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自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
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『澁澤龍彦 日本作家論集成 上』
稲垣足穂、小栗虫太郎、埴谷雄高といったそれなりに有名な作家から、もっとマイナーな作家までが紹介され、論じられています。読むと、かえって澁澤龍彦という人のことが分かります。選び方が、良いです。紹介されている作品を読みたくなります。

評論集。

谷崎潤一郎に関する洞察は面白いです。形而上学が欠けているといわれる谷崎潤一郎は地震に影響を受けていたのか。

稲垣足穂を「抽象志向と飛行願望、メカニズム愛好と不毛なエロティシズム、天体とオブジェ」というふうにまとめたのは澁澤龍彦だとは知りませんでした。

三島由紀夫も登場。対談などものっています。からみが面白いです。


読んだ本
澁澤龍彦『澁澤龍彦 日本作家論集成 上』

読んでいる最中
エリック・マコーマック『隠し部屋を査察して』
川井龍介『社会を生きるための教科書』
岡嶋裕史『実験でわかるインターネット』
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『夜は短し歩けよ乙女』
私と、私が恋している無邪気な黒髪の乙女の物語。『夜は短し歩けよ乙女』『深海魚たち』『御都合主義者かく語りき』『魔風邪恋風邪』収録。

『夜は短し歩けよ乙女』
黒髪の乙女は、酔うと顔を舐めだす羽貫さんや、ふわふわして捉えどころのない樋口さんに出会い、誘われ、京都先斗町を闊歩。浴びるように酒を飲むのですが全く酔いません。一方、彼女を追う僕は、ずぼんを剥がされたり、酷い目にあいつつ放浪することになります・・・

『深海魚たち』
黒髪の乙女が出向いていると聞き、僕は古本市に赴きます。黒髪の乙女は「ラ・タ・タ・タム」という絵本を探しています。一方、僕は彼女が、ある本に手を差し出したとき、同時にその本に手を差しだすべく、妄想するのですが、「火鍋」という恐ろしい我慢大会に参加することになり・・・

『御都合主義者かく語りき』
学園祭が行われます。学園祭事務局長は、狂ったようにはめをはずしている人たちを追跡し、注意、あるいは逮捕してまわるのですが、「韋駄天コタツ」と「偏屈王」は捕まらず、各所でゲリラ演劇が行われ・・・

『魔風邪恋風邪』
とんでも風邪が京都を襲います。誰もが倒れていき、京都は閑散としてしまいます。それなのに、活発な黒髪の乙女だけは無事で・・・

恋愛小説。

大袈裟で、滑稽で、顰めつらしくて、引用に満ちていて、しかも愉快で、癖がある森見登美彦の文体は楽しいです。物語の舞台は、何が起こってもおかしくない京都。他の森見作品ともつながりがあります。それを探していくのも楽しいです。

物凄い登場人物たちも楽しいです。とくに、李白という人は何者なのか分からなくて面白いです。血も涙もない高利の金貸しらしく、「電車」という三階建ての巨大な自家用車を所有しているのに、良い人のようでもあって・・・

第20回山本周五郎賞受賞作。2007年第4回本屋大賞ノミネート作(2位)。


読んだ本
森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』(再読)

読んでいる最中
エリック・マコーマック『隠し部屋を査察して』


著者:  小川糸
出版社: ポプラ社

  喋れなくなってしまった女性が、1日1組の客しかいれない田舎の食堂「食堂かたつむり」を経営するという物語。

  おとぎ話。とても生きていけるとは思えません。よほど資産家の親とかがいるなら別だけど。親のおかげで生きていけるとするなら、そのお店はおままごとじゃないか。ストーリーが、あまりにも都合よく展開していきます。「ケータイ小説」をバカにする大人たちがこれを推薦するというのは意味が分からない。

  死にかけたうさぎにビスケットをあげたら生き返った、というストーリーがあるのですが、それはうさぎの健康によくないです。わざわざ病気にしているようなもの。うさぎは草食の生き物なんだから。フィクションだから良いのかなぁ。

  あと。癌になったおかん(母)のペット、エルメス(豚)を食べてしまうという時の言い訳が納得できません。「おかんが死んだあと悲しまないように」「生き物をありがたくいただく」って、それはすなわち生け贄じゃないか。人間の勝手な理由のために殺しているのに、「それがエルメスにも伝わったようで大人しく殺された」。しかも、食べちゃった後に「エルメスは私の中に生きている」と言い出すのです。それは自己満足ではないか。動物を、勝手に自分の思考の尺度に押し込んで殺しているだけではないか。

  それならば、死んだお母さんだって食べて良いという道理になります。カニバリズムに結びつくわけです(『バルバラ異界』『ダレン・シャン』などを連想)。でも、それは都合が悪いから、最後の最後に「死んだ鳩にお母さんが宿った」というふうに思いこみ、鳩を食べておしまいにします。

  非常に中途半端というかどこもかしこも辻褄があわないです。そもそも何故、主人公が喋れなくなるのか。その必要性はどこにあったのか分からないのですが・・・


自森人読書 食堂かたつむり
★★

著者:  吉田修一
出版社: 朝日新聞社

  出会い系サイトで出会った保険外交員の女を思わず殺害してしまい、逃走する男。彼を愛し、ともに逃げることを選ぶ女。2人は逃避行を繰り広げます。実は、男を「極悪人」と割り切れない背景があったのです。一方、加害者・被害者を取り巻く家族や友人たち、つまり事件に関わってしまった人たちは各々の立場から、自分なりに事件と立ち向かい、向き合っていくこととなります・・・

  三瀬峠で起こった殺人事件と、その結果引き起こされることとなる純愛劇の顛末を描いた小説。

  メロドラマになる、と聞いていたのに読み始めると社会派ミステリっぽい雰囲気。これはどういうことなのか、と思いきや、結局最終的には「純愛小説」となりました。愛というのは、錯覚の上に成立するものなのかもなぁ・・・ 愛は狂気というし。色々考えさせられました。面白いです。

  分厚い割りに読みやすいです。ちょっと日本語として引っかかる描写が散見されました(主語と述語がくっついていない)。でも、まぁ別に気になるほどではないです。

  悪人っていうのは誰のことを指しているのか、ということは謎として残されたのだと思うのだけれど、解決されないからこそ面白いのかもしれない、とも感じます。読者に悪人とは何か、と考えさせるような仕組みになっている、というか。けれど、そうすると、宮部みゆきの『理由』などの作品群に比べて、見劣りする気がします。

  第34回大佛次郎賞、第61回毎日出版文化賞受賞作。2008年第5回本屋大賞ノミネート作(4位)。


自森人読書 悪人
★★

著者:  稲見一良
出版社: 大陸書房

  素手の格闘では圧倒的な強さを誇る元プロレスラー、ベアキル。手裏剣を使う、若武者のような爽やかな青年、ハヤ。「待つ」ことを知る強力なハンター、ブル。人を2度撃ち殺したことのある元警察官、金久木。彼らは、突如としてレッドムーン・シバなる人物の挑戦を受けて、「マンハント(人間同士の狩り)」を行うことになります。

  銃器などの武器に関する詳しい説明。アウトドアに必要とされる専門的な知識や技術についての詳しい解説。そういう部分が凝っています。その他に、見るべき部分はほとんどありません。「中年男の心をもろに揺さぶるハードボイルドチックな決闘/狩猟小説」という言葉でまとめてしまえるような中身です。けっこう楽しめるけど、「ハードボイルドというのはようするに男にとってのハーレクインロマンス(斎藤美奈子の言)」という言葉が言い当て妙ではないか。

  やたらと強い癖に、一般社会には溶け込めない屈折した男ばかりが登場します。

  雄大な自然の中で、男達が壮絶な闘いを繰り広げるところはなかなか読み応えがあるけど、文章の基本的な部分がいまいちです。「△△の◇◇の△△の○○」というような記述があったりします。「の」を三度も続けて使ったら意味不明・・・ そういった部分が読みづらいです。

  時々、突如として特定の人物の中に入り込み、その人の心情を解説することもあります。変なふうに視点がコロコロ変わるわけです。だから、さらに読みづらさが増幅されています。あんまり、小説としては上手くない気がします。

  この雰囲気は嫌いじゃないけど。


自森人読書 ソー・ザップ!
安藤礼二は、ゼロ年代を代表する文学者として、大江健三郎 蓮実重彦 保坂和志をあげています。そして、その元祖はポーである、と示していきます(『文學界』)。

なんというか、文学の正面を突いたような感じなのかもしれないけど、大御所のような人ばかり。

伊坂幸太郎も、長嶋有も、舞城王太郎も、森見登美彦も、三崎亜記も、磯崎憲一郎も扱われていないところが凄い・・・ もう少し新進作家にも目を向けて欲しい、と思わないでもないけど、趣旨が異なるのか。

というか、そういえば村上春樹にも触れていないところだって、凄いかも知れない。
『アメリカの夜』とは、フランソワ・トリュフォーという監督がつくった映画のタイトルだけど、もともとは映画に用いられる技法のひとつなのだそうです。「一年じゅう空が晴れているカリフォルニアの昼間を、キャメラの絞りと光学フィルターの操作でフィルムにたいする露光を調節して、夜の場面として撮影してしまうハリウッド映画特有の「夜」である」と作中で説明されます。

『アメリカの夜』

映画を扱った小説、なのか。

主人公は映画の人でした。映画を扱っている大学へいきます。しかし、その後Sホールに勤務するようになり、勤務中に『ドン・キホーテ』や『失われた時を求めて』や『神聖喜劇』を読み耽ります。ですが、彼は基本的には「映画の人」であり続けます。

そして、主人公は特別な存在になりたいと願う人たちの中でもがき続けることになります。その辺りの描写は秀逸。

特別な存在になりたい、と願う若者の滑稽な、それでいて哀しい振る舞いが綴られています。

映画に対する、倒錯的な愛が感じられます。それが良いです。映画(あるいは、文学に置き換えても構わない気がする)を熱烈に愛し、それにこだわることが、滑稽にしかなりえない今の時代に適応することができない主人公の姿が、良いです。

主人公と語り手が分裂しているところも愉快です。まどろっこしいし、青臭いけど、今となってはそうすることでしか文学に取り組めないのではないか、と感じます。80年代以降の状態に自覚的といえるのではないか。


読んだ本
阿部和重『アメリカの夜』

読んでいる最中
ウィリアム・フォークナー『響きと怒り』
310黄昏のベルリン
★★★★ 連城三紀彦

309魔球
★★★ 東野圭吾

308墨攻
★★★★★ 酒見賢一

307大唐帝国―中国の中世
★★★ 宮崎市定

306樒/榁
★ 殊能将之
★★★★

著者:  連城三紀彦
出版社: 講談社

  画家・青木優二は、友達からエルザというドイツ人の女性を紹介され、まもなく愛し合うようになります。そうして親しくなった途端、エルザは驚くべきことを告げます。「アオキは、第2次世界大戦中、ドイツの強制収容所ガウアーの中で奇跡的な誕生を遂げた赤子かも知れない」。それは事実なのか。青木は真実を追い求め、ヨーロッパに渡ります。青木を巡ってネオナチ組織と反ナチス組織が暗闘を繰り広げ、死者まででる事態になります。いったいなぜなのか。彼の存在にどのような意味があるのか? 最終的に、物語の舞台は東西に分裂しているベルリンへとたどり着きます。そして、その地にて衝撃の事実が明かされることになります・・・

  国際謀略を扱った小説。

  恋愛小説としても読めます。その要素はかなり強いです。でも、本筋は秘密組織が画策した国際謀略の顛末。なので、「スパイ小説」に分類されるだろう作品です。物語は最初、リオデジャネイロから始まります。そこから、東京やパリ、そしてベルリンへと舞台が移り変わっていきます。

  歴史が好きな人間にはたまらないであろう秀作。歴史の秘話を扱っています。ナチスの亡霊たち(ネオナチ)の目的が何なのか判明したときには驚かされました。実際にそのようなことがあったのでは、と思わされました。

  ページを開くと重厚かつ華麗な文章が押し寄せてきます。改行が全然ありません。洗練されていない部分もけっこうあります。だから、少し読みづらいけど、それらの文章が荘厳でありながら、どことなく薄暗い雰囲気を醸し出しています。なかなかいい感じです。


自森人読書 黄昏のベルリン
★★★

著者:  東野圭吾
出版社: 講談社

  主人公は開陽高校のエース、須田武志。彼は天才的なピッチングセンスを持っていました。春の選抜高校野球大会の一試合でも、強豪相手に一歩も譲らず、9回まで無得点に押さえつけます。しかし9回裏2死満塁のピンチに陥った時、彼はなぜか不思議な暴投を行います。いったい彼に何が起きたのか。その球に隠されていた謎が事件を引き起こします。その試合の数日後、武志の女房役だった捕手・北岡明が愛犬と共に刺し殺されているところを発見されました・・・

  青春ミステリ小説。

  少年の持つ爽やかと、薄暗い陰険さがうまく描かれています。とくに異彩を放っているのは、この『魔球』という物語を成立させている主人公、須田武志。狂っているとしか思えないほどのまっすぐさを発揮します。ものすごく強烈なキャラクター。『バッテリー』の原田巧を連想します。

  青春ミステリの中には謎解きの部分がいまいちなことも多いけど、『魔球』はミステリとしても優れています。最終的には全ての謎が論理的に解決されます。「どうしてまず犬が殺された後に、北岡明が殺されたのか?」。そこに理由があると解明された時には凄いや、と感じました。

  しかも、読みやすいです。つっかかる部分はないので、さくさく読み進めることができます。少し味気ない印象を受けます。流暢というよりは、「事務的」な感じ。でも、むしろそこが、東野圭吾の良さではないかと感じます。分かり易い文章だからこそ、推理小説マニア以外にも読まれるのではないか。

  江戸川乱歩賞の最終候補に残った作品。


自森人読書 魔球
★★★★★

著者:  酒見賢一
出版社: 新潮社

  中国の春秋戦国時代、兼愛・非戦などの思想を唱え、一大勢力を築いた墨子教団。しかし、どのような組織も必ず衰えるものです。墨子教団は、田襄子(3代目)という人物がリーダーとなってから、じょじょに腐敗していきます。そんな中、教団の俊英・革離は、墨子本来の教えを実現するために活動。小国の梁国国王、梁溪に頼まれて大国・趙を追い返すべく、ただ1人梁城に赴くことになります。革離は、城をまとめ上げて徹底的に防御を固めました。さて革離は、圧倒的な趙軍を撃退できるのか・・・

  歴史小説。

  薄い本です。しかし、文章は硬質で中身はぎっちり。読みごたえがあります。まずはなんといっても、主人公・革離の八面六臂の活躍に感動させられます。そして、革離が実現しようとする墨子の思想は、考えさせられます。

  「侵略戦争の廃絶」というのは、今でも実現していないことです。「防衛」と「侵略」との間に、線を引くことが難しいからです。墨子は、侵略戦争を実力によって阻止しようとしました。ようするに、「一方的に攻め込まれている弱い側につき、強い側を挫く」ということを行ったのです。史書には、それが成功したと書かれています。非常に興味深いことです。

  でも、僕は「どの陣営にも属さない第三勢力が強大な軍事力を持つことで、戦争の抑止を目指す」という墨子の思想は、空想でしかないと感じました。一時成功したとしても、それをシステム化して何十年にも渡って稼働させるのは不可能ではないか。日本の娯楽作品には頻出します。たとえば、かわぐちかいじ『沈黙の艦隊』や、『機動戦士ガンダムSEED』など。しかし、本当に実現したというはなしは聞いたことがありません。というか、何をもって公平となすのか分からない。

  事実、墨子教団も戦国時代の終わりごろになって歴史上から忽然と姿を消しました。作者・酒見賢一は「のちに中央集権型の大帝国を築く、秦に合流した(もしくは呑み込まれた)のでは?」と推測しています。弱者を慮ることを第一としたはずの墨子教団が強者に呑みこまれたのか・・・

  漫画化、日韓合同による映画化も行われているそうです。


自森人読書 墨攻
今日、自由の森学園で入学式がありました。
あたたかい手作りの入学式、でした。
テーマは「木より根っこ」。言葉にこだわられていました。いろんな人が新入生に向けて喋っていました。
よかったです。

自由の森学園で入学式がありました

しかし、毎度自由の森学園を説明するときに使われる「生徒主体」という言葉は不可解なことばだなぁ、と感じます。どこの学校であっても、生徒が主体になっているのではないか。むしろ教員主導ではない、とかにした方が適切じゃないのかなぁ。

あと、「木より根っこ」というのも、分からない。根っこだって木の一部ではないのかなぁ・・・

まぁいいや。
『二十世紀の十大小説』
篠田一士が二十世紀の十大小説を選び、それを紹介し、論じていきます。十大小説としてあげられてるいのは、『失われた時を求めて』(プルースト)/『伝奇集』(ボルヘス)/『城』(カフカ)/『子夜』(茅盾)/『U.S.A』(ドス・パソス)/『アブサロム、アブサロム!』(フォークナー)/『百年の孤独』(ガルシア=マルケス)/『ユリシーズ』(ジョイス)/『特性のない男』(ムジール)/『夜明け前』(島崎藤村)。

非常に面白い企みではあります。著者は、最初に「タイトルを記してみて、いまさらのように、神をも畏れぬおおけなさ、というかその阿呆らしさを、つくづく思い知る。」と記しています。それでもあえて『二十世紀の十大小説』といくところが愉快です。

示唆に富んでいます。篠田一士の読みが提示されています。

いろんな地方の小説が選ばれています。『失われた時を求めて』(プルースト)はフランスの小説。『伝奇集』(ボルヘス)は『伝奇集』(ボルヘス)の小説。『城』(カフカ)はチェコで書かれたドイツ語の小説。『子夜』(茅盾)は中国の小説。『U.S.A』(ドス・パソス)と『アブサロム、アブサロム!』(フォークナー)はアメリカ合衆国の小説。『百年の孤独』(ガルシア=マルケス)はコロンビアというかラテンアメリカの小説。『ユリシーズ』(ジョイス)はアイルランドの小説。『特性のない男』(ムジール)はオーストリアの小説。『夜明け前』(島崎藤村)は日本の小説。

それらを紹介していく篠田一士の手際はみごと。


読んだ本
篠田一士『二十世紀の十大小説』

読んでいる最中
ウィリアム・フォークナー『響きと怒り』
『虎よ、虎よ!』
24世紀、人間はテレポーテーションを可能にしました。それは、発見者の名をとってジョウントと呼ばれています。勿論、人間の生活は激変し、バランスが崩れたため、内惑星連合と外衛星同盟の間では戦争が勃発します。25世紀、プレスタイン財閥の宇宙船ノーマッドは攻撃を受け、漂流します。唯一の生存者ガリヴァー・フォイルは近くを通った同じくプレスタイン財閥の宇宙船ヴォーガに助けを求めますが、無視され、激怒し、復讐を誓います。その後、フォイルはサーガッソ小惑星群に住む科学人のもとへたどり着きますが、顔に刺青の虎のような模様とN♂MAD1という文字を彫られてしまい・・・

1956年に発表されたSF小説。

『モンテ・クリスト伯』をモチーフにしているそうです。主人公はヴォーガに復讐するためだけに、宇宙を駆けめぐります。彼は野蛮なので、虎と呼ばれます。とはいえ、強靭だし、どのようなときでも諦めません。とにかく圧倒的なのです。

財閥を率いるプレスタインの娘、オリヴィアは印象に残ります。彼女は、普通の物は見えないのですが、赤外線などを感じられる特殊な目を持っています。純白の雪の処女などと表現されるので、いかにも、典型的なお嬢様のように思えますが、実はそうではない、と発覚します。

全体的には、八方破れになりかかっています。

破壊的。とくにラストの辺りは凄まじいです。小説というものではなくなる寸前のところにまで到達してしまいます。しかし、それが魅力。

SFの古典。後の作品に影響を与えたようです。たとえば、多くのアイディアは石ノ森章太郎に、前衛的な部分は筒井康隆に影響を与えています。読むだけで分かります。


読んだ本
アルフレッド・ベスター『虎よ、虎よ!』

読んでいる最中
篠田一士『二十世紀の十大小説』
★★★

著者:  宮崎市定
出版社: 中央公論社

  宮崎市定は、東洋史学界をリードした人物。日本における中国研究を語る上では、決して欠かせない人、といわれているそうです。中国の科挙という制度を、分かりやすく解説したりしています。歴史区分を巡っては、京都学派に属しているそうです。

  『大唐帝国―中国の中世』は、その京都学派の唱える学説を用いて、三国時代末期から大唐帝国滅亡までを「中世」というふうに区分し、その間に起きた出来事を簡潔にまとめたものです。約700年間の歴史を1冊の本の中に凝縮しているわけです。とっつきにくいということはありません。表現は平易。かなり分かりやすいです。

  古くなってしまった部分も、もちろんあります。昔の本なので。

  まぁ専門家ではないので分からないけど、根本的かつ重大な誤りというのは多分ない、と思います。けれど、なにより面白いところが良いです。ごちゃごちゃした五胡十六国時代なども、分かりやすく説明されているのに、下手な歴史小説より断然面白い。

  要点を押さえつつ、決して無味乾燥な記録にとどまらないところがさすが。読み応えがあるし、楽しいです。もちろん煬帝や、楊貴妃などは登場してくるし、もっとマイナーな人たちもきちりと紹介されています。

  文化史などはほとんど省略されています。歴史を追っていくことに重点が置かれています。読むと、中国史の中頃をだいたい理解できます。


自森人読書 大唐帝国―中国の中世


著者:  殊能将之
出版社: 講談社

  『樒』は、鮎井郁夫の未発表小説である『天狗の斧』という作品をそのまま掲載したという体裁。名探偵、水城優臣とその助手、鮎井郁夫が活躍。舞台は、香川県の飯七温泉。何もない辺鄙な土地で、密室事件が起こります・・・

  『榁』では、石動戯作が登場。舞台は同じく香川県の飯七温泉ですが、10数年後になっています。またもや不可解な密室事件が発生します・・・

  「密室本」の中の1冊。やたらと薄いです。

  期待を裏切る作品。樒と、榁それぞれから「木」を取り除くと、「密室」になる、とかそういう小技がタイトルにも仕掛けられているから、少しは期待したのだけど、何もないです。『ハサミ男』のインパクトには全く敵わないし、中身もたいしたものではない・・・

  もしかしたら、期待しすぎたのも知れません。こじんまりとしていて読み甲斐がないけど、普通のミステリ程度の謎解きは存在します。まぁそれもたいして面白くないんだけど。

  『樒/榁』という作品自体を一種のジョークとして受け止めればいいのだろうか。

  あえて、読者の期待を裏切る殊能将之という小説家の本領が発揮されています。本当によく分からないなぁ・・・


自森人読書 樒/榁
グレッグ・イーガンの短編集『しあわせの理由』を読みおわりました。『チェルノブイリの聖母』『ボーダー・ガード』『血をわけた姉妹』『しあわせの理由』。

『チェルノブイリの聖母』
物語の舞台は近未来。探偵は、行方不明になった聖母像のイコンを探し出す仕事を請け負います。

『ボーダー・ガード』
量子力学の話。量子サッカーというものが登場。

『血をわけた姉妹』
姉妹の物語。人工的なウイルスが拡大し・・・

『しあわせの理由』
少年は、脳腫瘍のため、いつでも幸せに包まれているようになります。しかし手術すると、今度は幸せを感じることができなくなってしまい・・・


読んだ本
グレッグ・イーガン『チェルノブイリの聖母』
グレッグ・イーガン『ボーダー・ガード』
グレッグ・イーガン『血をわけた姉妹』
グレッグ・イーガン『しあわせの理由』


読んでいる最中
アルフレッド・ベスター『虎よ、虎よ!』
『郵便的不安たち#』
ポストモダンという言葉は80年代に持てはやされ、今では過去の遺物のように扱われているが、実はポストモダンが徹底化されたのは90年代なのであり、世界の断片化がすすんでいる、というのが著者の主張。そこまでは、現代思想としては当たり前なのですが、著者は、それを肯定せず、自分を媒介にして、分断されたものどうしを繋げていこうとします。そして、様々なものを論じます。たとえば、ソルジェニーツィン、多和田葉子、エヴァ、デリダ、阿部和重、柄谷行人、筒井康隆を論じていきます。

東浩紀の評論集。

綺麗に整理されています。とにかく切れ味が鋭いし、結論には説得力があります。あまりにもスパッといくので、逆に不安になるほどですが、著者はそれも自覚しているようです。

たとえば、スラヴォイ・ジジェクは便利な論法で何でも切り捨てていく、と喝破します。それを理解しているのならば不安は感じません。その辺りのバランス感覚も良いです。

ポストモダン的状況の中で島にこもるのはよくない、とあえて結論付けるところはかっこいいです。しかし、東浩紀もサブカルチャーにけんかを吹っかける振りをしつつ仲良くしている、としか思えないからなぁ・・・ 有言実行になればいいのだけど。


読んだ本
東浩紀『郵便的不安たち#』

読んでいる最中
グレッグ・イーガン『しあわせの理由』
『しあわせの理由』
グレッグ・イーガンの短編集『しあわせの理由』を読んでいる最中。『適切な愛』『闇の中へ』『愛撫』『道徳的ウイルス学者』『移相夢』

『適切な愛』
列車事故で重傷を負ってしまった彼氏の脳を腹中に収めた女性の物語。

『闇の中へ』
なぜか突如として出現する「吸入口」。一方向へしかすすめない不気味な空間が生まれます。反対方向へすすもうとすると死んでしまうのです。

『愛撫』
強盗に殺害された老博士の部屋からスフィンクスが発見され・・・

『道徳的ウイルス学者』
生物学者ジョン・ショウクロスは、神の意思を実現し、不倫と同性愛をセカイから排除するため、ウイルスを発明します。

『移相夢』
脳をスキャンして、機械化するためには、手術が必要で、その過程で移相夢なるものをみることになるらしく、不安になるのですが・・・ 現実が溶解していきます。



読んだ本
グレッグ・イーガン『適切な愛』
グレッグ・イーガン『闇の中へ』
グレッグ・イーガン『愛撫』
グレッグ・イーガン『道徳的ウイルス学者』
グレッグ・イーガン『移相夢』


読んでいる最中
東浩紀『郵便的不安たち#』
既読なのは2冊だけなので予想も何もないよなぁ・・・ というか読んでいても予想は出来ないか。『船に乗れ!』が案外票を集めそうな気がするのですが、青春小説系としては『神去なあなあ日常』や『横道世之介』もあるから票が割れるのか。う~ん、わからない。

でも、一番分からないのは、『1Q84』がどこにいくか。普通、もう売れまくっている小説家ならば、下の方にいくはずなので、8位とかになりそうだけど、どうだろう。村上春樹だから・・・ あまり、大賞になってほしくはないんだけど。


1 『植物図鑑』有川浩(角川書店)
2 『ヘヴン』川上未映子(講談社)
3 『神去なあなあ日常』三浦しをん(徳間書店)○
4 『1Q84』村上春樹(新潮社)
5 『猫を抱いて象と泳ぐ』小川洋子(文藝春秋)○
6 『新参者』東野圭吾(講談社)
7 『天地明察』冲方丁(角川書店)
8 『船に乗れ!』藤谷治(ジャイブ)
9 『神様のカルテ』夏川草介(小学館)
10『横道世之介』吉田修一(毎日新聞社)

という感じかなぁ・・・
305グッドラックららばい
★★★★ 平安寿子

304消失!
★★★★ 中西智明

303QED―百人一首の呪
★★ 高田崇史

302鹿男あをによし
★★★ 万城目学

301ゴールデンスランバー
★★★★★ 伊坂幸太郎
★★★★

著者:  平安寿子
出版社: 講談社

  突如として「プチ家出」してしまい、何年たっても帰ってこない母親。取り残されても飄然というか、のんびりと構えて何もしない父親。ダメな男に貢ぐのが趣味で「家族」というものを笑い飛ばす姉。「かわいそう」な自分の境遇を嘆くのが大好きで生真面目な妹。そんな人たちで構成されている片岡家と、その周囲の人々の物語。

  「普通小説」の傑作。

  どのジャンルに属しているともいえないような、「普通」の人の「普通」な日常を描いた小説だから、普通小説と名づけてみたけど、「家族小説」と呼んでもいいかも知れません。

  家族のつながりの意味、を描いた小説として読めます。片岡家の人々は、全員揃ってちょっと待てよと言いたくなるほど、自分のことばかり考えています。しかし、読んでいると、表面的にはバラバラの家族に見えるけど、どこかではしっかりとつながっているらしい、ということがわかってきます。

  人に利用される素晴らしさ、を上手く描いてみせた小説でもあります。登場する人たちはみな互いに互いのことを利用し合っています。「利用」と書くと、どうしても陰険な綱引きを想像するけど、時にはそういうことも必要ではないか、という気にさせるほど、結果として片岡家の人達は誰もが楽しげです。今の日本に足りないのは、「人に利用される」ことを許容する心かも、と感じました。

  とはいえ、決して美談にはなりません。常識とか、道徳とかそういうものを全て蹴飛ばしてしまう強力なパワーに満ちています。シニカルな視点に立てば、生きることはコメディになるんだなぁ、と読んでいて強く感じました。


自森人読書 グッドラックららばい
★★★★

作者:  中西智明
出版社: 講談社

  赤毛の人が多い町で、不可解な殺害事件が発生します。事件が起きた後、三度ともなぜか死体と犯人が現場から消失してしまったのです。いったいぜんたいどういうことなのか。名探偵、新寺仁がその謎に挑みます。

  ミステリとしての仕掛けには、とにかく唖然とさせられました。サプライズがたくさん(大きなものが3つくらい)あります。「驚愕のミステリ・オールタイムベスト5」を挙げてほしい、とミステリファンに聞いてみたら、上位に食い込んできそうな作品。

  ネタバレになるから何も説明できないんだけど。1つ目のサプライズは読者を軽くいなすようなものなので、呆れるし、うんざりさせられます。しかし、その1つ目のサプライズがあったお陰で成立する2つ目のサプライズはかなり衝撃的。そして最後のサプライズには唖然とさせられます。ミステリ小説としてはありがちの展開なのだけど、ちょっと寒気を覚えます。

  バカミス的な要素を強く含んでいます。そういうのが嫌いな人にはあまり受けないかもしれません。でも、僕はとても面白いなぁ、と感じました。昔は絶版となっていて、気軽に読むことは不可能だったそうです。でも、今では復刻されています。一度手にとってみると驚くと思います。

  『消失!』1作を出した後、作者・中西智明自身が「消失」。なぜか次の作品を発表することなくいなくなってしまいました。どうしてなのだろう・・・

  いろいろと不可解。


自森人読書 消失!
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