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自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
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予想
宮部みゆき『小暮写眞館』
有川浩『ストーリー・セラー』
朝井リョウ『桐島、部活やめるってよ』
貴志祐介『悪の教典』
奥泉光『シューマンの指』
綿矢りさ『勝手にふるえてろ』
中島京子『小さいおうち』
伊坂幸太郎『マリアビートル』
柴崎友香『寝ても覚めても』
森見登美彦『ペンギン・ハイウェイ』

■2011年本屋大賞ノミネート作
『悪の教典』貴志祐介(文藝春秋)◆
『錨を上げよ』百田尚樹(講談社)◇
『神様のカルテ2』夏川草介(小学館)×
『キケン』有川浩(新潮社)×
『叫びと祈り』梓崎優(東京創元社)◇
『シューマンの指』奥泉光(講談社)◆
『ストーリー・セラー』有川浩(新潮社)◆
『謎解きはディナーのあとで』東川篤哉(小学館)◇
『ふがいない僕は空を見た』窪美澄(新潮社)×
『ペンギン・ハイウェイ』森見登美彦(角川書店)◆


◆ ベスト10に入る
◇ ベスト10に入るかも
× ノーマーク・・・

これでは、全然だめだ・・・

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■2011年本屋大賞ノミネート作(五十音順)

『悪の教典』貴志祐介(文藝春秋)
『錨を上げよ』百田尚樹(講談社)
『神様のカルテ2』夏川草介(小学館)
『キケン』有川浩(新潮社)
『叫びと祈り』梓崎優(東京創元社)
『シューマンの指』奥泉光(講談社)
『ストーリー・セラー』有川浩(新潮社)
『謎解きはディナーのあとで』東川篤哉(小学館)
『ふがいない僕は空を見た』窪美澄(新潮社)
『ペンギン・ハイウェイ』森見登美彦(角川書店)
445明治断頭台
★★★★★ 山田風太郎

444現代日本の小説
★★★ 尾崎真理子

443必読書150
★★★★ 柄谷行人、浅田彰、岡崎乾二郎、奥泉光、島田雅彦、すが秀実、渡部直己

442あの夕陽
★★★ 日野啓三

441猫のぷいさんひげ日記
★★★★★ 八鍬真佐子
★★★★★

著者:  山田風太郎
出版社: 文芸春秋

  太政官弾正台の大巡察、香月経四郎と川路利良は様々な事件に遭遇します。香月経四郎は、異様な力を持つフランス人美女エスメラルダとともに事件を解決していきます。彼女は、死者の霊を呼ぶことが出来るのです。死者が語る「真実」とは・・・

  歴史ミステリ。ひねられた壮大な物理トリックはたまらない。

  連作短編集のような感じなのですが、最後の章『正義の政府はあり得るか』で全ての謎が回収されます。どんでん返しは本当に衝撃的。香月経四郎の壮烈さには驚かされます。

  太平洋戦争に影響されたらしい山田風太郎自身の歴史観が、はっきりと示されているところは非常に印象的。彼は、革命や戦争を美しいものとして書くことはありません。むしろその滑稽な部分や、グロテスクなところに目を向けます。綺麗な大義名分などに実はないとよく身をもって理解しているんだろうなぁ・・・ 明治ものシリーズも、忍法帖シリーズに劣らず面白いです。

  いろんな人がちょこっと登場するところも楽しいです。福沢諭吉を逞しくてしたたかでかなりの詭弁家として書いているところにはなるほどなぁと感じます。それに対し、勝海舟をくえない大物として書いているところには共感。内村鑑三が登場したときにはほー、と感心していました。西郷隆盛、江藤新平なども顔を見せます。その他にも多くの有名人が登場。それを確認していくだけでも楽しいです。

  山田風太郎「明治もの」シリーズの傑作。


自森人読書 明治断頭台
『カツラ美容室別室』
カツラ美容室別室には、カツラをかぶっている店長の桂孝蔵と、27歳のエリコと、24歳の桃井さんが勤めています。淳之介と梅田さんはその美容室に通い、髪を切ってもらいます。淳之介はエリコと仲良くなるのですが・・・

友情に関する小説。

引用したくなる、面白い表現が随所にあります。時々、細部が良いです。しかし、妙に慣れていない日本語も頻出します。脇が甘いのではないか、と感じないでもないです。

狙っている、と思われる部分が結構あります。「友情というのは、親密感とやきもちとエロと依存心をミキサーにかけて作るものだ。ドロリとしていて当然だ。」という一文などは悪くないです。しかし、テーマを自分から紹介する必要はないだろう、と思ってしまいます。

関係のなかにいるから人間は人間としてありえるのだという感覚が前面にあらわれています。たとえば、「他人と会わないでいたら、オレはゲル状になるだろう。」という一文などがあります。しかし、淳之介は人間に疲れてしまいます。

淳之介みたいな男は結構多いかも知れません。人間の描写が巧みです。

狙っているみたいなのに、そうではない部分に奇妙なユーモアがあります。山崎ナオコーラの小説は、なんというか、変な部分が良い、と感じました。その良さは言葉へにこだわりが生んでいるのではないか。


読んだ本
山崎ナオコーラ『カツラ美容室別室』
『浮世でランチ』
25歳のOL丸山君枝は、毎日、一人で昼食を食べていました。ある日、職場を離れて外国に旅立ちます。そして、アジアの国々を巡ります。丸山君枝の少女時代と、外国での日々が交互に綴られていきます。

薄い小説。

前作『人のセックスを笑うな』より断然、面白いです。時々、細部の表現が優れている、と感じました。しかし、普通な文章が多いから、作品として際立っているという感じはしないです。

しかし、山崎ナオコーラの文体が持っている普通な、少し冴えない感じは、適切なものなのかも知れない、と感じないでもないです。日常は、基本的に、冴えなくて、薄くて、なにげないもののはずです。その冴えない日常を冴えた文章に包み込んでしまったら、よく分からなくなります。

丸山君枝の感覚を描写している部分が、とくに良いです。丸山君枝は同質になることを求める集団に埋もれていくことを気持ち悪いと感じてしまい、コミュニケーションに苦しみます。その感じが、巧みに表現されています。丸山君枝は結構苦しみますが、関係性の中に人間はあるのだから人間から結局離れられません。

それから、キャラクター描写もすぐれています。周りにもこういう人がいる、と感じる人物が登場します。


読んだ本
山崎ナオコーラ『浮世でランチ』
『クチュクチュバーン』
吉村萬壱の短編集。『クチュクチュバーン』『人間離れ』収録。

『クチュクチュバーン』
進化の法則が崩れてしまったのか、宇宙が大混乱に陥ります。人間はメチャクチャになり、怪物が大量に出現して文明はほとんど崩壊。数十本の腕が生えてきてしまった蜘蛛女、ビルのように巨大な女、シマウマ男などがあらわれて殺し合います。第92回文学界新人賞受賞作。

『人間離れ』
『クチュクチュバーン』みたいな小説。

SF的奇想が詰め込まれています。

『クチュクチュバーン』は、人間性を歯牙にもかけない、根本的に異常な世界を描き出します。エログロナンセンス。気持ち悪い、という表現が適切ではないかと感じます。しかし、徹底的に突き抜けていくので、ある意味では痛快。

何の意味もない退廃的な世界が出現します。

楳図かずおのマンガを思い出しました。サブカルチャーの影響が随所に感じられます。とにかく、下劣を極める点が凄いです・・・

傑作ではないか、と感じました。


読んだ本
吉村萬壱『クチュクチュバーン』
吉村萬壱『人間離れ』
★★★

著者:  尾崎真理子
出版社: 筑摩書房

  1980年代以降の日本文学史をたどっていくことができます。非常に分かりやすいです。押さえておくべき作家の名がきちりきちりと押さえてあります。

  大江健三郎のノーベル賞受賞以前・以後を分け、以後の文学史についてを分析。よしもとばななと村上春樹を重視。とくに村上春樹には一章を割き、彼の遍歴を綴っています。それから、金原ひとみ、綿矢りさといった若手小説家がもたらした衝撃や、変容しつつある日本人の感性のことについても分析されています。

  「純文学」系の小説家たちのことはかなり詳細に掴むことができます。しかし、「純文学」系以外の小説家の説明にはけっこう間違いがあるし、扱いが悪い。尾崎真理子は、たとえば舞城王太郎をライトノベル作家の代表としてあげています。だけど、舞城王太郎よりも上遠野浩平や、谷川流などの方が代表的なライトノベル作家といわれているのではないか。

  舞城王太郎をライトノベル作家として扱うこと自体が多分、間違っています。いかにもラノベ系な雰囲気を漂わせているし、それらの流れを継いでいるけれど、元々は清涼院流水などを輩出したメフィスト賞から、すなわち異端的な新本格ブームからでてきた人です。

  もう少し純文学ではない作品にも目を向けてほしかった・・・ まぁ、「純文学」系や「文壇」を中心にしないとしかたないともいえます。ケータイ小説のことなどまで含めようとしたら、やっぱりおさまりがつかないだろうし。

  最後は少し走りすぎているような気もしました。一つ一つのことについて詳しく読みたい、と感じました。「70年代以降の小説は全てクズ」とか言い放つ人たちに比べて尾崎真理子は良心的ではないかと思います。ちゃんと読んでいるわけだから。ぜひ他の文芸評論も読んでみたいです。


自森人読書 現代日本の小説
★★★★

著者:  柄谷行人、浅田彰、岡崎乾二郎、奥泉光、島田雅彦、すが秀実、渡部直己
出版社: 太田出版

  編者達が、カノン(正典)だと思うものを列挙した本。反時代的なブックガイドを自称しています。かつての教養主義をある程度は好意的に捉え、まぁいかにも必読書として挙げられそうな作品をあえて挙げているわけです。プラトン、アリストテレスなどから始まります・・・

  「これらを読まなければサルである」と謳っていますが、虚仮威しにしか聞こえないです。ありきたりの名著一覧みたいな感じだし、解説文は全然面白くない。というか解説になってない。ぐちゃぐちゃしていて、自分たちはほとんど何も読めていないのだ、ということを高らかに自白しているような中身です。

  「中国の文学などには詳しくないので入れなかった」「これからアジアで考えていくべきですかね」とかそんなようなことを言って、アジアの文学には目もくれないところには疑問を感じます(唐詩選、阿Qくらいしか入っていない)。

  「1970年代以降の日本の小説は全部カス、終わってる」みたいな主張には反感を覚えます。全てを一緒くたにして論ずるということには無理があるのではないか。ある程度は理解できるのに、どうしても編者達の感覚がもう終わっているのでは、と反論したくなってしまいます。

  彼らは「日本の哲学/文学は退化しつつある」「終わっている」みたいなことをいつも言い張るけど、昔から文学を読む人や哲学をやっている人なんて少数派では? それにいつの時代にも「昔は良かった」論者はいるわけだし。まぁ、そう深刻になる必要はないのではないか。

  まぁ、あえて『必読書150』という本を出版し、風波をたてて煽る人たちは応援しないでもないのですが。


自森人読書 必読書150
★★★

著者:  日野啓三
出版社: 新潮社

  『あの夕陽』は日野啓三の短編集。『あの夕陽』『野の果て』『無人地帯』『対岸』『遠い陸橋』収録。

  『あの夕陽』
  ソウルから帰ってきた主人公の新聞記者は、ミス李なる朝鮮人のことを思っています。そして、自分に言いなりの妻と別れようとするのですが別れる気力すらわきあがってきません。そうして彼は、何も決断できぬまま銭湯へゆきます。芥川賞受賞作。

  『野の果て』
  主人公は、海鳴りの聞こえるあばら家のよう場所で生きているおばさんのもとを訪ねます。彼らは朝鮮から引き上げてきたという共通点があるため、何らかのつながりを感じているのですが・・・

  『無人地帯』
  韓国と北朝鮮の狭間にある非武装地帯に興味を持った記者は、そこへ赴き、教員の女性と出会い、そして輪郭のはっきりとしない彼女にひかれます。偶然トラックに置いていかれてしまい、学校で女性と夜をともに過ごすのですが・・・

  『対岸』
  街に疲れ、何もないきれいな対岸に渡りたいと願う男の物語。彼は仕事の中で時間を見つけ・・・

  『遠い陸橋』
  今度は息子が登場。『あの夕陽』の続編らしき作品。

  味わい深い作品ばかりです。エッセイのようでもあります。半分くらいは、著者自身の姿をそのまま写し取っているのではないか。淡白なのですが、主人公の虚無というか、気だるさが強く感じられます。男たちは皆、妙に自閉的。

  その背景にあるのは、かつての第二次世界大戦や、朝鮮戦争なのだけど、それらは妙にぼんやりとしています。全体像がはっきりしないのです。けど戦争というのは、そういうものなのかも知れない。かっちりと形を掴むというのは不可能な気がします。


自森人読書 あの夕陽
★★★★★

著者:  八鍬真佐子
出版社: 学陽書房

  『猫のぷいさんひげ日記』は、その名の通り猫のぷいさんの日記。

  ぷいさんの口癖は「プイプイ」というもの。ページをめくっていると愉快な気分になってきます。その日その日のご飯と寝床まで、しっかりと書いてあります。

  ぷいさんは人間とは少しずれたところから世界を眺め、記しています。とはいえ、何かを大仰に語りだすというわけではありません(ひげとしっぽの重要性については、熱く書いているけど)。基本的に、いつでもどこでも呑気にしているし、冷静です。だけど、その呑気さが良い味を出しているというか、いつもカッカしている人間とは大きく異なるのです。

  猫の悟り具合というのは尋常じゃないな、と思わされます。人間を超越している、のかも知れない。とか、猫狂的な感想はやめ、もう少し真面目に感想を書くと・・・

  著者の八鍬真佐子はどこまでもしっかりと猫を観察しているんだろうなぁ、と感じました。そうそうそうなんだ、という場面がたくさんあります。そうそう猫って新聞の上にわざわざのるし、何か箱とかあるとすぐに入るんだよなぁ。なんでだか分からないけど。

  猫って良いなぁ、と感じました。妙に優雅というかゆったりしていて、よく寝て、かと思いきや突然飛び跳ね、遊びだすんだよなぁ。読んでいるとそういう光景が目の前に浮かびます。『猫のぷいさんひげ日記』は、余すところなく(かどうかは断言できないかなぁ)、猫というものを活写した面白い本です。


自森人読書 猫のぷいさんひげ日記
『中国の五大小説〈下〉水滸伝・金瓶梅・紅楼夢』
『水滸伝』『金瓶梅』『紅楼夢』のことが、丁寧に紹介されています。作品のあらすじから、その作品のキモの部分、作品が書かれた時代背景、西洋作品との共通点・相違点まで、書き込まれているので、その作品を把握することができます。

中国小説の入門書。

『水滸伝』『金瓶梅』は知っていました。『水滸伝』は以前、端から端まで読んだこともあります。しかし、『紅楼夢』には触れたことがなかったので、『紅楼夢』のあらすじを読み、驚きました。

『紅楼夢』の主人公は貴公子・賈宝玉と、賈宝玉の幼馴染の少女・林黛玉。賈宝玉は、数十人の美少女に囲まれながら遊び暮らすだけ。科挙を無視して、男性が権勢をふるう社会に行こうとはしません。そして、少女こそが、清らかなモノであると言い放つこともあるそうです。少女崇拝です。

『紅楼夢』は、現代につながる作品なのではないかと感じました。現在の日本を髣髴とさせます(その当の作品を読まないうちから判断するのは、よくないと思いますが・・・)。

昨今、日本社会には、個性を持つ特定の少女ではなく、少女というイメージそのものに対する崇拝・欲望があふれているのではないか、と思います。世界にも、少女に聖性を見出して特別視する文化はあります。しかし、たぶん、露骨に「少女」をあぶりだして、すがりつく(ことが許されている)のは、日本だけです。中でも、とくに、「少女」というものに拘泥しているのが、いわゆるオタク文化です。

オタク文化は日本の文化の極端な部分であるといわれることがあるようです。しかし、もしかしたら、そのルーツは『紅楼夢』なのかも知れない、と『中国の五大小説〈下〉』を読み、感じました。そういう角度から『紅楼夢』を読んだら面白いかも知れません。

各々の作品を、しっかりと読んでみたいと思います。どの作品も非常に長大ですが・・・


読んだ本
井波律子『中国の五大小説〈下〉水滸伝・金瓶梅・紅楼夢』
『イッツ・オンリー・トーク』
絲山秋子の短編集。『イッツ・オンリー・トーク』『第七障害』収録。

『イッツ・オンリー・トーク』
橘優子は精神病を患い、会社を辞めて、貯金を切り崩しながら暮らすうちに、画家になりました。ある時、なんとなく、蒲田に引っ越します。彼女は、EDの議員、鬱病のヤクザ、痴漢、いとこの居候に囲まれながら、毎日を過ごすのですが。著者のデビュー作。第96回文學界新人賞受賞・第129回芥川賞候補作。

『第七障害』
順子は乗馬を愛していました。しかし、障害を乗り越えようとした時、馬が脚を折ってしまいました。そして、その馬は安楽死させられてしまいます。順子は「私が馬を殺したんだ」と感じて乗馬をやめてしまうのですが・・・

非常に巧みであるということができます。サラリとしているのに、全体はよく計算されています。しかし、巧さが各所に覗いているため、微妙にわざとらしい、気もします。

『イッツ・オンリー・トーク』のテーマは、たぶん、関係です。人間同士の関係が非常に薄い気がするのですが、その薄さは意識的につくられたもののようです。実はそこまで薄くないのかも知れない、と感じます。

隣り合うことはできても、分かり合うことはできないという諦観は現代的です。しかし、それでも、人間は、ガラクタのような人間の中にいなくては人間になることはできません。他者からの承認が、人間を支えるのです。だから、結局人間は人間の中に戻っていきます。

『イッツ・オンリー・トーク』は、社会からはずれた者たちの場所を描き出します。しかし、はずれた者たちは珍しくありません。そういう人間が社会の大部分を占めているのではないか、と感じます。


読んだ本
絲山秋子『イッツ・オンリー・トーク』
440人類は衰退しました
★★★ 田中ロミオ

439猛スピードで母は
★★★ 長嶋有

438蹴りたい田中
★★★★ 田中啓文

437銃とチョコレート
★★★ 乙一

436永遠の森-博物館惑星
★★★★ 菅浩江
★★★

著者:  田中ロミオ
出版社: 小学館

  人類が衰退して数世紀がたちました。人類最後の学校を卒業し、調停官となった旧人類の少女は、新人類の「妖精さん」と交流するために地面にこんぺいとうを埋めます。1回目は失敗したものの、次の時にはとぼけた「妖精さん」たちがわらわらと現れ・・・

  SF小説。ガガガ文庫。

  著者の田中ロミオは、美少女ゲームのシナリオライターだそうです。名前からしてちょっとふざけていますが、中身も非常にゆるいです。けど、真面目に生物の進化のことを扱ってもいるので、ちょっとアンバランスな感じです。そこが良いのかも知れない。

  でも僕はいまいちだなぁ、と感じてしまいました。読んでいるとむず痒くなってきます。

  全体的に脱力しきっているゆるいところは悪くなくてむしろ面白いんだけど、何もかもが気持ち悪いほど類型的/ありきたりなのです。主人公(恥ずかしがり屋ののっぽさん)や彼女の語り口(ですます調)や、舌足らずで要領を得ない「妖精さん」たち、少しメルヘンチックな世界まで全てがいかにもありきたり。もうこのまま、すぐアニメになりそうです。

  あえて、小説として読む価値があるのかなぁ、と感じてしまいました。ある意味では生真面目なSFそのものなのだけど、基本的な設定はまるで流行のアニメのよう。もう少し、真新しい何かがあったならば凄いと思えただろうけどそれもないし。

  もしかして、この軽さは新しいものなのだろうか。気の抜ける小説。


自森人読書 人類は衰退しました
★★★

著者:  長嶋有
出版社: 文藝春秋

  短編集。『サイドカーに犬』『猛スピードで母は』収録。

  『サイドカーに犬』
  薫は弟と語らううちに、母が家出し、父の友人や愛人が出入りした小学4年生の夏休みのことを思い出します。そして自分にも何かが訪れるのではないか、と言う予感を抱くのですが。第92回文學界新人賞受賞作。映画化されているそうです。

  『猛スピードで母は』
  小学生5年生の慎は母親とともに北海道での日々を過ごしていました。そんなある日、母が再婚という言葉を口にします。芥川賞受賞作。

  けっこうソフトです。

  長嶋有は最近の作家らしく、非常に軽い作風なのだなぁと感じました。しかし一場面一場面に目を向けるとけっこう深いものがあります。子ども時代のことを懐古するときの寂しいような感情が伝わってきます。ムーギチョコとムギーチョコが印象に残りました。

  車が物語を読み解くキーだというようなことを斎藤美奈子が書いていたけど、どういうことだろう。車で運ばれる(飼われている気がする)ということに快感を感じるのはなぜなのだろう。う~ん、何もしていない状況に溺れていることが楽しいということだろうか。いまいち分からない。単なる移動手段というわけではない気はするけど。


自森人読書 猛スピードで母は
★★★★

著者:  田中啓文
出版社: 早川書房

  田中啓文のバカSF短編集。『未到の明日に向かって』『地球最大の決戦 終末怪獣エビラビラ登場』『トリフィドの日』『トリフィド時代』『やまだ道 耶麻霊サキの青春』『赤い家』『地獄八景獣人戯』『地獄八景獣人戯』『蹴りたい田中』『吐仏花ン惑星 永遠の森田健作』収録。

  『未到の明日に向かって』
  『蹴りたい田中』で茶川賞を受賞した後の田中啓文へのインタビュー(綿谷りさ『蹴りたい背中』の芥川賞受賞そのものに関してのパロディ)。田中啓文の自己紹介的な感じ。

  『地球最大の決戦 終末怪獣エビラビラ登場』
  いやー、なんというか凄い・・・ ウルトラマンのエログロナンセンスなパロディ。

  『トリフィドの日』『トリフィド時代』
  キノコが喋りだし、世界征服を目指します。またまたバカバカしいはなし。ジョン・ウィンダムの同名小説のパロディだそうです。

  『やまだ道 耶麻霊サキの青春』
  山田正紀作品への思いが語られます。内宇宙的なオチ。

  『赤い家』
  蚊の私立探偵が主人公。彼女が人間の警察官の男とペアを組み、殺人事件と殺蚊事件を解決します。もうだめだ・・・

  『地獄八景獣人戯』
  水戸黄門のパロディ。もう何と言うか何が混じっているのかすらよく分からないです。汚い作品。

  『蹴りたい田中』
  なんと、『蹴りたい背中』とはまったく関係ないです。敗戦間近の日本軍は大和魂で戦艦・和紀を動かそうとします、というはなし。インパクトはありますが、もうどうしようもない。なんといえば良いのか。

  『怨臭の彼方に』
  不老不死を手に入れる代わりに世界を滅亡させるほどの悪臭をまとってしまった美男の物語。

  『吐仏花ン惑星 永遠の森田健作』
  菅浩江『永遠の森 博物館惑星』のパロディかと思いきや、それは名前だけで・・・ 森田健作がおかしすぎ。笑うしかない。

  笑うしかない。けど笑えないほどくだらない場合もあります。呆れるしかない。地口(駄洒落)だらけで、オチまで地口だらけです。真面目に読んでも何も得られないかも知れません。しかし、意外といろんなものを取り込んでいます。もう少しマシな方向にその知識を活かせば、まともな傑作になりそうなのに・・・


自森人読書 蹴りたい田中
★★★

著者:  乙一
出版社: 講談社

  怪盗は、富豪の家から次々といろいろな財宝を盗んでいきました。現場に残されていたカードには、【GODIVA】と書かれていたため、怪盗はゴディバと名付けられました。それを追うのは探偵ロイズ。彼はその国の子ども達のヒーローです。寂れた町に住むリンツもロイズに憧れている少年の一人でした。彼は父に買って貰った聖書に挟まっていた紙を見て、どきりとします。それには風車小屋の絵がかかれており、ゴディバの残したものだと思われたからです。彼は探偵ロイズに手紙を送ります・・・

  乙一らしい作品。

  平山夢明の『独白するユニバーサル横メルカトル』に収録されている作品群と近い雰囲気がします。陰惨な世界が描かれています。ヒーロー探偵ロイズは、ヒーローではないし、勧善懲悪の物語にはなりません。善も悪も混じりあっているわけです。

  移民である主人公リンツへの差別が印象に残ります。しかし、そういう重いテーマが扱われているのですが、どこか童話的な静かさが作品全体に立ち込めています。そこらへんが乙一らしさなのかなぁ、という気がします。

  暗い物語だけど、救いがないわけではありません。最後には、妙に明るい気分になります。けっしてハッピーエンドとはいえないと思うんだけど、世の中捨てたものではないな、と思わされます。その辺りも巧みです。

  講談社ミステリーランド。ひらがな、カタカナがやたらと多くて、その上文字が大きいのでとても読みやすいです。


自森人読書 銃とチョコレート
★★★★

著者:  菅浩江
出版社: 早川書房

  『永遠の森―博物館惑星』は連作短編集。『天上の調べ聞きうる者』『この子はだあれ』『夏衣の雪』『享ける手の形』『抱擁』『永遠の森』『嘘つきな人魚』『きらきら星』『ラヴ・ソング』収録。

  小さな惑星に究極の美というものを追求するべく、古今東西のあらゆる美術品を集める巨大博物館「アフロディーテ」がつくられました。しかし、そこには平穏はありませんでした。音楽・舞台・文芸部門「ミューズ」、絵画・工芸部門「アテナ」、動・植物部門「デメテル」が美術品を巡って争うからです。そして、総合管轄部署「アポロン」の田代孝弘はいつでも面倒な調停を任され、四苦八苦することに・・・

  ほんわかと温かいSF小説。

  「直接接続」というものが登場します。頭の中で物を思い浮かべるだけで、類似した物が次々と表示されるという便利な装置。使ってみたいなぁ、と感じました。

  『この子はだあれ』が一番面白かったです。うわーと感じました。田代孝弘は、研究家の夫婦に頼まれ、素人造りらしい不思議な人形を預かってそれが何なのか探っていくのですが・・・

  最後の『ラヴ・ソング』で、伏線が綺麗に収まっていきます。最初から全て考えていたのかなぁ。だとしたら、凄すぎるけど多分考えていたとしか思えません。その他の短編もそれぞれきちりと整っています。奇想天外な謎解き小説でもあります。

  第54回日本推理作家協会賞、星雲賞受賞作。


自森人読書 永遠の森-博物館惑星
435ウロボロスの波動
★★★ 林譲治

434MISSING
★★ 本多孝好

433本の本―書評集1994-2007
★★★★ 斎藤美奈子

432差別と日本人
★★★★ 辛淑玉 野中広務

431タウ・ゼロ
★★ ポール・アンダースン
★★★

著者:  林譲治
出版社: 早川書房

  『ウロボロスの波動』は、林譲治の連作短編集。22世紀頃の宇宙を舞台にした近未来ハードSF。全ての作品は同じ世界を舞台にしていますが、背景の時代は異なります。

  『ウロボロスの波動』 2123年
  降着円盤開発計画を推し進めるAADDは、ブラックホール・カーリーを中心にして半径2025kmの環状構造物ウロボロスを開発しました。計画は順調に進んでいました。しかし、ある博士がプログラムをいじったことから事故が発生し、博士が死亡。キャサリンはその事件を解決しようとするのですが、ウロボロスが勝手に動き出し・・・

  『小惑星ラプシヌプルクルの謎』 2123年
  小惑星ラプシヌプルクルの表面にマイクロ波受信アンテナを設置したAADD。しかし、突如として惑星が回転を開始し、アンテナが故障。危機管理部門ガーディアンがその事故を調査することに。

  『ヒドラ氷穴』 2145
  年地球人のテロリスト・ラミアは、AADD総裁・落合哲也の暗殺を計画します。ガーディアンはそれを阻止しようとするのですが・・・

  『エウロパの龍』 2149年
  木星の衛星エウロパの海へ赴き、生物がいるかどうか探索していた潜水艇ソードフィッシュが、「龍に呑み込まれる」という言葉を残して連絡を絶ちます。そのため、さらに潜水艇<コバンザメ>が送られます。

  『エインガナの声』2163年
  AADDのシャンタク二世号は矮小銀河エインガナの調査を行っていました。ですが、突如として通信機能が乱れ、内部ではAADDの人間と地球の人間が対立し・・・・

  『キャリバンの翼』2146~2171年
  天才少女アグネス博士は、ブラックホール・カーリーにナノマシン投入実験を行います。そしてブラックホールが生物ではないか、という推測を行うのですが。『ヒドラ氷穴』に登場したテロリスト紫怨(ラミア)などが再登場。全編をまとめる作品。

  「知的生命体」とは何なのか。何をもって、知的とするのか。考えさせられました。しかし、やたらと長い説明を読んでいると面倒になってきます。最後になるにつれて飽きてきました。『小惑星ラプシヌプルクルの謎』などはとても面白かったですが。


自森人読書 ウロボロスの波動
★★

著者:  本多孝好
出版社: 双葉社

  『MISSING』は本多孝好のデビュー短編集。『眠りの海』『祈灯』『蝉の証』『瑠璃』『彼の棲む場所』収録。

  『眠りの海』
  崖から飛び降りようとして失敗し、少年に助けられた高校教師。彼は、教え子と惹かれあうものの周囲から糾弾され、自動車事故を起こして彼女を殺してしまったことを語りだします・・・ 小説推理新人賞受賞作。ミステリ色が強い作品。

  『祈灯』
  妹の友達に不思議な女の子がいます。彼女は、かつて事故で妹を失ってから、自分は妹だと思い込み、そのように振舞っていました。なぜ彼女はそんなふうになってしまったのか・・・?

  『蝉の証』
  僕は、老人ホームにいる祖母を見舞いました。相川という老人のところに現れたという若い男のことを調査することになります。収録されているものの中で最も恥ずかしい短編だなぁと感じました。会話も何もかもわざとらしすぎて、少し気持ち悪くないか。

  『瑠璃』
  僕は、従姉のルコに憧れていました。家族が旅行でいない間、彼女との楽しい日々を過ごし、さらに焦がれるのですが。切ない物語。

  『彼の棲む場所』
  マスコミで大活躍している良識派の人物の心の中には恐ろしく暗い感情がわだかまっていました、というはなし。かなり怖いです。

  後半になるにしたがってじょじょにミステリ色が薄くなっていきます。恥ずかしいほどの青臭さと爽やかさと人間の心の暗部をえぐるようなグロテスクさが同居しています。村上春樹の不思議さをとりのぞき、もう少し口当たりをよくしたような感じ。最初のうちは面白かったんだけどなぁ・・・


自森人読書 MISSING
『肝心の子供』
ブッダ、束縛という名の息子ラーフラ、孫のティッサ・メッテイヤの物語。ブッダは夫となり、子供を得ることで変化します。何らかの悟りではなく、子供というものが最終的には出奔を招くのです。ラーフラは幼い頃から、驚異的な記憶力に苦しめられてしまいます。そして、やはり出奔してしまい、性欲に負けて女を抱き、息子ティッサ・メッテイヤを得ます。

小説。

非常に、薄いです。しかし、その中に、多くのエピソードが詰め込まれています。一つ一つが魅力的。多くのテーマを発掘していくことができます。物語がもつ無限の可能性を孕んでいるということができるかも知れません。

時間がするする、さらさら流れていくので、三代のことを綴ることができています。その流れが妙に良いです。

日本語としては関節が外れているようになっていて、妙に慣れません。表現としても微妙な部分も少なくありません。しかし、その文体が、逆に面白みを生んでいるということもできます。この物語の流れにあっている気がします。

確かに面白いです。しかし、褒められすぎなのではないか、と感じないでもないです。長さは操作できるのです。そして、奔流ということはできないものを短く書くことは容易です。

しかし、前途は有望といえます。


読んだ本
磯崎憲一郎『肝心の子供』
★★★★

著者:  斎藤美奈子
出版社: 筑摩書房

  怒涛の738ページ(約5センチ)。延々と書評が続きます。しかし、飽きません。サクサクしていて、読みやすいです。斎藤美奈子は本当に凄い人だと思いました。

  「小説と随筆の本」「文芸評論と日本語の本」「本のある生活」「社会評論と歴史の本」「文化と趣味の本」に分かれていますが、どこから読んでも大丈夫な感じです。どれも面白い。僕は「小説と随筆の本」が一番読んでいて楽しかったです。

  笙野頼子の本をもっと読まなきゃ、と思いました。あとは、姫野カオルコ、石黒達昌、野中柊、田口ランディ、三浦俊彦といった人たちの作品も読んでみたいです。書評の本を読むと、読みたい本がどんどん増えて大変です・・・

  斎藤美奈子は「フェミニズム系の批評家」と言われています。確かにその系統の批評家につながる人なのだろうけど、彼女はフェミニズムのだめな部分もきちりと指摘してみせます。さすがです。そして、「右にも左にも疑問を覚える」と書くようなさめた視点を保持しつつ、実はかなり反権力的なところも格好良いです。まぁフェミニズムの人だから、なのかなぁ。

  読後、大森望・豊崎由美の『文学賞メッタ斬り!』などの方がもっと気軽で、バンバン批判がでてきて面白かったなぁ、と思ってしまいました。斎藤美奈子の方が少し上品、ということか。家に1冊ズデンと置いておきたいけど、絶品かどうかは疑問。


自森人読書 本の本―書評集1994-2007
芥川賞・直木賞が決まりました。

「日本文学振興会は17日、「第144回芥川賞・直木賞(平成22年度下半期)」の選考会を都内で開き、芥川賞に朝吹真理子さん(26)の『きことわ』と西村賢太さん(43)の『苦役列車』、直木賞に木内昇さん(43)の『漂砂のうたう』と道尾秀介さんの『月と蟹』を選出した」そうです。

道尾秀介の作品が受賞できるとは思っていなかった・・・

本屋大賞はどうなるだろう・・・
ウェブサイトhttp://jimoren.my.coocan.jp/
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