おとなしいけれど、実は案外戦略的な篠崎が主人公。彼は、高校入学後、元不良の大和田と一緒にいたとき、野球部とバスケ部の人たちに入部を迫られ、それを断るために園芸部に入部します。いつの間にか2人は意気投合。段ボール箱をかぶらないと外に出られない庄司という少年が偶然通り掛かったので引っ張り込み、彼らは3人で植物を育て始めます・・・
のほほんとした軽い部活小説。
魚住直子の小説はさほど好きではなかったのですが、今回は非常に楽しめました。笑えるのです。段ボールを被った男というと安部公房『箱男』を連想しますが、こちらの場合はそこに深い意味があるというわけではありません。
台詞が状況説明みたいになっていてちょっと自然ではない気もしましたが、物語の運び方は非常に巧くなっています。
今日読んだ本
魚住直子『園芸少年』
今読んでいる本
レイ・ブラッドベリ『華氏451度』
G. ガルシア=マルケス『百年の孤独』
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十八歳の少女アヤは廃業を決意していた彫物師・彫阿弥のところへ赴き、全身に刺青を彫って欲しいと告げます。彼女は、観世音の刺青によって自分にセックスを強要するある男を圧倒したいと願っていたのです。しかし、彫阿弥は拒否します。若い女の体に彫ることは容易ではないし、刺青は糞なのだというふうに彼は考えていたからです。ですがアヤは刺青にさほどの意味はない、と思いつつもそれを欲し・・・
退廃的な雰囲気が漂っています。
アヤは、刺青を彫ることで自分を追い詰め、生きる力を捻り出そうとします。妙に神々しい感じがします。
彫阿弥は刺青とは何であるのか分からずに迷いつつも醒めています。彼は非常に冷淡です。自分の行為に溺れつつもぎりぎりのところで踏みとどまり、それを凝視しています。だから、甘美ではありません。
彫阿弥の冷淡さが明確になるのはラスト。南無阿弥陀仏と書いて欲しいとアヤに言われたのに・・・ ある意味ではお茶目なのかも知れないけど。
すっきりとしていなくて時折状況を把握しづらくする文体も、作品の雰囲気と合っています。
こういう系統の作家たちの系譜が書けたら面白そうだなぁ、と感じます。
今日読んだ本
藤沢周『刺青』
今読んでいる本
レイ・ブラッドベリ『華氏451度』
G. ガルシア=マルケス『百年の孤独』
魚住直子『園芸少年』
性愛SF短編集。『からくりアンモラル』『あたしを愛したあたしたち』『愛玩少年』『いなくなった猫の話』『繰り返される初夜の物語』『一卵性』『レプリカント色ざんげ』『ナルキッソスの娘』『罪と罰、そして』収録。
『からくりアンモラル』
初潮を迎えた姉・秋月は、妹・春菜になつくロボット・ヨハネを見ていらっとしてしまい、ある悪戯を思いつきます・・・
だいたい表題作『からくりアンモラル』と似たような短編ばかりが収録されています。やたらとエロが多いです。SF的な設定が取り入れられているけど、SFに分類していいものか悩むほど。
しかし、母と子、父と子の関係を描いた少し心温まる作品も入っています。
今日読んだ本
森奈津子『からくりアンモラル』
今読んでいる本
レイ・ブラッドベリ『華氏451度』
G. ガルシア=マルケス『百年の孤独』
芝公園で凍死した無頼作家・藤澤清造に共感を覚えている私が主人公。私は6歳年下の女と同棲するようになり、彼女の給料で暮らし、彼女の親から借りたお金で藤澤清造全集を出そうとします。しかし些細なことで逆切れし、彼女に何度も暴行を加え、そのたびに彼女は実家へ帰ってしまうのですが、その途端に私は卑屈な態度をとり、戻ってくるように懇願し・・・
あまりにも無惨で救いがたいダメな男の日常を綴った陰惨な物語。
本当に笑えます。なんというか、凄い。トイレの蓋があがっていなかったからと言って女に対して激怒し始めるところなどは、もうなんとも言いがたい。そもそも同居している女性のことを「女」としか表記しないこと自体が凄い。
それでいて文章は非常に端正なのです。
今日読んだ作品
西村賢太『墓前生活』
西村賢太『どうで死ぬ身の一踊り』
西村賢太『一夜』
今読んでいる本
レイ・ブラッドベリ『華氏451度』
森奈津子『からくりアンモラル』
競馬を気に入っているぼくという男が主人公。ぼくは最近、子猫に惹かれるようになり、餌をあげるようになります。しかし、なかなか寄ってきてはくれません。子猫ではなく、アキラ、よう子、島田といった自主映画作りに取り組む若者たちがぼくの家へ現れます。彼らとの日々は非常にたわいもないものでした。最後、彼らは、アキラが運転手として連れてきたゴンタとともに海へ赴きます・・・
様々な人間たちと、その関係を描いた作品。保坂和志のデビュー作。
四方田犬彦の解説がとても良いです。書いてあることがいちいち最もなので、とくに付け足すことがないです・・・
なにげない日常を描いた小説のように見えるけれど、決して普通の小説ではありません。個々のキャラクターや物語の粗筋ではなくて、場の空気や人間同士の関係が小説の中心に据えられているからです。非常に挑戦的なのではないか。
「小説家を目指しながらそれを諦め、映画作りに専念するゴンタという人物の思考・視点が、作者の思考・視点と一致している」と解説者は指摘していますが、全く同じことを感じました。普通の映画というものは喋る人を中心にして撮ります。しかし、そうではなくてそれを聞く側の動きや、全体の空気や些細な部分こそが肝要なのではないか。
今日読んだ本
保坂和志『プレーンソング』
今読んでいる本
西村賢太『どうで死ぬ身の一踊り』
レイ・ブラッドベリ『華氏451度』
横須賀市にある小さな洋食屋アリアケを経営していた有明幸博、塔子らが深夜殺害されます。功一、泰輔、静奈ら3人の子供たちは家を抜け出して流星群を見に行ったため無事でしたが、彼らは身よりがなかったため養護施設に収容されます。そして、その後3人は様々な人たちに騙され、強く生きることを誓って詐欺師になります。そうして、事件から14年。洋食チェーンの御曹司・戸神行成に高価な宝石を売りつけようとした3人は、行成の父を見かけ、衝撃を受けます。その人は、事件当時殺人現場から逃げ去っていった男に似ていたのです・・・
やっぱり、東野圭吾の作品はサクッとしていて面白いです。
しかし、毎度のことではあるのですが、物語に深みがあるわけではありません。とにかく軽いし、淡白です。そして、これもまた毎度のことながら、東野圭吾の作品に登場するヒロインには魅力が感じられません。
それに真相も意外ではあるけれども、そこまで衝撃的ではありません。まぁ普通に面白いけど、それ以上のものはないという感じです。
今日読んだ本
東野圭吾『流星の絆』
今読んでいる本
保坂和志『プレーンソング』
太平洋戦争開戦前夜。ドイツ軍はイギリス本土を攻め切れず、結局撤退しました。その事態を憂慮したヒトラー総帥は、日独伊三国軍事同盟を結んだばかりの日本が新開発した戦闘機(零式艦上戦闘機)の噂を聞きつけ、ライセンス生産を行うかどうか検討するために購入したいと日本政府に持ちかけます。それを受け入れた海軍は困難だと自覚しつつ、安藤啓一、乾恭平ら優秀でありながら反骨精神に満ちた男たちに零式艦上戦闘機を任せます。彼らは遥かなベルリンを目指し、東京を出発するのですが・・・
なかなかに読み応えがあります。壮大なif歴史小説。ようするに法螺話。
けっして嫌いではないのですが、少し読みづらいです。
新潮社。
今日読んだ本
佐々木譲『ベルリン飛行指令』
今読んでいる本
保坂和志『プレーンソング』
リストラされた父親が失踪。14歳の次男ケイは陸上部をやめ、新聞配達を始めました。17歳の長女カナはアルバイトを始め、深夜まで家に寄り付かなくなります。27歳の長男リュウは突如として家に帰ってきて家族の面倒を見ようとします。42歳の母・薫は昼から酒浸り。73歳の祖父・新造はボケが進行してきて会話が成立しません。家族ともいえないような家族は、いったいどうなるのか?
家族と言うものを描いた作品。
「十四歳」「十七歳」「二十七歳」「四十二歳」「七十三歳」によって構成されています。それぞれの視点から、家族のことが語られます。非常によく練られています。読み終わったときにはなんだか温かい気持ちになっています。
なんというか、金城一紀っぽいです。がさついた文体といい、ちょっと良いはなしに落ち着くところといい、そっくりです。ついでに設定が似ているからか、『グッドラックららばい』を思い浮かべてしまいました。どちらというとドロッとしたものも掬い上げている『グッドラックららばい』の方が面白かったかなぁ・・・
文藝春秋。
今日読んだ本
三羽省吾『厭世フレーバー』
今読んでいる本
佐々木譲『ベルリン飛行指令』
よしながふみ『きのう何食べた? 3』
新宿署の鮫島警部は「新宿鮫」と呼ばれ、恐れられています。警察機構に楯突き、ヤクザとはつるまず、ただ1人で犯罪者を追跡するからです。鮫島は銃密造の天才・木津を追っているうちに、歌舞伎町で発生した警察官連続射殺事件との関連を見出します。彼は単独で木津を追い詰めていきます。しかし信頼した人に裏切られ、絶体絶命に危機に陥り・・・
ハードボイルド小説の傑作。
物語自体はいくらなんでも出来すぎと言ってしまっても過言ではないのですが、あまりにも鮫島がかっこいいので気になりません。
鮫島は、正義を貫徹するためならば、全ての人間を敵に回します。もともとキャリア組だったのに、新宿署に左遷されたのです。鮫島と愛し合うロックシンガー・晶もまたかっこいいです。
やさぐれた『踊る大捜査線』みたいな感じです。
今日読んだ本
大沢在昌『新宿鮫』
今読んでいる本
佐々木譲『ベルリン飛行指令』
三羽省吾『厭世フレーバー』
『電話男』
電話越しに様々な人の言葉を聞き、その人の心を受け止めることを務めとしている電話男の独白。電話男たちはどこから出現し、どこへ向かうのか。そして最大の敵とは? 第3回海燕新人文学賞を受賞したデビュー作。
『迷宮生活』
K氏は自分でつくったそれなりのルールに従って淡々と日々を過ごしています。彼は無為の日々の中で変な思想を抱き、意味のないことを繰り返しています。しかし、その内神をつくろうとしてとんでもないことになっていきます・・・
高橋源一郎や島田雅彦とともに「ポストモダン文学」の旗手といわれる小林恭二の作品はサクッとしています。やっぱり、他の「ポストモダン文学」作家の人たちと同じように人懐こくてポップで読みやすいのです。まぁ内容はちょっと不可解な感じもしますが、高橋源一郎と比べれば露骨というか、分かりやすい方かもしれません。
『電話男』は名作。文体はさらさらしているのに、分かり合えないことが前提となってしまった断絶の時代の中で苦しむ孤独な人間たちの抱え込んだ苦しみと哀しみが的確に表現されています。
すでに言語や理性すら頼りにならない今、いったいどこほ目指して生きていけばいいのか。考えさせられます。
今日読んだ本
小林恭二『電話男』
小林恭二『迷宮生活』
今読んでいる本
佐々木譲『ベルリン飛行指令』
心理学者ケルヴィンは、ソラリス上空に浮かぶステーションで発生した異常を調査するためにそこへ赴くのですがステーションは半ば放棄されていました。その上、出迎えてくれた研究者の説明は全く要領を得ません。しかも、自分が原因で自殺したはずの恋人ハリーが目の前に現れ、ケルヴィンは有機的な反応を示す海によって覆われている惑星ソラリスの謎の中へと取り込まれていくことになります・・・
『ソラリス』は、ポーランドのSF作家スタニスワフ・レムが1961年に発表したSF小説。
早川書房から出版された『ソラリスの陽のもとに』が有名なようですが、国書刊行会から2004年に出版された新訳を読みました。『ソラリス』新訳は、ポーランド語から直訳し、ソ連による検閲のために削られた部分が補完されているそうです。
科学的でありながら哲学的。
赤い色をした太陽と青い色をした太陽に引っ張られながら不可解な軌道を描くソラリスという惑星のことを考えていくと人間中心主義(人間形態主義)から脱することができない人間というものの限界が露になってきます。本当に考えさせられました。
ケルヴィンとハリー(らしきモノ)の愛の行方も気になります。愛とは何なのか。命とは何なのか。人とは何なのか。本当に様々なことを考えさせてくれるいかにもSFらしいSF。
今日読んだ本
スタニスワフ・レム『ソラリス』
今読んでいる本
小林恭二『電話男』
初老の商人スクルージは書記としてボブという男を安く雇い、ロンドンの下町に事務所を開いています。彼は、決して他人のためには金を使わず、人間の心や愛などいうものを気にかけたことはない冷酷な守銭奴でした。あるクリスマスイヴの夜、かつての共同経営マーレイの幽霊が現れ、これから毎晩三人の精霊が現れるだろうと告げます。そしてその言葉通り、毎晩、過去・現在・未来のクリスマスの霊が現れ、スクルージは悔い改めることになります・・・
文豪ディケンズの作品の中でもとくに有名なものの一つだそうです。もともと「クリスマスの本」シリーズの第1作目として出版されたそうです。まさにクリスマスにぴったりの本。
吝嗇への戒めや弱者への慈愛がテーマとなっています。
しかし、全体としては堅苦しいことはなく、むしろ軽快です。いきなり幽霊が出てきて、しかも精霊までぞろぞろと登場するのです。登場人物たちも筋書きもすっきりくっきりしています。暗くて孤独で笑わないスクルージと笑いに満ちた甥一家の対比など、とても分かりやすいのです。
まぁ非常に類型的ではあるけれど、それでも面白いし、人のために何かを為すということは大切だよなぁ、と思わされます。
当時の英国の街や家々についての描写は興味深かったです。
村岡花子訳。新潮社出版。
今日読んだ本
チャールズ・ディケンズ『クリスマス・カロル』
今読んでいる本
スタニスワフ・レム『ソラリス』
若き皇太子ハインリヒは律儀で頑固な宮廷の人間たちに囲まれて育ちます。唯一の救いは家庭教師のユットナー博士だけでした。彼は独特の寛大さを持ち合わせた人だったからです。とはいえ、厳しく全てが定められた生活は続きました。ですが、青年になったハインリヒはとうとう1年の間、風光明媚なハイデルベルクへと赴くこととなります。そして、そこで溌剌とした少女ケーティや多くの大学生たちと出会い、ともに大学生活を謳歌するのですが・・・
戯曲。
物語自体は、単純で平凡でありきたりです。「高貴なる王子さまと身分の低い可憐な娘が惹かれあい、結局のところ結ばれない」というただそれだけの物語なのです。しかし、心をくすぐられました。
青春というものを描いた作品ではあるのだけど、青春時代のエピソードはそれほど多くはありません。詳しいことが書かれていないためにむしろ想像の幅が広がります。巧みな演出だなぁと思いました。
ユットナー博士と内侍ルッツの掛け合いが面白いです。若者の文化に理解を示し、むしろそれを受け入れる寛大な自由人ユットナー博士と頑固に宮廷のしきたりを守ろうとするルッツの間には深い溝があるわけですが、2人ともハインリヒのためを思って行動しているという点は共通しています。なのに食い違い、言葉の喧嘩を繰り返すのですが、そのやりとりが愉快です。
徹底的に頑固な男ルッツが、最後の辺りで大学生たちから敬遠されて沈み込むハインリヒに理解を示し、騒がない大学生どもに文句を言うのですが、その場面はぐっときます。偏狭な人なのだけど、ハインリヒのためを思っているということは揺るがないのです。
今日読んだ本
マイヤー・フェルスター『アルト=ハイデルベルク』
今読んでいる本
スタニスワフ・レム『ソラリス』
みのりは、元カレが結婚すると知ってから突如として体調を崩してしまいます。固形物をほとんど食べられず、その上震えが止まらなくなって救急車で病院に運びこまれることもありました。しかし、どこの病院に行ってもとくに悪いところは見つかりません。そして、最終的にたどり着いたのは漢方診療所でした。そこにはかっこいいお医者さんがいて・・・
あらすじだけ読むと陰鬱な小説っぽいですが、実はユーモアに溢れています。もともと脚本を書いていた人らしく、物語としてもきちりとまとまっています。読みやすいです。
漢方に関する説明はかなり真面目できっちりしています。これを読んで漢方診療所に行こうという人が出てくるのではないか、と思うほど。
第28回すばる文学賞受賞作。
今日読んだ本
中島たい子『漢方小説』
今読んでいる本
スタニスワフ・レム『ソラリス』
『スティル・ライフ』
染色工場でアルバイトをしていたぼくは、同僚の佐々井と親しくなります。佐々井は染色工場での仕事をやめた後、ぼくにある企みをもちかけてきます・・・ 中央公論新人賞・芥川賞受賞作。
『ヤー・チャイカ』
娘を家に残し、仕事に出掛けた父はひょんなことからソ連から来た男・クーキンと親しくなります。女の子と恐竜ディプロドクスとの交流の物語が途中途中に挟まれます。むしろ僕は表題作よりも好きでした。
池澤夏樹の小説は、いかにも「御伽噺」のようにみえます。基本的に単調だし(素人っぽいし)、ご都合主義的なのです。だから、小説としての完成度は低いように思えます。
しかし、美しい文章が散りばめられているため、そのたびにはっとさせられ、惹きつけられます。小説らしくない「スナップのような小説」といってしまっても良いかも知れません。それまでは詩人として活躍していたことが影響したのかなぁ・・・
ただし、スナップ的なのだけど、分析的な面も併せ持っているため摩訶不思議なことになっています。「世界は様々な部品によって組み立てられたシステムの複合体なのだ」というような思想が背景にあるのです。非常に面白い。
今日読んだ本
池澤夏樹『スティル・ライフ』
池澤夏樹『ヤー・チャイカ』
今読んでいる本
中島たい子『漢方小説』
『戦争を演じた神々たち』の続編。
『カミの渡る星』
自分の治めていた惑星をクデラによって滅ぼされ、惑星アテルイに流されたロボットはツキをトーテムとして再び迫り来るクデラと戦うことになります。
『ラヴ・チャイルド(チェリーとタイガー)』
父を知らぬ妹は、母と顔も知らぬ兄を嫌悪しつつ冷酷な人間に育ちますそんなある日、兄が現れ、惑星環境装置になると告げるのですが・・・
『女と犬』
謎の女と黒い犬は、世界のあらゆるところに偏在しています。いったい彼らは何者なのか・・・?
『世界でいちばん美しい男』
惑星デルダドには奇怪な生物たちが棲息しています。その中で凛々しく生き抜いていく緑色の恐竜少女。その惑星に墜落したクデラの調査員はその緑色の少女と出会います。
『シルフィーダ・ジュリア』
クデラ軍と戦うキネコキスの誕生を書いた物語。これまた壮大で神話的。
出版・アスペクト。『戦争を演じた神々たちII』
今日読んだ本
大原まり子『カミの渡る星』
大原まり子『ラヴ・チャイルド(チェリーとタイガー)』
大原まり子『女と犬』
大原まり子『世界でいちばん美しい男』
大原まり子『シルフィーダ・ジュリア』
今読んでいる本
池澤夏樹『スティルライフ』
王寺ミチルは、演劇を熱狂的に愛する女性でした。彼女は脚本家・演出家・主演俳優として小さな劇団カイロプラクティックを主宰する一方で、様々な女性の家を泊まり歩く毎日を送っています。少年のような容姿が女性をひきつけるのです。ミチルの周りには立ち代りに様々な女性が現れます・・・
演劇の面白さ、怖さを存分に思い出させてくれます。
読んでいると中小の劇団の現状がちょっとだけわかって面白いです。慢性的な金欠とめまぐるしい人の入れ替わりのために劇団を存続していくこと自体がまず困難なのだけど、大劇団のように売り上げを重視して演劇とはいえないような安全なものをつくりたくはないという強烈な自負心に支えられ、必死で頑張っているらしい。凄いな、と感じます。
それにしても、どうして表現を生業とする流れ者の人たち(演劇とか、大道芸とか、舞踊とか)はくっついたり離れたり恋愛ばかり繰り返しているのだろう。やっぱり色気を保つことが大切だからなのかなぁ・・・
中山可穂のデビュー作。
今日読んだ本
中山可穂『猫背の王子』
今読んでいる本
池澤夏樹『スティルライフ』
不可解な小説。『Ⅰ. 偽ルナールの野球博物誌』『Ⅱ. ライプニッツに倣いて』『Ⅲ. センチメンタル・ベースボール・ジャーニー』『Ⅳ. 日本野球創世奇譚』『Ⅴ. 鼻紙からの生還』『Ⅵ. 愛のスタジアム』『Ⅶ. 日本野球の行方』によって構成されています。章ごとに内容はバラバラです。
「野球」を巡る小説と捉えていいのかどうかすら、いまいち分かりません。その最も大切なテーマというべき部分には「野球」ではなくてたとえば「小説」という言葉を代入することも可能なのではないか。
とにかく笑えるところは良いです。『Ⅳ. 日本野球創世奇譚』の辺りになってくると少しうんざりした気分になってきますが、それでもやっぱり面白いです。読んでいると奇妙な気分になります。なんというか踊る言葉の意味が分からなくて、現代演劇を見ているような気分になるのです。
世俗との関係を断ち切ることがない高橋源一郎の姿勢は、少し応援したくなります。同じように筋書きが崩壊した不可解な小説を書いている村上春樹とは全く対照的。
第1回三島由紀夫賞受賞作。
今日読んだ本
高橋源一郎『優雅で感傷的な日本野球』
今読んでいる本
池澤夏樹『スティルライフ』
柳生十兵衛が額を割られ、殺されているのが発見されます。一流の剣士として知られていた彼がいかにして殺されたのか、その顛末を綴る物語だという説明が入り・・・ 江戸時代を舞台にした柳生十兵衛と竹阿弥、そしてその子たち金春七郎、りんどうらの物語が始まっていきます。途中からは突如として室町編に突入。一休さんも登場。
下巻に入り、物語は佳境へ突入。室町時代の冷徹な柳生十兵衛と江戸時代の陽気な柳生十兵衛がくるくる入れ替わるため、そのたびに物語は大混乱。しかも、物凄く都合の良いときに入れ替わるから笑えます。そして、15歳の一休さんと15歳の義円〈足利義満の子〉がくるくる動き回り、そのたびに敵に捕まります・・・ その2人のちょっ間抜けな魔童子たちのおかげで物語はどんどん進んでいくわけです。
最後は、山田風太郎らしく哀切に満ちています。
今日読んだ本
山田風太郎『柳生十兵衛死す 下』
今読んでいる本
高橋源一郎『優雅で感傷的な日本野球』
オレンジを12個口に入れることができ、象さえも吹き飛ばすことができる大女は、たくさんの犬を引き連れているため「犬女」と呼ばれていました。そんな彼女は、あるときテムズ川で赤ん坊を拾い、ジョーダンと名付けます。成長したジョーダンは、踊り手フォーチュナータを探すたびに出ます。一方、犬女は処刑された王の仇を討つために、ピューリタンたちを叩き潰していきます・・・
あらすじを追って説明していくことは難しいです。「わたしはいま・ここに縛られているわけではない」という考え方が、『さくらんぼの性は』という物語を支えているからです。最初は混乱するのですが、読み進めていくうちに物語の中に吸い込まれていきます。
猥雑なのに非常に美しくて、幻想的なのにきちりとまとまっていて、残酷なのに優しくて、壮大なのにすかっとしています。最初はジョーダンの旅と犬女の日々が交互に綴られています。
ジョーダンの旅は壮大なる叙事詩です。彼は、空が言葉に埋め尽くされてしまうためそれを清掃する人がいる世界にまぎれこんだりするのです。とんでもなくぶっ飛んでいて残酷なところはとても童話的。そして時には神話的。一方、醜く巨大な犬女の大活躍は爽快です。王の首をちょんぎり、全てを清潔に規律で縛ろうとするピューリタンたちを片っ端からぶちのめしていくのです。しかし、息子ジョーダンには彼への愛を素直に告げられません。その不器用さもまた印象的。
女を支配していると思い込んでいる男たちを見つめる女たちの辛辣な感想は怖いけど、小気味良いです。
最後の章では物凄いことが明かされます。しかし、なぜかすっと受け入れられます。
今日読んだ本
ジャネット・ウィンターソン『さくらんぼの性は』
今読んでいる本
山田風太郎『柳生十兵衛死す 下』
『レモンとねずみ』は、石垣りんの詩集。
これまでに出版された詩集に未収録となっていた詩を集めたものだそうです。
詩の中に、石垣りんという人が赤裸々に表されているように感じました。読むだけで生き方自体が明確に見えてくる、というか。
『表札など』を読み、単純に毅然とした人なのかと思っていたのだけど、そういうわけでもないみたいです。なんというか、たくさんの辛いこと(父親の介護)も抱え、それらの重みに潰されそうになりながら、それでも生き抜いていった人のような印象を受けました。まぁそれこそ本当の強さを持っていなければできないことかも知れない。
今日読んだ本
石垣りん『レモンとねずみ』
今読んでいる本
山田風太郎『柳生十兵衛死す 下』
ジャネット・ウィンターソン『さくらんぼの性は』
これまでに出版された詩集に未収録となっていた詩を集めたものだそうです。
詩の中に、石垣りんという人が赤裸々に表されているように感じました。読むだけで生き方自体が明確に見えてくる、というか。
『表札など』を読み、単純に毅然とした人なのかと思っていたのだけど、そういうわけでもないみたいです。なんというか、たくさんの辛いこと(父親の介護)も抱え、それらの重みに潰されそうになりながら、それでも生き抜いていった人のような印象を受けました。まぁそれこそ本当の強さを持っていなければできないことかも知れない。
今日読んだ本
石垣りん『レモンとねずみ』
今読んでいる本
山田風太郎『柳生十兵衛死す 下』
ジャネット・ウィンターソン『さくらんぼの性は』
『居場所もなかった』
私は東京に住む小説家。気に入っていた部屋を追い出され、どこかへ引っ越すことになるのですがオートロック付きの部屋に拘るため、なかなか良い部屋が見つかりません。そして、最終的に引っ越した先では狂いそうなほどの騒音に苦しめられます。再び部屋を探す中で、女性・無職な人間に対する差別というものをひしひしと感じるようになります。彼女は過酷で卑劣な現実との格闘を、現実を露骨にしたような妄想(虚構)を交えつつ、書き綴っていきます。
『背中の穴』
奇怪な布を被った人と普通の人に手伝ってもらい、引っ越すのですが、その中で背中の穴があった母や祖母のことを思い出します・・・
笙野頼子の小説は、全く爽やかではありません。陰鬱です。読んでいると少し辛いし、主人公の暗い感情が伝染してきそうです。しかし、今回は主人公の暴走しまくりの妄想が各所に入り混じるので少し笑えます。「私」の徹底的な拘り(オートロック付きの部屋でないとヤダ)は滑稽です。けれど、分からないでもありません。「私」の妄想は、生きることが困難な社会に対する過剰反応なのではないか、と思います。
それにしても引越しを書くことで、社会と「私」の病気を明確に抉り出していく笙野頼子の筆致は素晴らしいです。小説というもの自体に対するツッコミすら挟まれています。本当におかしい。
文学を蹴落とそうとする人間たちを罵倒しまくるあとがきがまた凄いです。あとがきも1つの作品と化しています。
今日読んだ本
笙野頼子『居場所もなかった』
笙野頼子『背中の穴』
今読んでいる本
山田風太郎『柳生十兵衛死す 下』
石垣りん『レモンとねずみ』
野中柊『アンダーソン家のヨメ』を読みました。『ヨモギ・アイス』『アンダーソン家のヨメ』収録。
『ヨモギ・アイス』
野中柊のデビュー作。ヨモギは白人ジミーとの国際結婚の後、アメリカへ行きます。彼女の朝の日課は体重を測ること。アメリカの食べ物のために太ってしまうのがいやなのです。そんなある日、引越ししたはずの隣人の飼い猫・タマを見つけ・・・
『アンダーソン家のヨメ』
ウィル・アンダーソンと国際結婚することにしたサトー・マドコ。彼女東南アジアでのハネムーン旅行の後、アンダーソン家を訪ねます。そしてそこで結婚を祝ってもらうことに。マドコはアンダーソンと名乗りたくはないのですが・・・
けっこうさくっとしていて読みやすいです。横文字やカタカナが多用されています。それによって異質な何かが含まれているような感じがします。非常に巧い仕掛けだなぁ、と感じました。
人種を越えて結婚する2人の人間が描写されることによって、結婚/家庭の問題が明確に浮かび上がってくる気がしました。そもそも家庭とは何なのか、考えさせられます。「お母さん」になることが、女性にとっての幸せなのか。
今日読んだ本
野中柊『ヨモギ・アイス』
野中柊『アンダーソン家のヨメ』
今読んでいる本
笙野頼子『居場所もなかった』
山田風太郎『柳生十兵衛死す 下』
『ヨモギ・アイス』
野中柊のデビュー作。ヨモギは白人ジミーとの国際結婚の後、アメリカへ行きます。彼女の朝の日課は体重を測ること。アメリカの食べ物のために太ってしまうのがいやなのです。そんなある日、引越ししたはずの隣人の飼い猫・タマを見つけ・・・
『アンダーソン家のヨメ』
ウィル・アンダーソンと国際結婚することにしたサトー・マドコ。彼女東南アジアでのハネムーン旅行の後、アンダーソン家を訪ねます。そしてそこで結婚を祝ってもらうことに。マドコはアンダーソンと名乗りたくはないのですが・・・
けっこうさくっとしていて読みやすいです。横文字やカタカナが多用されています。それによって異質な何かが含まれているような感じがします。非常に巧い仕掛けだなぁ、と感じました。
人種を越えて結婚する2人の人間が描写されることによって、結婚/家庭の問題が明確に浮かび上がってくる気がしました。そもそも家庭とは何なのか、考えさせられます。「お母さん」になることが、女性にとっての幸せなのか。
今日読んだ本
野中柊『ヨモギ・アイス』
野中柊『アンダーソン家のヨメ』
今読んでいる本
笙野頼子『居場所もなかった』
山田風太郎『柳生十兵衛死す 下』
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