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自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
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『怖るべき子供たち』
病弱な少年ポールは、大人に媚びない暴れ者ダルジュロに憧れていました。ですが、ダルジュロは弱いポールのことを好ましく思っておらず、雪合戦の時、彼に雪を当て気絶させてしまいます。ジェラールは、ポールを彼と彼の姉エリザベートが住む部屋へと連れ帰ります。そこは、子供たちが築き上げた子供だけの空間でした・・・

ジャン・コクトーはフランスの詩人・芸術家。

善悪を見分けられない子供の残酷さを扱った「小説詩」だそうです。そこまで恐ろしいとは感じなかったけど、鮮烈ではあるし、なんというか構成が綺麗です。逃れがたい破局へと向かっていくラストの辺りがとくに良いなぁと感じました。

ポールらの生活をそのまま写し取ったような文章と、大仰で詩的な警句のような文章が並び、融合しているところが面白かったです。

やたらと回りくどい表現がなかなかに良かったのですが、それとは別に日本語としてしっくりこない部分が随分とありました。それは詩的ということで許されるのだろうか。いまいちよく分からないです。

角川書店。東郷青児訳。


今日読んだ本
ジャン・コクトー『怖るべき子供たち』

今読んでいる本
コニー・ウィリス『リメイク』
サキ『サキ短編集』
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クリストファー・プリーストの短編集がやっと読み終わりました。

『リアルタイム・ワールド』
惑星に設置されたコロニーの中で様々なことを研究している学者たち。主人公ダンは、彼らに様々なニュースを伝える役目を背負っています。しかし実はその反応をみることが目的で・・・

『赤道の時』
この短編から、夢幻群島(ドリーム・アーキペラゴ)シリーズになります。『赤道の時』はその舞台となる世界についての説明。不可思議な渦のことが語られます。

『火葬』
叔父の代理として葬式に参加したグライアンは、島の慣習を知らないために怯え、何ごとも起こさないように注意していました。ですが、謎の女性の挑発を受け・・・ スライムという気持ち悪い生物が登場。

『軌跡の石塚』
主人公は、昔からジェスラという地に住んでいました。ですが、子どもの頃伯母らに会うため荒涼としたシーヴルに何度か赴いたことがありました。今回、親族の遺品を整理してほしいと頼まれたため、女性の警察官とともに何年かぶりにシーヴルへいきます。少し神秘的。

『ディスチャージ』
わたしは徴兵から逃れるため夢幻群島へくるのですが、そのとき不意に自分が画家だったことを思い出します。そして触ると画像が溢れてくる絵を描き続けるのですが。少し危なくてやたらとエロいです。


今日読んだ作品
クリストファー・プリースト『リアルタイム・ワールド』
クリストファー・プリースト『赤道の時』
クリストファー・プリースト『火葬』
クリストファー・プリースト『軌跡の石塚』
クリストファー・プリースト『ディスチャージ』


今読んでいる本
ジャン・コクトー『怖るべき子供たち』
『目白雑録(ひびのあれこれ)』は金井美恵子のエッセイ。

どこまでも途切れなく続く文章は、読みづらいけど、味があります。

そして、とにかく金井美恵子の毒舌が素晴らしいです。構成力に欠け、その上変な理屈を振り回す島田雅彦をこきおろし、高尚そうな言葉を発する割には文学がまったく読めていない文芸評論家・福田和也を嗤い、レイシスト石原慎太郎を叩き、バカなアメリカ大統領ブッシュを非難し、稚拙な小説を書く柳美里などほとんど歯牙にもかけず、リベラルな立場に立つことで知られる文芸評論家・加藤典洋のオヤジ臭さとセンスの悪さを指摘し、かの『桃尻娘』を書いた橋本治がまるで村上龍のようなオヤジに変貌したことに首を傾げ、阿呆みたいな素振りを見せる高橋源一郎を観察し、対談相手の本を読んでもいない(読めない?)すが秀実をあげつらうのです。

あとは愛する映画のことが延々と書かれています。

ポンと批判が提出されるので、それほどくどくはないのですが、いちいち鋭いです。切れ味抜群。ここまで書いて良いのか、と心配になるほど。しかし、そういうふうにして世間から離れ、一人で闘う皮肉屋の文学者というのはかっこいい、と感じるし、好きです。


今日読んだ
金井美恵子『目白雑録(ひびのあれこれ)』

今読んでいる本
クリストファー・プリースト『限りなき夏』
『本屋大賞2005』
本屋大賞候補がずらりとのっています。

本屋大賞は、恩田陸の『夜のピクニック』。以下、ベスト10。

 ◎ 恩田陸 『夜のピクニック』◇
 2 荻原浩 『明日の記憶』
 3 梨木香歩 『家守綺譚』◇
 4 絲山秋子  『袋小路の男』◇
 5 伊坂幸太郎 『チルドレン』◇
 6 角田光代 『対岸の彼女』
 7 雫井脩介  『犯人に告ぐ』◇
 8 飯嶋和一  『黄金旅風』◇
 9 三浦しをん  『私が語りはじめた彼は』◇
10 市川拓司 『そのときは彼によろしく』


今日読んだ本
本の雑誌編集部『本屋大賞〈2005〉』

今読んでいる本
クリストファー・プリースト『限りなき夏』
金井美恵子『目白雑録(ひびのあれこれ)』
『ガープの世界 上』
T・S・ガープという男の物語。

看護師ジェニー・フィールズは、欲望というものを理解しない女性でした。彼女は、子供は欲しいけど、夫は欲しくないと感じており、純粋に子どもをつくるためだけにセックスしようと考えていました。ある日、戦場で障害を負い、ガープという単語しか発することの出来ない子どものようなガープ三等曹長と出会います。ジェニーは、チャンスだと思い、彼を看護している最中に勝手にセックスしてしまいます。そしてガープを産みます。その後、ジェニーのもとでガープは成長していき、レスリングに精を出し、セックスに対しても関心を持ち始め、そして小説を書くことにも興味を示し・・・

なんとも奇妙な小説。

様々なエピソードが、平易な文体でテンポよく綴られていきます。あっさりとしています。死や暴力といった世間では重大とされていることも、ばかげたことも同じように綴られていきます。非常に面白いのですが、奇妙な気分に陥ります。変なのです。コミックみたい、というか。クシャッとまるめてしまえそう、というか。

どこまでも流れていく物語は分かりやすくて自然に思えます。しかしそれでいて、どことなくぎこちないし、迷路のようです。うまく説明できないのだけど、どこか唐突というか、積み上がっていかずに、ただ線のように伸びていくだけの物語の造り自体にその要因があるのかもしれません。

真面目な場面でも滑稽な事態が発生し、変な気分にさせられます。それなのにいまいち笑えません。なんというか少し哀しくて苦い気分になるからです。著者はカート・ヴォネガットに師事したことがあるそうですが、いかにもヴォネガットっぽい。

一般的な正常・異常といった概念を無効にするものが秘められている気がします。

まるで、ジェニーは聖女のようです。しかし、彼女から産まれたガープはイエスになれず、平凡な人間となっていきます。彼のこれからが楽しみです。下巻も続けて読もうと思います・・・


今日読んだ本
ジョン・アーヴィング『ガープの世界 上』

今読んでいる本
クリストファー・プリースト『限りなき夏』
『限りなき夏』『青ざめた逍遙』『逃走』
クリストファー・プリーストの短編集を読んでいる最中。

『限りなき夏』
1903年の夏の日。トマスは愛するセイラに告白しようとします。しかし、その瞬間、凍結者によって彼女は「活人画(タブロー)」にされてしまい、凍結。トマスはいつまでもいつまでも、セイラが動き出すのを待ち続けるのですが・・・

『青ざめた逍遙』
幼い少年はフラックス流路を飛び越え、未来に飛び、若い女性にひとめぼれ。その後、少年は何度も未来へ飛び、遠くから彼女を見つめ続け・・・

『逃走』
押し寄せる少年たちに囲まれつつ、車を走らせ続ける上院議員は・・・ 不気味な週末を描いた短編。著者のデビュー作。

タイムトラベルと恋愛、その2つの題材は非常にマッチするものなのかも知れない、と改めて感じました。最高のSF小説として絶賛する人も多い、『夏への扉』にしてもそうだし(僕は『夏への扉』はそれほど好きではないけど)。


今日読んだ作品
クリストファー・プリースト『限りなき夏』
クリストファー・プリースト『青ざめた逍遙』
クリストファー・プリースト『逃走』


今読んでいる本
クリストファー・プリースト『限りなき夏』
ジョン・アーヴィング『ガープの世界 上』
『グッドラック-戦闘妖精・雪風』
人類の組織FAFは、惑星フェアリイで未知の存在ジャムと日夜戦い続けていました。ですが、一進一退の戦況に苦しめられます。特殊戦に属する主人公・深井零は戦術戦闘電子偵察機・雪風に乗り込んで雪風とともに、孤独な戦いを続けます。彼の任務は、味方を見捨ててでも戦闘の情報を得て、それを確実に持ち帰るというものでした。彼は雪風を恋人のように思っていました。ですが、戦いの中で機械に意思があるのかも知れないという思いを強めるようになります。そして、雪風から射出されたことでショックを受け、眠ったまま起きなくなってしまいますが・・・

『戦闘妖精・雪風』の続編。

前作以上に状況は複雑怪奇になってきます。ジャムの正体がじょじょに明らかになってくるのですが、寄り合い所帯に過ぎないFAFというものの脆さになってきます。そして、特殊戦は試されるようになります。

そして、零とブッカーの厚い友情関係は続きます。

こなれていない日本語が少し微妙かなぁ・・・


今日読んだ本
神林長平『グッドラック-戦闘妖精・雪風』

今読んでいる本
クリストファー・プリースト『限りなき夏』
ジョン・アーヴィング『ガープの世界 上』
『キリンヤガ』
アフリカのキリンヤガ周辺に住んでいた少数部族キクユ族は西洋文化が侵入してきたためケニヤという国家に呑みこまれていき、滅びかけます。伝統を大切にする人たちは古来の生活を営むため、政府の政策の一環としてキリンヤガという惑星に移住します。惑星を仕切るのはイェールとケンブリッジを出た祈祷師・コリバ。彼は、キリンヤガを守るために奮闘するのですが、矛盾は拡大していき・・・

寓話的なSF小説。

連作短編集的。『プロローグ もうしぶんのない朝を、ジャッカルとともに』『1 キリンヤガ』『2 空にふれた少女』『3 ブワナ』『4 マナモウキ』『5 ドライ・リバーの歌』『6 ローストと槍』『7 ささやかな知識』『8 古き神々の死すとき』『エピローグ ノドの地』収録。

コリバは白人の中で育ちながら、その社会の矛盾に苦しめられ、自分がキクユ族ではなく黒いヨーロッパ人になっていくことに納得できず、西洋文化に背を向け、家族さえ捨てます。そして、キリンヤガにキクユ族のユートピアを復活させようとします。彼は本当に一貫しています。伝統を頑固に守り、老いた者や逆子はジャッカルに食わせてしまうのです。

ですが、最終的にキリンヤガは破綻します。そもそもキリンヤガという惑星を西洋人と科学によって用意してもらったこと自体が矛盾ともいえるし、西洋文化を身につけ、それでもってキクユ人の世界キリンヤガに大きな影響力を及ぼすコリバ自身が矛盾した存在ともいえます。

ですが、彼の気持ちはよく分かります。西洋文化と科学がもたらした害悪は決して小さなものではありません。

ラストはあまりにも哀しすぎます。


今日読んだ本
マイク・レズニック『キリンヤガ』

今読んでいる本
神林長平『グッドラック-戦闘妖精・雪風』
クリストファー・プリースト『限りなき夏』
『オイディプス王』
オイディプスがテーバイの王となった途端にテーバイは不作や厄病に襲われます。彼は、先王ラーイオスを殺した犯人を罰すれば災いは去る、という神託を受け、犯人を捜そうとします。ですが、自分こそが真犯人であることを発覚。さらに実母イオカステと交わって子を儲けていたことを自覚し、悲嘆に暮れ・・・

ギリシア悲劇の代表格。

基本的に明快。様々な登場人物が立ちかわり登場しますが、それほど多くもないし、物語自体も短いので読みやすいです。

運命に翻弄され、全てが神託の通りにすすみ、父を殺し、母を犯すことになるオイディプスの物語。後世の学者・文学に多大な影響を与えたそうです。たとえばフロイトは、オイディプスこそ人間の根本的な願望を果たした人間なのではないか、と推測したそうです(そこからエディプス・コンプレックスという言葉が生まれた)。なんとも嘘くさい気がします。フロイトは性的願望で多くのことを説明していくし・・・

岩波書店(藤沢令夫訳)。


今日読んだ本
ソポクレス『オイディプス王』

今読んでいる本
神林長平『グッドラック-戦闘妖精・雪風』
クリストファー・プリースト『限りなき夏』
マイク・レズニック『キリンヤガ』
『秘密』『異端者の悲しみ』『二人の稚児』『母を恋うる記』

『秘密』
女装を楽しんでいた私はあるとき、以前捨てた女と邂逅し・・・

『異端者の悲しみ』
自伝的作品だそうです。主人公である章三郎は、不真面目な男です。彼は、落魄して気力を失いつつある両親と病弱で今にも死にそうな妹に苛立ち、友から金を借りつつ返しもせず、それらを後悔しつつ決してやめません。そして、自分の持つ天才的な芸術の才能が発揮できないことを悲しむのですが・・・

『二人の稚児』
女人禁制の比叡の山に預けられた二人の稚児、千手丸と瑠璃光丸。彼らは仲良しだったのですがあるとき千手丸が「女人」を見るため下界に行きたいと言い出し・・・

『母を恋うる記』
子どもの私は、夢の中にでもいるのか美しい景色の中をずっと彷徨っています・・・ 少し冗長ではないかとも感じるのですが。非常に印象的でした。


今日読んだ作品
谷崎潤一郎『秘密』
谷崎潤一郎『異端者の悲しみ』
谷崎潤一郎『二人の稚児』
谷崎潤一郎『母を恋うる記』


今読んでいる本
神林長平『グッドラック-戦闘妖精・雪風』
クリストファー・プリースト『限りなき夏』
マイク・レズニック『キリンヤガ』
『鬼の跫音』
『鬼の跫音』は、道尾秀介の短編集。『鈴虫』『犭(ケモノ)』『よいぎつね』『箱詰めの文字』『冬の鬼』『悪意の顔』収録。

『鈴虫』
警察官が私のものに現れたため、私は11年前に起こったS殺人事件のことを思い出します。あのときのことを知っているのは鈴虫だけのはずなのに・・・

『犭(ケモノ)』
出来の良い家族の仲で、僕だけが穀潰しなので蔑まれていました。僕はある日、椅子の脚を折ってしまい、中からSのメッセージを発見します。

『よいぎつね』
私は二十余年ぶりに街へ戻ってきます。しかしかつて肝試しとして女を陵辱したことを思い出し、恐怖に震え・・・

『箱詰めの文字』
小説家である私のもとに青年が現れます。彼は、「あなたの部屋から盗んだ招き猫の貯金箱を返しに来ました」と告げるのですが、しかし私には心当たりがなくて・・・

『冬の鬼』
鬼の跫音が聞こえてくる・・・ 日記を振り返っていくと恐るべき事実が明らかになります。

『悪意の顔』
陰湿ないじめを繰り返すSに私は辟易させられるのですが。

ホラーのようなミステリのような作品ばかりが収められています。非常にどす黒く、基本的に薄暗いです。少し江戸川乱歩を連想するし、あとは黒い水脈系統の影響も感じます。

あまり好きではないし、質的にもそこまで良いとは思えなかったけど、仰天させられるものもありました。『冬の鬼』のオチは怖かったです。

Sという人物がどの短編にも登場しますが、同じ人物ではありません。


今日読んだ本
道尾秀介『鬼の跫音』

今読んでいる本
谷崎潤一郎『刺青・秘密』
神林長平『グッドラック-戦闘妖精・雪風』
クリストファー・プリースト『限りなき夏』
マイク・レズニック『キリンヤガ』
『伝奇集』
『伝奇集』は、『八岐の園』と『工匠集』が合わさった短編集。

『八岐の園』には『トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス』『アル・ムターシムを求めて』『『ドン・キホーテ』の著者、ピエール・メナール』『円鐶の廃墟』『バビロンのくじ』『ハーバート・クエインの作品の検討』『バベルの図書館』『八岐の園』が収録。『工匠集』には『記憶の人フネス』『刀の形』『裏切り者と英雄のテーマ』『死とコンパス』『隠れた奇跡』『ユダについての三つの解釈』『結末』『フェニックス宗』『南部』が収録。

ホルヘ・ルイス・ボルヘスはアルゼンチンの小説家。

説明しがたい短編がずらりと並んでいます。それぞれの短編の中に広大な迷宮/世界が存在しています。難解だけど、物語自体は短いのでけこっうあっさりと読みきることが出来ます。

ボルヘスは、観念的なことを乾いた文章で淡々と綴っていくので、普通の小説とは少し読み応えが違います。描写から想像していくことができない、というか、掴みどころがない、というか、本当に文章を読んでいると感じるのです。

本当に説明しづらいのだけど。物語を要約した結果、浮かび上がってくる構造・全体像について論じられているのだけど、それが一般的な感覚では把握できず、その構造自体も言語に寄りかかったものだから浮遊的で実体がない、というような感じ。実態のないものに関する構造を綴っている、というか。この言葉自体の不可解さを明らかにする、奇妙な味は本当に楽しいし、素晴らしいです。

たとえば、『バベルの図書館』は、どこまでも構造的に広がっていて果てのない図書館についての物語。そこにはあらゆる本が収められており、しかし同じ本は2つとないようなのですが・・・

小説っぽくないのに、小説でしか出来ないことをなしとげた小説、なのかなぁ。『伝奇集』を論ずることは一生かかっても不可能なのではないか、と感じます。


今日読んだ本
ホルヘ・ルイス・ボルヘス『伝奇集』

今読んでいる本
道尾秀介『鬼の跫音』
谷崎潤一郎『刺青・秘密』
『血と暴力の国』
ヴェトナム帰還兵のモスは、メキシコ国境近くで、蜂の巣状態にされた車と殺された人間を見つけます。どうやら麻薬密売人どうしの銃撃戦があったらしいのです。そこには大金が残されていました。モスは金を持って逃げ出しますが、息のあった男に水をあげようとして殺人者シュガーに目をつけられてしまいます。シュガーが現れた場所には血が撒き散らされ、何十人もの人が死にます。老保安官ベルはそれを止めようとするのですが・・・

強烈なノワール/暗黒小説。括弧(「」)がなく、地の文と台詞が混じっているので、少し読みづらいのですが、味があります。

読んでいると暗い気持ちになります。ここまで不気味で、救いのない物語も珍しいのではないか。ヴェトナム戦争が背景にあるらしいとは感じられるのですが、誰もそれによってもたらされたひずみ/惨禍から逃れられません。

血に塗れた国家アメリカの現実を描き出した作品なのではないか、と僕は感じました。

神を信じず、自分の論理にだけ従って幾らでも人を殺していく不気味な殺し屋シュガーが物凄く印象的です。それと対照的なのは老保安官ベル。彼は古きよき時代を想い、つらつらと悩み続けます。しかしどれだけ考え、悩み、苦しみ、動いたとしても彼にはどうしようもありません。

なぜならば、多分、シュガーという存在自体がアメリカ社会に根ざしたものだからです。シュガーは銃を振り回し、血を撒き散らし、人を殺し続け、決して倒れません。あまりにも非人間的。まるで戦争に適応した怪物としか思えません。

人間性とは何なのか、良い社会とは何か考えさせられます。


今日読んだ本
コーマック・マッカーシー『血と暴力の国』

今読んでいる本
道尾秀介『鬼の跫音』
谷崎潤一郎『刺青・秘密』
『刺青・秘密』は、谷崎潤一郎の初期の作品を収めた短編集。

『刺青』
刺青師は、思い焦がれていた無垢な少女を麻酔で眠らせ、彼女の肌に女郎蜘蛛を彫りこんでいきます・・・ 美を崇める人たちの物語。10ページしかないのですが、非常に強烈でした。谷崎潤一郎のデビュー作。

『少年』
学校では弱気な少年・信一が、家では暴君として君臨していました。彼の友達である主人公は、信一らと一緒に遊びながら信一の姉・光子を苛めるのですが・・・

『幇間』
桜井は人を笑わせ、楽しませるためならばなんでもする男。彼は人から見くびられてもなんとも思いません。

文章は端正なのに中身は変態的。マゾヒズムに浸る人たちが登場します。


今日読んだ本
谷崎潤一郎『刺青』
谷崎潤一郎『少年』
谷崎潤一郎『幇間』


今読んでいる本
道尾秀介『鬼の跫音』
谷崎潤一郎『刺青・秘密』
『永遠を背負う男』
アトラスはティタン族に属する神の一員でした。ですが、ゼウスと戦って敗れ、いつまでも世界を背負うこととなります。彼は、黄金の林檎を持ち帰るために現れたヘラクレスに頼まれ、林檎をとりにいきます。そしてその間、ヘラクレスに世界を任せます。彼は林檎をもぎつつ様々なことを思うのですが、やはりもとの場所へと戻り・・・ 神話と自伝的な物語が入り混じった小説。

『永遠を背負う男』は、「新・世界の神話シリーズ(THE MYTHS)」の中の1冊。

ギリシア神話を焼きなおしたもの。かと思いきや、実はそうとばかりもいえず、作者自身の物語も同時に綴られます。そして、じょじょに世界は膨らんでいきます。宇宙犬ライカまで登場。非常にかわいらしいです。

そうしてライカとも出会い、自分の重みに疑問を覚えたアトラスは・・・ 最後の場面で、アトラスの決断とジャネット・ウィンターソンの決断が重なります。

妙に凝り固まったように感じられる訳が残念。ビシリビシリとして痺れるのですが、読みづらいです。だけど、むしろつっかかるくらいでちょうど良いのかも知れません。シリアスな内容とはマッチしています。


今日読んだ本
ジャネット・ウィンターソン『永遠を背負う男』

今読んでいる本
道尾秀介『鬼の跫音』
谷崎潤一郎『刺青・秘密』
『妊娠小説』
誰も言及しないけれど実は「妊娠小説」というジャンルがはっきりと存在している、と著者は主張します。望んでいないのに子どもを授かってしまうことを妊娠と呼びますが(嬉しい場合は懐妊・おめでた)、妊娠を扱った小説は非常に多く、その先祖を探すべく時代を遡っていけば明治にまでいきつくのだそうです。妊娠小説の父は森鴎外の『舞姫』、そして、妊娠小説の母は島崎藤村の『新生』。その系譜は途切れることなく現在にまでいきつくのです・・・

『妊娠小説』は文芸評論家・斎藤美奈子が始めて出版した本。

非常に分かりやすく、それでいて面白いです。こういう切り口があったのか、と感心させられました。

妊娠小説は、ほとんどの場合、なぜか必ず「生む」ことを望む女が、「生まない」ことを望む男の意思に押さえつけられる物語として捉えることができるのだそうです。結局、男性の優位が保たれているところを見ると保守的ともいえるわけです。

そしてきっちりとした型が見られるのだそうです。男が妊娠を告げられたときの反応も、女が妊娠に気付くときの反応もワンパターン。登場人物たちはぐだぐだ言い訳して、絶対に避妊しないし、その言い訳は妊娠した後に書かれている・・・ 面白すぎて笑ってしまいました。そんな共通性がみられるのか・・・

「妊娠」はけっこう大事だから多くの作家たちが、都合よく利用するのだという主張には納得しました。

石原慎太郎の『太陽の季節』も、倉橋由美子『パルタイ』も、村上春樹のデビュー作『風の歌を聴け』も、村上龍『テニスボーイの憂鬱』も妊娠小説。かすり気味だけど、大江健三郎『死者の奢り』なんかもやっぱり妊娠小説。そして、三島由紀夫の小説はたいてい妊娠小説と聞いて驚きました・・・


今日読んだ本
斎藤美奈子『妊娠小説』

今読んでいる本
道尾秀介『鬼の跫音』
ジャネット・ウィンターソン『永遠を背負う男』
『さようなら、ギャングたち』
詩人の「わたし」は女性と出会い、愛し合います。そして、彼女には「中島みゆきソングブック(S・B(ソング・ブック))」という名前をあげ、彼女からは「さようなら、ギャングたち」という名前を貰います。そんな、わたしと「S・B」と猫である「ヘンリー4世」の日々を描いた作品。詩とは何か、言葉とは何かといった問いや、分からないものとの出会いなどが、ポップな文体で綴られていきます。

高橋源一郎のデビュー作。第4回群像新人長篇小説賞優秀賞受賞作。

ポストモダン文学の最右翼とも言うべき作品。ページには空白が多くてスカスカしているのだけど、それでいて深い物を含蓄しているように見えます。文章が進むごとに、物語が更新されつつもバラバラになっていくので訳が分からなくなりますが、とにかく面白いです。

役所から送られている通知で娘が死ぬことを知った上で、彼女との1日を過ごす場面が一番心に残りました。なんというか本当に不条理で、哀切に満ちています。

著者自身の半生をまとめたものとして読むことも可能らしいです。ある意味では私小説なのか。

小説の可能性を感じさせてくれます。小説は、ぐにゃっとしたよくわからないものを取り込むことができるし、様々な読み方を促す不可解さをもちあわせていても良いのだということを教えてくれます。言葉っていうのは本当になんなんだろうか。



今日読んだ本
高橋源一郎『さようなら、ギャングたち』

今読んでいる本
道尾秀介『鬼の跫音』
斎藤美奈子『妊娠小説』
『本屋大賞〈2004〉』
世の中には本がたくさんあるんだなぁ、と実感できます。なのに読む暇は全然ない。

う~ん、読みたい本がまた増えてしまいました・・・
『SFが読みたい!〈2002年版〉』



今日読んだ本
本の雑誌編集部『本屋大賞〈2004〉』
SFマガジン編集部『SFが読みたい!〈2002年版〉』


今読んでいる本
コーマック・マッカーシー『血と暴力の国』
『時間衝突』
物語の舞台は近未来の地球。人類亜種を駆逐して異種戦争に勝利した白人たち(真人)の国家タイタンが、世界を支配していました。考古学者ヘシュケは、三百年前に撮られた一枚の写真を見て驚きます。そこには現在の姿よりもはるかに古びた遺跡が写っていたからです。ようするにその遺跡は日に日に新しくなっているわけです。いったいどういうことなのか。その後、彼は偶然に発見した時間旅行機に乗って未来へいくことになるのですが・・・

時間を扱ったSF小説。タイトル通り、時間の衝突が描かれています。

途中で、突如として時間を自在に操作する中国人たちの宇宙都市〈レトルト・シティ〉に、はなしが移ります。その都市では生産区域と娯楽区域が分断され、行き来できないようになっています。なんというか、奇妙な仕組みです。登場する中国人たちも面白いです。いつでも冷静で、茫洋としていて決して感情に流されないのです。

人種差別の問題も巧みに取り込まれていますが、基本的にリアリズムとは無縁と言ってもよく、とにかく奇想天外な驚きが追求されています。よくこのようなことを考え付くものだ、と感心しました。

日本版序文はブルース・スターリング。訳者は大森望。愛に満ちた訳者あとがきがまた良いです。

星雲賞受賞作。


今日読んだ本
バリントン・J・ベイリー『時間衝突』

今読んでいる本
コーマック・マッカーシー『血と暴力の国』
『ハイブリッドチャイルド』
『ハイブリッドチャイルド』は、大原まり子の中短編集。

『ハイブリッド・チャイルド』
サンプルBⅢ号は、人類が強大な機械帝国アディアプトロンに対抗するため作り出した戦闘用生体メカニック。肉と機械によって構成され、そして原動力は核融合炉であり、不死を誇るため雑種(ハイブリッド)と呼ばれます。彼は人間の命令に絶対に従うはずだったのになぜか意思を持ち、脱走します。そして、人里離れた一軒家で、著名な女性作家とその娘ヨナに出会います。作家はほとんど発狂寸前、娘は虐待され続けて死んでしまったのに意外な形で蘇っていて・・・

『告別のあいさつ』
ヨナ(サンプルBⅢ号)は、孤独を好んで険しい山に住処を決めた老人のもとで過ごします。ですが、老人のもとを訪れた人に気付かれ、ヨナは背中から翼をはやし、飛び立ちます。

『アクアプラネット』
ママであるドラゴン・コスモスに庇護されつつ宇宙を漂っていたヨナは、白い棺の中に閉じ込められたシバという少年に出会います。2人は惹かれあい、惑星カリタスに降り立つのですが、その星を支配している人工知能ミラグロスがアディプロトンの攻撃を受け、「学習障害」を起こし、発狂。それを復元するために動き回っていたら、2人は離れ離れになってしまい・・・

子と母の物語。

ヨナ(サンプルBⅢ号)の他に、もう一人主人公がいます。八百年の記憶を持ったまま老人の姿でこの世に生まれ落ちた神官です。彼は国の頂点にあって人類の全てを把握し、指揮します(サンプルBⅢ号をつくったのも彼)。ですが、年を経るごとに若返っていき、全ての記憶を失っていきます。そして迷いの中に陥っていきます。

予想ができず、ザクッと刈り込まれているのにぴったりくる文章。くらくらするほどぶっ飛んでいて、どこまでも広がっていくイメージ。壮大で寓話的・神話的な物語。いかにも大原まり子らしい作品。


今日読んだ本
大原まり子『ハイブリッド・チャイルド』
大原まり子『告別のあいさつ』
大原まり子『アクアプラネット』


今読んでいる本
コーマック・マッカーシー『血と暴力の国』
バリントン・J・ベイリー『時間衝突』
『戦国自衛隊』
米軍と自衛隊は日本海側全土にまたがる大演習を行っていました。その最中、伊庭三尉らの一団は突如として戦国時代にタイムスリップしてしまいます。彼らは、戦国時代で生きていく覚悟を決め、長尾景虎(上杉謙信)の臣下として活躍。哨戒艇、装甲車、ヘリコプターなどの近代兵器を用いて他の大名たちを蹴散らしていきますが・・・

中篇。

気軽に読めるのですが、「自衛隊とは何か」「天皇とは何か」「歴史には修正機能があるのか」といった様々なことを考えさせてくれます。意外に深いです。

最後になって伊庭三尉が、歴史を変えようとしていたのに、結局のところ自分たちの行動が歴史を修正していたのだと気付くところではどきりとさせられました。少し遅すぎる気もしないではないのですが。


今日読んだ本
半村良『戦国自衛隊』

今読んでいる本
コーマック・マッカーシー『血と暴力の国』
大原まり子『ハイブリッドチャイルド』
『百年の孤独』
まだマコンドが小さな街だった頃、ふらりと現れたジプシーの賢人・メルキアデスと仲良くなったホセ・アルカディオ・ブエンディアは、優れた指導者ではなく錬金術などに入れ込む変人になってしまいます。ジプシーたちは強力な磁石や望遠鏡や空飛ぶ絨毯を次々と持ち込みますが、ホセ・アルカディオ・ブエンディアの妻ウルスラはそれらには目もくれず、アルカディオ、アウレリャノ、アマランタ、拾い子レベーカといった子どもたちを育て上げました。アルカディオはピラル・テルネラに夢中になりますが子どもができたと知ると失踪。一方、アウレリャノは自由党に属して大佐となり、何十度となく政府に叛乱を起こす非道な男となります。アマランタ、レベーカはピエトロ・クレスピをめぐって反目しあいますが・・・

マコンドという地に根付き、100年にわたって繁栄し、近代化の狂奔の中で腐敗し、消え去っていくブエンディア一族の物語。

ほとんど要約不可能。なんでも起こる蜃気楼の街マコンド。空飛ぶ絨毯まで持ってくるジプシーたち。チョコを飲んで浮遊する神父。内向的で、未来を予測する少年アウレリャノ。盲目になっても匂いで全てを把握する気丈な母親ウルスラなどなど変人奇人が溢れています。

最初のうちは神話的なのですが、じょじょに生々しくなっていきます。少年の頃は内向的だったアウレリャノが自由党側に属し、政府軍に対して何十度も叛乱を起こすようになります。次々と様々な人が去っていきます。そして、バナナ会社が街に侵入してきます。マジックリアリズムの手法でもってラテンアメリカそのものを表現したといわれる理由が分かってきます。

それにしても物凄い、というしかないです。最後の辺りには著者自身が少しだけ登場。


今日読んだ本
G.ガルシア=マルケス『百年の孤独』

今読んでいる本
コーマック・マッカーシー『血と暴力の国』
半村良『戦国自衛隊』
『人類は衰退しました③』
人類が衰退して数世紀がたちました。人類最後の学校を卒業し、調停官となった旧人類の少女は、新人類「妖精さん」たちと仲良くなります。妖精さんたちはお菓子が大好きな小人さん。わらわらと集まるととんでもないことをしでかすのですが、すぐに散らばってしまいます。今回、私は助手さんとともにヒト・モニュメント計画(過去の人類の全てをまとめる壮大な計画)に参加。その影響で「夏の電気まつり」が開催されることとなり、辺りはお祭り騒ぎになりますが、電磁波のために妖精さんたちは去り・・・

今回は長篇。

なかなかに面白いのですが、さすがに長いのでだれる部分があります。もう少しコンパクトにならないものか、と感じてしまいました。

ギャグやパロディが次々と飛び出すけれど、凝った展開ではありません。基本的にはダンジョン形式みたいな感じ。ただし、最後の怪獣乱闘の部分には笑いました。


今日読んだ本
田中ロミオ『人類は衰退しました③』

今読んでいる本
G.ガルシア=マルケス『百年の孤独』
コーマック・マッカーシー『血と暴力の国』
アマゾンの人たちの写真と岡本太郎の言葉が並べられています。なんというか迫力がありました。

しかし、岡本太郎の言葉は意味が分からないです。でも写真を見ているだけで楽しいので別に構わないのですが。


今日読んだ本
『アマゾンの侍たち×岡本太郎』

今読んでいる本
G.ガルシア=マルケス『百年の孤独』
田中ロミオ『人類は衰退しました③』
『華氏451度』
物語の舞台は、焚書が行われ、日常的に戦争が行われている近未来の世界。多くの人はテレビやラジオなどの感覚的なメディアに入り浸り、何も考えずに日々を過ごしています。そして禁止された本などには見向きもしませんでした。主人公ガイ・モンターグは、ファイアマンとして本を燃やすことを仕事としています。ですが、クラリスという感受性豊かな人と出会い、自分の仕事の意味を疑い始めます。そして、それを裏切りととられ・・・

SF小説。

華氏451度というのは紙が自然発火する温度。

『華氏451度』の中でレイ・ブラッドベリは本というものの素晴らしさと必要性を謳いあげています。文化を継承する道具として本というものは大切だよなぁ、と感じます。

感覚的なメディアが世界を均一化し、全ての人間の思考・思想を一色に染め上げていくことは容易に予想できますが、それに対してどのように向き合えば良いのか考えることは非常に難しいです。自分もまたテレビやラジオに入り浸っている人間の一人でもあるからです。インターネットが生まれたために状況はさらに複雑になっています。本当にどうすれば良いのだろう・・・

レイ・ブラッドベリの小説は基本的にファンタジックです。詩的で感傷的で、読みづらいのだけど、読めば読むほど引き込まれていきます。バックにはいつでも暗闇があり、それでいて色彩豊か。もう本当に良いです。


今日読んだ本
レイ・ブラッドベリ『華氏451度』

今読んでいる本
G.ガルシア=マルケス『百年の孤独』
ウェブサイトhttp://jimoren.my.coocan.jp/
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