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自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
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★★★★

著者:  半村良
出版社: 角川書店

  米軍と自衛隊は日本海側全土にまたがる大演習を行っていました。その最中、伊庭三尉らの一団は突如として戦国時代にタイムスリップしてしまいます。彼らは、戦国時代で生きていく覚悟を決め、長尾景虎(上杉謙信)の臣下として活躍。哨戒艇、装甲車、ヘリコプターなどの近代兵器を用いて他の大名たちを蹴散らしていきますが・・・

  中篇。

  「近代兵器を装備した部隊と、戦国武将が率いる部隊が戦ったらどちらが勝つのか?」と言う問題を提起する歴史好きには堪らない1冊。一風変わった歴史改変SFとしても読めます。

  気軽に読めるのですが、「自衛隊とは何か」「天皇とは何か」「歴史には修正機能があるのか」といった様々なことを考えさせてくれます。意外に深いです。

  最後になって伊庭三尉が、歴史を変えようとしていたのに、結局のところ自分たちの行動が歴史を修正していたのだと気付くところではどきりとさせられました。少し遅すぎる気もしないではないのですが(もっと早く気付けるのではないかなぁ・・・)。

  福井晴敏のリメイク版『戦国自衛隊1549』より、半村良の『戦国自衛隊』の方が読みやすいし、面白いです。『戦国自衛隊1549』は結局のところいつもの福井晴敏ワールドになってしまっています。自衛隊同士がぶつかり合うだけなので、戦国時代が舞台である必然性がないのです。

  というわけで『戦国自衛隊』がおすすめ。


自森人読書 戦国自衛隊
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『構造と力―記号論を超えて』はやっぱり、おしゃれだと感じました。軽快に、あるいは軽率に、飛び出していく部分は、とくに心地よいです。そして、愚鈍を笑いながら、非常に細い線の上をかけていきます。ナイーヴと言い換えても良いかもしれません。
『構造と力―記号論を超えて』

しかし、『構造と力―記号論を超えて』をおしゃれだと感じる感性自体が、すでに古臭いものなのではないか、と感じないでもないです。おしゃれという言葉は現在の状況下では意味を持たないかもしれません。

すでに、浅田彰も、ナイーヴな姿勢を完全に保ち続けることはできていないようです。

すでに、一般の「批評家」たちより、爆笑問題の方が、批評家的ということができる気がします。もう文芸評論は終わっている、という言葉も、説得力は持たざるをえないのではないか・・・


読んだ本
浅田彰『構造と力―記号論を超えて』(再読)
『けちゃっぷ』
HIROは引きこもっているため、誰とも口をききません。しかし、ケータイを用いて、全ての思いをブログに打ち込んでいます。HIROは、現実世界では何にも干渉しませんが、ブログ上では、ポップに、下劣に、赤裸々に全てを語りつくします。そのHIROに声をかけるものが現れて・・・

虚構だということを強く意識した小説。

ブログが物語になっている、という体裁になっています。書き込みが心情とほぼ一致している、というタテマエがあるため、非常に愉快です。基本的に、全てが明らか。「リアルとフィクションが区別できない現在の若者の現実を赤裸々に描いた作品」とみなされそうです。

装飾があふれています。しかし、すでに、装飾が全てなのかも知れません。

登場人物は、みな美男美女です。だから、『けちゃっぷ』の物語性が際立ちます。実は、全てが物語なのではないか、と読みながら何度も感じました。しかし、そのような浮遊した立場から物語を書くことは、比較的容易です。そこから踏み出すべきではないのか、と感じないでもないです。

まあ、面白いエンターテインメント作品に仕上がっている点も微妙といえば微妙。結局、突き抜けていくバカな力が足りないのではないか。


読んだ本
喜多ふあり『けちゃっぷ』
★★

著者:  田中ロミオ
出版社: 小学館

  『人類は衰退しました②』の続編。

  人類が衰退して数世紀がたちました。人類最後の学校を卒業し、調停官となった旧人類の少女は、新人類「妖精さん」たちと仲良くなります。妖精さんたちはお菓子が大好きな小人さん。わらわらと集まるととんでもないことをしでかすのですが、すぐに散らばってしまいます。今回、私は助手さんとともにヒト・モニュメント計画(過去の人類の全てをまとめる壮大な計画)に参加。その影響で「夏の電気まつり」が開催されることとなり、辺りはお祭り騒ぎになりますが、電磁波のために妖精さんたちは去り・・・

  今回は長篇。

  今回は前々作、前作に比べると比較的真面目です。人類がどうして衰退したのか、衰退した人類はどのような生活をしていたのか、などいったことがおぼろながら分かってきます。

  やっぱり面白いのですが、さすがに長いのでだれる部分があります。もう少しコンパクトにならないものか、と感じてしまいました。

  全体的には真面目な部分も増えたけど、ギャグやパロディが次々と飛び出します。けど、それほど凝った展開ではありません。基本的にはダンジョン形式みたいな感じ。ただし、最後の怪獣乱闘の部分には笑いました。もう物語の展開自体が、ゲームや特撮のパロディなのです。

  4巻目はいったいどうなるのだろう・・・


自森人読書 人類は衰退しました③
★★★★★

著者:  G・ガルシア=マルケス
出版社: 新潮社

  まだマコンドが小さな街だった頃、ふらりと現れたジプシーの賢人・メルキアデスと仲良くなったホセ・アルカディオ・ブエンディアは、優れた指導者ではなく錬金術などに入れ込む変人になってしまいます。ジプシーたちは強力な磁石や望遠鏡や空飛ぶ絨毯を次々と持ち込みますが、ホセ・アルカディオ・ブエンディアの妻ウルスラはそれらには目もくれず、アルカディオ、アウレリャノ、アマランタ、拾い子レベーカといった子どもたちを育て上げました。アルカディオはピラル・テルネラに夢中になりますが子どもができたと知ると失踪。一方、アウレリャノは内向的で父親とともに引きこもり、様々な研究に精を出しますがレメディオスという少女に惹かれます。アマランタ、レベーカはピエトロ・クレスピをめぐって反目しあいますが・・・

  マコンドという地を拓き、100年にわたって繁栄し、近代化の狂奔の中で腐敗し、消え去っていくブエンディア一族の物語。

  世界文学と絶賛されているけれど、小難しいことはなくてむしろ読みやすいし、物凄く愉快です。同じような名前の人がやたらと多いので大混乱しますが。

  要約不可能。蜃気楼の村マコンドではなんでも起こります。空飛ぶ絨毯まで持ってくるジプシーたち。チョコを飲んで浮遊する神父。内向的で、未来を予測する少年アウレリャノ。盲目になっても匂いで全てを把握する気丈な母親ウルスラなどなど変人奇人が溢れています。

  最初のうちは神話的なのですが、じょじょに生々しくなっていきます。少年の頃は内向的だったアウレリャノが自由党側に属し、政府軍に対して何十度も叛乱を起こすようになります。次々と様々な人があっけなく、時には無惨に死んでいきます。処刑。惨殺。暗殺。虐殺なんでもあり。そして、バナナ会社が街に侵入してきます。マジックリアリズムの手法でもってラテンアメリカそのものを表現したといわれる理由が分かってきます。

  それにしても物凄い、というしかないです。最後の辺りには著者自身が少しだけ登場。そしてラストでは物凄い真相が炸裂。登場人物たちの一生は何であったのか、と考えさせられるし、悲哀に満ちています。孤独にとりつかれた一族の歴史自体が消え去っていく・・・


自森人読書 百年の孤独
トトロのトポス。
明日から再開する予定だそうです。
自由の森学園図書館からの情報発信。

自分ももう卒業。
自由の森学園が気になったら、「トトロのトポス」を見ることになると思います。。。

トトロのトポス
★★★★

著者:  レイ・ブラッドベリ
出版社: 早川書房

  物語の舞台は、焚書が行われ、日常的に戦争が行われている近未来の世界。多くの人はテレビやラジオなどの感覚的なメディアに入り浸り、何も考えずに日々を過ごしています。そして禁止された本などには見向きもしませんでした。主人公ガイ・モンターグは、焚書官/ファイアマンとして本を燃やすことを仕事としています。ですが、クラリスという感受性豊かな少女と出会い、自分の仕事の意味を疑い始めます。それを仲間から裏切りと看做され・・・

  書物に関するSF小説。

  基本的に、詩的で感傷的で幻想的。イメージを散りばめるようにして文章が進んでいくのでけっこう読みづらいのだけど、読み進めていくうちに引き込まれていきます。バックにはいつでも暗闇があり、それでいて場面場面は色彩豊か。非常に想像力を刺激されます。

  少ししか登場しませんが、クラリスの存在は鮮烈です。

  華氏451度というのは紙が自然発火する温度。主人公は焚書に反対するようになります。その主張には共感します。今、「焚書」が大っぴらに推奨されることはありません。しかし、禁止されずとも電子化がすすみ、本が読まれなくなっています。実質的には本が燃やされているのと同じではないかと感じます。

  『華氏451度』に登場する老人たちのように、一人ひとりが役割を受け入れ、その上で過去の書に学べばいいのか。しかし、パラパラとページをめくるという行為自体が古いものとなりつつある気もします。本当にどうすればいいのか分からない・・・

  古臭い部分もないわけではない気もしますが、テーマ自体は古びていないし、むしろブラッドベリが問題にした焚書というものは拡大しているのではないか。非常に考えさせられます。


自森人読書 華氏451度
★★★★★

著者:  J・R・R・トールキン
出版社: 評論社

  物語の舞台はエルフやドワーフ、ホビット、そして人間が割拠している巨大な大陸・中つ国。ホビット庄に住むホビット族の若者、フロドは養父ビルボから「力の指輪」を譲られます。その指輪は指につけると姿を消すことができるのですが、その一方で世界を破滅させる魔力をも秘めていました。

  フロドは正義の魔法使いガンダルフらに背を押され、親友サムとともに悪の勢力によって指輪が利用されることを防ぐために滅びの山へ向かいます。力の指輪を破壊するためには、滅びの山の火口へ投げ込むしかなかったのです。途中で「指輪の仲間」が結成されます。ホビット族のフロド、サム、ピピン、メリー、魔法使いのガンダルフ、人間のアラゴルン(王の末裔・馳夫)、ボロミア(執政の息子)、ドワーフ族のギムリ、エルフのレゴラスが参加。しかし、旅路は決して楽なものではなく、誘惑に負けて裏切る者が現れ、一行は離散してしまい・・・

  長大な物語(本来は全3巻。文庫本だと9巻)。『ホビットの冒険』の続編。

  ファンタジー小説の祖とも言うべき作品。特徴的なのは主人公が小人であること。誰よりも小さい人が強大な悪に立ち向かい、世界を救うのです。指輪の誘惑と一人で闘うフルドに感動します。善悪が明確になっていて悪を打倒することが最終目標となっているので、いかにも「西洋的」に思えますが、自分との闘いが中心にあるので中和されています。

  非力と看做されている者が、危地にたたされたとき最も高貴な振る舞いを見せるわけですが、それはイエス・キリストをモチーフにしているのかなぁ、とも感じます。

  あとは辛苦を嘗め尽くすこととなる魔法使いガンダルフがかっこいいです。神のなれの果てである冥王サウロンが本格的に動き出したため強力な魔法を持っているガンダルフといえども余裕綽々というわけにはいかず何度も追い詰められます。それでも決して挫けません。一度は死んだかと思いきや・・・

  J・R・R・トールキンはもともと神話や伝説、伝承、言語について研究していた人ですが、それらを活かしつつ、中つ国という一つの世界を創造したそうです。背景にはきちんとした悠久の神話・歴史があります(それをまとめたのが『シルマリルの物語』)。それらが垣間見えるところが堪りません。

  最後に世界は分かたれてしまいます。ここまで哀しいラストは他にないのではないか。


自森人読書 指輪物語
500園芸少年
★★ 魚住直子

499からくりアンモラル
★★★ 森奈津子

498どうで死ぬ身の一踊り
★★★★ 西村賢太

497プレーンソング
★★★ 保坂和志

496流星の絆
★★ 東野圭吾
★★

著者:  魚住直子
出版社: 講談社

  おとなしいけれど、実は案外戦略的な篠崎が主人公。彼は、高校入学後、元不良の大和田と一緒にいたとき、野球部とバスケ部の人たちに入部を迫られ、それを断るために園芸部に入部します。いつの間にか2人は意気投合。段ボール箱をかぶらないと外に出られない庄司という少年が偶然通り掛かったので引っ張り込み、彼らは3人で植物を育て始めます・・・

  のほほんとした軽い青春小説。

  今回は非常に楽しめました。段ボールを被った庄治という人と彼に対する主人公のツッコミが愉快なのです。安部公房の『箱男』を連想しますが、こちらの場合はそこに深い意味があるというわけではありません。アクセントのようなものです。

  しかし軽いだけではありません。魚住直子本来の泥臭さというか、日常の中に歴然と存在するいじめや差別などへの視線も感じられます。みなそれぞれがそれなりの物を背負っているということを気付かせてくれます。

  台詞が状況説明みたいになっていてちょっと自然ではない気もしましたが、物語の運び方は非常に巧くなっています。魚住直子が世間的な普通の青春小説に歩み寄ったとも考えられるけど、浮き沈みする気分を切り取り、浮く部分を上手に切り取った今までの作品とは、少し違うような気がします。もう少し明るいです。希望があります。

  厳しい環境にある人が主人公ではないから、なのかなぁ。


自森人読書 園芸少年
『晏子春秋 上』『晏子春秋 下』
原文、書下し文、それから訳文が乗せられています。晏子という人が記した書物。課題を読み取るために借りてきたのですが、結構面白かったです。


読んだ本
『晏子春秋 上』
『晏子春秋 下』
★★★

著者:  森奈津子
出版社: 早川書房

  性愛SF短編集。『からくりアンモラル』『あたしを愛したあたしたち』『愛玩少年』『いなくなった猫の話』『繰り返される初夜の物語』『一卵性』『レプリカント色ざんげ』『ナルキッソスの娘』『罪と罰、そして』収録。

  『からくりアンモラル』
  初潮を迎えた姉・秋月は、妹・春菜になつくロボット・ヨハネを見ていらっとしてしまい、ある悪戯を思いつきます・・・

  だいたい表題作『からくりアンモラル』と似たような短編ばかりが集められています。

  作品内にはSF的な設定がたくさん取り入れられているけど(タイムスリップとか、アンドロイドとか)、全てがエロに結びついていきます・・・ SFというよりは官能小説ではないかと思うのですが、一応は『からくりアンモラル』もSF小説なのかも知れません。様々な物を受け入れることができるのがSFというジャンルなのだから。

  母と子、父と子の関係を描いた作品も中には入っています。最後になって意外な事実が判明する『ナルキッソスの娘』などはなかなか良いなぁ、と感じました。

  しかし、全体的には「少女」というものが最も重要なテーマとなっています。森奈津子はもともと少女小説作家だそうですが、桜庭一樹といい、「少女小説」を書いてきた人たちはやたらと少女にこだわります。だからこそ少女作家になれるか。森奈津子は、男を除外した少女だけの楽園みたいなものを繰り返し描きます。だから、レズビアン小説のように見えるけれど、そうとも言い切れない気もします。そもそも、少女にとって男は必要がないこともあるのかも知れない。


自森人読書 からくりアンモラル
★★★★

著者:  西村賢太
出版社: 講談社

  短編集。『墓前生活』『どうで死ぬ身の一踊り』『一夜』収録。

  3つの短編とも、芝公園で凍死した無頼作家・藤澤清造に共感を覚えている私が主人公。私は6歳年下の女と同棲するようになり、彼女の給料で暮らし、彼女の親から借りたお金で藤澤清造全集を出そうとします。しかし些細なことで逆切れし、彼女に何度も暴行を加え、そのたびに彼女は実家へ帰ってしまうのですが、その途端に私は卑屈な態度をとり、戻ってくるように懇願し・・・

  あまりにも無惨で救いがたいダメな男の日常を綴った陰惨な私小説。

  本当に笑えます。なんというか、凄いというしかないです。トイレの蓋があがっていなかったからと言って女に対して激怒し始めるところなどは、もうなんとも言いがたい。そもそも同居している女性のことを「女」としか表記しないこと自体が反時代的です。

  しかし、それでいて文章は非常に端正なのです。藤澤清造というマイナーな作家への思慕を切々と書き綴っていることからも分かるとおり、著者は日本の小説をたくさん読み、『どうで死ぬ身の一踊り』を書いているのだろう、と思います。

  主人公のような人と接したいとは思わないし、全然共感もできないけれど、『どうで死ぬ身の一踊り』という小説自体は暗いのに笑えて面白いです。

  西村賢太ってどのような人なのだろう・・・


自森人読書 どうで死ぬ身の一踊り
★★★

著者:  保坂和志
出版社: 講談社

  競馬を気に入っているぼくという男が主人公。ぼくは最近、子猫に惹かれるようになり、餌をあげるようになります。しかし、なかなか寄ってきてはくれません。子猫ではなく、アキラ、よう子、島田といった自主映画作りに取り組む若者たちがぼくの家へ次々と現れます。彼らとの日々は非常にたわいもないものでした。最後、彼らはアキラが運転手として連れてきたゴンタとともに海へ赴きます・・・

  様々な人間たちと、その関係を描いた作品。保坂和志のデビュー作。

  なにげない日常をさりげなく描いた小説のように見えます。しかし、決して普通の小説ではありません。個々のキャラクターや物語の粗筋ではなくて、場の空気や人間同士の関係が主題として据えられているところは非常に挑戦的。

  四方田犬彦の解説がとても良いです。書いてあることがいちいちもっともなので、とくに付け足すことがないのですが・・・ 「小説家を目指しながらそれを諦め、映画作りに専念するゴンタという人物の思考・視点が、作者の思考・視点と一致している」と解説者は指摘していますが、その通りだなぁと感じました。

  普通の映画というものは喋っている人間を画面の中心にもってきます。しかし、そうではなくてそれを聞く側の動きや、全体の空気や些細な部分こそが肝要なのではないか、とゴンタは語ります。なかなかに意味深長です。ゴンタの言葉が『プレーンソング』という作品自体を説明していると言えます。少々説明過多な気もしたけど、それくらいしっかり説明してくれた方がわかりやすいか。

  人間は一人で存在することは出来ず、関係や空間によってつくられる、という思想が語られているような気がしましたが、その部分にも共感します。

  小説や世界の構造というものについて考えさせられる小説。


自森人読書 プレーンソング
★★

著者:  東野圭吾
出版社: 講談社

  横須賀市にある小さな洋食屋アリアケを経営していた有明幸博、塔子らが深夜殺害されます。功一、泰輔、静奈ら3人の子供たちは家を抜け出して流星群を見に行ったため無事でしたが、彼らは身よりがなかったため養護施設に収容されました。そして、その後3人は様々な人たちに騙され、強く生きることを誓って詐欺師になります。そうして、事件から14年。洋食チェーンの御曹司・戸神行成に高価な宝石を売りつけようとした3人は、行成の父を見かけ、衝撃を受けます。その人は、事件当時殺人現場から逃げ去っていった男に似ていたのです・・・

  やっぱり、東野圭吾作品は分厚くても文章はサクッとしていて面白いです。

  しかし、毎度のことではあるのですが、物語に深みがあるわけではありません。とにかく軽いし、淡白です。

  そして、これもまた毎度のことながら、東野圭吾の作品に登場するヒロインには魅力が感じられません。なんというか、血の通った人間とは思えないのです。典型的でありきたりな「ヒロイン」なのです。もう少しどうにかならないのかなぁ。

  そして最も問題なのは、最後の謎解き。意外ではあるけれど、そこまで衝撃的ではありません。パズル的な謎解きを得意とする東野圭吾の良さがいまいち発揮されていない気がします。

  まぁ普通に面白いけど、それ以上のものはないという感じです。

  2009年第6回本屋大賞ノミネート作(9位)。


自森人読書 流星の絆
2011年2月19日(土)。
渋谷FORUM8(フォーラムエイト) 662会議室にて。
「沖縄のいま、本土のこれから ~普天間問題と平和教育を考える~」
というシンポジウムがあります。

主催 SAY-Peace PROJECT

ゲスト
安次富浩さん(ヘリ基地反対協議会共同代表)
下地史彦さん(城東小学校教諭、沖縄県教職員組合)
菅間正道さん(自由の森学園教諭)

シンポジウム 沖縄のいま、本土のこれから
『きょうのできごと』
著者は巧みに日常を切り取ります。しかし、その日常は、現実にある日常ではないような気もします。おそらく、本当の日常らしく見せかけられたフィクション、です。

保坂和志作品に共通する部分もないわけではないです。

柴崎友香のデビュー作。映画化されているそうです。


読んだ本
柴崎友香『きょうのできごと』
495ベルリン飛行指令
★★★ 佐々木譲

494厭世フレーバー
★★★ 三羽省吾

493ソラリス
★★★★★ スタニスワフ・レム

492アルト=ハイデルベルク
★★★★ マイヤー・フェルスター

491クリスマス・カロル
★★ チャールズ・ディケンズ
自由の森学園高校の卒業式、中学の卒業式が近いです。

まだその前に学習発表会がありますが。

卒業式のことが、高校三年の中では、けっこう問題になっています。どうするべきなのだろう、と考えてしまいます・・・
★★★

著者:  佐々木譲
出版社: 新潮社

  太平洋戦争開戦前夜。ドイツ軍はイギリス本土を攻め切れず、結局撤退しました。その事態を憂慮したヒトラー総帥は、日独伊三国軍事同盟を結んだばかりの新興国・日本が開発した戦闘機(零式艦上戦闘機)の噂を聞きつけ、ライセンス生産を行うかどうか検討するために購入したいと日本政府に持ちかけます。それを受け入れた海軍は困難だと自覚しつつ、安藤啓一、乾恭平ら優秀でありながら反骨精神に満ちた男たちに零式艦上戦闘機を任せます。彼らは遥かなベルリンを目指し、東京を出発するのですが・・・

  壮大なif歴史小説。ようするに法螺話。

  なかなかに読み応えがあります。けして嫌いではないのですが、視点が不規則に変わるので少し読みづらいです。

  物語の舞台は日本、インド、イラク、ドイツを転々とします。各地の状況がきちりと描写されていたので感心しました。たくさんの資料を紐解いて書いたのだろうと感じられます。著者の大日本帝国に対する批判的な姿勢には共感します。

  ただし、安藤啓一、乾恭平ら主人公たちがあまりにもかっこいいのでリアリティが感じられないです。当時の軍部に彼らのような反体制的な男たちが存在しえたとは思えないのだけど。まぁフィクションだからOKなのか。しかし、そういうはなしが多すぎるよなぁ・・・

  とはいえ、『ベルリン飛行指令』は面白く壮大な小説です。


自森人読書 ベルリン飛行指令
★★★

著者:  三羽省吾
出版社: 文藝春秋

  リストラされた父親が失踪。14歳の次男ケイは陸上部をやめ、新聞配達を始めました。17歳の長女カナはアルバイトを始め、深夜まで家に寄り付かなくなります。27歳の長男リュウは突如として家に帰ってきて家族の面倒を見ようとします。42歳の母・薫は昼から酒浸り。73歳の祖父・新造はボケが進行してきて会話が成立しません。家族ともいえないような家族は、いったいどうなるのか?

  家族と言うものを描いた作品。

  「十四歳」「十七歳」「二十七歳」「四十二歳」「七十三歳」によって構成されています。それぞれの視点から、家族のことが語られます。非常によく練られています。読み終わったときにはなんだか温かい気持ちになっています。

  ただし、気になった部分もありました。全体的に金城一紀っぽいのです。がさついた文体といい、ちょっと良いはなしに落ち着くところといい、そっくりです。まぁ悪くはないのだけど、取り立てて『厭世フレーバー』が面白いということはなかったかなぁ、と思ってしまいました。

  ついでに設定が似ているからか、平安寿子の『グッドラックららばい』を思い浮かべてしました。どちらというとドロッとしたものも掬い上げている『グッドラックららばい』の方が面白かったかなぁ・・・

  まぁサクッとしているところは悪くないです。深く感動するというわけではないけれど、少し温かい気持ちになれる良い佳作。


自森人読書 厭世フレーバー
★★★★★

著者:  スタニスワフ・レム
出版社: 国書刊行会

  心理学者ケルヴィンは、ソラリス上空に浮かぶステーションで発生した異常を調査するためにそこへ赴くのですがステーションは半ば放棄されていました。その上、出迎えてくれた研究者の説明は全く要領を得ません。しかも、自分が原因で自殺したはずの恋人ハリーが目の前に現れ、ケルヴィンは有機的な反応を示す海によって覆われている惑星ソラリスの謎の中へと取り込まれていくことになります・・・

  『ソラリス』は、ポーランドのSF作家スタニスワフ・レムが1961年に発表したSF小説。

  早川書房から出版された旧訳『ソラリスの陽のもとに』が有名なようですが、国書刊行会から2004年に出版された新訳を読みました。『ソラリス』新訳は、ポーランド語から直訳し、ソ連による検閲のために削られた部分が補完されているそうです。

  科学的でありながら哲学的。

  赤い色をした太陽と青い色をした太陽に引っ張られながら不可解な軌道を描くソラリスという惑星のことを考えていくと人間中心主義(人間形態主義)から脱することができない人間というものの限界が露になってきます。無機質なステーションと有機的な海との対比も素晴らしいです。科学によって読み解くことができない海によってステーションとその中に住む人たちはじょじょに侵食されていきます。その図式自体が非常に象徴的。

  ケルヴィンとハリー(らしきモノ)の愛の行方も気になります。

  愛とは何なのか。命とは何なのか。人とは何なのか。面白い状況を仕立て上げ、様々なことを考えさせてくれるところはいかにもSF的。だけど、科学や進歩に対する信仰を持っていない(というか疑いを抱いている)ところはSFらしくありません。『ソラリス』はSFを突き抜けたSFなのではないか、と感じました。摩訶不思議な傑作です。


自森人読書 ソラリス
★★★★

著者:  マイヤー・フェルスター
出版社: 岩波書店

  若き皇太子ハインリヒは律儀で頑固な宮廷の人間たちに囲まれて育ちます。唯一の救いは家庭教師のユットナー博士だけでした。彼は独特の寛大さを持ち合わせた人だったからです。とはいえ、厳しく全てが定められた生活は続きました。ですが、青年になったハインリヒはとうとう1年の間、風光明媚なハイデルベルクへと赴くこととなります。そして、そこで溌剌とした少女ケーティや多くの大学生たちと出会い、ともに大学生活を謳歌するのですが・・・

  戯曲。

  物語自体は、単純で平凡でありきたりです。「高貴なる王子さまと身分の低い可憐な娘が惹かれあい、結局のところ結ばれない」というただそれだけの物語なのです。しかし、心をくすぐられました。

  青春というものを描いた作品ではあるのだけど、青春時代のエピソードはそれほど多くはありません。詳しいことが書かれていないためにむしろ想像の幅が広がります。巧みな演出だなぁと思いました。

  ユットナー博士と内侍ルッツの掛け合いが面白いです。若者の文化に理解を示し、むしろそれを受け入れる寛大な自由人ユットナー博士と頑固に宮廷のしきたりを守ろうとするルッツの間には深い溝があるわけですが、2人ともハインリヒのためを思って行動しているという点は共通しています。なのに食い違い、言葉の喧嘩を繰り返すのですが、そのやりとりが愉快です。

  徹底的に頑固な男ルッツが、最後の辺りで大学生たちから敬遠されて沈み込むハインリヒに理解を示し、騒がない大学生どもに文句を言うのですが、その場面はぐっときます。偏狭な人なのだけど、ハインリヒのためを思っているということは揺るがないのです。


自森人読書 アルト=ハイデルベルク
★★

著者:  チャールズ・ディケンズ
出版社: 新潮社(村岡花子訳)

  初老の商人スクルージは書記としてボブという男を安く雇い、ロンドンの下町に事務所を開いています。彼は、決して他人のためには金を使わず、人間の心や愛などいうものを気にかけたことはない冷酷な守銭奴でした。あるクリスマスイヴの夜、かつての共同経営マーレイの幽霊が現れ、これから毎晩三人の精霊が現れるだろうと告げます。そしてその言葉通り、毎晩、過去・現在・未来のクリスマスの霊が現れ、スクルージは悔い改めることになります・・・

  文豪ディケンズの作品の中でもとくに有名なものの一つだそうです。もともと「クリスマスの本」シリーズの第1作目として出版されたらしい。まさにクリスマスにぴったりの本。

  吝嗇への戒めや弱者への慈愛がテーマとなっています。

  しかし、全体としては堅苦しいことはなく、むしろ軽快です。いきなり幽霊が出てきて、しかも精霊までぞろぞろと登場するのです。登場人物たちも筋書きもすっきりくっきりしています。暗くて孤独で笑わないスクルージと笑いに満ちた甥一家の対比など、とても分かりやすいのです。

  まぁ非常に類型的ではあるけれど、それでも面白いし、人のために何かを為すということは大切だよなぁ、と思わされます。

  当時の英国の街や家々についての描写は興味深かったです。やっぱり今とは違って夜は物凄く暗かったんだろうなぁ、と考えたりしました。

  クリスマスにぴったりの1冊。


自森人読書 クリスマス・カロル
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