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自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
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★★★

作者:  飴村行
出版社: 幻冬舎

  物語の舞台は、十五年戦争のさなかの日本。三部構成。

  第一部。国民学校初等科に通う堀川真樹夫と中沢大吉は、同級生の月ノ森雪麻呂の家へ招かれるのですが、〈ヘルビノ〉と呼ばれる爬虫人に出迎えられます。〈ヘルビノ〉は東南アジアのナムールという国から連れてこられた頭部が蜥蜴の生物でした。真樹夫と大吉は父親の権力を利用し、全てを思い通りに押し通そうとする暴虐な少年・雪麻呂によって酷い目にあわされ・・・

  ホラー小説。

  エログロナンセンスという言葉が似合います。ストーリーは一応あるのだけど、存在している必然性がない気もします。そして、とにかく人間の汚い部分がいやになるほどしっかりと綴られています。しかも、様々なスプラッター描写、グロテスクな表現などがいちいち気持ち悪いです。著者・飴村行はいったい何を考えながら小説を書いているのだろうか、と感じてしまいました。

  グロテスクですが、だからこそ笑えるところも結構あります。

  暴虐で卑怯な主人公・月ノ森雪麻呂には、とにかくうんざりさせらます。彼はいつでも父親の権力を利用し、好きなように振舞います。物語が成り立つのは彼がばかなことを繰り返すから。

  ラストには呆れます。デンデン太鼓を叩いていた〈ヘルビノ〉の正体が明らかになるのですが、もう頭を抱えたくなります。綺麗に収まっているようにみえますが、よく考えてみると全然綺麗ではないし、とんでもないです。

  基本的に読みやすいし、まぁ悪くはないとは思います。しかし、読んでいると面倒になってくるし、ちょっといやになってきます・・・


自森人読書 粘膜蜥蜴
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★★★

著者:  柳広司
出版社: 講談社

  『ジョーカー・ゲーム』の続編。諜報活動に身を投じたこともある結城中佐はスパイ養成学校をつくり、日本陸軍内部に「D機関」という諜報機関を設立。自殺することと敵を殺すことを禁じ、本物のスパイを育成することを目指します『ダブル・ジョーカー』『蠅の王』『仏印作戦』『柩』『ブラックバード』収録。

  表題作『ダブル・ジョーカー』
  「D機関」を嫌う軍部は、エリート風戸に任せ、新たに諜報機関「風機関」を立ち上げます。躊躇なく殺し、潔く死ぬことを重要視した組織でした。「D機関」と「風機関」は互いを出し抜こうとして争うのですが・・・

  スパイ小説。

  前作以上に面白かったです。「風機関」の不甲斐なさは愉快。それに対して「D機関」はやたらと強くてかっこいいです。しかし、不慮の事故に襲われてしまいます。そしてそれが遠因となって、とうとう最悪の事態が発生してしまいます。

  やはり、「D機関」という組織に全くといっていいほどリアリティが感じられないのですが、だからこそ魅力的なのかも知れません。超人的な日本人が次々と愚かな敵を出し抜いていくところはある意味では爽快。それに、陸軍中野学校というモデルもあるわけだから、日本だってやられてばかりでもなかった、といふうに受け止めることも出来ます。それでいいのか、という疑問も湧きますが。

  スタイリッシュなスパイ小説として、面白いです。


自森人読書 ダブル・ジョーカー
★★

作者:  東山彰良
出版社: 双葉社

  ジョニーは、昔人間ドン・コヴェーロのマフィアに飼われていた雄兎です。主人が殺されてしまったため、野良兎となり、探偵事務所を開設しました。そこへ失踪兎の捜索依頼が舞い込みます。彼はラビッチたちとヤりまくりつつ愛について語り、その上事件を追うのですが、事件は兎の集団失踪事件にまで発展し・・・

  兎が主人公のハードボイルド小説。

  呆れるような内容。主人公が兎だということが存分に活かされているし、その上ミステリとしてもそれなりに面白いのだけど、読んでいるとなんというか、もうどうでもよくなってきます。とにかく、ジョニーという存在が愉快。

  主人公ジョニーの台詞がいちいち耳障りというか、いかにもハードボイルドと言う感じでかっこよくて笑えます。あとは、ジョニーの扱われ方が愉快です。最初の内は兎世界で探偵として活躍するのですが、後半になると・・・

  文章が読みづらいし、世界観もいまいち把握しづらいのですが、一級のバカミスということができるかも知れません。とくに、「終幕 ジョニー・イン・ザ・ブルー・スカイ」は、なんとも言いがたいです。

  『ジョニー・ザ・ラビット』を読む暇があったら他の本を読みたい、とは感じましたがつまらないことはないです。ここまでくると、「渋くてかっこいい」ハードボイルドというものが本当にバカバカしいもののように思えてきます。おかしすぎます。


自森人読書 ジョニー・ザ・ラビット
★★★★★

著者:  奥田英朗
出版社: 角川書店

  1964年(昭和39年)。東京オリンピックを目前に控え、日本中が熱気に包まれていました。市民や警察は勿論のこと、労務者、学生、左翼、はてはヤクザまでがアジアで初めてのオリンピックを誇りに思い、待ち望んでいました。しかし、マルクス経済学を学ぶ東大院生・島崎国男は、出稼ぎ労務者だった兄が東京の建設現場で事故死したことをきっかけにして、その状況に疑問を持ち始めます。彼は兄の遺骨を実家がある秋田の寒村に持ち帰ったときには極貧の中で苦しむ人々を目の当たりにし、夏休みの間労働者と肩を並べて働いたときには理不尽かつ過酷な労働現場を知ります。彼は悩みます。ですが、オリンピックを妨害することで国家に戦いを挑むことを決め・・・

  社会派サスペンス小説。

  521p二段組。長大なのですが、とにかく引き込まれます。高度成長期の日本というものが細部にいたるまで描写しつくされています。西洋的な生活を送りつつビートルズに熱狂する市民と長時間労働に苦しみ明日のことなど考えることも出来ない薄汚れた労務者。開発が進み、娯楽が溢れる進歩的な東京と、次男三男に居場所はなく結婚は村が取り仕切る封建的な秋田。それらの対比が印象的。

  そして、群像劇としても優れています。登場するキャラクターたちがとにかく魅力的。

  島崎と意気投合する年老いたスリ村田留吉。官僚しかいない一族の中でテレビ会社に就職した須賀忠。オリンピックの日に出産予定の妻と二歳になる息子と郊外で生活している優秀な警官落合昌夫。誰もが、善意と悪意を併せ持った個性的な人間なのです。

  そして、とにかく主人公・島崎が魅力的。彼は誰からも好かれる控えめな優男。東大の大学院にまで進むのですが、輝かしい日本/東京をつくるために踏みにじられている人々と出会い、その状況を是正しようと思いながら具体的な手段を見つけられません。そして、労務者の仲間から貰ったヒロポンに手を出したために薬物中毒に陥ります。ですが、感覚が鋭敏になるヒロポンをうまく用い、テロを決行。日本を脅かし、八千万円を奪い取ろうとします。国家の権威を剥ぎ取ろうとしたわけです。彼は少しずつ追い詰められていくのだけど、それでも基本的には誠実だし、愚直です。関係ない他人に迷惑をかけようとしません。

  度重なる偶然と警察の内部対立が彼を救うのですが、少し都合よすぎる気がしないでもないです。けれど、好人物過ぎてテロリストになりきれていない島崎が活躍するためには、偶然が必要な気もします。

  無邪気に未来を信じる人間が溢れかえるオリンピック開会式の会場で、過酷な現実に目を向けてた人間があっけなく射殺されるクライマックスの場面はあまりにも印象的。奥田英朗の最高傑作なのではないか、と感じます。

  第43回吉川英治文学賞受賞作。


自森人読書 オリンピックの身代金
★★★★

著者:  ジェイムズ・エルロイ
出版社: 文藝春秋

  元ボクサーの警官バッキー・ブライチャートは、同じく元ボクサーの警官リー・ブランチャードと、公衆の面前で久しぶりにボクシングの試合を行います。それは警察公債発行を実現するためのキャンペーンだったのですが、バッキーはそれをうまくこなし、出世。その後、バッキーとリーはコンビを組み、活躍していきます。1947年1月15日、ロス市内で腰を切断された女性の死体が発見されます。その内に身元が明らかになります。本名はエリザベス・ショート。女優になることをめざし、都会へでてきたのに誰に対しても妄想的な嘘をつきまくり、しかも体を男に売り続けていた女性でした。マスコミは、彼女を「ブラック・ダリア」と呼び、その事件をセンセーショナルに報じます。バッキーとリーは必死に事件を追うのですが・・・

  実際に起こった殺人事件を基にした小説。

  アメリカ社会の暗部を切り取った「暗黒のL.A.」四部作の第一作目。文体は軽快だし、ストーリーは物凄いスピードで進んでいきます。読みやすいけど、翻弄されます。

  狂気と暴力とセックスと薬と犯罪と不正とジョークが溢れています。まともな人間はほとんど一人も存在しません。とはいえ、誰もが強烈な個性の持ち主なので、記憶には残ります。

  とくに、リーという男が印象的。彼は有能な警官なのですが、怒り狂うと手がつけられず、その上薬漬けになりかかっています。ブラック・ダリアを幼い頃喪った妹のように感じていて事件解決に狂奔します。最初の内は憐れな被害者のように思えますが、実は全然そのようなことはなく、汚れ切っています。

  ミステリとしても優れています。ラスト近くになるまで真相は分かりません。しかも、痛烈などんでん返しが待っています。とはいえ、ミステリと言うよりは、どす黒いサスペンス小説といった方が適切ではないか、と感じます。


自森人読書 ブラック・ダリア
★★

著者:  トレヴェニアン
出版社: 角川書店

  モントリオールの一角に、ザ・メインという薄汚れた街がありました。ザ・メインは、イギリス地区とフランス地区の狭間に位置しており、元兵士や娼婦、ギャングの端くれ、老人など、様々な人間が溢れかえる吹き溜まりのような場所でした。ですが、それでも一定の秩序がありました。ラポワント警部補がいたからです。彼は三十年にもわたって毎日欠かさず街をパトロールし続けています。彼こそがザ・メインの法であり、運命なのです。そんなある日のこと、跪くようにして死んでいる男が発見されます。ラポワント警部補は、若い警官ガットマンとともに、その事件を追うのですが・・・

  物悲しい犯罪小説。

  不条理な世界に放り込まれ、猥雑な街の中で這いつくばりながら生きていく人たちが抱く悲哀のようなものが淡々と描き出されています。

  とくに、清濁併せ呑む主人公クロード・ラポワントの姿が印象的。彼は毎日ザ・メインの治安を守るため街を歩きまわり、糞のような連中を脅し、叩きのめし、殴り、すかし、貶めます。ですが、そういう行為が非難され、警察組織の中では孤立しています。その上、胸の中には動脈瘤が存在しているため明日も分からず、今では毎日のように若い頃喪った亡き妻と存在しない娘のことを妄想しつつ週に二晩友人とトランプで遊ぶことを楽しみにしているのです。

  「進歩的」な考え方を持つ若い警官ガットマンは、ラポワントのことを全面的には賛同できないけれど、立派な人だというふうに評します。その意見には共感しました。

  サ・メインという街そのものを描いた小説としても読めるのではないか、と感じます。

  ラストがあまりにも悲しすぎて堪らないです。地味な印象を受けるけど、しっかりと噛みしめたくなるしっかりとした小説。


自森人読書 夢果つる街
★★★★

著者:  コーマック・マッカーシー
出版社: 扶桑社

  ヴェトナム帰還兵のモスは、メキシコ国境近くで、蜂の巣状態にされた車と殺された人間を見つけます。どうやら麻薬密売人どうしの銃撃戦があったらしいのです。そこには大金が残されていました。モスは金を持って逃げ出しますが、息のあった男に水をあげようとして殺人者シュガーに目をつけられてしまいます。シュガーが現れた場所には血が撒き散らされ、何十人もの人が死にます。老保安官ベルはそれを止めようとするのですが・・・

  強烈なノワール/暗黒小説。

  コーマック・マッカーシーは1933年生まれのアメリカの小説家だそうですが(『血と暴力の国』は2005年発表)、細部を徹底的に描写するところなどは非常に先鋭的。括弧(「」)がなく、地の文と台詞が混じっているので少し読みづらいのですが、味があります。

  読んでいると暗い気持ちになります。ここまで不気味で、救いのない物語も珍しいのではないか。ヴェトナム戦争が背景にあるらしいとは感じられるのですが、誰もそれによってもたらされたひずみ/惨禍から逃れられません。

  血に塗れた国家アメリカの現実を描き出した作品なのではないか、と僕は感じました。

  神を信じず、自分の論理にだけ従って幾らでも人を殺していく不気味な殺し屋シュガーが物凄く印象的です。それと対照的なのは老保安官ベル。彼は古きよき時代を想い、つらつらと悩み続けます。しかしどれだけ考え、悩み、苦しみ、動いたとしても彼にはどうしようもありません。

  なぜならば、多分、シュガーという存在自体がアメリカ社会に根ざしたものだからです。シュガーは銃を振り回し、血を撒き散らし、人を殺し続け、決して倒れません。あまりにも非人間的。まるで戦争に適応した怪物としか思えません。ですが、それこそがアメリカなのではないか?

  人間性とは何なのか、良い社会とは何か考えさせられます。


自森人読書 血と暴力の国
★★★

著者:  米澤穂信
出版社: 東京創元社

  主人公は、紺屋長一郎という男。彼は東京の銀行に勤めていたのですが体の調子がおかしくなり、職を捨てて故郷に帰ります。そして、地元で「犬探し」をやろうと思い立ち、事務所をひらくのですが、「失踪した人を探してくれ」、「神社の古文書の内容を解読し、歴史を調べてくれ」といった犬探しとは全く関係ない依頼が舞い込みます。そこへ高校時代の同級生・半田平吉が転がり込んできたので、彼とともにその2つの依頼を調べていくことにしました。すると何故か、その2つの事柄、微妙に関連があるようなないような・・・

  渋く苦い探偵小説。

  途中までは読み進めていくのが面倒だったのですが、半分過ぎればあとはすらすら読めます。米澤穂信の小説は、いつでも妙に引っかかって読み辛い・・・

  醒めきって何か悟ってしまったような主人公・紺屋長一郎のキャラクターが面白かったです。様々な物を突き放す彼の態度は、ダークな世界観とマッチしています。そして、主人公とは対照的なうるさいやつ、ハンペーも面白いです。

  ただし、ハンペー(半田平吉)が図書館に行ったきり登場しなくなってしまうのが釈然としなかった、というか少し寂しかったです。もう1人の主人公のはずなのに。もしかして続編が出るのかも知れない。楽しみです。

  最後にどんでん返しが待っています。不意を突かれます。


自森人読書 犬はどこだ
★★★

著者:  佐々木譲
出版社: 新潮社

  太平洋戦争開戦前夜。ドイツ軍はイギリス本土を攻め切れず、結局撤退しました。その事態を憂慮したヒトラー総帥は、日独伊三国軍事同盟を結んだばかりの新興国・日本が開発した戦闘機(零式艦上戦闘機)の噂を聞きつけ、ライセンス生産を行うかどうか検討するために購入したいと日本政府に持ちかけます。それを受け入れた海軍は困難だと自覚しつつ、安藤啓一、乾恭平ら優秀でありながら反骨精神に満ちた男たちに零式艦上戦闘機を任せます。彼らは遥かなベルリンを目指し、東京を出発するのですが・・・

  壮大なif歴史小説。ようするに法螺話。

  なかなかに読み応えがあります。けして嫌いではないのですが、視点が不規則に変わるので少し読みづらいです。

  物語の舞台は日本、インド、イラク、ドイツを転々とします。各地の状況がきちりと描写されていたので感心しました。たくさんの資料を紐解いて書いたのだろうと感じられます。著者の大日本帝国に対する批判的な姿勢には共感します。

  ただし、安藤啓一、乾恭平ら主人公たちがあまりにもかっこいいのでリアリティが感じられないです。当時の軍部に彼らのような反体制的な男たちが存在しえたとは思えないのだけど。まぁフィクションだからOKなのか。しかし、そういうはなしが多すぎるよなぁ・・・

  とはいえ、『ベルリン飛行指令』は面白く壮大な小説です。


自森人読書 ベルリン飛行指令
★★★★

作者:  大沢在昌
出版社: 双葉社

  新宿署の鮫島警部は「新宿鮫」と呼ばれ、恐れられています。警察機構に楯突き、ヤクザとはつるまず、ただ1人で犯罪者を追跡するからです。鮫島は銃密造の天才・木津を追っているうちに、歌舞伎町で発生した警察官連続射殺事件との関連を見出します。彼は単独で木津を追い詰めていきます。しかし信頼した人に裏切られ、絶体絶命に危機に陥り・・・

  ハードボイルド小説・警察小説の傑作。

  展開はハードボイルドの典型みたいなものだし、「いくらなんでも出来すぎ」と言ってしまっても過言ではないし、日本語としてしっくりこない表記が時折でてきて気になります。ですが、主人公・鮫島が途轍もなくかっこいいので、欠点は全部チャラにしても良いのではないか、と感じてしまいます。

  キャリアとノンキャリアの対立や、キャリア同士の熾烈な争いについてもきちりと書かれています。ですが、そこは主眼ではありません。『新宿鮫』は鮫島という男の熾烈な闘いを描いた物語です。

  鮫島は正義を貫徹するためならば、全ての人間を敵に回します。もともとキャリア組だったのに、人命を犠牲にすることを厭わない捜査に反対して部下の警察官に襲われ、その上警察内部の勢力争いに巻き込まれ、新宿署に左遷されました。それでもやはり正義のために奮闘します。本当にかっこいいです。

  鮫島と愛し合うロックシンガー・晶もかっこいいです。あとは、家族を交通事故で失ってから気力を失ったマンジュウ・桃島の意外な活躍もみどころ。

  やさぐれた『踊る大捜査線』みたいなものかなぁ、と読みつつ思ったりもしました。


自森人読書 新宿鮫
★★★

著者:  新井素子
出版社: 新潮社

  結婚七年目の三津子と忠春。関係は円満だし、忠春はどこまでも出世していくので二人は幸せかのように見えました。しかし、忠春に依存しきっている三津子の心は、実は「寂しさ」によって蝕まれていて・・・ 仕事の奴隷と化す夫とその人に尽くすためだんだんとボロボロになっていく妻の痛みを抉り出したサイコ・ホラー。

  三津子本人の日記と冷静なる分析者の文章が交互に挟まっています。

  物凄く怖いなぁ、と感じました。三津子は妙に神経質で過敏だし、忠春は鷹揚でなんとなく抜けている感じがするのですが、そういうこともあり得るかもしれないし、そういう家庭もありうるかも知れない。ほとんど外出しない三津子の狭くて苦しい日々には、本当に息が詰まります。もう少しブラブラと散歩でもすれば気分が晴れるだろうに(いや、それは苦痛にだけなのかな)。

  女性にとって妊娠というのは大きなことなのだろうなぁ、と思わされました。それにしても、最後の主人公の想像はいかにもSF的。少し電波系入っているなぁ・・・

  そういえば、かわいい猫が登場するのですがかわいそうなことになってしまいます。う~ん、なんとも惨いことだ。ストレスに押し潰されそうな人間が小動物に向かってそのストレスを解放するというのはよく聞く話ですが・・・

  まぁ、全く救いがないというわけでもない(のではないかと思わされる)ラストが良いです。それとあとがきが面白いところも。


自森人読書 おしまいの日
★★★

著者:  乙一
出版社: 講談社

  怪盗は、富豪の家から次々といろいろな財宝を盗んでいきました。現場に残されていたカードには、【GODIVA】と書かれていたため、怪盗はゴディバと名付けられました。それを追うのは探偵ロイズ。彼はその国の子ども達のヒーローです。寂れた町に住むリンツもロイズに憧れている少年の一人でした。彼は父に買って貰った聖書に挟まっていた紙を見て、どきりとします。それには風車小屋の絵がかかれており、ゴディバの残したものだと思われたからです。彼は探偵ロイズに手紙を送ります・・・

  乙一らしい作品。

  平山夢明の『独白するユニバーサル横メルカトル』に収録されている作品群と近い雰囲気がします。陰惨な世界が描かれています。ヒーロー探偵ロイズは、ヒーローではないし、勧善懲悪の物語にはなりません。善も悪も混じりあっているわけです。

  移民である主人公リンツへの差別が印象に残ります。しかし、そういう重いテーマが扱われているのですが、どこか童話的な静かさが作品全体に立ち込めています。そこらへんが乙一らしさなのかなぁ、という気がします。

  暗い物語だけど、救いがないわけではありません。最後には、妙に明るい気分になります。けっしてハッピーエンドとはいえないと思うんだけど、世の中捨てたものではないな、と思わされます。その辺りも巧みです。

  講談社ミステリーランド。ひらがな、カタカナがやたらと多くて、その上文字が大きいのでとても読みやすいです。


自森人読書 銃とチョコレート
★★

作者:  法月綸太郎
出版社: 講談社

  ニューヨークの怪盗グリフィンは「あるべきものを、あるべき場所に」という信条を持ったちょっとおかしな盗みやでした。彼は、メトロポリタン美術館に所蔵されていたゴッホの自画像を盗んでほしいと依頼されます。もちろん、ただの盗みはお断りといったのですが、依頼者はメットにあるのは贋作だと言いました。さて、怪盗グリフィンはどうしたかというと・・・

  講談社ミステリーランド。若い人向けらしいです。

  怪盗、美女のパートナー、謎の男、大統領、将軍、大佐といった人たちが登場します。著書らしからぬ軽快で愉快な冒険小説。とにかく読みやすいです(字も大きいし)。でも最後のぐちゃぐちゃした(緻密ともいう)推理の過程の説明はやっぱり法月綸太郎らしいなぁ、と感じました。

  人種差別や政治(9.11テロによって云々という説明があったり)についてのはなしも挟まれたりして、予想以上に読み応えはあります。

  法月綸太郎は、「本格ミステリ」に囚われ(こだわり)、悩む作家として知られています。けれど、『怪盗グリフィン、絶体絶命』を読むと、ハメをはずした小説も書けることが分かります。もしかしたらそういう軽めのはなしの方が面白いんじゃないか、と思ってしまいました。そのような感想は、著者本人にとっては不本意かも知れないけど。

  さらっと読める作品。


自森人読書 怪盗グリフィン、絶体絶命
★★

著者:  パトリシア・コーンウェル
出版社: 講談社

  バージニアの州都リッチモンドで、グロテスクな連続レイプ殺人事件が発生。しかし、ほとんど証拠を残さない犯人に対して、警察はなす術がありません。そして、警察の必死の捜査を嘲笑うかのように、犯人による残虐な犯行はエスカレート。しかも、警察内部のどこかに機密情報を漏らす者がいるらしい。それを武器にしてマスコミが無闇やたらと騒ぎ立てるために、事態はさらに混乱していきます。美人検屍官ケイ・スカーペッタは、残された遺体から犯人を追おうとするのだが、妹に預けられた姪のルーシーが手元にいることもあって、四六時中いらいらしているような状況が続きます・・・

  サイコサスペンス。気が重くなる物語。でも、その割にはたちの悪いジョークなんかもけっこうあるんだけど。

  海外のミステリには、どこか底抜けに醒めた気持ち、というかまぁ死んじゃったけどしかたないない、悲しいけど頑張ろうぜ、みたいな空元気があるような気がします。だからつまらないジョークなんかもはさまる。それで、物語はだーっと走っていくわけですが。それに比べて、日本のミステリはとにかくやたらと重い気がします。くそまじめで冗談とか全然ないし、ラストになってみたら、結局誰も救われなかった・・・ みたいな展開が定番で、ちょっと陰鬱になります。

  それにしても、『検屍官』の謎解きにはちょっと失望しました。ネタバレになるから詳しいことは書けないけど、本格ミステリとしては失格。まぁ『検屍官』は、サスペンスだから良いのか。

  ラストは良い感じです。暗いぎしぎしするような場面が延々と続いてきたのが最後になってやっと終わります。事件を解決し、一仕事終えた検屍官ケイ・スカーペッタは、休暇をとり、姪・ルーシーを連れて海岸に行くことにします。まぁいろいろ口喧嘩もあったわけですが、結局行くことになり。その2人が、旅行地に向かう飛行機に乗り込もうとしながら、ぺちゃくちゃ喋っている場面で物語はおしまい。

  MWA賞最優秀処女長編賞、CWA賞最優秀処女長編賞受賞作。

読書メモ 検屍官
★★

著者:  ウィリアム・アイリッシュ
出版社: 東京創元社

  突然墜落してきたものにぶつかって意識を失ってしまったタウンゼント。彼は急いで家に戻るのですが、そこには妻がいませんでした。彼は慌てて管理人を問いただし、妻の住んでいるところへ向かいます。そして妻と面会するのですが、彼女と話している内に衝撃的な事実にぶちあたります。なんと、これまで3年の間彼は失踪していたというのです・・・ その3年間、彼は何をしていたのか。タウンゼントは全く覚えていません。しかも、タウンゼントを付け狙う黒い影が現れ・・・

  「サスペンスの詩人」といわれたウィリアム・アイリッシュの小説。

  スリルに満ちています。前半が面白いです。3年間の記憶が欠けているために、自分というものを信じることが出来ず、苦しむ主人公の様子が上手に描かれています。自分がそんなふうになったら、どうするだろうかと考えてしまいました。

  けど、結構あっさりと書かれています(ぐちゃぐちゃ書き連ねる小説とは違って、『黒いカーテン』はそこが良い)。なので、すらすらと読んでいくことができます。

  後半、推理小説風になります。けど、推理ものとしてはそこまで面白くはないです。でも主人公が窮地に追い込まれる場面ではやっぱりどうなるのか不安になりました。

  自分の命を犠牲にする人が出てきて、それには少し驚かされました。そういうことか。


自森人読書 黒いカーテン
★★★★

作者:  恩田陸
出版社: 新潮社

  2002年2月11日午後2時過ぎ。都内郊外の大型商業施設Mで重大な事故が発生し、150名以上の死傷者が出ます。ですが、それなのにその原因が何であったのかまったく特定できません。そして聴き取り調査が始まるのですが・・・

  質問形式、つまりQ&A形式で物語が進行していきます。

  いったいどうして事故は起きたのか。最初はその謎を追求していたはずなのに、いつの間にか物語は別の方向へとずれていきます。けど、それは「脱線」ではないようです。事故とその周辺のことが延々と書かれていきます。見えないものの怖さを感じました(事故の原因は「偶然」という見えないものみたいだし)。そういう意味ではホラーなのかも知れない。

  全体的に気味悪いです。『理由』と同じような趣向かと思いきや、『理由』以上にずれていくし、よく分からない部分がたくさん残ります。いったいぜんたい誰が訊いている側で、誰が訊かれている側なのかすら分からない場合もあります。

  宗教絡みのはなしも出てきます。というか、むしろ最後の辺りは宗教に関するはなしになっていきます。その辺りのことをもう少し読みたいと感じました。

  『Q&A』の孕んでいる不可解さには困惑させられます。不明瞭な部分が多くて釈然としないのです。しかし、だからこそ、どこか現実の出来事のように思えてきます。

  非常に不気味な作品。


自森人読書 Q&A
★★

作者:  宮部みゆき
出版社: 幻冬舎

  犬の散歩に出掛けた老人が、コンビニで買った烏龍茶を飲んで突如として死亡しました。連続無差別毒殺事件の4人目の被害者ではないか、と疑われたのですが、警察は別の見方をしました・・・

  今多コンツェルンの広報室では、原田いずみという女性をアルバイトとして雇います。彼女は編集経験があると自称していましたが、編集のことについて全く何も知らないようでした。しかもとんでもないトラブルメーカー。些細なことで激昂し、人を罵り、傷つけました。会社側は彼女を解雇します。ですが、それに対しても彼女はクレームをつけてきました。広報室の杉村三郎は、彼女の対応をまかされるのですが翻弄されてしまい、北見という「探偵」のもとを訪ねます。その時、美知香という被害者の少女と出会い、毒殺事件についても調べだします。そうして杉村三郎はいろんな事件に関わっていくことに・・・

  「現代ミステリ」と銘打たれています。

  原田いずみという女性の存在感が物凄いです。彼女は勝手に物語をつくりあげ、他人を悪人に仕立て上げる天才。こういう人、いるよなぁと思いました。いらいらしました。

  そして、宮部みゆきは、やっぱり凄い人だと感じました。

  『名もなき毒』では、社会のゆがみ(すなわち「毒」)によって生み出され続ける、掴みどころのない今の犯罪を上手に切り取ってみせます。読み応えがあります。けど、どちらかといえば、昔の作品(『火車』、『理由』)の方がより凄かった、というより好きだったと僕は感じました。2つの事件を同時に扱っていくことに意味が感じられなかったです。もう少し絡めて欲しかったような気もします。

  登場する子どもが可愛いです。

  2007年第4回本屋大賞ノミネート作(10位)。


自森人読書 名もなき毒
★★★★★

著者:  角田光代
出版社: 中央公論新社

  1985年2月、野々宮希和子は不倫相手の家に侵入し、突発的に生後6ヶ月の赤子を誘拐してしまいます。希和子は赤子に「薫」という名をつけました。そして、自分の子として育てるため逃げ回ります。なぜか、彼女たちの行く先々にはいろんな理由で匿ってくれる人がいたため、逃亡はいつまでも続きます。そして何年間か経ち・・・

  長篇サスペンス。二部構成。角田光代らしい家族を巡る物語。

  立ち退きに応じないお婆さんの家での生活。怪しいエンゼルホームにおける日常。美しい自然に囲まれた小豆島での日々。そのどれもが印象的です。

  希和子はとんでもない人だよなぁ、と最初思いました(まぁ当然ですが・・・)。だけど、読み進めていくうちにだんだんと印象が変わってきます。もちろん人の子どもを誘拐してしまうとんでもない人だ、という前提の部分は変わりません。けど、子どもを思う気持ちをしっかりと持った「お母さん」になっていくことに、心を動かされます。

  希和子と薫は、本物の家族よりも家族らしい関係を築いていきます。2人の小豆島での日々はとても楽しそうです。良いなぁ、と思います。しかし、その日々も最終的には壊されてしまうわけですが。どうして放っておいてあげないのか、と僕は思わず言いたくなりました(まぁ、誘拐された子を放っておくわけにはいかないのだけど)。

  2008年第5回本屋大賞ノミネート作(6位)。


自森人読書 八日目の蝉
★★★

作者:  小池真理子
出版社: 集英社

  有馬美千代は、犬を拾ったことから偶然、江田真樹子と出会い、友達になります。美千代が人と心を通わせるのは、ほぼ生まれて初めてのことでした。そんな美千代の神経質さを慮ってか、真樹子は望月源太という好人物を紹介します。すると途端に、有馬美千代と望月源太は近しい中になりました。一方、江田真樹子は便利屋・高木修平と出会い、彼を愛するようになります。ですが、高木修平は真樹子を弄ぶだけでした。彼は、ハンサムで機転のきく男なので、幾らでも女を惹きつけることができたからです。高木修平は、阿久津絹枝という金持ちのお婆さんを騙して、その遺産を奪おうと画策しますが・・・

  サスペンス小説。

  図書館に務める神経質かつ人嫌いの若い女性、有馬美千代。英国人と離婚した翻訳家の女性、江田真樹子。熊みたいな児童文学作家、望月源太。人を嘲り、便利屋をやっている「天才詐欺師」高木修平。その4人の愛憎の物語に、阿久津絹枝というおばあさんが絡んできます。

  高木修平がかなり嫌なやつです。まぁ面白くて、憎めない部分もあるんだけど、全体としては好きになれません。

  最初は、延々と続く平穏な日常の描写に少し疲れます。しかし、中盤まで乗り切れれば、あとは最後まで一気に読めてしまいます。小池真理子は、どこにでもいる普通の人が突然、事件/非日常に巻き込まれる、という展開の小説をたくさん書いているそうです。それが、すごく面白いです。

  ドロドロした部分もあるけど、最後は爽快、か・・・


自森人読書 蠍のいる森
★★

著者:  志水辰夫
出版社: 新潮社

  主人公は、かつて教え子に手を出して学校から追放された元教師・波多野和郎。彼は、現在では塾の講師をしていたのですが、教え子が失踪したため、再び東京へ戻り、教え子を探し出そうとします。しかし、彼には致命的な過去があったため捜査ははかどりません。そんな中、現在の事件と過去の事件が絡み合い、意外な展開を見せ・・・

  いまいち主人公に共感できなかったです。やっぱりハードボイルドは合わないなぁ。なんというか、自分勝手な痩せ我慢はする癖に結局ハッピーになって希望のもの(例えば、女)を手に入れる主人公があんまり好きになれないです。男のための「願望小説」と言われてもしょうがない。

  とくに『行きずりの街』はその色が濃いです。「高校の教員が生徒を自分の色に染めて自分のものにするが、結局破綻。けれど再びよりを戻す」という物語なので。そういう筋書きにするために、あまりにも都合よく物語が展開していくので、そこが笑えます。そこを、上手な広げ方と捉えるか、都合良すぎると捉えるかで、物語への評価は大きく変わるだろうなぁ・・・

  バブル真っ盛りの東京の風景を描写している部分は、読んでいて非常に面白かったです。今ではもっと荒廃している、のだろうか。それともそれなりに何かができつつあるのか。それにしても「東京」という都市は面白いなぁと感じます。色んな小説家を強く惹きつけるようです。

  あとは、新たな学校を設立する時にはとにかく金を集めて、横流しして、それで権力を持つ人を後ろ盾にしないといけない、という記述には溜息をつきたくなりました。自由の森学園はそういうルートを取らなかったから、大変なのだろうなぁ。

  ぎちりとした緻密な文章は読みやすくはないけど、良いです。


自森人読書 行きずりの街
★★

著者:  逢坂剛
出版社: 集英社

  主人公は、精神神経科の女医、南川藍子。彼女は、覚醒剤の密売取引現場を取り押さえようとして頭部を負傷した刑事・海藤兼作や、試合中突然マスコットガールに襲い掛かって逮捕されたプロ野球選手・追分などと関わるうちに自分自身も不安定になっていき、制服に対して興奮を覚える男の起こした殺人事件に巻き込まれることとなります・・・

  サイコサスペンス。

  心をミステリの鍵として使用するサイコサスペンスは結構たくさんあるから、そこまで感心はしませんでした。でも、幾つもの事件がからみあい、しっかりとした伏線が張られているところはよくできている気がしました。

  結構面白かったです。『ハサミ男』などの先駆といえます。

  猟奇的な雰囲気も感じるのですが、論理的なミステリ小説です。きちりとしたオチがつきます。脳医学や精神医学についての簡単な説明があって、けっこう勉強になりました。

  「左右の脳をつなげている『脳梁』が欠けてしまい、右脳の自分と左脳の自分が分裂してしまう」という不思議な現象が、この物語を支えています。非常に面白いなぁと感じました。本当にあるのだろうか。怖いなぁ、と思います。自分が2人になってしまったら、「自分」というのが何を指すのかよく分からなくなってしまいます。どうなるのだろう、「自分」は。

  映画化もされたそうです。


自森人読書 さまよえる脳髄
★★

著者:  吉田修一
出版社: 朝日新聞社

  出会い系サイトで出会った保険外交員の女を思わず殺害してしまい、逃走する男。彼を愛し、ともに逃げることを選ぶ女。2人は逃避行を繰り広げます。実は、男を「極悪人」と割り切れない背景があったのです。一方、加害者・被害者を取り巻く家族や友人たち、つまり事件に関わってしまった人たちは各々の立場から、自分なりに事件と立ち向かい、向き合っていくこととなります・・・

  三瀬峠で起こった殺人事件と、その結果引き起こされることとなる純愛劇の顛末を描いた小説。

  メロドラマになる、と聞いていたのに読み始めると社会派ミステリっぽい雰囲気。これはどういうことなのか、と思いきや、結局最終的には「純愛小説」となりました。愛というのは、錯覚の上に成立するものなのかもなぁ・・・ 愛は狂気というし。色々考えさせられました。面白いです。

  分厚い割りに読みやすいです。ちょっと日本語として引っかかる描写が散見されました(主語と述語がくっついていない)。でも、まぁ別に気になるほどではないです。

  悪人っていうのは誰のことを指しているのか、ということは謎として残されたのだと思うのだけれど、解決されないからこそ面白いのかもしれない、とも感じます。読者に悪人とは何か、と考えさせるような仕組みになっている、というか。けれど、そうすると、宮部みゆきの『理由』などの作品群に比べて、見劣りする気がします。

  第34回大佛次郎賞、第61回毎日出版文化賞受賞作。2008年第5回本屋大賞ノミネート作(4位)。


自森人読書 悪人
★★

著者:  稲見一良
出版社: 大陸書房

  素手の格闘では圧倒的な強さを誇る元プロレスラー、ベアキル。手裏剣を使う、若武者のような爽やかな青年、ハヤ。「待つ」ことを知る強力なハンター、ブル。人を2度撃ち殺したことのある元警察官、金久木。彼らは、突如としてレッドムーン・シバなる人物の挑戦を受けて、「マンハント(人間同士の狩り)」を行うことになります。

  銃器などの武器に関する詳しい説明。アウトドアに必要とされる専門的な知識や技術についての詳しい解説。そういう部分が凝っています。その他に、見るべき部分はほとんどありません。「中年男の心をもろに揺さぶるハードボイルドチックな決闘/狩猟小説」という言葉でまとめてしまえるような中身です。けっこう楽しめるけど、「ハードボイルドというのはようするに男にとってのハーレクインロマンス(斎藤美奈子の言)」という言葉が言い当て妙ではないか。

  やたらと強い癖に、一般社会には溶け込めない屈折した男ばかりが登場します。

  雄大な自然の中で、男達が壮絶な闘いを繰り広げるところはなかなか読み応えがあるけど、文章の基本的な部分がいまいちです。「△△の◇◇の△△の○○」というような記述があったりします。「の」を三度も続けて使ったら意味不明・・・ そういった部分が読みづらいです。

  時々、突如として特定の人物の中に入り込み、その人の心情を解説することもあります。変なふうに視点がコロコロ変わるわけです。だから、さらに読みづらさが増幅されています。あんまり、小説としては上手くない気がします。

  この雰囲気は嫌いじゃないけど。


自森人読書 ソー・ザップ!
★★★★

著者:  連城三紀彦
出版社: 講談社

  画家・青木優二は、友達からエルザというドイツ人の女性を紹介され、まもなく愛し合うようになります。そうして親しくなった途端、エルザは驚くべきことを告げます。「アオキは、第2次世界大戦中、ドイツの強制収容所ガウアーの中で奇跡的な誕生を遂げた赤子かも知れない」。それは事実なのか。青木は真実を追い求め、ヨーロッパに渡ります。青木を巡ってネオナチ組織と反ナチス組織が暗闘を繰り広げ、死者まででる事態になります。いったいなぜなのか。彼の存在にどのような意味があるのか? 最終的に、物語の舞台は東西に分裂しているベルリンへとたどり着きます。そして、その地にて衝撃の事実が明かされることになります・・・

  国際謀略を扱った小説。

  恋愛小説としても読めます。その要素はかなり強いです。でも、本筋は秘密組織が画策した国際謀略の顛末。なので、「スパイ小説」に分類されるだろう作品です。物語は最初、リオデジャネイロから始まります。そこから、東京やパリ、そしてベルリンへと舞台が移り変わっていきます。

  歴史が好きな人間にはたまらないであろう秀作。歴史の秘話を扱っています。ナチスの亡霊たち(ネオナチ)の目的が何なのか判明したときには驚かされました。実際にそのようなことがあったのでは、と思わされました。

  ページを開くと重厚かつ華麗な文章が押し寄せてきます。改行が全然ありません。洗練されていない部分もけっこうあります。だから、少し読みづらいけど、それらの文章が荘厳でありながら、どことなく薄暗い雰囲気を醸し出しています。なかなかいい感じです。


自森人読書 黄昏のベルリン
★★

作者:  樋口有介
出版社: 東京創元社

  柚木草平は、元刑事のフリーライター。彼はかつての妻と離婚した後、日々の生活にあくせくしながらもなんとか食いつないで生きてきました。今回は、女子大生轢き逃げ殺人事件の調査を頼まれます。単純なはずなのに、なぜかはっきりしない事件の全貌。柚木草平は、警察時代のコネを利用しつつ、事件に迫っていきます。

  ハードボイルド小説。

  中身は、「彼女はたぶん魔法を使う」というほんわかしたタイトルとは全く異なります。普通のハードボイルド小説。かなり淡々としていて、物語として分かりやすいです。ナイスガイ柚木と美女達の物語、みたいな感じです。

  いまいち主人公、柚木のキザさについていけなかったです。軽妙と言うかかっこつけすぎな言葉ばかり吐く38歳の男ってどうなんだろうか。あんまり格好良くない気がします。というよりむしろ滑稽。これを軽妙、とか書いている人がいるけど、それはどうなのか。

  ミステリとしてはさほど面白みがありません。キャラクターの味だけで保っているような感じ。まぁ読んでいれば結構楽しめます。

  そういえば、聞いたことある地名が多いなぁと思ったら・・・ この物語の舞台は、主に西武池袋沿線の駅の周辺。なので、自由の森学園への通学路にあたります。どうでもいいことだけど、ちょっと風景を想像しやすいなぁと感じました。


自森人読書 彼女はたぶん魔法を使う
ウェブサイトhttp://jimoren.my.coocan.jp/
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