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自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
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『甲賀忍法帖』
時は江戸時代初期。徳川家康は、ぼけっとした竹千代と利発な国千代のどちらを第三代将軍にするべきかとひどく悩んでいました。思い余って家康が天海僧正に悩みを打ち明けらると天海は恐ろしいことを提案します。それは「400年来の怨敵同士、伊賀・甲賀の忍者たちをそれぞれ竹千代、国千代につけて戦わせ、勝った側を次期将軍につけたら良い」というものでした。家康はそれをのみます。そして、彼の命に従い、最初から仲の悪かった伊賀組十人衆と甲賀組十人衆は死闘を繰り広げることになります・・・

1959年に出版された忍法帖もの第1作目。

敵味方に分かれて戦うことになってしまう悲劇のカップル、甲賀弦之介と伊賀の朧の運命はとても気になります。

ナメクジ男、血を噴射する女、髪を束ねた黒い鞭を駆使する美少年、何度殺されても蘇る男などなどが次々登場し、大乱戦を繰り広げます。山田風太郎の忍法帖シリーズさえあれば、少年漫画など読まなくても良いかなぁ、と思うほど。というか、山田風太郎が少年漫画の原型なんだろうなぁ・・・

冒頭にある真面目な歴史の講釈、次から次へと現れては驚愕の技を繰り出す人間を超えたトンデモ忍者たち、真面目腐っているけど全く説明になっていない忍術の説明、適度のエログロナンセンスが妙な味をかもし出しています。しかし、細部がおかしいだけでなくて、物語の骨格もしっかりとしており、面白い。笑えるのに哀しい。


今日読んだ本
山田風太郎『甲賀忍法帖』

今読んでいる本
堀江敏幸『熊の敷石』
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肉体から解き放たれた主人公「わたし」は時空を超越し、太陽系の彼方へと宇宙探索の旅に出ます。彼はじょじょに覚醒していき、棘皮人類、共棲人類、植物人類などの世界を巡っていきます。そんな中で、至高の創造主「スターメイカー」を追求するうちに宇宙の発生から滅亡までを垣間見ることになり・・・・・

1937年に出版された壮麗なるSF小説。

「思弁的な作品」というふうに紹介されていたので、警戒しながら読み始めたのですが、最初はけっこうソフトで、しかも面白いのでどんどんページをめくっていくことができました。ですが、ラストに近づいていくにつれて難解になってきます。最終的には、頭がパンクしてしました。

「究極のSF」という褒め言葉もあながちはずれていないのではないか、と感じます。人間・文明・精神とは何か、ということを深く冷徹に追求した哲学的な作品。とくに、共棲/共生というテーマが繰り返し語られています。

作者/主人公がキリスト教を信仰している英国人なので、作品にもキリスト教の影響が色濃く感じられます。精神というものに重きを置くところは非常に宗教的だし、創造主スターメイカーの扱いや、世界を二元論(「善と悪の対立」「文明と野蛮の対立」)で把握しようとする作者/主人公の姿勢は一神教的。その辺りには馴染めないものを感じました。

しかし、『スターメイカー』は、まぎれもなく傑作。僕には到底理解できない部分も多々ありましたが、とにかく凄いです。

楽園は決して実現しない、実現しても破壊されるというどうしようもないニヒリズムを抱きつつも世界/現実とコミットし、「共生」を唱え続ける作者には惚れ惚れします。しかも、第二次世界大戦前夜である1937年にそのようなことをやってのけたというのは本当に凄い。

出版社、国書刊行会。


今日読み終わった本
オラフ・ステープルドン『スターメイカー』

今読んでいる本
山田風太郎『甲賀忍法帖』
『夏への扉』
物語の舞台は1970年のロサンゼルス。主人公ダンは家事用ロボット「文化女中器」を発明し、それを大ブレークさせます。その上、美しい恋人ベルまで得て、楽しい人生を送っていました。しかし、あることをきっかけにして共同経営者マイルズと恋人ベルに裏切られ、会社から追放されます。希望を失ったダンは愛猫ピートとともに30年間の冷凍睡眠につくことを決意しますが・・・

タイムトラベルを扱ったSF小説。

2000年の世界の様子も描写されます。今となっては「2000年の世界」が過去のことになってしまい、様々な矛盾が生まれてしまいました。けど、現実の世界と、ロバート・A・ハインラインらSF作家が思い描いていた世界を比較してみるのはけっこう面白いです。

ただし、女性キャラクターの扱いは微妙ではないかと少し感じました。天使みたいに優しい女性と、半狂乱の悪女しか登場しないのです。しかも、「あれ(付属品)」扱いだし、根底にはそもそも女と言うものにはヒステリックな傾向があるという偏見がある気がします。まぁ1975年の小説だからしかたないという弁護もありうるのかも知れないけど、明らかに古臭い考え方だし、差別的じゃないかなぁ。

しかも、ラストでは中年男が10歳くらい年下の女の子と結ばれるのです。もう男側にとって都合の良すぎるストーリー。『夏への扉』が「古典的名作」としていつもSFベストランキング上位に推されているのはどういうことなのか。そういうランキングに参加している人たちは男性ばかりなのかも知れない(そもそもSF小説自体も男性にしか読まれていないのか)。

もっと良い作品が他にあるだろうに・・・


今日読んだ本
ロバート・A・ハインライン『夏への扉』

今読んでいる本
オラフ・ステープルドン『スターメイカー』
『のぼうの城』
「でくのぼう」として皆から馬鹿扱いされる大男、成田長親が主人公。彼は忍城城主の一族。農民とともに田んぼへ繰り出したりもするのですが、全く役に立たないため、結果として馬鹿にされてしまいます。そんなふうにして、呑気に過ごしていると、成田家の仕える北条家が天下統一を目指す豊臣秀吉と敵対したため、忍城は2万の豊臣軍の大軍勢に包囲されてしまいます。成田長親と幼馴染の家老・正木丹波守利英、荒々しい巨漢・柴崎和泉守、毘沙門天の生まれ変わりを自称する美青年・酒巻靱負らは石田三成と戦うことに・・・

歴史小説。

いかにもコミック的。あっさりと読めてしまうし、物凄く分かりやすいです。別に嫌いではないのですが、登場するキャラクターたちがあまりにもありきたり過ぎないだろうか、と感じてしまいました。「ダメダメなのに実は凄いものを秘めている」という主人公の設定からして普通過ぎるし、いかにも悪役らしい悪役が登場するところにも興醒めでした。

そういえば、人間は皆好きなように自分の論理で生きているわけですが、そこらへんの描き方が巧いような気がします。ただし浅いような気がします。さくっと書くことによってすがすがしさが漂っているところは悪くないのかも知れないのだけど。


今日読んだ本
和田竜『のぼうの城』

今読んでいる本
オラフ・ステープルドン『スターメイカー』
ロバート・A・ハインライン『夏への扉』
★★★

著者:  嶋津義忠
出版社: PHP研究所

  飄々としていて何事にもとらわれず、天下の政治を考えている天才軍師・竹中半兵衛と・・・ 降伏を勧めるために敵の城へいき、そこで1年近く監禁されてびっこになりながら生き延びてその後も活躍、あまりにきれすぎるので主君・豊臣秀吉にすら警戒されたといわれ、どこか底知れない軍師、黒田官兵衛。その2人を中心に、豊臣秀吉の天下取りを見ていこうというもの。

  読んでいて、黒田官兵衛は、ちょっとかっこ良すぎる気がしました。買いかぶりすぎじゃないかなぁ。もっと優しくない人のようなイメージがあります。「民のことに目を向けていた云々」っていうのはちょっときれい過ぎるのではないか。ありきたりすぎるというか。もう少し、未練たらしく天下を自分のものにしたい、という野心を追求する男だったのではないかなぁ、と僕は考えています(関連する本としては松本清張の、『軍師の境遇』があります。それは、黒田官兵衛を主役に据えた中篇小説。比較すると面白い)

  歴史小説にしては、なかなか読みやすいです。すとんすとんとはなしが進んで気持ちいい。ただし、戦国時代のだいたいの流れを知っている人でないと、ちょっと混乱するかも知れません。長いし、ちょっと創作も混じっているから気をつけないと(まぁ小説だから当然ですが)。

  世間一般に流通した常識というか、イメージでしっかりと書かれているので安心して読めます。歴史上のある人物が嫌いだから、口をきわめてその人の悪口を書く、という作家が時々います。それはそれで凄く面白いし、その非難の中からいろんなことが考えられて良いんだけど、その作家の信じる「非常識」をそのまま受け取ると、まずい。


自森人読書 竹中半兵衛と黒田官兵衛―秀吉に天下を取らせた二人の軍師
『ベストセラー本ゲーム化会議』
ベストセラー本をゲームにしてしまい、そこからその本や物語のルールを見出そうという企画。麻野一哉、米光一成、飯田和敏がべらべらと喋ったものが、そのまま収録されています。

力が抜けます。けれど喋っている三人はなかなかに読書通なので〈『世界がもし100人の村だったら』とか、『チーズはどこへ消えた?』とか、相田みつをとか、そこらへんをかるーくかるーく扱っていることからもそれがよく分かります〉、なかなかに面白いです。舞城王太郎はダサイけど良い、というのには同感。

けれど、もう少しだけ各々が好きな作品を明確にして欲しかったかも知れない。演出されたへらへらは愉快なのですが。

「ゲーム化会議」を全てに適用していったら面白いかも知れない。しかし、サブカルチャーの片隅まで知っている三人だからこそ面白いまとまっていないのにまとまっている鼎談ができるわけで、普通の人が同じことをやっても全然面白くない気がします。


今日読んだ本
麻野一哉、米光一成、飯田和敏『ベストセラー本ゲーム化会議』

今読んでいる本
オラフ・ステープルドン『スターメイカー』
和田竜『のぼうの城』
『虐殺器官』
9.11テロ以降、テロとの戦いは激化していきます。先進諸国は厳格な個人情報認証を徹底化。個人の自由はほぼ消滅。そのような中でサラエボが核弾頭によってクレーターと化します。その瞬間、核爆弾を用いるのは許されざる行為であるという「縛り」は破壊されました。
発展途上国では虐殺の嵐が吹き荒れます。米軍の特殊検索群i分遣隊(暗殺を実行する唯一の特殊部隊)に属すぼくはアメリカと「世界の正義」に邪魔な人間を次々と暗殺します。その対象として毎度登場するのが、謎の米国人ジョン・ポール。その男は虐殺のあるところには必ず現れます。ジョン・ポールとはいったい何者なのか。

9.11テロ以後の世界を舞台にしたハードSF。

様々なことを問う小説。「他人の命の上に成り立つ平和は平和といえるのか」というものが最も大きな問いかなぁと感じました。「戦争は啓蒙ではないか」といったかなりラディカルな視点も含まれていて興味深い。本当に考えさせられます。様々な小道具も魅力的(イルカ、鯨を殺し、彼らから取り出した筋肉が世界各地で機械に組み込まれている)。ハイテクの残酷さ、恐怖がきちりと示されています。

伊藤計劃は、言語学、文学にも造詣が深いようです。散りばめられた様々な単語(カフカとか、罪と罰とか)には、にやりとさせられます。血に塗れながらも、うだうだと悩み続ける思索的な主人公はいかにも文学的。彼の先進国の人間らしい悩みには共感します。

ラストが予想できてしまったのだけど、それでもやはり面白い。少なくとも21世紀の日本SFの傑作とはいえます。もしかしたら「世界文学」級なのではないか。

小松左京賞最終候補作。


今日読んだ本
伊藤計劃『虐殺器官』

今読んでいる本
オラフ・ステープルドン『スターメイカー』
『明治断頭台』
太政官弾正台の大巡察、香月経四郎と川路利良は様々な事件に遭遇します。香月経四郎は、死者の霊を呼ぶことが出来るという異様な力を持つフランス人美女エスメラルダとともに事件を解決していくのですが・・・

歴史ミステリ。ひねられた物理トリックがたまらない。

連作短編集のような感じなのですが、最後の章『正義の政府はあり得るか』で全ての謎が回収されます。どんでん返しは本当に衝撃的。香月経四郎の壮烈さには驚かされます。

太平洋戦争に影響されたらしい山田風太郎自身の歴史観が、はっきりと示されているところは非常に印象的。彼は、革命や戦争を美しいものとして書くことはありません。むしろその滑稽な部分や、グロテスクなところに目を向けます。綺麗な大義名分などに実はないとよく身をもって理解しているんだろうなぁ・・・

いろんな人がちょこっと登場するところも楽しいです。福沢諭吉を逞しくてしたたかでかなりの詭弁家として書いているところにはなるほどなぁと感じます。それに対し、勝海舟をくえない大物として書いているところには共感。内村鑑三が登場したときにはほー、と感心していました。西郷隆盛、江藤新平なども顔を見せます。その他にも多くの有名人が登場。それを確認していくだけでも楽しいです。

山田風太郎の明治ものの傑作。


今日読んだ本
山田風太郎『明治断頭台』

今読んでいる本
伊藤計劃『虐殺器官』
オラフ・ステープルドン『スターメイカー』
『現代日本の小説』
1980年代以降の日本文学史をたどっていくことができます。非常に分かりやすいです。押さえておくべき作家の名がきちりきちりと押さえてあります。

大江健三郎のノーベル賞受賞以前・以後を分け、以後の文学史についてを分析。よしもとばななと村上春樹を重視。とくに村上春樹には一章を割き、彼の遍歴を綴っています。それから、金原ひとみ、綿矢りさといった若手小説家がもたらした衝撃や、変容しつつある日本人の感性のことについても分析されています。

「純文学」系の小説家たちのことはかなり詳細に掴むことができます。しかし、「純文学」系以外の小説家の説明にはけっこう間違いがあるし、扱いが悪い。

たとえば、舞城王太郎をライトノベル作家として扱っているのは多分、間違っています。いかにもラノベ系な雰囲気を漂わせているけれど、ライトノベル作家ではありません。元々は清涼院流水などを輩出したメフィスト賞から、すなわち異端的な新本格ブームからでてきた人です。

まぁ、「純文学」系や「文壇」を中心にしないとしかたないともいえます。ケータイ小説のことまで含めようとしたら、やっぱりおさまりがつかないだろうし。

最後は少し走りすぎているような気もしました。一つ一つのことについて詳しく読みたい、と感じました。「70年代以降の小説は全てクズ」とか言い放つ人たちに比べて尾崎真理子は良心的だし、絶対に凄い人です。ちゃんと読んでいるわけだから。


今日読んだ本
尾崎真理子『現代日本の小説』

今読んでいる本
山田風太郎『明治断頭台』
『SFが読みたい! 2001年版』
国内のベスト1は、菅浩江の『永遠の森-博物館惑星』。
海外のベスト1は、ダン・シモンの『エンディミオンの覚醒』。

『永遠の森』は面白かった記憶があります。


今日読んだ本
SFマガジン編集部『SFが読みたい! 2001年版』

今読んでいる本
山田風太郎『明治断頭台』
『必読書150』
編者達が、カノン(正典)だと思うものを列挙した本。反時代的なブックガイドを自称しています。かつての教養主義をある程度は好意的に捉え、まぁいかにも必読書として挙げられそうな作品をあえて挙げているわけです。

「これらを読まなければサルである」と謳っていますが、虚仮威しにしか聞こえないです。ありきたりの名著一覧みたいな感じだし、解説文は全然面白くない。というか解説になってない。

選者は一人の方が面白かったのではないか。

「中国の文学などには詳しくないので入れなかった」「これからアジアで考えていくべきですかね」とかそんなようなことを言って、アジアの文学には目もくれないところには疑問を感じます(唐詩選、阿Qくらいしか入っていない)。

「1970年代以降の日本の小説は全部カス」みたいな主張には反感を覚えます。全てを一緒くたにして論ずるということには無理があるのではないか。もしかして、編者達の感覚が古びている/古くなったのでは、といいたくなります。

彼らは「日本の哲学/文学は退化しつつある」「終わっている」みたいなことをいつも言い張るけど、昔から文学を読む人や哲学をやっている人なんて少数派では? それにいつの時代にも「昔は良かった」論者はいるわけだし。まぁ、そう深刻になる必要はないのではないか。

まぁ、あえて『必読書150』という本を出版し、風波をたてて煽る人たちは応援しないでもないのですが。


今日読んだ本
柄谷行人、浅田彰、岡崎乾二郎、奥泉光、島田雅彦、すが秀実、渡部直己、『必読書150』

今読んでいる本
SFマガジン編集部『SFが読みたい! 2001年版』
『対岸』
街に疲れ、何もないきれいな対岸に渡りたいと願う男の物語。彼は仕事の中で時間を見つけ・・・

『遠い陸橋』
今度は息子が登場。『あの夕陽』の続編らしき作品。


今日読んだ作品
日野啓三『対岸』
日野啓三『遠い陸橋』


ひとまず置く
山田風太郎『明治断頭台』
超大作。
『ハイペリオン』
西暦28世紀、人類は多数の惑星にまたがる国家、連邦を形作っていました。しかし、辺境の惑星ハイペリオン目掛けて連邦に服さないアウスターが侵攻を開始。そんな中、7人の巡礼者が別々の目的を抱き、ともに<時間の墓標>を目指すのですが、ハイペリオンの<時間の墓標>が開き始め、中からは殺戮者シュライクが現れ・・・

枠物語の構成になっています。6人の人間が、各々物語を語り始めます。それぞれ『司祭の物語:神の名を叫んだ男』、『兵士の物語:戦場の恋人』、『詩人の物語:『ハイペリオンの歌』』、『学者の物語:忘却の川の水は苦く』、『探偵の物語:ロング・グッパイ』、『領事の物語:思い出のシリ』。

2段組み524ページ。ダン・シモンズは、SF小説の集大成として『ハイペリオン』を書いたみたいです。多彩な独立した物語が6つあって呆れるけど、凄いなぁと感じます。

とくに『学者の物語:忘却の川の水は苦く』はジーンときます。若返っていく娘を抱き、生きる父の姿がたまらない。

1990年ヒューゴー賞、ローカス賞受賞作。1995年第26回星雲賞海外長編賞受賞作。


今日読んだ本
ダン・シモンズ『ハイペリオン』

今読んでいる本
日野啓三『あの夕陽』
山田風太郎『明治断頭台』
『あの夕陽』
今、日野啓三の短編集を読んでいます。

『あの夕陽』
あらすじ ソウルから帰ってきた主人公の新聞記者は、ミス李なる朝鮮人のことを思っています。そして、自分に言いなりの妻と別れようとするのですが別れる気力すらわきあがってきません。そうして彼は、何も決断できぬまま銭湯へゆきます。芥川賞受賞作。

『野の果て』
主人公は、海鳴りの聞こえるあばら家のよう場所で生きているおばさんのもとを訪ねます。彼らは朝鮮から引き上げてきたという共通点があるため、何らかのつながりを感じているのですが・・・

『無人地帯』
韓国と北朝鮮の狭間にある非武装地帯に興味を持った記者は、そこへ赴き、教員の女性と出会い、そして輪郭のはっきりとしない彼女にひかれます。偶然トラックに置いていかれてしまい、学校で女性と夜をともに過ごすのですが・・・

味わい深い作品ばかりです。エッセイのようでもあります。半分くらいは、著者自身の姿をそのまま写し取っているのではないか。淡白なのですが、主人公の虚無というか、気だるさが強く感じられます。

その背景にあるのは、かつての第二次世界大戦や、朝鮮戦争なのだけど、それらは妙にぼんやりとしています。全体像がはっきりしないのです。けど戦争というのは、そういうものなのかも知れない。かっちりと掴むというのは不可能な気がします。


今日読んだ作品
日野啓三『あの夕陽』
日野啓三『野の果て』
日野啓三『無人地帯』


今読んでいる本
日野啓三『あの夕陽』
ダン・シモンズ『ハイペリオン』
山田風太郎『明治断頭台』
『猫のぷいさんひげ日記』
『猫のぷいさんひげ日記』は、その名の通り猫のぷいさんの日記。ぷいさんの口癖は「プイプイ」というもの。

ページをめくっていると愉快な気分になってきます。その日その日のご飯と寝床まで、しっかりと書いてあります。

ぷいさんは人間とは少しずれたところから世界を眺め、記します。とはいえ、何かを大仰に語りだすというわけではありません。いつでもどこでも呑気にしています。だけど、その呑気さが良い味を出しているというか、いつもカッカしている人間とは大きく異なるのです。

読みながら、著者の八鍬真佐子はしっかりと猫を観察しているんだろうなぁ、と感じました。そうそうそうなんだ、という場面がたくさんあります。そうそう猫って新聞の上にわざわざのるし、何か箱とかあるとすぐに入るんだよなぁ・・

猫って良いなぁ、と感じました。妙に優雅というかゆったりしていて、よく寝て、かと思いきや遊びだすんだよなぁ。


今日読んだ本
八鍬真佐子『猫のぷいさんひげ日記』

今読んでいる本
日野啓三『あの夕陽』
『人類は衰退しました』
あらすじ 人類が衰退して数世紀がたちました。調停官となった旧人類の少女は、新人類の「妖精さん」と交流するためにこんぺいとうを埋めます。すると、とぼけた「妖精さん」たちがわらわらと現れ・・・

SF小説。ガガガ文庫。

なんというか、読んでいるとむず痒くなってくる小説。全体的に脱力しきっているゆるいところは悪くないんだけど、何もかもが気持ち悪いほど類型的/ありきたりなのです。主人公の語り口(ですます調)、性格などなど全てがいかにもありきたりだし、世界観だってどこかからの借り物のよう。

著者の田中ロミオは、美少女ゲームのシナリオライターだそうなので、それと全く同じ調子で小説も書いたのかもしれない。


今日読んだ本
田中ロミオ『人類は衰退しました』

今読んでいる本
日野啓三『あの夕陽』
『猛スピードで母は』
短編集。『サイドカーに犬』『猛スピードで母は』収録。

『サイドカーに犬』
あらすじ 薫は弟と語らううちに、母が家出し、父の友人や愛人が出入りした小学4年生の夏休みのことを思い出します。そして自分にも何かが訪れるのではないか、と言う予感を抱くのですが。第92回文學界新人賞受賞作。映画化されているそうです。

『猛スピードで母は』
あらすじ 小学生5年生の慎は母親とともに北海道での日々を過ごしていました。そんなある日、母が再婚という言葉を口にします。芥川賞受賞作。

長嶋有は最近の作家らしく、非常に軽い作風なのだなぁと感じました。しかし一場面一場面に目を向けるとけっこう深いものがあります。子ども時代のことを懐古するときの寂しいような感情が伝わってきます。ムーギチョコとムギーチョコが印象に残りました。

車が物語を読み解くキーだというようなことを斎藤美奈子が書いていたけど、どういうことだろう。車で運ばれる(飼われている気がする)ということに快感を感じるのはなぜなのだろう。う~ん、何もしていない状況に溺れていることが楽しいということだろうか。


今日読んだ本
長嶋有『サイドカーに犬』
長嶋有『猛スピードで母は』


今読んでいる本
田中ロミオ『人類は衰退しました』
『蹴りたい田中』
田中啓文のバカSF短編集。
『未到の明日に向かって』『地球最大の決戦 終末怪獣エビラビラ登場』『トリフィドの日』『トリフィド時代』『やまだ道 耶麻霊サキの青春』『赤い家』『地獄八景獣人戯』『地獄八景獣人戯』『蹴りたい田中』『吐仏花ン惑星 永遠の森田健作』収録。

『未到の明日に向かって』
『蹴りたい田中』で茶川賞を受賞した後の田中啓文へのインタビュー(綿谷りさ『蹴りたい背中』の芥川賞受賞そのものに関してのパロディ)。田中啓文の自己紹介的な感じ。

『地球最大の決戦 終末怪獣エビラビラ登場』
いやー、なんというか凄い・・・ ウルトラマンのエログロナンセンスなパロディ。

『トリフィドの日』『トリフィド時代』
キノコが喋りだし、世界征服を目指します。またまたバカバカしいはなし。ジョン・ウィンダムの同名小説のパロディだそうです。

『やまだ道 耶麻霊サキの青春』
山田正紀作品への思いが語られます。内宇宙的なオチ。

『赤い家』
蚊の私立探偵が主人公。彼女が人間の警察官の男とペアを組み、殺人事件と殺蚊事件を解決します。もうだめだ・・・

『地獄八景獣人戯』
水戸黄門のパロディ。もう何と言うか何が混じっているのかすらよく分からないです。汚い作品。

『蹴りたい田中』
なんと、『蹴りたい背中』とはまったく関係ないです。敗戦間近の日本軍は大和魂で戦艦・和紀を動かそうとします、というはなしでもうどうしようもない。

『怨臭の彼方に』
不老不死を手に入れる代わりに世界を滅亡させるほどの悪臭をまとってしまった美男の物語。

『吐仏花ン惑星 永遠の森田健作』
菅浩江『永遠の森 博物館惑星』のパロディかと思いきや、それは名前だけで・・・ 森田健作がおかしすぎ。笑うしかない。

笑うしかない。けど笑えないほどくだらない場合もあります。呆れるしかない。地口(駄洒落)だらけで、オチまで地口だらけです。真面目に読んでも何も得られないかも知れません。しかし、意外といろんなものを取り込んでいます。もう少しマシな方向にその知識を活かせば・・・


今日読んだ本
田中啓文『蹴りたい田中』

今読んでいる本
長嶋有『猛スピードで母は』
『銃とチョコレート』
怪盗は、富豪の家から次々といろいろな財宝を盗んでいきました。現場に残されていたカードには、【GODIVA】と書かれていたため、怪盗はゴディバと名付けられました。それを追うのは探偵ロイズ。彼はその国の子ども達のヒーローです。寂れた町に住むリンツもロイズに憧れている少年の一人でした。彼は父に買って貰った聖書に挟まっていた紙を見て、どきりとします。それには風車小屋の絵がかかれており、ゴディバの残したものだと思われたからです。彼は探偵ロイズに手紙を送ります・・・

乙一らしい作品。

平山夢明『独白するユニバーサル横メルカトル』に収録されている作品群と近い雰囲気がします。かなり陰惨な世界。しかし救いがないわけではないところが良いです。

講談社ミステリーランド。


今日読んだ本
乙一『銃とチョコレート』

今読んでいる本
田中啓文『蹴りたい田中』

最後まで誰が誰だか分かりづらかったなぁ・・・ けど、面白かったです。

でも、面白かったのに、なんと3冊で完結。『よつばと!』を楽しみに待つしかないのか。


今日読んだ本
あずまきよひこ『あずまんが大王 3』

今読んでいる本
乙一『銃とチョコレート』
田中啓文『蹴りたい田中』
SF小説。
『永遠の森―博物館惑星』
『永遠の森―博物館惑星』は連作短編集。『天上の調べ聞きうる者』『この子はだあれ』『夏衣の雪』『享ける手の形』『抱擁』『永遠の森』『嘘つきな人魚』『きらきら星』『ラヴ・ソング』収録。

小さな惑星に究極の美というものを追求するべく、古今東西のあらゆる美術品を集める巨大博物館「アフロディーテ」がつくられました。しかし、そこには平穏はありませんでした。音楽・舞台・文芸部門「ミューズ」、絵画・工芸部門「アテナ」、動・植物部門「デメテル」が美術品を巡って争うからです。総合管轄部署「アポロン」の田代孝弘はいつでも面倒な調停を任され、四苦八苦することに・・・


『この子はだあれ』が一番うわーと感じました。

「直接接続」というものが登場します。頭の中で物を思い浮かべるだけで、類似した物が次々と表示されるという便利な装置。使ってみたいなぁ、と感じました。

伏線が綺麗に収まっていきます。最初から全て考えていたのかなぁ。だとしたら、凄すぎる。けど多分考えていたとしか思えません。

第54回日本推理作家協会賞、星雲賞受賞作。


今日読んだ本
菅浩江『永遠の森―博物館惑星』

今読んでいる本
乙一『銃とチョコレート』
あずまきよひこ『あずまんが大王』
『ヒドラ氷穴』 2145年
地球人のテロリスト・ラミアは、AADD総裁・落合哲也の暗殺を計画します。ガーディアンはそれを阻止しようとするのですが・・・

『エウロパの龍』 2149年
木星の衛星エウロパの海へ赴き、生物がいるかどうか探索していた潜水艇ソードフィッシュが、「龍に呑み込まれる」という言葉を残して連絡を絶ちます。そのため、さらに潜水艇<コバンザメ>が送られます。

『エインガナの声』2163年
AADDのシャンタク二世号は矮小銀河エインガナの調査を行っていました。ですが、突如として通信機能が乱れ、内部ではAADDの人間と地球の人間が対立し・・・・

『キャリバンの翼』2146~2171年
天才少女アグネス博士は、ブラックホール・カーリーにナノマシン投入実験を行います。そしてブラックホールが生物ではないか、という推測を行うのですが。『ヒドラ氷穴』に登場したテロリスト紫怨(ラミア)などが再登場。全編をまとめる作品。

「知的生命体」とは何なのか。何をもって、知的とするのか。考えさせられました。しかし、やたらと長い説明を読んでいると面倒になってきます。最後になるにつれて飽きてきました。


今読んでいる作品
林譲治『ヒドラ氷穴』
林譲治『エウロパの龍』
林譲治『エインガナの声』
林譲治『キャリバンの翼』


今読んでいる本
菅浩江『永遠の森』
★★★

著者:  小泉吉宏
出版社: メディアファクトリー

  自由の森学園の図書館には漫画があります。でも、地元の図書館には基本的に、漫画は置いていません(それが当たり前なんだけど)。それなのに、なぜか時々漫画が見つかることもあります。たとえば『タンタンの冒険』とか、『あさきゆめみし』(源氏物語の漫画化)とか。もしかしたら、図書館司書の中にファンがいるのかも知れません。

  『ブッタとシッタカブッタ 1』も、なぜか地元の図書館に置いてあった漫画の1つです。副題は、「こたえはボクにある」というもの。雰囲気はとても軽いです。いろんなことをちょっとずつ深く考えてみよう、みたいな内容。『プチ哲学』などと似ています。こういうような、「ちょっと哲学してみよう!」っていうような本ってこの頃流行っているのかも知れません。

  終始あわてたり、悩んだりしているシッタカブッタと、それを諭すブッタ。まず第1章は、恋に悩むシッタカブッタが登場。読んでいると、とても面白いです。

  「あるがままの自分を認める」というような思想が底にあるように感じられます。東洋的っていうのかなぁ。よく分からないけど。いったいなんだろう、仏教とはまた違うような気がします。仏教っていうのはようするにあらゆる煩悩を捨てよう、ということだから。そうではなくて・・・・・

  「あるがままが良い」っていうのは道教なのかな。いやー、道教は、それはそれでまた違うんじゃないか、という気がします。東洋の哲学や宗教とかじゃなくて、最近考え出された考え方なのかも知れません。まぁ何に分類されるのか、というのは分からないけど中身はとても分かりやすいです。漫画だから字だらけではなくて、まず読みやすいし。


自森人読書 ブッタとシッタカブッタ 1
『蝉の証』
僕は、老人ホームにいる祖母を見舞いました。相川という老人のところに現れたという若い男のことを調査することになります。収録されているものの中で最も恥ずかしい短編だなぁと感じました。会話も何もかもわざとらしすぎて、少し気持ち悪くないか。

『瑠璃』
僕は、従姉のルコに憧れていました。家族が旅行でいない間、彼女との楽しい日々を過ごし、さらに焦がれるのですが。切ない物語。

『彼の棲む場所』
マスコミで大活躍している良識派の人物の心の中には恐ろしく暗い感情がわだかまっていました、というはなし。かなり怖いです。


今日読んだ作品
本多孝好『蝉の証』
本多孝好『瑠璃』
本多孝好『彼の棲む場所』


今読んでいる本
林譲治『ウロボロスの波動』
林譲治の連作短編集『ウロボロスの波動』を読んでいる最中。
『ウロボロスの波動』

22世紀頃の宇宙を舞台にした近未来ハードSF。
全ての作品は同じ世界を舞台にしていますが、背景の時代は異なります。『ウロボロスの波動』、『小惑星ラプシヌプルクルの謎』はAADD創世記の物語。

『ウロボロスの波動』
降着円盤開発計画を推し進めるAADDは、ブラックホール・カーリーを中心にして半径2025kmの環状構造物<ウロボロス>を開発しました。計画は順調に進んでいました。しかし、ある博士がプログラムをいじったことから事故が発生し、博士が死亡。キャサリンはその事件を解決しようとするのですが、ウロボロスが勝手に動き出し・・・

『小惑星ラプシヌプルクルの謎』
小惑星ラプシヌプルクルの表面にマイクロ波受信アンテナを設置したAADD。しかし、突如として惑星が回転を開始し、アンテナが故障。危機管理部門ガーディアンがその事故を調査することに。


今日読んだ作品
林譲治『ウロボロスの波動』
林譲治『小惑星ラプシヌプルクルの謎』


今読んでいる本
本多孝好『MISSING』
林譲治『ウロボロスの波動』
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