★★
著者: 志水辰夫
出版社: 新潮社
主人公は、かつて教え子に手を出して学校から追放された元教師・波多野和郎。彼は、現在では塾の講師をしていたのですが、教え子が失踪したため、再び東京へ戻り、教え子を探し出そうとします。しかし、彼には致命的な過去があったため捜査ははかどりません。そんな中、現在の事件と過去の事件が絡み合い、意外な展開を見せ・・・
いまいち主人公に共感できなかったです。やっぱりハードボイルドは合わないなぁ。なんというか、自分勝手な痩せ我慢はする癖に結局ハッピーになって希望のもの(例えば、女)を手に入れる主人公があんまり好きになれないです。男のための「願望小説」と言われてもしょうがない。
とくに『行きずりの街』はその色が濃いです。「高校の教員が生徒を自分の色に染めて自分のものにするが、結局破綻。けれど再びよりを戻す」という物語なので。そういう筋書きにするために、あまりにも都合よく物語が展開していくので、そこが笑えます。そこを、上手な広げ方と捉えるか、都合良すぎると捉えるかで、物語への評価は大きく変わるだろうなぁ・・・
バブル真っ盛りの東京の風景を描写している部分は、読んでいて非常に面白かったです。今ではもっと荒廃している、のだろうか。それともそれなりに何かができつつあるのか。それにしても「東京」という都市は面白いなぁと感じます。色んな小説家を強く惹きつけるようです。
あとは、新たな学校を設立する時にはとにかく金を集めて、横流しして、それで権力を持つ人を後ろ盾にしないといけない、という記述には溜息をつきたくなりました。自由の森学園はそういうルートを取らなかったから、大変なのだろうなぁ。
ぎちりとした緻密な文章は読みやすくはないけど、良いです。
自森人読書 行きずりの街
著者: 志水辰夫
出版社: 新潮社
主人公は、かつて教え子に手を出して学校から追放された元教師・波多野和郎。彼は、現在では塾の講師をしていたのですが、教え子が失踪したため、再び東京へ戻り、教え子を探し出そうとします。しかし、彼には致命的な過去があったため捜査ははかどりません。そんな中、現在の事件と過去の事件が絡み合い、意外な展開を見せ・・・
いまいち主人公に共感できなかったです。やっぱりハードボイルドは合わないなぁ。なんというか、自分勝手な痩せ我慢はする癖に結局ハッピーになって希望のもの(例えば、女)を手に入れる主人公があんまり好きになれないです。男のための「願望小説」と言われてもしょうがない。
とくに『行きずりの街』はその色が濃いです。「高校の教員が生徒を自分の色に染めて自分のものにするが、結局破綻。けれど再びよりを戻す」という物語なので。そういう筋書きにするために、あまりにも都合よく物語が展開していくので、そこが笑えます。そこを、上手な広げ方と捉えるか、都合良すぎると捉えるかで、物語への評価は大きく変わるだろうなぁ・・・
バブル真っ盛りの東京の風景を描写している部分は、読んでいて非常に面白かったです。今ではもっと荒廃している、のだろうか。それともそれなりに何かができつつあるのか。それにしても「東京」という都市は面白いなぁと感じます。色んな小説家を強く惹きつけるようです。
あとは、新たな学校を設立する時にはとにかく金を集めて、横流しして、それで権力を持つ人を後ろ盾にしないといけない、という記述には溜息をつきたくなりました。自由の森学園はそういうルートを取らなかったから、大変なのだろうなぁ。
ぎちりとした緻密な文章は読みやすくはないけど、良いです。
自森人読書 行きずりの街
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★★★★★
著者: 恩田陸
出版社: 新潮社
夜を徹して八十キロを歩き通す、高校生活最後の大イベント「歩行祭」がやってきました。貴子は小さな賭けをします。これまで3年の間果たせなかった「あること」を歩行祭の時に実行しようとしたのです。重くのしかかる疲労、押し寄せる感傷、周囲の友達の誤解の中で、ゴールはじょじょに迫ります。貴子は、親友達と歩きつつ語らい、楽しみながらも焦ります・・・
恩田陸は、大風呂敷を広げておいて、最後には読者を落胆させたり、煙に巻いたりすることがよくあります。カタルシスを与えない訳です。しかし、『夜のピクニック』は「ただ歩くだけ」の青春小説なので、期待をはずされることがありません。
恩田陸は本当に凄い、と読んでいて感じました。
「ただ歩くだけ」の歩行祭を長編小説にしたら、普通は単調になってしまいます。『夜のピクニック』にも、けっこうだるい部分はあります。しかし、恩田陸はいつもの如く「謎」で物語を引っ張りつつ、魅力的なキャラクターを上手に配置して「甘美で切ない青春」を描き出し、読者を惹きつけます。
全体的に、ちょっとこそばゆいです。西脇融と戸田忍、甲田貴子と遊佐美保子といった登場人物も格好良すぎる気もします。でも、少しずつ負の面も見せていき、そして最後にぽんと物語を放り出すことで、その恥ずかしさも解消してしまいます。それで余韻にひたれるわけです。凄く上手い。
2005年第2回本屋大賞、第26回吉川英治文学新人賞受賞作。映画にもなっています。そちらも良かったです。
自森人読書 夜のピクニック
著者: 恩田陸
出版社: 新潮社
夜を徹して八十キロを歩き通す、高校生活最後の大イベント「歩行祭」がやってきました。貴子は小さな賭けをします。これまで3年の間果たせなかった「あること」を歩行祭の時に実行しようとしたのです。重くのしかかる疲労、押し寄せる感傷、周囲の友達の誤解の中で、ゴールはじょじょに迫ります。貴子は、親友達と歩きつつ語らい、楽しみながらも焦ります・・・
恩田陸は、大風呂敷を広げておいて、最後には読者を落胆させたり、煙に巻いたりすることがよくあります。カタルシスを与えない訳です。しかし、『夜のピクニック』は「ただ歩くだけ」の青春小説なので、期待をはずされることがありません。
恩田陸は本当に凄い、と読んでいて感じました。
「ただ歩くだけ」の歩行祭を長編小説にしたら、普通は単調になってしまいます。『夜のピクニック』にも、けっこうだるい部分はあります。しかし、恩田陸はいつもの如く「謎」で物語を引っ張りつつ、魅力的なキャラクターを上手に配置して「甘美で切ない青春」を描き出し、読者を惹きつけます。
全体的に、ちょっとこそばゆいです。西脇融と戸田忍、甲田貴子と遊佐美保子といった登場人物も格好良すぎる気もします。でも、少しずつ負の面も見せていき、そして最後にぽんと物語を放り出すことで、その恥ずかしさも解消してしまいます。それで余韻にひたれるわけです。凄く上手い。
2005年第2回本屋大賞、第26回吉川英治文学新人賞受賞作。映画にもなっています。そちらも良かったです。
自森人読書 夜のピクニック
★★★★★
著者: 桜庭一樹
出版社: 東京創元社
鳥取県紅緑村の旧家、赤朽葉家を描いた大河小説。三部構成。
第一部は瞳子の祖母・万葉が主人公。彼女は、山の子として生まれながら普通の若夫婦に拾われて育てられます。その後、旧家・赤朽葉家に嫁入りして、「千里眼奥様」と呼ばれるようになります。第二部は瞳子の母・毛毬が主人公。万葉・曜司の間に生まれた長女。暴れん坊で美人。レディース(暴力団)の頭として中国地方を駆け巡るのですが・・・ 第三部は瞳子自身が主人公。彼女は何事にもやる気を見出せないフリーター。祖母・万葉の衝撃的な告白を受けて、動揺するのですが真実を探し当てようとします・・・
文章が結構読みづらくて疲れたけど、非常に面白かったです。これまで読んできた桜庭一樹作品の中では一番良かったかも知れない。こういう大河小説が好きなので、堪らなかったです。欠点もあっただろうけど、それほど気になりませんでした。桜庭一樹の最高傑作なのではないか。
桜庭一樹は、よく「時代がどうのこうの」と問います。これまでの作品ではそれがいまいちしっくり来なかったのですが、この大河小説『赤朽葉家の伝説』にはマッチしていました。あまりにも通俗的かつありきたりな解釈でまとめてしまうので、(大学紛争を繰り広げたのは澱んだ目をした哀しい学生達とか、最近の若者は何事にもやる気を見出せない、とか)もう少し捻れないのか、とも思ったけど、そこは本筋ではないから別にどうでも良いか。
赤朽葉タツのネーミングセンスが最高です。泪(なみだ)、毛毬(けまり)、鞄(かばん)、孤独(こどく)って、孫達に名付けるなんて凄すぎる・・・
そして、毛毬の大活躍はおかしいです。
第60回日本推理作家協会賞長編及び連作短編集部門受賞作。2008年第5回本屋大賞ノミネート作(7位)。直木賞候補作。
自森人読書 赤朽葉家の伝説
著者: 桜庭一樹
出版社: 東京創元社
鳥取県紅緑村の旧家、赤朽葉家を描いた大河小説。三部構成。
第一部は瞳子の祖母・万葉が主人公。彼女は、山の子として生まれながら普通の若夫婦に拾われて育てられます。その後、旧家・赤朽葉家に嫁入りして、「千里眼奥様」と呼ばれるようになります。第二部は瞳子の母・毛毬が主人公。万葉・曜司の間に生まれた長女。暴れん坊で美人。レディース(暴力団)の頭として中国地方を駆け巡るのですが・・・ 第三部は瞳子自身が主人公。彼女は何事にもやる気を見出せないフリーター。祖母・万葉の衝撃的な告白を受けて、動揺するのですが真実を探し当てようとします・・・
文章が結構読みづらくて疲れたけど、非常に面白かったです。これまで読んできた桜庭一樹作品の中では一番良かったかも知れない。こういう大河小説が好きなので、堪らなかったです。欠点もあっただろうけど、それほど気になりませんでした。桜庭一樹の最高傑作なのではないか。
桜庭一樹は、よく「時代がどうのこうの」と問います。これまでの作品ではそれがいまいちしっくり来なかったのですが、この大河小説『赤朽葉家の伝説』にはマッチしていました。あまりにも通俗的かつありきたりな解釈でまとめてしまうので、(大学紛争を繰り広げたのは澱んだ目をした哀しい学生達とか、最近の若者は何事にもやる気を見出せない、とか)もう少し捻れないのか、とも思ったけど、そこは本筋ではないから別にどうでも良いか。
赤朽葉タツのネーミングセンスが最高です。泪(なみだ)、毛毬(けまり)、鞄(かばん)、孤独(こどく)って、孫達に名付けるなんて凄すぎる・・・
そして、毛毬の大活躍はおかしいです。
第60回日本推理作家協会賞長編及び連作短編集部門受賞作。2008年第5回本屋大賞ノミネート作(7位)。直木賞候補作。
自森人読書 赤朽葉家の伝説
★★
著者: 森絵都
出版社: 文藝春秋
短編集。『架空の球を追う』『銀座か、あるいは新宿か』『チェリーブロッサム』『ハチの巣退治』『パパイヤと五家宝』『夏の森』『ドバイ@建設中』『あの角を過ぎたところに』『二人姉妹』『太陽のうた』『彼らが失ったものと失わなかったもの』収録。
表題作『架空の球を追う』は、少年達の野球練習の風景を切り取った作品。『銀座か、あるいは新宿か』は、久しぶりに集まった女友達が銀座と新宿、どちらの方が良いか論争するという作品。まぁだいたいそんな感じで、日常の一コマを切り取ったような短編がいろいろ集められています。
決してつまらないことはないのだけど、満腹感がなかったです。
なんというか、普通な短編ばかり。
「いかにも女流作家が書きそうな、生活の陰影をちょっとくりぬいた様な作品」と言ってしまってもいい気がします。あんまり面白みがありません。最近の森絵都は、よくも悪くも評論家から評価されそうな「普通」な小説ばかり書いているよう気がします。ひねくれた、というか(直木賞をとった『風に舞いあがるビニールシート』からか)。
皮肉が利いていて、面白いんだけど、もう少し何か欲しい、というか。
僕は、昔の作品の方が好きです。飛込競技を扱った、熱い青春スポーツ小説『DIVE!』や、どこか危うい雰囲気を漂わせつつも温かい青春小説『つきのふね』を読んだ時には、凄いと感じました。もう一度ああいう小説を書いてほしいなぁ・・・
というわけで★2つ。
自森人読書 架空の球を追う
著者: 森絵都
出版社: 文藝春秋
短編集。『架空の球を追う』『銀座か、あるいは新宿か』『チェリーブロッサム』『ハチの巣退治』『パパイヤと五家宝』『夏の森』『ドバイ@建設中』『あの角を過ぎたところに』『二人姉妹』『太陽のうた』『彼らが失ったものと失わなかったもの』収録。
表題作『架空の球を追う』は、少年達の野球練習の風景を切り取った作品。『銀座か、あるいは新宿か』は、久しぶりに集まった女友達が銀座と新宿、どちらの方が良いか論争するという作品。まぁだいたいそんな感じで、日常の一コマを切り取ったような短編がいろいろ集められています。
決してつまらないことはないのだけど、満腹感がなかったです。
なんというか、普通な短編ばかり。
「いかにも女流作家が書きそうな、生活の陰影をちょっとくりぬいた様な作品」と言ってしまってもいい気がします。あんまり面白みがありません。最近の森絵都は、よくも悪くも評論家から評価されそうな「普通」な小説ばかり書いているよう気がします。ひねくれた、というか(直木賞をとった『風に舞いあがるビニールシート』からか)。
皮肉が利いていて、面白いんだけど、もう少し何か欲しい、というか。
僕は、昔の作品の方が好きです。飛込競技を扱った、熱い青春スポーツ小説『DIVE!』や、どこか危うい雰囲気を漂わせつつも温かい青春小説『つきのふね』を読んだ時には、凄いと感じました。もう一度ああいう小説を書いてほしいなぁ・・・
というわけで★2つ。
自森人読書 架空の球を追う
★★
著者: さくらももこ
出版社: 講談社
さくらももこのエッセイ。なんというか笑えます。とくにヒロシが。
僕は、『ちびまる子ちゃん』は読んだことも見たこともほとんどないし、別に好きでもありません。でも原作者のさくらももこという人は面白い人だなぁと感じました。息子に自分がさくらももこであることを隠すためにビデオまで作ってしまったり、「家族の前でおならをしますか」と聞いてまわったり。元気が凄いなぁと感心します。
「さくらももこはお金持ちになってから傲慢になり、サービス精神が失われた。それが鼻につく」という感想を書いている人も多いのですが、僕は楽しめました。全体に漂う滑稽な雰囲気の中では、その「無意識の金持ち意識」も笑いを誘う一要素として機能しているのではないか、と思います。
ヒロシのコイが死亡していくのを放っておくのは、どうかと思ったけど。
延々とどうでもいいようなことが書いてあって、本当にもうどうでもいいと言いたくなるけど、それでもそれなりに読まされます。同じことを繰り返す文章が、いい雰囲気を醸し出しています。かなり考えて文章をつくっているのだろうなぁ、と思います。
けっこう薄いし、文字は大きいのでさくっと読めてしまうのですが、なかなか良いです。
自森人読書 さくらえび
著者: さくらももこ
出版社: 講談社
さくらももこのエッセイ。なんというか笑えます。とくにヒロシが。
僕は、『ちびまる子ちゃん』は読んだことも見たこともほとんどないし、別に好きでもありません。でも原作者のさくらももこという人は面白い人だなぁと感じました。息子に自分がさくらももこであることを隠すためにビデオまで作ってしまったり、「家族の前でおならをしますか」と聞いてまわったり。元気が凄いなぁと感心します。
「さくらももこはお金持ちになってから傲慢になり、サービス精神が失われた。それが鼻につく」という感想を書いている人も多いのですが、僕は楽しめました。全体に漂う滑稽な雰囲気の中では、その「無意識の金持ち意識」も笑いを誘う一要素として機能しているのではないか、と思います。
ヒロシのコイが死亡していくのを放っておくのは、どうかと思ったけど。
延々とどうでもいいようなことが書いてあって、本当にもうどうでもいいと言いたくなるけど、それでもそれなりに読まされます。同じことを繰り返す文章が、いい雰囲気を醸し出しています。かなり考えて文章をつくっているのだろうなぁ、と思います。
けっこう薄いし、文字は大きいのでさくっと読めてしまうのですが、なかなか良いです。
自森人読書 さくらえび
遠山啓(1909~1979)は数学者であるが、教育者としても知られる。戦前、霞ヶ浦海軍基地の航空隊の教官を勤めながら、整数論と代数関数論の研究をしていた。戦後、数学教育協議会に関わり、小中学校教育の改善に取り組む。「水道方式」が有名。暗算を重視する日本の数学教育を批判し、大きな影響を与えた。
たとえば、思想家・吉本隆明は優れた教育者として、遠山啓の名を挙げている。
教育雑誌『ひと』を創刊したのも遠山啓である。
教育の自由を論じ、序列主義、競争原理を批判した。ひとりひとりのために教育はあるのだと力説した。それが、自由の森学園の教育のルーツにもなっている。
主著は『数学入門』『競争原理を超えて』など。
遠山啓の本は面白い。特徴的なのは、平易な文体と、わかりやすい論理である。しかし、内容が簡単というわけではない。ヨーロッパで発展してきた数学の歴史をわかりやすく切り取り、紹介しているものもある。博学。
数学だけを論じているわけではなく、教育や、生き方を扱っていることも多いため、哲学のようである。
たとえば、思想家・吉本隆明は優れた教育者として、遠山啓の名を挙げている。
教育雑誌『ひと』を創刊したのも遠山啓である。
教育の自由を論じ、序列主義、競争原理を批判した。ひとりひとりのために教育はあるのだと力説した。それが、自由の森学園の教育のルーツにもなっている。
主著は『数学入門』『競争原理を超えて』など。
遠山啓の本は面白い。特徴的なのは、平易な文体と、わかりやすい論理である。しかし、内容が簡単というわけではない。ヨーロッパで発展してきた数学の歴史をわかりやすく切り取り、紹介しているものもある。博学。
数学だけを論じているわけではなく、教育や、生き方を扱っていることも多いため、哲学のようである。
物語の語り手は、ジェローム。彼は、2歳年上の従姉アリサに惹かれているのだけど、アリサは母親の不倫に悩まされ、それ以来キリスト教を信じ、幸せを軽快しているためなかなかジェロームのもとにはきません。アリサは幸福ではなく、幸福へ到る道を求めていたのです。二人は惹かれ合うのですが、両者とも相手に聖なる部分を見出し、それが故に惹かれあっているので、結局結ばれることはなく・・・
恋愛小説。
「狭き門」とはマタイ福音書第7章第13節にあらわれる言葉だそうです。他の書物から引用された文章が頻出します。しかし、難しくはありません。余分なものが削りとられた写実的な描写と、平易な文体が良いです。
二人の関係は非常に歯痒いのだけれど、それがこの物語の肝になっています。
アリサは世俗的な愛を拒もうとします。そして、ジェロームのことを愛していないわけではないのに逃れていこうとします。ジェロームはそういう状態を好まず、追いすがろうとします。つまり、結婚を迫ろうとするわけです。だけど、上手に切り出すことが出来ません。
アリサの矛盾が、ジェロームを苦しめているかのようです。だけど、彼の行動が、アリサのそういう態度を誘発しているようにも感じられます。どちらかに問題があるわけではなく、両者の関係というか組み合わせに、問題があるのではないか、と感じます。
なんというか、やるせないです。
多分、二人の関係は、どうしたってうまくいくはずがないのです。アリサは、もしも幸福(結婚)になったら、あとは不幸(配偶者の死を恐れ、不倫を疑うようになる)になるしかない、といふうに感じ取ってしまう人なわけだから。
読んだ本
アンドレ・ジッド『狭き門』
読んでいる最中
遠藤周作『沈黙』
時間が滅茶苦茶になってしまい、すでに未来も過去も関係なくなってしまいました。そして、時間線は一方向に流れるのではなく、破裂し、自由な方向へすすみ、しかも、それらは混じりあい、絡み合っています。そして一つの世界そのものである巨大知性体が乱立し、戦闘を繰り広げています。一番最初にあるのは、手に負えないちっちゃな女の子リタに恋してしまった、この辺りで一番賢いジェイムズとその親友、僕の物語。
SF小説。
ボルヘスを意識しているのがよく分かります。非常に説明しづらいのですが、「第一部:Nearside」9章と「第二部:Farside」9章によって構成されています。バラバラです。繋がりはあるのですが、直接繋がっていない場合もあります。
最初の内は、文章ががさつ。もう少し練られている方が良かった気がします。しかし、それが良いのかも知れない、とも感じます。ヴォネガットっぽいです。
アイディアだけで物語を強引に転がしていく短編も多いのですが、みごと。どれも面白いです。
とくに、一押しは「第二部:Farside」に収録されている「Japanese」。概算で、総計で百二十億字を超えるのだという日本文字なるものについて綴られています。漢字、漢漢字、平仮名、平平仮名、平片仮名、片平仮名などによって構成されているらしいのですが、理解できません。解読できないのです。資料が増えるごとに、文字が絶え、収集がつかないのです。そしてその短編自体も実は第一次旧日本諸島調査団の持ち帰った14ページのメモ書きで・・・
巨大知性体の上位には、超越知性体がありえるのだと判明してくるところも面白いです。本当にアイディアは素晴らしいです。
読んだ本
円城塔『Self-Reference ENGINE』
読んでいる最中
アンドレ・ジッド『狭き門』
★★
著者: たつみや章
出版社: 講談社
主人公は海の民・綿津見一族の娘イサナ。彼女は、「声」を聞くことのできる巫女でした。ある時、木の声が聞こえたため、海に乗り出していきます。それは冒険の始まりでした。彼女は、モリ撃ちの名手クレや、龍一族の生き残りヒコナらとともに、龍王を救い出すことになります。しかし、龍の魂を狙う者たちが現れ、それらと闘うことになり・・・
児童文学。海を舞台にしたファンタジー小説。日本の神話を下敷きにしているようです。
「神」というものが、自然に人々の中に存在する世界観は(といっても神を感じるだけなのだけど)、面白いなぁと感じさせられました。よくある「古代世界のイメージ」をモチーフにしつつ、独自の温かい人と神(大自然)とのつながりを形作っています(現実の古代世界は、もっと厳しくて辛い世界だっただろうなぁ、とも想像するけど、これはファンタジーだから夢でも良いのではないか)。
ただし、「サソリの神シリーズ」や「勾玉シリーズ」などを読んだ後に『イサナ』へくると、どうしても甘さが目立つような気がします。強い苦しみや、鋭い悲しみといったものを作品に取りこみきれていないのではないか。いかにも「子供向け」っぽい、というか。
とはいえ、作者によってこの作品のためにわざわざ構築された、新たな世界を感じるというのは非常に楽しいことです。
シリーズ物なのでまだいろんな謎が残されたまま。次回作が楽しみです。
自森人読書 イサナと不知火のきみ
著者: たつみや章
出版社: 講談社
主人公は海の民・綿津見一族の娘イサナ。彼女は、「声」を聞くことのできる巫女でした。ある時、木の声が聞こえたため、海に乗り出していきます。それは冒険の始まりでした。彼女は、モリ撃ちの名手クレや、龍一族の生き残りヒコナらとともに、龍王を救い出すことになります。しかし、龍の魂を狙う者たちが現れ、それらと闘うことになり・・・
児童文学。海を舞台にしたファンタジー小説。日本の神話を下敷きにしているようです。
「神」というものが、自然に人々の中に存在する世界観は(といっても神を感じるだけなのだけど)、面白いなぁと感じさせられました。よくある「古代世界のイメージ」をモチーフにしつつ、独自の温かい人と神(大自然)とのつながりを形作っています(現実の古代世界は、もっと厳しくて辛い世界だっただろうなぁ、とも想像するけど、これはファンタジーだから夢でも良いのではないか)。
ただし、「サソリの神シリーズ」や「勾玉シリーズ」などを読んだ後に『イサナ』へくると、どうしても甘さが目立つような気がします。強い苦しみや、鋭い悲しみといったものを作品に取りこみきれていないのではないか。いかにも「子供向け」っぽい、というか。
とはいえ、作者によってこの作品のためにわざわざ構築された、新たな世界を感じるというのは非常に楽しいことです。
シリーズ物なのでまだいろんな謎が残されたまま。次回作が楽しみです。
自森人読書 イサナと不知火のきみ
江戸時代、庶民は寺小屋で学んだ。
そこには学びたい者が赴いた。寺子屋は教わる者のためにあったわけだ。『千字文』などが教材として扱われていたと考えられているが、もちろん、内容はその寺子屋ごとにまちまちだったと思われるし、質も量も各々異なっただろう。しかし、基本的に実務的なこと(計算術、文字)が扱われていた。
教える者と学ぶ者があり、そして、学ぶ者が生きていくときに役立つことが扱われていた、というふうにまとめることができる。寺子屋があったため、庶民の識字率は高かった。それが、後の急激な近代化をたすけたといわれる。
1867年に、江戸幕府の将軍・徳川慶喜が朝廷に政権を返還。
明治維新がおこる。
それ以降、政府が教育を担うようになる。明治4年には文部省が設置され、教育は義務になる。
1920年代から1930年代前半にかけて巻き起こった大正自由教育運動は大きな運動だった。
民主主義と自由主義の尊重を謳った大正デモクラシー、つまり一つの時代の流れを背景としていたためだろう。
明星学園も、また大正自由教育運動の中で生まれてきた学校である。小中高一貫。画一的な公教育からはなれることを目指しており、今でも厳格な校則、制服などはないそうだ。同じ時期に玉川学園、和光学園なども生まれている。しかし、それらの運動やその結果生まれた学校は、国家による統制/ファシズム的な空気の中で押し込められていくことになった。
そして、日本は太平洋戦争へ突入していく。
学校現場では、「鬼畜米英」などといった言葉が連呼され、歴代天皇の名前をすべて覚えることが求められた。日の丸が掲げられた。
結局、日本は太平洋戦争に負けた。そして、多くの矛盾を抱え込んだままアメリカに追随する形で再始動していく。何もかもが愚図愚図だったのである。しかし、その中にあってもまがらない人がいた。数学者・遠山啓である。
思想家・吉本隆明は優れた教育者として、遠山啓の名を挙げている。
遠山啓の思想は、自由の森学園にも影響を与えている。遠山啓は、わかりやすい授業を目指した人だ。
★★★
作者: 山田風太郎
出版社: 角川書店
明治元年、官軍は江戸に入場すると、そこを我が物顔で徘徊し、荒らしました。その最中、薩摩兵が斬殺され、晒し者になるという事件が発生。人斬り半次郎こと中村半次郎(後の桐野利秋)は激怒。「報復として、薩摩兵が1人死ぬごとに旗本を10人処刑する」と言い出します・・・
時代小説。
そこから、処刑場に連れ出される10人の旗本(幕府側の武士)が紹介されていきます。列伝のような感じ。いろんな人がいます。身分は低いけど商才に長けた男、戦国時代の武将のような荒くれ男、清爽なる美少年、人殺しが趣味の男、死にたがり屋の無気力男などなど。
捕まえられた旗本たちは、一応みんな武士の端くれのはずなのですが、性格も人柄もなにもかもが全くバラバラです。非常に個性的。それらの人々に対して突然同等な「死」が与えられます。徹底的な敗北を喫して(自分の価値観を破壊され)、死の危機に晒された人間が最期にどのような顔を見せるのか、作者はそれをきちりと描写します。非常に考えさせられる物語です。
山田風太郎は、明治維新と太平洋戦争における敗戦とを重ね合わせているようです。冒頭で自らそう書いています。確かに似ているかも知れない。『修羅維新牢』も、終戦後の騒動を仮託した物語なのかもなぁ・・・ そういうふうに受け取ると、また面白いです。
チョイ役の勝海舟(安房上)が非常に格好いいです。セリフとその行動全部が。勝海舟って大人物だったのでは、と僕は思っているので納得の描写でした。
自森人読書 修羅維新牢
作者: 山田風太郎
出版社: 角川書店
明治元年、官軍は江戸に入場すると、そこを我が物顔で徘徊し、荒らしました。その最中、薩摩兵が斬殺され、晒し者になるという事件が発生。人斬り半次郎こと中村半次郎(後の桐野利秋)は激怒。「報復として、薩摩兵が1人死ぬごとに旗本を10人処刑する」と言い出します・・・
時代小説。
そこから、処刑場に連れ出される10人の旗本(幕府側の武士)が紹介されていきます。列伝のような感じ。いろんな人がいます。身分は低いけど商才に長けた男、戦国時代の武将のような荒くれ男、清爽なる美少年、人殺しが趣味の男、死にたがり屋の無気力男などなど。
捕まえられた旗本たちは、一応みんな武士の端くれのはずなのですが、性格も人柄もなにもかもが全くバラバラです。非常に個性的。それらの人々に対して突然同等な「死」が与えられます。徹底的な敗北を喫して(自分の価値観を破壊され)、死の危機に晒された人間が最期にどのような顔を見せるのか、作者はそれをきちりと描写します。非常に考えさせられる物語です。
山田風太郎は、明治維新と太平洋戦争における敗戦とを重ね合わせているようです。冒頭で自らそう書いています。確かに似ているかも知れない。『修羅維新牢』も、終戦後の騒動を仮託した物語なのかもなぁ・・・ そういうふうに受け取ると、また面白いです。
チョイ役の勝海舟(安房上)が非常に格好いいです。セリフとその行動全部が。勝海舟って大人物だったのでは、と僕は思っているので納得の描写でした。
自森人読書 修羅維新牢
★★★★
著者: 東野圭吾
出版社: 角川書店
日本のジャンプスキー界を牽引するべく期待されていたスター楡井が殺されます。犯人は楡井を支えていたコーチ・峰岸。届けられた密告状からその事実を知った警察は「いったい何故コーチである峰岸が楡井を殺したのか」を調べるのですが、全く理由が分かりません。警察はいろんな方面に追及の手を伸ばします。それでも、謎が残り・・・
ミステリ小説。
鳥人というのはスキーヤーのことを指しています(とくに楡井、かなぁ)。最近、オリンピックのたび問題になるドーピング。数値に頼りきりの科学的トレーニング。それらが持ち込まれてしまったジャンプスキー界を題材にしたミステリ。「ある恐るべき計画」の全てが、明かされた時には唖然としました。そのようなことが現実化したら、スポーツは崩壊してしまうのではないか。勝利だけが大切なのか。考えさせられます。
タイトルが全てを語っていたのか、と読んでいて思いました。
コーチ・峰岸の動機には納得させられました。人を殺していいはずがないけど、それでも共感します。彼の感じた恐怖、というか、屈辱は。
最後に、どんでん返しが待っています。警察でさえ証拠を掴めず、明らかに出来なかった最後の謎。それが非常に印象的です。
自森人読書 鳥人計画
著者: 東野圭吾
出版社: 角川書店
日本のジャンプスキー界を牽引するべく期待されていたスター楡井が殺されます。犯人は楡井を支えていたコーチ・峰岸。届けられた密告状からその事実を知った警察は「いったい何故コーチである峰岸が楡井を殺したのか」を調べるのですが、全く理由が分かりません。警察はいろんな方面に追及の手を伸ばします。それでも、謎が残り・・・
ミステリ小説。
鳥人というのはスキーヤーのことを指しています(とくに楡井、かなぁ)。最近、オリンピックのたび問題になるドーピング。数値に頼りきりの科学的トレーニング。それらが持ち込まれてしまったジャンプスキー界を題材にしたミステリ。「ある恐るべき計画」の全てが、明かされた時には唖然としました。そのようなことが現実化したら、スポーツは崩壊してしまうのではないか。勝利だけが大切なのか。考えさせられます。
タイトルが全てを語っていたのか、と読んでいて思いました。
コーチ・峰岸の動機には納得させられました。人を殺していいはずがないけど、それでも共感します。彼の感じた恐怖、というか、屈辱は。
最後に、どんでん返しが待っています。警察でさえ証拠を掴めず、明らかに出来なかった最後の謎。それが非常に印象的です。
自森人読書 鳥人計画
★★
著者: 笹山尚人
出版社: 岩波書店
知っておくべき労働法のことや、「働く」ということを分かりやすく解説してくれる本。突然解雇された時どうすればいいのか、等の大切な疑問に分かりやすく答えてくれます。条文なども載っていますが、難しくはないです。物語風になっているので、読みやすいです。
自由の森学園の森の時間(総合学習)の中で学んだことと重なるなぁ、と感じました(詳しいことは、生きさせろ! 現代日本の貧困と生存をめぐってに書いてあります)。
ただし、雨宮処凛さんや湯浅誠さんの現実を抉り出した本を読んでしまったあとに、『労働法はぼくらの味方!』を読んでもなぁ、という気もします。基本的なことを知るのは大事だとは分かるんだけど、あまり印象に残らない、というか、インパクトに欠ける、というか。
現代日本における貧困問題を鋭く切り取った本を読むと、いやでも労働法を用いていかねばならない、ということがよく分かります。それに比べて『労働法はぼくらの味方!』は柔らかいです。
著者は、ヨドバシカメラ事件を担当した弁護士の方らしいので、そちらの事件のことをぜひ本にしてもらいたいと感じました。
関連リンク
生きさせろ! 自由の森学園総合学習のまとめ
自森人読書 労働法はぼくらの味方!
著者: 笹山尚人
出版社: 岩波書店
知っておくべき労働法のことや、「働く」ということを分かりやすく解説してくれる本。突然解雇された時どうすればいいのか、等の大切な疑問に分かりやすく答えてくれます。条文なども載っていますが、難しくはないです。物語風になっているので、読みやすいです。
自由の森学園の森の時間(総合学習)の中で学んだことと重なるなぁ、と感じました(詳しいことは、生きさせろ! 現代日本の貧困と生存をめぐってに書いてあります)。
ただし、雨宮処凛さんや湯浅誠さんの現実を抉り出した本を読んでしまったあとに、『労働法はぼくらの味方!』を読んでもなぁ、という気もします。基本的なことを知るのは大事だとは分かるんだけど、あまり印象に残らない、というか、インパクトに欠ける、というか。
現代日本における貧困問題を鋭く切り取った本を読むと、いやでも労働法を用いていかねばならない、ということがよく分かります。それに比べて『労働法はぼくらの味方!』は柔らかいです。
著者は、ヨドバシカメラ事件を担当した弁護士の方らしいので、そちらの事件のことをぜひ本にしてもらいたいと感じました。
関連リンク
生きさせろ! 自由の森学園総合学習のまとめ
自森人読書 労働法はぼくらの味方!
★★★
著者: 三崎亜記
出版社: 集英社
舞坂町ととなり町との間に戦争が起こり、舞坂町町民の主人公は偵察任務をまかされました。彼は、香西さんと偽装結婚してとなり町に潜入することになります。しかし全然実感が湧きません。血が流れないからです。「戦争」ってなんなのか? 偵察任務につくことで戦争に加担したことになるのか? 主人公は悩むのですが・・・
三崎亜記のデビュー作。第17回小説すばる新人賞受賞作。直木賞候補作。淡々としているので最初は少し退屈でした。しかし、読み進めていくうちに慣れてきました。
「戦争」というものを把握できない主人公が結局、香西さんと一緒にいられなくなる/セックスできなくなることに唯一「戦争による痛み」を覚えた、という部分にはとても考えさせられました。彼は、セックスによって誤魔化されてしまって結局「戦争」を理解できなかったのではないか。
最後まで、となり町との戦争とはなんだったのか分からないです。町の都合でいつの間にか始まって、そしていつの間にか終わっていて。でも、もしかしたら本当の戦争も同じようなものなのかも知れないとも感じました。とくに現代の戦争は。目に見えないから殺し合っていても実感が湧かない。だから、リアルな出来事として認知できないのかも知れない。
香西さんが、まるでゲームのキャラのようで、現実感に欠けているのが印象に残りました。何も「リアル」なものがない時、どうすれば良いのか。
いろんなことを考えさせられる秀作。
自森人読書 となり町戦争
著者: 三崎亜記
出版社: 集英社
舞坂町ととなり町との間に戦争が起こり、舞坂町町民の主人公は偵察任務をまかされました。彼は、香西さんと偽装結婚してとなり町に潜入することになります。しかし全然実感が湧きません。血が流れないからです。「戦争」ってなんなのか? 偵察任務につくことで戦争に加担したことになるのか? 主人公は悩むのですが・・・
三崎亜記のデビュー作。第17回小説すばる新人賞受賞作。直木賞候補作。淡々としているので最初は少し退屈でした。しかし、読み進めていくうちに慣れてきました。
「戦争」というものを把握できない主人公が結局、香西さんと一緒にいられなくなる/セックスできなくなることに唯一「戦争による痛み」を覚えた、という部分にはとても考えさせられました。彼は、セックスによって誤魔化されてしまって結局「戦争」を理解できなかったのではないか。
最後まで、となり町との戦争とはなんだったのか分からないです。町の都合でいつの間にか始まって、そしていつの間にか終わっていて。でも、もしかしたら本当の戦争も同じようなものなのかも知れないとも感じました。とくに現代の戦争は。目に見えないから殺し合っていても実感が湧かない。だから、リアルな出来事として認知できないのかも知れない。
香西さんが、まるでゲームのキャラのようで、現実感に欠けているのが印象に残りました。何も「リアル」なものがない時、どうすれば良いのか。
いろんなことを考えさせられる秀作。
自森人読書 となり町戦争
エリック・マコーマックの短編集。『隠し部屋を査察して』『断片』『パタゴニアの悲しい物語』『窓辺のエックハート』『一本脚の男たち』『海を渡ったノックス』『エドワードとジョージナ』『ジョー船長』『刈り跡』『祭り』『老人に安住の地はない』『庭園列車』『趣味』『トロツキーの一枚の写真』『ルサウォートの瞑想』『ともあれこの世の片隅で』『町の長い一日』『双子』『フーガ』収録。
奇怪な世界や現象が描かれています。
ゆがみが印象的です。たいてい隣人が登場すると狂っています。現実から遊離しているわけではないのですが、どの短編もどこか捻じ曲がっているし、奇天烈です。
地味だけど、ぞっとします。何らかの欠損や、よく分からないエロとグロが度々あらわれます。意味を見出そうとするのは徒労ではないか、と感じるほど。しかし、そういう不気味なところが面白いです。
『一本脚の男たち』
炭鉱のまわりにある村落の物語。そこには、一本脚の男たちが溢れています。そこはかれらのなわばりなのです。かつて、恐ろしい事故に襲われてから、そうなのです・・・
読んだ本
エリック・マコーマック『隠し部屋を査察して』
読んでいる最中
シオドア・スタージョン『人間以上』
★★
著者: 逢坂剛
出版社: 集英社
主人公は、精神神経科の女医、南川藍子。彼女は、覚醒剤の密売取引現場を取り押さえようとして頭部を負傷した刑事・海藤兼作や、試合中突然マスコットガールに襲い掛かって逮捕されたプロ野球選手・追分などと関わるうちに自分自身も不安定になっていき、制服に対して興奮を覚える男の起こした殺人事件に巻き込まれることとなります・・・
サイコサスペンス。
心をミステリの鍵として使用するサイコサスペンスは結構たくさんあるから、そこまで感心はしませんでした。でも、幾つもの事件がからみあい、しっかりとした伏線が張られているところはよくできている気がしました。
結構面白かったです。『ハサミ男』などの先駆といえます。
猟奇的な雰囲気も感じるのですが、論理的なミステリ小説です。きちりとしたオチがつきます。脳医学や精神医学についての簡単な説明があって、けっこう勉強になりました。
「左右の脳をつなげている『脳梁』が欠けてしまい、右脳の自分と左脳の自分が分裂してしまう」という不思議な現象が、この物語を支えています。非常に面白いなぁと感じました。本当にあるのだろうか。怖いなぁ、と思います。自分が2人になってしまったら、「自分」というのが何を指すのかよく分からなくなってしまいます。どうなるのだろう、「自分」は。
映画化もされたそうです。
自森人読書 さまよえる脳髄
著者: 逢坂剛
出版社: 集英社
主人公は、精神神経科の女医、南川藍子。彼女は、覚醒剤の密売取引現場を取り押さえようとして頭部を負傷した刑事・海藤兼作や、試合中突然マスコットガールに襲い掛かって逮捕されたプロ野球選手・追分などと関わるうちに自分自身も不安定になっていき、制服に対して興奮を覚える男の起こした殺人事件に巻き込まれることとなります・・・
サイコサスペンス。
心をミステリの鍵として使用するサイコサスペンスは結構たくさんあるから、そこまで感心はしませんでした。でも、幾つもの事件がからみあい、しっかりとした伏線が張られているところはよくできている気がしました。
結構面白かったです。『ハサミ男』などの先駆といえます。
猟奇的な雰囲気も感じるのですが、論理的なミステリ小説です。きちりとしたオチがつきます。脳医学や精神医学についての簡単な説明があって、けっこう勉強になりました。
「左右の脳をつなげている『脳梁』が欠けてしまい、右脳の自分と左脳の自分が分裂してしまう」という不思議な現象が、この物語を支えています。非常に面白いなぁと感じました。本当にあるのだろうか。怖いなぁ、と思います。自分が2人になってしまったら、「自分」というのが何を指すのかよく分からなくなってしまいます。どうなるのだろう、「自分」は。
映画化もされたそうです。
自森人読書 さまよえる脳髄
本屋大賞が発表されたそうです。
予想は完全に、はずれてしまった・・・・・ 大賞は『植物図鑑』かと予想していたのに。
だけど、『天地明察』で良かった、と感じます。けっこうマイナーなSFというかラノベ寄りの人がでてきたのは、面白い。歴史小説らしいし。はやく読みたいです。
1 『天地明察』冲方丁(角川書店)
2 『神様のカルテ』夏川草介(小学館)
3 『横道世之介』吉田修一(毎日新聞社)
4 『神去なあなあ日常』三浦しをん(徳間書店)
5 『猫を抱いて象と泳ぐ』小川洋子(文藝春秋)
6 『ヘヴン』川上未映子(講談社)
7 『船に乗れ!』藤谷治(ジャイブ)
8 『植物図鑑』有川浩(角川書店)
9 『新参者』東野圭吾(講談社)
10『1Q84』村上春樹(新潮社)
予想は完全に、はずれてしまった・・・・・ 大賞は『植物図鑑』かと予想していたのに。
だけど、『天地明察』で良かった、と感じます。けっこうマイナーなSFというかラノベ寄りの人がでてきたのは、面白い。歴史小説らしいし。はやく読みたいです。
1 『天地明察』冲方丁(角川書店)
2 『神様のカルテ』夏川草介(小学館)
3 『横道世之介』吉田修一(毎日新聞社)
4 『神去なあなあ日常』三浦しをん(徳間書店)
5 『猫を抱いて象と泳ぐ』小川洋子(文藝春秋)
6 『ヘヴン』川上未映子(講談社)
7 『船に乗れ!』藤谷治(ジャイブ)
8 『植物図鑑』有川浩(角川書店)
9 『新参者』東野圭吾(講談社)
10『1Q84』村上春樹(新潮社)
★★★
著者: 石持浅海
出版社: 光文社
久しぶりに開かれた同窓会に参加するため大学時代の同級生たちが集まります。終始冷静冷徹な男・伏見亮輔は、後輩の新山を殺害し、密室に閉じ込めました。そうして自殺を装い、そのうえ「ある目的」を果たそうとしたのです。しかし、伏見を越えるほどの智能を持つ碓氷優佳だけは、伏見の犯罪を疑います。2人は息詰まるやりとりを繰り広げるのですが・・・
倒叙ミステリ。
さほど面白くなかったです。探偵が、小さな手がかりをこつこつと積み上げていき、犯罪を証明して行く部分で飽きてしまいました。小説と言うよりは、パズルのようなものではないか、と感じます。
伏見が犯罪を犯した理由が最後になって判明するのですが理解できないです。狂っているとしか言いようがありません。そんなことのために、わざわざ凝った犯罪を起こすとは思えないし、犯人が狂っていることを明らかにするために著者はそういう理由を持ち出したのかも知れないけど、納得できないです。
ただし、探偵役・碓氷優佳の推理をたどっていくのはそれなりに楽しいです。
理由あって扉が壊せないので犯行現場へいけないのですが、碓氷優佳は緻密な論理でもって、伏見を追い詰めていきます。彼女が犯罪を解き明かしていく理由は凄いです。愛は人を狂わすというけれど、あまりにも回りくどい方法ではないか、と感じました。
クローズドサークル(外界と遮断された状況)です。石持浅海は、その系統のミステリをたくさん書いている人だそうです。
自森人読書 扉は閉ざされたまま
著者: 石持浅海
出版社: 光文社
久しぶりに開かれた同窓会に参加するため大学時代の同級生たちが集まります。終始冷静冷徹な男・伏見亮輔は、後輩の新山を殺害し、密室に閉じ込めました。そうして自殺を装い、そのうえ「ある目的」を果たそうとしたのです。しかし、伏見を越えるほどの智能を持つ碓氷優佳だけは、伏見の犯罪を疑います。2人は息詰まるやりとりを繰り広げるのですが・・・
倒叙ミステリ。
さほど面白くなかったです。探偵が、小さな手がかりをこつこつと積み上げていき、犯罪を証明して行く部分で飽きてしまいました。小説と言うよりは、パズルのようなものではないか、と感じます。
伏見が犯罪を犯した理由が最後になって判明するのですが理解できないです。狂っているとしか言いようがありません。そんなことのために、わざわざ凝った犯罪を起こすとは思えないし、犯人が狂っていることを明らかにするために著者はそういう理由を持ち出したのかも知れないけど、納得できないです。
ただし、探偵役・碓氷優佳の推理をたどっていくのはそれなりに楽しいです。
理由あって扉が壊せないので犯行現場へいけないのですが、碓氷優佳は緻密な論理でもって、伏見を追い詰めていきます。彼女が犯罪を解き明かしていく理由は凄いです。愛は人を狂わすというけれど、あまりにも回りくどい方法ではないか、と感じました。
クローズドサークル(外界と遮断された状況)です。石持浅海は、その系統のミステリをたくさん書いている人だそうです。
自森人読書 扉は閉ざされたまま
星新一のショートショート。『新発明のマクラ』『試作品』『薬のききめ』『悪魔』『災難』『九官鳥作戦』『きまぐれロボット』『博士とロボット』『便利な草花』『夜の事件』『地球の皆さん』『ラッパの音』『おみやげ』『夢のお告げ』『失敗』『目薬』『リオン』『ボウシ』『金色の海草』『盗んだ書類』『薬と夢』『なぞのロボット』『へんな薬』『サーカスの秘密』『鳥の歌』『火の用心』『スピード時代』『キツツキ計画』『ユキコちゃんのしかえし』『ふしぎな放送』『ネコ』『花とひみつ』『とりひき』『へんな怪獣』『鏡のなかの犬』『あーん あーん』収録。
寓話のようなSF、なのか。
醒めています。不思議なほど、直截です。面倒な説明は省かれているので、物語をそのままに受け取らざるを得なくなります。妙なるなにかがあるわけではないのに、それが故に面白くなっています。
質の高い御伽噺、といえるのではないか。
固有名詞はほとんど使われておらず、なおかつ平易な言葉のみで構成されています。暴力、性、前衛的表現、あとは時事ネタなど、刺激的な題材はほとんど用いられていません。他の作家と同じことはしない、ということだから、ひねくれているということもできますが、星新一はモラルを大切にする人なのだと思います。鋭い文明批評も含まれています。
基本的にクール。その裏側には科学への盲信に対する反発があるのではないか、と思わないでもないのですが、過剰ではありません。非常にストイック。引き締められています。
読んだ本
星新一『きまぐれロボット』
読んでいる最中
エリック・マコーマック『隠し部屋を査察して』
本屋大賞、というフレーズで検索され、やたらとヒットしているみたいですが。
本屋大賞が終わってしまったら、検索されなくなるのか・・・ 残念です・・・
本屋大賞 予想とか、いろいろしてみましたが、本屋大賞の候補10位までにSFがあがらないのは、残念だなぁと感じます。
伊藤計劃『ハーモニー』とか神林長平『アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風』とか面白いのに。
本屋大賞が終わってしまったら、検索されなくなるのか・・・ 残念です・・・
本屋大賞 予想とか、いろいろしてみましたが、本屋大賞の候補10位までにSFがあがらないのは、残念だなぁと感じます。
伊藤計劃『ハーモニー』とか神林長平『アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風』とか面白いのに。
『社会を生きるための教科書』は、様々なことを扱っています。働くということ、お金を扱うということ、溢れる情報とつきあっていくことなどがまとめられています。
最初はあまり興味がなかったのですが、読んでいて、とても考えさせられました。役に立ちそうなので、手元に置いておこう、と思いました。読み物として面白い、というより、こういうときどうすれば良いんだろう、と考え始めるときに必要な手がかりが幾つも用意されている教科書のような本だなぁと感じました(教科書というのは、ある世界の詳細(そんなものはまとめられないよなぁ)というよりは、その世界の見取り図と入り口までの地図がのっていれば良い気がするのだけど、それがそろっていて、とても良い気がしました)。
あるジャンルのことのみでなく、様々なことが扱われているのだけど、コンパクトで把握しやすいです。この本だけを頼りにするわけにはいかないけど、困ったとき、気軽にパラパラとめくれるところが良いなぁと感じます。
こういう本は、なんかありそうでなかなかない気がします。
読んでいて参考になりましたが、生きていくためにはいろんなことを考えないといけないのだなぁ、と考えてしまいました。なんというか、疲れないでもないです。もう少しシンプルに、素朴に生きていくことができたら良いのに。しかし、様々な制度が存在している社会の中で生きていこうとするならば、手続きや処理が複雑になるのはしかたないのか。
とくに、心に残ったのは、一番最後におかれている「ドグマを確立する」という部分でした。そうしないといけない、というのは普段から思っているのだけど、本当に難しいんだよなぁ・・・
『実験でわかるインターネット』は、インターネットの仕組みを解説したもの。しかし、手引きと言うわけではありません。基礎的な仕組みが分かりやすく解説されています。読んだからといって、何かを使えるようになるわけではないけど、考えるためには役に立ちます。
ウェブサイト、メールなど様々なものが溢れているから、なんとなく使っていました。しかし、それらが内側でどのような処理を行っているのか今まで知りませんでしたが、そういったことを知るための手がかりを得ることが出来て良かったです。まぁ、やっと玄関口にたどりついただけなのかも知れないけど。
どちらも岩波ジュニア新書の本。
読んだ本
川井龍介『社会を生きるための教科書』
岡嶋裕史『実験でわかるインターネット』
読んでいる最中
エリック・マコーマック『隠し部屋を査察して』
SFマガジン編集部『SFが読みたい! 2010年版』
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