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自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
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今日が自由の森学園体育祭の代休でよかったです。
『酒国―特捜検事丁鈎児の冒険』がやっと読めました。マジックリアリズムを取り入れた小説。くらくら眩暈がしてきます。読んでいて本当に疲れました・・・
『酒国』

物語はちょっと変な構造をしています。

「酒国にて、街の政府高官が嬰児の丸焼きを食しているという情報を得た特捜検事は事態を重く見て、『丁鈎児(ジャック)』という捜査官を送り込みます。彼は、潜入捜査を行おうとするのですが、なぜか全てがばれていて、女と酒によって取り込まれていきます。そして、彼は激しい混乱の中で破滅していきます・・・」というのは、莫言が執筆中の『酒国』という小説です。つまり作中作。

その莫言という高名な小説家は、酒国に住む文学青年・李一斗と往復書簡を交わしていました。その手紙が物語の途中途中に挿入されます。そしてその手紙とともに載せられているのは、文学青年が次から次へと送りつけてくるグロテスクな短編小説。文学青年は、それらの作品を世間に発表して欲しいと願うのですが、手厳しい体制批判が含まれているためか出版されません。青年はじょじょに体制批判を避け、莫言に媚びるような手紙を送ってくるようになってきます・・・

文学青年の書いた短編小説の世界観は、『酒国』ともリンクしてきます。そうして『酒国』という小説と、往復書簡と、文学青年の書いた短編小説と、莫言自身の手記とが渾然一体となり、グロテスクで、どこかおかしくて、不可解な混乱が生まれています。

本当に訳が分からないです。もうめちゃくちゃというしかない。でも楽しいです。美味しそうな嬰児料理と、溢れかえって物語を破壊しつく酒。体制を嘲笑しつつ批判するその強い態度。醜い自分を自覚して自虐する莫言の視点。ぐちゃぐちゃだけど、この『酒国』と言う物語そのものが、今の中国それ自体を表しているような感じもします。


今日読んだ本
莫言『酒国―特捜検事丁鈎児の冒険』

今読んでいる本
東野圭吾『魔球』
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連城三紀彦の著書を初めて読みました。面白かったです。本格ミステリ小説だけど、恋愛小説でもあり、そしてスパイ小説としても読める作品。世界のいろんな都市が登場します(最初は、リオデジャネイロから始まる)。
『黄昏のベルリン』

あらすじ
画家・青木優二は、友達からエルザというドイツ人の女性を紹介され、まもなく抱き合うようになります。そうして親しくなった途端、エルザは衝撃の事実を告げました。「アオキは、第2次世界大戦中、ドイツの強制収容所ガウアーの中で奇跡的な誕生を遂げた赤子かも知れない」。それは事実なのか。青木は真実を追い求め、ヨーロッパに渡ります。
なぜか彼を巡ってネオナチ組織と反ナチス組織が暗闘を繰り広げ、死者まででる事態になります。最終的に、物語の舞台は東西に分裂しているベルリンへとたどり着き、そこで衝撃の事実が明かされることになります・・・

びっくりしました。歴史ものが好きな人間にはたまらない秀作。ページを開くと重厚かつ華麗な文章が押し寄せてきます。改行が全然ありません。少し読みづらいけど、それがそういうような雰囲気を醸し出しています。


今日読んだ本
連城三紀彦『黄昏のベルリン』

今読んでいる本
莫言『酒国』
東野圭吾『魔球』
★★★

著者:  土橋正
出版社: 技術評論社

  『やっぱり欲しい文房具~ステイショナリー評論家がえらんだ普段使いの傑作たち~』は、著者がこよなく愛する文房具についての本。いろんな良い文房具が紹介されています。こだわろうと思えば、鉛筆にだってこだわることが可能なのか・・・ 感心してしまいます。

   鉛筆なんてこだわるべきものなのかなぁ、と僕は思いました。多分、使い慣れた物が1番使いやすいものじゃないか、と思うんだけど。僕は、いま使っている鉛筆が1番良い感じだなぁ、と思います。

  便利なメモ帳やペンなども紹介されていて、面白いです。ただし全部高い。う~ん、こだわりを持つにはどうしてもお金が必要なのかなぁ。安い物ではないとだめ、というこだわりも有り得るから、別にお金は必要ないのか。そもそも、「こだわり」っていうのは何なんだろうなぁ・・ あれ、自分で何を書いているかよく分からなくなってきました・・・

  読む分には面白いけど、面白いからといって買おうとはあまり思わないなぁ。1万円の違いによって何か(想像力とか、そういう何か)が発揮できるようになるわけじゃないし。ただ、読んで「へぇ宇宙でも使えるボールペンっていうのがあるんだ」と知ることができるのは楽しいです。

  損はしないと思います。


自森人読書 やっぱり欲しい文房具~ステイショナリー評論家がえらんだ普段使いの傑作たち~
昨日、自由の森学園の体育祭がありました。しかし雨のため中断。
水曜に続きを行うことに。

今日全部やれば良かったのに、と思ってしまいました。晴れていたし。

得点板。
得点
★★★★★

著者:  中島敦
出版社: 新潮社

  唐の時代、李徴という男がいました。彼は、秀才として知られる優秀な人物でした。しかし狷介で自尊心、自負心が強く、つまらない官吏たちの下につくのをいやがって役人をやめます。そして、故郷へ帰り、詩人として生きていこうとしますがうまくいかない。その内痩せ細っていき、眼光ばかりがギラギラするようになってしまいます。そして最終的には貧窮に苦しみ、妻子のために再び役人となりますが同輩たちはみな高官となっていました。以前、彼が「鈍物」とみなしていた者たちが、彼の上に立つことに耐えられなくなった李徴は、とうとう発狂寸前となり、ある夜意味不明なことを絶叫しながら闇の中に失踪してしまいます・・

  その後、以前李徴と親しかった友人が、商於の地をたち、ある林中の草地を通りかかった時、人食い虎に襲われます。しかしその人食い虎は、李徴の親友を襲うのを途中でやめます。果たして、信じられないことにその虎が李徴だったのです。人食い虎と化した李徴は、親友にこれまでの経緯と、嘆きを語ります・・・

  清の時代の説話集『唐人説薈』の中の、「人虎伝」を元にしているそうです。短編なのですぐ読めます。中島敦の名文は素晴らしいです。漢文を崩していったような文章なのですが、もうこれ以上削るところも、つけ加えるところもない、と感じさせてくれます。凄く難しそうな気がするけど、こういう文章を1度まねして書いてみたいなぁ、と思います。

  そういえば北方謙三も、中島敦の文章を意識して『三国志』を書いている、というはなしを聞きました。いろんな人が中島敦の影響を受けているのかもなぁ。

  人食い虎になってしまった李徴の嘆きの痛々しさが伝わってきます。『山月記』は、何度も読み直している好きな作品のひとつです。


自森人読書 山月記
『殺意』
イギリスの片田舎に住んでいる医者、ビクリー博士は自分の妻を殺害するべく、完全犯罪をを練り上げました。そして長い迷いの末、とうとうその計画を実行に移すのですが・・・

ミステリというより、犯罪者の心理を見事に描ききったその作風が評価されているらしいです。俺は殺人の芸術家だと名乗った途端に、自信を喪失と、と思いきや突然自信を取り戻し・・・ ということを繰り返すビクリー博士が異様です。

最後の1ページが、非常に辛辣。


今日読んだ本
フランシス・アイルズ『殺意』

今読んでいる本
連城三紀彦『黄昏のベルリン』
★★★

著者:  後藤健生
出版社: 中央公論新社

  『ワールドカップ』は、ワールドカップというサッカーの大会の歴史をたどっていくもの。けっこう面白いです。かつては、国家の権威を高めるために利用されたこともあったということ(イタリアのファシズム・ムッソリーニに利用された)を始めて知りました。そういう歴史があったんだ・・ まぁスポーツの大会なんてどれも似たようなものだよなぁ。オリンピックもドイツのナチ・ヒットラーに利用されたし。

  サッカー大国・ブラジルの軌跡を初めて知りました。ブラジルって強いんだなぁ。だから、よく「サッカーといえば、ブラジル」といわれるのか。

  2002年日韓共同開催の直前までのことが書かれています。共同開催をめぐっても、いろいろな政治的駆け引きがあったことが簡潔に書かれています。サッカーの大会でどこが勝って、どんな記録が生まれたということだけでなくて、その背景までしっかりと書かれていて、僕としてはそちらの方がむしろ面白かったです。サッカーという競技が拡大したのはなぜか、とか考えてみるのは面白いです。

  野球は、いまだにアメリカの大リーグが圧倒的な優勢を誇っています。どこの国の人も受け入れるという大リーグの姿勢が、そういう状況を生んでいるといえます。ただし、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の誕生によってこれから何か変わっていくのかもなぁ。

  サッカーは、以前から国際大会があって、各国にいろんなリーグがあることで、もう少し割拠が進んでいるようです。まだまだアジア・アフリカ勢が弱いみたいだけど。

  う~ん、そんな歴史があるのか。面白いです。


自森人読書 ワールドカップ
★★★

著者:  筑波常治
絵:  坂本玄
出版社: 国土社

  「堂々日本人物史―戦国・幕末編」シリーズのなかの1冊。子ども向けのものです。僕は、偶然地元の図書館にあったこのシリーズを通して日本の戦国・江戸時代の詳しい流れを知るようになりました。なので、このシリーズには愛着があります。

  「天草四郎」という人を始めて知った時、何を思ったか詳しくは覚えていません。だけど、同時期に読んだ白土三平のマンガ『サスケ』シリーズともつながる部分(キリシタンに対する過酷な弾圧)があって、何かいろいろ考えたような覚えがあります。

  天草四郎とは、どういう人かというと・・・
  彼は、江戸時代初期、天草・島原地方に生まれました。イエスと同じように数々の奇跡を起こし、しかも美少年だったため、近隣のキリシタン(キリスト教信者)達から信奉される存在となります。1637年10月、過酷な税のとりたてに苦しんでいた民衆が、一揆を起こしました。その時まだ16,7歳の天草四郎は総大将として民衆を率いることになり、幕府軍と戦いました。一揆軍は、籠城戦を繰り広げ、幕府軍の大攻勢によく耐えるも3カ月あまりで鎮圧され、全滅。天草四郎もその時戦死した、といわます・・・

  島原天草の乱は、江戸時代初期最大の大反乱でした。幕府はその後極度にキリスト教を恐れるようになります。島原天草の乱以後、鎖国政策が徹底されました。

  3万7千人の一揆軍のほとんど全員が殺されたそうです。一揆軍皆殺しとはひどい、と僕は思います。そもそも悪政を行っていたのは、藩主です。民衆はそれに対して抗議しただけで殺されてしまったのです。う~ん、その当時と比べれば今の世の中はましになったのかなぁ、と思います。

  だけど、イラクをアメリカ軍が侵略したということもあるわけだし。一概に昔の方が悪かったとは言えないのかなぁ・・ 空爆とか、いろいろあって戦争の被害者の数が飛躍的に増加しているわけだし。昔より、今の方が大量虐殺が普通に行われている、という見方もありえるかもしれない、と思いました。


自森人読書 天草四郎 「堂々日本人物史―戦国・幕末編」シリーズ
『ソー・ザップ!』
素手の格闘では圧倒的な強さを誇る元プロレスラー、ベアキル。手裏剣を使う、若武者のような爽やかな青年、ハヤ。「待つ」ことを知る強力なハンター、ブル。人を2度撃ち殺したことのある元警察官、金久木。彼らは、レッドムーン・シバという者の挑戦を受けて、「マンハント(殺し合い)」を行うことに・・・

銃器などの武器に関する詳しい説明。アウトドアに必要とされる専門的な知識や技術についての詳しい解説。そういう部分が凝っています。

その他に、見るべき部分はほとんどありません。「もろに中年男の心を揺さぶるハードボイルドチックな格闘小説」という言葉でまとめてしまえるような中身です。

雄大な自然の中で、男達が壮絶な闘いを繰り広げるところはなかなか読み応えがあるけど、文章の基本的な部分がいまいちです。「●●の●●の●●の●●」というような記述があったりします。「の」を三度も続けて使ったら意味不明・・・ かなり読みづらいです。時々、突如として特定の人物の中に入り込み、その人の心情を解説することもあります(視点がコロコロ変わる)。だから、さらに読みづらさが増幅されています。

あんまり、小説としては上手くない気がします。


今日読んだ本
稲見一良『ソー・ザップ!』

今読んでいる本
フランシス・アイルズ『殺意』
う~ん、いまいち。
森絵都の短編集『架空の球を追う』読み終わりましたが、まぁまぁと言う感じでした。どこまでも普通というかなんというか。

『ドバイ@建設中』あたりはなかなか面白いなぁと感じたけど・・・ もう本当に些細などうでもいいような物語ばかり。


今日読んだ本
森絵都『夏の森』
森絵都『ドバイ@建設中』
森絵都『あの角を過ぎたところに』
森絵都『二人姉妹』
森絵都『太陽のうた』
森絵都『彼らが失ったものと失わなかったもの』


今読んでいる本
稲見一良『ソー・ザップ!』
フランシス・アイルズ『殺意』
朝日新聞に連載されていたもの。
『悪人』
三瀬峠で起こった殺人事件と、その結果引き起こされることとなる純愛劇の顛末を描いた小説。
出会い系サイトで出会った保険外交員の女を思わず殺害してしまい、逃走する男。彼を愛し、ともに逃げることを選ぶ女。2人は逃避行を繰り広げます。実は、男を「極悪人」と割り切れない背景があったのです。一方、加害者・被害者を取り巻く家族や友人たち、つまり事件に関わってしまった人たちは各々の立場から、自分なりに事件と立ち向かい、向き合っていくこととなります・・・

メロドラマになる、と聞いていたのに読み始めると社会派っぽい雰囲気。これはどういうことなのか、と思いきや、結局最終的には「純愛小説」となりました。う~ん、面白い。愛というのは、錯覚の上に成立するものなのかもなぁ・・・ 愛は狂気というし。

分厚い割りに読みやすいです。ちょっと日本語として引っかかる描写が散見されました(主語と述語がくっついていない)。でも、まぁ別に気になるほどではないです。

現代日本というものを切り取った優れた小説だと感じました。悪人っていうのは誰のことを指しているのだろうか。


今日読んだ本
吉田修一『悪人』

今読んでいる本
森絵都『架空の球を追う』
★★★

著者:  姜尚中
出版社: 朝日新聞出版

  姜尚中は、カン・サンジュンと読みます。なので人名順に並べると、カのところになります。キではない。まぁカ行ということは変わらないんだけど。

  『姜尚中の青春読書ノート』は、姜尚中が出会い、大きな影響を受けた『三四郎』(夏目漱石)、『悪の華』(ボードレール)、『韓国からの通信』(T・K生)、『日本の思想』(丸山真男)、『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』(マックス・ウェーバー)といった作品の紹介。紹介されている本を、読んでみたくなりました。1つも読んだことがないなぁ・・・

  姜尚中が書いている文章は分かりやすいけど、引用されている文章はとっつきにくくて難しいです・・ そこが読みにくいかも知れません。というか、哲学とかの本ってどうしてあんなに難しいんだろう。結局、何を言いたいのか迷います。雰囲気は分かるけど。

  姜尚中という人の視点は、とても面白いです。リベラルというのか。世界の見方がしっかりと確立されていて、それでいて何かを絶対的なものとして崇めるということもないのです。ちょっと自由の森学園に来ていろいろ語ってみて欲しいなぁと思います。

  まぁ語ってもらわなくても、この本を読めば、彼がどういうふうにして、今に到ったのか、ちょっとだけ分かります。読書歴の紹介は、その人の考え方を語るのだなぁと感じました。


自森人読書 姜尚中の青春読書ノート
125透明水彩混色教室―すぐに役立つ色づくりの実技
★★★ 鈴木輝実

124ニッポン野球は永久に不滅です
★★★ ロバート・ホワイティング

123戦後史にみるテレビ放送中止事件
★★★ 平野弘道

122阪急電車
★★★ 有川浩

121時をかける少女
★★★ 筒井康隆
★★★

著者:  鈴木輝実
出版社: グラフィック社

  絵の具を混ぜるとどうなるかが解りやすく具体的に描かれています。色と色の混じり具合は、見ているだけで面白いです。自分でもいろいろやりたくなってきます。まぁ学校の美術では、絵画をとっているので、描きたいと思えば描けるんだけど。

  だけど実際に役に立つかはいまいち分からない気がします。もう絵の具を見たら好きなように描きたいと思ってしまいます。そんなにいろいろ考えたりしない・・・ いろんなことを考えながら絵を描くことができてこそ、より良い絵が描けるのかもしれないけど、それがとても難しい。

  『透明水彩混色教室―すぐに役立つ色づくりの実技』を見ていて、やっぱり絵の具っていうのは楽しいものだなぁと思いました。どこまでも重ね塗りができて(とはいってもやりすぎると汚くなってしまうけど)、重なるごとにバランスが変わっていくところとか、とても面白いです。クレヨンではこうはいかない。それと、色同士を混ぜることができるところも良いなぁ。鉛筆ではこうはいかない。

  クレヨンにはクレヨンの良さがあるし、鉛筆には鉛筆の良さがあるわけだけど、絵の具にも絵の具の良さがあるのだなぁ・・・ これからいろいろ試してみよう、と思います。


関連リンク
高1 美術(絵画)


自森人読書 透明水彩混色教室―すぐに役立つ色づくりの実技
百人一首の謎と、現実に起きた殺人事件をうまくからめたミステリ小説。メフィスト賞受賞作。
『QED―百人一首の呪』
百人一首の謎を解明する部分は楽しかったです。かなり牽強付会のような気もするけど、まぁそこは面白いこと考えるなぁ、というふうに受け止めました。通説に対して、面白い異論を唱える時は、かなり強引にやらないとだめだし。

しかし、現実に起きた殺人事件の解明はふざけている、というしかない、と僕は感じました。まるで京極夏彦。感覚は疑わしいものだ、みたいな方向にはなしが進んでいき、そういうふうに決着がつけられます。

これでは、まるっきり京極夏彦の亜流じゃないか。


今日読んだ本
高田崇史『QED―百人一首の呪』

今読んでいる本
森絵都『架空の球を追う』
吉田修一『悪人』
いろんな日常を切り取った短編小説集。
『架空の球を追う』
表題作『架空の球を追う』は、少年達の野球練習のシーンを切り取った作品。『銀座か、あるいは新宿か』は、久しぶりに集まった女友達が、銀座と新宿、どちらの方が良いか論争する、という作品。まぁだいたいそんな感じで、バラバラな短編がいろいろ集められています。

読んでいてなかなか楽しいけど、満腹感はなかったです。

なんというか、「普通」な短編小説ばかりでした。「いかにも女流作家が書きそうな、生活の陰影をちょっとくりぬいた様な作品ばかり」と言ってしまってもいい気がします。あんまり面白みがありません。最近の森絵都の作品は、よくも悪くも、評論家から評価されそうな「普通」な小説ばかりだなぁと思わされます(直木賞をとった『風に舞いあがるビニールシート』からかなぁ)。

僕は昔の作品の方が断然好きです。『DIVE!』とか、『つきのふね』とか、凄くよかった。鋭いものや青臭さを含んだ青春をそのままに描いた、みたいな雰囲気が。


今日読んだ作品
森絵都『架空の球を追う』
森絵都『銀座か、あるいは新宿か』
森絵都『チェリーブロッサム』
森絵都『ハチの巣退治』
森絵都『パパイヤと五家宝』


今読んでいる本
森絵都『架空の球を追う』
高田崇史『QED―百人一首の呪』
衝撃的な事実が発覚する、本格ミステリ。
『消失!』
赤毛の人が多い町で、不可解な殺害事件が発生します。三度とも、なぜか死体と犯人が現場から消失してしまっているのです。名探偵新寺仁がその謎に挑みます・・・

小説として、とか、ミステリ小説として凄い、というのではないのですが・・・ そのミステリとしての仕掛けに、ただ唖然とさせられました。ネタバレになるから何も説明できないんだけど。

「びっくり!ミステリベスト5」とかやったら、上位に食い込んでくるのが確実な気がします。それにしても阿呆みたいだけど、面白かった・・・


今日読んだ本
中西智明『消失!』

今読んでいる本
森絵都『架空の球を追う』
高田崇史『QED―百人一首の呪』
凄い、「普通小説」の傑作。
『グッドラックららばい』
自分勝手な一家・片岡家が、「家族」として最も適当なのだ、というような物語。面白い。現実がうまく活写されているように僕は感じました。

突如として家出してしまう母親。取り残されても飄然というか、のんびりと構えて何もしない父親。ダメな男に貢ぐのが趣味で「家族」を笑い飛ばす姉。「かわいそう」な自分の境遇を嘆くのが大好きな妹。
みんなちょっと待てよ、と言いたくなるほど、自分のことばかり考えていてバラバラ。でも、バラバラなのにどこかではしっかりとつながっている感じ。家族ってそういうものかもなー、と思わされます。

人に利用される素晴らしさ、を上手く描いてみせた小説。



今日読んだ本
平安寿子『グッドラックららばい』

今読んでいる本
中西智明『消失!』
★★★

著者:  ロバート・ホワイティング
出版社: 筑摩書房

  野球から、日本人論が始まる面白い本。けっこう昔に書かれたもののようです(1987年刊行)。「日米野球摩擦」の様子を克明にうつしだしています。プロ野球と大リーグっていろんな違いがあるんだなぁ。

  日本のプロ野球にやってきた、いろんなガイジン達が、プロ野球とうまくいかなかったのは何故か、というのが分かります。

  大リーグ(アメリカ)では、練習は自己責任、各々の選手にまかされているのに、プロ野球(日本)では、しごきのような猛練習が全員に課せられている。大リーグでは、選手が暴言を吐き、フロントなどと対立するのは普通(それが言論の自由が保障されているということ、らしい)。だけどプロ野球では、選手は礼儀正しく寡黙で、全体に合わせるのが当然。ものすごく違うもんなぁ・・・

  そのほか、日本が外国人をプロ野球から追い出して日本人だけで「純血」を保とうとすることは、プロ野球のレベルを落とすだけだという警告は、その通りだなぁと思いました。

  最終章の「メキシコのお祭りベースボール」が面白かったです。試合中でも、酒をがぶがぶ飲むメキシコの選手たち・・・ スタンドの観客席はいつでも騒然としていて乱闘寸前。ものすごく物騒な感じだけど、面白いなぁ。楽しそうです。

  スポーツには、その国の人たちの特徴が表れるのかもしれない。う~んそんなものあるのかなぁ。けどあるような気がします。


自森人読書 ニッポン野球は永久に不滅です
★★★

著者:  平野弘道
出版社: 岩波書店

  岩波ブックレットの中の1つ。戦後史の中で、中止になった番組を取り上げたものです。

  随分多くの番組が、放送中止になっているんだ、ということが分かります。右翼、経団連、自民党などなどの圧力によって潰された番組の数々、労組の反対運動によって放送中止に追い込まれた番組。いろんなところから圧力がかかって、放送局も大変だろうなぁ。どこまで踏ん張って、どこで引き下がるのか。つらいだろうなぁ・・・

  放送中止になったものの中に、自衛隊のアピール番組が何個もあるのには驚きました。「自衛隊は素晴らしい」というメッセージが知らぬ間に届けられていたのか。いつの間にかそういうイメージをすりこまれたりしたら、怖いなぁと思いました。

  右翼や自民党が組んで、企画つぶしにかかるというのも怖いなぁ、と思いました。本当に、たくさんの企画がなくなってきたんだ・・ 最近では、そういう圧力が表沙汰になることはあまりないけど、それはつまり、報道する側が圧力を恐れて「自主規制」ということで、「穏健」な企画しか出せなくなったからではないのだろうか・・・? 言論の自由を守るためにはどうすれば良いのか。報道関係者だけではなくて、みんなが考えないといけない問題だなぁと思います。

  戦争中の地域のことを報じている番組なのに、画面には死体が映らないというのもおかしなはなしではないか、と感じます。視聴者にショックを与えないため、とかいろいろ理由はあるのかも知れないけど。でもおかしい気がするなぁ・・・


自森人読書 戦後史にみるテレビ放送中止事件
★★★

著者:  有川浩
出版社: 幻冬舎

  全部で8駅。片道たったの15分の、関西のローカル線・阪急今津線を舞台に繰り広げられる物語。電車に乗ってくるいろんな人たち。高校生の声を聞いていて彼と別れる決心をした人、元婚約者の結婚式に行ってきた人、「生」の字で付き合い始める2人などなど・・・ 一瞬の交錯の物語。

  けっこう面白かったです。ただし、僕は1度も阪急電車に乗ったことがありません・・ 1度行ってみたくなりました。まぁ、たぶんなんの変哲も無い普通の電車なんだろうけど。

  まぁ別に阪急電車に乗ったことがなくても楽しめます。あの『図書館戦争』を書いている同じ人がこんなおはなしを書いているのには驚きました。どこにでもありそうな恋愛の物語の数々といった感じです。どこまでもドロドロしたりはしない、すっきりしているところは良いなぁ、と思いました。

  僕は基本的に短編集よりも長編の方が好きです。短編はそれぞれの世界があって作者が書くのも、読者が読むのも難しいなぁと感じています。ショートショートだと飽きてしまうんだよなぁ。だから星新一とかはとくに好きではないです(きらいでもないけど)。

  短編で好きなものを挙げろ、といわれたらあまり知っている人がいないんだけど、かなり漢文に近い名文章を書く中島敦とかを挙げたくなります。中島敦の文章は読み応えがあります。

  だけどやっぱり長編が良いなぁ・・・ 長ければ良いというものでもないんだけど・・・


自森人読書 阪急電車
★★★

著者:  筒井康隆
出版社: 角川書店

  ある日のこと。中学3年生の芳山和子は、理科室を掃除していた時に実験室でラベンダーの香りを嗅いだことで意識を失います。それから、和子の周囲にはいろんな事件が起こるのですが、和子はそれらの事態を時間を遡行することによって回避できてしまうことに気付ききます。彼女は悩み、理科の教員・福島先生に相談すると、それは「テレポーテーションとタイム・リープではないか」と教えられ、真相を確かめるべく何日か前の過去へ向かうのですが・・・

  何度もドラマ化、映画化されてとても有名な作品。2006年にも細田守によって「続編」のアニメ映画がつくられました。

  僕は、『時をかける少女』から筒井康隆の作品を読み始めました。なので、読み終わったあと何も思わなかったのですが、あとで他の筒井康隆作品をいろいろ読んでみると、彼がこんな正統派ともいうべきジュブナイル作品を書くのは珍しいのだと知りました。

  なかなか面白かったです。だけど、なんというか「古風」な感じは否めないかなぁ。ラノベなどを読んだ後に『時をかける少女』を読むと登場人物たちのお行儀の良さと、物語としてのしっかりした造りが、よく分かります。僕はとても好きだけど。

  ただし、どちらかというと筒井康隆作品の中では、七瀬三部作の方が好きだなぁ。そちらも超能力が登場して、とても面白いです。なんていうか物語としては、かなり暗いけど。人間の心の薄暗い部分が見えてしまうんだから、あまり明るい物語にはならないよなぁ・・・

  今ちょうどNHKで『七瀬ふたたび』が実写化されています(木曜日夜8時)。あの悲劇がどういうふうになるんだろうなぁ。もう少し救いのあるラストになるのか、それとも小説通りの展開になるのか、ちょっと楽しみにして見ています。


自森人読書 時をかける少女
『水の時計』凄くよかったです。
『水の時計』
初野晴のデビュー作。
第22回横溝正史ミステリ大賞受賞作。だけど、あんまりミステリっぽくないです。童話『幸福の王子』をモチーフにしながら、現代における臓器移植の問題を扱った作品。
かなり重たいものを含んでいます。

前に、同じ作者の書いた『退出ゲーム』(だされたのはこちらの方があと)というのを読みました。そちらは結構明快な普通の学園ミステリで、まぁまぁという感じでした。でも『水の時計』は凄い、こちらの方が断然好きでした・・・


今日読んだ本
初野晴『水の時計』

今読んでいる本
平安寿子『グッドラックららばい』
ウェブサイトhttp://jimoren.my.coocan.jp/
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