宮部みゆき
出版社: 新潮社
短編集。『我らが隣人の犯罪』『この子誰の子』『サボテンの花』『祝・殺人』『気分は自殺志願』収録。
『我らが隣人の犯罪』
隣の家の犬がやたらとうるさい。なので誘拐し、別の飼い主のもとへ連れ去ってしまおうと少年が、おじさんと一緒に画策するお話。
と書くと、少年達が悪いことしているみたいですが。なぜその犬はそんなにやかましいのかというと、飼い主の女性から猫かわいがりされているから、らしいのです。散歩にも連れて行ってもらえていないのです。それでは、犬が重いストレスを抱えているのは当然です。だから、誘拐したほうがその犬の解放にもなるというわけ。しかし、意外なところから意外なものが見つかったことで計画は変更され・・・
宮部みゆきのデビュー作。『我らが隣人の犯罪』は、オール讀物推理小説新人賞を受賞した作品です。多分、ユーモアミステリ。のほほんとした温かい空気があります。昔は、宮部みゆきも日常に寄り添った軽いミステリを書いていたんだ、と驚きました。これ以後は、重厚な社会派ミステリや、歴史小説の領域へと突き進んでいくのに。ちょっと意外でした。
宮部みゆきという人の文章はとても安定感があって読みやすいです。それでいて決して下品にはなりません。さすがです。だからこそ多くの人に読まれるんだろうなぁ。長編でこそその安定感というものは際立つのですが、短編もなかなか良いです。
短編ミステリでは、文章のキレや、奇想天外なラストが大事にされることが多いのですが、宮部みゆきの短編はそういう短編として大切にすべき部分も持ちつつ、一方では温かいものも兼ね備えています。素晴らしいというしかないです。
自森人読書 我らが隣人の犯罪
著者: 宮部みゆき
出版社: 新潮社
短編集。『我らが隣人の犯罪』『この子誰の子』『サボテンの花』『祝・殺人』『気分は自殺志願』収録。
『我らが隣人の犯罪』
隣の家の犬がやたらとうるさい。なので誘拐し、別の飼い主のもとへ連れ去ってしまおうと少年が、おじさんと一緒に画策するお話。
と書くと、少年達が悪いことしているみたいですが。なぜその犬はそんなにやかましいのかというと、飼い主の女性から猫かわいがりされているから、らしいのです。散歩にも連れて行ってもらえていないのです。それでは、犬が重いストレスを抱えているのは当然です。だから、誘拐したほうがその犬の解放にもなるというわけ。しかし、意外なところから意外なものが見つかったことで計画は変更され・・・
宮部みゆきのデビュー作。『我らが隣人の犯罪』は、オール讀物推理小説新人賞を受賞した作品です。多分、ユーモアミステリ。のほほんとした温かい空気があります。昔は、宮部みゆきも日常に寄り添った軽いミステリを書いていたんだ、と驚きました。これ以後は、重厚な社会派ミステリや、歴史小説の領域へと突き進んでいくのに。ちょっと意外でした。
宮部みゆきという人の文章はとても安定感があって読みやすいです。それでいて決して下品にはなりません。さすがです。だからこそ多くの人に読まれるんだろうなぁ。長編でこそその安定感というものは際立つのですが、短編もなかなか良いです。
短編ミステリでは、文章のキレや、奇想天外なラストが大事にされることが多いのですが、宮部みゆきの短編はそういう短編として大切にすべき部分も持ちつつ、一方では温かいものも兼ね備えています。素晴らしいというしかないです。
自森人読書 我らが隣人の犯罪
★★★★
著者: 岡野宏文、豊崎由美
出版社: 筑摩書房
岡野宏文、豊崎由美の対談。2人が20世紀のベストセラー本を評価していくというもの。読んでいて非常に楽しかったです。
夏目漱石(1章「1900~1910年」)、芥川龍之介(2章「1911~1920年」)の作品は別格というふうに紹介されていますが、それには頷きます。何十年も前の人の作品なのに高校生の僕が読んでも理解できるし、面白い。しかも文学的にも価値があるらしい。凄い小説家たちだよなぁ、と思います。
読んでいないものが多かったです・・・ 面白いものはたくさんあるみたいなのに、勿体ないかも知れない。内田百閒、泉鏡花『春昼』、江戸川乱歩『押絵と旅する男』、谷崎潤一郎 『細雪』、庄司薫の『赤頭巾ちゃん気をつけて』、さくらももこ『もものかんづめ』を読んでみようと思いました。
そういえば、太宰治『斜陽』は読んだはずなのに、中身をまったく思い出せないです、もう一度読み直してみようかなぁ・・・
ハリー・ポッターシリーズに対する低い評価には同感。どうして大傑作といわれて、あれほど売れたのだろうか? 僕も1巻読んだ時にはけっこう感動していたけど、次の巻が出てくる度に落胆していきました。『指輪物語』には、全然敵わないよなぁ・・・ それは期待しすぎか。
豊崎由美の渡辺淳一徹底批判は『百年の誤読』でも展開されています。大人気ないのかも知れないけど、面白い・・・
自森人読書 百年の誤読
著者: 岡野宏文、豊崎由美
出版社: 筑摩書房
岡野宏文、豊崎由美の対談。2人が20世紀のベストセラー本を評価していくというもの。読んでいて非常に楽しかったです。
夏目漱石(1章「1900~1910年」)、芥川龍之介(2章「1911~1920年」)の作品は別格というふうに紹介されていますが、それには頷きます。何十年も前の人の作品なのに高校生の僕が読んでも理解できるし、面白い。しかも文学的にも価値があるらしい。凄い小説家たちだよなぁ、と思います。
読んでいないものが多かったです・・・ 面白いものはたくさんあるみたいなのに、勿体ないかも知れない。内田百閒、泉鏡花『春昼』、江戸川乱歩『押絵と旅する男』、谷崎潤一郎 『細雪』、庄司薫の『赤頭巾ちゃん気をつけて』、さくらももこ『もものかんづめ』を読んでみようと思いました。
そういえば、太宰治『斜陽』は読んだはずなのに、中身をまったく思い出せないです、もう一度読み直してみようかなぁ・・・
ハリー・ポッターシリーズに対する低い評価には同感。どうして大傑作といわれて、あれほど売れたのだろうか? 僕も1巻読んだ時にはけっこう感動していたけど、次の巻が出てくる度に落胆していきました。『指輪物語』には、全然敵わないよなぁ・・・ それは期待しすぎか。
豊崎由美の渡辺淳一徹底批判は『百年の誤読』でも展開されています。大人気ないのかも知れないけど、面白い・・・
自森人読書 百年の誤読
★★★★
著者: 横山秀夫
出版社: 文藝春秋
北関東新聞社の遊軍記者、悠木和雅が主人公。彼は、販売部の安西耿一郎とともに、これまで数多くの登山家たちの命を奪ってきた難関、谷川岳衝立岩を登る予定でした。しかし、その直前に日本航空123便墜落事故が発生。悠木和雅は、その事故の全権デスクを担当することになります。彼は迷いながら報道というものについて考えつつ進んでいくのですが、衝突が絶えません。
そしてただでさえ忙しい中、なんと安西耿一郎が倒れた、という連絡が入り・・・
とても面白かったです。一気読みしてしまいました。山岳小説、「家族」をテーマにした小説、マスコミというものの意義を問う小説、どれともとれます。たくさんのものを詰め込んであるんだけど、決して薄っぺらくはありません。横山秀夫の圧倒的なまでの筆力がみごとです。
ただし、墜落事故という重い出来事を追う中で何が見えてきたのか、ということがいまいち分からないです。
墜落事故に押し潰され、囚われながらもそれに立ち向かう悠木和雅という男を描いた小説として読めば良いのかも知れません。だけど、全体としては墜落事故というものを持て余しているような印象を受けます。まぁそもそも、1つの小説の中に押し込めるようなものではないのかも知れないけど。
あと、爽やかなラストが釈然としないです。結局落とし所はそこなのか・・・ 家族というものをもってくるのか。ご都合主義ではないのか。しかし、物語全体としてはとにかく面白いことに変わりはありません。いまいち分からない部分も多いけど、それでも★5つつけたくなります。しかし、やっぱりそこまでではないかもなぁ・・・ 横山秀夫はやっぱり短編が素晴らしい気がします。
2004年第1回本屋大賞ノミネート作(2位)。週刊文春ミステリーベストテン2003年第1位。
自森人読書 クライマーズ・ハイ
著者: 横山秀夫
出版社: 文藝春秋
北関東新聞社の遊軍記者、悠木和雅が主人公。彼は、販売部の安西耿一郎とともに、これまで数多くの登山家たちの命を奪ってきた難関、谷川岳衝立岩を登る予定でした。しかし、その直前に日本航空123便墜落事故が発生。悠木和雅は、その事故の全権デスクを担当することになります。彼は迷いながら報道というものについて考えつつ進んでいくのですが、衝突が絶えません。
そしてただでさえ忙しい中、なんと安西耿一郎が倒れた、という連絡が入り・・・
とても面白かったです。一気読みしてしまいました。山岳小説、「家族」をテーマにした小説、マスコミというものの意義を問う小説、どれともとれます。たくさんのものを詰め込んであるんだけど、決して薄っぺらくはありません。横山秀夫の圧倒的なまでの筆力がみごとです。
ただし、墜落事故という重い出来事を追う中で何が見えてきたのか、ということがいまいち分からないです。
墜落事故に押し潰され、囚われながらもそれに立ち向かう悠木和雅という男を描いた小説として読めば良いのかも知れません。だけど、全体としては墜落事故というものを持て余しているような印象を受けます。まぁそもそも、1つの小説の中に押し込めるようなものではないのかも知れないけど。
あと、爽やかなラストが釈然としないです。結局落とし所はそこなのか・・・ 家族というものをもってくるのか。ご都合主義ではないのか。しかし、物語全体としてはとにかく面白いことに変わりはありません。いまいち分からない部分も多いけど、それでも★5つつけたくなります。しかし、やっぱりそこまでではないかもなぁ・・・ 横山秀夫はやっぱり短編が素晴らしい気がします。
2004年第1回本屋大賞ノミネート作(2位)。週刊文春ミステリーベストテン2003年第1位。
自森人読書 クライマーズ・ハイ
物語の舞台は、第二次世界大戦末期のヨーロッパの田舎町。祖母のもとに双子をつれた母親が現れます。祖母は受け取りを拒否するのですが、母親は双子を置いて去っていきました。祖母は臭くて粗野でその上偏狭な性格でした。しかも祖父を毒殺したと思われたため周囲からは魔女と呼ばれます。ですが、そんな祖母のもとで、双子は一心同体となって残酷な世界を生き抜いていきます。彼らは溢れる苦痛や死、虐めに対してストイックに立ち向かいますが・・・
第二次世界大戦を描いた小説。アゴタ・クリストフのデビュー作。
双子の日記ということになっています。事実のみが淡々と記されているため描写は簡潔。そして、細切れです。読みやすいです。
感情は綴られていないし、固有名詞はほとんど登場しません。しかし、だからこそ普遍的なのかも知れません。グロテスクな戦争というものが明確に活写されています。敵だろうと味方だろうと軍隊と言う物は略奪と強姦を繰り返すという事実が生々しいです。また、ホロコーストについてもさっくりと描かれています。ユダヤ人の人たちはどこへ連行されていったのか、周囲の人は実感をもって受け止めることが出来なかったのかも知れない、と感じます。
様々な汚れもしっかりと記されているところが印象的。寓話的なのに、不思議なほど人間味があります。
主人公である、双子は決して離れ離れになることはありません。彼らは二人で一人なのです。だからこそ、独特の論理を突き通し、異様な事態に対処できるのではないか。徹底的に冷たいです。様々な感情を殺していくことでしか戦争という事態を受け止めることはできないのかも知れない、とも感じます。
醜さから隔絶された哲人のような双子を生み出した著者アゴタ・クリストフは凄い人だ、と感じました。ハンガリーから西側へと亡命してきてフランス語を学び、小説を書き始めたそうですが、母語ではない言葉を用いて小説を書くのは難しいだろうなぁ。
読んだ本
アゴタ・クリストフ『悪童日記』
読んでいる最中
サマセット・モーム『コスモポリタンズ』
★★★
著者: 新田次郎
出版社: 講談社
半分くらいはノンフィクションだと思います。
富士山頂に、「台風の砦」としてレーダードームをつくろうと目指す男たちの物語。気象庁に勤める官僚でありながら小説家も兼業する男が主人公です。彼は、官僚としては珍しく誰に対しても強い態度に出て、孤高を保つため、そのプロジェクトの事実上の遂行者として活躍することになります。ほとんど著者そのままみたいです。
『プロジェクトX』第1回でとりあげられたこともある出来事。『プロジェクトX』では建設を実現した職人たちを主役にした熱い物語になっていましたが、『富士山頂』はもう少しドロドロした落札における業者間の争いのことも描写されていて面白いです。
新田次郎は山を舞台にした小説をたくさん書いている人らしく、山における描写もしっかりとしていて面白かったです。高山病のこととか。
ただし小説としてはいまいち盛り上がりに欠ける気がします。淡々としていて、それでいてそこまで重厚ではないのです。
ただし主人公が、仕事を貰おうとして圧力をかけてくる業者に対して怒りを抱くところはリアルです。もしかしたら、主人公の錯覚かも知れない(過剰反応かも知れない)、ということまで他の人の台詞を借りて書かれているのも面白い。そういうことがよほど多いのかも知れないなぁ。省庁に斡旋を求める圧力、というのが。
自森人読書 富士山頂
著者: 新田次郎
出版社: 講談社
半分くらいはノンフィクションだと思います。
富士山頂に、「台風の砦」としてレーダードームをつくろうと目指す男たちの物語。気象庁に勤める官僚でありながら小説家も兼業する男が主人公です。彼は、官僚としては珍しく誰に対しても強い態度に出て、孤高を保つため、そのプロジェクトの事実上の遂行者として活躍することになります。ほとんど著者そのままみたいです。
『プロジェクトX』第1回でとりあげられたこともある出来事。『プロジェクトX』では建設を実現した職人たちを主役にした熱い物語になっていましたが、『富士山頂』はもう少しドロドロした落札における業者間の争いのことも描写されていて面白いです。
新田次郎は山を舞台にした小説をたくさん書いている人らしく、山における描写もしっかりとしていて面白かったです。高山病のこととか。
ただし小説としてはいまいち盛り上がりに欠ける気がします。淡々としていて、それでいてそこまで重厚ではないのです。
ただし主人公が、仕事を貰おうとして圧力をかけてくる業者に対して怒りを抱くところはリアルです。もしかしたら、主人公の錯覚かも知れない(過剰反応かも知れない)、ということまで他の人の台詞を借りて書かれているのも面白い。そういうことがよほど多いのかも知れないなぁ。省庁に斡旋を求める圧力、というのが。
自森人読書 富士山頂
★★★
作者: 田中芳樹
出版社: 徳間書店
前の巻にてヤン・ウェンリーが殺されて危機に瀕した不正規隊は、それでもくじけずに帝国に叛旗をひるがえすべく、共和政府を樹立します。その中心メンバーは、ヤンの妻フレデリカと、養子ユリアン。ヤンの意思は引き継がれます。一方、帝国では皇帝ラインハルト暗殺未遂事件が発生。不吉な影が忍び寄ります。そして、地球教の策謀によってがんじがらめになったロイエンタールがとうとう自ら起ち、反乱を起こします・・・
8巻で物語の主人公の一人、ヤン・ウェンリーが死んでしまったのですが、それでも物語は勢いよく進んでいきます。物語の前半から何度も予告されていた通り、帝国の双璧の一人、ロイエンタールが反乱を起こすのです。それにしても凄い、としか言いようがないです。全然失速しない。
今回、互いに信頼しあっていた双璧が、敵味方に分かれてぶつかります。帝国軍のミッターマイヤーと、反乱を起こしたロイエンタール。どうにかならなかったのか。そうなる前に、避けることはできなかったのだろうか・・・?
この巻で、ヨブ・トリューニヒトが退場。同盟の元首として権力を一手に握って政治の腐敗を助長し、同盟滅亡後は帝国に取り入った男がとうとう去ります。まさかの展開。まぁけど、悪辣な人物だったので誰にも悼まれません・・・
そうしてまたもや多くの人が去っていき、物語はとうとう最終巻『落日篇』へと突入していきます。
自森人読書 銀河英雄伝説9 回天篇
作者: 田中芳樹
出版社: 徳間書店
前の巻にてヤン・ウェンリーが殺されて危機に瀕した不正規隊は、それでもくじけずに帝国に叛旗をひるがえすべく、共和政府を樹立します。その中心メンバーは、ヤンの妻フレデリカと、養子ユリアン。ヤンの意思は引き継がれます。一方、帝国では皇帝ラインハルト暗殺未遂事件が発生。不吉な影が忍び寄ります。そして、地球教の策謀によってがんじがらめになったロイエンタールがとうとう自ら起ち、反乱を起こします・・・
8巻で物語の主人公の一人、ヤン・ウェンリーが死んでしまったのですが、それでも物語は勢いよく進んでいきます。物語の前半から何度も予告されていた通り、帝国の双璧の一人、ロイエンタールが反乱を起こすのです。それにしても凄い、としか言いようがないです。全然失速しない。
今回、互いに信頼しあっていた双璧が、敵味方に分かれてぶつかります。帝国軍のミッターマイヤーと、反乱を起こしたロイエンタール。どうにかならなかったのか。そうなる前に、避けることはできなかったのだろうか・・・?
この巻で、ヨブ・トリューニヒトが退場。同盟の元首として権力を一手に握って政治の腐敗を助長し、同盟滅亡後は帝国に取り入った男がとうとう去ります。まさかの展開。まぁけど、悪辣な人物だったので誰にも悼まれません・・・
そうしてまたもや多くの人が去っていき、物語はとうとう最終巻『落日篇』へと突入していきます。
自森人読書 銀河英雄伝説9 回天篇
昨日、私は銃を拾いました。私はその美しさに魅せられていきます。私は友人とともに女をひっかけ、セックスし、日々を過ごしていますが、どうしても銃が気になります。そして、銃を手に取るのですが・・・
いかにも純文学っぽい古風な作品。
私を何十回繰り返したら気が済むのか。淡々としていてシンプルだけど精神を逆撫でするような文章には疲れました。悪文ではないか、と感じましたが、著者は狙っているのかも知れません。
作品の構成自体はありきたり。空虚な暗闇のようなものを抱え込んでいるどうしようもない男が、どうしようもない日々の中で銃へと向かっていくというだけの物語。読んでいるだけで疲れてきますが、面白くないことはないです。
新潮新人賞受賞作。中村文則のデビュー作。
読んだ本
中村文則『銃』
読んでいる最中
ジーン・ウルフ『ケルベロス第五の首』
『タイムスリップ・コンビナート』
去年の夏頃の話。マグロ恋愛する夢を見て悩んでいたら、いきなり電話がかかわってきて、どこかへいけ、と言われます。そして話している内に海芝浦へ行くことになるのですが・・・ 芥川賞受賞作。
『下落合の向こう』
電車に乗っていないとき、私は考えています。電車に乗っている間中私たちの時間は盗まれているのと。そればかりか知覚は捻じ曲げられ、ありもしない幻想を見せられていると。夢とも現実ともつかない電車の中での体験。
『シビレル夢ノ水』
家の中に入ってきた猫を拾ったのに実は飼い主がいたと発覚し、その猫を返した途端に精神が変なことになってしまいます。そして蚤が巨大化を始め・・・ グロテスクで、一番印象的。
笙野頼子の小説は奇妙です。時には現実的な話のように思える時もあるけど、基本的にはグロテスクな悪夢のようだし、おとぎ話のようです。決して綺麗ではなく、様々な物が詰め込まれ、接合されているため気持ち悪いです。だけど、その感覚が堪らなく面白い。
現代における現実や私とは何なのか考えさせられます。
読んだ本
笙野頼子『タイムスリップ・コンビナート』
笙野頼子『下落合の向こう』
笙野頼子『シビレル夢ノ水』
読んでいる最中
ジーン・ウルフ『ケルベロス第五の首』
中村文則『銃』
★★★
著者: 向山昌子
出版社: 晶文社
紀行文+イラスト。
美味しそうな食べ物の数々。その地域の人たちが「普通」に食べているものを求めて、アジアを旅していった記録だそうです。イラストを見ているだけでも面白いです。
食べ物は、その文化を映し出す鏡なのかも知れない、と感じました。たとえば、アラブ首長国連邦では伝統食はすでに誰も食べていないそうです(わずかに砂漠の民の人たちが昔どおりの生活をしていらしいけど)。石油という富を生み出す魔法みたいなものがあるから、世界中からなんでも取り寄せられるので、伝統食というものが消えうせてしまったそうです。
あと、どうでも良いことなのてすが。モロヘイヤのスープが、エジプトではお味噌汁みたいに飲まれているんだそうです。あのとろとろしたものをたくさんの人が飲んでいるというのには、びっくりだなぁと思いました。別にまずくはないけど、そこまで飲みたくなるのだろうか。
食から文化を見ることも面白いかもしれない。自由の森学園の人間生活科の授業ともつながるかも知れない。ちょっとだけアジア紀行したくなりました。
自森人読書 アジアごはん紀行
著者: 向山昌子
出版社: 晶文社
紀行文+イラスト。
美味しそうな食べ物の数々。その地域の人たちが「普通」に食べているものを求めて、アジアを旅していった記録だそうです。イラストを見ているだけでも面白いです。
食べ物は、その文化を映し出す鏡なのかも知れない、と感じました。たとえば、アラブ首長国連邦では伝統食はすでに誰も食べていないそうです(わずかに砂漠の民の人たちが昔どおりの生活をしていらしいけど)。石油という富を生み出す魔法みたいなものがあるから、世界中からなんでも取り寄せられるので、伝統食というものが消えうせてしまったそうです。
あと、どうでも良いことなのてすが。モロヘイヤのスープが、エジプトではお味噌汁みたいに飲まれているんだそうです。あのとろとろしたものをたくさんの人が飲んでいるというのには、びっくりだなぁと思いました。別にまずくはないけど、そこまで飲みたくなるのだろうか。
食から文化を見ることも面白いかもしれない。自由の森学園の人間生活科の授業ともつながるかも知れない。ちょっとだけアジア紀行したくなりました。
自森人読書 アジアごはん紀行
★★★★★
著者: 小川洋子
出版社: 講談社
岡山で母親と2人暮らしをしていた朋子は、母親が学校に通うことになったため、伯父の家にひきとられることになりました。彼女は、美しくて温かい伯父の家で、病弱でありながらも本を愛し、けっして卑屈にならない少女・ミーナと出会います。2人は仲良くなり、穏やかでありながらもいろいろな出来事が起こる毎日を過ごしていきます・・・
コビトカバ、ポチ子がかわいいです。
「大きな事件」が起こることはありません。朋子にとっては何もかもが大きな事件だろうけど、基本的にはほんわかとした空気が満ち満ちている中で起こる些細な出来事です。
とはいえ、それだけではありません。随所にアクセントがきいています。川端康成の自殺。隠れている誤植を探すことに必死なおばさん、みんなを守ろうとして死んだサルのサブロウの話、他人の家に通ってばかりいて、自分の家にはなかなか帰ってこないおじさん。
そして、オリンピックの時には朋子やミーナたちと、直接には関係がないけれど、世界に暗い影を落とす事件が起こります。暗闇というほど大仰なものではないけど、この世界の中のどこかに綻びみたいなものがある、ということをなんとなく感じます。
その中に、ぽつんと存在している楽園のようなミーナの家。ちょっとファンタジックではあるのだけど、良い話です。
第42回谷崎潤一郎賞受賞作。2007年第4回本屋大賞ノミネート作(7位)。
自森人読書 ミーナの行進
著者: 小川洋子
出版社: 講談社
岡山で母親と2人暮らしをしていた朋子は、母親が学校に通うことになったため、伯父の家にひきとられることになりました。彼女は、美しくて温かい伯父の家で、病弱でありながらも本を愛し、けっして卑屈にならない少女・ミーナと出会います。2人は仲良くなり、穏やかでありながらもいろいろな出来事が起こる毎日を過ごしていきます・・・
コビトカバ、ポチ子がかわいいです。
「大きな事件」が起こることはありません。朋子にとっては何もかもが大きな事件だろうけど、基本的にはほんわかとした空気が満ち満ちている中で起こる些細な出来事です。
とはいえ、それだけではありません。随所にアクセントがきいています。川端康成の自殺。隠れている誤植を探すことに必死なおばさん、みんなを守ろうとして死んだサルのサブロウの話、他人の家に通ってばかりいて、自分の家にはなかなか帰ってこないおじさん。
そして、オリンピックの時には朋子やミーナたちと、直接には関係がないけれど、世界に暗い影を落とす事件が起こります。暗闇というほど大仰なものではないけど、この世界の中のどこかに綻びみたいなものがある、ということをなんとなく感じます。
その中に、ぽつんと存在している楽園のようなミーナの家。ちょっとファンタジックではあるのだけど、良い話です。
第42回谷崎潤一郎賞受賞作。2007年第4回本屋大賞ノミネート作(7位)。
自森人読書 ミーナの行進
ピエロは物言えぬ傍観者として十字屋敷で巻き起こる事件の一部始終を観察しています。葬式のためオーストラリアから帰ったばかりの竹宮水穂は次々と巻き起こる事件に遭遇し、困惑します。そして、ピエロを追って現れた人形師の悟浄とともに事件について考えるのですが・・・ 竹宮水穂の視点の間に、ピエロの視点がちょこちょこ挟まります。
奇を衒ったミステリ。
登場人物には魅力が感じられないし、会話もつまらないことこの上ありません。とはいえ、ミステリとしてはそれなりに面白いです。ありがちな館ものなのだけど、様々な人間が動き回っているため複雑。その絡み具合が面白いです。
しかも無駄がないです。伏線が上手に張られていて、しかもそれがみごとに収斂していきます。よく考えるなぁ、と感心します。
ラストはじんわりと怖いです。
基本的にコンパクトだし、サクッとしていて読みやすいので時間はとりません。東野圭吾のミステリ小説は軽いところがいいです。
読んだ本
東野圭吾『十字屋敷のピエロ』
読んでいる最中
笙野頼子『タイムスリップ・コンビナート』
ジーン・ウルフ『ケルベロス第五の首』
貧困問題に関しては、自由の森学園森の時間で学びました(ウェブサイト「生きさせろ!」にまとめられている)。『貧困を考えよう』は、格差と貧困についてさらに考えを深めていこう、と思ったときに役立つだろうと感じました。
いすとりゲームの比喩は、非常に分かりやすいです。最初からイスの数が限定されている場合、どれだけ頑張ってもイスに座れない人が一定数でてくるのは当然だ、という論理は明快だし、納得できます。貧困の問題を自己責任という言葉で片付けてしまうわけにはいかないだろう、と思います。
多方面から評価された湯浅誠『反貧困』を始めとして、貧困について論じた本が世の中にはそれこそ山ほどあるけれど、『貧困を考えよう』は子どもの貧困について具体的かつ詳細に論じられているところが特色のようだけど、そこが良いと感じました。
岩波ジュニア新書。
読んだ本
生田武志『貧困を考えよう』
読んでいる最中
東野圭吾『十字屋敷のピエロ』
いすとりゲームの比喩は、非常に分かりやすいです。最初からイスの数が限定されている場合、どれだけ頑張ってもイスに座れない人が一定数でてくるのは当然だ、という論理は明快だし、納得できます。貧困の問題を自己責任という言葉で片付けてしまうわけにはいかないだろう、と思います。
多方面から評価された湯浅誠『反貧困』を始めとして、貧困について論じた本が世の中にはそれこそ山ほどあるけれど、『貧困を考えよう』は子どもの貧困について具体的かつ詳細に論じられているところが特色のようだけど、そこが良いと感じました。
岩波ジュニア新書。
読んだ本
生田武志『貧困を考えよう』
読んでいる最中
東野圭吾『十字屋敷のピエロ』
★★★★
著者: 島田荘司
出版社: 講談社
日本の最北端、宗谷岬のはずれに、大富豪が建てた酔狂な屋敷「流氷館」がありました。その屋敷には異常なところがあります。どこがおかしいのかというと、床でした。傾いていたのです。その変な流水館において、殺人事件が次々と巻き起こります。完全な密室において殺人が発生します。名探偵・御手洗潔にこの事件は解決できるのか・・・?
御手洗潔がなかなか登場しないので、いらいらというかうんざりします。ですがまぁそこを耐えれば、最後にはあっというしかないような真相が明かされます。
たぶん日本における新本格/館ものの元祖、みたいなものではないか。島田荘司の2作目。文章が読みづらいのが難点。視点がくるくる変わっていくので、目が回りそうです。これは下手なのではないか・・・ という気もするけど、別にそんなことはないか。
ミステリ小説作家の中にはけっこう文章が下手な人がいる気がします。別にそこまで「読ませる」文章でなくても良いから、日本語にはなっていて欲しい、と思います・・
島田荘司の小説の魅力は、何につけても大げさな探偵、御手洗潔と、破天荒な謎解き。
どちらもびっくりさせられます。これで納得できるのかと聞かれれば納得は出来ないけど(実現は不可能だろう・・・)、しかし凄いし、面白いミステリー小説だなぁとは思います。なぜ屋敷をつくったのかということを犯人が最後の辺りで語るのですが、理由が驚愕です。壮大、というかとんでもない・・・ そんな理由で屋敷を1つつくってしまうのか。さすが富豪、といえば良いのか。
自森人読書 斜め屋敷の犯罪
著者: 島田荘司
出版社: 講談社
日本の最北端、宗谷岬のはずれに、大富豪が建てた酔狂な屋敷「流氷館」がありました。その屋敷には異常なところがあります。どこがおかしいのかというと、床でした。傾いていたのです。その変な流水館において、殺人事件が次々と巻き起こります。完全な密室において殺人が発生します。名探偵・御手洗潔にこの事件は解決できるのか・・・?
御手洗潔がなかなか登場しないので、いらいらというかうんざりします。ですがまぁそこを耐えれば、最後にはあっというしかないような真相が明かされます。
たぶん日本における新本格/館ものの元祖、みたいなものではないか。島田荘司の2作目。文章が読みづらいのが難点。視点がくるくる変わっていくので、目が回りそうです。これは下手なのではないか・・・ という気もするけど、別にそんなことはないか。
ミステリ小説作家の中にはけっこう文章が下手な人がいる気がします。別にそこまで「読ませる」文章でなくても良いから、日本語にはなっていて欲しい、と思います・・
島田荘司の小説の魅力は、何につけても大げさな探偵、御手洗潔と、破天荒な謎解き。
どちらもびっくりさせられます。これで納得できるのかと聞かれれば納得は出来ないけど(実現は不可能だろう・・・)、しかし凄いし、面白いミステリー小説だなぁとは思います。なぜ屋敷をつくったのかということを犯人が最後の辺りで語るのですが、理由が驚愕です。壮大、というかとんでもない・・・ そんな理由で屋敷を1つつくってしまうのか。さすが富豪、といえば良いのか。
自森人読書 斜め屋敷の犯罪
250銀河英雄伝説8 乱離篇
★★★★ 田中芳樹
249詩語完備 だれにもできる漢詩の作り方
★★★★★ 太刀掛呂山
248日本歴史を点検する
★★★ 海音寺潮五郎、司馬遼太郎
247名もなき孤児たちの墓
★★★ 中原昌也
246映画篇
★★★ 金城一紀
★★★★ 田中芳樹
249詩語完備 だれにもできる漢詩の作り方
★★★★★ 太刀掛呂山
248日本歴史を点検する
★★★ 海音寺潮五郎、司馬遼太郎
247名もなき孤児たちの墓
★★★ 中原昌也
246映画篇
★★★ 金城一紀
1964年(昭和39年)。東京オリンピックを目前に控え、日本中が熱気に包まれていました。市民や警察は勿論のこと、労務者、学生、左翼、はてはヤクザまでがアジアで初めてのオリンピックを誇りに思い、待ち望んでいました。しかし、マルクス経済学を学ぶ東大院生・島崎国男は、出稼ぎ労務者だった兄が東京の建設現場で事故死したことをきっかけにして、その状況に疑問を持ち始めます。彼は兄の遺骨を実家がある秋田の寒村に持ち帰ったときには極貧の中で苦しむ人々を目の当たりにし、夏休みの間労働者と肩を並べて働いたときには理不尽かつ過酷な労働現場を知ります。彼は悩みます。ですが最終的にオリンピックを邪魔することで国家を脅し、八千万円を奪い取ろうとします・・・
社会派サスペンス小説。
521p二段組。長大なのですが、とにかく引き込まれます。高度成長期の日本というものが細部にいたるまで描写しつくされています。西洋的な生活を送りつつビートルズに熱狂する市民と長時間労働に苦しみ明日のことなど考えることも出来ない薄汚れた労務者。開発が進み、娯楽が溢れる進歩的な東京と、次男三男に居場所はなく結婚は村が取り仕切る封建的な秋田。それらの対比が印象的。
そして、群像劇としても優れています。登場するキャラクターたちがとにかく魅力的。
島崎と意気投合する年老いたスリ村田留吉。官僚しかいない一族の中でテレビ会社に就職した須賀忠。オリンピックの日に出産予定の妻と二歳になる息子と郊外で生活している優秀な警官落合昌夫。誰もが、善意と悪意を併せ持った個性的な人間なのです。
そして、とにかく主人公・島崎が魅力的。彼は誰からも好かれる控えめな優男。東大の大学院にまで進むのですが、輝かしい日本/東京をつくるために踏みにじられている人々と出会い、その状況を是正しようと思いながら具体的な手段を見つけられません。そして、労務者の仲間から貰ったヒロポンに手を出したために薬物中毒に陥ります。ですが、感覚が鋭敏になるヒロポンをうまく用い、テロを決行。日本を脅かし、八千万円を奪い取ろうとします。国家の権威を剥ぎ取ろうとしたわけです。彼は少しずつ追い詰められていくのだけど、それでも基本的には誠実だし、愚直です。関係ない他人に迷惑をかけようとしません。
度重なる偶然と警察の内部対立が彼を救うのですが、少し都合よすぎる気がしないでもないです。けれど、好人物過ぎてテロリストになりきれていない島崎が活躍するためには、偶然が必要な気もします。
無邪気に未来を信じる人間が溢れかえるオリンピック開会式の会場で、過酷な現実に目を向けてた人間があっけなく射殺されるクライマックスの場面はあまりにも印象的。奥田英朗の最高傑作なのではないか、と感じます。
第43回吉川英治文学賞受賞作。
角川書店。
読んだ本
奥田英朗『オリンピックの身代金』
読んでいる最中
生田武志『貧困を考えよう』
★★★★
作者: 田中芳樹
出版社: 徳間書店
もう最初からネタバレしてしまいますが・・・
8巻は衝撃的。終わりへ向けて物語が大きく動きます。「無敗の魔術師」ヤン・ウェンリーがテロリストに襲われて斃れてしまうのです。読んでいる最中、茫然としました。作中の人物達が茫然とするのにも共感できます。まさかの展開です。
「テロは歴史を前進させることはない、逆行させるか、もしくは停止させるだけ」というヤンの言葉が、重く響きます。ヤン亡き後、不正規部隊はどこへと向かうのか、というのが、これからの大きなテーマになってくるわけですが、彼らはへこたれながらも帝国に屈することはありません。そうして、やはりどこまでも戦争が続いていくわけです・・・
ヤン以外にも主要人物たちが次々と死にます。
あまり登場しないけど、実は重要人物だった工部尚書・シルヴァーベルヒがテロで殺され、帝国の猛将ファーレンハイトが戦死し、さらに帝国の将軍シュタインメッツも戦死し、ヤンの部下達パトリチェフ、ブルームハルトらがヤンとともに死亡。その上で、「良い人が殺されるのが戦争というものなのだ。だから戦争はだめなのではないか」と作者は問います。印象に残ります。
戦闘シーンではなく、キャラクターが魅力的です。
自森人読書 銀河英雄伝説8 乱離篇
作者: 田中芳樹
出版社: 徳間書店
もう最初からネタバレしてしまいますが・・・
8巻は衝撃的。終わりへ向けて物語が大きく動きます。「無敗の魔術師」ヤン・ウェンリーがテロリストに襲われて斃れてしまうのです。読んでいる最中、茫然としました。作中の人物達が茫然とするのにも共感できます。まさかの展開です。
「テロは歴史を前進させることはない、逆行させるか、もしくは停止させるだけ」というヤンの言葉が、重く響きます。ヤン亡き後、不正規部隊はどこへと向かうのか、というのが、これからの大きなテーマになってくるわけですが、彼らはへこたれながらも帝国に屈することはありません。そうして、やはりどこまでも戦争が続いていくわけです・・・
ヤン以外にも主要人物たちが次々と死にます。
あまり登場しないけど、実は重要人物だった工部尚書・シルヴァーベルヒがテロで殺され、帝国の猛将ファーレンハイトが戦死し、さらに帝国の将軍シュタインメッツも戦死し、ヤンの部下達パトリチェフ、ブルームハルトらがヤンとともに死亡。その上で、「良い人が殺されるのが戦争というものなのだ。だから戦争はだめなのではないか」と作者は問います。印象に残ります。
戦闘シーンではなく、キャラクターが魅力的です。
自森人読書 銀河英雄伝説8 乱離篇
★★★★★
著者: 太刀掛呂山
出版社: 呂山詩書刊行会
読み物ではありません。タイトルどおりの中身。
漢詩を鑑賞し、読み解くための本ではありません。どういうふうにすれば「漢詩」というものをつくれるのか、ということをきちんと解説したものです。かなり昔の本なので、読みづらい部分がないわけではないけれど、分からないことはありません。もともと太刀掛呂山が、高校生向けにつくったプリントなどを本にまとめたものだそうです。
現在、日本において漢詩をつくろうと思ったならば、『詩語完備だれにもできる漢詩の作り方』を手に取るのが一番良い、といわれています。簡単な作り方の説明がまずあって、その後に詩語が山のように列挙されていてから、初心者でもつくりやすいのです。
というより、初心者用の漢詩の教科書はこれ以外にはほぼ存在しないといっても過言ではありません。他にも何冊かある、といえばあるのだけど、詩語の量が少なかったりしてあまり役に立たないことも多いです。まぁ出しても売れないから、あまりまじめにつくっていないのかも知れません。そうではなくて、密度が濃いとひかれるからかなぁ・・・
それはともかく。
よほどのベテランでもなければ、日本において漢詩を作っている人はたいてい『詩語完備だれにもできる漢詩の作り方』を携帯していると思います。それだけ、『詩語完備だれにもできる漢詩の作り方』は押さえるべきところを押さえた名著、というわけです。普通の人にとっては何の価値もないかも知れないけど、日本で漢詩づくりに励む人間にとっては、拝むべき1冊。
自森人読書 詩語完備 だれにもできる漢詩の作り方
著者: 太刀掛呂山
出版社: 呂山詩書刊行会
読み物ではありません。タイトルどおりの中身。
漢詩を鑑賞し、読み解くための本ではありません。どういうふうにすれば「漢詩」というものをつくれるのか、ということをきちんと解説したものです。かなり昔の本なので、読みづらい部分がないわけではないけれど、分からないことはありません。もともと太刀掛呂山が、高校生向けにつくったプリントなどを本にまとめたものだそうです。
現在、日本において漢詩をつくろうと思ったならば、『詩語完備だれにもできる漢詩の作り方』を手に取るのが一番良い、といわれています。簡単な作り方の説明がまずあって、その後に詩語が山のように列挙されていてから、初心者でもつくりやすいのです。
というより、初心者用の漢詩の教科書はこれ以外にはほぼ存在しないといっても過言ではありません。他にも何冊かある、といえばあるのだけど、詩語の量が少なかったりしてあまり役に立たないことも多いです。まぁ出しても売れないから、あまりまじめにつくっていないのかも知れません。そうではなくて、密度が濃いとひかれるからかなぁ・・・
それはともかく。
よほどのベテランでもなければ、日本において漢詩を作っている人はたいてい『詩語完備だれにもできる漢詩の作り方』を携帯していると思います。それだけ、『詩語完備だれにもできる漢詩の作り方』は押さえるべきところを押さえた名著、というわけです。普通の人にとっては何の価値もないかも知れないけど、日本で漢詩づくりに励む人間にとっては、拝むべき1冊。
自森人読書 詩語完備 だれにもできる漢詩の作り方
キノベスベスト30も発表されたことなので、2010年(2009年に出版された本が対象)の本屋大賞候補をまたまた予想してみます。まぁ多分、あまり当たらないと思います。半分あたればいいなぁ・・・
ベスト10に入るだろう ◎
ベスト10に入りそう ○
ベスト30に入りそう △
どうだろう・・・ ?
推薦●
○ 藤谷治『船に乗れ!』
○ 東野圭吾『新参者』
○ 柳広司『ダブル・ジョーカー』
◎ 村上春樹『1Q84』
○ 万城目学『プリンセス・トヨトミ』
◎ 伊坂幸太郎『あるキング』
○ 有川浩『植物図鑑』or『三匹のおっさん』or『フリーター、家を買う。』
(逆に表が割れてしまうかなぁ、わからないです)
◎ 川上未映子『ヘヴン』
○ 山田詠美『学問』
○ 奥田英朗『無理』
△ 道尾秀介『鬼の跫音』
△ 高村薫『太陽を曳く馬』●
△ 今野敏『同期』
△ 湊かなえ『少女』or『贖罪』
△ 森見登美彦『恋文の技術』●or『宵山万華鏡』
△ 村山由佳『ダブル・ファンタジー』
△ 三浦しをん『神去なあなあ日常』
? 奥泉光『神器―軍艦「橿原」殺人事件』
○ 和田竜『小太郎の左腕』
△ 東野圭吾『パラドックス13』
○ 夏川草介『神様のカルテ』
? 荻原浩『オイアウエ漂流記』
? 佐々木譲『廃墟に乞う』or『暴雪圏』
? 綾辻行人『Another』
△ 米澤穂信『追想五断章』
○ 小川洋子『猫を抱いて象と泳ぐ』
○ 村上たかし『星守る犬』
△ 北村薫『鷺と雪』
? 宮部みゆき『英雄の書』
△ 真保裕一『アマルフィ』
? 恩田陸『訪問者』
? 桜庭一樹『製鉄天使』
? 竹内真『文化祭オクロック』
? 歌野晶午『密室殺人ゲーム2.0』
? 矢作俊彦 /司城志朗『犬なら普通のこと』
? 長嶋有『ねたあとに』
? 伊藤計劃『ハーモニー』●
? 神林長平『アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風』●
ベスト10に入るだろう ◎
ベスト10に入りそう ○
ベスト30に入りそう △
どうだろう・・・ ?
推薦●
○ 藤谷治『船に乗れ!』
○ 東野圭吾『新参者』
○ 柳広司『ダブル・ジョーカー』
◎ 村上春樹『1Q84』
○ 万城目学『プリンセス・トヨトミ』
◎ 伊坂幸太郎『あるキング』
○ 有川浩『植物図鑑』or『三匹のおっさん』or『フリーター、家を買う。』
(逆に表が割れてしまうかなぁ、わからないです)
◎ 川上未映子『ヘヴン』
○ 山田詠美『学問』
○ 奥田英朗『無理』
△ 道尾秀介『鬼の跫音』
△ 高村薫『太陽を曳く馬』●
△ 今野敏『同期』
△ 湊かなえ『少女』or『贖罪』
△ 森見登美彦『恋文の技術』●or『宵山万華鏡』
△ 村山由佳『ダブル・ファンタジー』
△ 三浦しをん『神去なあなあ日常』
? 奥泉光『神器―軍艦「橿原」殺人事件』
○ 和田竜『小太郎の左腕』
△ 東野圭吾『パラドックス13』
○ 夏川草介『神様のカルテ』
? 荻原浩『オイアウエ漂流記』
? 佐々木譲『廃墟に乞う』or『暴雪圏』
? 綾辻行人『Another』
△ 米澤穂信『追想五断章』
○ 小川洋子『猫を抱いて象と泳ぐ』
○ 村上たかし『星守る犬』
△ 北村薫『鷺と雪』
? 宮部みゆき『英雄の書』
△ 真保裕一『アマルフィ』
? 恩田陸『訪問者』
? 桜庭一樹『製鉄天使』
? 竹内真『文化祭オクロック』
? 歌野晶午『密室殺人ゲーム2.0』
? 矢作俊彦 /司城志朗『犬なら普通のこと』
? 長嶋有『ねたあとに』
? 伊藤計劃『ハーモニー』●
? 神林長平『アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風』●
★★★
著者: 海音寺潮五郎、司馬遼太郎
出版社: 講談社
海音寺潮五郎、司馬遼太郎の対談。
「日本歴史」という言葉、聞いたことありません(今だったら「日本の歴史」か「日本史」になるのではないか)。古い本なんだなぁ、と感じさせられます。中身はけっこう面白いです。海音寺潮五郎、司馬遼太郎2人の博覧強記ぶりがよく分かります。よくそこまで話がつながっていくなぁ・・・
主に、江戸・明治維新のことが話されています。
天皇制の分析などは面白いです。もともとの天皇制は、土俗的な神聖視(天皇も、お稲荷さんみたいもの)だったのに、そこにプロシャの皇帝を当てはめたから、人工的でよく分からないものになってしまった、と司馬遼太郎は考えているそうです。
「勝海舟はでかい男だったんだろうね」と両人が言いまくるのですが、僕も納得です。当時、明治新政府の中で、「日本・中国・朝鮮三国が連携することで西洋列強に対抗しよう」と言っていたのは勝海舟くらいでした。他の人たちはみな朝鮮を石ころにように扱い、日本が奪うべき弱国と看做していました。最終的には、多数派の意見が通り日本は朝鮮に乗り出していってそして中国、ロシア(ソ連)と敵対、泥沼の戦争へと突き進むわけですが、全ては失敗しました。勝海舟の先見の明がよく分かります。
国民が健忘症では議会制民主主義は決してよくならない、という意見にも同感。汚職などで失脚した人物が、ほとぼりが醒めるとまたもや復活するというのはどういうことなんだろうか・・・ 摩訶不思議です。どうにかならないものなのか。
自森人読書 日本歴史を点検する
著者: 海音寺潮五郎、司馬遼太郎
出版社: 講談社
海音寺潮五郎、司馬遼太郎の対談。
「日本歴史」という言葉、聞いたことありません(今だったら「日本の歴史」か「日本史」になるのではないか)。古い本なんだなぁ、と感じさせられます。中身はけっこう面白いです。海音寺潮五郎、司馬遼太郎2人の博覧強記ぶりがよく分かります。よくそこまで話がつながっていくなぁ・・・
主に、江戸・明治維新のことが話されています。
天皇制の分析などは面白いです。もともとの天皇制は、土俗的な神聖視(天皇も、お稲荷さんみたいもの)だったのに、そこにプロシャの皇帝を当てはめたから、人工的でよく分からないものになってしまった、と司馬遼太郎は考えているそうです。
「勝海舟はでかい男だったんだろうね」と両人が言いまくるのですが、僕も納得です。当時、明治新政府の中で、「日本・中国・朝鮮三国が連携することで西洋列強に対抗しよう」と言っていたのは勝海舟くらいでした。他の人たちはみな朝鮮を石ころにように扱い、日本が奪うべき弱国と看做していました。最終的には、多数派の意見が通り日本は朝鮮に乗り出していってそして中国、ロシア(ソ連)と敵対、泥沼の戦争へと突き進むわけですが、全ては失敗しました。勝海舟の先見の明がよく分かります。
国民が健忘症では議会制民主主義は決してよくならない、という意見にも同感。汚職などで失脚した人物が、ほとぼりが醒めるとまたもや復活するというのはどういうことなんだろうか・・・ 摩訶不思議です。どうにかならないものなのか。
自森人読書 日本歴史を点検する
★★★
著者: 中原昌也
出版社: 新潮社
短編集。『私の『パソコンタイムズ』顛末記』『彼女たちの事情など知ったことか』『女たちのやさしさについて考えた』『美容室「ペッサ」』『典子は、昔』『憎悪さん、こんにちは!』『鼻声で歌う君の名は』『記憶道場』『傷口が語る物語』『血を吸う巨乳ロボット』『女とつき合う柄じゃない』『ドキュメント授乳』『ドキュメント続・授乳』『名もなき孤児たちの墓』『大集合!ダンサー&アクターズ』収録。
中原昌也の作品には何もかもぶち壊してみたい、というような雰囲気があります。そして、暴力とか、ゲロとか無意味なものがぶちこまれているのですが・・・ その結果生まれた、廃墟のような雰囲気には、味があって面白い。
中原昌也は、不思議な作家です。彼は、小説家でありながら物語というものを破壊しようと努めているみたいなのです。そこがまず矛盾。しかも、彼は、物語を破壊しようとしているのに、その行為が結果として功を奏し、全体としてはなぜか面白い物語が出来上がってしまっているのです。それも矛盾です。型にはまらないことを追求しながらも、結局型から逃れられない矛盾に苦しんでいる、ということなのだと思います。
そういう点で、円城塔とは異なります。円城塔は、たとえば『オブ・ザ・ベースボール』という作品の中で、奇怪な状況を淡々と語りつつ、退屈な物語をつくりあげています。最後まで読んでいっても、うんざりするほど何もありません。面白い本を求める読者に対して、「あえて退屈な物語を書いて送る」というのは、壮大な裏切りです。小説の破壊ともいえます。しかし、もしかしたら中原昌也はそれすらも所詮はつまらないこと、と考えているのかも知れません。だからさらに迷走しようとする。
面白い、というしかないです。書くことを厭い、型にはまらないことを求める小説家、中原昌也はどこへ行くのか・・・ 文体や、日本語を破壊するという方向へ向かうのかなぁ。楽しみです。
自森人読書 名もなき孤児たちの墓
著者: 中原昌也
出版社: 新潮社
短編集。『私の『パソコンタイムズ』顛末記』『彼女たちの事情など知ったことか』『女たちのやさしさについて考えた』『美容室「ペッサ」』『典子は、昔』『憎悪さん、こんにちは!』『鼻声で歌う君の名は』『記憶道場』『傷口が語る物語』『血を吸う巨乳ロボット』『女とつき合う柄じゃない』『ドキュメント授乳』『ドキュメント続・授乳』『名もなき孤児たちの墓』『大集合!ダンサー&アクターズ』収録。
中原昌也の作品には何もかもぶち壊してみたい、というような雰囲気があります。そして、暴力とか、ゲロとか無意味なものがぶちこまれているのですが・・・ その結果生まれた、廃墟のような雰囲気には、味があって面白い。
中原昌也は、不思議な作家です。彼は、小説家でありながら物語というものを破壊しようと努めているみたいなのです。そこがまず矛盾。しかも、彼は、物語を破壊しようとしているのに、その行為が結果として功を奏し、全体としてはなぜか面白い物語が出来上がってしまっているのです。それも矛盾です。型にはまらないことを追求しながらも、結局型から逃れられない矛盾に苦しんでいる、ということなのだと思います。
そういう点で、円城塔とは異なります。円城塔は、たとえば『オブ・ザ・ベースボール』という作品の中で、奇怪な状況を淡々と語りつつ、退屈な物語をつくりあげています。最後まで読んでいっても、うんざりするほど何もありません。面白い本を求める読者に対して、「あえて退屈な物語を書いて送る」というのは、壮大な裏切りです。小説の破壊ともいえます。しかし、もしかしたら中原昌也はそれすらも所詮はつまらないこと、と考えているのかも知れません。だからさらに迷走しようとする。
面白い、というしかないです。書くことを厭い、型にはまらないことを求める小説家、中原昌也はどこへ行くのか・・・ 文体や、日本語を破壊するという方向へ向かうのかなぁ。楽しみです。
自森人読書 名もなき孤児たちの墓
元ボクサーの警官バッキー・ブライチャートは、同じく元ボクサーの警官リー・ブランチャードと、公衆の面前で久しぶりにボクシングの試合を行います。それは警察公債発行を実現するためのキャンペーンだったのですが、バッキーはそれをうまくこなし、出世。その後、バッキーとリーはコンビを組み、活躍していきます。1947年1月15日、ロス市内で腰を切断された女性の死体が発見されます。その内に身元が明らかになります。本名はエリザベス・ショート。女優になることをめざし、都会へでてきたのに誰に対しても妄想的な嘘をつきまくり、しかも体を男に売り続けていた女性でした。マスコミは、彼女を「ブラック・ダリア」と呼び、その事件をセンセーショナルに報じます。バッキーとリーは必死に事件を追うのですが・・・
実際に起こった殺人事件を基にした小説。
アメリカ社会の暗部を切り取った「暗黒のL.A.」四部作の第一作目。文体は軽快だし、ストーリーは物凄いスピードで進んでいきます。読みやすいけど、翻弄されます。
狂気と暴力とセックスと薬と汚濁とジョークが溢れています。まともな人間はほとんど一人も存在しません。とはいえ、誰もが強烈な個性の持ち主なので、記憶には残ります。
とくに、リーという男が印象的。彼は有能な警官なのですが、怒り狂うと手がつけられず、その上薬漬けになりかかっています。ブラック・ダリアを幼い頃喪った妹のように感じていて事件解決に狂奔します。最初の内は憐れな被害者のように思えますが、実は全然そのようなことはなく、汚れ切っています。
ミステリとしても優れています。ラスト近くになるまで真相は分からず、しかも痛烈などんでん返しが待っています。
読んだ本
ジェイムズ・エルロイ『ブラック・ダリア』
読んでいる最中
奥田英朗『オリンピックの身代金』
★★★
著者: 金城一紀
出版社: 集英社
昔懐かしの映画とからめつつ、今を生きる「普通」の人たちの喜怒哀楽を描いた連作短編集。それぞれの短篇のタイトルも、映画からもらってきたもの。『太陽がいっぱい』『ドラゴン怒りの鉄拳』『恋のためらい/フランキーとジョニー もしくは トゥルー・ロマンス』『ペイルライダー』『愛の泉』収録。
『太陽がいっぱい』は、小説家を目指す在日韓国人と、ヤクザになってしまった在日韓国人との友情の物語。「小説家を目指す在日韓国人」というのは、多分作者自身ではないか(金城一紀は、日本国籍を持つ韓国系日本人)。なぜ彼が筆をとるのか、その理由が明かされます。
『ドラゴン怒りの鉄拳』は、夫が自殺して一人になってしまった女性が主人公。彼女は長くひきこもっていました。しかし、ビデオ店で映画を借り、そこのビデオ店員の青年と喋ったりする中で、立ち直り、ある決意を固めます・・・
『恋のためらい/フランキーとジョニー もしくは トゥルー・ロマンス』は、親とぶつかってばかりの男の子の物語。彼は、親から金を奪おうと画策する女の子にひかれていき、協力することになります・・・
『ペイルライダー』は、バイクを飛ばし、間違ったことを嫌って闘うおばあちゃんの物語。彼女は、偶然出会った小学生の男の子の塞いでいた気持ちを解き放ちます。そして、その後かつての恨みを晴らすため、ヤクザとの闘いへと赴きます・・・ ほのぼのしたシーンと壮絶なシーンが横並びになっていて、とても不思議な感じです。
『愛の泉』は、連れ合いをなくして元気をなくしたおばあちゃんを励ますために孫達が『ローマの休日』を大きな会場で見せてあげよう、と画策する物語。一番軽妙で、すんなりしていて読みやすいです。
金城一紀という人は日常を描くのが上手いなぁと感じました。「普通」の日々というものを文字にするのはなかなか難しいことです。そもそも「普通」なんてものはないはずだからです。だけど金城一紀は、どにでもいそうな共感できる人物たちをうまく配置して、日常を描きだしています。あと、どこかにあるはずの裏社会、みたいなものが微妙にちらつくのも、面白い。
2008年第5回本屋大賞ノミネート作(5位)。
自森人読書 映画篇
著者: 金城一紀
出版社: 集英社
昔懐かしの映画とからめつつ、今を生きる「普通」の人たちの喜怒哀楽を描いた連作短編集。それぞれの短篇のタイトルも、映画からもらってきたもの。『太陽がいっぱい』『ドラゴン怒りの鉄拳』『恋のためらい/フランキーとジョニー もしくは トゥルー・ロマンス』『ペイルライダー』『愛の泉』収録。
『太陽がいっぱい』は、小説家を目指す在日韓国人と、ヤクザになってしまった在日韓国人との友情の物語。「小説家を目指す在日韓国人」というのは、多分作者自身ではないか(金城一紀は、日本国籍を持つ韓国系日本人)。なぜ彼が筆をとるのか、その理由が明かされます。
『ドラゴン怒りの鉄拳』は、夫が自殺して一人になってしまった女性が主人公。彼女は長くひきこもっていました。しかし、ビデオ店で映画を借り、そこのビデオ店員の青年と喋ったりする中で、立ち直り、ある決意を固めます・・・
『恋のためらい/フランキーとジョニー もしくは トゥルー・ロマンス』は、親とぶつかってばかりの男の子の物語。彼は、親から金を奪おうと画策する女の子にひかれていき、協力することになります・・・
『ペイルライダー』は、バイクを飛ばし、間違ったことを嫌って闘うおばあちゃんの物語。彼女は、偶然出会った小学生の男の子の塞いでいた気持ちを解き放ちます。そして、その後かつての恨みを晴らすため、ヤクザとの闘いへと赴きます・・・ ほのぼのしたシーンと壮絶なシーンが横並びになっていて、とても不思議な感じです。
『愛の泉』は、連れ合いをなくして元気をなくしたおばあちゃんを励ますために孫達が『ローマの休日』を大きな会場で見せてあげよう、と画策する物語。一番軽妙で、すんなりしていて読みやすいです。
金城一紀という人は日常を描くのが上手いなぁと感じました。「普通」の日々というものを文字にするのはなかなか難しいことです。そもそも「普通」なんてものはないはずだからです。だけど金城一紀は、どにでもいそうな共感できる人物たちをうまく配置して、日常を描きだしています。あと、どこかにあるはずの裏社会、みたいなものが微妙にちらつくのも、面白い。
2008年第5回本屋大賞ノミネート作(5位)。
自森人読書 映画篇
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