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自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
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『詩のこころを読む』
詩人である著者・茨木のり子が心に残った様々な現代詩を紹介してくれます。詩と言うと、なんだか難解なもののような気がするし、まぁ本来難しいものなのだろうとは思うのですが、『詩のこころを読む』で紹介されているのは、平易な文体で綴られた詩ばかり。なので、意味が汲み取れるし、詩の訴えに共感することができます。

名著。

何度読んでも面白いです。暇なときにぱっと開くのが好い気がします。


読んだ本
茨木のり子『詩のこころを読む』(再読)

読んでいる最中
カズオ・イシグロ『日の名残り』
トレヴェニアン『夢果つる街』
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『沈まぬ太陽〈1〉 アフリカ篇(上)』
恩地元は国民航空の職員としてアフリカナイロビに一人滞在しています。彼は狩りや登山などに打ち込みつつ、僻地ナイロビに左遷されるまでの経緯を思い出します。かつて、彼は国航労働組合の委員長職を無理やり押し付けられました。彼は、その仕事を踏み台にして出世する人間にはならず、経営陣の言いなりになっていた労組を民主化。そして、劣悪な職場環境を改善するため、労働者の熱烈な支持を受けつつ経営陣に真正面から挑みかかり、航空会社として初めてのストを打つのですが経営者からはとにかく煙たがられ・・・

事実を基にした小説だそうです。

主人公・恩地は事故が起きることを阻止するため、一途に職場環境を改善しようとしただけなのにそれだけでアカと言われます。そして、衛生環境の悪い僻地に飛ばされ、その上いつになっても日本に帰してももらえません。あまりにも悲惨です。ですが、彼はだからといって卑屈になることはありません。立派です。

経営者の論理ばかりが尊重され、弱者の側に立って権利を要求すれば何年にも渡って僻地に放逐されることになる企業というのはどう考えてもおかしいと感じられます。

しかし、今でもそういう状況はさほど変わっていないかも知れません。今でも日本では、権利を主張することがなぜか自分勝手なことというふうに言われ、思われているようです。不可解です。

おかしな現実をすっぱりと描き出す著者・山崎豊子も立派な人だと感じます。



読んだ本
山崎豊子『沈まぬ太陽〈1〉 アフリカ篇(上)』

読んでいる最中
カズオ・イシグロ『日の名残り』
『このミステリーがすごい! 2010年版』
■2010年版
 1 東野圭吾 『新参者』
 2 柳広司 『ダブル・ジョーカー』
 3 綾辻行人 『Another』
 4 米澤穂信 『追想五断章』
 5 矢作俊彦/司城志朗 『犬なら普通のこと』
 6 飴村行 『粘膜蜥蜴』
 7 篠田節子 『仮想儀礼』
 8 佐々木譲 『暴雪圏』
 9 道尾秀介 『龍神の雨』
10 米澤穂信 『秋期限定栗きんとん事件』
11 北村薫 『鷺と雪』
12 高城高 『函館水上警察』
13 東山彰良 『ジョニー・ザ・ラビット』
14 今野敏 『同期』
15 道尾秀介  『鬼の跫音』
16 平山夢明 『ダイナー』
17 米澤穂信  『儚い羊たちの祝宴』
18 歌野晶午 『密室殺人ゲーム2.0』
19 奥田英朗 『無理』
20 詠坂雄二 『電氣人閒の虞』

堺雅人さんの巻頭インタビューと、いろんな人が好き勝手なことを行っているこのミス座談会が面白いです。それ以外はそれほど見るものがない気が・・・


読んだ本
宝島社『このミステリーがすごい! 2010年版』

読んでいる最中
カズオ・イシグロ『日の名残り』
山崎豊子『沈まぬ太陽〈1〉 アフリカ篇(上)』
『ニューロマンサー』
主人公はカウボーイ(ハッカー)のケイス。彼は千葉市(チバシティ)にてリンダ・リーという女性と出会い、付き合うようになりますが、リンダはケイスとともにドラッグや酒に溺れていきます。一方、ケイスは依頼主を裏切ってしまい、脳神経を焼かれ、ジャックイン(電脳世界への接続)できなくなってしまいます。彼は能力を取り戻そうとするのですが、全身に武装インプラントを施したモリィという女性と出会い・・・

SF小説。

1984年に発表されたウィリアム・ギブスンのデビュー作。サイバーパンクの最高傑作とたたえられているそうです。それも納得。

鮮烈なのです。

ドラッグや酒、セックスに満ちている退廃的で美しくない未来が描かれています。そして、「マトリックス」と呼ばれる電脳空間(サイバースペース)が登場。ヴァーチャル・リアリティ(仮想現実)が登場したことによって現実と架空の狭間が曖昧になっていく様子が生々しく描かれています。とにかく、イカれていてどこまでも異様なところが面白い。

そして文体も素晴らしいです。様々なものが積み込まれ、ミックスされていて読みづらいのですが、一文一文が妙に装飾的でギラギラしていて疾走していて、それでいて詩のようです。各章のタイトルから「第一部 千葉市憂愁(チバ・シティ・ブルーズ)/第二部 買物遠征(ショッピング・エクスペディション)/第三部 真夜中(ミッドナイト)のジュール・ヴェルヌ通り/第4部 迷光仕掛け(ストレイライト・ラン)/結尾(コーダ) 出発(デパーチャ)と到着(アライヴァル)」という感じ。黒丸尚の訳がいいのか。

『ニューロマンサー』は、『マトリックス』や『攻殻機動隊』など、様々な小説・映画に多大な影響を与えています。それだけでなく、現実にも影響を与えたと思われます。一部の研究者やSF好き、オタクたちのものだったサイバースペースやネットが、その後クールなものとしてもてはやされるようになっていくのです。それだけ『ニューロマンサー』の描き出した、どこか壊れているのに先進的ともいえる未来像が衝撃的だったということではないか。

『ニューロマンサー』とは、ニューロン(神経)とニュー・ロマンサー(新浪漫主義者)とをかけた言葉だそうです。ここにも言葉遊びが・・・

84年のヒューゴー賞、フィリップ・K・ディック賞、85年のローカス賞、ネビュラ賞、雑誌『SFクロニクル』誌読者賞、ディトマー賞受賞作。


読んだ本
ウィリアム・ギブスン『ニューロマンサー』

読んでいる最中
カズオ・イシグロ『日の名残り』
山崎豊子『沈まぬ太陽〈1〉 アフリカ篇(上)』
『よつばと! 9』
相変わらず、よつばがかわいいです。

今回は気球を見にいくことに。

それにしても、ほとんど繰り返しみたいなものなのに、どうしてこんなに面白いのだろうか。ほんとに面白くておかしいです。


読んだ本
あずまきよひこ『よつばと! 9』

読んでいる最中
ウィリアム・ギブスン『ニューロマンサー』
『地球の長い午後』
物語の舞台は未来の地球。膨張しつつある太陽の影響を受け、地球の自転は停止し、昼側の世界では様々な進化をなしとげた凶暴な植物たちが大陸中を埋め尽くすようになります。糸をめぐらし、月に到達した蜘蛛的な植物ツナワタリなども登場。動物はほとんど滅亡寸前であり、人間もかつての知恵を失い、原始的な生活に戻っています。リリヨーに率いられた一団は、次々と仲間を失いつつも、なんとか命をつないでいるのですが・・・

1962年に書かれた、奇想天外なSF小説。

設定がまずぶっ飛んでいます。伝説か神話の世界のようだし、奇想を極めようとしたかのようです。奇怪な進化を遂げた植物が山のように登場します。地球と月を糸で繋いでしまう蜘蛛のような生物ツナワタリ。知恵を貯蓄し、他の生物に取り付く醜悪なキノコ、アミガサダケなどなど。どの生物も印象的。

物語自体も非常に面白いです。原始的な生活の中で、人間はあっさりと殺されていきます。

宇宙の謎が解明される部分には感心しました。ただ少し詰め込みすぎな気がしないでもないです。とはいえ、これだけの分量に様々な要素がぶち込まれているからこそ、物凄いと感じるのかも知れません。

ヒューゴー賞受賞作。


読んだ本
ブライアン・W・オールディス『地球の長い午後』

読んでいる最中
ウィリアム・ギブスン『ニューロマンサー』
『オー・ヘンリー傑作選』
『賢者の贈りもの』『警官と讃美歌』『マモンの神とキューピッド』『献立表の春』『緑のドア』『馭者台から』『忙しい株式仲買人のロマンス』『二十年後』『改心』『古パン』『眠りとの戦い』『ハーグレイヴズの一人二役』『水車のある教会』『赤い酋長の身代金』『千ドル』『桃源境の短期滞在客』『ラッパのひびき』『マディソン・スクェア千一夜物語』『最後の一葉』『伯爵と結婚式の客』収録。

小気味良い短編ばかりです。

さらっとしているけど、時折大仰になる語り口。気の利いた意外なオチ。陽気な雰囲気。どれもなかなかに良いです。全体的に明るくてユーモアに溢れていて、愛を信じていて、とにかく気さく。

とくに、非常に有名な『最後の一葉』なども印象的でしたが、『赤い酋長の身代金』なんかもおかしくて良いです。

『最後の一葉』
画家のジョンジーは肺炎を患います。そして、落ちていく蔦の葉を見つめながら、「最後の一葉が落ちたら死ぬ」といいます。ジョンジーの友達で同じく画家のスーは、そのことを階下に住む老画家のベアマンに語ります。ベアマンはジョンジーの思い込みをばかばかしい、と罵るのですが・・・

『赤い酋長の身代金』
ビルとサムは、お金をまきあげるため、アラバマ州の田舎町の有力者ドーセット氏の息子を誘拐します。ですが、その息子と言うのがインディアンの「赤い酋長」を名乗る腕白な子どもだったため、誘拐犯の2人は振り回され・・・


読んだ本
オー・ヘンリー『オー・ヘンリー傑作選』

読んでいる最中
ブライアン・W・オールディス『地球の長い午後』
『猫に時間の流れる』
『猫に時間の流れる』
ぼくは古ぼけたマンションの3階に住んでいるのですが、両隣の美里さんと西井はそれぞれチイチイとパキという猫を飼っていました。そこにシロクロという猫が乱入してきて毎日マーキングしていくのですが、いつの間にか慣れていき・・・

『キャットナップ』
千駄ヶ谷のアパートに引っ越してから2年。真下の階に住む上村さんから声をかけられ。猫をお風呂に入れることになります。彼女はモデルなので、腕に傷をつけるわけにはいかなかったからです。

猫小説。

しかし、決してほのぼのとしているわけではありません。保坂和志の小説はほわっとしているように見えるけど、いつでも思考しています。日常の中に存在する法則性/仕組みのようなものをえぐりだそうとしているのです。

しかし、脈絡もなく考えているというわけではありません。個々の人間や猫が個々に成り立っているということはなくて、関係や空間の中でそれらは成り立つのだという思想が、大前提としてあるようです。

主人公は、いつでも温かいネットワーク・コミュニティに属しているか、少なくともその外縁部に位置しています。社交的というほど社交的ではないけれど、しっかりと他人と関係をつくることができる人間なのです。そこが妙に印象的。

新潮社。


読んだ本
保坂和志『猫に時間の流れる』
保坂和志『キャットナップ』


読んでいる最中
ブライアン・W・オールディス『地球の長い午後』
オー・ヘンリー『オー・ヘンリー傑作選』
主人公は天才情報工学研究者の島津圭助。彼は非常に頑固な男でした。若くして成功するのですが、古代遺跡の石室に刻まれた“古代文字”を目にした後に崩れる石室の中で気絶。目覚めると、嫉妬に狂う周囲の人間によって自分が石室崩壊の過失の責任を取らされ、出世街道からひきずりおろされたことを知ります。彼は怒るのですが、その後“古代文字”を解読しているとき、その言葉が人間には理解できない論理構造を持っていることがわかり・・・


ソフトなSF小説。山田正紀のデビュー作。

小道具は古臭いし、人物描写は類型的。そして、ハードボイルドチックで少しナルシスティックな主人公には違和感を覚えます。しかし、それでも日本SFの古典といわれるだけのことはあると感じました。なぜ人間が神を理解できないのか、という問いに対して、論理レベルが違うから、という回答をもってくるところがみごと。

それによって、神を「認識できないけど、厳然とあるもの」にしてしまうのです。そして、神との戦いが実現。あまりにも魅力的なテーマなので感動します。じれったい神の描写も、随分とまどろっこしくてなかなかに面白いです。

なんだか石ノ森章太郎を連想しました。それくらいサクッとしていて軽いです。

しかし、ラストの辺りには失望させられました。なんというか、安っぽいサスペンスっぽくなってしまうのです。

第6回星雲賞受賞作。


今日読んだ本
山田正紀『神狩り』

読んでいる最中
ブライアン・W・オールディス『地球の長い午後』
オー・ヘンリー『オー・ヘンリー傑作選』
『モグラ博士のモグラの話』はタイトル通りの中身。
『モグラ博士のモグラの話』

モグラのことがよく分かります。みみずを食べて生きている、日本には大別して3種類のモグラが生息している、とかそういうことは生物の時間にも学んだのですが、土の中でどのような暮らしをしているのか、詳しくはこれまで知らなかったので読んでいて面白かったです。今では日本に住むモグラは三種類ではなくもっと多いと分かっているということを知ることもできてよかったです。

そして、モグラ博士になるための方法もよく分かります。英語だけでなく外国語が必要なのか、大変だ・・・

ですが、モグラがどういうふうにしてこどもを残すのか、分かっていないそうです。案外、重要な部分が分かっていないんだなぁ・・・



読んだ本
川田伸一郎『モグラ博士のモグラの話』

読んでいる最中
ブライアン・W・オールディス『地球の長い午後』
山田正紀『神狩り』
『ロリータ』
ヨーロッパの知識人ハンバート・ハンバートは、幼い頃慕っていた初恋の女性のことが忘れられず、いつでも「ニンフェット(不可解な魅力を放つ少女)」を捜し求めるようになり、そして亡命先のアメリカで12歳の少女のドロレス・ヘイズを見出します。ハンバートは、彼女のことをロリータと呼び、追い求め、彼女の母親と結婚し、ロリータに迫るのですがロリータは実は奔放な少女で・・・

若島正による新訳。

知識人ハンバート・ハンバートが書いた手記ということになっています。だから時折混乱するし、明快とはいえない表現が多いし、どこまでが現実でどこからが妄想(作り話)なのか分かりません。彼は信用できない語り手なのです。その混線した感じが非常に面白いです。

ハンバート・ハンバートは、ロリータを可憐な少女だと繰り返し書きますが、それほど可憐な少女だとは思えません。彼女は汚い言葉を用い、簡単にセックスする生意気な女の子です。

『ロリータ』は、アメリカというものを表現した文学だと指摘する評論家もいるそうです。老いたハンバートはヨーロッパであり、若く野卑なロリータはアメリカというふうに当てはめて考えてみると面白いです。

変態的な小説に見えるが実はそうではなくて芸術的な文学なのだというふうに、やたらと若島正をはじめとする博識な人たちが様々なところで書きまくっているけど、「教養」ある人たちを刺激する言葉遊びと仕掛けに満ちた小説でありながら、ある意味ではポルノ小説としても読めて、それでいて推理小説のようでもあって、難解でポストモダンチックな小説として読むことも可能なところが素晴らしいのかなぁ、と感じました。

もう少したくさん本を読まないと、全てを読み解くことはできないのかも知れない。再読したいです。そうしたらもっと楽しめるだろうか。



読んだ本
ウラジーミル・ナボコフ『ロリータ』

読んでいる最中
ブライアン・W・オールディス『地球の長い午後』
T・S・ガープという男の物語。『ガープの世界 上巻』の続き。


不寛容に対して不寛容を貫くガープの姿勢が悲劇を巻き起こしていきます。悲劇的な展開が多くなり、非常に哀しいです。しかし、それでいていちいち滑稽。ガープは、母親の葬式に女装して出席することになります。

上巻にもまして面白くなってきます。とくに、エピローグが素晴らしく良いです。なんというか、物語を読み終えた、という気分にさせてくれます。


読んだ本
ジョン・アーヴィング『ガープの世界 下巻』

読んでいる最中
ウラジーミル・ナボコフ『ロリータ』
著者が、「打ちのめされるようなすごい」と感じた50の小説が紹介されています。三島由紀夫を熱烈に愛している、ということが、三島由紀夫の文章をやたらと引用したがることや、三島由紀夫の『豊饒の海』に満点をつけていることから分かります。その時点で、少しうんざりなのですが。

紹介されている50の作品はだいたいお決まりの名作ばかり。そして文体も奇妙です。全体的に、妙に大仰なのです。まるで演説のよう。滑稽な印象を受けます。

たとえば、大江健三郎『万延元年のフットボール』を紹介している部分。『万延元年のフットボール』の書き出しを延々と引用した後、「何とグロテスクな、兇々しい、奇怪な書き出しだろう。」とくるのです。なんというか、もう少しどうにかならないのか。ちょっと笑える書き出し、とかそういう素朴な感想はないのだろうか・・・

というか、まずその日本語がどうにかならないのか。


読んだ本
富岡幸一郎『打ちのめされるようなすごい小説』

読んでいる最中
ジョン・アーヴィング『ガープの世界 下巻』
『結晶世界』
フォート・イザベル癩病院に務めているエドワード・サンダーズ博士は、クレア博士夫妻から貰った手紙が検閲されていたことに不審を抱き、夫妻の住むカメルーンを訪れます。彼は奇妙な感覚に囚われます。白と黒がくっきりと分かれていて、妙に世界が薄暗いのです。サンダーズ博士はそこでジャーナリスト・ルイーズ・プレと出会い、親しくなり、彼女とともに行動します。彼らは、結晶化した植物を見つけ、右腕が結晶化した男の死体が流れてくるのを発見します。それはルイーズの知り合いでした。いったい何が起きているのか?

陰影に富んだSF小説。

対照的な白と黒のイメージがふんだんに用いられているため、まるで銅版画のようです。何もかもがくっきりとしています。どろどろした人間関係が渦巻いている上に、じっとりとして薄暗い現実世界に、華麗な結晶世界が少しずつ割り込んでくるわけです。

あまりにも壮烈で、それでいてグロテスクで美しい現象の中にあって人々は決断を迫られます。結晶化すると、その生物は死なずにその状態のまま停止します。ようするに不死性を手に入れられるわけです。現実世界にとどまって死ぬか、それとも結晶世界にとりこまれるか?

とはいえ、全体としては淡々としていて哲学的です。妙にしっとりとしています。宇宙がじょじょに結晶化していくというのに、主人公サンダーズはそれをどうすることもできずにただ受け止めます。そして不倫相手であるスザンヌ・クレアと彼女の面影を感じさせるルイーズ・プレの間を行き来します。

瑕疵がないわけではありません。微妙に差別的な部分もあるのではないか。しかし、引き込まれます。

綺麗にまとまっている美しい物語です。


読んだ本
J・G・バラード『結晶世界』

読んでいる最中
ジョン・アーヴィング『ガープの世界 下巻』
『放浪者の軌道』
突如として思考・思想が感染するようになり、人々はある考え方を持った集合体となっていきます。それを嫌う主人公は、フリーウェイを歩き続けるのですが・・・ 秀逸。「どこにも属さない」ことを目指していたのに、もしかしたら「どこにも属していないグループ」に属していることになっているのかも知れない。

『ミトコンドリア・イヴ』
「全ての人間は、一人の女性の子孫にあたる」ということを科学的に証明し、それだから人種は越えられると呼びかけ、世界に平和をもたらそうとするグループが現れます。主人公は違和感を覚えつつ、恋人に説かれ、彼らに協力するのですが・・・

『無限の暗殺者』
主人公は暗殺者。無限の平行世界を巻き込む渦を巻き起こす犯人を探し出し、殺そうとするのですが・・・ 多分、収録されている中で最も難解。

『イェユーカ』
主人公は医者。ウガンダで奇病・イェユーカを追いかけるのだけど。医療を扱った作品。

『祈りの海』
物語の舞台は惑星コヴナント。そこに移住した人々は海と陸に分かれていきました。そして生殖の方法も大きく変化していました。主人公マーティンはおもりをつけられて海に沈み、恍惚感に浸ります。そして、深淵教会に属するのですが。

硬派。


読んだ作品
グレッグ・イーガン『放浪者の軌道』
グレッグ・イーガン『ミトコンドリア・イヴ』
グレッグ・イーガン『無限の暗殺者』
グレッグ・イーガン『イェユーカ』
グレッグ・イーガン『祈りの海』


読んでいる最中
ジョン・アーヴィング『ガープの世界 下巻』
『きりこについて』
少女きりこと黒猫ラムセス2世の物語。迫力がある容貌のため、きりこは、小さい頃から子供たちを率い、仕切っていました。ですが、ブスであると看做されてから力を失い、美人な女の子たちに敵わなくなります。けれどどうして自分がブスといわれるのか分からず、引きこもるようになるのですが、開けっぴろげな猫たちとの交流の中で、自分を見つめ直していき・・・

単なる「良いはなし」になってしまいそうなのですが、現実的で俗っぽい話が混ざっています(子供たちの中での理不尽な関係とか、男は自分より優れた女を嫌う、とか、セックスばかりしている女性が強姦されると誰も同情しない変な世の中のこと、とか)。設定(猫が喋りだす)も文章も軽いです。そのために面白い小説になっています。

人間の世界と猫の世界が対比されるところが面白いです。雄猫は良い匂いのお尻とセックスしたいだけであり、人間の男もそれと変わらないだろうに社会があるために本音が言えない、とか。けれど、一般論で全てを説明していくので底が浅い感じがします。

決して悪くはないのですが、随分とずるい構成になっていると感じてしまいました。ラストの辺りで、ブスってなんだろう、なぜ人は外見で人を判断するのか、ときりこは考えていきます。そして、「いれものとなかみ両方込みで、その人なんだ」と悟るのですが、ようするに大切なところで反論しようのない正しい結論がでて、おしまいなのです。

ブスと言われている人にとって苦しいのは、容貌に自信が持てず、誰ともコミュニーケションをとることができなくなることなのに、きりこはいつでも人間と変わらない猫と会話しているわけです。ある意味では、まだ全然救いのある浅い苦しみではないか。

そして、ラストの告白はちょっとあまりにも狙いすぎではないか、と感じました。着地が綺麗過ぎて、かえってわざとらしい・・・


読んだ本
西加奈子『きりこについて』

読んでいる最中
グレッグ・イーガン『祈りの海』
『人類は衰退しました④』
人類が衰退して数世紀がたちました。人類最後の学校を卒業し、調停官となった旧人類の少女は、新人類「妖精さん」たちと仲良くなります。妖精さんたちはお菓子が大好きな小人さん。わらわらと集まるととんでもないことをしでかすのですが、すぐに散らばってしまいます。『妖精さんの、ひみつのこうじょう』『妖精さんの、ひょうりゅうせいかつ』収録。

『妖精さんの、ひみつのこうじょう』
クスノキの里は、食糧不足に悩まされていました。それで鶏を数羽絞めることにしたのですが逃がしてしまい、その後なぜか加工済みのチキンが森の中を走り回り・・・

『妖精さんの、ひょうりゅうせいかつ』
クスノキの里に妖精が密集していることが判明。あまりにも集まるのはよくないだろうということで、私は一度里を離れることにしました。

もうマンネリ化しつつある気もするのだけど、なかなかに面白いです。


読んだ本
田中ロミオ『人類は衰退しました④』

読んでいる最中
グレッグ・イーガン『祈りの海』
西加奈子『きりこについて』
『銀河ヒッチハイク・ガイド』
朝起きるとアーサーの自宅の前にブルドーザーが現れました。バイパス建設に邪魔だからアーサーの家を破壊しようとしていたのです。彼は抵抗しますが、なぜか友であるフォードに連れ出され、酒場へ。そして衝撃的なことを告白されます。フォードは、ベテルギウス人(宇宙人)であり、『銀河ヒッチハイク・ガイド』の遊軍記者として地球に来ていたというのです。そして、もうすぐ地球に最後が訪れるとも聞かされます。その言葉通り、地球はヴォゴン人の船団によってバイパスを作るために消滅させられます。アーサーとフォードは宇宙に放り出され、銀河をヒッチハイクするはめになります・・・

バカバカしくて壮大なSF小説。なんというか、全面的に42。

不条理なSF小説を書くことで知られているヴォネガットと似ていますが、こちらの方が哲学的ではなく、もう少しバカっぽいです。意識的に笑わせようとしているのが感じられます。あまり笑えないけど、そのうまく当たらない感じ、しらける感じが物凄く良いです。

奇人変人しか登場しません。とくに愉快なのは、ロボットのマーヴィン。彼は人嫌いで、その上鬱病。とにかく暗くて誰からも嫌われます。あとはいちいち口を挟む機械たちもおかしすぎる・・・

最後には、地球が作られた理由まで明かされてしまいます。そして本当の地球の支配者が登場し・・・


読んだ本
ダグラス・アダムス『銀河ヒッチハイク・ガイド』

読んでいる最中
グレッグ・イーガン『祈りの海』
西加奈子『きりこについて』
田中ロミオ『人類は衰退しました④』


 ◎ リリー・フランキー 『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』
 2 奥田英朗  『サウスバウンド』◇
 3 伊坂幸太郎  『死神の精度』◇
 4 東野圭吾  『容疑者Xの献身』◇
 5 重松清  『その日のまえに』◇
 6 島本理生  『ナラタージュ』◇
 7 町田康  『告白』◇
 8 古川日出男  『ベルカ、吠えないのか?』◇
 9 桂望実  『県庁の星』◇
10 西加奈子 『さくら』
11 伊坂幸太郎  『魔王』◇


今日読んだ本
本の雑誌編集部『本屋大賞2006』

読んでいる最中
グレッグ・イーガン『祈りの海』
ダグラス・アダムス『銀河ヒッチハイク・ガイド』
西加奈子『きりこについて』
田中ロミオ『人類は衰退しました④』
グレッグ・イーガンの短編集『祈りの海』を読んでいる最中。

『百光年ダイアリー』
日記を読めば、未来のことが分かってしまうようになりました。しかし、日記はすでに記されていた通りにしか記すことが出来なくて・・・ 自由意志とはなんであるのか、問う作品。

『誘拐』
妻を無事に帰して欲しければ金を払え、と映話がかかってきます。主人公は慌てて確認すると妻は無事で・・・ そこそこに面白いです。


グレッグ・イーガン『百光年ダイアリー』
グレッグ・イーガン『誘拐』


読んでいる最中
グレッグ・イーガン『祈りの海』
本の雑誌編集部『本屋大賞2006』
ダグラス・アダムス『銀河ヒッチハイク・ガイド』
西加奈子『きりこについて』
田中ロミオ『人類は衰退しました④』
笙野頼子『極楽 笙野頼子・初期作品集1』を読んでいました。
『極楽』『大祭』『皇帝』
『極楽』
主人公は檜皮という男。彼は子供の頃から無邪気ではなく、無自覚で鈍感だったため周囲から忌み嫌われ、家族からも抑圧を受けます。彼は尻のような顔をした女と結婚し、娘を持つのですがほとんど意識もしません。そして自宅に引きこもり、観念的な憎悪を描きたいと願い、様々な地獄絵を参考にし、下絵を描き続けるのですが・・・ 著者のデビュー作。

『大祭』
主人公は、七歳の少年。彼は、五十年に一度巡ってくる街の大祭を待ち焦がれていました。大祭がくれば何かが変わるような気がしていたからです。しかし・・・

『皇帝』
主人公は、私であることを拒否し、皇帝を名乗る男。彼は声に張り合い、ほとんど錯乱しかけながらも皇帝であり続けるため、呪文を唱え、塔を想像しているのですが、過去の記憶が蘇り。小説としては破綻しているような気もするし、だれるけど凄いです。すっきりとはしていないけど、近代的自我や、唯物論や、管理社会や家族のことを、真正面から扱おうとしてるのがよく分かります。初長篇。

ここまで陰鬱で、薄暗くて重たくて読むのが辛い小説と言うのも、最近では珍しいのではないか、と思います。読もうとしても突き放されるのです。『極楽』はまだちょっとしたブラックユーモアが感じられますが、『大祭』の鎮痛でグロテスクな読み応えにはいらいらさせられます。そして『皇帝』はまどろっこしいのに、破壊的。

笙野頼子は、近代社会というものの構造と、それを成り立たせるために存在している醜悪で抑圧的な力のありかのようなものを全力で暴こうとしているようです。けど、まだ道筋がついていないような印象も受けます。とはいえ、非常に挑戦的。

「私」のことを書くためにゆがんだ社会を描いているので、私小説でありながら、ある意味では反私小説ともいえるのではないか。なので、やっぱり笙野頼子という小説家は、文学史的にも重要といえるのではないかなぁ、と僕は感じるのですが。


今日読んだ本
笙野頼子『極楽』
笙野頼子『大祭』
笙野頼子『皇帝』


読んでいる最中
グレッグ・イーガン『祈りの海』
本の雑誌編集部『本屋大賞2006』
『政治のしくみがわかる本』
国会の仕組みなど、随分と知っていることも多かったけど、それを再確認する上でも役立つかなぁ、と感じました。

読んでいて民主主義に則った政治を行うことは本当に難しいのだなぁ、と感じました。自民党は、大規模な公共事業を行って地方と企業に金を流し、それでもって支持を取り付けていたけれど、多くの人が満足するならば民主的ではない政治が支持されるということもありうるわけで、その部分については考えさせられます。

多数決が民主主義というわけではないし、大勢の人が間違った方向へ進んだとき、それをとめることは容易ではない、とも思います。小泉元首相が叫んでいた「構造改革/郵政民営化」という言葉に引き寄せられて多くの人が自民党に票をいれ、結果として格差と貧困は拡大しているのを見るとなおさらそう感じます。

日本にはこれまで一度も民主主義が根付いたことはない、と主張する人もいて、全面的には賛成はできないけれど(これまで日本を民主的な国にするべく多くの人が努力してきたわけで、それらに全く意味がなかったとは思えないし)、なんとなく言いたいことはわかります。民衆が権力者を倒して革命を起こしたこともないわけだし(明治維新が革命だという人もいるけどそうは思えないです。武士である薩長が天皇を掲げて幕府を倒しただけだし、それに「大政奉還」とか「王政復古」とかそういう言葉で年表が埋め尽くされているわけです。武士以外の者が集まって結成した奇兵隊は、後々天皇の軍隊に組み込まれ、それを率いていた高杉晋作は病死してしまうし)。

自己責任という言葉がいつでも持ち出される世の中になってしまったけど、権利を訴えることはやはり大切だと思います。デモも政治参加の一種だという主張には共感します。

「政治的中立」の部分を読んでいて、政治的中立というものはありえないという主張に共感しました。だって、誰もがこれまでの人生、今の自分の位置、目指す先を持っているはずです。それらをいったん忘れて中立の位置に立つ、というのはどういうことなのか、さっぱり分からない。それに問題意識を持ちつつ、神の視点に立ってそれらの問題に関して口出ししないというのは、無理だし。


今日読んだ本
山口二郎『政治のしくみがわかる本』

読んでいる最中
グレッグ・イーガン『祈りの海』
笙野頼子『極楽 笙野頼子・初期作品集1』
『祈りの海』
グレッグ・イーガンの短編集『祈りの海』を読んでいる最中。

『貸し金庫』
眠るたびに様々な人間の体の中を飛び移ってしまう男が主人公。彼は、貸し金庫の中に自分を宿した何千もの人間の記録を書き溜め、その現象について考えようとしていたのですが・・・

『キューティ』
子供が欲しくてたまらない男は、4年で死ぬ赤ん坊に似た生物を買います。そしてキューティと名付けるのですが、あまりにも可愛いので・・・

『ぼくになることを』
<宝石>を頭のなかに埋め込むことが普通になりました。多くの人はそれに自分そのものを記憶させ、ある年齢に達したら、脳を捨てて<宝石>に乗り移り、老衰を免れました。ですが主人公は、<宝石>が自分といえるのか分からず、苦悩しますが・・・

『繭』
ある企業が、胎盤の組織を改変することで胎児を様々な汚染物質から守る繭を開発しようとしていました。ですが、その企業の研究所が爆破されます。ゲイの主人公はその謎を追うのですが・・・

ハードSFというもの本来の面白さが追求されています。


読んだ作品
グレッグ・イーガン『貸し金庫』
グレッグ・イーガン『キューティ』
グレッグ・イーガン『ぼくになることを』
グレッグ・イーガン『繭』


読んでいる最中
グレッグ・イーガン『祈りの海』
山口二郎『政治のしくみがわかる本』
『サキ傑作集』
『アン夫人の沈黙』『狼少年』『二十日鼠』『トバモリー』『刺青奇譚』『スレドニ・ヴァシュター』『イースターの卵』『グロウビー・リングトンの変貌』『開いた窓』『宝船』『蜘蛛の巣』『宵闇』『話上手』『物置小屋』『毛皮』『おせっかいと仕合わせな猫』『クリスピナ・アムバリーの失踪』『セルノグラツの狼』『人形の一生』『ショック療法』『七つのクリーム壷』収録。

傑作集と銘打ってあるだけあって、はずれがないです。

どの短編も、ひねりがきいていて、意外なオチに愕然とさせられます。こうくるな、と予想してもはずれるところが面白いです。『狼少年』や『開いた窓』、『セルノグラツの狼』などがとくに面白かったです

『狼少年』
主人公の青年は狩りの最中に不気味なことを口走る少年と出会います。伯母は身寄りがないらしい少年を引き取り、可愛がるのですが、私は不安でなりません・・・

『開いた窓』
ナトルは神経衰弱のため田舎で療養していたのですが、お節介な姉に紹介状を渡され、サプルトン夫人を訪問します。すると対応に出た夫人の姪ヴェラから、恐ろしい話を聞かされ・・・ ホラーかと思いきや、そういうわけではありません。みごとなオチが素晴らしいです。

皮肉に満ちていて、なんというか醒めきっています。かなり苦いブラックジョークに満ちているのに、それでいて物静かなのです。この味は癖になりそうです。


今日読んだ本
サキ『サキ傑作集』

今読んでいる本
グレッグ・イーガン『祈りの海』
『リメイク』
物語の舞台は、近未来のハリウッド。そこではデジタル技術が発達し、昔の名優たちを使い回したリメイク映画ばかりが山のように作られていました。映画マニアの大学生トムは、あるパーティでアステアに憧れる女子学生アリスと出会い、彼女にひとめぼれ。彼女は今では作られることのないミュージカル映画に出演したいと望んでいたので、それは無理だとトムは忠告するのですが、アリスは去ってしまいます。その後トムは古い映画の中にアリスを見つけ・・・

甘いラヴストーリー。

映画ネタが満載。ハイパーテキスト的。知らない映画も多かったため、あまり入り込めなかったのですが『スター・ウォーズ』の一場面がでてきたときには面白いな、と感じました。

アリスが古い映画の中に出演しているのが発見され、それがタイムトラベルなのかどうなのか問題となります。その問題が鮮やかに解決される部分がみごとです。そして最後にはハッピーエンドが待っています。

ローカス賞受賞。


今日読んだ本
コニー・ウィリス『リメイク』

今読んでいる本
サキ『サキ傑作集』
ウェブサイトhttp://jimoren.my.coocan.jp/
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