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自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
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都電荒川線沿線の王子駅・尾久駅周辺を舞台にした小説。
『いつか王子駅で』
時間給講師の私は、昇り龍を背負った印鑑職人の正吉さんと偶然知り合います。2人は居酒屋「かおり」で同じ珈琲を飲みつつ、少しだけ言葉を交わすような仲でした。そんなある日、正吉さんが大切な人に印鑑を届けるといったきり姿を消します。彼は「かおり」に土産のカステラの箱が置き忘れたままでした。それを私は預かるのですが、正吉さんは帰ってきません。
それでも私の日常は続いていきます。大家の米倉さんと一緒に酒を飲み、その娘の咲ちゃんには勉強を教え、時には翻訳の仕事をし、競馬と昔の小説(島村利正の短篇集『殘菊抄』のはなしが出てきたりする)についていろいろ考えたりしながら、1日1日は流れていきます・・・

教科書に載っている『サアカスの馬』について書いてある部分とか、面白かったです。あと『スーホの白い馬』が登場したときは懐かしくなりました。

文章がとにかく良いです。1つの文が長いので、一度読んだだけでは意味を汲み取れないこともあるのですが、だからこそ味わいがあります。いかにも純文学っぽい、と僕は感じました。だから要約はできないです。それにしても、淡々としているのに非常に読みやすいし、読みたくなります。



今日読んだ本
堀江敏幸『いつか王子駅で』

今読んでいる本
ねじめ正一『ひゃくえんだま』
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『暗黒星雲のかなたに』
地球大学に留学していたウィデモス領主の跡継ぎバイロン・ファリルは、いきなり暗殺されかかります。彼は、冷徹な学友サンダー・ジョンティの助言を受けて地球を脱出。しかし、バイロンは、父が反逆者だったことから星系を支配するティラン帝国に追われ、監視されます。彼は必死に逃亡しようとするのですが・・・

主人公バイロンは、青臭くてとにかくへまを繰り返します。あんまり共感できません。それに比べて、敵のアタラップが格好良すぎ。

ラストには納得できませんでした。そこで減点。そこで登場するのは、絶対に「フランス人権宣言」だろう、といいたくなります(結局、失敗したけど・・・)。


今日読んだ本
アイザック・アシモフ『暗黒星雲のかなたに』

今読んでいる本
堀江敏幸『いつか王子駅で』
★★★★★

作者:  松本清張
出版社: 講談社

  『小説帝銀事件』は、小説というよりルポ、もしくはノンフィクションに近い作品です。語り手はある記者。彼は、帝銀事件の事実を徹底的に洗った結果、「警察・検察の捜査や裁判の結果、犯人とされた画家・平沢貞通は真犯人ではない、実はGHQ(旧日本軍731部隊の人間)に関係のある者が犯人だったのでは?」と推測するもの。

  さて、その帝銀事件とはどういう事件か、というと。
  1948年1月26日、安田銀行板橋支店の閉店直後、東京都防疫班の白腕章をつけた男がやってくる。男は、「近隣で集団赤痢が発生した。GHQがここを消毒する。その前に予防薬を飲んで欲しい」と言って、青酸化合物を銀行内にいた16人の職員達に飲ませる。12人が殺害され、男は、現金16万円と小切手1万7450円を奪って逃亡。
  ・・という冷酷非道なとんでもない事件です。

  その後、テンペラ画家の平沢貞通が真犯人として逮捕されます。虚言癖のある人で、喋るごとにウソをぺらぺら喋るような人でした。彼は、ほとんど拷問に近い尋問の結果、事件のことを「自白」。死刑を宣告されます。

  しかし、物的証拠はほとんどなく、松本清張ら多くの人たちが死刑にしてはいけないという活動をしました。そのため、平沢貞通は死刑にはなりませんでした。結局、37年間の収監ののち、獄中で死去。結局、多くの謎を残したまま事件は終結します。

  松本清張が多くの証拠を挙げて、旧日本軍関係者(多分、731部隊関係者)が真犯人ではないか、と書いているのには説得力があります。そもそも警察・検察も、最初のうちは軍関係者が犯人だろうと考えていたのに、どうしてそういう方面の捜査はうまくいかなかったのか・・・? 駐留軍から圧力がかかったからではないか?

  戦後、731部隊の人たちは豊富で貴重な経験・データ(本物の人体を使った毒ガス・細菌兵器などの非人道的な実験を中国でやっていた)を持っていたことから米軍に様々な形で協力し、重用されました(中国・満州に取り残された731部隊などに属した軍人たちは、中国人やソ連によって殺されたり、裁かれたりしました。しかし、日本に密かに帰還した者達は無事だったのです。)。

  そういう者の中の1人が犯人ではないか。いとも容易く10人もの人の命を奪って平然としているところなども、人を『マルタ』と呼んで人間扱いしなかった731部隊の軍人を想起させます。旧日本軍関係者が真犯人というのは、決してありえないことではないし、むしろそれこそが真実のような気もします。まぁ今となっては、真相は闇の中なのですが・・・


自森人読書 小説帝銀事件
★★★★

著者:  舞城王太郎
出版社: 講談社

  「涼ちゃん」が飛び降りてから2年後。15歳の僕と、14歳のルンババ12は修学旅行で東京へ行きます。そして、その途中「僕」は変な姉妹に会い、家まで連れて行かれ、すぐまた戻るということがあったのち、いろんな「密室」と出会っていくことになります・・・・・

  何に分類すれば良いのか分からない。ミステリではないような気がします・・・ なので一応青春ものに入れておきます。

  以前、同じく舞城王太郎が書いた小説『熊の場所』を読んだときは、なんて凄いんだ! と感動みたいなものを覚えました。だけど、今回は期待を裏切る事はないのだけど、想像を絶することもないなぁ、という感じです。ありえない予想外の推理とか、つながってどこまでもきれない文章はさすがだけど、もうだいたい予想の範囲内。初心者でも読みやすいソフトな仕上がりです。

  もしかして、僕に耐性がついた、ということなのかなぁ。いやそれとも今回はぶっ飛びがそれほどでもない、ということなのか。エログロ描写といわれそうなものはほとんどないです。『煙か土か食い物』みたいに、やたらめったらに暴力が飛び出したりはしません。そこらへんにいそうではないけど、ある程度は普通な少年「僕」が主人公です。

  ルンババ12が活躍してくれるのが嬉しいです。『煙か土か食い物』では途中であっさりと退場してしまって残念でした。今回は大活躍です。次から次へとぶっ飛んだ推理でいろんな謎を解いていきます。よくそんなことが考えられるなぁ・・・


自森人読書 世界は密室でできているTHE WORLD IS MADE OUT OF CLOSED ROOMS.
青春小説。
『ぼくは悪党になりたい』
主人公はエイジという17歳の少年。彼は、奔放な母と腕白な異父弟・ヒロトに振り回され、家事全般を担当しています。父親は不在。生まれた時からいません。母が外国へと出張に赴き、ヒロトが水疱瘡にかかった時から、普通の日々が崩れ始め・・・

なかなか面白かったです。父親と出会い、心をぐらつかせてしまう少年の物語。

それにしてもエイジは本当に阿呆だなぁ。まぁ堕ち続けていく惨めな最後らへんの場面では少し応援したくなるけど、全体としてはじれったいなぁと思いました。勝手にして下さい、という感じ。彼が、自分とうまく付き合いきれていないのがよく分かります。

最後も悪党になるわけじゃないし。本当に中途半端です。まぁそこが妙にリアルなのですが。


今日読んだ本
笹生陽子『ぼくは悪党になりたい』

今読んでいる本
アイザック・アシモフ『暗黒星雲のかなたに』
長岡弘樹の短編集『傍聞き』を読みました。ちょっと横山秀夫っぽかったです。ひねりは良いのだけど、ちょっと淡白に過ぎるような気もしました。
『傍聞き』
表題作『傍聞き』は日本推理作家協会賞短編部門を受賞した作品。

『迷い箱』
主人公は犯罪者更生施設の施設長、設楽結子。彼女は、NHKの番組中で取り上げられるほど立派なことをしていたわけですが、前科のある人たちに裏切られることも多く、施設を辞めようかと悩んでいる最中でした。そんな中、施設を出ていったばかりの碓井という男が失踪し・・・

『899』
主人公は消防士、諸上将吾。彼は隣近所に住む新村初美という女性のことが気になってしかたがありませんでした。なにげなくアタックしてみるうちに2人は接近していきました。そんなある日、新村初美の隣家で火事が発生し・・・

『傍聞き』
主人公は女性刑事、羽角啓子。彼女は連続通り魔を追うのですが事件は全く進展せず、しかも機嫌を損ねると喋らなくなる娘にも悩まされ、絶え間ない頭痛に襲われます。タイトルの「傍聞き」と言う言葉にこめられた二重の意味とは・・・

『迷走』
主人公は救急隊員、蓮川潤也。彼はもうじき義父となる室伏光雄隊長とともに仕事をしていた。ある日、急報があって駆けつけるとそこには室伏の知り合いらしき人が倒れていて・・・


今日読んだ本
長岡弘樹『迷い箱』
長岡弘樹『899』
長岡弘樹『傍聞き』
長岡弘樹『迷走』


今読んでいる本
笹生陽子『ぼくは悪党になりたい』
★★★

著者:  本川達雄、あべ弘士
出版社: 福音館書店

  ちょっと前にはやった、というか噂になった絵本、だと思います、多分。

  もともと新書だったもの(『ゾウの時間ネズミの時間 サイズの生物学』中公新書)を子ども向けに絵本にしたもの。

  ゾウの体感している時間と、ネズミの体感している時間は異なる、ということを分かりやすく説明してくれます。だけど説明っぽい感じはしません。絵もきれいだし、読んでいてとても面白いです。「とても感動した、これは子どもに読ませるだけではなくて、大人も読むべき絵本だ」といっている大人の人をよく見かけるような気がします。

  体の大きい生物ほど時間の流れるのが遅いのだそうです。どんな動物でも、一生の内の鼓動の回数は決まっていて、約20億万回。だからゾウに比べて、ネズミの方が命が短いということにはならないそうです。そうだったんだ・・・

  今まで全然知らなかったです。「今年10歳ですが、人間に換算すると60歳くらいということになります」という説明とかがよくあるけど、それはこの絵本と同じように考えてみた場合なのかもなぁ、多分。まぁその他にもいろんな条件を組み合わせて、いろいろ考えているのかも知れないけど。

  面白い絵本だなぁと思います。


自森人読書 絵とき ゾウの時間とネズミの時間
★★★★

著者:  榊原悟
出版社: 岩波書店

  『日本絵画のあそび』は、平安時代から江戸時代までのいろんな日本の絵画を紹介し、その面白さを紹介したもの。固くなくて読みやすいです。普通、絵画のはなしとなると、滔々と歴史のはなしが始まり、難しい技法のはなしが始まり、なんかやたら読みにくかったりすることもあるのですが、この本はそのようなことはありません(だからかえって、全体的に大掴みで大雑把なのかも知れないけど、初心者の僕にとってはそこがいいです)。

  何メートルもある紙にでかでかと「達磨」の絵を描いた葛飾北斎、米粒に雁や唐人を描いた坂本文仲。「大」「小」のマジックっていろいろあるんだなぁ、と思いました。今度、自分でも何か活かしてみたいなぁ、美術でも絵画をとっているんだし。

  絵から、花が浮いて見えるように、絵と生け花を組み合わせたという工夫をした人がいたり・・・ 達磨を茶化し、遊女に聖性を見出す人がいた、というはなしも面白い。逆転の発想が絵を面白くするんだなぁと思います。

  章【1.誇張と即興/2.「虚」と「実」のはざま/3.対比の妙/4.「右」「左」をめぐって/5.江戸人のユーモア】

  『日本絵画のあそび』、けっこうおすすめです。

  そういえば、この頃ものすごく岩波書店にはお世話になっています。1週間に読む本のうち、半分くらいは岩波の本のような気がします。


関連リンク
高1 美術(絵画)


自森人読書 日本絵画のあそび
かめくんは、「木星戦争」に投入するために開発されたはずなのですが、クラゲ荘に住み、穏やかに日々を過ごしていました。そんな、ほのぼのとしたかめくんの日常を描いています。SF小説。
『かめくん』
表紙がまず良いです。各章のタイトルも最高。

第一章  模造亀(レプリカメ)
第二章  機械亀(メカメ)
第三章  亀記憶(カメモリー)
第四章  亀手紙(カメール)
ってな感じ。

そして中身も非常に面白かったです。
かめくんのほのぼのした雰囲気がまず良い、と感じました。そして、現実と物語が互いに侵入し会っている世界と、かめくんの哲学と、擬音語の多用と、随所に仕込まれたパロディと、そしてほのかな物悲しさ。どれも良かったです。ほのぼのしているのに、哀しくて、滑稽で、シュールです。

かめくんの哲学を読んで、この作品は確かにSFだ、と感じました。


今日読んだ本
北野勇作『かめくん』

今読んでいる本
長岡弘樹『傍聞き』
いったいどういうふうに読めばいいのか。シュールで、訳が分かりません。誰か、解説してほしい・・・

ちょっとグロテスク。とはいえ、何もかもが靄に包まれている感じなのであんまり気になりません。透明な空間に放り出された気がしてしまいます。でも、完全に意味不明と言うわけではなくて、時々何かがふっと姿を現します。鮮明に浮かび上がるのです。情景や、人間どうしの「抽象的な関係」みたいなものが。
そこが不思議です。けどやっぱり訳が分からない。まるで詩みたいです。

似た比喩がいろんなところに出てきます。ちょいちょい、みみずが出てくることにどんな意味があるのか。う~ん分からない。けど、その結果としてなんとなく『カッコウが鳴くあの一瞬』という作品には、全体として一体感があります。

いやー、本当に面白い本を読ませてもらいました。困惑したけど、凄いとも思わされました。


今日読んだ作品
残雪『天国の対話』
残雪『素性の知れないふたり』
残雪『毒蛇を飼う者』


今読んでいる本
北野勇作『かめくん』
『BILLY BAT 1』は浦沢直樹の漫画。
『BILLY BAT 1』

謎のコウモリが登場。物語を盛り上げます。

下山事件が扱われています。

その下山というのは、国鉄の総裁の名前です。彼は大量の人員削減、ようするに首切りをすすめるようアメリカ・日本政府から言われ、一方国鉄の従業員からは首切り反対と言われ、板ばさみになりながらも首切りをすすめました。ですが、三万人もの人間の解雇を決定した後、失踪。轢死した姿で発見されました。他殺か、自殺かいろんな人が考え、調べましたが、結局事実は分かりませんでした。そして迷宮入り。

松本清張は『日本の黒い霧』で、下山事件(および国鉄を襲った不可解な事件)は、アメリカによる陰謀だと主張しています。そういうふうに事件を分析した本を読んだ後に『BILLY BAT 1』を読むともっと面白いと思います。


浦沢直樹はどこへゆくのか。
『MONSTER』では、東欧の優生思想や移民焼き討ちについて扱い、『20世紀少年』では近未来、日本を支配するカルト・宗教集団との闘いを描き、『PLUTO』では、手塚治虫の原作に則って「ロボットと人間の関係」というテーマを描きつつ、一方では現在の世界状況をそのままコピーして、平和とは何かと問い・・・ そして今回は下山事件。エンターテインメントではありながら、扱われているのはかなり政治色の強い問題ばかり。
そんな彼が、どういうふうに、戦後史を描いていくのか。楽しみです。

そういえば、下山事件といえば、手塚治虫『奇子』を思い出します(『奇子』の主人公が下山事件に関わる)。そこらへん、浦沢直樹はたぶん意識しているのではないか。


今日読んだ本
浦沢直樹『BILLY BAT 1』

今読んでいる本
残雪『カッコウが鳴くあの一瞬』
今、残雪の短編集『カッコウが鳴くあの一瞬』を読んでいる最中。

あらすじは説明不可能。なんいうか、いろんなものがごちゃ混ぜになっています。しかも登場人物どうしの会話が会話として成立していません。なんだか、おかしいです。不可思議な世界。

読んでいるとなんだかぐったりしてきます。

『刺繍靴および袁四〈ユエンスー〉ばあさんの煩悩』は少しあらすじらしきものがあります。だからけっこう読みやすかったです。


今日読んだ作品
残雪『カッコウが鳴くあの一瞬』
残雪『曠野の中』
残雪『刺繍靴および袁四〈ユエンスー〉ばあさんの煩悩』


今読んでいる本
残雪『カッコウが鳴くあの一瞬』
浦沢直樹『BILLY BAT 1』
『砂の女』
昆虫採集に出かけた男は砂丘に迷い込み、村落の人間に助けを求めた。だが、彼らは男を助けるどころか、砂の中に埋もれゆく一軒の家に閉じ込めてしまう。男は、その家にもとからいた女とともに砂掻きをさながら、生活していくことになるのだが、どうしても納得できず何度も脱出を試みる。しかし、決してうまくいかない。女は逆に、男を家に縛りつけようとした。村の人々はそれを冷静に観察していて・・・

文章は、非常に読みやすいです。中身を理解できたとはいえないけど。

1/8mmの砂の中に包まれた小説。砂に埋もれつつある村なんてものは、存在しないはずです。それなのに細部の描写が生々しいだからか、いかにも本当にあった出来事のような気がしてきます。安部公房と言う人は凄い。

「罰がなければ逃げる楽しみもない」という最初の言葉に呼応して、世界が逆転してしまう三章が非常に面白いです。


今日読んだ本
安部公房『砂の女』

今読んでいる本
残雪『カッコウが鳴くあの一瞬』
残雪の短編集『カッコウが鳴くあの一瞬』を読んでいる途中。
『カッコウが鳴くあの一瞬』
『阿梅(アーメイ)、ある太陽の愁い』『霧』は家族の物語、それで『雄牛』は恋人の物語、だと思う、多分。けどほとんど筋書きというものが失われているので、解説することに意味がない気がします。

もう次に何が飛び出してくるのか、全く分からないです。ビックリ箱みたいな感じ。スリルがあります。残雪という人は面白いなぁ・・・

不思議な感覚。「太陽にうぶげがはえていた」というところで、もう凄いわーと思ってしまいました。


今日読んだ作品
残雪『阿梅、ある太陽の愁い』
残雪『霧』
残雪『雄牛』


今読んでいる本
安部公房『砂の女』
残雪『カッコウが鳴くあの一瞬』
『八日目の蝉』
1985年2月、野々宮希和子は不倫相手の家に侵入し、突発的に生後6ヶ月の赤子を誘拐してしまいます。希和子は赤子に「薫」という名をつけました。そして、自分の子として育てるため逃げ回ります。なぜか、彼女たちの行く先々にはいろんな理由で匿ってくれる人がいたため、逃亡は何年間にもおよび・・・

長篇サスペンス。二部構成。角田光代らしい家族を巡る物語。いったい家族と言うもの何のためにあるのか。

最初、希和子はとんでもない人だと感じました。だけど、読み進めるうちにだんだんと印象が変わってきました。もちろんとんでもない人だということは変わらないけど、子どもを思う気持ちをしっかりと持った「お母さん」だということに、心が動かされました。

立ち退きに応じないお婆さんの家での生活。怪しいエンゼルホームにおける日常。美しい自然に囲まれた小豆島での日々。どれもこれもが印象的です。


今日読んだ本
角田光代『八日目の蝉』

今読んでいる本
安部公房『砂の女』
残雪『カッコウが鳴くあの一瞬』
『文学賞メッタ斬り!リターンズ』やっぱり面白い!
島田雅彦登場。
『文学賞メッタ斬り!リターンズ』
まぁ最初ほどの勢いは感じられなかったけど、面白いです。それにしても、大森望、豊崎由美両人の読んでいる本が非常に多くて驚きます。本当に凄すぎる。

町田康『告白』を、豊崎由美が絶賛。けど大森望はそれほどでもない、と思っているらしい。そこらへんの差が面白いです。でも、基本的に2人とも同じような立場だなぁ・・・ もっと違う感覚を持っている人が加わってきたら、もっと面白くなりそうです(いや、大森望、豊崎由美2人が喋っているだけでも充分面白いけど)。


今日読んだ本
大森望、豊崎由美『文学賞メッタ斬り!リターンズ』

今読んでいる本
角田光代『八日目の蝉』
再読。

王政のローマが生まれ、そして、共和制へと移り変わっていくところと、ギリシア文明の発展と繁栄についてが書かれています。

面白いです。面白いけど、これは決してローマの歴史を書いたものではない、と感じました。物語です。塩野七生という人は、どれだけローマを褒めれば気が済むのか。だんだんうんざりしてきます。しかも、なんだか文章が下手。妙に読みづらいし、文法もおかしいです。そこにも、うんざりします。

僕は、中国贔屓の田中芳樹の方が好きです。むしろ、田中芳樹の方が文章も物語の広げ方も上手ではないか、と思います。それなのに、塩野七生は勲章とかをもらいまくる一方で、田中芳樹は完全に無視されています。どうしてなのか。

田中芳樹の作風はライトノベル的です。そこらへんが不評なのかもしれない。だけど、勲章とかをもらえない最大の要因は別のある気がします。田中芳樹作品の根底にある反権力・リベラルな思想が忌避されているのではないか(僕はそこが好きだけど)。誰かもう少し田中芳樹を評価してくれる人はいないのかなぁ・・・

今日読んだ本
塩野七生『ローマ人の物語Ⅰ ローマは一日にして成らず(上)』(再読)

今読んでいる本
角田光代『八日目の蝉』
大森望、豊崎由美『文学賞メッタ斬り!リターンズ』
★★

著者:  小泉武夫
出版社: 岩波書店

  基本的な部分においては、著者の主張(日本農業を復活させないといけない)に全面的に賛成だと感じました。食糧自給率が半分にも満たない今の日本の状況が危機的であるというのは同感です。ただし、あまり好きになれないような気になる点がたくさんある・・・

  まず、食糧からエネルギーをつくりだすバイオエタノール技術を批判して、その上で水素エネルギーを推薦している部分。べつに水素エネルギーをお奨めするのは悪いことではありません。だけど、水素エネルギーにも多々問題点があるのに、それには触れない。フェアとは思えません。

  あと、著者は、肉ばかり食べているから最近の子どもは骨が折れやすいと主張します。だけど、「運動不足」など別の問題を考慮にいれない内にそう結論付けるのは、説得力に欠けるのでは? しかも著者の日記をもとに「昔は、小学校の運動会で骨折者はいなかった」と結論付けられても全く信憑性に欠けます。もととなるデータが正確とはいえない。

  そして、1番気になった点。
  全体的に上から目線・役人目線みたいなものが目立ちます。日本国を強くするために・日本民族の文化を守るために農と食を立て直す、と著者は主張しているようです。だけど、「お国のために」とかいわれるとかえって不気味です。しかも、全体的に漂う懐古主義的な雰囲気・・・「昔は良かった」「昔は良かった」と何十度も口走っているようでは、若者の心は掴めないと僕は思うんだけどなぁ。そういう言葉ではなくて、「未来に向けて、日本に住む人たち1人ひとりの健康のために考えていこうよ」という言葉のほうが、信頼されると思うんだけど。

  つけ加えるとすると、「日本人は食べ物を粗末にする恐ろしい民族」「天罰が下る」という文章も気になります。書かれていることの意味は分かるし、共感するけど、そういう感情的な文章で煽るのはどうかと思う・・・ かえって信用できない、と僕は感じました。


自森人読書 いのちをはぐくむ農と食
『向日葵の咲かない夏』
主人公はミチオという小学生の少年。彼は、夏休み前の終業式の日、欠席したS君にプリントを渡すため、S君の家を訪ねます。声をかけても応答がないので中に入っていくと、S君が首を吊っているところを発見。ミチオはすぐさま学校に引き返し、担任の岩村先生にそのことを告げます。ですが、岩村先生と警察官が事件現場へ急行すると死体が消えていました。いったい何が起こったというのか。蜘蛛になったS君がミチオの前に現れたことで、さらに事態は混乱していきます・・・

「生まれ変わり」が自然な形で登場するので、SFか、もしくはファンタジーなのかと思いきやそういうことはなく、ミステリです。

『姑獲鳥の夏』には納得することが出来ませんでした。なんというか、いかにも大仰で、全体が作り物っぽいと感じてしまったからです(そこが良いと言う人もいるけど僕はいまいちと感じた)。しかし、同じ系統といってしまって構わないような『向日葵の咲かない夏』には感心しました。歪んだミチオの世界というものに説得力があったからです。

途中で怪しいな、とは思いました。たとえばミカのこととか。しかし、最後のあたりになって仰天しました。まさか、○○○だったとは・・・ そこまでは想像できなかったです。

傑作です。


今日読んだ本
道尾秀介『向日葵の咲かない夏』

今読んでいる本
角田光代『八日目の蝉』
★★★

著者:  岡田吉美
出版社: 日本文芸社

  面白いほどよくわかる世界の秘密結社、というわりにはよく分かるという訳でもない感じです。図解とかがたくさんあるので中身はそれほど多くないし、ちょっとごちゃごちゃしていているなぁ、という感じがしました。まぁそういうつくりだからしかたないのか。文と図を組み合わせて、子どもにも分かりやすく書いてあるような感じの本の中の1冊です。

  まぁ西洋東洋問わず、いろんな地域の秘密結社がのっているのは良い、と思いました。中国の「結社」のこともでてきます。王朝をぶっ潰すほどものすごい、民衆の力を結集したものが中国の結社なんだよなぁ・・・ 革命家・孫文や国民党の蒋介石も結社に属していたことがあります。

  だけど、こういう「秘密結社」って過大評価されて、よく陰謀史観に利用されるからなぁ。注意しないとだめなんじゃないか、と思います。ユダヤ陰謀論とか、フリーメイソン陰謀論とか、三百人委員会とかとにかく何者かが裏側から世界を操作していると主張する人は多いからなぁ・・・

  よくそれだけ色んなことを思いつくなぁと感心します。いろいろありすぎて全部ウソに見えてきます。まぁ実は、事実に近い説もなかにはあるのかも知れないけど、どれもがどこかしらに正しい指摘を含んでいても不思議ではない気がします。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるというし。

  『面白いほどよくわかる世界の秘密結社』は、そこらへんをちゃんと意識して書かれているので、まぁでたらめなことは書かれていないと思います。たぶん。分からないけど。


自森人読書 面白いほどよくわかる世界の秘密結社―秘密のベールに隠された謎の組織の全貌
★★★★

著者:  森博嗣
出版社: 中央公論新社

  政府の委託を受け、ショーとして民間会社が戦争をやっている近未来の世界。キルドレという永遠の少年・少女たちが戦闘機に乗って、空を飛び、敵と戦うというストーリーです。だけど、どういう世界なのかという説明や、戦局の説明は、ほとんどありません。主人公の、ぼんやりとした夢の中にいるような、だけどどこか醒めているような視点から全てが語られていきます。だから最初はいったいどういう物語なのか、いまいち分かりません。

  いろんな謎が少しずつ残ったような感触が・・・ う~んもやもやしたものが残りました。どうやら続編を読むといろいろと謎が解けるらしいので、これから続きを読んでみようと思います。ヒロインとも言うべき、草薙水素という人のことがもっと詳しく書かれているらしいです。

  『スカイ・クロラ』は押井守によって映画化されました。それは見にいかなかったので、周りの人が比べているのを見てもなんとも言いようがないのですが。小説はとても面白かったです。詩的、というのか。きれぎれの思考がうまい具合に書かれていました。クライマックスのあたりは圧巻です。

  あと、空を飛んでいるときの描写(というのかなぁ)が面白いです。いまいちよく分からない用語もあったのですが。

  読んでいて、やっぱり森博嗣の文章だなぁ、と思いました。全体的な文体もそうだし。あと、どこか残るものがある感じがします。読み通していくと問いかけみたいなものがどこかに残る、と言えば良いのかなぁ・・・ 物語は物語として完結しているんだけど、その中に問いがある感じです。けれど決して露骨ではない。なんなんだろう。不思議な感じだよなぁ。


自森人読書 スカイ・クロラ
SF小説。ライトノベルの系統なのかなぁ。表紙からして。
『私と月につきあって』
森田ゆかり、マツリ、三浦茜は美少女3人組。宇宙飛行士として活躍中。今回は、フランスが発射する宇宙飛行機の補助として、月の裏側へ向かう旅へ出掛けることになります。月面に水があるのかどうか、それを確かめることが目的でした。フランスの美少女5人組とペアを組むのですが、突然のアクシデントに見舞われ・・・

ロケットガールシリーズの3巻目だそうです。途中から読んでしまいました。

身体の軽い女子高生の方が宇宙飛行士として最適である、というトンデモない理屈の上に物語が組み立てられています。予想以上に面白かったです。宇宙の描写などはけっこう力が入っていたし。けどやっぱり予想通りのキャラクターと予想通りの展開。


今日読んだ本
野尻抱介『私と月につきあって』

今読んでいる本
道尾秀介『向日葵の咲かない夏』
短編集『第三の時効』の中の3篇。

『密室の抜け穴』
県北部で白骨死体が発見されます。事件をまかされたのは三班。しかし、事件現場に到着した直後に班長・村瀬が倒れ、班は危機的状況に陥ってしまいました。班を率いる立場にある東出と石上が反目し合ったのです。とはいえ、なんとか容疑者の絞込みには成功し、容疑者を監視していたら、さらに問題が発生。暴対課の顔を立てて刑事3人を捜査に加えたら、監視下で犯人が忽然と消失。警察内はごたごたしまくり・・・

『ペルソナの微笑』
隣のV県で、アオ(青酸カリ)によってホームレスが殺されたという情報が入ります。自分の県で、13年前に子どもを利用した残酷な殺人事件が起こったことがありました。それとの関わりを調べるために一班が出動します。

『モノクロームの反転』
一家3人が刺殺されます。一班とと三班が出動。事件解決に乗り出すのですが、2つの班は互いにいがみ合い、ひどいことになります。無事事件解決にこぎつけることは出来るのか・・・


今日読んだ作品
横山秀夫『密室の抜け穴』
横山秀夫『ペルソナの微笑』
横山秀夫『モノクロームの反転』


今読んでいる本
野尻抱介『私と月につきあって』
『ぼくのミステリな日常』
若竹七海は、月刊社内報の編集長に抜擢され、それまでのだらだらした日々から脱出、張り切ります。ですが、「あまり硬い内容にはせず、小説を載せよ」と言われて困惑。プロに頼むほどの予算はありません。そこで、大学時代の先輩に頼んでみたら、「知人でミステリっぽい短編を書いてくれる人がいる」と言われ、その人に連載を頼むことに。条件は匿名、というもので・・・

若竹七海のデビュー作。

連作短編集のように見えて実は・・・ という凝った作品です。凄いと思ったけど、そこまで感心はしなかったです。

日常の描写が秀逸。


今日読んだ本
若竹七海『ぼくのミステリな日常』

今読んでいる本
横山秀夫『第三の時効』
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