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自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
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『ユリイカ 2010年12月号 荒川弘『鋼の錬金術師』完結記念特集』
『鋼の錬金術師』特集。荒川弘と三宅乱丈の対談などが収録されています。それから、『鋼の錬金術師』に関する文章が並べられています。多くの人が『鋼の錬金術師』という作品に絡めながら、自分の思いを綴っています。

早尾貴紀の文章は面白いです。『鋼の錬金術師』というマンガは国家・民族というものの本質を、ある点においては明らかにしているのではないか、と指摘していきます。

しかし、出色なのは佐藤亜紀の文章です。佐藤亜紀の文章は、ひどい、と感じます。佐藤亜紀の文章は、周囲にある他の人の文章をくだらないものに変えていくのです。巧い、というしかないです。



読んだ本
『ユリイカ 2010年12月号 荒川弘『鋼の錬金術師』完結記念特集』
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★★★★★

著者:  三浦俊彦
出版社: 河出書房

  日向健介と白鷹小夜子は美術大学の学生。二人とも将来の日本画壇を背負って立つと期待されている優れた人たちでした。彼らは卒業制作指導教官であり、画壇の重鎮でもある鏑木聡信教授に誘われ、「前衛工房」なる画廊へ出掛けます。そこではあやしげで危険なコンセプチュアルアート展覧会が行われていました。日向健介は激発し、白鷹小夜子は笑い出すのですが、展示されているものはじょじょに過激になっていき・・・

  あまりにも面白すぎる、と感じた本。

  案内の人とともに、教授と学生の3人が「これは芸術である」「これは芸術ではない」と殴り書きしてある紙が置いてあるだけのところや、剃刀の中をかいくぐらないと見れない絵があるところや、動物が磔にされているところを巡っていくだけなのですが、難解なことはなくて物凄く笑えます。立派な論理というか、屁理屈みたいなものが頻出。

  「正しい」芸術観を持つ普通の人間がコンセプチュアルアートによって崩壊させられていく物語として読むことができます。とにかく笑えます。そして、ゾッとします。一体全体、芸術とは何なんだろうかと考えさせられます。本当は物凄くアブナイものなのだろうか。

  今はもうない過激な芸術展覧会、読売アンデパンダン展を基にしているようです(赤瀬川原平らが出展していたやつ)。どれだけ危険なものだったのだろうか、想像もつきません・・・

  「小説」という形式自体に対する指摘が挟まれているところや、文字の羅列自体をいじくって圧迫感を与えている部分は、ちょっと筒井康隆っぽいかも。三浦俊彦の企みに満ちた小説は本当に楽しめます。


自森人読書 これは餡パンではない
★★★

著者:  新井素子
出版社: 新潮社

  結婚七年目の三津子と忠春。関係は円満だし、忠春はどこまでも出世していくので二人は幸せかのように見えました。しかし、忠春に依存しきっている三津子の心は、実は「寂しさ」によって蝕まれていて・・・ 仕事の奴隷と化す夫とその人に尽くすためだんだんとボロボロになっていく妻の痛みを抉り出したサイコ・ホラー。

  三津子本人の日記と冷静なる分析者の文章が交互に挟まっています。

  物凄く怖いなぁ、と感じました。三津子は妙に神経質で過敏だし、忠春は鷹揚でなんとなく抜けている感じがするのですが、そういうこともあり得るかもしれないし、そういう家庭もありうるかも知れない。ほとんど外出しない三津子の狭くて苦しい日々には、本当に息が詰まります。もう少しブラブラと散歩でもすれば気分が晴れるだろうに(いや、それは苦痛にだけなのかな)。

  女性にとって妊娠というのは大きなことなのだろうなぁ、と思わされました。それにしても、最後の主人公の想像はいかにもSF的。少し電波系入っているなぁ・・・

  そういえば、かわいい猫が登場するのですがかわいそうなことになってしまいます。う~ん、なんとも惨いことだ。ストレスに押し潰されそうな人間が小動物に向かってそのストレスを解放するというのはよく聞く話ですが・・・

  まぁ、全く救いがないというわけでもない(のではないかと思わされる)ラストが良いです。それとあとがきが面白いところも。


自森人読書 おしまいの日
★★★

著者:  堀江敏幸
出版社: 講談社

  『熊の敷石』
  「私」は仕事のため数年ぶりにフランスを訪ね、旧友ヤンと再会します。そして彼が停泊しているのがアヴランシュだと知り、驚きます。私の仕事は『フランス語辞典』を書いたマクシミリアン=ポール=エミール・リトレの伝記の紹介文と部分訳を作ることであり、アヴランシュはリトレの出身地だったからです。私はヤンと「なんとなく」過ごすうちに、ユダヤ人の苦難の歴史とそれの受け止め方の違いを知り、さらには光を知らない少年とその母カトリーヌに出会います。芥川賞受賞作。

  『砂売りが通る』
  私は亡き友人の妹とその娘とともに海岸を歩きます。そうして様々なことを思うのですが・・・

  『城址にて』
  届けられた写真を見ながら、「驚くべき」事件に遭遇したことを思い出します。全体的にユーモアが感じられます。

  どれもエッセイのような小説。『雪沼とその周辺』よりはまだサクッとしていて、洗練されていない部分もあるような気がします。もしかしたら、島国である日本ではなく、大陸にあるフランスが舞台だからなのかも知れない。

  なぜか川端康成を連想します。仄かに暗がりの香りが漂うところ、不意にぬっと不気味なものが現れるところが似通っているような感じがするのです。川端康成の方がもっと変態的かなぁ。

  川上弘美の解説がまた良いです。解説自体が、まるで1つの作品のようです。


自森人読書 熊の敷石


著者:  J・K・ローリング
出版社: 静山社

  シリーズもの
  ・1 賢者の石/・2 秘密の部屋/・3 アズカバンの囚人/・4 炎のゴブレット/・5 不死鳥の騎士団/・6 謎のプリンス/・7 死の秘宝

  闇の魔法使いヴォルデモートに父母を殺害されながら自らは生き残り、ヴォルデモートを返り討ちにした奇跡の少年ハリー・ポッターとその親友ロン、ハーマイオニーらの学園生活を書いた作品。3人は、復活を目論む闇の魔法使いヴォルデモーとの戦いに否応なく巻き込まれていきます・・・

  大ベストセラーになったファンタジー小説。

  小学生の頃、物凄いブームだったので手に取り、全巻読みました。最初はその単純さが好きだったのだけど、巻が進むごとに『指輪物語』の劣化コピーに過ぎないという気がしてきて、熱が冷めてしまいました。面白いのだけど、やたらと粗ばかりが目に付きます。

  どこまでも明快で、パズル的なストーリー。あまりにも単純な(アメリカ的ともいえそうな)善悪論。いつでも安易に持ち出される魔法(ほとんど、超能力と一緒)。おかしな日本語の頻出。

  友との葛藤と闇との戦いにばかり気をとられ、全く「自分との戦い」を行わない単細胞な主人公ハリー・ポッター。結局のところ、ハリーは「選ばれた子」です。どれだけ人が死のうとハリーは生き残る、というのが最初から明白です。最終巻では、あなたはキリストですか、と言いたくなるような奇跡が発生・・・

  浅くて薄っぺらくて甘ったるくて隙だらけの『ハリー・ポッター』シリーズをファンタジー小説として容認して良いのか。もう少し深いはずのファンタジーが誤解されてしまう気がします。むしろ、『ハリー・ポッター』シリーズは、「ミステリ的/パズル的な仕掛けを楽しむファンタジー風学園サスペンス」なのではないか。

  それにしてもこのような作品がこれほど売れてしまい、ファンタジー小説の代表とされているというのは本当に良いんだろうか。嫌いではないのですが、あえて★1つ。



自森人読書 ハリー・ポッターシリーズ
『カブキの日』
物語の舞台は琵琶湖湖畔にある大劇場・世界座。賑々しい「顔見世」の日が訪れます。世界座を訪れていた少女、蕪は芝居茶屋の若衆・月彦から「準備はいいか?」と書かれた紙片を渡されます。その後、蕪は月彦とともに世界座を冒険することになります。一方、カブキ改革派の旗手・坂東京右衛門は、守旧派の代表・水木あやめから顔見世の切狂言を任されますが困難に直面します。その二つの物語の間に、カブキ史の説明がはさまれています。

カブキを巡る小説。

カブキが民衆から愛されているパラレルワールドが描き出されています。『カブキの日』の世界の現代には、江戸の風情・情緒が残されているようです。

世界座という場所は非常に魅力的。世界座は一種の迷宮です。迷い込んだら絶対に助からない、といわれる三階がとくに面白いです。蕪、月彦は三階を自由に駆け抜けていき、成長します。しかし、単純な成長ではありません。純粋な部分を残した成長です。

最後の盛り上がりは凄いです。

それから、客観的なカブキ史の説明もなんというか、もっともらしくて良いです。読んでいると楽しくなってきます。

カブキ、あるいは芸術というものに対する熱い思いが感じられます。カブキ批評も含まれています。何かを取り上げるということは、その何かを論じることなのだと感じました。

第11回三島由紀夫賞受賞作。


読んだ本
小林恭二『カブキの日』
そういえば、インフルエンザで学級閉鎖になりました・・・
なんということだ、という感じです。

評価表も終わっていないのですが。
455甲賀忍法帖
★★★★★ 山田風太郎

454スターメイカー
★★★★★ オラフ・ステープルドン

453毒入りチョコレート事件
★★★★★ アントニー・バークリー

452ハイペリオン
★★★★★ ダン・シモンズ

451夏への扉
★ ロバート・A・ハインライン
★★★★★

著者:  山田風太郎
出版社: 角川書店

  時は江戸時代初期。徳川家康は、ぼけっとした竹千代と利発な国千代のどちらを第三代将軍にするべきかとひどく悩んでいました。思い余って家康が天海僧正に悩みを打ち明けらると天海は恐ろしいことを提案します。それは「400年来の怨敵同士、伊賀・甲賀の忍者たちをそれぞれ竹千代、国千代につけて戦わせ、勝った側を次期将軍につけたら良い」というものでした。家康はそれをのみます。そして、彼の命に従い、最初から仲の悪かった伊賀組十人衆と甲賀組十人衆は死闘を繰り広げることになります・・・

  1959年に出版された忍法帖もの第1作目。記念碑的傑作。

  敵味方に分かれて戦うことになってしまう悲劇のカップル、甲賀弦之介と伊賀の朧の運命はとても気になります。

  ナメクジ男、血を噴射する女、髪を束ねた黒い鞭みたいな縄を駆使する美少年、何度殺されても蘇る男などなどが次々登場し、大乱戦を繰り広げます。山田風太郎の忍法帖シリーズさえあれば、『ジョジョの奇妙な冒険』とかそういう系統の少年漫画は読まなくても良いかなぁ、と思うほど。というか、山田風太郎が少年漫画の原型なんだろうなぁ・・・

  冒頭にある真面目な歴史の講釈、次から次へと現れては驚愕の技を繰り出す人間を超えたトンデモ忍者たち、真面目腐っているけど全く説明になっていない忍術の説明、エログロナンセンスが妙な味をかもし出しています。

  しかし、細部がおかしいだけでなくて、物語の骨格もしっかりとしており、面白い。笑えるのに哀しい。忍法帖シリーズを代表して、★5つ。


自森人読書 甲賀忍法帖
★★★★★

著者:  オラフ・ステープルドン
出版社: 国書刊行会

  肉体から解き放たれた主人公「わたし」は時空を超越し、太陽系の彼方へと宇宙探索の旅に出ます。彼はじょじょに覚醒していき、棘皮人類、共棲人類、植物人類などの世界を巡っていきます。そんな中で、至高の創造主「スターメイカー」を追求するうちに宇宙の発生から滅亡までを垣間見ることになります・・・・・

  1937年に出版された壮麗なるSF小説。

  「思弁的な作品」というふうに紹介されていたので、警戒しながら読み始めたのですが、最初はけっこうソフトで、しかも面白いのでどんどんページをめくっていくことができました。ですが、ラストに近づいていくにつれて難解になってきます。最終的には、頭がパンクしてしました。

  「究極のSF」という褒め言葉もあながちはずれていないのではないか、と感じます。人間・文明・精神とは何か、ということを深く冷徹に追求した哲学的な作品。とくに、共棲/共生というテーマが繰り返し語られています。

  作者/主人公がキリスト教を信仰している英国人なので、作品にもキリスト教の影響が色濃く感じられます。精神というものに重きを置くところは非常に宗教的だし、創造主スターメイカーの扱いや、世界を二元論(「善と悪の対立」「文明と野蛮の対立」)で把握しようとする作者/主人公の姿勢は一神教的。その辺りには馴染めないものを感じました。

  しかし、『スターメイカー』は、まぎれもなく傑作。僕には到底理解できない部分も多々ありましたが、とにかく凄いです。

  楽園は決して実現しない、実現しても破壊されるというどうしようもないニヒリズムを抱きつつも世界/現実とコミットし、「共生」を唱え続ける作者には惚れ惚れします。しかも、第二次世界大戦前夜である1937年にそのようなことをやってのけたというのは本当に凄いです。


自森人読書 スターメイカー

『熱海の捜査官 オフィシャル本』を読んでみましたが、結局よく分からないです。なぞが増加するだけかも知れない、と思いました。

三木聡という人はなんというか面白い気がしました。


読んだ本
『熱海の捜査官 オフィシャル本』
『中国の五大小説〈上〉三国志演義・西遊記』
『三国志演義』『西遊記』のことが、丁寧に紹介されています。作品のあらすじから、その作品のキモの部分、作品が書かれた時代背景、西洋作品との共通点・相違点まで、書き込まれているので、その作品を把握することができます。

中国古典文学の入門書。

『三国志演義』の紹介がわかりやすいです。作品世界の構造が簡潔に説明されていきます。非常に丁寧です。

中国の文学の世界では、「見えるものの記述」が「見えないものの記述」より優先されている、と井波律子は読み解きます。そして、ヨーロッパの小説を導くような「全能の語り手」が中国の文学の世界には存在しないと示してから、そのような方法は西洋の新しい小説方式に近い、と指摘します。


読んだ本
井波律子『中国の五大小説〈上〉三国志演義・西遊記』
『窓の灯』
私は大学を中退して、喫茶店に勤めています。店の主ミカド姉さんは全ての人間を平等に扱います。だから、ミカド姉さんの部屋には、毎夜、様々な男が訪れます。私はミカド姉さんの部屋に注意しながら、向かいの部屋の窓の中を覗きます。そして、時折夜の街を徘徊しながら、人々を観察するようになるのですが・・・

小説。

微妙、と評されているようです。しかし、悪くないのではないか、と感じます。基本的に淡泊かつ平明です。それなのに、簡単に読み取ることはできません。

妙に濁ったものが含まれているような気もします。現実の世界の中では、全てのものは、良い面と悪い面を併せ持ちます。良いだけのものはありえないのです。『窓の灯』という小説はそういう二面性を巧みに描き出しているのかも、と思います。

感情はくくることができないのではないか、と『窓の灯』を読んでいて思いました。ミカド姉さんに対する私の想いは複雑です。羨望、嫉妬、尊敬、嫌悪などが入り混じっているからです。ある時は、「ミカド姉さんは女の手本だ」と思い、ある時は「ミカド姉さんなんて娼婦みたいなものだ」と思います。その二つの思いは、たぶん、私にとっては同じように真実なのです。

それから、私は、多くの人間を他者だと思い、遠くから眺めるだけです。その距離感の描写も秀逸ではないか、と感じました。

第42回文藝賞受賞作。


読んだ本
青山七恵『窓の灯』
★★★★★

著者:  アントニー・バークリー
出版社: 東京創元社

  スコットランド・ヤードのモレスビー首席警部は、ロジャー・シェリンガムが率いる犯罪研究会に未解決事件の報告を持ち込みます。同研究会の者達は事件解決を目指し、推理合戦を繰り広げるのですが、7通りの暫定的な答えが出され・・・

  「多重解決」を目指した実験的なミステリ小説。

  期待していたものとは違ったので、最初は少し戸惑いました。あまりパッとしないし、扱う事件自体が地味(というか単純)なので、たらたらとした説明に疲れてしまうのです。だけど、2つ目の推理が終わった辺りから、面白くなってきます。名作といわれるだけのことはある、と感じました。

  海外の小説は、登場人物の名前が覚えにくいところが難点。しかし、それを堪えてでも読むだけの面白さはあったなぁ、と僕は感じました。

  最終的に、最も正しい(と思われる)答えを出すのは、おどおどした探偵・アンブローズ・チタウィックです。彼の挙動が面白いです。

  「本格推理小説は論理的」とよく言われますが、それはたいていの場合嘘だという作中のミステリ作家による指摘は面白いです。作者アントニー・バークリーは、ミステリというものをおちょくっているようです。だけど、それでいて彼がミステリというものを深く愛しているのだということも伝わってきます。けっこう味わい深いミステリ小説です。


自森人読書 毒入りチョコレート事件
★★★★★

著者:  ダン・シモンズ
出版社: 早川書房

  西暦28世紀、人類は多数の惑星にまたがる国家、連邦を形作っていました。しかし、辺境の惑星ハイペリオン目掛けて連邦に服さないアウスターが侵攻を開始。そんな中、7人の巡礼者が別々の目的を抱き、ともに<時間の墓標>を目指すのですが、ハイペリオンの<時間の墓標>が開き始め、中からは殺戮者シュライクが現れ・・・

  2段組み524ページ。枠物語の構成になっています。6人の人間が、各々の物語を語り始めます。ようするに多彩な物語が6つ収められているわけです。それぞれ『司祭の物語:神の名を叫んだ男』、『兵士の物語:戦場の恋人』、『詩人の物語:『ハイペリオンの歌』』、『学者の物語:忘却の川の水は苦く』、『探偵の物語:ロング・グッパイ』、『領事の物語:思い出のシリ』です。

  ダン・シモンズは、SF小説の集大成として『ハイペリオン』を書いたみたいです。呆れるけど、凄いなぁと感じました。ただし、文章は少ししつこいし、物語自体も長ったらしいので、分かりやすい代わりに少し疲れます。休みのときに読まないと目がちかちかして倒れるかも知れません。

  しかしやっぱり面白い。とくに『学者の物語:忘却の川の水は苦く』はジーンときます。若返っていく娘を抱き、苦悩する父の姿が痛々しいです。

  というか、ここまで書ききるということに感心します。

  物語は非常に面白いのだけど完結せず、途中で終わってしまいます。『ハイペリオン』は、ハイペリオン4部作の第1巻に過ぎないからです。物語は『ハイペリオンの没落』へと続いていきます。これからまたまた分厚いのをまた読まねばならないのかと思うと溜息が漏れます・・・

  1990年ヒューゴー賞、ローカス賞受賞作。1995年第26回星雲賞海外長編賞受賞作。


自森人読書 ハイペリオン


著者:  ロバート・A・ハインライン
出版社: 早川書房(福島正実)

  物語の舞台は1970年のロサンゼルス。主人公ダンは家事用ロボット「文化女中器」を発明し、それを大ブレークさせます。その上、美しい恋人ベルまで得て、楽しい人生を送っていました。しかし、あることをきっかけにして共同経営者マイルズと恋人ベルに裏切られ、会社から追放されます。希望を失ったダンは愛猫ピートとともに30年間の冷凍睡眠につくことを決意しますが・・・

  タイムトラベルを扱ったSF小説。

  2000年の世界の様子も描写されます。今となっては「2000年の世界」が過去のことになってしまい、様々な矛盾が生まれてしまいました。けど、現実の世界と、ロバート・A・ハインラインらSF作家が思い描いていた世界を比較してみるのはけっこう面白いです。

  ただし、微妙な点も多い気がします。登場人物が類型的なのです。そして、主人公ダンに敵対する人間はみんな「悪い奴ら」だと発覚していきます。なんと都合の良いストーリー・・・

  ダンと相思相愛になるのは、天使みたいに優しい幼女。ダンを裏切るのは追い詰められると半狂乱になる悪女。根底には「そもそも女性と言うものは悪辣で、ヒステリックな傾向がある」という偏見がある気がします。だから成熟していない(女になりきっていない)子どもに手を出す、のではないか。どう考えても差別的、というか変態的じゃないかなぁ。

  しかも、最後には中年男が10歳くらい年下の女の子と結ばれ、ハッピーエンド。もう男側にとって都合の良すぎるストーリー。『夏への扉』が「古典的名作」としていつもSFベストランキング上位に推されているのはどういうことなのか。そういうランキングに参加している人たちは男ばかりなのか。もっと良い作品が他にあるだろうに・・・

  まぁ少女と猫とタイムスリップを巧みに組み合わせたところがみごとなのかも知れません。あざといけど。


自森人読書 夏への扉
『昔、火星のあった場所』
二つの会社は火星へ行こうとして『門』を使いましたが、そのために火星が分解してしまったようです。物語の舞台はそのような空間。世界では、人間とタヌキが争っているようです。二つの会社が火星を取り戻すため様々なことを行います。その一方に属しているぼくは、ある任務を負わされるのですが・・・

不思議な小説。

ゆらゆらしています。文章は平易です。そして、生活の描写などは現実に即しています。だから、容易に受け取ることができます。しかし、よく分からない状態というものが背景にあるので、よくわからなくなります。

各章のタイトルは、魅力的。「桃太郎起動」「カチカチ山駅跡地」「猿蟹合戦終結」という感じです。

設定は、SF的ということができます。化かされているようです。示される断片の意味を考えてしまいます。しかし、なんというか、読み進めていくことが楽しいです。

北野勇作の小説はいつでも変わらないようです。

なんとなく、高橋源一郎を思い浮かべてしまいました。そういえば、この『昔、火星のあった場所』が受賞した頃、日本ファンタジーノベル大賞の選考委員の中には、高橋源一郎がいたはずです。高橋源一郎的要素を含む小説家は文学の世界に結構生まれているのかも。

第4回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作。


読んだ本
北野勇作『昔、火星のあった場所』
450ダウン・ツ・ヘヴン
★★ 森博嗣

449新・世界の七不思議
★★★ 鯨統一郎

448のぼうの城
★★★ 和田竜

447ベストセラー本ゲーム化会議
★★★ 麻野一哉、米光一成、飯田和敏

446虐殺器官
★★★★★ 伊藤計劃
★★

著者:  森博嗣
出版社: 中央公論新社

  草薙水素は今日も空を飛びます。それが楽しいからです。そんなある日、負傷して病院に送られ、出撃できなくなってしまい、少年カンナミと出会います・・・

  「スカイ・クロラ」シリーズ第3巻。時系列的には『ナ・バ・テア』の続き。2巻目。

  爽やかで空虚な雰囲気は面白いのですが、読んでいるとじょじょに飽きてきます。どれもこれも、同じはなしに思えてくるのです。イメージ的には金太郎飴みたいな感じ。

  その上、今回は少し暗くて開放的な雰囲気に欠けます。多分、草薙が空を飛べず地上に張り付けられているからだと思います。前作までの気持ちよく浮き上がる感じがありません。

  もしかしたら、大人の汚さが明確になってくるから暗い印象を受けるのかも知れません。キルドレ(死んでも蘇る少年少女)を取材している記者・杣中が登場し、様々なことを語るため、地上のドロドロが少しだけ分かってきます。平和を保つために用意された「見世物」としての戦争を続行するために、政府や企業はキルドレを利用しているようなのです。

  しかし、結局物語はティーチャとの闘いに収斂していきます。草薙は社会システムに目を向けることはないし、問題の根本的な解決が図られることはありません・・・

  もうなんとなく面倒だけど、続きは読みたいなぁ、と思います。


自森人読書 ダウン・ツ・ヘヴン
★★★

著者:  鯨統一郎
出版社: 東京創元社

  アトランティス大陸、ストーンヘンジ、ピラミッド、ノアの方舟、始皇帝、ナスカの地上絵、モアイ像の謎が「解明」されます。

  『邪馬台国はどこですか?』の姉妹編というか続編。トンデモ歴史ミステリ。

  またまた宮田さんがとんでもない方向へ強引に議論を引っ張っていくところは非常に楽しいのですが、前作よりはパワーダウンしたような気がします。けっこうオチで平凡というか予想の範囲内なのです。もう少しドッカーンと滅茶苦茶な結論を出して欲しかった・・・

  その上、今回はかなりハードルが高いです。多分、世界史を一通り知っている人しか楽しめないだろうなぁ、と感じます。始皇帝は暴虐な悪い人だという通説を知った上で読まないといけません。そうでないとあまり理解できない。

  しかし、一読の価値はあると僕は思います。やはり面白いからです。阿呆の極地とも言うべき、最後のこじつけには茫然とさせられます。トンデモ国粋主義者が飛びつきそうな結論が出されます。いやー、トンデモ理論というものは案外簡単に生み出せるのだなぁ、と思いました。

  そういえば、鯨統一郎の小説を真面目に批判している人がいますが、真面目な批判なんて全く意味がないと僕は思います。鯨統一郎の小説はこういう強引でひねくれていてバカな小説なんだから、それを批判してもしかたない・・・


自森人読書 新・世界の七不思議
★★★

著者:  和田竜
出版社: 小学館

  「でくのぼう」として皆から馬鹿扱いされる大男、成田長親が主人公。彼は忍城城主の一族。農民とともに田んぼへ繰り出したりもするのですが、全く役に立たないため結果として馬鹿にされてしまいます。そんなふうにして呑気に過ごしていると、成田家の仕える北条家が天下統一を目指す豊臣秀吉と敵対したため、忍城は2万の豊臣軍の大軍勢に包囲されてしまいます。成田長親と幼馴染の家老・正木丹波守利英、荒々しい巨漢・柴崎和泉守、毘沙門天の生まれ変わりを自称する美青年・酒巻靱負らは石田三成と戦うことに・・・

  歴史小説。

  いかにもコミック的。あっさりと読めてしまうし、物凄く分かりやすいです。別に嫌いではないのですが、登場するキャラクターたちがあまりにもありきたり過ぎないだろうか、と感じてしまいました。「ダメダメなのに実は凄いものを秘めている」という主人公の設定からして普通過ぎるし、いかにも悪役らしい悪役が登場するところにも興醒めでした。

  そういえば、人間は皆好きなように自分の論理で生きているわけですが、そこらへんの描き方が巧いような気がします。ただし浅いような気がします。さくっと書くことによってすがすがしさが漂っているところは悪くないのかも知れないのだけど。

  まぁ『のぼうの城』から、新しい歴史小説の流れが生まれていくのかも知れない。楽しみではあります。

  2009年第6回本屋大賞ノミネート作(2位)。


自森人読書 のぼうの城
★★★

著者:  麻野一哉、米光一成、飯田和敏
出版社: 原書房

  ベストセラー本をゲームにしてしまい、そこからその本や物語のルールを見出そうという企画。麻野一哉、米光一成、飯田和敏がべらべらと喋ったものが、そのまま収録されています。

  今回は、『世界がもし100人の村だったら』/『愛のひだりがわ』/『冷静と情熱のあいだ』/『煙か土か食い物』/『チーズはどこへ消えた?』&『バターはどこへ溶けた?』/『模倣犯』/『あらしのよるに』/『白い犬とワルツを』/『虹』/『新ゴーマニズム宣言SPECIAL戦争論2』/『PLATONIC SEX』/『新「親孝行」術』/『あらゆる場所に花束が…』/『痛快!憲法学』/『FOCUS』/『バトル・ロワイアル』のゲーム化が行われています。

  力が抜けます。けれど喋っている三人はなかなかに読書通なので(『世界がもし100人の村だったら』とか、『チーズはどこへ消えた?』とか、相田みつをとか、そこらへんをかるーくかるーく扱っていることからもそれがよく分かります)、なかなかに面白いです。舞城王太郎はダサイけど良い、というのには同感。やっぱり本読んでいるんだろうなぁ、と思わされます。

  けれど、もう少しだけ各々が好きな作品を明確にして欲しかったかなぁ。演出されたへらへらは愉快なのですがいまいちよく分からない。

  「ゲーム化会議」を全てに適用していったら面白いかも知れない。しかし、サブカルチャーの片隅まで知っている三人だからこそまとまっていないのにまとまっている面白い鼎談ができるわけで、普通の人が同じことをやっても全然面白くない気がします。


自森人読書 ベストセラー本ゲーム化会議
2011年本屋大賞ノミネート作

『悪の教典』貴志祐介(文藝春秋)
『錨を上げよ』百田尚樹(講談社)
『神様のカルテ2』夏川草介(小学館)
『キケン』有川浩(新潮社)
『叫びと祈り』梓崎優(東京創元社)
『シューマンの指』奥泉光(講談社)
『ストーリー・セラー』有川浩(新潮社)
『謎解きはディナーのあとで』東川篤哉(小学館)
『ふがいない僕は空を見た』窪美澄(新潮社)
『ペンギン・ハイウェイ』森見登美彦(角川書店)


本屋大賞ノミネートが発表されたので、本屋大賞を予想してみます・・・ 全然当たらないかもしれないけど。
消去法で考えていくのならば。まず、このミス1位になり、山田風太郎賞ももらっていて、十分に売れている『悪の教典』はまず、ない、はずです。それから、有川浩作品は2作はいっていて、票が分かれてしまうから大賞にはならないのではないか。

森見登美彦作品は、毎度2位、3位と微妙な地点。

新進作家が評価されるので、デビュー作『叫びと祈り』『ふがいない僕は空を見た』が本屋対象になる可能性が高いのではないか、と感じます。
★★★★★

著者:  伊藤計劃
出版社: 早川書房

  9.11テロ以降、テロとの戦いは激化していきます。先進諸国は厳格な個人情報認証を徹底化。個人の自由はほぼ消滅。そのような中でサラエボが核弾頭によってクレーターと化します。その瞬間、核爆弾を用いるのは許されざる行為であるという「縛り」は破壊されました。発展途上国では虐殺の嵐が吹き荒れます。米軍の特殊検索群i分遣隊(暗殺を実行する唯一の特殊部隊)に属すぼくはアメリカと「世界の正義」に邪魔な人間を次々と暗殺します。その対象として毎度登場するのが、謎の米国人ジョン・ポール。その男は虐殺のあるところには必ず現れます。ジョン・ポールとはいったい何者なのか。

  9.11テロ以後の世界を舞台にしたハードSF。

  様々なことを問う小説。「他人の命の上に成り立つ平和は平和といえるのか」というものが最も大きな問いかなぁと感じました。「戦争は啓蒙ではないか」といったかなりラディカルな視点も含まれていて興味深い。本当に考えさせられます。様々な小道具も魅力的(イルカ、鯨を殺し、彼らから取り出した筋肉が世界各地で機械に組み込まれている)。ハイテクの残酷さ、恐怖がきちりと示されています。

  伊藤計劃は、言語学、文学にも造詣が深いようです。散りばめられた様々な単語(カフカとか、罪と罰とか)には、にやりとさせられます。血に塗れながらも、うだうだと悩み続ける思索的な主人公はいかにも文学的。彼の先進国の人間らしい悩みには共感します。相対主義的な考え方に翻弄されつつどこへと向かうのか・・・

  ラストが予想できてしまったのだけど、それでもやはり面白い。少なくとも21世紀の日本SFの傑作とはいえます。もしかしたら「世界文学」級なのではないか。

  小松左京賞最終候補作。


自森人読書 虐殺器官
ウェブサイトhttp://jimoren.my.coocan.jp/
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