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自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
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自由の森学園体育祭2010

5月31日、無事に体育祭が行われました。涼しくて、雨も降らず、いい日和でした。ここ数年雨に悩まされていたけど、今回当日に降ることがなくてよかったです。
『稲垣足穂 ちくま日本文学全集』
稲垣足穂の小説が、幾つか収録されています。やはり、『一千一秒物語』が一番印象に残るし、良いなぁと感じます。しかし、『チョコレット』なども面白い、と感じます。

稲垣足穂の文章は、なんというか、愉快です。読んでいると、不思議なほど、そのときの言葉だけが浮かんできて、前にも後ろにも繋がらないからです。

はやいのに軽くない、揺れる文章は、揺れなど意識せず、スポン、スポンと繰り出されてはスッとさっていきます。というふうにまとめることはできないのだけど、読んでいる内に、敵である月や星と相対する者に振り回されることになります。小気味良いです。

何がどうなっているのか分からないのだけど、分からないことこそが価値なのかも知れないと感じます。


読んだ本
稲垣足穂『稲垣足穂 ちくま日本文学全集』

読んでいる最中
小路幸也『東京バンドワゴン』
午前

1入場
2オープニング
3団長種目
4J2学年種目
5H2学年種目
6タイヤ奪い
7J1学年種目
8H1学年種目
9障害物リレー
10中学騎馬戦
11高校騎馬戦
12つな引き


昼休み 13クラブ対抗リレー

午後

14応援合戦
15大玉ころがし
16J3学年種目
17H3学年種目
18教員リレー
19中学棒倒し
20高校棒倒し
21色別リレー
22エンディング
体育祭の組み分け


J2-1
J3-1
H1-3
H1-7
H2-2
H3-6



J1-2
J2-2
H1-6
H2-1
H3-4
H3-5


J1-1
J3-3
H1-2
H1-4
H2-5
H3-2
H3-3


J3-2
H1-1
H1-5
H2-3
H2-4
H3-1
350ブルータワー
★ 石田衣良

349少し変わった子あります
★★ 森博嗣

348抱擁家族
★★★★ 小島信夫

347森にめぐるいのち
★★★★ 片山令子 姉崎一馬

346てのひらたけ
★★ 高田侑


著者:  石田衣良
出版社: 徳間書店

  主人公は瀬野周司という男。膠芽腫という生存率が非常に低い悪性の脳腫瘍を発症。超高層マンション55階の一室を、先祖から引き継いだ広い土地と引き換えにして、手に入れますが妻との関係はうまくいっていないし、病気にも苦しめられています。つまり、何もかもうまくいっていないわけです。けれど、苦しみのあまり、いつの間にか200年後の世界に意識がトリップして・・・

  200年後の階級社会における闘争の物語と、現代における物語が交錯します。その未来における支配者の牙城がタイトルにもなっている「ブルータワー」。

  微妙な作品。

  物語があまりにも都合よく進んでいます。その上、最後は綺麗にまとまり過ぎていて嘘くさいです。予定調和なのです。典型的な展開を見せます。安易過ぎるのではないか、と感じてしまいました。その上、どこかで読んだようなありきたりな設定もたくさんあってうんざりします(インフルエンザから発展させた細菌兵器、とか)。

  あと、社会問題に対する著者の態度が気になります。

  きちりと書いている素振りを見せつつも、結局は物語のパーツとして処理しているだけのような感じがして好きになれません。もっと掘り下げて書くか、それが出来ないようならば、エンターテインメント小説として割り切って適当に書いていますというような態度を表明すべきではないか。「真面目に書いているふり」というのは一番悪いと思う(真面目に書いているのに、この浅さだとしたらそれはそれでひどい・・・)

  まぁ何にしてもよく分からないです。


自森人読書 ブルータワー
雨は降らないと思っていたのに、結局雨が降ってしまい。
5月31日(月曜)に順延になりました。

なんということだ・・・

もしも、月曜に雨が降ったら、6月1日(火曜)になります。
自由の森学園体育祭は、とうとう明日。

5/29 体育祭

真っ赤に燃えるぞ青春エキゾチック

ということで頑張らないとなぁ、と思います。

雨が降らないといいなぁ・・・
野尻抱介の短編集『沈黙のフライバイ』を読んでいました。

『片道切符』
テロが横行する中で、火星探査が実現しました。ですが、宇宙にでたあとに帰還するためのロケットが破壊されてしまい、火星へいくことが出来なくなり・・・

『ゆりかごから墓場まで』
C2Gスーツというものが生み出されます。それは排泄物などをすべて食べ物に返還するものでした。スーツは宇宙開発にも利用され、火星への殖民も始まるのですが・・・

『大風呂敷と蜘蛛の糸』
ある女子大学生は、思い付きから、大風呂敷という巨大な凧を生み出します。そして、中間層を探査するべく、上へとのぼっていき・・・

ハードSF。凝られていて、非常に面白いです。


読んだ作品
野尻抱介『片道切符』
野尻抱介『ゆりかごから墓場まで』
野尻抱介『大風呂敷と蜘蛛の糸』


読んでいる最中
小路幸也『東京バンドワゴン』
★★

著者:  森博嗣
出版社: 文藝春秋

  連作短編集。『少し変わった子あります』『もう少し変わった子あります』『ほんの少し変わった子あります』『また少し変わった子あります』『さらに少し変わった子あります』『ただ少し変わった子あります』『あと少し変わった子あります』『少し変わった子終わりました』収録。

  後輩が失踪したため、彼が通っていたという不思議な店を訪ねることにします。そのお店は不思議なお店でした。予約のたびに場所が変わります。しかも、行く度に毎回違う若い女性が食事に相伴してくれます。とはいえ、何かしてくれるわけではなくて、ただ向き合って食べるだけ。時々人によっては会話したりもするのですが、たいていは黙っているだけ。自分はだんだんその店に惹かれていくのですが・・・

  ちょっと幻想的。いかにも森博嗣というような文章と展開。

  「日常というものから少し離れてみたら楽しいのでは?」というメッセージを感じました。だけど、読んでいて非日常というものに捕らわれたら、「ここ」から消えねばならないのではないか、もう「ここ」にはいられないのではないか、というような気もしました。それでも良いならば、非日常にどっぷり嵌まり込めばいいのか。う~ん、どちらが良いのか。

  そういえば、主人公は小難しいことばかり延々と考えています。頭が疲れないのかなぁ。けど、もしかしたらそれが楽しいのかもしれない。

  最後の最後になって、どきっとさせられます。思わぬ仕掛けがあったのです。怖いなぁ。


自森人読書 少し変わった子あります
★★★★

著者:  小島信夫
出版社: 講談社

  大学講師の夫は、ある日妻がアメリカ兵と情事を重ねていると聞いて驚愕。それをどうにかするべく、息子・娘を誘って家事を手伝おうとしたり、米兵と妻を対決させたりしようするのですが、どうしても上手くいきません。何をしても滑稽になってしまうのです。そして彼は家を引っ越すのですが、その途端に妻の乳癌を発見してしまい・・・

  高度成長期の崩壊していく日本の家族を描いた作品、なのか?

  アメリカ的なものが侵入してきて、日本の家父長制をぶち壊していくその様子を陰惨かつ滑稽に描いたものらしいです。あまりにもありきたりな展開をみせるのですが、「それは狙ってやったことだ」と指摘する大江健三郎の解説を読んで、ちょっと納得しました。

  全体的にもやもやして気持ち悪いです。文章に掴みどころがない。展開にも掴みどころがない。悲劇的な雰囲気が最高潮に達すると、それをぶち壊すように何かが起こり、ぐにゃりと悲壮感とかががねじまげられます。凄くもやもやもやもや。隔靴掻痒とはこういうことか。

  最初から最後までなんだか何かがわからない。それは、物語としての論理性が破壊されており(文学を支える「お約束」が通用せず)、そして主語と述語が妙にずれた文体がその支離滅裂な世界を支えているからなのではないかと思いもするのですが明確には理解できなかったです。だけど、そこが作者の持ち味なのではないか、とも感じました。

  カフカの「不条理」と通ずるものがある気がします。いや、もししたら全く逆なのかも知れないけど。カフカの作品では、「自分」と「世界」は断絶しているのですが、小島信夫の作品だと「自分」は「世界」に取り込まれてしまいます。

  最終的に抱擁どころか離散しているし。タイトルはいったいなんだったのか。考えさせられます。

  第1回谷崎潤一郎賞受賞作。


自森人読書 抱擁家族
★★★★

文:   片山令子
写真:  姉崎一馬
出版社: フェリシモ

  『森にめぐるいのち』は小さい絵本。掌に乗るサイズ。

  最初は、大木が倒れたところから始まります。そこから、森の全てのものが、ぐるぐるぐるぐるまわり始めます・・・

  森の循環と言うものを分かりやすく教えてくれる絵本。とはいっても、文章はそもそもあまりないし、その上余分な部分はけずりとられているので全く押し付けがましくありません。さらさらと読めてしまいます。むしろ写真にコメントがついているようなイメージです。

  森の写真がとても綺麗です。どの写真も「良い写真だー」と思わされるような良い写真。あんな写真が撮りたいなぁと思います。

  読んでいたら、思わずこれは全体としてきっちりとしたまとまりがある「完成品」だなぁ、と感じました。まぁ絵本はとにかく見てみないと分からないので、ぜひ手に取ってみてほしいです。自由の森学園では林業などもやっているわけですが、その林業のことが少し理解できるかも知れない。言葉としてではなくて、なんとなく感覚的に。

  おすすめ。


自森人読書 森にめぐるいのち
★★

著者:  高田侑
出版社: 双葉社

  短編集。『てのひらたけ』『あの坂道をのぼれば』『タンポポの花のように』『走馬灯』 収録。幻想小説っぽい雰囲気。都市伝説(未来予知とか、人面犬とか)つていうものはそのままだと嘘くさいから、それをもう少し柔らかな空気に包んでみた感じ。どこか、ひっそりとしています。

  『てのひらたけ』
  てのひらたけという幻覚を見せるキノコがとれる、と聞いた男は山に分け入り、それを食した途端に昏倒。母と娘の一家に助けられ、そこの家のお世話になることに。いつの間にか娘に惹かれていき、婚約しようとまで言い出すのですが・・・

  『あの坂道をのぼれば』
  落ちぶれた男の現状と、そこに到るまでの経緯(女に溺れて家族を捨てた)が交互に描かれていきます。主人公は本当にどうしようもない男だなぁ、と感じました。まぁ仕方ないのかもしれないけど。

  『タンポポの花のように』
  廃墟の遊園地で黄色い帽子を持ち、微笑んだまま死んでいる56歳の女性が発見されます。どうして黄色い帽子を持っていたのか。その謎を解き明かす物語。その女性の人生と、女性の遺体を回収し、死後の処理をしにきた家族の場面が交互に組み合わせられています。

  『走馬灯』
  主人公の男は、兄から「30年前に死んだはずの父をこの頃見かける」と言われ、からかわれているのかと思って怒ります。けど、昔、父は幼い子ども時代の自分に対して、未来を予知するようなことを口走っていたなぁ、ということを思い出し・・・

  なかなか良いです。構成が巧み。しかしどれもこれも、幸福感溢れるハッピーエンドにするところは頷けない。綺麗過ぎるというか。


自森人読書 てのひらたけ
345その日のまえに
★★★ 重松清

34411人いる!
★★★★★ 萩尾望都

343天使のナイフ
★★ 薬丸岳

342蹴りたい背中
★★★★ 綿矢りさ

341冷たい密室と博士たち
★★ 森博嗣
★★★

著者:  重松清
出版社: 文藝春秋

  短編集。『ひこうき雲』『朝日のあたる家』『潮騒』『ヒア・カムズ・ザ・サン』『その日のまえに』『その日』『その日のあとで』収録。

  『ひこうき雲』と、あとは表題作『その日のまえに』が印象に残りました。

  『ひこうき雲』は、小学校時代に、クラスメイトだったガンリュウという女の子が、遠くの病院に行ってしまったことを回想する物語。ガンリュウは、厳しく人を問い詰めてすぐに泣かすような子だったのですが、そんな子であったとしても人です。彼女の病に戸惑い、実感をもてない同級生達は心にもない慰めの言葉を送るのですが・・・

  『その日のまえに』『その日』『その日のあとで』は大切な人を失う「その日」に向けて、どのように歩んでいくのか。「その日」をどのように受け入れるのか。そして、「その日」のあと、どうやっていきていくのか。そう問う連作短編。この物語において、大切な人というのが誰を指すのかと言うと、具体的には妻のこと。夫と2人の息子が残される側。

  それぞれの短編のメッセージはどこか繋がっています。そして、作中の人物同士にも微妙なつながりがあります(『ひこうき雲』に登場した学級委員が、看護師になっていたり)。

  難病や、死とどのように付き合っていくのか。とても難しい問題だなぁ、と思います。人間は誰でもいつか死にます。だから、それはどうしようもないことではあるんだけど、「やっぱりどうしようもない」などという言葉で済ませることは出来ません。どうすればいいのだろうか。けっこう著者が狙って、「死」を演出しているっぽい、というところが分かってしまうのが欠点。

  2006年第3回本屋大賞ノミネート作(5位)。


自森人読書 その日のまえに
萩尾望都の漫画は面白いなぁと思います。

日本の漫画家の中で、一番すきなのは萩尾望都かなぁと思わないでもないです(漫画の神様・手塚治虫は別格として)。

『11人いる!』はとくに好きだけど、『ポーの一族』も、『トーマの心臓』もいいなぁと思います。『バルバラ異界』は、物凄いと感じるし。とにかく、萩尾望都の漫画はどれをとっても面白い、と感じます。本格SFなのだけど、コマ自体が一種の心象風景になっていて、非常に美しいです。じっと見ているだけで、なんとなくひきこまれていきます。

『半神』には感動させられます。16ページの短編なのに、その中につまっているものが、凄い。

だけど、物語が複雑に絡み合っていてよく分からない『銀の三角』も凄くいいし、あとは、『百億の昼と千億の夜』の漫画版も素晴らしい。もう読んでいるだけでしあわせだなぁと感じます。
★★★★★

著者:  萩尾望都
出版社: 小学館


  宇宙大学の入学試験最終科目は、外部との接触を絶たれた宇宙船に乗り込み、10人の乗員全員で協力しながら53日間生き延びる、というものでした。試験開始とともに、宇宙船に乗り込んだ受験生たち。彼らは、衝撃の事態に遭遇します。宇宙船には、10人しかいないはずなのに11人の乗員が乗り込んでいたのです・・・

  SF漫画の傑作。

  いかにもSF作品っぽい設定と雰囲気。それらが最高です。どう表現すればいいのか分からないけど、「本格的」な感じです。SF小説の名作を越えるほどの面白さを持ち、しかも漫画としても良いです。最初読んだときは感動しました。何度読んでも面白いです。

  登場人物が皆魅力的。11人ものキャラクターを描き分けるのは大変だろうに、『11人いる!』は成功しています。

  主人公は、タダとフロルの2人。タダは、テラ系シベリース出身。超能力に近いほどの直観力を持っていてよく動き回るので11人目ではないかと疑われてしまう人。フロルは、辺境出身。女性的な美人なのにべらんめえ調、それで女扱いされると激怒する人です。その他の9人もそれぞれ個性的。僕はとくにヌーが好きです。体中が鱗に覆われている僧の人。

  僕は、『11人いる!』を読み、萩尾望都という漫画家と出会い、全作品読まなくては、と思いました。とにかく面白いです。

  第21回小学館漫画賞受賞作。


自森人読書 11人いる!
★★

著者:  薬丸岳
出版社: 講談社

  主人公は桧山貴志という男。彼は、保育園に通う娘と2人を育てながら日々を過ごしていました。しかし、そこへ突如警察が現れ、貴志がある殺人事件の容疑者となっていると仄めかします。殺されたのは沢村和也。かつて貴志の妻を殺しておきながら、まだ13歳だったがために非行として処理され、裁かれなかった少年でした。桧山貴志は自分が殺したわけではないのに疑われたため、何が起きたのか自分で調べようとします。すると・・・

  第51回江戸川乱歩賞受賞作。つまり著者のデビュー作。

  社会派ミステリに分類されるような作品。

  ものすごく重苦しい空気を発しながら、少年法の問題点について追求していきます。そこらへんの生真面目さは非常に良かったです。とても考えさせられました。なんでも良いからとにかく裁けという主張には違和感を覚えるけど、少年が人を殺しても非行として処理されることに違和感を覚える被害者・桧山貴志の考え方にも一理あるかも知れない。

  けど厳罰化すれば良い、というわけでもないと思います。本来、刑罰と言うのは被害者の個人的な報復の意思を満足させるためだけのものではないはずです。加害者に反省を促したり、事件の再発を防いだり、そういう側面もあります。だから「少年犯罪が激化しているから、それを抑止するために厳罰を加えよう」というふうになるわけです。でも少年犯罪は年々減っています。だから、刑罰の強化を目指す人たちの主張は支離滅裂といえます。被害者の声だけに耳を傾けてはいけないのではないか。

  『天使のナイフ』は、全体としての完成度が高かったです。ただし、だからといって面白いとは限らないわけで。物語の展開が少し御都合主義的ではないか、と感じました。もうどこもかしこも犯罪だらけ。登場人物のほとんど全員がなんらかの犯罪の被害者か、もしくは加害者というような状況です。終盤に入るとドミノ倒しみたいになっていきます。


自森人読書 天使のナイフ
『沈黙のフライバイ』
野尻抱介の短編集『沈黙のフライバイ』を読んでいる最中。

『沈黙のフライバイ』
H-IIAロケットで恒星間探査機を打ち上げようとしていました。しかし、謎の有意信号が送られてきて・・・

『轍の先にあるもの』
2001年、NASAの小惑星探査機が、一枚の写真を撮影します。著者はその写真に惹かれ宇宙へ飛び出していき、小惑星エロスへ赴くのですが・・・

生粋のSF小説。

野尻抱介の作品は、SFファンの心をくすぐります。SFの古典を意識しつつ、それを巧みに活かしているからです。温故知新という言葉が適切かも知れません。しかも、現代の科学に関連することが綴られています。だから、読んでいて、興味を持てます。

設定が先行しているため、その他の部分はあっさりしていますが、何よりSFへの愛が感じられるし、未知の世界への願望のようなものも感じとれます。それが良いです。


読んだ作品
野尻抱介『沈黙のフライバイ』
野尻抱介『轍の先にあるもの』


読んでいる最中
野尻抱介『沈黙のフライバイ』
小路幸也『東京バンドワゴン』
★★★★

著者:  綿矢りさ
出版社: ポプラ社

  高校に入学したばかりのハツは、「グループ」というのが嫌でクラスの中で孤立してしまいました。そんな中、同じようにクラスの余り者と化していたにな川と喋るようになります。にな川は女性ファッション誌で活躍している女性モデル、オリチャンの熱烈なファン。ハツは、にな川に対して友情なの恋情なのか優越感なのか、よく分からない微妙で複雑な感情を抱くのですが・・・

  読んでいると少しむず痒い気もするけど、良いです。

  異物を排除する作用を持つ教室と言う閉鎖空間において孤立したもの同士が手を取り合う物語なのだろうか。けど、そう簡単にはいきません。

  ハツにとってにな川という存在は、自分の鏡みたいな存在なのかも知れません。ハツは、にな川のことを軽蔑しているようでもあります。でも、同程度の人間だと思うからこそにな川に共感も出来るし、にな川と一緒に過ごすこともわけで・・・ そこらへんの感情の揺れ動きが、絶妙の按配で描かれています。

  「良い話」だということで大人が推薦している(推薦図書とかになっている)けど、決して「良い話」ではないと僕は感じました。もう少し深く人間のエゴとかを抉り出しています。まぁ「良い話」だという誤解が広まれば、いろんな人が読んでくれるし、別に悪くはないのかも知れないけど、そういう意味ではなくておすすめの作品です。

  第130回芥川賞受賞作。綿矢りさは芥川賞を当時19歳で受賞。今のところの史上最年少記録となっているそうです。


自森人読書 蹴りたい背中
★★

作者:  森博嗣
出版社: 講談社

  S&Mシリーズの第2巻。

  犀川と萌絵は、犀川の同級生にして同僚の喜多北斗に誘われ、「極地環境研究センタ」を訪れます。極地研では氷点下20度という低温の状態で様々な実験が行われていました。犀川たちが訪れたその夜、衆人環視かつ密室状態の冷たい実験室の中で、男女2人の院生が刺殺されているのが発見されます。さて、いったい何が起こったのか・・・?

  非常に普通のミステリ作品。オーソドックス。

  『すべてがFになる』では、非常に特殊(かつ異様)な環境で事件が発生したわけですが、今回はもう少し普通。またまた密室なところは普通とはいえないけど。

  ただし森博嗣らしさは発揮されています。やっぱり理系ミステリ。そういう雰囲気の会話と登場人物たちが良い感じです。ミステリというよりは、軽い小説として楽しめます。とくに会話には、コミック的な軽妙さがあります。

  犯人の動機は、ありきたりで俗的。納得できそうな感情的なものです。たいてい、犯人は「狂気」を孕んでいることが多い森博嗣ミステリの中では少し普通であることが異質かもしれません。まぁこういうのもたまには悪くないかもしれない。


自森人読書 冷たい密室と博士たちDoctors in Isolated Room
『新参者』
連作短編集。『第1章 煎餅屋の娘』『第2章 料亭の小僧』『第3章 瀬戸物屋の嫁』『第4章 時計屋の犬』『第5章 洋菓子屋の店員』『第6章 翻訳家の友』『第7章 清掃屋の社長』『第8章 民芸品屋の客』『第9章 日本橋の刑事』によって、構成されています。

ミステリ小説。

加賀恭一郎シリーズ。今回、加賀恭一郎は、着任したばかりの日本橋で、殺人事件に遭遇します。40代の女性が絞殺されたのです。彼女はなぜ殺されたのか。どうやって殺されたのか。誰に殺されたのか。

加賀恭一郎は、その殺人事件の謎に挑むため、まずは、周辺で巻き起こる様々な出来事を調べていきます。そして、その出来事が孕む謎を、一つずつ解き明かしていきます。些細な謎も多いのだけど、時にはそれが、誰かの温かな気持ちや、密やかな思いやりを明らかにします。

東野圭吾は、非常に巧み。

読んでいて、ほっとさせられます。人の怖さだけでなく、温かさが綺麗に描き出されています。大仰ではないのだけど、それが良いです。

とはいえ、圧倒的というわけでもありません。なんというか、おさまりが良いので、かえってすーっと抜けていきます。薄味、というか。


読んだ本
東野圭吾『新参者』

読んでいる最中
野尻抱介『沈黙のフライバイ』
小路幸也『東京バンドワゴン』
『人間以上』
白痴の青年は、言葉を持たず、笑わず、泣かず、ただ放浪しています。ですが、テレパシー能力を持っていたので生きることはできました。しかし、あるとき、ゆがんだ父に育てられたために善と悪を知らない女性に出会い、変貌します。その後、彼は子供を待ち望む夫妻に引き取られます。そこで、ひとりぼっち(オール・アローン)と名乗るのですが、正確に発音することはできず、ローンと名付けられます。それから、彼はジャニィ、黒人の双子、赤ん坊に出会うことになります。ジャニィはテレキネシスを持ち、双子のボニイとビーニイはテレキネシスを持ちい、そして、赤ん坊は計算機のような頭脳を持っています。彼らは、社会の爪弾きでしたが、結びつくと強力になり・・・

SF小説。

登場人物たちは、みな、少しだけ異常です。何かが欠けているか、あるいはありすぎるのです。だから、孤独です。他人とつながることができません。そして、人間からはずれてしまいます。

人間の範疇におさまらないものたちまで、登場します。それが、ホモ・ゲシュタルト「集合人」です。それは、人間に似ているけれど、人間ではありません。ホモ・ゲシュタルトは、複数の人間によって構成されています。しかし、それ全体で、一つなのです。各々のパーツは、交換が可能です。

最後の辺りでは、道徳と品性について、考察されています。生存のためのおきてや、流れを感じるための何かが必要なのかなぁ。考えさせられます。

楽天的ともいえる、美しいラストが印象的。

シオドア・スタージョンは、いつでも、孤独と、つながりに関することを、書いているのかも知れない、と感じます。

国際幻想文学賞受賞作。


読んだ本
シオドア・スタージョン『人間以上』

読んでいる最中
野尻抱介『沈黙のフライバイ』
小路幸也『東京バンドワゴン』
そういえば、関東ブロックフボコンは、6月12・13日にあります。
  1500円/1日(バス代 駐車料金含む)※2日間だと3000円
  ※生徒は無料


今回は、自由の森学園の授業が体験できるということで。

「自由の森学園の合唱(音楽)」
「間伐して森も人も元気になろう!(林業)」
「世界を「他人ごと」から「自分ごと」にするには?(社会)」
などがあります。

あとは、
「未来の食卓 自由の森学園バージョン」ということで。
自由の森学園の食堂に関する講座もあります。

13日の記念講演は、大田尭さん。
昔、自由の森学園の理事だった人だそうです。
自由の森学園尽くし、という感じ。
ウェブサイトhttp://jimoren.my.coocan.jp/
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