忍者ブログ
自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
[28] [29] [30] [31] [32] [33] [34] [35] [36] [37] [38]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

★★★

著者:  山口雅也
出版社: 講談社

  短編集。

  A面。『密室症候群』。説明が難しい。ひっくり返ってひっくり返ってを繰り返します。『禍なるかな、いま笑う死者よ』笑ったまま死んでいた2人の男。いったい彼らに何があったのか。『いいニュース、悪いニュース』息子のデイビットがデートしたために退学になるかも、と知った母。なんと息子の相手が中年男だと聞いてさらに混乱・・・ 『音のかたち』音を巡る物語。なんと、歴史上有名なあの人が登場。『解決ドミノ倒し』ドミノ倒しのように延々と答えの出されない堂々巡り・・・

  B面。『「あなたが目撃者です」』「あなたが目撃者です」という番組で、レッド・リヴァー連続殺人のことが詳しく解説されていました。それを見ていたある家庭では、妻が夫をを疑い始めます。『「私が犯人だ」』夢見る文学者、グッドマン教師は、教え子で娼婦のレノラとともに逃避行へ出て、しかしレノラに拒否されて殺してしまうのですが・・・ 『蒐集の鬼』SP盤を愛し、それをコレクションするマッケリー。彼は幻のエレイン・レイニーのSP盤を探し回るのですが・・・ 『《世界劇場》の鼓動』。完全版にのみ収録されている作品。音楽と、世界の破滅を描いた短編。ミステリっぽくない作品。『不在のお茶会』3人の人間が奇怪な状況に放り出される。それぞれ精神科医、作家、植物学者。彼らは自らの状況を分析していき・・・

  盛りだくさん。読み終わるととけっこう疲れます。1つひとつどれもが凝っているんだけど、玉石混淆です。面白いのもつまらないのも混じっています。僕は、『禍なるかな、いま笑う死者よ』、『解決ドミノ倒し』あたりが面白いなぁ、と思いました。

  山口雅也はあとがきの中で、「狂気」と「逸脱」がテーマと書いています。確かにミステリから逸脱したものも多い・・・


自森人読書 ミステリーズ 完全版
PR
今日、高校卒業式がありました。
12時から始まり、5時半まで続き、そのあとも別れの広場。と言う感じでした。

高3の素晴らしい合唱を聞けるのも最後。


★★★★

作者:  北村薫
出版社: 東京創元社

  連作短編集。『織部の霊』『砂糖合戦』『胡桃の中の鳥』『赤頭巾』『空飛ぶ馬』収録。私(古書店回りが趣味の女子大生)が語り手、落語家・春桜亭円紫が探偵役。

  『織部の霊』。大学の先生と仲良くなり、その縁で落語家の春桜亭円紫と対談することに。その席で、先生が子どもの頃のことを語りだします。彼は、夢の中で見たこともないはずの古田織部正重然に出会ったというのです。いったいそれはどういうことなのか?

  『砂糖合戦』。私は、紅茶専門店「アド・リブ」で、奇妙な光景に出会います。三人の女の子達が、砂糖をかわるがわる何杯も自分のカップに入れていたのです。、いったいなぜそんなことをしているのか?

  『胡桃の中の鳥』。私と正ちゃんは蔵王に赴き、江美ちゃんと落ち合い、楽しい旅行へと乗り出します。そして、以前貰った円紫の講演会の券を使い、落語を聴くことに。しかし駐車場で不可解な出来事に出会います。車のシートカバーがはずされていたのです・・・

  『赤頭巾』。歯医者の待合室で会った女性から、公園に現れる「赤頭巾」の話を聞かされた私。いったい、どういうことなのか・・・?

  『空飛ぶ馬』。幼稚園のクリスマスパーティを録画して欲しい、と母の友達から言われ、呼ばれた私。そこで、その女性からまたまた不可解な話を聞かされます。深夜、幼稚園に設置された馬が消えていたというのです。馬が空を飛んだのか?

  北村薫のデビュー作(当時は覆面作家だったため、どのような人なのかと騒がれたらしい)にして、円紫さんと私シリーズ第1作目。「鮎川哲也と13の謎」企画の中の1作。

  「日常の謎」系ミステリ(殺人・誘拐など格別重大な事件が発生しないミステリ)というジャンルを世に広め、その後のミステリ界に大きな影響を与えた作品。まず文章が良いです。味わいがある、というか、日本語としておかしい表記が多く見られるミステリ作家の中で飛びぬけて気持ちの良い文章のような気がします。しかも突飛な殺人事件が起こることはないのでとても入りやすい。


自森人読書 空飛ぶ馬
『ナジャ』は、小説家のアンドレ・ブルトンが1928年に発表した自伝的な小説。主に、私とナジャのことが綴られています。全体的に漠然としていますが、魅惑的で自由なナジャを追い求めるのだけど、私には手が届かないというようなストーリーなのではないかと感じました。
『ナジャ』

ブルトンが唱えた『シュルレアリスム宣言』というものに則って書かれているそうです。具体的には自動記述という手法を用い、自分の意識を無視して書いているみたいですが、それといって難しいことはないです。全てが暗喩のようで気になって仕方ないけど。

写真やイラストがたくさん挟まれていて印象的。

ナジャがナジャと名乗っているのは、それがロシア語「希望」という語の最初の一部分だから。彼女は不可思議な感性を持った人のようです。いかにも詩的と言う言葉がぴったり。彼女の言葉と存在は、いちいち印象的です。

ナジャは精神病院にも収容されてしまったということがのちに明らかになります。私は精神病院を非難しますがどうしようもありません。「美とは痙攣的なものだろう、さもなくば存在しないだろう。」という言葉で『ナジャ』は終わります。

解説が詳しくて面白いです。そこまで深く読むこともできるのか・・・

白水社。


読んだ本
アンドレ・ブルトン『ナジャ』

読んでいる途中
グレッグ・イーガン『万物理論』


著者:  内田樹
出版社: アルテスパブリッシング

  内田樹が、様々な角度から村上春樹を賞賛し、絶賛している本。

  村上春樹が書いた小説の解説なのかと思い、手に取ったのですが、ブログを本にしたものだから全体としてまとまりに欠けているし、しかも「村上春樹を読み解く」というところに全く話が及ばないので、ちょっとがっかりしてしまいました。「村上春樹の小説が世界で受けているということは時代を反映している。そこには何かある。だから凄い。」と内田樹は幾度も指摘します。しかし、世界的に受けていることを評価の基準にするならば、ハリウッド映画だって世界で受けているのだから偉大ということにならないか(僕はハリウッド映画が映画の中で最も優れているとは思わないのですが)。

  その上、僕は村上春樹のファンでもなければ、内田樹のファンでもないので、些細なネタは楽しめない。内田樹は、自分にとって好ましいように村上春樹を読み、自分のことと絡めていきます。もう書かれていることの半分くらいは、我田引水的な自分語りに近い。つまり、彼は村上春樹というネームをダシにして、好きなことを好きなように語っているだけなのです。

  しかも、内田樹お得意の論理の「すり替え」というか、「転換」が溢れかえっています(まぁ、「飛躍」ともいうけど)。期待していたものとは違う・・・

  「言葉にはローカルな土地に根ざしたしがらみがあるはずなのに、村上春樹さんの文章には土も血も匂わない。云々」という村上春樹への批判に対しては、「それこそが世界性」と言い、そして村上春樹に対する批判を「村上春樹に対する集団的憎悪」と斬って捨てるのですが、ほとんど「言葉遊び」のようにしか見えないです(「世界性」ってなんなんだ、そんなものがあるのか)

  この『村上春樹にご用心』を読んで、内田樹というのは言葉が巧みな(すなわち内田樹こそ用心すべき)人で、やはり村上春樹は分からない人だなぁ、ということを僕は感じました。


自森人読書 村上春樹にご用心
★★★★★

著者:  山口雅也
出版社: 東京創元社

  物語の舞台は、ニューイングランドの片田舎、トゥームズヴィル。「今、アメリカの各地で不可解な事態が発生しています、死者が次々蘇っているのです」とニュースで報じる中、バーリイコーン一族の経営するスマイリー霊園で、殺人事件が発生します。死者が蘇るというのに、人を殺すことに何の意味があるのか?

  ミステリ小説。

  主人公、つまり探偵役はパンク青年のグリン。死のことばかり延々と考えているような男です。なんと、彼は物語の途中で殺害されてしまいます。そして言葉通り「生ける屍」となって事件解決を目指すこととなります。グリンの相棒は、同じくパンク女のチェシャ。どことなく抜けているところはあるけど、愛嬌があって実は鋭い女の人です。その2人のコンビが最高。

  最初にある登場人物の紹介(30人くらいがずらーっと並んでいる)と、物語の概略を読んで複雑な物語なのかと思い、警戒して読み始めました。確かにかなり入り組んではいますが、一時にたくさんの人物がでてくることはないし、文章は端正。だから非常に読みやすかったです。

  コメディタッチな部分がたくさんあって楽しいです。溢れかえる衒学趣味には少し閉口させられるけど、読み進めるうちに楽しくなってきます。ギャグになっているのです。しかも、全てが伏線として成立しています。素晴らしい、というしかない。

  ラストシーンは悲しすぎる。悲しいことなんてないんだけど、やっぱり悲しい。感動。

  これまで読んできた推理小説の中で、最高の傑作のひとつだと僕は感じました。「異色ミステリ」と紹介している人がいます。確かに死者が蘇るというびっくりな設定を持ち込んだところは特殊です。だけど解説にも書いてある通り、内容は王道の本格ミステリ。

  山口雅也のデビュー作。最初から傑作。


自森人読書 生ける屍の死
『SFが読みたい!〈2003年版〉』
面白そうなSFが目白押し・・・

1位は。

国内 野尻抱介 『太陽の簒奪者』
海外 コニー・ウィリス 『航路』


読んだ本
SFマガジン編集部『SFが読みたい!〈2003年版〉』

読んでいる途中
グレッグ・イーガン『万物理論』
『坂道の向こうにある海』
物語の舞台は小田原。朝子はハンサムで仕事の出来る正人とつきあっています。かつて、朝子はマイペースな卓也とつきあい、正人は朝子の5歳下の同僚・梓とつきあっていたのだけど、2人はそれぞれの恋人と別れました。そして、梓は卓也とつきあっています。正人と卓也は今までどおり介護施設に勤めています。一方、朝子はディサービスセンターへ転職、梓も病院へ転職してしまいました。その4人の関係はこれからどうなっていくのか・・・

恋愛小説。

さっぱりしています。いつかは好きな人を好きでなくなるときもあるし、だとしてもまた好きな人はできるから心配ない、というのがテーマなのだろうと感じます。

悩みつつもすすんでいく登場人物たちが印象的。

「朝のひかり─朝子/小田原ウメ子─梓/新しい年─朝子/山桜─卓也/貝の音─正人/坂道の向こうにある海─梓」といった章ごとに語り手がかわるのですが、それほど効果的とは思えません。しかもうまい具合に、章の最後の辺りで泣きをいれるところがあざといです。巧みではあるけれど。

あとはジョークがそれぞれ滑るところは気になります。全然気がきいていないように感じるのですが。

鋭いところのない心地良い小説。


読んだ本
椰月美智子『坂道の向こうにある海』

読んでいる途中
グレッグ・イーガン『万物理論』
『アウステルリッツ』
私は、半ばは研究を目的として、そして半ばは判然としない理由でイギリスとベルギーを行き来していました。1967年、アントワープ駅で、駅を観察し、メモをとっているアウステルリッツと出会います。そして、建築に関する話題をかわします。その後、会うこともなくなるのですが、1996年にアウステルリッツと再会します。そして、アウステルリッツの物語を聞くことになります。彼は15歳までウェールズの牧師のもとで育てられたのですが、実はアウステルリッツという姓だと教師から告げられ、自分を探すたびに出て・・・

ドイツ語の小説。

旅行記のようなエッセイのような小説のような、不思議な散文です。堀江敏幸を連想しました。しかも、各所に本文と関連した写真や図版が挟まれています。不思議な雰囲気を醸しだしています。

アウステルリッツは建築史を纏められず、文章を一行だって書くことが出来なくなり、論理を追求するのが欺瞞に思えてきてしまいます。文をみていてもほどけてしまうのです。そして、「綴じた紙もばらの紙も、メモ9用箋も、メモノートも、書類綴じも、講義録も、私の文字という文字の書かれている一切合財をなにもかもひっくるめて家から運び出し、庭の奥のコンポストの山にぶちまけて、その上から厚く枯れ葉をかぶせ、土をかけて」しまいます。それは、19世紀までの建築だけを考え、自分の生まれを忘れようとしていたから起こってしまったようです。

しかし、その自己欺瞞に気づき、過去を見つめると意外な事実がわかってきます。彼の生まれ故郷はチェコ。5歳のとき、彼はナチスによるユダヤ人狩りを恐れた親によって列車に乗せられ、ウェールズへと送られました。そして、その地で名前と出自と故郷と言葉を失ったまま生きることになります。そういったことが少しずつ沈鬱な文体で語られていきます。

ホロコーストの問題を扱っています。アウステルリッツは救いがたい事態に直面し、ヴォネガットと同じように線形ではない時間というものに目を向けるようになります。それが印象的でした。最後の辺りでは図書館のことが綴られます。過去へ目を向けなくなる世界に対して疑問を呈しているみたいです。蓄積は大切なのか。

「アウステルリッツ」からはアウシュビッツという単語が連想されます。しかし、アウステルリッツはアウシュビッツにたどり着くことはありません。それが不思議です。巨大建造物は最初から崩壊の陰をまとっているとアウステルリッツは指摘します。いびつな近代世界も、いつかは崩壊するのか。


読んだ本
W・G・ゼーバルト『アウステルリッツ』

読んでいる途中
椰月美智子『坂道の向こうになる海』
『ブラウン神父の童心』はG・K・チェスタトンの短編集。『青い十字架』『秘密の庭』『奇妙な足音』『飛ぶ星』『見えない男』『イズレイル・ガウの誉れ』『狂った形』『サラディン公の罪』『神の鉄槌』『アポロの眼』『折れた剣』『三つの兇器』収録。
『ブラウン神父の童心』

『青い十字架』
パリ警察に勤める名探偵・ヴァランタンは、機知と遊び心に溢れた大怪盗フランボウを捕らえるためロンドンへ向かいます。その途中で塩と砂糖が交換されているのを発見します。通りかかった二人組が行ったらしい。奇怪に思い、ヴァランタンは二人組を追うのですが・・・ ブラウン神父が初登場。

『見えない男』
四人の人間が周囲から監視していた建物の中で男が殺害されます。皆は恋敵が犯人ではないかと疑うのですが・・・

1911年に発表されたミステリ小説。

ブラウン神父はとても小さくて、丸顔で眼鏡を掛け、いつでも蝙蝠傘を持っています。だから、誰からも相手にされないのですが、実は鋭い洞察力と説明力を持っています。彼は、論理だけで全ての事件を解決していきます。そして、そのブラウン神父の相棒であり、引き立て役となるのがフランボウ。善良な心を持った大男。

突拍子がないトリック、心理的な盲点をついたトリックなどがたくさんあって面白いです。中には少し納得しがたい阿呆らしいものもないわけではないのですが楽しめます。『見えない男』などは、なかなかに面白いです。

最終的には論理が勝ちますが、それはキリスト教、つまり神への信仰を前提とした論理です。神秘的/幻想的な雰囲気が漂ってくることも多いです。新興宗教を立ち上げた男との対立が描かれる『アポロンの眼』などはなかなかに面白いです。本格ミステリなのだけど、宗教に関する物語のようでもあります。

犯人は創造的な芸術家だが、探偵は批評家にすぎぬというあまりにも有名な台詞も登場。とにかく、逆説と皮肉と批評が多くて楽しいです。無邪気にも王政と教養をぶっ壊したフランス人を軽く揶揄したり、「乗客の群れ」を蝿のように吐き出されたと表現したり、カトリック以外の宗教を愚弄するところは印象的。言いたいことは分からないでもないです。



読んだ本
G・K・チェスタトン『ブラウン神父の童心』

読んでいる本
W・G・ゼーバルト『アウステルリッツ』
『審判』
ある朝のこと。銀行員ヨーゼフ・Kのもとに突如として男たちが現れます。彼らは監視人だと名乗り、すでにKは逮捕されていると宣告します。しかし、なぜ逮捕されるのか全く分からないし、連行されることもありません。ですが、審理はすでに始まっていました。Kは無実だと訴えますが、法廷やその背景にあるらしい組織は訳が分かりません。そして、なぜかKはすでに有罪だと決まっているようです。Kは弁護士や法廷に出入りしている画家に頼ろうとするのですがますます訳が分からなくなり、最後には犬のように処刑されます・・・

1914年から書き始められた未完の小説。断片が断片として収録されています。

感覚的に把握することが出来ない巨大な組織・システムの怖さ/分からなさが、分かりやすく書かれています。ヨーゼフ・Kはなぜ裁かれるのかさっぱり分かりません。しかし、裁かれます。最初から結末が決まっているところは、ギリシア悲劇のよう。しかし、機械的にまずい立場へ押し込まれていくKは決して英雄ではありません。単なる銀行員です。だから、物語自体が少し滑稽になってきています。

Kはいつでも女性にまとわりつかれます。物語の一番最後には、断片「母親訪問」があります。ですが、Kにとって女性とのつきあいというのが何か分かりません。もしかしたら単なる息抜きなのかも。彼にとって最も大切なのは、銀行員としての仕事です。ようするに、かつては俗悪といわれた貨幣のやりとり/金融業なわけです(しかも金融業といえば、ユダヤ人が連想されます)。Kは女をひき寄せ、金融業を行う俗物のユダヤ人だから裁かれたのかも、と考えることもできます。

「大聖堂にて」では教誨師が登場し、Kに向かっていろんなことを語ります。教誨師は別個の短編として知られている『掟の門』のあらすじを説明し、解説まで加えるのですが、その部分は非常に面白いです。非常に大切なことが書かれている気がします。

法というものは、根本的に人間を容れないものなのであると示しているのかなぁ。あるいは、法というものはなんであれ人を束縛し、断罪するものだということか。その場合の法とは、自分の外側にあるものではなく、心の内側にある倫理観のようなものみたいなのですが。近代化が進み、神/つまり外側の法が消えたために内側の法(倫理観)も矛盾に悩まされ、破綻するということを示しているのか。


読んだ本
フランツ・カフカ『審判』

読んでいる本
G・K・チェスタトン『ブラウン神父の童心』
290信玄忍法帖
★★★ 山田風太郎

28911枚のとらんぷ
★★★★ 泡坂妻夫

288B・D・T 掟の街
★★★ 大沢在昌

287蒲生邸事件
★★ 宮部みゆき

286ミステリ・オペラ―宿命城殺人事件
★★★★★ 山田正紀
★★★

作者:  山田風太郎
出版社: 河出書房

  快作の塊と言えば良いのか、それとも怪作の塊と言えばいいのか。いろんな意味で凄い山田風太郎「忍法帖」シリーズの中の1冊。やっぱり面白い。

  武田信玄が京を目指す途上で病に倒れたところから、物語は始まります。武田家は7人の影武者を繰り出し、必死になってそのことを隠匿しようとしました。そこで登場するのが大軍師、山本勘介です。彼は、自らの献策(啄木鳥戦法)が失敗したため責任を取って川中島の戦いで自ら命を落とした、とされています。しかし、実は生きていて、12年間に渡って寺に籠もり、修行をしていました。そして信玄の死で危うくなった武田家を救うため、再び俗世へ帰ってきたのです・・・

  信玄の死を隠し、信玄の影武者を守るために戦うのは2人の真田忍者。猿飛天兵衛と霧隠地兵衛。逆に徳川家康の命令を受け、信玄の死を暴こうと襲い掛かるのは9人の伊賀忍者。御所満五郎、黄母衣内記、蝉丸右近、墨坂又太郎、漆戸銀平次、箙陣兵衛、六字花麿、虚栗七太夫、塔ヶ沢監物。

  その両者の間で、いつも通り山田風太郎風のエログロナンセンスな「忍術」による戦いが繰り広げられるわけです。ハチャメチャで面白い忍術を、よくあれだけ考え付くなぁと感心します。しかもそれを惜しげもなく次から次へと繰り出す勇気も凄い。ネタが尽きないのだろうか。

  それらの「忍術」は本当に破壊的な威力を発揮するわけですが、それでいて物語の流れがぶち壊れるということはありません。綺麗な文章にのせられたまま、どんどん読め進めることができてしまいます。滑らかな文章と、中身のえげつなさとの間に存在するギャップも、山田風太郎の面白さの1つではないかと思います(逆に、綺麗な文章だからこそ引き立つともいえるかも知れない)。


自森人読書 信玄忍法帖
『ヨーロッパ文学講義』
大切なのは「丁寧に細部を読む」ことだとよく分かります。

ジェイン・オースティン『マンスフィールド荘園』/チャールズ・ディケンズ『荒涼館』/ギュスターヴ・フローベール『ボヴァリー夫人』/ロバート・ルイス・スティーヴンスン『ジキル博士とハイド氏の不思議な事件』/マルセル・プルースト『スワンの家のほうへ』/フランツ・カフカ『変身』/ジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』といった作品が扱われています。

再読しなきゃと思いました。


読んだ本
ウラジーミル・ナボコフ『ヨーロッパ文学講義』

読んでいる本
フランツ・カフカ『審判』
『戦争のなかの京都』
読むと、京都も戦争の被害を受けていたのだということが分かります。地場産業は崩壊し、寺社も政府の指令を受け、金属を供出したそうです。しかも、空襲を受け、死者もでたらしい。

被害を受けていなかったから、原爆投下候補地にもなったとは聞いたことがあったので、(候補地は、京都市、広島市、横浜市、小倉市の4都市)意外でした。京都は、「戦災都市」としては認定されていないそうですが、太平洋戦争をくぐりぬけた日本の都市は、すべて戦災都市のようなものだという指摘は考えさせられました。

岩波ジュニア新書。


読んだ本
中西宏次『戦争のなかの京都』

読んでいる本
ウラジーミル・ナボコフ『ヨーロッパ文学講義』
★★★★

作者:  泡坂妻夫
出版社: 東京創元社

  アマチュアの奇術同好会マジキクラブは真敷市公民館の20周年記念のショーに呼ばれることになりました。そのショーの日、11人の奇術師たちは時には、というかけっこう色んな失敗をしつつも、次々と華麗な技を披露していきます。

  そして、最後のフィナーレ。人形の家から女性奇術師の水田志摩子が登場するはずだったのですが、なぜか現れません。そうしてショーはなんともしまらない幕切れとなります・・・ その後、事態は急変します。水田志摩子が自宅で死体となって発見されたのです。そして、その周りには短編集「11枚のとらんぷ」に沿った小物11個が毀されて配置されていました・・・

  「11枚のとらんぷ」というのは、マジキクラブをつくった奇術師・鹿川舜平の短編集。とても面白いものの実用はできなさそうなマジックを集めたもの。作中作。

  日本語としておかしな部分が随所にあって、それが凄く気になるんだけど・・・ しかしミステリとしてはとても面白いです。★5つでも良いくらい。

  泡坂妻夫にとってこれは初の長編小説だそうですが、最初から傑作。ちょっとアンフェアっぽいんだけど(どんなに考えても、絶対に犯人にたどりつけないような気もする)、それでも素晴らしいです。散りばめられた伏線が回収されていくラストが感動的。

  これぞミステリ小説。


自森人読書 11枚のとらんぷ
★★★

著者:  大沢在昌
出版社: 角川書店

  近未来。東京には、不法滞在者や、その二世ホープレスの住む地域ができていました。その地域(東新宿辺り)は完全にスラム化し、「B・D・T」と呼ばれるようになりました。

  日本人の中には、ホープレスやB・D・Tに対して憎しみを抱く者たちもいました。そういった勢力は、ホープレス排除計画を推し進めていきます。そんな中、ある女性の失踪事件を追っていたホープレスの探偵、ケン・ヨヨギはその壮大な陰謀に巻き込まれ、「純粋な日本人以外は追放すべき」と唱える勢力を倒すべく、孤独な闘いを挑むことになります・・・

  がさっとしたハードボイルド小説。文章がちょっといい加減なのではないか、という気がしてならないです。そこがちょっと引っかかりました。でも、スピード感があるからか、セリフが多いからか、あっさりさっくり読めます。

  『B・D・T 掟の街』は、典型的なハードボイルドです、多分。舞台は無法地帯(東京だけど)。数々の危機を潜り抜け、時には女を抱き、自分の信念を持って疾走する主人公。憎まれ口を叩きつつも主人公と理解し合い、彼に協力する孤独な警察官。その2人が活躍。

  主人公の唱える、「日本人以外は日本を出て行けなどというのは無理だ」という考え方には共感。そういうふうに社会問題を小説の主題として取り込むと、よく全体のバランスが崩れます。しかし、『B・D・T 掟の街』はしっかりと物語が成立しているなぁ、と感じました。

  激変した近未来の東京を描いているという共通項があったので、『シャングリ・ラ』を連想しました。「東京」という都市は、それ自体が主人公になるほどの存在感があるんだなぁ・・・


自森人読書 B・D・T 掟の街
『脱獄計画』
物語の語り手はアントワーヌ。彼は甥のヌヴェールから送られてきた様々な(矛盾する部分もある)手紙を引用しつつ、ヌヴェールのことを綴っていきます。ヌヴェールは親族や女性との関係がこじれ、流刑地である悪魔島に刑務官として送られました。彼は何もかもがよく分からないまま島で動き回っているということが、手紙から伝わってきます。そして、手紙だけでなく、それに呼応した他人の手紙や書類、様々な書物からの引用、2つの刊行者注が混ざり合っています。

1945年に発表されたカサーレスの小説。

認識に関する問題を扱っているようです。語り手は信用できません。しかも送られてきたヌヴェールの手紙も真実だけが綴られているのかよく分かりません。それ以前に、ヌヴェールは状況を把握できていません。だから、混乱します。

何がなんだか分からないというわけではないのですが、何が真実か、現実か定かではないのです。

ミステリのような、一種のオチもあります。オチもまた人間の認識に関する問題とからんできます。その部分はSFのようです。目新しいわけではないけれど、やはり驚かされるし、世界が本当にこのような姿をしているのか考えさせられます。

もしかしたら、全てがヌヴェールの妄想かもしれないけど・・・

カサーレスは、ボルヘスに見出され、彼とともに活躍したそうです。アルゼンチンには面白い小説家がたくさんいるみたいだし、もっと読んでみたいと感じます。


読んだ本
アドルフォ・ビオイ・カサーレス『脱獄計画』

読んでいる本
中西宏次『戦争のなかの京都』
『夜市』『風の古道』
『夜市』
大学生のいずみは、高校時代の同級生・裕司から「夜市にいかないか」と誘われ、ついていきます。すると異様な者がたくさんいて・・・ 予想外の展開が意表を突きます。第12回日本ホラー小説大賞受賞作。

『風の古道』
主人公と友達カズキは、現実から離れた道に迷い込んでしまいます。偶然出会ったレンという人に導いてもらうことにするのですが、カズキが射殺されてしまい・・・

幻想小説。

冒頭で、「学校蝙蝠」という言葉が登場した時点でうんざりしてしまいました。不思議な世界が展開されていくので楽しめますが、全体的にわざとらしくて鼻につきます。

構成、仕掛けはそれぞれ凝っていて面白いのですが、文章は荒いし、ひどいです。無理して難しい言葉を使っているのだろうと感じられるし、こなれていないのです。いかにもとってつけたようといえばいいのか。「美貌の才能」という表現などはとくに不可解。

日本ホラー小説大賞の選評者たちの絶賛は分からないでもないけど、褒めすぎではないかとも感じます。

あと、技法としてではなく、やたらと意味なく一行あけを使うところもいまいち。それをつなげなきゃ小説ではない気もします。小説ではなく、脚本としては優れているかも知れません。映像化されたら面白そうです。


読んだ作品
恒川光太郎『夜市』
恒川光太郎『風の古道』


読んでいる本
アドルフォ・ビオイ・カサーレス『脱獄計画』
『言葉の外へ』
『言葉の外へ』は、保坂和志のエッセイ。

カフカ、ベケットを引き合いに出すところはいつもどおり。言いたいことは分からないでもないです。しかし、カフカに関する説明は浅すぎる気もします。保坂和志がカフカ論みたいなものを書いてくれたら、絶対に読みたいと思うのですが、書いてくれないだろうかと感じました。もしかしてあるのかなぁ。

機械化された、論理を最上とみなす、この近代主義の時代・社会に納得できていない人は、翻ってロマン主義に目を向けるようになるのかも、と改めて感じました。あまりにも大雑把な把握だけど・・・

読んでいて、保坂和志は自由の森学園の教育に対して共感を示してくれるのではないかといつも感じます。どうだろうか。


読んだ本
保坂和志『言葉の外へ』

読んでいる本
恒川光太郎『夜市』
アドルフォ・ビオイ・カサーレス『脱獄計画』
「あなたはイタロ・カルヴィーノの新しい小説『冬の夜ひとりの旅人が』を読み始めようとしている」という一文から物語は始まります。男声読者は『冬の夜ひとりの旅人が』を読み始めるのですが、それは乱丁本でした。なので、本屋へいって取り替えてもらおうとすると、それはポーランド人作家タツィオ・バザクバルの『マルボルクの村の外へ』という小説かも知れないということが分かります。彼は、ちょうど同じ本を読んでいた女性読者と出会います。そして、乱丁本かも知れないから連絡を取り合って中身を確認しようと約束します。その後、男声読者は幾度となく読書を中断させられ、女性読者と邂逅することになります。

『冬の夜ひとりの旅人が』『マルボルクの村の外へ』『切り立つ崖から身を乗り出して』『風の目眩も怖れずに』『影の立ちこめた下を覗けば』『絡みあう線の網目に』『もつれあう線の網目に』『月光に輝く散り敷ける落葉の上に』『うつろな穴のまわりに』『いかなる物語がそこに結末を迎えるか?』といった小説の冒頭が連なり、その間に男声読者と女性読者の物語が綴られています。
『冬の夜ひとりの旅人が』

摩訶不思議な小説。説明不可能といっても過言ではありません。

作中作があふれています。チンメリア国、チンブロ人民共和国、ポルトガル、スペイン、さらには日本の架空の小説まで登場。どの小説もそれぞれ面白いのですが、それ以上にとにかく作品全体が面白いです。

遊び心に溢れていて愉快なのに、イタロ・カルヴィーノという人の作品論、読書論のようにもなっています。

『冬の夜ひとりの旅人が』という小説は、小説というもの、あるいはそれによって誘発される読書という行為それ自体を観察し、考察し、経験し、再現し、探索し、筆記し、解体し、構成していきます。読書と言うのは一度きりの体験なのだということを教えてくれるし、様々な読み方があるということを理解させてくれます。

とにかく、読書の楽しみが詰まっています。そして、大袈裟かも知れないけど、小説はあらゆる可能性を秘めていて、あらゆる世界を構築できて、あらゆる物を詰め込むことができるのではないかと感じさせてくれます。


読んだ本
イタロ・カルヴィーノ『冬の夜ひとりの旅人が』

読んでいる本
恒川光太郎『夜市』
保坂和志『言葉の外へ』
アドルフォ・ビオイ・カサーレス『脱獄計画』
★★

著者:  宮部みゆき
出版社: 文藝春秋

  主人公は、尾崎孝史という浪人生。彼は東京に出てきて予備校に受験するためにホテルに篭もるのですが、火事が起きて死にかけます。しかし偶然暗い雰囲気を持った男に救われ、突然に2.26事件前夜にタイムスリップしてしまいます。孝史は、最初その事実を疑うのですが、人との触れ合いの中でそれを次第に受け入れていき・・・

  タイムスリップを扱ったSF小説。第18回日本SF大賞を受賞。

  設定は面白いです。しかし長すぎる気がしました。長くても物語が魅力的だったらいいのだけど、脈絡もなくだらだらとどこまでも続くので疲れます。いったいいつまで続くんだ、と何回も文句を言いたくなりました。2.26事件の真っ只中にいるはずなのに、主人公が緊迫感に欠けているところも物足りない。というより、2.26事件の時代に物語を持っていく必要性が全く感じられませんでした。『蒲生邸事件』は、タイムスリップをテーマにした恋愛小説みたいなもの。だったら、昔ならいつでも構わなかったのでは?

  SFとミステリの融合したもの、と説明する人もいますが。ちょっとSFとしてはスリルに欠けるし、ミステリとしては面白みがない(というより、推理小説にはなっていない)。かといって、孝史の独白がうるさすぎて歴史小説には絶対になれない。微妙な作品。同じく2.26事件を扱ったSF小説としてならば、恩田陸の『ねじの回転』の方が面白い、と僕は思いました。

  それでも読ませるところが宮部みゆきの凄さかも知れません。非常に平易です。

  でも、最終的に読んで損したかも、と思ってしまいました。宮部みゆきにしては、つまらないのではないか。もっと凝ったタイムスリップ恋愛小説はたくさんあります。なので★2つ。もしもこれが宮部みゆきの本でなければ、もっと「凄い!」と思っていただろうなぁ。う~ん微妙です。期待をかけすぎて、かえって失望したから評価しない、というのはおかしいかも知れない・・・


自森人読書 蒲生邸事件
★★★★★

著者:  山田正紀
出版社: 双葉社

  30分間宙に浮かんだあと墜死した男、各所に登場する不可解なトランプ。主人公の女性が信じる平行世界のこと、オペラ『魔笛』の解釈。残された旧仮名遣いの文書の引用、古典ミステリへの言及。さらに、三大奇書への言及。銀仮面で顔半分を隠している謎の人間、甲骨文による見立て殺人。2メートルもの巨人の骨の発掘、戦闘中に消失する列車。日本が満州国に押し付けようとする新たな「神話」。検閲図書館なる謎の存在、暗躍する幾つもの組織。

  まぁそういった目くらましに引き込まれちゃいけないんだろうけど。これでもか、というくらいに繰り出される魅力的な謎と小道具には感心するしかないです。

  SF的/ファンタジー的設定を用いたミステリ小説。

  物語は、現代(平成元年)の東京と、昭和13年の満州国をいったりきたりします。とてもごちゃごちゃになっていて眩暈がしてくるのですか、最後に到達すると、全ての謎が一応きちりと解決されます。大風呂敷を広げた割には、全てがしっかりと消化されきっていて、素晴らしい。

  推理作家・小城魚太郎の著作『赤死病館殺人事件』の中の一文が、何度も引用されて、とても印象的です。「この世の中には異常(アブノーマル)なもの、奇形的(グロテスク)なものに仮託することでしか、その真実を語ることができない、そんなものがあるのではないか。君などは探偵小説を取るに足りぬ絵空事だと非難するが、まあ、確かに子供つぽいところがあるのは認めざるを得ないが、それにしても、この世には探偵小説でしか語れない真実といふものがあるのも、また事実であるんだぜ。 」

  山田正紀は、2段組680ページという分厚さでもって語るわけです。「昭和史」とはすなわち「探偵小説」なのだ、いや「探偵小説」によってこそ見えてくる「昭和史」があるんだ、と。

  著者が最後に提示するのは、「推理小説」による昭和史の総括。そして、「巨大な力に押し潰された弱者の声を掬うというのは凄く難しいことだけど、やっぱり為されなければならない」という意思。受け付けない人もいるようですが、僕は著者の態度はとてもかっこいいと思うし、『ミステリ・オペラ―宿命城殺人事件』は傑作だと思います。


自森人読書 ミステリ・オペラ―宿命城殺人事件
285楠木正成
★★★ 北方謙三

284御宿かわせみ
★★★ 平岩弓枝

283少女
★★★ 湊かなえ

282私が語りはじめた彼は
★★★ 三浦しをん

281独白するユニバーサル横メルカトル
★★★ 平山夢明
ウェブサイトhttp://jimoren.my.coocan.jp/
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
ブログ内検索
最新CM
[07/03 かおり]
最新TB
バーコード
アクセス解析
Powered by ニンジャブログ  Designed by ゆきぱんだ
Copyright © いろいろメモ(旧・自由の森学園図書館の本棚) All Rights Reserved
忍者ブログ / [PR]