★★★
著者: 井芹浩文
出版社: 中央公論社
自民党の内部には、幾つもの集団があります。党内に党があるような感じです。それが派閥と呼ばれるものなわけですが。この『派閥再編成―自民党政治の表と裏』は、その派閥というものを分かりやすく解明してくれます。
『「株式会社」化する派閥』『「総合病院」化する派閥』というのが2・3章のタイトル。派閥はどんどん肥大化、強力化して現在では自民党の議員が派閥に属さないという選択肢は不可能な状況になっていることを分かりやすく説明してくれます。僕は、自民党議員は派閥に属しているのが当然、と思い込んでいました。昔はどこの派閥にも属さない人もいた、ということに驚かされました。今と昔とでは、普通・常識が異なるんだなぁ。勉強になります。
読んでいると、中曽根康弘とそれに続くニューリーダー達の複雑な関係というのもちょっと分かって面白いです。世話してもらったがもう老いぼれた爺さんに頭を抑えられているわけにはいかない、と考えるニューリーダーの1人・竹下登の立場。彼は結局、中曽根康弘とうまく渡り合い、若手の支持も固めて総理になるわけですが。竹下登も、今はもう亡き人になってしまったんだなぁ・・・・・(2000年死去)
最後の章のタイトルは、『「小政治」時代の危うさ』というもの。大きな政治的問題を論ずるということがなくなった日本の政治に対して著者が苦言を呈しています。1988年の本なので、もうちょっと当てはまらない部分もあるのですが、とても勉強になります。
なぜか、政治家たちはこの頃、国家にとってとても重大な問題である「憲法をどうするのか」という点に関して発言を控えています。首相だった安倍晋三があのような形で、ボロボロになったからなんだろうけど。あえて大きな論点をだそうとしない・あえて立場を曖昧にぼかす、というのでは政治家としてだめじゃないか。それでは議論も始まりません。
自森人読書 派閥再編成―自民党政治の表と裏
著者: 井芹浩文
出版社: 中央公論社
自民党の内部には、幾つもの集団があります。党内に党があるような感じです。それが派閥と呼ばれるものなわけですが。この『派閥再編成―自民党政治の表と裏』は、その派閥というものを分かりやすく解明してくれます。
『「株式会社」化する派閥』『「総合病院」化する派閥』というのが2・3章のタイトル。派閥はどんどん肥大化、強力化して現在では自民党の議員が派閥に属さないという選択肢は不可能な状況になっていることを分かりやすく説明してくれます。僕は、自民党議員は派閥に属しているのが当然、と思い込んでいました。昔はどこの派閥にも属さない人もいた、ということに驚かされました。今と昔とでは、普通・常識が異なるんだなぁ。勉強になります。
読んでいると、中曽根康弘とそれに続くニューリーダー達の複雑な関係というのもちょっと分かって面白いです。世話してもらったがもう老いぼれた爺さんに頭を抑えられているわけにはいかない、と考えるニューリーダーの1人・竹下登の立場。彼は結局、中曽根康弘とうまく渡り合い、若手の支持も固めて総理になるわけですが。竹下登も、今はもう亡き人になってしまったんだなぁ・・・・・(2000年死去)
最後の章のタイトルは、『「小政治」時代の危うさ』というもの。大きな政治的問題を論ずるということがなくなった日本の政治に対して著者が苦言を呈しています。1988年の本なので、もうちょっと当てはまらない部分もあるのですが、とても勉強になります。
なぜか、政治家たちはこの頃、国家にとってとても重大な問題である「憲法をどうするのか」という点に関して発言を控えています。首相だった安倍晋三があのような形で、ボロボロになったからなんだろうけど。あえて大きな論点をだそうとしない・あえて立場を曖昧にぼかす、というのでは政治家としてだめじゃないか。それでは議論も始まりません。
自森人読書 派閥再編成―自民党政治の表と裏
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★★★
著者: 乙一
出版社: 角川書店
『きみにしか聞こえない』は乙一の短編集。『Calling You』『Calling You』『傷 -KIZ/KIDS-』収録。
『Calling You』。内気な少女・リョウは、空想のケイタイを頭の中で思い浮かべることで自分の孤独から気を紛らわせていた。そして、ある時、存在しないはずのケイタイが鳴り出し、自分と同じように孤独を抱え込む人と電話がつながり・・・ 『Calling You』を原作として『きみにしか聞こえない』という映画も作られているそうです。
『傷 -KIZ/KIDS-』。傷を移す能力を持つアサトと、虐待を受けている少年タケオの物語。そしてあとシホという人も登場するんだけど。
『華歌』。恋人を事故で失ってしまった「わたし」は、病院に入院していた。そんなある日、雑木林の中を散歩していたら人間の女の子の顔のついた花に出会ってしまい・・・ 叙述トリックが仕掛けられていて最後の辺りになって、なんてこったと思わされます。
どれも似たような話じゃないか、という気がしてきてしまうんだけど、どれも面白いです。
乙一のつくりだす設定というのはどれも巧いなぁと思わされます。ささっと読めてしまうこの軽さも良いし。でも、どれもこれも分かりやすくて、「泣かせる」ようにつくられているところは、なんというか首をかしげてしまう、というか・・・ 泣かせるよりも笑わせることの方が難しいんだよ、というようなことを、豊崎由美が以前どっかで書いていたけど。そんなに「泣かせる」ような話ばかりではなくても良いんじゃないかなぁ・・・
自森人読書 きみにしか聞こえないCALLING YOU
著者: 乙一
出版社: 角川書店
『きみにしか聞こえない』は乙一の短編集。『Calling You』『Calling You』『傷 -KIZ/KIDS-』収録。
『Calling You』。内気な少女・リョウは、空想のケイタイを頭の中で思い浮かべることで自分の孤独から気を紛らわせていた。そして、ある時、存在しないはずのケイタイが鳴り出し、自分と同じように孤独を抱え込む人と電話がつながり・・・ 『Calling You』を原作として『きみにしか聞こえない』という映画も作られているそうです。
『傷 -KIZ/KIDS-』。傷を移す能力を持つアサトと、虐待を受けている少年タケオの物語。そしてあとシホという人も登場するんだけど。
『華歌』。恋人を事故で失ってしまった「わたし」は、病院に入院していた。そんなある日、雑木林の中を散歩していたら人間の女の子の顔のついた花に出会ってしまい・・・ 叙述トリックが仕掛けられていて最後の辺りになって、なんてこったと思わされます。
どれも似たような話じゃないか、という気がしてきてしまうんだけど、どれも面白いです。
乙一のつくりだす設定というのはどれも巧いなぁと思わされます。ささっと読めてしまうこの軽さも良いし。でも、どれもこれも分かりやすくて、「泣かせる」ようにつくられているところは、なんというか首をかしげてしまう、というか・・・ 泣かせるよりも笑わせることの方が難しいんだよ、というようなことを、豊崎由美が以前どっかで書いていたけど。そんなに「泣かせる」ような話ばかりではなくても良いんじゃないかなぁ・・・
自森人読書 きみにしか聞こえないCALLING YOU
最近、様々な情報が飛び交っていて(警察が他国の軍隊と同規模存在するから実質的には軍隊みたいなもの、とか)、よく分からなかったのですが、この本を読み、コスタリカって面白そうだし、本当に人権と民主主義を大切にしている国なのだろうなぁと感じました。行ってみたいです。
大統領秘書の「そこそこが良い」という言葉に驚かされたというふうに書いてあるけど、僕も凄いなぁと驚きました。資本主義も社会主義も、結局のところ進歩と永遠の経済成長を絶対のものとして肯定し、それを前提としているけど、資源は限られているから永遠の経済成長はありえないと内山節という人が書いているけど、そのような前提を否定しているのかなぁと感じました。そういうことではなく、もっと柔らかい意味合いなのかも知れないけど、とりあえずそこそこという言葉に感動します。
そういえば、コスタリカでは大統領のアメリカ追随を憲法違反だと訴える人たちがいて、彼らが勝訴したというはなしは前から聞いていたけど、それってやっぱり凄いことだよなぁと改めて思いました。日本で同じことがありえるだろうか。多分、裁判を起こした人に対するバッシングの嵐が巻き起こるような気がします・・・
日本の学校は民主的とはいえないという指摘は面白かったです。その通りだなぁと感じます。自森は一風変わっているというか他の学校とは違い(多分、システムへの不信が根強く存在しているため)、生徒会は存在せず、やりたい人がやりたいときにやりたいことを自由に立ち上げ、やっていくという方式になっているのですが、機能不全に陥っているというかなかなかうまくいっていないなぁと僕は感じます。何かしたくても踏み出せない人のとっては苦痛な場所でしかないのではないか。コスタリカの取り組みを学び、卑近な自森に活かせたら面白そうだなぁと思いました。
授業内で模擬選挙を行っただけでも「不適切」と言われるような日本の学校というのはやはりおかしいのではないか、と僕は思います。投票率が低いのは問題だと言うけれど、それだったらどうして選挙について学校で扱わないのかなぁ。
コスタリカの人たちの環境問題に対する取り組みについて一つの章が割かれていますが、環境問題と戦争のかかわりについては田中優さんが(多分、『戦争って、環境問題と関係ないと思ってた』って岩波ブックレットだった気がする)繰り返し、述べたり書いているのを聞くと別個の問題ではないんだなぁと感じます。そして、軍事費を増やせば、社会保障費は削られるわけだから、軍備拡張に反対することは自分達の生活を守ることにもなる。そう考えていくと全ての問題は繋がっているといえるのだなぁと思いました。
今日読んだ本
足立力也『平和ってなんだろう 「軍隊をすてた国」コスタリカから考える』
今読んでいる本
古井由吉『円陣を組む女たち』
バリントン・J・ベイリー『時間衝突』
1927年から3年間に渡って最底辺の社会に身を置き、極貧の生活を経験したジョージ・オーウェルが書いた手記的/ルポタージュ的な小説。20世紀初頭のパリ・ロンドンのことを知ることが出来ます。
著者は労働者たちと同じ目線で辺りを見渡し、放浪者たちと仲良く過ごします。生活環境は劣悪だし(ベッドには南京虫が這い、食べ物もろくにない)、いつでも罵倒と文句が飛び交っているのだけれど、彼らの生活には温かみがあります。死にそうになった時、頼れる誰かが隣にいるのです。個人主義の横行する今とは違うのだなぁと感じます。
ジョージ・オーウェルの社会に対する鋭い視線には感心します。放浪者たちを蔑むのは間違っているし、彼らが無気力に陥っているのは本人たちの資質の問題ではなくて状況がそうさせているのだという冷静な分析には納得させられます。
今の日本にも同じ指摘が当てはまるのではないか、と思います。「フリーターは好きでぶらぶらしているんだ」などと言う人がいますが、それは不正確な認識ではないか。これまで長きに渡って社会と企業は一致団結してフリーターを生み出そうとしてきたわけです(「新時代の『日本的経営』」を読めばよく分かる)。国家や社会がそのような使い捨て可能なパーツとしての人間を生み出す努力をしてきたのに、個人に全責任を転嫁する/押し付けるのは卑劣ではないか。
『パリ・ロンドン放浪記』を読むと貧困問題は大昔からあるのだということがよく分かります。しかも、それは誰かの都合や法の不備のために生み出されているということも理解できます。小説としても面白いのに、深みもある良書です。
今日読んだ本
ジョージ・オーウェル『パリ・ロンドン放浪記』
今読んでいる本
古井由吉『円陣を組む女たち』
バリントン・J・ベイリー『時間衝突』
足立力也『平和ってなんだろう 「軍隊をすてた国」コスタリカから考える』
★★★★
著者: 岡田斗司夫
出版社: 筑摩書房
アニメや漫画などで、「世界征服」という言葉がよく登場しますが。それは本当に可能なのか? そして世界制服を成し遂げるためには具体的には何が必要なのか、ということを、レインボーマンと仮面ライダーなどに登場する悪の秘密結社の計画などをもとにしながら、論じたものが、この『「世界征服」は可能か?』という本です。
なぜにショッカー(仮面ライダーの中に登場する「世界征服を企む悪の秘密結社」)は、幼稚で、しかもまるで世界制服に結びつかないような計画ばかりたてているのだろうか? ということを冗談半分にからかった本はこれまでにもあったかも知れないけど、本当に「世界制服」は可能なのだろうか? ということをきちんと考えていったものはあまりなかったような気がします。なかなか面白いです(岡田斗司夫は「おたく」だからもともとそういう話に詳しい人だし)。
世界制服のためにはまず、目的・ビジョンといったものを用意しなければならず、その上で人材を集め、それを教育し、さらには資金を用意して、基地も用意して、さらには後継者を育成して、というふうにやっていき、もしも世界制服が成し遂げられたとしても、そのあとの世界の支配は大変。部下にもきちりと報酬を支払わないと裏切られる心配があるし・・・
もしも世界制服を目指す者がいたとしたら、やせ細ってまで、世界のために奉仕し尽くさないとならないことになります。支配者のはずなのに、奴隷のようになってしまうわけです。
というわけで、最終的には世界制服は「割に合わない」という結論がでてしまいます・・・ おかしくて笑うしかない。どんなに頑張って世界を征服したとしても、逆にのしかかる仕事によって自分が奴隷と化してしまうのか・・・
自森人読書 「世界征服」は可能か?
著者: 岡田斗司夫
出版社: 筑摩書房
アニメや漫画などで、「世界征服」という言葉がよく登場しますが。それは本当に可能なのか? そして世界制服を成し遂げるためには具体的には何が必要なのか、ということを、レインボーマンと仮面ライダーなどに登場する悪の秘密結社の計画などをもとにしながら、論じたものが、この『「世界征服」は可能か?』という本です。
なぜにショッカー(仮面ライダーの中に登場する「世界征服を企む悪の秘密結社」)は、幼稚で、しかもまるで世界制服に結びつかないような計画ばかりたてているのだろうか? ということを冗談半分にからかった本はこれまでにもあったかも知れないけど、本当に「世界制服」は可能なのだろうか? ということをきちんと考えていったものはあまりなかったような気がします。なかなか面白いです(岡田斗司夫は「おたく」だからもともとそういう話に詳しい人だし)。
世界制服のためにはまず、目的・ビジョンといったものを用意しなければならず、その上で人材を集め、それを教育し、さらには資金を用意して、基地も用意して、さらには後継者を育成して、というふうにやっていき、もしも世界制服が成し遂げられたとしても、そのあとの世界の支配は大変。部下にもきちりと報酬を支払わないと裏切られる心配があるし・・・
もしも世界制服を目指す者がいたとしたら、やせ細ってまで、世界のために奉仕し尽くさないとならないことになります。支配者のはずなのに、奴隷のようになってしまうわけです。
というわけで、最終的には世界制服は「割に合わない」という結論がでてしまいます・・・ おかしくて笑うしかない。どんなに頑張って世界を征服したとしても、逆にのしかかる仕事によって自分が奴隷と化してしまうのか・・・
自森人読書 「世界征服」は可能か?
★★★★★
著者: 井上靖
出版社: 新潮社
北宋の時代、趙行徳という男が科挙を受けるために首都開封へ行きます。しかし最終試験・殿試の待ち時間に居眠りしていて、試験を受けられず、失格に。行徳は、とんでもない失態をしでかしてしまって茫然とし、ふらふらと首都を漂います。すると異国の裸の女が、豚肉と同じ扱いで売られているのと出くわしました。思わず行徳が彼女を買って助けると、彼女は見慣れない文字だらけの紙をくれて去りました。行徳は、それが西方の国家・西夏の文字と知り、「西夏の文字・文化を知りたい」と感じます。そして彼は、西方へと旅立ちます・・・
中国西方の圧倒的で壮大な自然と歴史を背景にした感動の作品。色んなものに翻弄されながらしぶとく生きていく主人公が最後に果たすことは・・・ 彼の行く道が、敦煌という地から発見された膨大な量の経巻を巡る物語へと結びついていきます。フィクションなんだけど、きちりと史実を背景にしているので、ほんとにこんなことがあったのではないか、と思わされます。
前からずっと気になっていたのですが、探すのが面倒でほったらかしに。ですが、読んでみたらあまりに面白くて、これまで手に取らなかったことを後悔しました・・・ 中国の歴史ものが好きな人間として失格だなぁ、という感じです。
井上靖の文章が良いです。登場人物たちの心情をそこまで詳しく書きこむということはないんだけど、伝わってくるものがあります。西夏軍の先鋒を務める漢人部隊の隊長・朱王礼と、王族の末裔だということをやたらと誇る盗賊・尉遅光、そして行徳に玉の首飾りの片割れを渡したウイグル人の若い女。その3人を主な登場人物として物語はどんどんと展開していきます。
自森人読書 敦煌
著者: 井上靖
出版社: 新潮社
北宋の時代、趙行徳という男が科挙を受けるために首都開封へ行きます。しかし最終試験・殿試の待ち時間に居眠りしていて、試験を受けられず、失格に。行徳は、とんでもない失態をしでかしてしまって茫然とし、ふらふらと首都を漂います。すると異国の裸の女が、豚肉と同じ扱いで売られているのと出くわしました。思わず行徳が彼女を買って助けると、彼女は見慣れない文字だらけの紙をくれて去りました。行徳は、それが西方の国家・西夏の文字と知り、「西夏の文字・文化を知りたい」と感じます。そして彼は、西方へと旅立ちます・・・
中国西方の圧倒的で壮大な自然と歴史を背景にした感動の作品。色んなものに翻弄されながらしぶとく生きていく主人公が最後に果たすことは・・・ 彼の行く道が、敦煌という地から発見された膨大な量の経巻を巡る物語へと結びついていきます。フィクションなんだけど、きちりと史実を背景にしているので、ほんとにこんなことがあったのではないか、と思わされます。
前からずっと気になっていたのですが、探すのが面倒でほったらかしに。ですが、読んでみたらあまりに面白くて、これまで手に取らなかったことを後悔しました・・・ 中国の歴史ものが好きな人間として失格だなぁ、という感じです。
井上靖の文章が良いです。登場人物たちの心情をそこまで詳しく書きこむということはないんだけど、伝わってくるものがあります。西夏軍の先鋒を務める漢人部隊の隊長・朱王礼と、王族の末裔だということをやたらと誇る盗賊・尉遅光、そして行徳に玉の首飾りの片割れを渡したウイグル人の若い女。その3人を主な登場人物として物語はどんどんと展開していきます。
自森人読書 敦煌
主に英語圏で発生した争乱の中で核兵器は拡散して各地で使用され、結果として人類は壊滅的な損害を受けました。「大災禍」と呼ばれるその世界的大混乱の後、人間は人間を人材リソースとして絶対視し、各個人にWatchMeを埋め込んで監視することにします。病は撲滅され、若くして死ぬ人間もいなくなり、太った人もやせた人もいなくなりました。そして優しさが蔓延、人々は互いに思いやることを強制されます・・・ 「ユートピア」の実現でした。
ですが、そのような社会に対して憎しみを抱く少女・御冷ミァハはデッドメディアに浸ります。そして、ある日彼女はキアンと霧慧トァンとともに自殺を図りますが自身だけが死亡。生き残ってしまったトァンはWHOの人間となって戦地に赴き、煙草や酒に浸るのですが・・・
『虐殺器官』の続編として読むことも可能。「わたし」の死を扱った作品。
HTMLを意識したらしき文体/文章がかっこいいです。そういえば、『涼宮ハルヒ』の引用や、舞城王太郎作品の題名が出てきて少し笑いました。
健康を絶対視する社会体制が、ファシズムとなっていく様は不気味ですが他人事とは思えません。作中では生命主義というイデオロギーが個人を抹消していくわけですが現実世界においても同じことが起こっています。かつて社会主義はファシズムへ陥りました。現在、資本主義は人間や命さえも、金銭で交換可能なものに落とし込もうとしています。
あらゆる思想(たとえ優れたものであったとしても)は、巨大なシステムへと発展する中で個人を消し去るものへと変貌せざるを得ないのではないか、と感じました。
最終的に、物語は「わたし」の消滅の場面にまで到達してしまいます。その「わたし」というものは、ある程度は近代以降に生まれた「発明品」なのかも知れないけど、なくなるとなったら大異変だろうなぁ、と感じます。
伊藤計劃の遺作。第40回星雲賞日本長編部門受賞。
今日読んだ本
伊藤計劃『ハーモニー』
今読んでいる本
古井由吉『円陣を組む女たち』
ジョージ・オーウェル『パリ・ロンドン放浪記』
私たちはどうして怯えないといけないのか? 明日は今日よりも素晴らしいはずだということを信じられなくなった今、私たちはどこへ向かうべきなのか、内山節が一つの回答を示してくれます。
高校生である僕にも理解できるくらい、平易です。しかも面白い。
個人の自由というものを全面的に尊重する近代の社会。しかし、その自由と言うのは、個人が巨大なシステムに取り込まれ、そのパーツとなることを前提としているという部分には共感します。
進歩だけを重視した資本主義と社会主義。それらは、永遠の経済成長を前提とし、自然の有限性を考慮しなかったために破綻していくという指摘には説得力があります。あと、資本主義が第二次世界大戦後はアメリカの独裁体制と分かちがたく結びついていたという部分には納得。
本当に分かりやすい。
とういえば、論理的に突き詰めて考えていくと、今の世界にはスピリチュアル的なものが必要であるというふうに結論付けるしかないところは摩訶不思議。というより、ある意味皮肉です。しかし、納得できないでもありません。それによって、共同体を復活させることができたら凄い。けれど、かつての強い共同体というものは封建的な社会/階級社会と分かちがたく結びついていたはずです。良い部分だけを取り出して復活させるなどいうことが実現可能なのか、分からないです。
「大きな物語」(資本主義、社会主義とか)の破綻を決して悪いこととは捉えないことには感心させられました。多くの思想家達(柄谷行人とか)は「大きな物語」を復権せねばならないと語りますが、それ故にいまいち説得力を持ちえていないと僕は感じています。内山節の示す別の選択肢(小さい共同体=里に戻ること)には、少しだけ希望が感じられます。
今日読んだ本
内山節『怯えの時代』
今読んでいる本
古井由吉『円陣を組む女たち』
伊藤計劃『ハーモニー』
古井由吉の短編集『円陣を組む女たち』を読んでいる最中。
『木曜日に』
古井由吉のデビュー作。男は都会から離れて御越山に登り、木曜日に幻想的な出来事に遭遇します。都会に帰ってきた後、木曜日というものの辛さに気付くことになるのですが・・・
『先導獣の話』
田舎に行っていた間に都会の感覚を忘れていた男は、都会の喧騒の中で精神的に追い詰められていきます。そして先導獣というものを妄想します。
言葉がぎちりぎちりと詰まりに詰まっています。その濃密な文体にはとにかく圧倒されました。読むだけで一苦労だし、読むという行為が限りなく苦行へと近づいていくように感じられます。
人間に満ちた世界である都会に倦み疲れ、かといってそこから脱却することもできずに現実と妄想の間を行き来する男たちが印象的。
今日読んだ本
古井由吉『木曜日に』
古井由吉『先導獣の話』
今読んでいる本
古井由吉『円陣を組む女たち』
内山節『怯えの時代』
『木曜日に』
古井由吉のデビュー作。男は都会から離れて御越山に登り、木曜日に幻想的な出来事に遭遇します。都会に帰ってきた後、木曜日というものの辛さに気付くことになるのですが・・・
『先導獣の話』
田舎に行っていた間に都会の感覚を忘れていた男は、都会の喧騒の中で精神的に追い詰められていきます。そして先導獣というものを妄想します。
言葉がぎちりぎちりと詰まりに詰まっています。その濃密な文体にはとにかく圧倒されました。読むだけで一苦労だし、読むという行為が限りなく苦行へと近づいていくように感じられます。
人間に満ちた世界である都会に倦み疲れ、かといってそこから脱却することもできずに現実と妄想の間を行き来する男たちが印象的。
今日読んだ本
古井由吉『木曜日に』
古井由吉『先導獣の話』
今読んでいる本
古井由吉『円陣を組む女たち』
内山節『怯えの時代』
「今日までのあらゆる社会の歴史は階級闘争の歴史である」という有名な一文から始まります。
「資本主義は封建的な社会を破壊した代わりに、欲望を解放し、それによって求められるだけの商品を無限に生み出し、グローバルな市場を出現させていく。そして資本主義はブルジョア階級という新たなる支配者を生み出し、一方では最低限の生活しか営めないプロレタリア階級を生み出した。今やプロレタリア階級の人間の労働力は商品化され、彼らは社会のパーツと化している。今こそプロレタリア階級は団結して、ブルジョア階級を駆逐し、次なる世界を実現せねばならない」というような内容。
プロレタリア運動のルーツともいえる1冊。とても薄くて読みやすかったです。だからこそ、難しいことを考えている一部の思想家だけでなく、多くの人に読まれたのかも知れない。
「すでに古ぼけた思想書に過ぎない」というようなふうに言われることも多いみたいだけど、むしろグローバルな市場が形成されつつある今の世界にこそ『共産党宣言』の仮定はあてはまるのではないか、というふうに感じました。
難しくていまいち理解できない部分もあったのですが、案外、共感できる部分も多くて面白かったです。
今日読んだ本
カール・マルクス、フリードリヒ・エンゲルス『共産党宣言』
今読んでいる本
古井由吉『円陣を組む女たち』
『優しいサヨクのための嬉遊曲』は島田雅彦の短編集。
『優しいサヨクのための嬉遊曲』
主人公は千鳥姫彦という青年。彼は、反抗期の大学生。大学のサークル活動としてサヨク活動に関わっています。具体的には「社会主義の民主化」を実現するべくソ連の収容所の人たちの状況を改善しようとしています。一方では、美少女みどりに憧れ、彼女のお婿さんになりたいと望んでいるのですが・・・
『カプセルの中の桃太郎』
大学生クルシマは、自分の小さなペニスをいつも庇うようにしています。しかし、いつしか自分を「良い子」にしてしまった世間に対して戦いを挑むべく立ち上がるのですが・・・
『優しいサヨクのための嬉遊曲』は、妄想的な恋愛小説でありながら社会というものと対面するべく若者が奮闘する物語としても読めます。とはいえ、青年が成長したかというとそれは疑問です。ちょっと『不思議の国のアリス』を連想。
ただし、しかし一般に言われるようなイデオロギーではだめだけど、「愛」という一種のゆるいサヨク的なるイデオロギーによって世界に向き合う必要があるというような島田雅彦の主張には少し賛同したくなりました。
今日読んだ本
島田雅彦『優しいサヨクのための嬉遊曲』
島田雅彦『カプセルの中の桃太郎』
今読んでいる本
カール・マルクス、フリードリヒ・エンゲルス『共産党宣言』
195犯人に告ぐ
★★★ 雫井脩介
194日本の検察―最強の権力の内側
★★★ 野村二郎
193三国志人物事典
★★★★ 渡辺精一
192銀河英雄伝説3 雌伏篇
★★★ 田中芳樹
191名家老列伝―組織を動かした男たち
★★ 童門冬二
★★★ 雫井脩介
194日本の検察―最強の権力の内側
★★★ 野村二郎
193三国志人物事典
★★★★ 渡辺精一
192銀河英雄伝説3 雌伏篇
★★★ 田中芳樹
191名家老列伝―組織を動かした男たち
★★ 童門冬二
★★★
著者: 雫井脩介
出版社: 双葉社
巻島は、幼児誘拐事件の捜査に失敗の結果。その上、マスコミに対して逆ギレしてしまい、左遷された。それから6年後。新たな連続幼児誘拐殺人事件が発生し、巻島は特別捜査官として呼び戻されることになる。なぜ、彼が呼び戻されたのか。それは、彼が一度失敗した人間だから。彼に与えられたのは、テレビを使った日本初の特別公開捜査という任務であった。犯人逮捕に失敗すれば、世間から罵倒されるピエロと化してしまう役割。しかし、雫井脩介は、それを受け入れる。
テレビ会社同士の反目、警察内部の縄張りをめぐる暗闘、そして愉快犯たちの暗躍。その中で、孤立していく巻島。警察は、犯人「バッドマン」を逮捕できるのか?
ちょっと長すぎるような気もしたけど、面白かったです。中だるみしているように感じたんだけど、それはまぁ最後の爽快感のためには仕方ないかも知れない。警察のおじさん達が渋くて格好良いです。とくに主人公。何か悟ってしまったみたいに何事にも動じないんだけど、最後には・・・
まぁ物語自体とても面白いんだけど、「横山秀夫、福井晴敏、伊坂幸太郎らに絶賛された」ということもあって、相乗効果でベストセラーに。たぶん帯も書いていたんじゃないかなぁ・・・ あとは、映画化もされたそうです。しかも賞も受賞し、というわけで大ヒット。
第7回大藪春彦賞受賞作。2004年度週刊文春(ミステリーベストテン)第1位。2004年度週刊現代(最高に面白い本)第1位 。2005年度「このミステリーが凄い!」第8位 。2005年第2回本屋大賞ノミネート作(7位)。
自森人読書 犯人に告ぐ
著者: 雫井脩介
出版社: 双葉社
巻島は、幼児誘拐事件の捜査に失敗の結果。その上、マスコミに対して逆ギレしてしまい、左遷された。それから6年後。新たな連続幼児誘拐殺人事件が発生し、巻島は特別捜査官として呼び戻されることになる。なぜ、彼が呼び戻されたのか。それは、彼が一度失敗した人間だから。彼に与えられたのは、テレビを使った日本初の特別公開捜査という任務であった。犯人逮捕に失敗すれば、世間から罵倒されるピエロと化してしまう役割。しかし、雫井脩介は、それを受け入れる。
テレビ会社同士の反目、警察内部の縄張りをめぐる暗闘、そして愉快犯たちの暗躍。その中で、孤立していく巻島。警察は、犯人「バッドマン」を逮捕できるのか?
ちょっと長すぎるような気もしたけど、面白かったです。中だるみしているように感じたんだけど、それはまぁ最後の爽快感のためには仕方ないかも知れない。警察のおじさん達が渋くて格好良いです。とくに主人公。何か悟ってしまったみたいに何事にも動じないんだけど、最後には・・・
まぁ物語自体とても面白いんだけど、「横山秀夫、福井晴敏、伊坂幸太郎らに絶賛された」ということもあって、相乗効果でベストセラーに。たぶん帯も書いていたんじゃないかなぁ・・・ あとは、映画化もされたそうです。しかも賞も受賞し、というわけで大ヒット。
第7回大藪春彦賞受賞作。2004年度週刊文春(ミステリーベストテン)第1位。2004年度週刊現代(最高に面白い本)第1位 。2005年度「このミステリーが凄い!」第8位 。2005年第2回本屋大賞ノミネート作(7位)。
自森人読書 犯人に告ぐ
★★★
著者: 野村二郎
出版社: 講談社
キムタク演じる検事が主役のドラマ『HERO』の再放送を見ていて検事とは何ぞや、ということに興味を持ちました。そして読んでみたのが『日本の検察―最強の権力の内側』。よくまとまっていて面白いです。検事の役割や、日本における歴史などが大雑把に分かります。
戦後の日本では、検察という組織がとても大きな権限を握っているということがよく分かります。政治の腐敗を徹底的に叩いてその不正を糺せるのは検事くらいなのだなぁ・・・ しかし、検事だって代議士と闘うのは大変だろうと思います。
検事として大活躍し、その後ヤメ検弁護士に転じてまたもや活躍、そしてやりすぎて最終的には逮捕された 田中森一という人の書いた『反転』を読むと、検察も国策には逆らえない、という側面も見えてきます。まぁそこは駆け引きなんだろうけど。
ちょうどこの前、野党第一党(民主党)の党首の秘書が逮捕される、ということが起きました。どことなく国策捜査のような雰囲気がするんだけど(麻生政権が組閣のときに、官房副長官にわざわざ前警察庁長官を起用したという時点でちょっとおかしくはないか)、いったいどういうことなのだろう。政界と検察との関係を、もっと掘り下げていってくれる人はいないのかなぁ・・・ 期待したいです。
『日本の検察―最強の権力の内側』の中では、検察内部の派閥争いのこととなども、きちりと書かれているのですが、さらさらっと説明されてもあまり頭に入ってきません。まぁまずこの本で大体のところを掴んだ上で、もっと別の本にあたっていけば良いか。初心者には分かりやすい良い本です。
自森人読書 日本の検察―最強の権力の内側
著者: 野村二郎
出版社: 講談社
キムタク演じる検事が主役のドラマ『HERO』の再放送を見ていて検事とは何ぞや、ということに興味を持ちました。そして読んでみたのが『日本の検察―最強の権力の内側』。よくまとまっていて面白いです。検事の役割や、日本における歴史などが大雑把に分かります。
戦後の日本では、検察という組織がとても大きな権限を握っているということがよく分かります。政治の腐敗を徹底的に叩いてその不正を糺せるのは検事くらいなのだなぁ・・・ しかし、検事だって代議士と闘うのは大変だろうと思います。
検事として大活躍し、その後ヤメ検弁護士に転じてまたもや活躍、そしてやりすぎて最終的には逮捕された 田中森一という人の書いた『反転』を読むと、検察も国策には逆らえない、という側面も見えてきます。まぁそこは駆け引きなんだろうけど。
ちょうどこの前、野党第一党(民主党)の党首の秘書が逮捕される、ということが起きました。どことなく国策捜査のような雰囲気がするんだけど(麻生政権が組閣のときに、官房副長官にわざわざ前警察庁長官を起用したという時点でちょっとおかしくはないか)、いったいどういうことなのだろう。政界と検察との関係を、もっと掘り下げていってくれる人はいないのかなぁ・・・ 期待したいです。
『日本の検察―最強の権力の内側』の中では、検察内部の派閥争いのこととなども、きちりと書かれているのですが、さらさらっと説明されてもあまり頭に入ってきません。まぁまずこの本で大体のところを掴んだ上で、もっと別の本にあたっていけば良いか。初心者には分かりやすい良い本です。
自森人読書 日本の検察―最強の権力の内側
★★★★
著者: 渡辺精一
出版社: 講談社
『三国志人物事典』は、三国志演義に登場する全人物を網羅した辞典。
一場面にしか登場しない端役まで含めて全員載っています。凄すぎる・・・ もう感動というしかないです。どうしてこんなことができてしまうのか。壮大な『三国志』という物語を解読していこうと思った時にとても役立ちます。
渡辺精一は、中国古典文学者として知られている人です。物凄く『三国志』というものを愛しているらしく。三国志の翻訳や、三国志に登場する人物の辞典作りのみならず、異本『反三国志』の翻訳までやってのけてしまいました。ほんとに凄い。
『反三国志』っていうのは、史実では負けちゃったはずの劉備・諸葛亮率いる蜀陣営が逆転して勝ってしまうというテンデモない本なんだけど・・・ とにかく分厚いです。最後まで読むのは一苦労。最初らへんはまだそれなりに読めるのですが。途中からはもう蜀軍が勝ちっぱなし、「△△で蜀軍は大勝」「それで魏の将軍は戦死」「□□で蜀軍は大勝」というのが延々と続き、ほとんど一方的な殺戮ゲームと化します。もう少しきっちり物語として組み立ててくれれば、まだ読めるんだけど・・・ というのは翻訳者である渡辺精一に言っても仕方ないか・・・
はなしを戻して。
三国志に興味がある人は、『三国志人物事典』を一度手にとってみると感動するのではないか、と思います。ぜひ手にとってみて欲しいです。この本に★4つつけるというのは、どうなのかという気もするけど、面白いのでまぁ良いかなぁ・・・
自森人読書 三国志人物事典
著者: 渡辺精一
出版社: 講談社
『三国志人物事典』は、三国志演義に登場する全人物を網羅した辞典。
一場面にしか登場しない端役まで含めて全員載っています。凄すぎる・・・ もう感動というしかないです。どうしてこんなことができてしまうのか。壮大な『三国志』という物語を解読していこうと思った時にとても役立ちます。
渡辺精一は、中国古典文学者として知られている人です。物凄く『三国志』というものを愛しているらしく。三国志の翻訳や、三国志に登場する人物の辞典作りのみならず、異本『反三国志』の翻訳までやってのけてしまいました。ほんとに凄い。
『反三国志』っていうのは、史実では負けちゃったはずの劉備・諸葛亮率いる蜀陣営が逆転して勝ってしまうというテンデモない本なんだけど・・・ とにかく分厚いです。最後まで読むのは一苦労。最初らへんはまだそれなりに読めるのですが。途中からはもう蜀軍が勝ちっぱなし、「△△で蜀軍は大勝」「それで魏の将軍は戦死」「□□で蜀軍は大勝」というのが延々と続き、ほとんど一方的な殺戮ゲームと化します。もう少しきっちり物語として組み立ててくれれば、まだ読めるんだけど・・・ というのは翻訳者である渡辺精一に言っても仕方ないか・・・
はなしを戻して。
三国志に興味がある人は、『三国志人物事典』を一度手にとってみると感動するのではないか、と思います。ぜひ手にとってみて欲しいです。この本に★4つつけるというのは、どうなのかという気もするけど、面白いのでまぁ良いかなぁ・・・
自森人読書 三国志人物事典
天才的なボクシングセンスを持っているアホ・鏑矢は、ボクシングの闘いにおいては圧倒的な強さを誇ります。彼に敵う高校生は一人もいませんでした。一方、鏑矢の幼馴染である優等生・木樽は、初めてのデートのとき不良にボコボコにされて屈辱を味わい、ボクシングを習い始めます。最初はひ弱だったのですが徹底的な練習の結果、じょじょに強くなっていきます。2人はともに手を取り合いながら、様々なライバル達に立ち向かっていくのですが・・・
ボクシングを描いた熱血スポコン青春小説。
少年漫画のように面白いし、試合の描写も優れています。ボクシングの詳しいルールなどが説明される部分は読み応えがありました。
ただし、全体的に話が出来すぎなのではないかというふうに感じてしまいました。練習すれば誰でもそこそこそに強くなれるというような希望的な展開には首を傾げざるを得ない。そうではないからスポーツというのは辛いのではないか。
各々のキャラクターの掘り下げが、いかにもありがちな方向へと進んでいくことにも疑問を覚えました。直球な物語というのはかえって難しいものなのだなぁ、と実感しました。そういえば、事実上のヒロイン役である耀子先生の行動がよく分からなったし、あまりにもリアリティに欠けているような気がしました。彼女のような教員が存在するとはとても思えないんだけど・・・
今日読んだ本
百田尚樹『ボックス!』
今読んでいる本
柴崎友香『ドリーマーズ』
★★★
作者: 田中芳樹
出版社: 徳間書店
銀河英雄伝説シリーズ全体の感想のページ
傀儡の幼帝を擁立し、帝国の全権を握ったラインハルト。彼は、配下の将軍であるケンプとミュラーにガイエスブルグ要塞を与えます。そして、それでもって同盟軍のイゼルローン要塞を陥落させるよう命じます。要塞対要塞という、シリーズの中でも珍しい展開となるわけです。
帝国軍の侵攻に対して、イゼルローン要塞を守る同盟軍は動揺します。なんと要塞の総司令官にして、天才戦術家のヤン・ウェンリーがいなかったからです。ですが、敵が攻めてきたからには戦わない訳にはいきません。同盟軍は、ヤンの不在を隠したまま、戦闘に突入していきます・・・
さて、ヤン・ウェンリーは、自分の持ち場を離れてどうしていたのか? 実は、査問会に呼び出されていました。数々の戦争で活躍してきたヤンは、中央の政治家(とくに元首・トリューニヒトとその取り巻き)たちから疎まれていたのです。そして査問会という名の「いじめ」を受けることになります。ですがヤンも黙っているわけではない。そうして、首都では舌戦が繰り広げられます・・・・・
ちょっとここで小休止、というような感じです。1・2巻が怒涛のような展開を見せたのでここで息継ぎ、というか。決してつまらないわけではないんだけど、物語の中の狭間みたいになっています。ほとんど物語は進まず、この巻では同盟内部の政治腐敗が再確認されます。建て前としては民主国家・議会政治ということになっているけど、実質的にはトリューニヒトとその1派によって政治が壟断されている様が、少しずつ露になってきます・・・ そして、同盟の人材枯渇というのも見えてきます。
それとは対照的なのが帝国軍。2巻末ではキルヒアイスが倒れ、この巻ではケンプが戦死してしまいます。ですが、ミッターマイヤー、ロイエンタール、オーベルシュタイン、メックリンガー、ビッテンフェルトら有能な将軍・参謀たちが揃っているため、全く優位の立場は揺らいでいません(と列挙されても、困るか・・・)。
ラインハルト率いる圧倒的な帝国軍と、ヤン1人の活躍で保っている劣勢の同盟。またもや、その差がまざまざと表れます。
自森人読書 銀河英雄伝説3 雌伏篇
作者: 田中芳樹
出版社: 徳間書店
銀河英雄伝説シリーズ全体の感想のページ
傀儡の幼帝を擁立し、帝国の全権を握ったラインハルト。彼は、配下の将軍であるケンプとミュラーにガイエスブルグ要塞を与えます。そして、それでもって同盟軍のイゼルローン要塞を陥落させるよう命じます。要塞対要塞という、シリーズの中でも珍しい展開となるわけです。
帝国軍の侵攻に対して、イゼルローン要塞を守る同盟軍は動揺します。なんと要塞の総司令官にして、天才戦術家のヤン・ウェンリーがいなかったからです。ですが、敵が攻めてきたからには戦わない訳にはいきません。同盟軍は、ヤンの不在を隠したまま、戦闘に突入していきます・・・
さて、ヤン・ウェンリーは、自分の持ち場を離れてどうしていたのか? 実は、査問会に呼び出されていました。数々の戦争で活躍してきたヤンは、中央の政治家(とくに元首・トリューニヒトとその取り巻き)たちから疎まれていたのです。そして査問会という名の「いじめ」を受けることになります。ですがヤンも黙っているわけではない。そうして、首都では舌戦が繰り広げられます・・・・・
ちょっとここで小休止、というような感じです。1・2巻が怒涛のような展開を見せたのでここで息継ぎ、というか。決してつまらないわけではないんだけど、物語の中の狭間みたいになっています。ほとんど物語は進まず、この巻では同盟内部の政治腐敗が再確認されます。建て前としては民主国家・議会政治ということになっているけど、実質的にはトリューニヒトとその1派によって政治が壟断されている様が、少しずつ露になってきます・・・ そして、同盟の人材枯渇というのも見えてきます。
それとは対照的なのが帝国軍。2巻末ではキルヒアイスが倒れ、この巻ではケンプが戦死してしまいます。ですが、ミッターマイヤー、ロイエンタール、オーベルシュタイン、メックリンガー、ビッテンフェルトら有能な将軍・参謀たちが揃っているため、全く優位の立場は揺らいでいません(と列挙されても、困るか・・・)。
ラインハルト率いる圧倒的な帝国軍と、ヤン1人の活躍で保っている劣勢の同盟。またもや、その差がまざまざと表れます。
自森人読書 銀河英雄伝説3 雌伏篇
★★
著者: 童門冬二
出版社: PHP研究所
恩田木工、栗山大膳、長野主膳といったマイナーな名家老や、その他有名な名家老たちの事跡を眺めていき、そしてそこから何らかの「教訓」を引っ張り出して、それを学んで活かしていきましょうよ、というものなんだけど・・・
つまらないです。歴史小説というのは楽しむためにあるのであって、「企業戦士である自分の実生活に活かすため」というのでは、どうも面白くない。というか、戦国時代と現代って価値観や概念が全然違うから、江戸時代に生きる「家老」と近代に生きる「自分」とでは、比較のしようがないと思うんだけど。無理に比べたら齟齬をきたすんじゃないかなぁ・・・
歴史は、大切なものだから活かさなければならないという、その姿勢には賛成です。歴史に学ぶのでなければ、これから進むべき道を考える時、いったいぜんたい何に拠って進路を考えていけば良いのか、ということになってしまう。
なんというか読んでいると、大きな歴史小説書いている片手間にこういうちょっとした列伝ものみたいな軽い小説も書いてみました、という雰囲気もします。読んでみて損したかもという気がしてきてしまうなぁ、どうしても。まぁ決して全部が全部つまらないわけではないんだけど・・・
まぁ江戸時代の家老たちのことを知ることができるのはちょっと面白かったので★2つ。
自森人読書 名家老列伝―組織を動かした男たち
著者: 童門冬二
出版社: PHP研究所
恩田木工、栗山大膳、長野主膳といったマイナーな名家老や、その他有名な名家老たちの事跡を眺めていき、そしてそこから何らかの「教訓」を引っ張り出して、それを学んで活かしていきましょうよ、というものなんだけど・・・
つまらないです。歴史小説というのは楽しむためにあるのであって、「企業戦士である自分の実生活に活かすため」というのでは、どうも面白くない。というか、戦国時代と現代って価値観や概念が全然違うから、江戸時代に生きる「家老」と近代に生きる「自分」とでは、比較のしようがないと思うんだけど。無理に比べたら齟齬をきたすんじゃないかなぁ・・・
歴史は、大切なものだから活かさなければならないという、その姿勢には賛成です。歴史に学ぶのでなければ、これから進むべき道を考える時、いったいぜんたい何に拠って進路を考えていけば良いのか、ということになってしまう。
なんというか読んでいると、大きな歴史小説書いている片手間にこういうちょっとした列伝ものみたいな軽い小説も書いてみました、という雰囲気もします。読んでみて損したかもという気がしてきてしまうなぁ、どうしても。まぁ決して全部が全部つまらないわけではないんだけど・・・
まぁ江戸時代の家老たちのことを知ることができるのはちょっと面白かったので★2つ。
自森人読書 名家老列伝―組織を動かした男たち
柴崎友香の短編集『ドリーマーズ』を読んでいる最中。現実と夢が織り交ざったような世界が展開されていきます。
『夢見がち』が一番印象的でした。電車の中で、ある青年が幼い頃経験した不可解な出来事を語るのですが、それは出来事は本当にあったことなのか夢なのかいまいち分かりません。彼は、「車に轢かれたはずなのに気付いたら無事だったのだが、家に帰ってみると知らない人が出てきて、辺りの知り合いの家を訪ねたら誰も出てこなくて、公園に行くと小さい子しかいなくて・・・」というようなことを語るのですが、その感覚は分からないでもないです。
さらりと文中に挿入されている周辺の些細な物事の描写が非常に巧いし、面白いです。だから、主人公の周りに存在する物は最近の若者が好む物(ポテトチップスとか)ばかりなのに、作品の雰囲気はいかにも文学的。そのためか、少しだけ堀江敏幸を想起しました。
今日読んだ作品
柴崎友香『ハイポジション』
柴崎友香『クラップ・ユア・ハンズ!』
柴崎友香『夢見がち』
今読んでいる本
百田尚樹『ボックス!』
佐々木譲『ベルリン飛行指令』
柴崎友香『ドリーマーズ』
190クラインの壺
★★★★★ 岡嶋二人
189銀河英雄伝説2 野望篇
★★★★★ 田中芳樹
188正直書評。
★★★★★ 豊崎由美
187風の歌を聴け
★★★ 村上春樹
186「電車男」は誰なのか―“ネタ化”するコミュニケーション
★★ 鈴木淳史
★★★★★ 岡嶋二人
189銀河英雄伝説2 野望篇
★★★★★ 田中芳樹
188正直書評。
★★★★★ 豊崎由美
187風の歌を聴け
★★★ 村上春樹
186「電車男」は誰なのか―“ネタ化”するコミュニケーション
★★ 鈴木淳史
★★★★★
作者: 岡嶋二人
出版社: 講談社
主人公は、上杉彰彦という男。彼は、「クライン2」という最新鋭の体感ゲームの原作者となり、それのテストプレーヤーにも選ばれます。そして、もう1人のテストプレーヤー・高石梨紗と出会い、彼女と仲良くなるのですが、突然高石梨紗が失踪。上杉彰彦は、ゲーム会社を疑うのですが・・・
途中までは、なかなか面白いけどだからどうしたと言う感じでそこまで凄いとは思わなかったんだけど。最後の最後になって、どきりとさせられました。これが1989年に出版されているというのは結構凄いことでは無いだろうか。
現実と虚構が入り混じって、どちらがどちらなのか分からなくなってしまいます。まさかここまで見事にはまってしまうとは思いませんでした。最後のどんでん返しが、とにかく凄いです。タイトル(「クラインの壺」)自体が答えだってことはだいたい察知していたんだけど、それでも見事に嵌められてしまいました・・・ やられた、という感じです。
岡嶋二人って、なんだか変な名前だから、凝ったメタミステリやアンチミステリを書いているのかなぁ、と思ってこれまで敬遠していたのですが、「岡嶋二人ははずれがない、面白いよ」と聞いたので、読んでみました。そしたら確かにその通りで、とても面白かったです。これから、岡嶋二人の作品をいろいろ読んでいきたいなぁ、と思いました。
でも、もう今出版されている分しか「岡嶋二人の作品」はありません。岡嶋二人っていうのは、1人の小説家の名前ではなくて、井上泉と徳山諄一がコンビを組んだ時のペンネームです。岡嶋二人は、この『クラインの壺』を刊行した後、コンビを解消してしまったので今はいないそうです。残念です。とはいってもまだ未読の作品はたくさんあるので心配することはないか。
自森人読書 クラインの壺
作者: 岡嶋二人
出版社: 講談社
主人公は、上杉彰彦という男。彼は、「クライン2」という最新鋭の体感ゲームの原作者となり、それのテストプレーヤーにも選ばれます。そして、もう1人のテストプレーヤー・高石梨紗と出会い、彼女と仲良くなるのですが、突然高石梨紗が失踪。上杉彰彦は、ゲーム会社を疑うのですが・・・
途中までは、なかなか面白いけどだからどうしたと言う感じでそこまで凄いとは思わなかったんだけど。最後の最後になって、どきりとさせられました。これが1989年に出版されているというのは結構凄いことでは無いだろうか。
現実と虚構が入り混じって、どちらがどちらなのか分からなくなってしまいます。まさかここまで見事にはまってしまうとは思いませんでした。最後のどんでん返しが、とにかく凄いです。タイトル(「クラインの壺」)自体が答えだってことはだいたい察知していたんだけど、それでも見事に嵌められてしまいました・・・ やられた、という感じです。
岡嶋二人って、なんだか変な名前だから、凝ったメタミステリやアンチミステリを書いているのかなぁ、と思ってこれまで敬遠していたのですが、「岡嶋二人ははずれがない、面白いよ」と聞いたので、読んでみました。そしたら確かにその通りで、とても面白かったです。これから、岡嶋二人の作品をいろいろ読んでいきたいなぁ、と思いました。
でも、もう今出版されている分しか「岡嶋二人の作品」はありません。岡嶋二人っていうのは、1人の小説家の名前ではなくて、井上泉と徳山諄一がコンビを組んだ時のペンネームです。岡嶋二人は、この『クラインの壺』を刊行した後、コンビを解消してしまったので今はいないそうです。残念です。とはいってもまだ未読の作品はたくさんあるので心配することはないか。
自森人読書 クラインの壺
柳生十兵衛が額を割られ、殺されているのが発見されます。一流の剣士として知られていた彼がいかにして殺されたのか、その顛末を綴る物語だという説明が入り・・・ 江戸時代を舞台にした柳生十兵衛と竹阿弥、そしてその子たち金春七郎、りんどうらの物語が始まっていきます。途中からは突如として室町編に突入。一休さんも登場。
1991~2年に書かれた作品。
山田風太郎は70歳の時に『柳生十兵衛死す』を書いたそうです。凄いというしかない。エロが抜け、とんでもない忍法も陰を潜め、案外渋いのですが、やはりとんでもない物語です。能や剣の道を極めることで、タイムスリップが可能になってしまうというのです。
SFです。能と言うのが面白い。
今日読んだ本
山田風太郎『柳生十兵衛死す 上』
今読んでいる本
百田尚樹『ボックス!』
佐々木譲『ベルリン飛行指令』
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