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自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
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★★★★

著者:  レイ・ブラッドベリ
出版社: 早川書房

  物語の舞台は、焚書が行われ、日常的に戦争が行われている近未来の世界。多くの人はテレビやラジオなどの感覚的なメディアに入り浸り、何も考えずに日々を過ごしています。そして禁止された本などには見向きもしませんでした。主人公ガイ・モンターグは、焚書官/ファイアマンとして本を燃やすことを仕事としています。ですが、クラリスという感受性豊かな少女と出会い、自分の仕事の意味を疑い始めます。それを仲間から裏切りと看做され・・・

  書物に関するSF小説。

  基本的に、詩的で感傷的で幻想的。イメージを散りばめるようにして文章が進んでいくのでけっこう読みづらいのだけど、読み進めていくうちに引き込まれていきます。バックにはいつでも暗闇があり、それでいて場面場面は色彩豊か。非常に想像力を刺激されます。

  少ししか登場しませんが、クラリスの存在は鮮烈です。

  華氏451度というのは紙が自然発火する温度。主人公は焚書に反対するようになります。その主張には共感します。今、「焚書」が大っぴらに推奨されることはありません。しかし、禁止されずとも電子化がすすみ、本が読まれなくなっています。実質的には本が燃やされているのと同じではないかと感じます。

  『華氏451度』に登場する老人たちのように、一人ひとりが役割を受け入れ、その上で過去の書に学べばいいのか。しかし、パラパラとページをめくるという行為自体が古いものとなりつつある気もします。本当にどうすればいいのか分からない・・・

  古臭い部分もないわけではない気もしますが、テーマ自体は古びていないし、むしろブラッドベリが問題にした焚書というものは拡大しているのではないか。非常に考えさせられます。


自森人読書 華氏451度
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★★★★★

著者:  J・R・R・トールキン
出版社: 評論社

  物語の舞台はエルフやドワーフ、ホビット、そして人間が割拠している巨大な大陸・中つ国。ホビット庄に住むホビット族の若者、フロドは養父ビルボから「力の指輪」を譲られます。その指輪は指につけると姿を消すことができるのですが、その一方で世界を破滅させる魔力をも秘めていました。

  フロドは正義の魔法使いガンダルフらに背を押され、親友サムとともに悪の勢力によって指輪が利用されることを防ぐために滅びの山へ向かいます。力の指輪を破壊するためには、滅びの山の火口へ投げ込むしかなかったのです。途中で「指輪の仲間」が結成されます。ホビット族のフロド、サム、ピピン、メリー、魔法使いのガンダルフ、人間のアラゴルン(王の末裔・馳夫)、ボロミア(執政の息子)、ドワーフ族のギムリ、エルフのレゴラスが参加。しかし、旅路は決して楽なものではなく、誘惑に負けて裏切る者が現れ、一行は離散してしまい・・・

  長大な物語(本来は全3巻。文庫本だと9巻)。『ホビットの冒険』の続編。

  ファンタジー小説の祖とも言うべき作品。特徴的なのは主人公が小人であること。誰よりも小さい人が強大な悪に立ち向かい、世界を救うのです。指輪の誘惑と一人で闘うフルドに感動します。善悪が明確になっていて悪を打倒することが最終目標となっているので、いかにも「西洋的」に思えますが、自分との闘いが中心にあるので中和されています。

  非力と看做されている者が、危地にたたされたとき最も高貴な振る舞いを見せるわけですが、それはイエス・キリストをモチーフにしているのかなぁ、とも感じます。

  あとは辛苦を嘗め尽くすこととなる魔法使いガンダルフがかっこいいです。神のなれの果てである冥王サウロンが本格的に動き出したため強力な魔法を持っているガンダルフといえども余裕綽々というわけにはいかず何度も追い詰められます。それでも決して挫けません。一度は死んだかと思いきや・・・

  J・R・R・トールキンはもともと神話や伝説、伝承、言語について研究していた人ですが、それらを活かしつつ、中つ国という一つの世界を創造したそうです。背景にはきちんとした悠久の神話・歴史があります(それをまとめたのが『シルマリルの物語』)。それらが垣間見えるところが堪りません。

  最後に世界は分かたれてしまいます。ここまで哀しいラストは他にないのではないか。


自森人読書 指輪物語
★★★

著者:  森奈津子
出版社: 早川書房

  性愛SF短編集。『からくりアンモラル』『あたしを愛したあたしたち』『愛玩少年』『いなくなった猫の話』『繰り返される初夜の物語』『一卵性』『レプリカント色ざんげ』『ナルキッソスの娘』『罪と罰、そして』収録。

  『からくりアンモラル』
  初潮を迎えた姉・秋月は、妹・春菜になつくロボット・ヨハネを見ていらっとしてしまい、ある悪戯を思いつきます・・・

  だいたい表題作『からくりアンモラル』と似たような短編ばかりが集められています。

  作品内にはSF的な設定がたくさん取り入れられているけど(タイムスリップとか、アンドロイドとか)、全てがエロに結びついていきます・・・ SFというよりは官能小説ではないかと思うのですが、一応は『からくりアンモラル』もSF小説なのかも知れません。様々な物を受け入れることができるのがSFというジャンルなのだから。

  母と子、父と子の関係を描いた作品も中には入っています。最後になって意外な事実が判明する『ナルキッソスの娘』などはなかなか良いなぁ、と感じました。

  しかし、全体的には「少女」というものが最も重要なテーマとなっています。森奈津子はもともと少女小説作家だそうですが、桜庭一樹といい、「少女小説」を書いてきた人たちはやたらと少女にこだわります。だからこそ少女作家になれるか。森奈津子は、男を除外した少女だけの楽園みたいなものを繰り返し描きます。だから、レズビアン小説のように見えるけれど、そうとも言い切れない気もします。そもそも、少女にとって男は必要がないこともあるのかも知れない。


自森人読書 からくりアンモラル
★★★★★

著者:  スタニスワフ・レム
出版社: 国書刊行会

  心理学者ケルヴィンは、ソラリス上空に浮かぶステーションで発生した異常を調査するためにそこへ赴くのですがステーションは半ば放棄されていました。その上、出迎えてくれた研究者の説明は全く要領を得ません。しかも、自分が原因で自殺したはずの恋人ハリーが目の前に現れ、ケルヴィンは有機的な反応を示す海によって覆われている惑星ソラリスの謎の中へと取り込まれていくことになります・・・

  『ソラリス』は、ポーランドのSF作家スタニスワフ・レムが1961年に発表したSF小説。

  早川書房から出版された旧訳『ソラリスの陽のもとに』が有名なようですが、国書刊行会から2004年に出版された新訳を読みました。『ソラリス』新訳は、ポーランド語から直訳し、ソ連による検閲のために削られた部分が補完されているそうです。

  科学的でありながら哲学的。

  赤い色をした太陽と青い色をした太陽に引っ張られながら不可解な軌道を描くソラリスという惑星のことを考えていくと人間中心主義(人間形態主義)から脱することができない人間というものの限界が露になってきます。無機質なステーションと有機的な海との対比も素晴らしいです。科学によって読み解くことができない海によってステーションとその中に住む人たちはじょじょに侵食されていきます。その図式自体が非常に象徴的。

  ケルヴィンとハリー(らしきモノ)の愛の行方も気になります。

  愛とは何なのか。命とは何なのか。人とは何なのか。面白い状況を仕立て上げ、様々なことを考えさせてくれるところはいかにもSF的。だけど、科学や進歩に対する信仰を持っていない(というか疑いを抱いている)ところはSFらしくありません。『ソラリス』はSFを突き抜けたSFなのではないか、と感じました。摩訶不思議な傑作です。


自森人読書 ソラリス
★★★

著者:  大原まり子
出版社: アスペクト

  『戦争を演じた神々たち』の続編。連作短編集。『カミの渡る星』『ラヴ・チャイルド(チェリーとタイガー)』『女と犬』『世界でいちばん美しい男』『シルフィーダ・ジュリア』収録。

  『カミの渡る星』
  自分の治めていた惑星をクデラによって滅ぼされ、惑星アテルイに流されたロボットはツキをトーテムとして再び迫り来るクデラと戦うことになります。

  『ラヴ・チャイルド(チェリーとタイガー)』
  父を知らぬ妹は、母と顔も知らぬ兄を嫌悪しつつ冷酷な人間に育ちますそんなある日、兄が現れ、惑星環境装置になると告げるのですが・・・

  『女と犬』
  謎の女と黒い犬は、世界のあらゆるところに偏在しています。いったい彼らは何者なのか・・・?

  『世界でいちばん美しい男』
  惑星デルダドには奇怪な生物たちが棲息しています。その中で凛々しく生き抜いていく緑色の恐竜少女。その惑星に墜落したクデラの調査員はその緑色の少女と出会います。

  『シルフィーダ・ジュリア』
  クデラ軍と戦うキネコキスの誕生を書いた物語。これまた壮大で神話的。

  前作ほどの衝撃は感じなかったのですが、やはり考えさせられますです。象が撃ち殺されるシーン(『女と犬』)が印象に残りました。描写はあっさりしているのにはっとさせられます。人間が命を大切にしていない、ということをここまではっきり分からせてくれる光景があるだろうか、と感じました。


自森人読書 戦争を演じた神々たちII
★★★★★

著者:  ジャネット・ウィンターソン
出版社: 白水社(訳:岸本佐知子)

  オレンジを12個口に入れることができ、象さえも吹き飛ばすことができる大女は、たくさんの犬を引き連れているため「犬女」と呼ばれていました。そんな彼女は、あるときテムズ川で赤ん坊を拾い、ジョーダンと名付けます。成長したジョーダンは、踊り手フォーチュナータを探すたびに出ます。一方、犬女は処刑された王の仇を討つために、ピューリタンたちを叩き潰していきます・・・

  あらすじを追って説明していくことは難しいです。「わたしはいま・ここに縛られているわけではない」という考え方が、『さくらんぼの性は』という物語を支えているからです。最初は混乱するのですが、読み進めていくうちに物語の中に吸い込まれていきます。

  猥雑なのに美しくて、幻想的なのにきちりとまとまっていて、残酷なのに優しくて、壮大なのにすかっとしています。最初はジョーダンの旅と犬女の日々が交互に綴られています。

  ジョーダンの旅は壮大なる叙事詩です。彼は、空が言葉に埋め尽くされてしまうためそれを清掃する人がいる世界にまぎれこんだりするのです。とんでもなくぶっ飛んでいて残酷なところはとても童話的。そして時には神話的。

  一方、醜く巨大な犬女の大活躍は爽快です。王の首をちょんぎり、全てを清潔に規律で縛ろうとしながら自分には甘いピューリタンの男たちを片っ端からぶちのめしていくのです(確かに革命というのは高貴なものを引きずりおろす蛮行ではあるのだけど全否定してしまって良いのか、と僕は少しだけ感じました。王を敬うイギリスの国風が感じられます。)。しかし、息子ジョーダンには彼への愛を素直に告げられません。その不器用さもまた印象的。

  女を支配していると思い込んでいる男たちを見つめる女たちの辛辣な感想は怖いけど、小気味良いです。世界は多面的に見ることが必要なのだなぁ、と感じました。

  最後の章では物凄いことが明かされます。しかし、なぜかすっと受け入れられます。想像力が世界を創り、繋ぐのかも知れない。


自森人読書 さくらんぼの性は
★★

著者:  田中ロミオ
出版社: 小学館

  『人類は衰退しました』の続編。

  人類が衰退して数世紀がたちました。人類最後の学校を卒業し、調停官となった旧人類の少女は、新人類「妖精さん」たちと仲良くなります。「妖精さん」というのはお菓子が大好きな小人さんみたいなもの。わらわらと集まるととんでもないことをしでかすのですが、すぐに散らばってしまいます。『人間さんの、じゃくにくきょうしょく』『妖精さんの、じかんかつようじゅつ』収録。

  『人間さんの、じゃくにくきょうしょく』
  私は妖精さんのつくったと思われるスプーンを使ったためにハムスターサイズになってしまいます。もとに戻るため妖精さんを探すのですが、なかなか会えず、大変な目にあいます・・・

  『妖精さんの、じかんかつようじゅつ』
  助手さんを出迎えに行った私は妖精さんのつくりだした時間の中に取り込まれ、ループしてしまい、お菓子をつくり、つくり、つくるはめになります。

  1巻以上に面白いです。1巻以上にふざけています。小説という枠組み自体に対するギャグまではさまれています。いつの間にか「・・・なのです」というあまりにもわざとらしいお嬢様の語り口に慣れてしまい、なんだかその語り口がかえって心地よくなってきました(まずい気がする・・・)。

  異様なまでに読みやすいです。それでいて面白いし、ちょっと深いものがあるように感じさせてくれます。


自森人読書 人類は衰退しました②
★★★★

著者:  伊藤計劃
出版社: 早川書房

  主に英語圏で発生した争乱の中で核兵器は拡散して各地で使用され、結果として人類は壊滅的な損害を受けました。「大災禍」と呼ばれるその世界的大混乱の後、人間は人間を人材リソースとして絶対視し、各個人にWatchMeを埋め込んで監視することにします。病は撲滅され、若くして死ぬ人間もいなくなり、太った人もやせた人もいなくなりました。そして優しさが蔓延、人々は互いに思いやることを強制されます・・・ 「ユートピア」の実現でした。ですが、そのような社会に対して憎しみを抱く少女・御冷ミァハはデッドメディアに浸ります。そして、ある日彼女はキアンと霧慧トァンとともに自殺を図りますが自身だけが死亡。生き残ってしまったトァンはWHOの人間となって戦地に赴き、煙草や酒に浸るのですが・・・

  『虐殺器官』の続編として読むことも可能。「わたし」の死を扱った作品。

  HTMLを意識したような文体/文章がかっこいいです。そういえば、『涼宮ハルヒ』の引用や、舞城王太郎作品の題名が出てきて少し笑いました。

  作中では、健康な状態を絶対視する社会体制と生命主義というイデオロギーが個人を抹消していくわけですが、他人事とは思えません。現実世界においても同じことが起こっているということもできるのかなぁ、と感じます。

  独善的/独裁的なシステムを正当化するものになってしまったかつての社会主義にしろ、人間や命さえも金銭で交換可能なものに落とし込もうとしている資本主義にしろ、人を幸せにするために創られたあらゆる思想(たとえ優れたものであったとしても)は、巨大なシステムの運用のために利用される中で、個人を消し去る危ないものへと変貌せざるを得ないのかなぁ、と感じました。

  最終的に、物語は反転し、「わたし」の消滅の場面にまで到達してしまいます。そうして完璧なハーモニーが生まれるわけですが、「わたし」というものは近代以降に生まれた「発明品」的なものなのかも知れないけど、なくなるとなったら大異変だろうなぁ、と感じます。それは進化といえるのかいまいち分からなかったです。

  伊藤計劃の遺作。第40回星雲賞日本長編部門、日本SF大賞受賞作。


自森人読書 ハーモニー
★★★★

著者:  グレッグ・ベア
出版社: 早川書房

  『タンジェント』は、グレッグ・ベアの日本オリジナル短編集。

  『炎のプシケ』
  かつて、プシケ計画(小惑星プシケを恒星間旅行に送り出す計画)というものがあったのですが、それは地球上で大きな影響力を持っているネイダー教によって秘密裏に頓挫させらました。その陰謀の中で殺されたゲッシェル(科学技術者)の一人を祖父にもつジャーニ・タルコは今では使われていないプシケを乗っ取ります。そして、衝突を仄めかしながらプシケを地球に接近させつつ交渉を行い、陰謀を教団に認めさせようとするのですが・・・ まるで『逆襲のシャア』。

  『姉妹たち』
  生まれる前から性を確定され、美人に生まれるように設定されている被造子(ひぞうっこ)たちの方がすでに多い学校の中で、「わずかに太り気味で、皮膚は張りがなく、縮れ毛にだんご鼻で話し下手、片方だけ大きい胸はすでに垂れ」ているナチュナル(生まれる前にはほとんど手を加えられていない)のリティーシャ・ブレイクリーは非常に悩むことになります。遺伝子組み換えなどの問題を、かなりグロテスクに取り上げた作品。読み終わったとき、物凄く考えさせられました。ちょっと『機動戦士ガンダムSEED』を連想。

  『ウェブスター』
  男と付き合ったことのない中年女性は、自らを惨めに感じてしまい、引きこもっています。そんなある日、私は辞書から「男」を生み出し、ウェブスターと名付けるのですが・・・ ファンタジックで、ユーモアに溢れているけど、辛辣な短編。

  『飛散』
  「分裂」してしまった少女ジェニーバは、テディ・ベアであるソノクとともに奇怪な宇宙船の中を駆け巡り、奇妙で奇天烈な人たちと遭遇するのですが・・・ 『不思議の国のアリス』を思わせるような短編SF。

  『ペトラ』
  物語の舞台は神死(モルデュー)後の世界。人間の想像することが何でも実現してしまうようになり、世界は混乱していました。そのような中で教会に籠もった人々は光を絶ち、野蛮な者を崇め、日々を過ごしていました。醜い肉と石の子である「私」は、石のキリストに遭い、人間達の抑圧と差別に対抗しようとするのですが・・・

  『白い馬にのった子供』
  謎めいた老人、老女と出会い、少年は創作の楽しみを覚えます。しかし大人たちは子どもの「妄想」を嫌い、それを阻止しようとします。

  『タンジェント』
  社会から追われ、カルフォルニアの草原にある農家に住んでいるホモの老科学者タシーは、ある日、四次元空間を見ることができる少年パルと出会います。2人は様々なことを語り合い、パルは四次元空間に向けて音楽を送ることにします。ネビュラ賞&ヒューゴー賞の二冠に輝いた作品。

  『スリープサイド・ストーリー』
  純真な心を持つ貧しい青年オリヴァーと、金を持ちながら本当の愛に飢えている娼婦ミス・パークハーストの物語。オリヴァーは自分を心配している母とミス・パークハーストとの間で揺れるのですが・・・

  グレッグ・ベアは、SFとファンタジーの狭間にいるような人なのだなぁ、と読んでいて感じました。ガチガチのSF作家ではないみたいです。どの作品の中にも、不可思議な世界が広がっていてとても楽しめます。


自森人読書 タンジェント


著者:  J・K・ローリング
出版社: 静山社

  シリーズもの
  ・1 賢者の石/・2 秘密の部屋/・3 アズカバンの囚人/・4 炎のゴブレット/・5 不死鳥の騎士団/・6 謎のプリンス/・7 死の秘宝

  闇の魔法使いヴォルデモートに父母を殺害されながら自らは生き残り、ヴォルデモートを返り討ちにした奇跡の少年ハリー・ポッターとその親友ロン、ハーマイオニーらの学園生活を書いた作品。3人は、復活を目論む闇の魔法使いヴォルデモーとの戦いに否応なく巻き込まれていきます・・・

  大ベストセラーになったファンタジー小説。

  小学生の頃、物凄いブームだったので手に取り、全巻読みました。最初はその単純さが好きだったのだけど、巻が進むごとに『指輪物語』の劣化コピーに過ぎないという気がしてきて、熱が冷めてしまいました。面白いのだけど、やたらと粗ばかりが目に付きます。

  どこまでも明快で、パズル的なストーリー。あまりにも単純な(アメリカ的ともいえそうな)善悪論。いつでも安易に持ち出される魔法(ほとんど、超能力と一緒)。おかしな日本語の頻出。

  友との葛藤と闇との戦いにばかり気をとられ、全く「自分との戦い」を行わない単細胞な主人公ハリー・ポッター。結局のところ、ハリーは「選ばれた子」です。どれだけ人が死のうとハリーは生き残る、というのが最初から明白です。最終巻では、あなたはキリストですか、と言いたくなるような奇跡が発生・・・

  浅くて薄っぺらくて甘ったるくて隙だらけの『ハリー・ポッター』シリーズをファンタジー小説として容認して良いのか。もう少し深いはずのファンタジーが誤解されてしまう気がします。むしろ、『ハリー・ポッター』シリーズは、「ミステリ的/パズル的な仕掛けを楽しむファンタジー風学園サスペンス」なのではないか。

  それにしてもこのような作品がこれほど売れてしまい、ファンタジー小説の代表とされているというのは本当に良いんだろうか。嫌いではないのですが、あえて★1つ。



自森人読書 ハリー・ポッターシリーズ
★★★★★

著者:  オラフ・ステープルドン
出版社: 国書刊行会

  肉体から解き放たれた主人公「わたし」は時空を超越し、太陽系の彼方へと宇宙探索の旅に出ます。彼はじょじょに覚醒していき、棘皮人類、共棲人類、植物人類などの世界を巡っていきます。そんな中で、至高の創造主「スターメイカー」を追求するうちに宇宙の発生から滅亡までを垣間見ることになります・・・・・

  1937年に出版された壮麗なるSF小説。

  「思弁的な作品」というふうに紹介されていたので、警戒しながら読み始めたのですが、最初はけっこうソフトで、しかも面白いのでどんどんページをめくっていくことができました。ですが、ラストに近づいていくにつれて難解になってきます。最終的には、頭がパンクしてしました。

  「究極のSF」という褒め言葉もあながちはずれていないのではないか、と感じます。人間・文明・精神とは何か、ということを深く冷徹に追求した哲学的な作品。とくに、共棲/共生というテーマが繰り返し語られています。

  作者/主人公がキリスト教を信仰している英国人なので、作品にもキリスト教の影響が色濃く感じられます。精神というものに重きを置くところは非常に宗教的だし、創造主スターメイカーの扱いや、世界を二元論(「善と悪の対立」「文明と野蛮の対立」)で把握しようとする作者/主人公の姿勢は一神教的。その辺りには馴染めないものを感じました。

  しかし、『スターメイカー』は、まぎれもなく傑作。僕には到底理解できない部分も多々ありましたが、とにかく凄いです。

  楽園は決して実現しない、実現しても破壊されるというどうしようもないニヒリズムを抱きつつも世界/現実とコミットし、「共生」を唱え続ける作者には惚れ惚れします。しかも、第二次世界大戦前夜である1937年にそのようなことをやってのけたというのは本当に凄いです。


自森人読書 スターメイカー
★★★★★

著者:  ダン・シモンズ
出版社: 早川書房

  西暦28世紀、人類は多数の惑星にまたがる国家、連邦を形作っていました。しかし、辺境の惑星ハイペリオン目掛けて連邦に服さないアウスターが侵攻を開始。そんな中、7人の巡礼者が別々の目的を抱き、ともに<時間の墓標>を目指すのですが、ハイペリオンの<時間の墓標>が開き始め、中からは殺戮者シュライクが現れ・・・

  2段組み524ページ。枠物語の構成になっています。6人の人間が、各々の物語を語り始めます。ようするに多彩な物語が6つ収められているわけです。それぞれ『司祭の物語:神の名を叫んだ男』、『兵士の物語:戦場の恋人』、『詩人の物語:『ハイペリオンの歌』』、『学者の物語:忘却の川の水は苦く』、『探偵の物語:ロング・グッパイ』、『領事の物語:思い出のシリ』です。

  ダン・シモンズは、SF小説の集大成として『ハイペリオン』を書いたみたいです。呆れるけど、凄いなぁと感じました。ただし、文章は少ししつこいし、物語自体も長ったらしいので、分かりやすい代わりに少し疲れます。休みのときに読まないと目がちかちかして倒れるかも知れません。

  しかしやっぱり面白い。とくに『学者の物語:忘却の川の水は苦く』はジーンときます。若返っていく娘を抱き、苦悩する父の姿が痛々しいです。

  というか、ここまで書ききるということに感心します。

  物語は非常に面白いのだけど完結せず、途中で終わってしまいます。『ハイペリオン』は、ハイペリオン4部作の第1巻に過ぎないからです。物語は『ハイペリオンの没落』へと続いていきます。これからまたまた分厚いのをまた読まねばならないのかと思うと溜息が漏れます・・・

  1990年ヒューゴー賞、ローカス賞受賞作。1995年第26回星雲賞海外長編賞受賞作。


自森人読書 ハイペリオン


著者:  ロバート・A・ハインライン
出版社: 早川書房(福島正実)

  物語の舞台は1970年のロサンゼルス。主人公ダンは家事用ロボット「文化女中器」を発明し、それを大ブレークさせます。その上、美しい恋人ベルまで得て、楽しい人生を送っていました。しかし、あることをきっかけにして共同経営者マイルズと恋人ベルに裏切られ、会社から追放されます。希望を失ったダンは愛猫ピートとともに30年間の冷凍睡眠につくことを決意しますが・・・

  タイムトラベルを扱ったSF小説。

  2000年の世界の様子も描写されます。今となっては「2000年の世界」が過去のことになってしまい、様々な矛盾が生まれてしまいました。けど、現実の世界と、ロバート・A・ハインラインらSF作家が思い描いていた世界を比較してみるのはけっこう面白いです。

  ただし、微妙な点も多い気がします。登場人物が類型的なのです。そして、主人公ダンに敵対する人間はみんな「悪い奴ら」だと発覚していきます。なんと都合の良いストーリー・・・

  ダンと相思相愛になるのは、天使みたいに優しい幼女。ダンを裏切るのは追い詰められると半狂乱になる悪女。根底には「そもそも女性と言うものは悪辣で、ヒステリックな傾向がある」という偏見がある気がします。だから成熟していない(女になりきっていない)子どもに手を出す、のではないか。どう考えても差別的、というか変態的じゃないかなぁ。

  しかも、最後には中年男が10歳くらい年下の女の子と結ばれ、ハッピーエンド。もう男側にとって都合の良すぎるストーリー。『夏への扉』が「古典的名作」としていつもSFベストランキング上位に推されているのはどういうことなのか。そういうランキングに参加している人たちは男ばかりなのか。もっと良い作品が他にあるだろうに・・・

  まぁ少女と猫とタイムスリップを巧みに組み合わせたところがみごとなのかも知れません。あざといけど。


自森人読書 夏への扉
★★

著者:  森博嗣
出版社: 中央公論新社

  草薙水素は今日も空を飛びます。それが楽しいからです。そんなある日、負傷して病院に送られ、出撃できなくなってしまい、少年カンナミと出会います・・・

  「スカイ・クロラ」シリーズ第3巻。時系列的には『ナ・バ・テア』の続き。2巻目。

  爽やかで空虚な雰囲気は面白いのですが、読んでいるとじょじょに飽きてきます。どれもこれも、同じはなしに思えてくるのです。イメージ的には金太郎飴みたいな感じ。

  その上、今回は少し暗くて開放的な雰囲気に欠けます。多分、草薙が空を飛べず地上に張り付けられているからだと思います。前作までの気持ちよく浮き上がる感じがありません。

  もしかしたら、大人の汚さが明確になってくるから暗い印象を受けるのかも知れません。キルドレ(死んでも蘇る少年少女)を取材している記者・杣中が登場し、様々なことを語るため、地上のドロドロが少しだけ分かってきます。平和を保つために用意された「見世物」としての戦争を続行するために、政府や企業はキルドレを利用しているようなのです。

  しかし、結局物語はティーチャとの闘いに収斂していきます。草薙は社会システムに目を向けることはないし、問題の根本的な解決が図られることはありません・・・

  もうなんとなく面倒だけど、続きは読みたいなぁ、と思います。


自森人読書 ダウン・ツ・ヘヴン
★★★★★

著者:  伊藤計劃
出版社: 早川書房

  9.11テロ以降、テロとの戦いは激化していきます。先進諸国は厳格な個人情報認証を徹底化。個人の自由はほぼ消滅。そのような中でサラエボが核弾頭によってクレーターと化します。その瞬間、核爆弾を用いるのは許されざる行為であるという「縛り」は破壊されました。発展途上国では虐殺の嵐が吹き荒れます。米軍の特殊検索群i分遣隊(暗殺を実行する唯一の特殊部隊)に属すぼくはアメリカと「世界の正義」に邪魔な人間を次々と暗殺します。その対象として毎度登場するのが、謎の米国人ジョン・ポール。その男は虐殺のあるところには必ず現れます。ジョン・ポールとはいったい何者なのか。

  9.11テロ以後の世界を舞台にしたハードSF。

  様々なことを問う小説。「他人の命の上に成り立つ平和は平和といえるのか」というものが最も大きな問いかなぁと感じました。「戦争は啓蒙ではないか」といったかなりラディカルな視点も含まれていて興味深い。本当に考えさせられます。様々な小道具も魅力的(イルカ、鯨を殺し、彼らから取り出した筋肉が世界各地で機械に組み込まれている)。ハイテクの残酷さ、恐怖がきちりと示されています。

  伊藤計劃は、言語学、文学にも造詣が深いようです。散りばめられた様々な単語(カフカとか、罪と罰とか)には、にやりとさせられます。血に塗れながらも、うだうだと悩み続ける思索的な主人公はいかにも文学的。彼の先進国の人間らしい悩みには共感します。相対主義的な考え方に翻弄されつつどこへと向かうのか・・・

  ラストが予想できてしまったのだけど、それでもやはり面白い。少なくとも21世紀の日本SFの傑作とはいえます。もしかしたら「世界文学」級なのではないか。

  小松左京賞最終候補作。


自森人読書 虐殺器官
★★★

著者:  田中ロミオ
出版社: 小学館

  人類が衰退して数世紀がたちました。人類最後の学校を卒業し、調停官となった旧人類の少女は、新人類の「妖精さん」と交流するために地面にこんぺいとうを埋めます。1回目は失敗したものの、次の時にはとぼけた「妖精さん」たちがわらわらと現れ・・・

  SF小説。ガガガ文庫。

  著者の田中ロミオは、美少女ゲームのシナリオライターだそうです。名前からしてちょっとふざけていますが、中身も非常にゆるいです。けど、真面目に生物の進化のことを扱ってもいるので、ちょっとアンバランスな感じです。そこが良いのかも知れない。

  でも僕はいまいちだなぁ、と感じてしまいました。読んでいるとむず痒くなってきます。

  全体的に脱力しきっているゆるいところは悪くなくてむしろ面白いんだけど、何もかもが気持ち悪いほど類型的/ありきたりなのです。主人公(恥ずかしがり屋ののっぽさん)や彼女の語り口(ですます調)や、舌足らずで要領を得ない「妖精さん」たち、少しメルヘンチックな世界まで全てがいかにもありきたり。もうこのまま、すぐアニメになりそうです。

  あえて、小説として読む価値があるのかなぁ、と感じてしまいました。ある意味では生真面目なSFそのものなのだけど、基本的な設定はまるで流行のアニメのよう。もう少し、真新しい何かがあったならば凄いと思えただろうけどそれもないし。

  もしかして、この軽さは新しいものなのだろうか。気の抜ける小説。


自森人読書 人類は衰退しました
★★★★

著者:  田中啓文
出版社: 早川書房

  田中啓文のバカSF短編集。『未到の明日に向かって』『地球最大の決戦 終末怪獣エビラビラ登場』『トリフィドの日』『トリフィド時代』『やまだ道 耶麻霊サキの青春』『赤い家』『地獄八景獣人戯』『地獄八景獣人戯』『蹴りたい田中』『吐仏花ン惑星 永遠の森田健作』収録。

  『未到の明日に向かって』
  『蹴りたい田中』で茶川賞を受賞した後の田中啓文へのインタビュー(綿谷りさ『蹴りたい背中』の芥川賞受賞そのものに関してのパロディ)。田中啓文の自己紹介的な感じ。

  『地球最大の決戦 終末怪獣エビラビラ登場』
  いやー、なんというか凄い・・・ ウルトラマンのエログロナンセンスなパロディ。

  『トリフィドの日』『トリフィド時代』
  キノコが喋りだし、世界征服を目指します。またまたバカバカしいはなし。ジョン・ウィンダムの同名小説のパロディだそうです。

  『やまだ道 耶麻霊サキの青春』
  山田正紀作品への思いが語られます。内宇宙的なオチ。

  『赤い家』
  蚊の私立探偵が主人公。彼女が人間の警察官の男とペアを組み、殺人事件と殺蚊事件を解決します。もうだめだ・・・

  『地獄八景獣人戯』
  水戸黄門のパロディ。もう何と言うか何が混じっているのかすらよく分からないです。汚い作品。

  『蹴りたい田中』
  なんと、『蹴りたい背中』とはまったく関係ないです。敗戦間近の日本軍は大和魂で戦艦・和紀を動かそうとします、というはなし。インパクトはありますが、もうどうしようもない。なんといえば良いのか。

  『怨臭の彼方に』
  不老不死を手に入れる代わりに世界を滅亡させるほどの悪臭をまとってしまった美男の物語。

  『吐仏花ン惑星 永遠の森田健作』
  菅浩江『永遠の森 博物館惑星』のパロディかと思いきや、それは名前だけで・・・ 森田健作がおかしすぎ。笑うしかない。

  笑うしかない。けど笑えないほどくだらない場合もあります。呆れるしかない。地口(駄洒落)だらけで、オチまで地口だらけです。真面目に読んでも何も得られないかも知れません。しかし、意外といろんなものを取り込んでいます。もう少しマシな方向にその知識を活かせば、まともな傑作になりそうなのに・・・


自森人読書 蹴りたい田中
★★★★

著者:  菅浩江
出版社: 早川書房

  『永遠の森―博物館惑星』は連作短編集。『天上の調べ聞きうる者』『この子はだあれ』『夏衣の雪』『享ける手の形』『抱擁』『永遠の森』『嘘つきな人魚』『きらきら星』『ラヴ・ソング』収録。

  小さな惑星に究極の美というものを追求するべく、古今東西のあらゆる美術品を集める巨大博物館「アフロディーテ」がつくられました。しかし、そこには平穏はありませんでした。音楽・舞台・文芸部門「ミューズ」、絵画・工芸部門「アテナ」、動・植物部門「デメテル」が美術品を巡って争うからです。そして、総合管轄部署「アポロン」の田代孝弘はいつでも面倒な調停を任され、四苦八苦することに・・・

  ほんわかと温かいSF小説。

  「直接接続」というものが登場します。頭の中で物を思い浮かべるだけで、類似した物が次々と表示されるという便利な装置。使ってみたいなぁ、と感じました。

  『この子はだあれ』が一番面白かったです。うわーと感じました。田代孝弘は、研究家の夫婦に頼まれ、素人造りらしい不思議な人形を預かってそれが何なのか探っていくのですが・・・

  最後の『ラヴ・ソング』で、伏線が綺麗に収まっていきます。最初から全て考えていたのかなぁ。だとしたら、凄すぎるけど多分考えていたとしか思えません。その他の短編もそれぞれきちりと整っています。奇想天外な謎解き小説でもあります。

  第54回日本推理作家協会賞、星雲賞受賞作。


自森人読書 永遠の森-博物館惑星
★★★

著者:  林譲治
出版社: 早川書房

  『ウロボロスの波動』は、林譲治の連作短編集。22世紀頃の宇宙を舞台にした近未来ハードSF。全ての作品は同じ世界を舞台にしていますが、背景の時代は異なります。

  『ウロボロスの波動』 2123年
  降着円盤開発計画を推し進めるAADDは、ブラックホール・カーリーを中心にして半径2025kmの環状構造物ウロボロスを開発しました。計画は順調に進んでいました。しかし、ある博士がプログラムをいじったことから事故が発生し、博士が死亡。キャサリンはその事件を解決しようとするのですが、ウロボロスが勝手に動き出し・・・

  『小惑星ラプシヌプルクルの謎』 2123年
  小惑星ラプシヌプルクルの表面にマイクロ波受信アンテナを設置したAADD。しかし、突如として惑星が回転を開始し、アンテナが故障。危機管理部門ガーディアンがその事故を調査することに。

  『ヒドラ氷穴』 2145
  年地球人のテロリスト・ラミアは、AADD総裁・落合哲也の暗殺を計画します。ガーディアンはそれを阻止しようとするのですが・・・

  『エウロパの龍』 2149年
  木星の衛星エウロパの海へ赴き、生物がいるかどうか探索していた潜水艇ソードフィッシュが、「龍に呑み込まれる」という言葉を残して連絡を絶ちます。そのため、さらに潜水艇<コバンザメ>が送られます。

  『エインガナの声』2163年
  AADDのシャンタク二世号は矮小銀河エインガナの調査を行っていました。ですが、突如として通信機能が乱れ、内部ではAADDの人間と地球の人間が対立し・・・・

  『キャリバンの翼』2146~2171年
  天才少女アグネス博士は、ブラックホール・カーリーにナノマシン投入実験を行います。そしてブラックホールが生物ではないか、という推測を行うのですが。『ヒドラ氷穴』に登場したテロリスト紫怨(ラミア)などが再登場。全編をまとめる作品。

  「知的生命体」とは何なのか。何をもって、知的とするのか。考えさせられました。しかし、やたらと長い説明を読んでいると面倒になってきます。最後になるにつれて飽きてきました。『小惑星ラプシヌプルクルの謎』などはとても面白かったですが。


自森人読書 ウロボロスの波動
★★

著者:  ポール・アンダースン
出版社: 東京創元社

  核戦争後、世界はスウェーデンを中心にして再興を果たしました。人類は、飛躍的な科学の進歩にも助けられ、様々な惑星に人間を派遣しました。そして人類が住めるかどうか確かめようとしたのです。しかし、なかなか人間の移住可能な地は見つかりませんでした。そんな中、乙女座ベータ星を目指して50人の男女を乗せたレオノーラ・クリスティーネ号は地球を出発します。彼らは順調に旅していきます。しかし、途中で事故が発生し、減速装置が破壊されてしまいます。レオノーラ・クリスティーネ号は止まることができず、どんどん加速していき、何億年もの時間が過ぎ去り・・・

  アメリカのSF小説。

  いかにもSFらしい作品。壮大な法螺をきちりと描き出していくところが非常に面白かったです。しかし、何もかもが都合よくいきすぎだろう、と思ってしまいました。極限状況では、自殺者が出ない方がおかしいのではないか。

  閉鎖的な船内で繰り広げられる愛憎劇は熾烈です。そういえば、船内はフリーセックス状態なのですが、やっぱりそういう面は書かれた時代(『タウ・ゼロ』の場合は1970年代)に影響されるのかなぁ、と感じました。昔は、未来そのような状態になると思っていたのかなぁ、SF作家は。

  それにしても狭い空間においては、独裁が最も効率が良いのか。分からないけど、それの悪い点、破綻が書かれないところなどは妙に甘い気がします。

  長大でなく、読みやすい点は良かったです。よくできた、正統的なSF小説。


自森人読書 タウ・ゼロ
★★★★

著者:  奥泉光
出版社: 集英社

  ジャズピアニスト・池永希梨子(通称フォギー)は、柱の陰にいる人に向かって音楽を届けることをいつも気にかけていました。不振が続いていたある日、本当に柱の陰に黒づくめの女性がいるような気がしてとても良い演奏ができました。彼女は、その後外出し、外でその女性と邂逅します。彼女は「ピュタゴラスの天体云々」といった謎の言葉を残して消えました。やがて、夏になり、フォギーは故郷へ帰ります。そして突如として1944年敗戦間近のドイツへタイムスリップしてしまい・・・

  SFのようなファンタジーのような作品。

  二段組みで490ページもあります。しかも、イントロダクションだけで100ページ。たたでさえ長大なのに、その上奥泉光の古風ないかにも純文学作家っぽい長い文章につっかえてしまい、中盤までは読み進めるのが辛かったです。根気が要るからです。しかし、いろいろな謎が絡み合ってくるとともに面白くなってきました。

  笑える部分が随所に挟まれているのは、楽しかったです。

  たとえば、「武富士」のポケットティシュが思わぬ疑惑を呼ぶところなどは爆笑。まぁそもそも主人公のフォギーも、その友達の佐知子さんもとにかく面白い人なので、おかしいのは当然か(多分、作者奥泉光も面白い人なのだろう、と思います。作中で自著『『吾輩は猫である』殺人事件』の宣伝までしてしまうのだから・・・)。

  しかし最高におかしいのは脇岡氏。歌手なのにリズム感覚に欠け、みんなから疎まれているのにやたらとつらつらと喋り続ける無神経の塊なのだけど、どこか憎めない彼の面白さは格別。そして、最後のもの悲しさも格別。呆れてしまうけど、憎めない人だなぁ、と思いました。


自森人読書 鳥類学者のファンタジア
★★★★★

著者:  舞城王太郎
出版社: 新潮社

  迷子捜し探偵、ディスコ・ウェンズデイは、6歳の少女、梢とともに日々を過ごしていました。しかし、彼女の体を「17歳の梢」が時折乗っ取るという事態が発生。ディスコはいろいろ考えるのですが、何も分かりません。その内、梢の膣の中から指が3本こぼれ落ちてきて、さらにノーマのような勺子や、最強の暴力男水星Cが登場してきたことで自体は大混乱。ディスコは水星Cとともに6歳の梢がいると思われるパインハウスへ赴き、推理合戦を繰り広げながら次々と目に箸を刺して死んでいく美少年・美少女探偵らに混ざって事件解決を目指すのですが、彼は最終的に時空を越え、新世界の創造へと漕ぎ出すことになります

  舞城王太郎の小説。

  上下巻あわせて1000ページ。上巻はトンデモミステリ、下巻は、SF。読み終わった後、頭が痛くなりました。『ディスコ探偵水曜日』というタイトルは痛くて、かっこ悪い気もするのに、なぜかかっこいいです。

  舞城王太郎らしさが全開。

  倫理(好き嫌い)が世界を決定する、意識と運命が世界を形作る、という思想が繰り返し語られます。最終的には、「愛が世界を救う」を飛び越え、「愛が世界を創る」というところにまでたどりきます。凄すぎるけど、感心するし、絶賛したくなります。歴史に残る傑作ではないか。

  今、日本に蔓延している相対論(立場によって信じるものは変わる)や、自閉的な「僕」の文学を潰すために書かれた小説なのかも知れない、と感じました。かなりグロテスクで滅茶苦茶だけど、とにかく物凄いです。ディスコと梢の物語は、ディスコと梢の物語ではなくなり、どこまでも拡張していきます。

  もしかしたら、今はやりの「詰め込み小説」なのかも知れません。散りばめられた北欧神話、聖書、西洋占星術、カバラ、ヨハネの黙示録、これまでの自分の著作などなどからの引用。少し、トンデモの世界に偏っていないか、と不安を感じたのですが、なかなかこっています。

  腐った世界から分裂して、舞城王太郎はどこへ向かうのか。不安だけど、楽しみです。


自森人読書 ディスコ探偵水曜日
★★★★

著者:  小川一水
出版社: 早川書房

  『老ヴォールの惑星』は、小川一水の短編集。『ギャルナフカ迷宮』『老ヴォールの惑星』『幸せになる箱庭』『漂った男』収録。

  『ギャルナフカ迷宮』
  些細な罪で、地下にあるギャルナフカ迷宮に閉じ込められた男の物語。彼は、人間らしい生活が営めるようにするため、社会を築こうとします。しかし、迷宮には疑心暗鬼が満ちていて・・・

  『老ヴォールの惑星』
  一風変わった生物たちの物語。彼らは吹き乱れるプラズマの嵐の中で社会を築いている金属の魚でした。その生物の中に「ヴォール」という者がいました。彼は「もっと落ち着いた惑星がある」という予言のような言葉を残し、沈んでいきます。彼の言葉が後の世に影響を与えます。

  『幸せになる箱庭』
  木星から資源を持ち去っている機械が発見されます。人類は、その作業が地球の軌道に与える影響を無視できず、異星人との交渉に乗り出すのですが。未知の生物との遭遇を描いた作品。設定が甘すぎる、と感じた作品。

  『漂った男』
  陸のない水の惑星に墜落してしまった兵士タテルマは、ずっと漂い続けることとなりました。彼は、外界との通信機での会話を頼りにして生き続けるのですが・・・ 良い話です。

  印象に残る作品ばかりだなぁと感じました。しかし妙に既視感を感じる、というか・・・ どこかで、すでに読んだことがあるような設定の作品が多い気がしました。換骨奪胎がうまい、と言うことなのかも知れません。結局のところ、あらゆる文学は他作品のパロディなのだから。

  あと、妙に甘いです。


自森人読書 老ヴォールの惑星
★★

著者:  ロバート・A・ハインライン
出版社: 早川書房

  物語の舞台は、2007年のアメリカ。もう過ぎ去っています。「ナイスでいかした」密情報機関のエージェント・サムと、その同僚メアリが、宇宙から侵略しにやってきた灰色半透明のナメクジみたいなパペット・マスターと闘う、という物語。そのナメクジみたいなやつは、他の生物にとりついて、それを人形のように扱うので、始末が悪いのです。死闘は、ずっと続きます。

  アメリカの万能主義が前面に表れたような小説。

  未知の生命体と「対話」してみよう、などと言ったら、貴様は敵のスパイかと疑われてぶっ殺されそうな雰囲気が漂っています。「敵とみたらぶっ殺せ」的な感じで、進んでいくので読みやすいです。深く考える必要性が全くない。「敵は侵略者、私たちアメリカは正義」という図式は少しも揺るぎません。あまりにも揺るぎない(つまり、相手の視点を少しも考慮しない)ので、少し笑えます。

  その代わり、テンポが良くて、爽快です。文章は軽くて、面白おかしいシーンもたくさんあります。

  ナメクジが隠れてないか確認するためにアメリカ人は全員常時上半身裸でないといけない、という政策が大真面目に行われたり、さらにはズボンまでみんな脱がないといけないという政策まで行われます。現実にそんなことが可能とは思えないけどなぁ。って、真面目につっこむのは阿呆か。

  まぁ軽い気持ちで読めば良いのではないか。けど、この小説の世界観(アメリカ絶対正義)が現実に持ち込まれたら怖いなぁ、と感じます。いや、現に持ち込まれているか・・・


自森人読書 人形つかい
★★★★

著者:  貴志祐介
出版社: 角川書店

  小説家・高梨は病的なまでの死恐怖症でした。しかし、新聞社主催のアマゾン調査隊に参加し、アマゾンへ赴いてそこであることを経た後、人格が変貌。異様なまでの性欲と食欲を示し、その後、死に魅せられ、自殺してしまいます。彼の恋人で終末期医療に携わっている精神科医・北島早苗は彼氏の死に対して不審を抱き、アマゾン調査隊のことを調べ始めるのですが・・・

  SF風味のホラー小説。

  一応、SFに入れておくけど、ホラーに分類するのが正しいと思われる作品。タイトルと中身のギャップが激しいです。かなりグロい物語です。気持ち悪さではピカイチかも知れない。予想できるところへ物語は突入していくのだけど、やっぱり圧倒されます。

  現代を舞台にしているわけですが、それを意識させる要素がてんこ盛りです。環境破壊の問題、新興宗教の問題、終末医療の問題などなどが詰め込まれています。そして、エロゲーにはまる自閉的な青年の気持ち悪さなどもはっきりきっちりと描写されています。まぁ自業自得なのだけど、最後にはかわいそうだなぁとも感じました。貴志祐介はそこまで計算しているのだろうなぁ、多分。単純なキモさだけが際立つキャラにはしていない。

  過剰なまでにいろんな情報が詰め込まれています。現代社会というものの病理みたいなものを抉っていこうとしている部分には共感しますが、枝葉にばかりこだわるのでやたらと長いです。多分、綺麗におさめようとしたら半分以下で済んだと思うんだけど・・・

  まぁ綺麗ではないから良いのかもしれない。それに、読みづらくはない程度だし、まぁ良いのだろうか。

自森人読書 天使の囀り
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