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自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
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映画『レッドクリフ』をみていました。
三国志演義のクライマックス、赤壁の戦いを映画化したもの。面白かったです。
三国志演義との違いを考えながら見てしまいました・・・

そういえば、自由の森学園に通うのは、あと二週間程度になりました。なんというか、信じられない気がしないでもないです・・・
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★★★★

著者:  辛淑玉 野中広務
出版社: 角川グループパブリッシング

  在日として差別を受けてきた辛淑玉と、部落差別を受けてきた政治家・野中広務の対談。全体的には、辛淑玉が取材する側のような感じ。日本における差別の問題をこれからどう考えていけば良いのか、と迷うとき、参考になりそうです。

  新書だから読みやすいけど、中身は重いです。

  辛淑玉も、野中広務も格好良いです。2人は別々の位置に立っているけれど、差別はなくすべき、という点においては一致してることが読んでいて分かります。

  とくに、ハンセン病のことは印象に残りました。野中広務が、ハンセン病患者の人たちを後押ししていた、と初めて知りました。しかも政界のいろいろなしがらみまで推し量り、自分から小泉首相に言うのではなくて遠まわしに援護していたのか。凄い・・・

  ただし、野中広務という人の全貌は掴めないような気がしました。まだまだいえないことをたくさん抱えていそう。

  辛淑玉の「差別される者の痛みは差別される者にしか分からない」的な立場についてはどう受け止めれば良いのか考えてしまいました。言わんとしていることは理解できるけど、そういわれてしまってはどうすれば良いのか分からない。けど、安易に「痛みを分かって」というよりはよほど素直だし、まっとうなのかも知れない。結局、言っても分かってくれないのだから。でも、そのような挑発的な言動は反発を生むだろうなぁ、正しいからこそ。


自森人読書 差別と日本人
★★

著者:  ポール・アンダースン
出版社: 東京創元社

  核戦争後、世界はスウェーデンを中心にして再興を果たしました。人類は、飛躍的な科学の進歩にも助けられ、様々な惑星に人間を派遣しました。そして人類が住めるかどうか確かめようとしたのです。しかし、なかなか人間の移住可能な地は見つかりませんでした。そんな中、乙女座ベータ星を目指して50人の男女を乗せたレオノーラ・クリスティーネ号は地球を出発します。彼らは順調に旅していきます。しかし、途中で事故が発生し、減速装置が破壊されてしまいます。レオノーラ・クリスティーネ号は止まることができず、どんどん加速していき、何億年もの時間が過ぎ去り・・・

  アメリカのSF小説。

  いかにもSFらしい作品。壮大な法螺をきちりと描き出していくところが非常に面白かったです。しかし、何もかもが都合よくいきすぎだろう、と思ってしまいました。極限状況では、自殺者が出ない方がおかしいのではないか。

  閉鎖的な船内で繰り広げられる愛憎劇は熾烈です。そういえば、船内はフリーセックス状態なのですが、やっぱりそういう面は書かれた時代(『タウ・ゼロ』の場合は1970年代)に影響されるのかなぁ、と感じました。昔は、未来そのような状態になると思っていたのかなぁ、SF作家は。

  それにしても狭い空間においては、独裁が最も効率が良いのか。分からないけど、それの悪い点、破綻が書かれないところなどは妙に甘い気がします。

  長大でなく、読みやすい点は良かったです。よくできた、正統的なSF小説。


自森人読書 タウ・ゼロ
『中国文学を学ぶ人のために』
著者たちは、中国文学を総合的に考察していこうとします。「第1章 中国文学の性質」「第2章 詩文」「第3章 文学評論―「読むこと」を中心にして」「第4章 詞」「第5章 戯曲」「第6章 小説」「第7章 文学と書画」「第8章 古典文学と現代文学」から構成されています。

多くの情報が圧縮されています。しかし、よく整理されているので迷うことはありません。

読んでいると、中国では、詩文が文学の中でもとくに高等なものとみなされていたということが分かります。だから、中国文学を語る時、まず欠かせないのは詩文です。とくに唐代の李白と杜甫が最高と言われます。

しかし、詩文の他に、多くの文学も生まれました。戯曲の発展についてつづられている部分は面白かったです。戯曲というものが中国でも隆盛だった時期があったということを全く知りませんでした。

それから、小説も下等なものとみなされていたそうです。しかし、民衆が発展させていき、『西遊記』『三国志演義』『水滸伝』『金瓶梅』などが生まれたのだそうです。文語体の尊重は、中国古代からの伝統なのかと感心しました。しかし、近代以前はどこでも文語体が第一とされていたかも知れません。

『中国文学を学ぶ人のために』を参考にしながら、個別の作品を読んでいきたいと思います。


読んだ本
興膳宏:編集『中国文学を学ぶ人のために』
430ばかもの
★★★ 絲山秋子

429ノーライフキング
★★★ いとうせいこう

428鳥類学者のファンタジア
★★★★ 奥泉光

427怪盗グリフィン、絶体絶命
★★ 法月綸太郎

426ディスコ探偵水曜日
★★★★★ 舞城王太郎
★★★

著者:  絲山秋子
出版社: 新潮社

  気ままに生きている大学生ヒデは、年上の女性・額子が好きでたまらなくて彼女とのセックスに明け暮れていたのですが、そんなある日、下半身丸出しのまま木に縛り付けられ、捨てられてしまいます。ヒデは、それから幾人かの女性と付き合ったりするのですがじょじょに酒に溺れていき、いろんな人から見捨てられてしまい・・・

  妙にうらぶれた雰囲気が漂っているのに、全体的には軽くてスパッとしていて、とても読みやすかったです。爽やかですらあります。あらゆるものを軽く扱うのが今風、なのかなぁ。そのような軽薄さは、少し古いような気もするけど。

  けっこう笑えます。主人公ヒデが落ちぶれていく様は痛々しいけど、吾妻ひでお『失踪日記』を連想させます。ヒデのどこか抜けた部分がおかしいです。とくに、下半身丸出しのまま野ざらしにされて、いろいろ考える部分は悲しすぎるけど、おかしすぎる。

  絲山秋子の小説は、どれも純愛ものとして読むことも可能な気がします(『袋小路の男』とかも)。だけど、純愛がテーマなのだろうか。微妙に違うような気がします。むしろ、純愛とか、愛という言葉でひとくくりにされてしまうような微妙な感情の動きを、きちりと写し取った小説のような気がします。愛とかそういう言葉で、物語を説明/回収してしまうのは、間違っているのではないか。

  絲山秋子は、非常に巧みな人のような気がしました。ダメな男の物語(けっこうありきたりの題材)をここまで面白くしてしまうのはさすが。

自森人読書 ばかもの
★★★

著者:  いとうせいこう
出版社: 新潮社

  家庭用ゲーム機「ディス・コン」が普及し、子どもたちはそれにはまりました。その中でもとくに流行ったのが『ライフキング』というゲーム。子ども達の中には、クリアの仕方や裏技などを教え合う巨大なネットワークすらつくられつつありました。そんなゲーマーの一人に、大沢まことという小学4年生の男の子がいました。彼の学校の校長が『ライフキング』を否定する発言を行った直後に急死。それがノーライフキングの呪いだという噂が広まり・・・

  流行するゲームとそれによって生まれた子どもたちのネットワークを敵視する大人たちが子どもたちを追い詰めていく物語。物語内に登場するゲームの雰囲気がちょっと古い気がするのだけど、今の世の中にも充分通用する物語だと思います(いまだに「ゲーム脳」などという言葉を科学的裏づけもなく多用し、ゲーム駆逐を目指している学者や大人が世の中に満ち溢れているのだから)。

  いとうせいこうは辛辣です。子ども達の自閉した部分をもきちりと描写します。ハッピーエンドはやってきません。

  ただし、少年たちは閉じてしまったのかどうか、という部分はもしかしたら議論の余地があるのかも知れません。僕は、大人との対決から逃げることは自閉にあたると思っています。しかし、そういった考え方自体が間違いなのかも知れない。

  映画化されているそうです。


自森人読書 ノーライフキング
★★★★

著者:  奥泉光
出版社: 集英社

  ジャズピアニスト・池永希梨子(通称フォギー)は、柱の陰にいる人に向かって音楽を届けることをいつも気にかけていました。不振が続いていたある日、本当に柱の陰に黒づくめの女性がいるような気がしてとても良い演奏ができました。彼女は、その後外出し、外でその女性と邂逅します。彼女は「ピュタゴラスの天体云々」といった謎の言葉を残して消えました。やがて、夏になり、フォギーは故郷へ帰ります。そして突如として1944年敗戦間近のドイツへタイムスリップしてしまい・・・

  SFのようなファンタジーのような作品。

  二段組みで490ページもあります。しかも、イントロダクションだけで100ページ。たたでさえ長大なのに、その上奥泉光の古風ないかにも純文学作家っぽい長い文章につっかえてしまい、中盤までは読み進めるのが辛かったです。根気が要るからです。しかし、いろいろな謎が絡み合ってくるとともに面白くなってきました。

  笑える部分が随所に挟まれているのは、楽しかったです。

  たとえば、「武富士」のポケットティシュが思わぬ疑惑を呼ぶところなどは爆笑。まぁそもそも主人公のフォギーも、その友達の佐知子さんもとにかく面白い人なので、おかしいのは当然か(多分、作者奥泉光も面白い人なのだろう、と思います。作中で自著『『吾輩は猫である』殺人事件』の宣伝までしてしまうのだから・・・)。

  しかし最高におかしいのは脇岡氏。歌手なのにリズム感覚に欠け、みんなから疎まれているのにやたらとつらつらと喋り続ける無神経の塊なのだけど、どこか憎めない彼の面白さは格別。そして、最後のもの悲しさも格別。呆れてしまうけど、憎めない人だなぁ、と思いました。


自森人読書 鳥類学者のファンタジア
★★

作者:  法月綸太郎
出版社: 講談社

  ニューヨークの怪盗グリフィンは「あるべきものを、あるべき場所に」という信条を持ったちょっとおかしな盗みやでした。彼は、メトロポリタン美術館に所蔵されていたゴッホの自画像を盗んでほしいと依頼されます。もちろん、ただの盗みはお断りといったのですが、依頼者はメットにあるのは贋作だと言いました。さて、怪盗グリフィンはどうしたかというと・・・

  講談社ミステリーランド。若い人向けらしいです。

  怪盗、美女のパートナー、謎の男、大統領、将軍、大佐といった人たちが登場します。著書らしからぬ軽快で愉快な冒険小説。とにかく読みやすいです(字も大きいし)。でも最後のぐちゃぐちゃした(緻密ともいう)推理の過程の説明はやっぱり法月綸太郎らしいなぁ、と感じました。

  人種差別や政治(9.11テロによって云々という説明があったり)についてのはなしも挟まれたりして、予想以上に読み応えはあります。

  法月綸太郎は、「本格ミステリ」に囚われ(こだわり)、悩む作家として知られています。けれど、『怪盗グリフィン、絶体絶命』を読むと、ハメをはずした小説も書けることが分かります。もしかしたらそういう軽めのはなしの方が面白いんじゃないか、と思ってしまいました。そのような感想は、著者本人にとっては不本意かも知れないけど。

  さらっと読める作品。


自森人読書 怪盗グリフィン、絶体絶命
★★★★★

著者:  舞城王太郎
出版社: 新潮社

  迷子捜し探偵、ディスコ・ウェンズデイは、6歳の少女、梢とともに日々を過ごしていました。しかし、彼女の体を「17歳の梢」が時折乗っ取るという事態が発生。ディスコはいろいろ考えるのですが、何も分かりません。その内、梢の膣の中から指が3本こぼれ落ちてきて、さらにノーマのような勺子や、最強の暴力男水星Cが登場してきたことで自体は大混乱。ディスコは水星Cとともに6歳の梢がいると思われるパインハウスへ赴き、推理合戦を繰り広げながら次々と目に箸を刺して死んでいく美少年・美少女探偵らに混ざって事件解決を目指すのですが、彼は最終的に時空を越え、新世界の創造へと漕ぎ出すことになります

  舞城王太郎の小説。

  上下巻あわせて1000ページ。上巻はトンデモミステリ、下巻は、SF。読み終わった後、頭が痛くなりました。『ディスコ探偵水曜日』というタイトルは痛くて、かっこ悪い気もするのに、なぜかかっこいいです。

  舞城王太郎らしさが全開。

  倫理(好き嫌い)が世界を決定する、意識と運命が世界を形作る、という思想が繰り返し語られます。最終的には、「愛が世界を救う」を飛び越え、「愛が世界を創る」というところにまでたどりきます。凄すぎるけど、感心するし、絶賛したくなります。歴史に残る傑作ではないか。

  今、日本に蔓延している相対論(立場によって信じるものは変わる)や、自閉的な「僕」の文学を潰すために書かれた小説なのかも知れない、と感じました。かなりグロテスクで滅茶苦茶だけど、とにかく物凄いです。ディスコと梢の物語は、ディスコと梢の物語ではなくなり、どこまでも拡張していきます。

  もしかしたら、今はやりの「詰め込み小説」なのかも知れません。散りばめられた北欧神話、聖書、西洋占星術、カバラ、ヨハネの黙示録、これまでの自分の著作などなどからの引用。少し、トンデモの世界に偏っていないか、と不安を感じたのですが、なかなかこっています。

  腐った世界から分裂して、舞城王太郎はどこへ向かうのか。不安だけど、楽しみです。


自森人読書 ディスコ探偵水曜日
『人類は衰退しました⑤』
『人類は衰退しました』シリーズ5作目。人類が衰退して数世紀がたちました。人類最後の学校を卒業し、調停官となった旧人類の少女の私は、新人類「妖精さん」たちと仲良くなります。妖精さんたちはお菓子が大好きな小人さん。わらわらと集まるととんでもないことをしでかすのですが、すぐに散らばってしまいます。『妖精さんの、ひみつうのおちゃかい』『妖精さんの、いちにちいちじかん』収録。

『妖精さんの、ひみつうのおちゃかい』は、主人公私の学舎時代の物語。過去の出来事がつづられています。学園もののパロディのようになっています。私は友達を孤立しているため苛められています。そして、同じく孤立していたYと犬猿の仲になるのですが・・・

『妖精さんの、いちにちいちじかん』は世界がドット絵のゲームになってしまう物語。笑えますが、結構、シュールといえるかも知れません。著者は徹底的に遊んでいるみたいです。

物語の中には、多くのパロディが詰め込まれています。

しかし、ストーリーに捻りがありません。なんというか、冴えていないのです。ライトノベルのシリーズものがダラダラしてくるのは、しようがない必然なのかも、と思わないでもないです。


読んだ本
田中ロミオ『人類は衰退しました⑤』
『水源をめざして』
「自伝的エッセー」と銘打ってありますが『水源をめざして』を読むと確かに遠山啓という人のことが、なんとなく見えてきます。結構、遠山啓は直観に頼って大胆なことも書いています。だから逆に面白いです。遠山啓の文章は単なる思い付きではなく、広範の知識に支えられています。遠山啓の博識がよくわかります。

多くの事物を扱っているのに文章は極めて平易です。意味を汲み取ることができない文章やゴマカシはありません。

「読書の七癖」という章がとくに面白いです。いろんな本が紹介されています。自著『無限と連続』を書きなおすべきか、なおさざるべきか、という話から始まり、次に来るのは竹内好『中国を知るために』。漢文が「軟体動物のようにとらえどころのない純日本式の文章に、論的な骨格をあたえてくれた」のではないか、と指摘します。

それから、ユークリッドの『原論』などが紹介されています。『原論』の反対が、デカルトの『幾何学』なのだそうです。そうだったのか・・・

そういえば、「敗戦は私の精神の深部にはほとんど影響をおよぼさなかったように思う」と遠山啓は記しています。遠山啓は特異な人間だったようです。


読んだ本
遠山啓『水源をめざして』
『グランド・フィナーレ』
短編集。『グランド・フィナーレ』『馬小屋の乙女』『新宿ヨドバシカメラ』『20世紀』収録。

表題作『グランド・フィナーレ』はロリコン男の物語。男は娘を含めた数人の少女の裸体を密かに撮影していました。その事実を知った妻と揉み合いになり、妻を負傷させています。その後、強制的に離婚させられて郷里に帰るのですが、少女たちから演劇の指導をお願いされて・・・ 第132回芥川賞受賞作。

『グランド・フィナーレ』の主人公は妙な愛嬌を持っている情けない男です。過度に危ないわけではなく、微妙に危ないだけだから、一般的な生活の中に溶け込んでいくことができます。そういう人間は意外に多いのではないかと感じないでもないです。

しかし、現実に近寄っているためなのか『グランド・フィナーレ』は妙に安いです。阿部和重の作品によくあるいくらなんでもないだろう、という驚きがないのです。もしかしたら、『グランド・フィナーレ』は阿部和重作品の中では微妙な部類に入るかもしれない、と思いました。

『新宿ヨドバシカメラ』のほうが『グランド・フィナーレ』より、面白い気もしました。奇妙な事物の結合が行われています。

阿部和重は多くのいかにも「現代的」な事物を徹底的に散布して、そこから、暗号としての意味を取り出す名人ではないか、と感じます。会話の描写が巧みです。文章はサラサラサクサク流れていくので、読んでいると心地よいです。


読んだ本
阿部和重『グランド・フィナーレ』
『アサッテの人』
叔父は旅に出た後、行方不明になってしまいます。私は、叔父に関する小説『アサッテの人』を完成させようとしましたが、その度に頓挫します。それなので、叔父に関する記憶、書きためてきた叔父に関する草稿、叔父の家に残されていた三冊分の日記をそのまま並べていきます。叔父は「ポンパ!」や「チリパッパ」といった言葉を唐突に発する奇癖を持っていて・・・

愉快な小説。

物語の主題は言葉です。叔父が、言葉と観念にとりつかれて四苦八苦する様が様々な角度から綴られています。その結果、言葉のわからなさのようなものが浮き彫りになります。

叔父は変人です。叔父のことをそのまま書き記したら、喜劇的な不条理小説が完成するはずです。しかし、『アサッテの人』は全てを突き放して、不可解に没していくわけではありません。狂気の世界に飛び込んでいくわけでもありません。

叔父を近くから見ていた私が常識を踏まえて綴ります。奇天烈は客観的に扱われていくのです。だから、奇天烈が徹底的に突き抜けることはありません。そういう構造自体は平凡かも知れません。作中に登場する小道具も古臭い気がしないではないです。ベケットか、という感じです。

しかし、諸々の要素を詰め込みながら、最後まで崩れません。なんとなく、「典型的な小説」と呼びたくなります。突き抜けて欲しいと思わないでもないですが、それでも、このとどまる具合がいいのかも知れません。本当に面白いです。

第50回群像新人文学賞、第137回芥川賞受賞作。


読んだ本
諏訪哲史『アサッテの人』
本屋大賞一次投票締切がもうすぐみたいです。
なんとなく結果を予想しています・・・

ベスト10
宮部みゆき『小暮写眞館』
有川浩『ストーリー・セラー』
朝井リョウ『桐島、部活やめるってよ』
貴志祐介『悪の教典』
奥泉光『シューマンの指』
綿矢りさ『勝手にふるえてろ』
中島京子『小さいおうち』
伊坂幸太郎『マリアビートル』
柴崎友香『寝ても覚めても』
森見登美彦『ペンギン・ハイウェイ』


ベスト30に入るかも
姜尚中『母-オモニ-』
角田光代『ひそやかな花園』
太田光『マボロシの鳥』
湊かなえ『夜行観覧車』
島本理生『あられもない祈り』
米澤穂信『ふたりの距離の概算』
島田雅彦『悪貨』
百田尚樹『影法師』
村上春樹『1Q84 BOOK3』
島田荘司『写楽 閉じた国の幻』
梓崎優『叫びと祈り』
百田尚樹『錨を上げよ』
東川篤哉『謎解きはディナーのあとで』
姜尚中『母-オモニ-』
乙武洋匡『だいじょうぶ3組』
齋藤智裕『KAGEROU』

『新・批評の事情―不良のための論壇案内』文庫版
日本の評論家・批評家・活動家・表現者・文化人たちを簡略に紹介したもの。登場するのは、内田樹、小熊英二、藤原帰一、湯浅誠、雨宮処凛、金子勝、斎藤貴男、宇野常寛、前田塁、菊池成孔、山下裕二といった人たち。押さえるべき点はだいたい押さえています。非常に面白いです。

永江朗の評価は、客観的とはいえないかも知れません。しかし、いつでも人間は偏らざるを得ません。著者なりの見識が明確に示されていて非常に面白いと感じます。小熊英二の項目を読んでいると、著者の福田和也嫌いが伝わってきて楽しいです。

藤原帰一に対する評価は同感です。それから湯浅誠が現れるまで日本に貧困はなかった、という表現は適切。著者は素朴な感想を述べているだけのように見えますが、実はけっこう周到です。

菊池成孔の本を読んでみたいと感じました。


読んだ本
永江朗『新・批評の事情―不良のための論壇案内』文庫版
永江朗『新・批評の事情―不良のための論壇案内』文庫版を読んでいる最中。日本の評論家・批評家・活動家・表現者たちを簡略に紹介していくもの。小熊英二、安藤礼二、斎藤貴男、雨宮処凛、湯浅誠などが紹介されています。押さえるべき点はたいてい押さえています。非常に面白いです。

その評価は、客観的とはいえないかも知れません。しかし、いつでも人間は偏らざるを得ません。著者なりの見識が明確に示されていて非常に面白いと感じます。著者の福田和也嫌いが伝わってきて楽しいです。

遊戯王みたいに攻撃力と守備力を表示したら、さらに面白いと思うのですが。たとえば、内田樹・攻撃力1000・守備力4000・特殊能力【合気道】【レヴィナス】【煙に巻く】という感じで。

斎藤環、蓮實重彦あたりが最強ということになるのではないか、と感じないでもないです。
『本は、これから』
37人の人間が本に対する思いをつづっています。電子書籍が本格的に広がろうとしています。その時、本という媒体はどうなるのかということを各々の人が考察していきます。本を愛している人が多いです。だから、当たり前ですが、「それでも本は残るだろう」という人が多いです。残るべきだ、という思いを持っている人も多いようです。

僕も紙の本を大切にしたいと思っています。紙の本が残らないはずはないとも考えています。しかし、そういう考えは、甘いのかも知れないと思わないでもないです。そういうふうに様々なことを書いているのもインターネット上なのだから・・・

紙の本は、電子書籍が出現したから衰退しているのではなく、構造的に自壊しつつあるのかも知れない、という土屋俊の文章が最も印象に残りました。若者が減っているから、すでに本を買う人がいないのではないか・・・

内田樹の文章はやっぱり面白いです。嫌いなのですが。


読んだ本
池澤夏樹編『本は、これから』
デビュー作はベスト10内になかなか入りませんが、入ってしまうと高い評価を受けることが多いです。
やっぱり大作家の有名な作品ではなく、若手作家の知られていない面白い作品を推したい、という思いを本屋さんが持っているのだと思います。最近、その傾向が特に顕著、かも。たとえば、第6回本屋大賞『告白』、2位『のぼうの城』、第7回2位『神様のカルテ』などは各々の作家のデビュー作です。

逆に、著名な小説家の作品はベスト10に入っても、低位置になることが多いです。もう十分に知られているのだから、あえて本屋大賞に推薦する必要はない、ということなのだと思います。たとえば、第7回9位『新参者』、10位『1Q84』など。
本屋大賞は、基本的に様々な作品をバランスよくベスト10の中にいれようとしているようです。だから、傾向のようものもないわけではありません。他の文学賞(直木賞)をとって話題になった作品が、ベスト10に入ってくることはよくあります。


伊坂幸太郎枠
  ほとんど毎回(第7回以外)、伊坂幸太郎の作品はベスト10に入っています。本屋さんから愛され続けているのです。そして、傑作『ゴールデンスランバー』で本屋大賞を受賞。その後、第6回10位、第7回ベスト10入りなしとなっていて「本屋大賞は卒業」という雰囲気がしないでもないのですが、今年も『マリアビートル』が入りそう。
  (第1回3位『アヒルと鴨のコインロッカー』、5位『重力ピエロ』、第2回5位『チルドレン』、第3回3位『死神の精度』、11位『魔王』、第4回4位『終末のフール』、第5回本屋大賞『ゴールデンスランバー』、第6位10位『モダンタイムス』)


直木賞受賞作枠
  直木賞受賞作がベスト10に入ることもよくあります。直木賞受賞作には、それなりに面白い話題作が多いからだと思います。しかし、直木賞受賞作が本屋大賞になることは基本的にないようです。直木賞のあとを追うのでは本屋大賞の意味がなくなってしまう、のだと思います。
  (第1回6位『4TEEN』、第2回6位『対岸の彼女』、第3回4位『容疑者Xの献身』、第5回9位『私の男』、第6回8位『悼む人』)


青春小説枠
  一つのことにこだわる若者の姿を描いた青春小説も結構人気。『一瞬の風になれ』は駅伝。『風が強く吹いている』は競走。『サクリファイス』はサイクルロードレース。『ボックス!』はボクシング。『神去なあなあ日常』は林業。『船に乗れ!』は音楽。
  (第4回本屋大賞『一瞬の風になれ』、3位『風が強く吹いている』、第5回2位『サクリファイス』、第6回5位『ボックス!』、第7回4位『神去なあなあ日常』、7位『船に乗れ!』)

ベスト10入り確実?
宮部みゆき『小暮写眞館』
有川浩『ストーリー・セラー』
朝井リョウ『桐島、部活やめるってよ』
貴志祐介『悪の教典』
奥泉光『シューマンの指』


ベスト10に入るかも
綿矢りさ『勝手にふるえてろ』
中島京子『小さいおうち』
伊坂幸太郎『マリアビートル』
柴崎友香『寝ても覚めても』
森見登美彦『ペンギン・ハイウェイ』


ベスト30に入るかも
姜尚中『母-オモニ-』
角田光代『ひそやかな花園』
太田光『マボロシの鳥』
湊かなえ『夜行観覧車』
島本理生『あられもない祈り』
米澤穂信『ふたりの距離の概算』
島田雅彦『悪貨』
百田尚樹『影法師』
村上春樹『1Q84 BOOK3』
島田荘司『写楽 閉じた国の幻』
梓崎優『叫びと祈り』
百田尚樹『錨を上げよ』
東川篤哉『謎解きはディナーのあとで』
姜尚中『母-オモニ-』
乙武洋匡『だいじょうぶ3組』
齋藤智裕『KAGEROU』


朝井リョウ『桐島、部活やめるってよ』が本屋大賞の有力な候補なのではないか、と感じます。新人、もしくは、そこまで大家とは思われていないような作家を後押ししたいという思いがあるのではないか。東川篤哉『謎解きはディナーのあとで』が10位に入ってしまったら、意外に本屋大賞になるかも。
それから時代小説が入ってくることもあるような気もします。予想できないのですが。
『太陽の簒奪者』
鉱物資源が水星から噴き上がり、直径8000万キロのリングに変化していき、太陽を取り巻くようになりました。そのリングが太陽光を遮るため、地球の気候は激変、数億人の人間が死亡しました。科学者・白石亜紀は、巨大リングを破壊するため宇宙艦艇ファランクスに乗り、宇宙へ赴きます。そのリングは生命体なのか、それとも機械なのか・・・

良質のSF小説。

野尻抱介のSF小説はずいぶん読んでいますが、どの小説もライトなのに本格SF(いわゆるハードSF)として成り立っています。

人類が持つ宇宙に広がろうとする意志・人類が宇宙に広がっていく意味を何度でも問い直していき、同時に人間とは何なのか、意識とは何なのかといった諸々の問題も扱っていきます。題材とその組み合わせ自体は古典的。

しかし、細部もきっちりとつくられているので、非常に面白いです。焼き直しではなく、発展になっているのです。

クライマックスの部分は別に衝撃的ではありません。ありふれた展開といってしまっても過言ではありません。しかし、安易に逃げないことに感心しました。何と言ってもエピローグが格別です。エピローグが『太陽の簒奪者』という物語を傑作にしているような気もしました。


読んだ本
野尻抱介『太陽の簒奪者』
『正直書評。』『必読書150』
新年早々本を紹介している本を読んでいました。両方とも面白いです。読まなければ、と思う本が増えます。

歌野晶午『女王様と私』、古川日出男『LOVE』、リディア・デイヴィス『ほとんど記憶のない女』、パスカル『パンセ』、サルトル『嘔吐』、ジュネ『泥棒日記』といった本を読みたい、と思いました。しかし、読みたい本が増えていっても読むことができる本は限られているよなぁ・・・


読んだ本
豊崎由美『正直書評。』(再読)
柄谷行人・浅田彰・岡崎乾二郎・奥泉光・島田雅彦・糸圭秀実・渡部直己『必読書150』(再読)
ウェブサイトhttp://jimoren.my.coocan.jp/
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