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自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
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2010年(2009年に出版された本が対象)の本屋大賞候補を予想してみます。まぁ多分、あまり当たらないと思います。半分あたればいいなぁ・・・(%は本屋大賞を受賞する確率を気分で予想)

村上春樹『1Q84』 50%
ここまで話題になり、売れたのだから本屋の人たちも無視できないと思います。本屋大賞をとるかどうかは分からないけど、候補にはなるのではないか。

伊坂幸太郎『あるキング』 40%
今までベスト10には必ず入っている伊坂幸太郎の作品なのだから、やはり今回も候補にはなるはず。本屋大賞をとれるとは思わないけど。

北村 薫『鷺と雪』 40%
直木賞受賞作。

真保裕一『アマルフィ』 40%
映画化されたし。

村山由佳『ダブル・ファンタジー』 30%
万城目学『プリンセス・トヨトミ』 30%
東野圭吾『パラドックス13』 30%

湊かなえ『少女』or『贖罪』 20%
宮部みゆき『英雄の書』 20%
奥田英朗『無理』 20%
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★★★

著者:  恩田陸
出版社: 双葉社

  アジアの西の果て。昔から、「存在しない場所」または「あり得ぬ場所」と呼ばれる、白い矩形の構造物があった。その中に入り込んだ人間は誰も帰ってこないという。そこへその謎を解くために満が呼ばれる。彼は、神原恵弥、スコット、セリムとともに、その地に1週間とどまることになるのだが・・・

  途中までは、ぐいぐいと引っ張られています。どこかの政府による陰謀なのではないかとか、いやいやそうじゃなくて建物自体が生き物なのではないかとか、色々な推理が提示されるのですが結局分からないまま、最後までその謎の解決が引っ張られていきます。もう読むのが止まりません。★5つ間違いないのではないかという気すらしてきます。

  それなのに、物語が収斂していき、ラストを迎えると何故だか「面白かったー!」と言えない。恩田陸の小説はだいたいどれもそうです。期待させておいて、なぜだか萎んでしまいます。『MAZE(めいず)』は、恩田陸の作品の中ではまだマシというか、よくまとまっているほうじゃないかなぁ、多分。

  恩田陸の小説って、とにかくラストが盛り上がらなかったり、ぐだぐだだったり、まとまりがなかったり、いまいちすっきりしません。ライオンがいるかと思ったら猫だった、どころじゃなくて、ライオンがいるかと思ったら幻想だった、みたいな感じで結局のところなんなんだ、と言いたくなるようなものが多い。だから「物語の終え方が下手」という人もいます。

  だけどこれって多分わざとやっているじゃないかなぁ、という気がします。あえて読者にカタルシスを与えず、もやもやな気分にさせているのではないか。それはそれで面白いです。ちょっと読後感が気持ち悪いけど。


自森人読書 MAZE(めいず)
★★★

著者:  西東登
出版社: 集英社

  佐野洋・編『最大の殺人』収録の短編。

  会社では閑職に追いやられ、家庭でも孤独な私は、ある日骨董屋さんで壷を見かけます。その壷を、戦時中中国でみかけたことがあるような気がした私は、そこで立ち止まって、壷をまじまじと見つめてしまいました・・・ そしてちょっと興味を持つのですが、その壷のことをいろいろ調べているうちに、戦後の混乱期に壷を中国から持ち帰った男が突如毒死したことを知ります。いったいどういうことなのか・・・

  実は、その壷は、闘わせるために飼育されているコオロギを入れるものとして中国では使われていたそうです。コオロギ同士を闘わせる賭け、というのは面白いなぁ、と思いました。犬や、鶏を闘わせるというのは、昔日本でもよく行われていた、とよく聞きます(闘犬とか、闘鶏とか)。だけど、コオロギというのは全然聞いたことが無い。

  さて、その壷は、そういうふうにして戦争の頃の中国では、コオロギ入れとなっていたのを「私」はみたわけですが、作られたのはだいぶ昔、多分何百年か前です。それ以前はいったい何のために使われていたのだろうか・・・? というのが最後に明かされるのですが。

  実は、昔もコオロギ入れだったのではないか、という推測が示されます。コオロギはりんりんとなきます。だから昔の貴族達は、その壷の中にコオロギを閉じ込め、その音色を楽しんだのではないか? つまり風雅なものだったという訳です。面白い。


自森人読書 壷の中
あと1週間で、自由の森学園の学園祭。
楽しみです。
がその代わり、忙しくて本も読めない・・・
『戦争を演じた神々たちII』
『戦争を演じた神々たち』の続編。

『カミの渡る星』
自分の治めていた惑星をクデラによって滅ぼされ、惑星アテルイに流されたロボットはツキをトーテムとして再び迫り来るクデラと戦うことになります。

『ラヴ・チャイルド(チェリーとタイガー)』
父を知らぬ妹は、母と顔も知らぬ兄を嫌悪しつつ冷酷な人間に育ちますそんなある日、兄が現れ、惑星環境装置になると告げるのですが・・・

『女と犬』
謎の女と黒い犬は、世界のあらゆるところに偏在しています。いったい彼らは何者なのか・・・?

『世界でいちばん美しい男』
惑星デルダドには奇怪な生物たちが棲息しています。その中で凛々しく生き抜いていく緑色の恐竜少女。その惑星に墜落したクデラの調査員はその緑色の少女と出会います。

『シルフィーダ・ジュリア』
クデラ軍と戦うキネコキスの誕生を書いた物語。これまた壮大で神話的。

出版・アスペクト。『戦争を演じた神々たちII』


今日読んだ本
大原まり子『カミの渡る星』
大原まり子『ラヴ・チャイルド(チェリーとタイガー)』
大原まり子『女と犬』
大原まり子『世界でいちばん美しい男』
大原まり子『シルフィーダ・ジュリア』


今読んでいる本
池澤夏樹『スティルライフ』
『猫背の王子』
王寺ミチルは、演劇を熱狂的に愛する女性でした。彼女は脚本家・演出家・主演俳優として小さな劇団カイロプラクティックを主宰する一方で、様々な女性の家を泊まり歩く毎日を送っています。少年のような容姿が女性をひきつけるのです。ミチルの周りには立ち代りに様々な女性が現れます・・・

演劇の面白さ、怖さを存分に思い出させてくれます。

読んでいると中小の劇団の現状がちょっとだけわかって面白いです。慢性的な金欠とめまぐるしい人の入れ替わりのために劇団を存続していくこと自体がまず困難なのだけど、大劇団のように売り上げを重視して演劇とはいえないような安全なものをつくりたくはないという強烈な自負心に支えられ、必死で頑張っているらしい。凄いな、と感じます。

それにしても、どうして表現を生業とする流れ者の人たち(演劇とか、大道芸とか、舞踊とか)はくっついたり離れたり恋愛ばかり繰り返しているのだろう。やっぱり色気を保つことが大切だからなのかなぁ・・・

中山可穂のデビュー作。


今日読んだ本
中山可穂『猫背の王子』

今読んでいる本
池澤夏樹『スティルライフ』
今日、演劇『三人でシェイクスピア』を見てきました。

物凄く面白かったです。赤星昇一郎、石丸有里子、ちねんまさふみの3人がシェークスピアの全37作品を、90分で演じきってしまうのです。しかも、いつの間にか観客である自分たちまで、演劇の中に取り込まれていて・・・ 狭い会場だったことも良かったなぁと感じました。

すでに8年間公演してきたのだそうです。凄い・・・ まぁとても面白いから当然か。

鳥獣戯画の演劇は、また見にいきたいと感じました。
『優雅で感傷的な日本野球』
不可解な小説。『Ⅰ. 偽ルナールの野球博物誌』『Ⅱ. ライプニッツに倣いて』『Ⅲ. センチメンタル・ベースボール・ジャーニー』『Ⅳ. 日本野球創世奇譚』『Ⅴ. 鼻紙からの生還』『Ⅵ. 愛のスタジアム』『Ⅶ. 日本野球の行方』によって構成されています。章ごとに内容はバラバラです。

「野球」を巡る小説と捉えていいのかどうかすら、いまいち分かりません。その最も大切なテーマというべき部分には「野球」ではなくてたとえば「小説」という言葉を代入することも可能なのではないか。

とにかく笑えるところは良いです。『Ⅳ. 日本野球創世奇譚』の辺りになってくると少しうんざりした気分になってきますが、それでもやっぱり面白いです。読んでいると奇妙な気分になります。なんというか踊る言葉の意味が分からなくて、現代演劇を見ているような気分になるのです。

世俗との関係を断ち切ることがない高橋源一郎の姿勢は、少し応援したくなります。同じように筋書きが崩壊した不可解な小説を書いている村上春樹とは全く対照的。

第1回三島由紀夫賞受賞作。


今日読んだ本
高橋源一郎『優雅で感傷的な日本野球』

今読んでいる本
池澤夏樹『スティルライフ』
『柳生十兵衛死す 下』
柳生十兵衛が額を割られ、殺されているのが発見されます。一流の剣士として知られていた彼がいかにして殺されたのか、その顛末を綴る物語だという説明が入り・・・ 江戸時代を舞台にした柳生十兵衛と竹阿弥、そしてその子たち金春七郎、りんどうらの物語が始まっていきます。途中からは突如として室町編に突入。一休さんも登場。

下巻に入り、物語は佳境へ突入。室町時代の冷徹な柳生十兵衛と江戸時代の陽気な柳生十兵衛がくるくる入れ替わるため、そのたびに物語は大混乱。しかも、物凄く都合の良いときに入れ替わるから笑えます。そして、15歳の一休さんと15歳の義円〈足利義満の子〉がくるくる動き回り、そのたびに敵に捕まります・・・ その2人のちょっ間抜けな魔童子たちのおかげで物語はどんどん進んでいくわけです。

最後は、山田風太郎らしく哀切に満ちています。


今日読んだ本
山田風太郎『柳生十兵衛死す 下』

今読んでいる本
高橋源一郎『優雅で感傷的な日本野球』
『さくらんぼの性は』
オレンジを12個口に入れることができ、象さえも吹き飛ばすことができる大女は、たくさんの犬を引き連れているため「犬女」と呼ばれていました。そんな彼女は、あるときテムズ川で赤ん坊を拾い、ジョーダンと名付けます。成長したジョーダンは、踊り手フォーチュナータを探すたびに出ます。一方、犬女は処刑された王の仇を討つために、ピューリタンたちを叩き潰していきます・・・

あらすじを追って説明していくことは難しいです。「わたしはいま・ここに縛られているわけではない」という考え方が、『さくらんぼの性は』という物語を支えているからです。最初は混乱するのですが、読み進めていくうちに物語の中に吸い込まれていきます。

猥雑なのに非常に美しくて、幻想的なのにきちりとまとまっていて、残酷なのに優しくて、壮大なのにすかっとしています。最初はジョーダンの旅と犬女の日々が交互に綴られています。

ジョーダンの旅は壮大なる叙事詩です。彼は、空が言葉に埋め尽くされてしまうためそれを清掃する人がいる世界にまぎれこんだりするのです。とんでもなくぶっ飛んでいて残酷なところはとても童話的。そして時には神話的。一方、醜く巨大な犬女の大活躍は爽快です。王の首をちょんぎり、全てを清潔に規律で縛ろうとするピューリタンたちを片っ端からぶちのめしていくのです。しかし、息子ジョーダンには彼への愛を素直に告げられません。その不器用さもまた印象的。

女を支配していると思い込んでいる男たちを見つめる女たちの辛辣な感想は怖いけど、小気味良いです。

最後の章では物凄いことが明かされます。しかし、なぜかすっと受け入れられます。


今日読んだ本
ジャネット・ウィンターソン『さくらんぼの性は』

今読んでいる本
山田風太郎『柳生十兵衛死す 下』
205私が殺した少女
★★★★ 原りょう

204点と線
★★★ 松本清張

203故郷忘じがたく候
★★★ 司馬遼太郎

202銀河英雄伝説5 風雲篇
★★★★ 田中芳樹

201勝つ極意 生きる極意
★★ 津本陽
★★★★

著者:  原りょう
出版社: 早川書房

  沢崎は突如として少女誘拐殺人事件に巻き込まれ、自分が犯人と疑われてしまう。被害者家族、警察、犯人の手先と思われる2人組の男といった、いろいろな人たち中で少女を救うべく奔走していくのだが、悪戦苦闘。彼は、いったいどこへとたどり着くのか。

  第102回直木賞受賞作。ついでに、1989年度版『このミステリーがすごい!』ランキング第1位。「週間文春 傑作ミステリーベスト10」1989年 第2位。

  というから期待して読んだら、なんなんだ、これは、と思ってしまいました。確かに面白い、面白いけれどミステリと思って読んでいたら、なんだかハードボイルド小説っぽい感じというか、もろにハードボイルド小説で、別にたいした謎があるわけでもないし。

  最後にどんでん返しがあるんだけど、それもそこまで衝撃的ではなかった・・・ まぁ予測の範囲内でした。中華料理を食べようとしたら、精進料理がでてきた、みたいな気がしてしまいます。う~んどうもよく分からない・・・

  「推理小説」だと思って読み始めたのがいけなかったのかも知れません。ぎちりと固まっている文章とかとても良い感じなのに、どうしても肩透かしをくらったような感じがしててしまう・・・ 

  沢崎っていうひねくれた探偵の主人公は格好良いし、錦織警部も格好良い。その2人がとにかく格好良いような感じです。徹底的に硬派です。もちろん、主人公と女性のからみなんてまったくありません。沢崎にくっついてくるのは、探偵に憧れる少年です。


自森人読書 私が殺した少女
★★★

著者:  松本清張
出版社: 新潮社

  機械工具商会の経営者・安田辰郎は、料亭「小雪」の女中2人に見送られ、東京駅の13番ホームから出発しようとしていた。その間際、向かいの15番線ホームに、料亭「小雪」で働く女性・お時を見つけた。彼女は、男性とともに電車に乗り込むところのようであった。しかし、安田辰郎と女中たちは、遠慮して声はかけなかった。

  その数日後、お時とその男性が遺体になって香椎の海岸で発見される。警察は、心中とみて捜査を始めたのだが・・・

  推理小説にしては柔らかい文体(もともと芥川賞を受賞して登場した作家だからなのか)。この分厚すぎないちょうど良い長さ。その当時の日本の様子を踏まえた描写。そこらへんが大ヒットした原因なのかなぁ、と感じます。

  今読むと時代の遷り変わりを、強く感じさせられます。その当時は、まだ飛行機旅行は普通じゃなかったそうです。今とは全然違ったんだなぁ・・・ だけど文章は、それほど古臭い感じはしません。普通に読めてしまいます。むしろ、とても読みやすいとすら言えるかも知れない。

  解説の平野謙が、物語の中には重大な欠点があると指摘しているのですが、その主張には頷かされます。確かにその通りだ・・・

  とはいえ、この『点と線』は「社会派推理小説」の始祖ともいうべき作品です。社会性のある題材を扱い、リアリティを大切にする推理小説はここから始まったとすら言われます。少しの瑕疵は仕方ない、というよりか、これまでの現実にはありえないような事件を描く作品群とは違う方向を目指したというところがまず凄いのではないか、と思います。

  まぁとにかく読んでみると面白いです。


自森人読書 点と線
『レモンとねずみ』は、石垣りんの詩集。
『レモンとねずみ』
これまでに出版された詩集に未収録となっていた詩を集めたものだそうです。

詩の中に、石垣りんという人が赤裸々に表されているように感じました。読むだけで生き方自体が明確に見えてくる、というか。

『表札など』を読み、単純に毅然とした人なのかと思っていたのだけど、そういうわけでもないみたいです。なんというか、たくさんの辛いこと(父親の介護)も抱え、それらの重みに潰されそうになりながら、それでも生き抜いていった人のような印象を受けました。まぁそれこそ本当の強さを持っていなければできないことかも知れない。


今日読んだ本
石垣りん『レモンとねずみ』

今読んでいる本
山田風太郎『柳生十兵衛死す 下』
ジャネット・ウィンターソン『さくらんぼの性は』
『居場所もなかった』
『居場所もなかった』
私は東京に住む小説家。気に入っていた部屋を追い出され、どこかへ引っ越すことになるのですがオートロック付きの部屋に拘るため、なかなか良い部屋が見つかりません。そして、最終的に引っ越した先では狂いそうなほどの騒音に苦しめられます。再び部屋を探す中で、女性・無職な人間に対する差別というものをひしひしと感じるようになります。彼女は過酷で卑劣な現実との格闘を、現実を露骨にしたような妄想(虚構)を交えつつ、書き綴っていきます。

『背中の穴』
奇怪な布を被った人と普通の人に手伝ってもらい、引っ越すのですが、その中で背中の穴があった母や祖母のことを思い出します・・・

笙野頼子の小説は、全く爽やかではありません。陰鬱です。読んでいると少し辛いし、主人公の暗い感情が伝染してきそうです。しかし、今回は主人公の暴走しまくりの妄想が各所に入り混じるので少し笑えます。「私」の徹底的な拘り(オートロック付きの部屋でないとヤダ)は滑稽です。けれど、分からないでもありません。「私」の妄想は、生きることが困難な社会に対する過剰反応なのではないか、と思います。

それにしても引越しを書くことで、社会と「私」の病気を明確に抉り出していく笙野頼子の筆致は素晴らしいです。小説というもの自体に対するツッコミすら挟まれています。本当におかしい。

文学を蹴落とそうとする人間たちを罵倒しまくるあとがきがまた凄いです。あとがきも1つの作品と化しています。


今日読んだ本
笙野頼子『居場所もなかった』
笙野頼子『背中の穴』


今読んでいる本
山田風太郎『柳生十兵衛死す 下』
石垣りん『レモンとねずみ』
★★★

著者:  司馬遼太郎
出版社: 文藝春秋

  『故郷忘じがたく候』は、バラバラの破片を集めるようにして、16世紀豊臣秀吉の侵略によって拉致され、日本の薩摩にやってきた朝鮮の人たちの数奇な軌跡を江戸・明治・大正・昭和とたどっていった短編。彼らは今でも鹿児島の地に生き続けているそうです。

  日本人として鹿児島に住みながらも先祖の心を引き継いで故郷を想い続ける朝鮮人、沈寿官が、朝鮮に行ったとき、学生に向けて講演したという言葉が印象に残ります。「あなた方が三十六年をいうなら、私は三百七十年をいわねばならない」。彼は、戦争被害を言い続け、後ろを振り向くのはやめよう、と祖国の人たちに呼びかけます。

  拉致問題にも、同じ言葉があてはまるのではないか、と感じました。「おあいこ」ですむ問題では決してないし、まだ拉致されている人が北朝鮮にいるならば、その人たちを救うのは急いで為さねばならないことです。しかし、日本国が北朝鮮による何十年間前かの拉致の罪を声高に糾弾するならば、朝鮮の人たちは「日本による60年間前の拉致の罪を糾弾せねばならない」となるのではないか・・・

  司馬遼太郎の物語は、短い中にたくさんのものが詰め込まれていて、感心させられます。「無味乾燥な歴史に命を吹き込んだ歴史作家」といわれるほどなのだから当然か。

  とはいえ、司馬遼太郎が本領を発揮しているのは多分長編だろうと思います。だから、『坂の上の雲』『関が原』『街道をゆく』といった辺りは、いつか読みたいとは思っているけど、読破するのがとても大変な気がして、いまだに何作か(『燃えよ剣』と『項羽と劉邦』)しか読んでないです。『竜馬がゆく』は途中で放り出してしまったし・・・ う~んなぜか波長が合わない・・・


自森人読書 故郷忘じがたく候
★★★★

作者:  田中芳樹
出版社: 徳間書店

  銀河英雄伝説シリーズ全体の感想のページ

  『不敗の魔術師』ヤンは、イゼルローン要塞を放棄し、フェザーン回廊から侵攻してくる帝国軍と対抗。そして同盟の「民主主義」を守るために盾となります。彼の率いる第13艦隊が、同盟を守る最後の艦隊となってしまいました。

  ヤンは、シュタインメッツ、レンネンカンプ、ワーレンといった帝国の並み居る将帥を見事な心理戦の末に次々と打ち破っていきました。そうして、とうとう帝国軍全軍の司令官・ラインハルトは立ち上がりました。彼は自らの手でヤンを倒そうとします。そして、『常勝の天才』ラインハルトと、『不敗の魔術師』ヤンがバーミリオン星域においてとうとう激突します・・・

  シリーズ中最も盛り上がる巻といっても過言ではないです。

  同盟派の人間にとってはとてもじれったい巻でもあります。首都ハイネセンを包囲され、降伏してしまう同盟。そしてその首脳部の指示を受けて勝っていたはずの戦いを停止してしまうヤン・ウェンリー。「勝手にラインハルトを討てば、自分は独裁者ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムとなってしまう」という彼の言葉は確かにその通りなんだけど。シェーンコップの「独裁者になってしまえば良い」というけしかけが、凄く魅惑的に聞こえます・・・

  凄く悩ましいところです。


自森人読書 銀河英雄伝説5 風雲篇
★★

著者:  津本陽
出版社: 講談社

  宮本武蔵、大石内蔵助、徳川吉宗、山岡鉄舟等いろんな剣士や豪傑たちの事跡を追い、剣の奥義は、処世の指針になるんだ、と説く1冊。それぞれの小話は、それぞれけっこう面白いです。だけどだいたいどれもこれもどこかの本から全部引き写ししてきたようなものばかりなのでうんざりします。手軽に金儲けしているとしか思えない。

  盗作まがいのことばかりやっているおじいちゃんに、偉そうに「生きる道」なんて説かれたくない、と思います(文章をあっちこっちからたくさん「無断引用」している)。

  津本陽は、歴史小説作家として活躍していた人です。もう90歳くらいだから、もう小説を書く仕事からは引退しているのかも知れないけど。昔は直木賞の選考委員とかやっていたこともあって紫綬褒章とかもらったこともあって、もうほんとに大作家です。どうして、そういう人が無断で引き写しをやってしまったりしたんだろうか。

  歴史小説っていうのは、それだけ大変なのかなぁ。いやそういう問題じゃないと思うけど。勝手に人のものを自分のものみたいに発表して良いはずがない。

  しかも、女性蔑視的な視点がそこかしこに見られる。まぁ舞台が戦国・江戸だからそれは仕方ないことなのだろうか。だけど仕方ないですまされたらどうすれば良いんだろうか。

  これに時間をかける必要性はなかったなぁ、と感じました。


自森人読書 勝つ極意 生きる極意
野中柊『アンダーソン家のヨメ』を読みました。『ヨモギ・アイス』『アンダーソン家のヨメ』収録。
『ヨモギ・アイス』『アンダーソン家のヨメ』

『ヨモギ・アイス』
野中柊のデビュー作。ヨモギは白人ジミーとの国際結婚の後、アメリカへ行きます。彼女の朝の日課は体重を測ること。アメリカの食べ物のために太ってしまうのがいやなのです。そんなある日、引越ししたはずの隣人の飼い猫・タマを見つけ・・・

『アンダーソン家のヨメ』
ウィル・アンダーソンと国際結婚することにしたサトー・マドコ。彼女東南アジアでのハネムーン旅行の後、アンダーソン家を訪ねます。そしてそこで結婚を祝ってもらうことに。マドコはアンダーソンと名乗りたくはないのですが・・・

けっこうさくっとしていて読みやすいです。横文字やカタカナが多用されています。それによって異質な何かが含まれているような感じがします。非常に巧い仕掛けだなぁ、と感じました。

人種を越えて結婚する2人の人間が描写されることによって、結婚/家庭の問題が明確に浮かび上がってくる気がしました。そもそも家庭とは何なのか、考えさせられます。「お母さん」になることが、女性にとっての幸せなのか。


今日読んだ本
野中柊『ヨモギ・アイス』
野中柊『アンダーソン家のヨメ』


今読んでいる本
笙野頼子『居場所もなかった』
山田風太郎『柳生十兵衛死す 下』
『人類は衰退しました②』
人類が衰退して数世紀がたちました。人類最後の学校を卒業し、調停官となった旧人類の少女は、新人類「妖精さん」たちと仲良くなります。妖精さんたちはお菓子が大好きな小人さん。わらわらと集まるととんでもないことをしでかすのですが、すぐに散らばってしまいます。『人間さんの、じゃくにくきょうしょく』『妖精さんの、じかんかつようじゅつ』収録。

『人間さんの、じゃくにくきょうしょく』
私は妖精さんのつくったと思われるスプーンを使ったためにハムスターサイズになってしまいます。もとに戻るため妖精さんを探すのですが、なかなか会えず、大変な目にあいます・・・

『妖精さんの、じかんかつようじゅつ』
助手さんを出迎えに行った私は妖精さんのつくりだした時間の中に取り込まれ、ループしてしまい、お菓子をつくり、つくり、つくるはめになります。

1巻以上に面白いです。1巻以上にふざけています。小説という枠組み自体に対するギャグまではさまれています。いつの間にか「・・・なのです」というあまりにもわざとらしい語り口に慣れてしまい、なんだかその語り口がかえって心地よくなってきました(まずい気がする・・・)。


今日読んだ本
田中ロミオ『人類は衰退しました②』

今読んでいる本
野中柊『アンダーソン家のヨメ』
古井由吉の短編集『円陣を組む女たち』がやっと読み終わりました。

『菫色の空に』
賀夫は旧友・五百沢とテニスをしているうちに自分と彼との間に異様な隔たりがあることを感じます。その後、肌着がなくなり・・・

古井由吉の主人公たちは妙に自閉的です。そして、純粋さを追求し、べたついたものを嫌悪します。村上春樹となんだかよく似ています。


今日読んだ作品
古井由吉『菫色の空に』

今読んでいる本
野中柊『アンダーソン家のヨメ』
田中ロミオ『人類は衰退しました②』
『昭和少年SF大図鑑 昭和20~40年代 僕らの未来予想図』
SFを「空想科学」と言っていた時代の様々な雑誌の表紙や挿絵が収録されています。当時の人たちがどのような未来を夢見ていたのかということが分かります。挿絵画家の紹介もついています。

とても楽しかったです。レトロというかなんというか、未来都市やロボットの図柄が古めかしい・・・


今日読んだ本
『昭和少年SF大図鑑 昭和20~40年代 僕らの未来予想図』

今読んでいる本
古井由吉『円陣を組む女たち』
200銀河英雄伝説4 策謀篇
★★★★ 田中芳樹

199派閥再編成―自民党政治の表と裏
★★★ 井芹浩文

198きみにしか聞こえない CALLING YOU
★★★ 乙一

197「世界征服」は可能か?
★★★★ 岡田斗司夫

196敦煌
★★★★★ 井上靖
★★★★

作者:  田中芳樹
出版社: 徳間書店

  銀河英雄伝説シリーズ全体の感想のページ

  門閥貴族に7歳の皇帝を誘拐させてそれを同盟に送り込み、侵攻の糸口をつくった帝国軍の元帥・ラインハルト。すでに事実上銀河帝国の最高権力者となっていた彼は、イゼルローン回廊とフェザーン回廊の両方から同時に同盟領土へ侵入することを計画する。作戦名は、「神々の黄昏(ラグナロック)」。

  その計画は見事に成功する。同盟政府は完全に危地へと追い込まれてしまった。それに対して、ラインハルトは、フェザーンにたどり着いた時、兵士らの「皇帝、ばんざい」という叫びに包まれた。彼は、大きな前進を遂げ、銀河系全体の支配へと向かっていく・・・

  大きな戦争もあるんだけど、それよりも激しい裏側の政争が印象に残る巻です。これまで三つ巴の中で、お金を握ることで独自の位置を占めていたフェザーンが潰れて、物語は大きく動きます(ルビンスキーも、地球教も潜伏してしまっただけなんだけど)。僕は、1・2巻と10巻の次くらいに、この4巻が面白いのではないか、と思っています。まぁヤンや、ロイエンタールの最期が描かれている別の巻も、それぞれ印象的ではあるからどの巻が面白いかなんて決めらるわけがないんだけど・・・

  「ラグナロック」なんて、ありきたりなネーミングになってしまったわけですが。まぁ北欧神話からもってきたわけだから、かぶるのは仕方ない。というよりか、だいたいの場合こちらの作品の方が先で他の作品が後追いになるわけで・・・ まぁ何にしろ格好良いから良いじゃないか、と思います・・・ なんだか言い訳めいているけど。

  流浪を余儀なくされる老いた名将・メルカッツが辛そうだなぁ・・・ 本当ならばもっと活躍できたほどの人なはずなのに。ついでに、メルカッツに何も言わずに従う副官シュナイダーが格好良いです。


自森人読書 銀河英雄伝説4 策謀篇
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