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自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
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★★★★

著者:  米澤穂信
出版社: 角川書店

  何事に対しても消極的な立場をとり、「省エネ主義者」を自認する折木奉太郎は、高校に入学した後、外国から手紙をよこす姉の手紙がきっかけで「古典部」に入部。実はこの3年間入部者が皆無だったため潰れかけていたのですが、彼の入部によって古典部は廃部をまぬがれます。彼は、1人で呑気にしていようと思っていたのですが、些細な謎にも異常な関心を示す少女・千反田えるが入部してきたことで状況は一変。さらに、奉太郎にとって親友にして宿敵でもある福部里志が加わります。

  彼らは、古典部伝統の文集はなぜ『氷菓』と名づけられたのか考えることで、33年前におきた「ある事件」の謎にも挑むことになります・・・

  なんとなく全体的に地味な印象を受けます。わざと大きなところをはずして、小技で固めているみたいな感じです。少し退屈な気分になりますが、読み始めたならば最後まで読んだ方が良いと思います。そうしないと、米澤穂信の良さは分からない。

  ラスト、『氷菓』の意味が判明した時、衝撃を受けました。薄ら寒いです。

  主人公、折木奉太郎は「灰色」の青春を送ろうとしている男なのですが、同じように作者もけっこうひねくれている感じがします。そこが良いです。

  第5回角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞受賞作。米澤穂信のデビュー作。〈古典部〉シリーズの第1作目。


自森人読書 氷菓
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370きのうの世界
★★★ 恩田陸

369殺人喜劇の13人
★★★ 芦辺拓

368足利義昭
★★ 筑波常治

367なにもしてない
★★ 笙野頼子

366いつか王子駅で
★★★★ 堀江敏幸
★★★

作者:  恩田陸
出版社: 講談社

  物語の舞台は縦横に水路が入り乱れ、3本の塔がたつM町。その町に、失踪したと思われていた男、市川吾郎が現れ、少しの間生活した後、町の水無月橋にて殺されます。いったいどうして彼は殺されてしまったのか。謎が謎を呼び、何もかもが判明しません。その内、作品の舞台となっている町自体が、謎を孕んでいることが発覚し・・・

  中盤まではぐいぐい惹きつけられました。ですが、恩田陸作品らしく、そのままクライマックスに突入! とはなりません・・・

  じょじょに、殺人事件の解決が物語の主題ではなくなっていきます。しかも物語の語り手が、どこまで信用できるか不明なので混乱します。もうフェアとか、アンフェアとかそういう次元を超越しています。一般のミステリー小説の範疇からはずれた作品。

  とくに、一番最後の章(落ち)には愕然としました。なかったほうが良かったかも知れない、とさえ思いました。殺人の謎を未解決のままにしておいたら、読者は怒るだろうけど、「これはミステリではない、不条理小説だ」というふうに納得してくれたのでは・・・? いや、それでは消化不良か。

  けど、この『きのうの世界』のラストだって全くすっきりしません。

  読後空虚な気分に陥ります(それが恩田陸作品を読む楽しみでもあるのだけど)。最後で拍子抜けする、いかにも恩田陸らしいミステリ。


自森人読書 きのうの世界
★★★

著者:  芦辺拓
出版社: 集英社

  ミニコミ誌「オンザロック」をともにつくっている13人の学生達は、元病院の古びたアパート「泥濘荘」を借りてそこに下宿していました。12月のある日、彼らは地下レストランに繰り出し、アイドル並みの美貌を誇る水松みさとらも加えて忘年会を行い、楽しみます。しかし、十沼が「泥濘荘」に帰ると、鯖田の死体がぶらさがっていて・・・

  凝ったミステリ小説。吊り首、毒死、枕刺しなどなどいろんな方法で人間が次々と殺されていきます。しかも、密室で。あまりにもたくさん人が殺されます。もう誰が誰だかわからないくらい。登場人物が全員死んでしまうのでないか、と不安になりました。

  二部構成。

  第一部は十沼の手記という体裁をとっています。散漫で、ぐちゃぐちゃな印象を受けました。二部は多分、もう少し客観的な視点から書かれています(それでもやっぱりごちゃごちゃしていますが)。探偵、森江春策が本格的に登場するのは二部になってから。

  たくさんでてくる謎はけっこう面白かったけど、最後の辺りの謎解きには唖然とします。そんなに都合良くいくか、と言いたくなりました。あと、文章がガサガサしていたのが気になりました。アクが強い、といえばいいのか。とにかく読みづらいです。物語自体はなかなか面白いのに・・・

  第一回鮎川哲也賞受賞作。芦辺拓のデビュー作。


自森人読書 殺人喜劇の13人
★★

著者:  筑波常治
絵:  坂本玄
出版社: 国土社

  「堂々日本人物史―戦国・幕末編」シリーズのなかの1冊。子ども向けのものです。僕は、偶然地元の図書館にあったこのシリーズを通して日本の戦国・江戸時代の詳しい流れを知るようになりました。なので、このシリーズには愛着があります。

  足利義昭は、周辺の三好氏などに篭絡されて室町幕府(足利家)が失ってしまった権威と権力を取り戻すため画策した足利家の人です。落ちぶれていろんなところを放浪しますが、当時勃興してきていた強大な織田信長を頼ります。そして、彼に保護され、彼と組んで京都に入り、室町幕府最後の将軍となりました。ですが、今度は織田信長と対立し、彼を追い落とそうとして画策。失敗して追放され、そうしてとうとう室町幕府は滅亡してしまいます・・・

  物語は、足利義昭が僧侶となった晩年の場面から始まります。そこが印象的でした。

  旧体制を立て直そうとしながら失敗し、結局織田信長の天下取りを大きく助けることになってしまった一生涯。悲惨だし、本当に大変だったろうなぁ、と思います。まぁ足利義昭自身、相当な謀略家だったようなので、可愛そうとは思わないけど(自業自得ともいえる)。

  もしも彼のような立場におかれたら、誰だって彼のように権威と権力を追い求めてしまうのではないか、と僕は思いました。文化人となって茶道などの世界に没頭する、という逃げ道もあるにはあるけど、周りからせっつかれてそれはそれで過酷な道だったのではないか。


自森人読書 足利義昭
★★

著者:  笙野頼子
出版社: 講談社

  笙野頼子の短編集。『なにもしてない』『イセ市、ハルチ』収録。

  『なにもしてない』
  ナニモシテナイ自分に対して納得できない私。彼女は、接触性湿疹が発症したのに病院へ行かず、病気を悪化させてしまいます。どうやら彼女はもう30なのに、独身だということに滅入っているようです。そんな日々の中に、天皇即位式がからんできて・・・ 接触性湿疹と天皇即位式が並列して書かれています。第13回野間新人賞受賞作。

  『イセ市、ハルチ』
  故郷であるイセ市ハルチに帰ってきたのに、妙に違和感がぬぐえない私。そこが本当に実在しているのかが彼女には分からないのです。そんな中で、彼女は伯母アイとのかつての忌まわしい関係を思い出していくのですが・・・

  笙野頼子の第1小説集。

  いったい『なにもしてない』という作品は、どういうふうに解釈すれば良いのか。社会の中心に立とうとしている天皇と、社会の片隅で病んでいる私とを対比しているのだろうか。そういうふうには全然読めないのですが・・・ もしかしたらそこに横たわる断絶を描いているのかも知れません。『イセ市、ハルチ』は故郷帰りの物語。人、とくに女が徹底的に束縛されていた街で幻想を見る主人公は苦しそうです。

  読んでいたら、なんだか気分が滅入りました。

  主人公の女性の欝な気分が乗り移ってきます。笙野頼子の文章は非常に読みにくいです。しかも重いし、よく分からない。なんというかずっと水の中に沈んでいるような感じ。まぁそういうふうな感想を抱かせる笙野頼子と言う人は凄いけど、とにかく読むのが辛かったです。それ以外感想を思いつかない。僕は純文学が読めないなぁ、と感じました。


自森人読書 なにもしてない
★★★★

著者:  堀江敏幸
出版社: 新潮社

  時間給講師の私は、昇り龍を背負った印鑑職人の正吉さんと偶然知り合います。2人は居酒屋「かおり」で同じ珈琲を飲みつつ、少しだけ言葉を交わすような仲でした。そんなある日、正吉さんが大切な人に印鑑を届けるといったきり姿を消します。彼は「かおり」に土産のカステラの箱が置き忘れたままでした。それを私は預かるのですが、正吉さんは帰ってきません。それでも私の日常は続いていきます。大家の米倉さんと一緒に酒を飲み、その娘の咲ちゃんには勉強を教え、時には翻訳の仕事をし、競馬と昔の小説(島村利正の短篇集『殘菊抄』のはなしが出てきたりする)についていろいろ考えたりしながら、1日1日はさらさらと流れていきます・・・

  『サアカスの馬』(教科書に載っている作品)について書いてある部分とか、面白かったです。あと『スーホの白い馬』が登場したときは懐かしくなりました。

  長い文章が多いです。それらの文章は、一度読んだだけでは意味を汲み取れないこともあるのですが、だからこそ味わいがあります。お手本にしても構わないような名文かどうかは分からないけど、僕は好きです。とても流暢でさらさらした感じがします。

  読んでいていかにも純文学っぽい、と僕は感じました。純文学特有の「訳分からなさ(大江健三郎や、笙野頼子みたいなとっつき難さ)」はないです。とはいえ、どんどん読み進んでいけるような軽い文章ではありません。

  とにかく淡々としています。けど面白くて読みたくなります。落ち着いた慎ましい雰囲気が良いのかもしれない。「風雅」という言葉を思い浮かべます。


自森人読書 いつか王子駅で
『貧困と愛国』
『貧困と愛国』は佐高信、雨宮処凛の対談を収録したもの。貧困が論じられています。しかし、硬くないです。面白いエピソードが多いからです。二人の発言は生き方とつながっているから説得力があります。

二人がどういうふうに生きてきたのか、ということがわかって、非常に面白いです。二人ともけっこう過激です。だから、枠に収まることがありません。できないといっても良いかもしれません。


読んだ本
佐高信、雨宮処凛『貧困と愛国』
この頃、自由の森学園のことを全然書いていませんが、そういえば、9月1日から始まりました。
そういえばもなにもない気もしますが。

学園祭の話し合いが進んでいる最中。
授業のまとめもそろそろ始まります。
365名もなき毒
★★ 宮部みゆき

364火車
★★★★★ 宮部みゆき

363人のセックスを笑うな
★★★ 山崎ナオコーラ

362つきのふね
★★★★★ 森絵都

361ブラザー・サン シスター・ムーン
★★ 恩田陸
★★

作者:  宮部みゆき
出版社: 幻冬舎

  犬の散歩に出掛けた老人が、コンビニで買った烏龍茶を飲んで突如として死亡しました。連続無差別毒殺事件の4人目の被害者ではないか、と疑われたのですが、警察は別の見方をしました・・・

  今多コンツェルンの広報室では、原田いずみという女性をアルバイトとして雇います。彼女は編集経験があると自称していましたが、編集のことについて全く何も知らないようでした。しかもとんでもないトラブルメーカー。些細なことで激昂し、人を罵り、傷つけました。会社側は彼女を解雇します。ですが、それに対しても彼女はクレームをつけてきました。広報室の杉村三郎は、彼女の対応をまかされるのですが翻弄されてしまい、北見という「探偵」のもとを訪ねます。その時、美知香という被害者の少女と出会い、毒殺事件についても調べだします。そうして杉村三郎はいろんな事件に関わっていくことに・・・

  「現代ミステリ」と銘打たれています。

  原田いずみという女性の存在感が物凄いです。彼女は勝手に物語をつくりあげ、他人を悪人に仕立て上げる天才。こういう人、いるよなぁと思いました。いらいらしました。

  そして、宮部みゆきは、やっぱり凄い人だと感じました。

  『名もなき毒』では、社会のゆがみ(すなわち「毒」)によって生み出され続ける、掴みどころのない今の犯罪を上手に切り取ってみせます。読み応えがあります。けど、どちらかといえば、昔の作品(『火車』、『理由』)の方がより凄かった、というより好きだったと僕は感じました。2つの事件を同時に扱っていくことに意味が感じられなかったです。もう少し絡めて欲しかったような気もします。

  登場する子どもが可愛いです。

  2007年第4回本屋大賞ノミネート作(10位)。


自森人読書 名もなき毒
★★★★★

作者:  宮部みゆき
出版社: 新潮社

  怪我を負って休職中の刑事、本間俊介は遠縁の親戚、栗坂和也に依頼され、彼の婚約者、関根彰子の行方を捜すことになります。簡単な仕事かと思いきや、彼女の行方は追えば追うほど、霞に隠れてしまいます。どうやら彼女は徹底的に痕跡を消し去り、自らの意思で失踪したらしい、ということが分かりました。いったいなぜ彼女は去らねばならなかったのか? 彼女は何者なのか?

  ラストがあまりにも印象的。

  社会派ミステリ。クレジットカード社会の現実をきちりと取り上げた作品。随分と分厚いのですが、消費者金融というものや、自己破産という考え方や、ローン地獄という状態を丹念に書こうとすれば、長くなるのは当然のような気がします。

  だから社会の勉強のような難しい説明も含まれています。けれど、宮部みゆきはやはり読みやすいです。物語を追っていけば理解できるようにきちりと構成されているからだと思います。様々な事実がじょじょに明らかにされていく過程は非常に楽しめます。

  サスペンス小説としてもなかなかです。「関根彰子」を騙る女性の壮絶な人生には気迫迫るものがあります。頑張ってと少しだけ言いたくなりました。

  ミステリ史上に残る名作。第6回山本周五郎賞受賞作。『このミステリーがすごい! 1988年-2008年版 20年のベスト・オブ・ベスト』第1位にもなっています。


自森人読書 火車
★★★

著者:  山崎ナオコーラ
出版社: 河出書房新社

  39歳の女性教師ユリと、彼女に惹かれた19歳の磯貝みるめ/オレの物語。。ユリの目尻がかわいいと感じるオレが物語を語ります。2人とも不器用で、相手を満足させられているか分からなくて、セックスもうまくなくて、けれどとても仲良くしていたのですが・・・

  第41回文藝賞受賞作。芥川賞候補作。絶賛された作品。

  強烈な著者名とタイトルに比べて、中身は普通。もっと奇想天外な作品だろうと予想していたのに普通の恋愛小説でした。2人の年齢差もそれほど強調されていないし、とくに新しい工夫もないし。まぁ凄い、と感じる部分はとくになかったです。

  だけど、これがデビュー作というのは凄いことかもしれない。たわいない恋愛をそのまま1つの小説にまとめることは、想像以上に困難な作業のような気もします。どういう塩梅にすればぴったりくるか。そこの加減が難しそうです(あんまり悲劇だと煽っても白けるし)。

  文章はスカスカ(わざとなのだろうけど)。しかも短いので、とにかく読みやすいです。面白いと思う描写は結構ありました。

  全体的に淡白だし、爽やかです。あんまり多くを語らない文章が効果的なのかも知れない。

  映画化もされているそうです。


自森人読書 人のセックスを笑うな
★★★★★

著者:  森絵都
出版社: 講談社

  主人公はさくらという中学生の少女。彼女はあることをきっかけに親友、梨利と仲違いしてしまいました。その後、梨利は危ない犯罪に手を出していきます。梨利のことが好きな勝田という少年は、それを心配し、さくらを追い回して「梨利を助けてあげてよ」と懇願。

  一方、さくらは、智さんと出会います。智さんは、自室で全生物をのせることが可能な宇宙船の設計図を書こうとしている青年。彼の部屋は、全てのものから解き放たれた安全な隠れ家でした。さくらは智さんの家に入り浸ります。そんなある日、「真の友 四人が集いし その時/月の船 舞い降り 人類を救う」という古文書を発見し・・・

  あまり好みの作品ではなさそうだなぁ、と思いつつ手に取りました。

  しかし、面白かったです。全体的に、少しエキセントリックな雰囲気が漂っています。作品そのものもまだ綺麗に整理されてはいないように感じられます(後の『永遠の出口』などと読み比べるととくに)。しかし、その不安定さが登場人物たちの心情の中とマッチしている気がします。

  辛い現実(自分の状態とか、友達の犯罪とか)とファンタジックな空想が絡み合い、ぐちゃぐちゃになりつつも、危うい均衡を保っています。

  そして、最後には綺麗に物語が収束していきます。辛いことや哀しいことも(決して心地よいものではないし、良いものでもないけど)、その地点にたどり着くためには必要だったのかも知れない、と思わされます。不安定だけど、そこが面白いと思える青春小説。


自森人読書 つきのふね
★★

著者:  恩田陸
出版社: 河出書房新社

  なんだかよく分からないので、何にも期待しないで読みました。何かありそうで何も無い、という恩田陸の見事な技にひっかけられたくないので。

  それなりに面白かったです。それぞれ小説家、音楽家、映画監督になっていった、3人の男女が、自分なりに大学生活を振り返るというもの。彼らどうしには、少しだけ関わりがあります。だけど何かあるか、といえば別にどうということもない関係(蛇が落ちてきた幻覚を一緒に見たとか、そんな感じ)。

  僕はまだ大学に行ったことがないので、そういうものなのかと思いつつ読みました。本書は多分、大学を舞台にした青春小説。

  何かありそうでない、どころか、もうほんと「何もない」です。「大学生活は、無為の4年間だった」って誰かが語るのですが、『ブラザー・サン シスター・ムーン』という作品自体にもその雰囲気が滲み出てきています。読んでも読んでもすーっと抜けていきます。

  ところどころ引っかかる文章や言葉があります。しかし、ふっと気付いたと単にふわっと消えてしまうので、何とも言いようがない。

  なんというか、もう純文学みたいなものです。ストーリーではなくて文章が主体になっているような感じ。決してつまらないことはありません。しかし、恩田陸にはもっと別の方向の作品を書いてほしい、と勝手ながら思ってしまいます・・・


自森人読書 ブラザー・サン シスター・ムーン
『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』
海兵隊員としてベトナム戦争へ赴いたアレン・ネルソンさんの本。

彼は、教室で、ベトナム戦争のことを漫然と語っていたとき、少女から「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」と問われます。ですが、答えられず、苦しみます。そのとき、周囲にしたこどもたちに抱きしめ、戦争を語らねば、と思ったのだ、と書かれています。

ベトナム戦争のことがわかりやすく明快につづられています。読んでいると心が痛くなってきます。


読んだ本
アレン・ネルソン『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』
『狐の書評』
多くの書評が載っています。評者はなんでも読むみたいです。プルーストの『失われた時を求めて』、丸山健二の『野に降る星』などなどが扱われています。

紹介されている本を読みたくなります。非常に良い書評だと感じます。


読んだ本
狐『狐の書評』
もうそろそろ夏休みも終わり。
あんまり本が読めていない、と感じます・・・
『乙女の密告』
物語の舞台は、京都の外国語大学。乙女たちは、スピーチコンテストのとき『アンネの日記』を暗誦するため、毎日必死に練習しています。しかし、みか子はいつでも同じ部分から先が分からなくなってしまいます。彼女は忘れることを恐れます。一方、麗子様は練習を続け、トップに君臨します。彼女は、バッハマン教授との仲が疑われています。バッハマン教授は人形を抱きながら通勤します。そして、『アンネの日記』をロマンティックに語るべきではない、と強調するのですが、乙女たちの間には噂が飛び交い・・・

コミカルな作品、なのか。

『アンネの日記』を暗誦する乙女たちの物語。文章は非常に短いし、登場人物たちは特徴的です。だから、読みやすいです。「少女漫画的ではないか」と指摘している人がいるみたいだけれど、よく分からないです。「少女漫画的」という表現は、すでに様々な場面において、濫用されているからです。

素直に読めば、歴史の彼方にある「他者」の経験を暗誦することによって「わたし」のものにしていく過程が綴られている、ということになるのかも知れません。

日本語とドイツ語に通じる小説家と言えば、多和田葉子を思い浮かべます。通じる部分がないことはない気もします。僕は多和田葉子のほうがはるかに好きだけど。

芥川賞受賞作。


読んだ本
赤染晶子『乙女の密告』
『楽園のつくりかた』
星野優は、一流の名門大学に入りたいと願っている中学生です。彼は、エリート意識を露にして恥じません。しかし、突如として、父親の実家がある田舎へいくことになります。優は、都会の学校を去り、村の分校に転校します。バカ丸出しの地元の子、喋らないマスクの子、美しいおかまの子と同じ学年になりました。星野優はそういった環境を、必死に拒もうとするのですが・・・

主人公は、非常に傲慢な人間です。何に対しても苛立ちを隠しません。全ての人間をバカにしているようです。

しかし、実は、主人公はある事柄を経験したために傷を負っていた、ということが発覚します。しかも、その過去を記憶から消し去るためにとんでもないことを行っているということも分かります。思わず、京極夏彦のミステリを連想してしまいました。

ラストは爽やかです。伏線がみごとに回収されます。

第50回産経児童出版文化賞受賞作。


読んだ本
笹生陽子『楽園のつくりかた』
『Boy’s Surface』
円城塔の短編集。『Boy’s Surface』『Goldberg Invariant』『Your Heads Only』『Gernsback Intersection』収録。読むためには、しっかりと考えないといけません。物語は錯綜しています。

SF小説、なのか。

物語の仕掛け自体は面白いのですが文章は粗雑です。なので、読む気が失せてきます。文章の質があがれば、さらに面白くなると思うのですが、期待は出来ない気もします。

よく分からない気もしますが、用いられている小道具は明らかです。全体的にわざとらしいのです。読んでいて飽きてきます。


読んだ本
円城塔『Boy’s Surface』
『日本の公安警察』
日本の公安警察のことが綴られています。公安警察のルーツや、主な活動が分かります。『日本の公安警察』によると、公安警察は活動費として約四七〇億円の経費を貰っているのに、詳細を明かしていないそうです。そして、全国を監視し、影響を及ぼしています。しかし、左翼・共産党対策にばかり目を向けていたため、オウム事件などが起こったときには公安警察が全く役に立たなかったそうです。

公安警察は、戦前の特高警察の伝統を引き継いでいるのだそうです。つまり、市民のためではなく、国家体制を維持するために存在している組織ということです。

所謂盗聴法が、警察の活動を拡大させている、ということもわかります。


読んだ本
青木理『日本の公安警察』
内田健三『派閥』
主に、自民党派閥の動向が綴られています。少し古くなってしまったけれど、派閥というものが、「党内党」のようなものなのだと分かって、面白いです。内田健三の恩師、丸山真男は、派閥、とくに田中派はヤクザのようなものだと指摘したそうですが、そういったことも書かれています。

内田健三は2010年7月に亡くなったそうです。小選挙区制導入を積極的に推進したそうですが、その結果をどう受け止めていたのだろう。気になります。

講談社。


読んだ本
内田健三『派閥』
『日本文学史序説〈下〉』
加藤周一は、日本文学の歴史を追い、そして、文学者たちの思想や、あり方を明快に分析していきます。「近代文学」に偏ることはありません。その知識の幅広さには、感心させられます。しかも、文章が非常に良いです。明快なのに、その内部は入り組んでいます。簡素なのに、しかも、包括的なのです。惹き込まれていきます。

「第十章 第四の転換期 下」では、まず吉田松陰が扱われます。「吉田松陰の思想には独創性がなく、計画には現実性がなかった」にも関わらず、吉田松陰は詩人だったが故に、周囲の若者たちに理想を吹き込みます。

その後、福沢諭吉と中江兆民が扱われます。徹底した「西洋化」を目指した福沢諭吉は、その良さと同時に、悪さもを取り込み、一方では体に染み付いた漢籍を活かした文体を生みだしたのだそうです。彼は、自立を訴え、政府を遠くから支持しました。一方、中江兆民は自由民権のために闘います。彼の視野の広さは素晴らしいです。

そういうふうにして、様々な人物が扱われていくのですが、文章は全く乱れません。加藤周一の頭脳は、辞書のようです。しかも、読み物としても面白いです。

『日本文学史序説』を読んでいると、日本文学の歴史が分かります。

全く別の視点を用意することも可能ではあるし、特定の部分に関して反論することはできるかも知れません。しかし、加藤周一の幅広さには敵わない気がします。


読んだ本
加藤周一『日本文学史序説〈下〉』
ウェブサイトhttp://jimoren.my.coocan.jp/
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