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自森人-自由の森学園の人-の読書ブログ
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490新宿鮫
★★★★ 大沢在昌

489武士道シックスティーン
★★★ 誉田哲也

488電話男
★★★★ 小林恭二

487スティル・ライフ
★★ 池澤夏樹

486漢方小説
★★★ 中島たい子
PR
★★★★

作者:  大沢在昌
出版社: 双葉社

  新宿署の鮫島警部は「新宿鮫」と呼ばれ、恐れられています。警察機構に楯突き、ヤクザとはつるまず、ただ1人で犯罪者を追跡するからです。鮫島は銃密造の天才・木津を追っているうちに、歌舞伎町で発生した警察官連続射殺事件との関連を見出します。彼は単独で木津を追い詰めていきます。しかし信頼した人に裏切られ、絶体絶命に危機に陥り・・・

  ハードボイルド小説・警察小説の傑作。

  展開はハードボイルドの典型みたいなものだし、「いくらなんでも出来すぎ」と言ってしまっても過言ではないし、日本語としてしっくりこない表記が時折でてきて気になります。ですが、主人公・鮫島が途轍もなくかっこいいので、欠点は全部チャラにしても良いのではないか、と感じてしまいます。

  キャリアとノンキャリアの対立や、キャリア同士の熾烈な争いについてもきちりと書かれています。ですが、そこは主眼ではありません。『新宿鮫』は鮫島という男の熾烈な闘いを描いた物語です。

  鮫島は正義を貫徹するためならば、全ての人間を敵に回します。もともとキャリア組だったのに、人命を犠牲にすることを厭わない捜査に反対して部下の警察官に襲われ、その上警察内部の勢力争いに巻き込まれ、新宿署に左遷されました。それでもやはり正義のために奮闘します。本当にかっこいいです。

  鮫島と愛し合うロックシンガー・晶もかっこいいです。あとは、家族を交通事故で失ってから気力を失ったマンジュウ・桃島の意外な活躍もみどころ。

  やさぐれた『踊る大捜査線』みたいなものかなぁ、と読みつつ思ったりもしました。


自森人読書 新宿鮫
トトロのトポスが再開する予定です。

自由の森学園図書館からの発信。

新 トトロのトポス
★★★

著者:  誉田哲也
出版社: 文藝春秋

  主人公は、香織と早苗の2人。香織は厳しい性格。一般的な話題には興味を持たず、ひたすらに愛読書『五輪書』をめくる兵法オタク。幼い頃から剣道を習い始め、徹底的な稽古を積んだ結果、圧倒的な攻めを獲得。一方、早苗はのほほんとした性格。いろいろあって勝負にこだわることを忌避しているけど、昔日本舞踊をやっていたため体の使い方というものが他人と違って結構強い。とくに相手の攻めを受けるのが得意。まだ2人が中3だった頃。中学大会2位だった香織が、当時まだ無名だった早苗に敗北し、雪辱を誓ったところから物語は始まります・・・

  剣道を扱った青春小説。

  分厚いけれど文字は大きいし、改行は多いし、物語自体もシンプルなので読みやすいです。章ごとに語り手が入れ替わり、香織、早苗双方の視点から物語が語られていくことになります。2人の考え方の違いがわかって面白いです。

  剣道の特殊な部分(正しい姿勢で打ち込まないと得点にならない、とか)を知ることができてよかったです。「勝利こそが全て、でいいのか」という問題は、全てのスポーツにつきまとうものだけれど、剣道は作法というか、行儀を大切にすることで勝てれば何でも良い、という考え方はとらないのか。面白い。

  やたらと強い人ほど一回敗れただけでもポッキリ折れてしまうことが多いのはなんでも同じなのかなぁ、と感じました。

  そういえば、何ヶ所かに挟まっている絵つきの道具の解説がとても分かりやすくていいです。


自森人読書 武士道シックスティーン
★★★★

著者:  小林恭二
出版社: 福武書店

  小林恭二の短編集。『電話男』『迷宮生活』収録。

  『電話男』
  電話越しに様々な人の言葉を聞き、その人の心を受け止めることを務めとしている電話男の独白。電話男たちはどこから出現し、どこへ向かうのか。そして電話男たちの最大の敵とは? 第3回海燕新人文学賞を受賞したデビュー作。

  『迷宮生活』
  K氏は自分でつくったそれなりのルールに従って淡々と日々を過ごしています。彼は無為の日々の中で変な思想を抱き、意味のないことを繰り返しています。しかし、その内神をつくろうとしてとんでもないことになっていきます・・・

  高橋源一郎や島田雅彦とともに「ポストモダン文学」の旗手といわれる小林恭二の作品はサクッとしています。やっぱり、他の「ポストモダン文学」作家の人たちと同じように人懐こくてポップで読みやすいのです。まぁ内容はちょっと不可解な感じもしますが、高橋源一郎と比べれば露骨というか、分かりやすい方かもしれません。

  『電話男』は名作。文体と文章はさらさらしていて少し足りないくらいなのに、分かり合えないことが前提となってしまった断絶の時代の中で苦しむ孤独な人間たちの抱え込んだ苦しみと哀しみが的確に、それでいてぼんやりと表現されています。なんというか、劇を意識したらしいわざとらしい雰囲気もいいです。

  すでに言語や理性すら頼りにならない今、いったいどこを目指して生きていけばいいのか。本当に考えさせられます・・・


自森人読書 電話男
★★

著者:  池澤夏樹
出版社: 中央公論社

  池澤夏樹の短編集。『スティル・ライフ』『ヤー・チャイカ』収録。

  『スティル・ライフ』
  染色工場でアルバイトをしていたぼくは、同僚の佐々井と親しくなります。佐々井は染色工場での仕事をやめた後、ぼくにある企みをもちかけてきます・・・ 中央公論新人賞・芥川賞受賞作。

  『ヤー・チャイカ』
  娘を家に残し、仕事に出掛けた父はひょんなことからソ連から来た男・クーキンと親しくなります。女の子と恐竜ディプロドクスとの交流の物語が途中途中に挟まれます。むしろ僕は表題作よりも好きでした。

  池澤夏樹の小説は、いかにも「御伽噺」のようにみえます。基本的に単調だし(素人っぽいし)、ご都合主義的なのです。だから、小説としての完成度は低いように思えます。

  しかし、美しい文章が散りばめられているため、そのたびにはっとさせられ、惹きつけられます。小説らしくない「スナップのような小説」といってしまっても良いかも知れません。それまでは詩人として活躍していたことが影響しているのかなぁ・・・

  ただし、スナップ的なのだけど、分析的な面も併せ持っているため摩訶不思議なことになっています。世界は様々な部品によって組み立てられたシステムの複合体なのだというような思想が背景にあるみたいなのです。その摩訶不思議さが非常に面白いです。


自森人読書 スティル・ライフ
★★★

著者:  中島たい子
出版社: 集英社

  みのりは、元カレが結婚すると知ってから突如として体調を崩してしまいます。固形物をほとんど食べられず、その上震えが止まらなくなって救急車で病院に運びこまれることもありました。しかし、どこの病院に行ってもとくに悪いところは見つかりません。そして、最終的にたどり着いたのは漢方診療所でした。そこにはかっこいいお医者さんがいて・・・

  あらすじだけ読むと陰鬱な小説っぽいですが、実は愉快な小説です。

  もともと脚本を書いていた人らしく、物語としてもきちりとまとまっています。シリアスな部分もあれば、コミカルな部分もあり、バランスがとれています。読みやすいです。

  30台の女性にとって結婚というのは本当に難しくて面倒な問題なんだろうなぁ、と読んでいて改めて思いました。主人公みのるや周りの女性たちは結婚できずに「負け犬」になることを受け入れるわけではないし、決してめげないというわけではないけれど安易に結婚に飛びつきはしません。でもときには揺れることもあります。そこらへんの微妙な心の移り変わりが真面目に、だけど面白く書かれています。

  漢方に関する説明はかなり真面目できっちりしています。

  僕は漢方診療所に行き、薬も貰ったことがあるのですが、細かいところまで正確に描写されていることには感心しました。「西洋科学に則ったものではないけれど、長年の治験の上に成り立っている」ということや、漢方の基本的な考え方までまとめられています。これを読んで漢方診療所に行こうと思う人もいるのではないかなぁ・・・

  第28回すばる文学賞受賞作。


自森人読書 漢方小説
■『考える人』2008

 1 G・ガルシア=マルケス  『百年の孤独』◇
 2 マルセル・プルースト 『失われた時を求めて』
 3 フョードル・ドストエフスキー 『カラマーゾフの兄弟』
 4 ミゲル・デ・セルバンテス 『ドン・キホーテ』
 5 フランツ・カフカ  『城』◇
 6 フョードル・ドストエフスキー 『罪と罰』
 7 ハーマン・メルヴィル 『白鯨』
 8 レフ・トルストイ 『アンナ・カレーニナ』
 9 フランツ・カフカ  『審判』◇
10 フョードル・ドストエフスキー 『悪霊』

11 エミリー・ブロンテ 『嵐が丘』
12 レフ・トルストイ 『戦争と平和』
13 ウラジーミル・ナボコフ  『ロリータ』◇
14 ジェイムズ・ジョイス 『ユリシーズ』
15 スタンダール 『赤と黒』
16 トーマス・マン 『魔の山』
17 アルベール・カミュ  『異邦人』◇
18 フョードル・ドストエフスキー 『白痴』
19 ヴィクトル・ユーゴー 『レ・ミゼラブル』
20 マーク・トウェイン 『ハックルベリー・フィンの冒険』
21 トルーマン・カポーティ 『冷血』
22 ジャン=ポール・サルトル 『嘔吐』
23 ギュスターヴ・フローベル 『ボヴァリー夫人』
24 ルイ=フェルディナン・セリーヌ 『夜の果てへの旅』
25 ジョン・アーヴィング  『ガープの世界』◇
26 F・スコット・フィッツジェラルド 『グレート・ギャツビー』
27 ミハイル・A・ブルガーコフ 『巨匠とマルガリータ』
28 スタンダール 『パルムの僧院』
29 『千夜一夜物語』
30 ジェーン・オースティン 『高慢と偏見』
31 ロレンス・スターン 『トリストラム・シャンディ』
32 J・D・サリンジャー  『ライ麦畑でつかまえて』◇
33 ジョナサン・スウィフト 『ガリヴァー旅行記』
34 チャールズ・ディケンズ  『デイヴィッド・コパフィールド』
35 ギュンター・グラス 『ブリキの太鼓』
36 ロマン・ロラン 『ジャン・クリストフ』
37 ウィリアム・フォークナー  『響きと怒り』◇
38 曹雪芹・高蘭墅 『紅楼夢』
39 ロジェ・マルタン・デュ・ガール 『チボー家の人々』
40 ロレンス・ダレル 『アレクサンドリア四重奏』
41 ジョン・アーヴィング  『ホテル・ニューハンプシャー』
42 ミラン・クンデラ 『存在の耐えられない軽さ』
43 アレクサンドル・デュマ 『モンテ・クリスト伯』
44 フランツ・カフカ 『変身』◇
45 イタロ・カルヴィーノ  『冬の夜ひとりの旅人が』◇
46 シャーロット・ブロンテ 『ジェーン・エア』
47 ウィリアム・フォークナー 『八月の光』
48 ライナー・マリーア・リルケ 『マルテの手記』
49 イタロ・カルヴィーノ 『木のぼり男爵』
50 アーネスト・ヘミングウェイ 『日はまた昇る』
51 『水滸伝』◇
52 オノレ・ド・バルザック 『人間喜劇』
53 ジャック・ケルアック 『路上』
54 ピエール・ショデルロ・ド・ラクロ 『危険な関係』
55 G・K・チェスタトン  『木曜の男』◇
56 オノレ・ド・バルザック 『ゴリオ爺さん』
57 紫式部 『源氏物語』
58 オノレ・ド・バルザック 『幻滅』
59 ボリス・ヴィアン 『日々の泡』
60 カート・ヴォネガット  『スローターハウス5』◇
61 ウィリアム・フォークナー  『アブサロム、アブサロム!』
62 E・M・フォースター  『ハワーズ・エンド』◇
63 ジョン・ファウルズ 『魔術師』
64 ポール・オースター  『ムーン・パレス』◇
65 W・G・ゼーバルト  『アウステルリッツ』◇
66 カズオ・イシグロ  『日の名残り』◇
67 アゴタ・クリストフ  『悪童日記』◇
68 フランソワ・ラブレー 『ガルガンチェアとパンタグリュエル』
69 ルイーザ・メイ・オールコット 『若草物語』
70 イーブリン・ウォー『ブライヅヘッドふたたび』
71 ナタリア・ギンズブルグ  『ある家族の会話』◇
72 ヘンリー・フィールディング 『トム・ジョウンズ』
73 チャールズ・ディケンズ 『大いなる遺産』
74 カーソン・マッカラーズ 『心は孤独な狩人』
75 ナサニエル・ホーソーン 『緋文字』
76 パール・バック 『大地』
77 アンドレ・ジッド  『狭き門』◇
78 ルイス・キャロル 『不思議の国のアリス』
79 ホメロス 『オデュッセイア』
80 ギュスターヴ・フローベール 『感情教育』
81 マーガレット・アトウッド  『侍女の物語』◇
82 チャールズ・ディケンズ 『二都物語』
83 G・ガルシア=マルケス  『予告された殺人の記録』◇
84 フアン・ルルフォ  『ペドロ・パラモ』◇
85 『西遊記』◇
86 ウンベルト・エーコ 『薔薇の名前』◇
87 羅貫中 『三国志』◇
88 ウィリアム・M・サッカレー 『虚栄の市』
89 J・W・ゲーテ 『親和力』
90 ジェイムス・ジェイス 『若い芸術家の肖像』
91 フョードル・ドストエフスキー 『死の家の記録』
92 ホメロス 『イリアス』◇
93 マーガレット・ミッチェル 『風と共に去りぬ』
94 アンドレ・ブルトン  『ナジャ』◇
95 トマス・ピンチョン 『V.』
96 サミュエル・ベケット  『モロイ』◇
97 ヴァージニア・ウルフ 『灯台へ』
98 ミラン・クンデラ 『冗談』
99 イワン・A・ゴンチャロフ 『オブローモフ』
100マルキ・ド・サド 『悪徳の栄え』
485戦争を演じた神々たちII
★★★ 大原まり子

484優雅で感傷的な日本野球
★★★★ 高橋源一郎

483猫背の王子
★★★ 中山可穂

482百瀬、こっちを向いて。
★★ 中田永一

481さくらんぼの性は
★★★★★ ジャネット・ウィンターソン
★★★

著者:  大原まり子
出版社: アスペクト

  『戦争を演じた神々たち』の続編。連作短編集。『カミの渡る星』『ラヴ・チャイルド(チェリーとタイガー)』『女と犬』『世界でいちばん美しい男』『シルフィーダ・ジュリア』収録。

  『カミの渡る星』
  自分の治めていた惑星をクデラによって滅ぼされ、惑星アテルイに流されたロボットはツキをトーテムとして再び迫り来るクデラと戦うことになります。

  『ラヴ・チャイルド(チェリーとタイガー)』
  父を知らぬ妹は、母と顔も知らぬ兄を嫌悪しつつ冷酷な人間に育ちますそんなある日、兄が現れ、惑星環境装置になると告げるのですが・・・

  『女と犬』
  謎の女と黒い犬は、世界のあらゆるところに偏在しています。いったい彼らは何者なのか・・・?

  『世界でいちばん美しい男』
  惑星デルダドには奇怪な生物たちが棲息しています。その中で凛々しく生き抜いていく緑色の恐竜少女。その惑星に墜落したクデラの調査員はその緑色の少女と出会います。

  『シルフィーダ・ジュリア』
  クデラ軍と戦うキネコキスの誕生を書いた物語。これまた壮大で神話的。

  前作ほどの衝撃は感じなかったのですが、やはり考えさせられますです。象が撃ち殺されるシーン(『女と犬』)が印象に残りました。描写はあっさりしているのにはっとさせられます。人間が命を大切にしていない、ということをここまではっきり分からせてくれる光景があるだろうか、と感じました。


自森人読書 戦争を演じた神々たちII
2011年2月19日(土)。
渋谷FORUM8(フォーラムエイト) 662会議室にて。
「沖縄のいま、本土のこれから ~普天間問題と平和教育を考える~」
というシンポジウムがあるそうです。

主催 SAY-Peace PROJECT

ゲスト
安次富浩さん(ヘリ基地反対協議会共同代表)
下地史彦さん(城東小学校教諭、沖縄県教職員組合)
菅間正道さん(自由の森学園教諭)

シンポジウム 沖縄のいま、本土のこれから

最近、メディアは、基地問題を全く扱いません。
しかし、基地問題は全く解決していません。
逆に、深刻化しています。
本土と沖縄の温度差は、ひどい、といわれます。
そういう状況だからこそ、
現地から来た、安次富浩さんの話を聞くことに意味があるのではないかと感じます。
★★★★

著者:  高橋源一郎
出版社: 河出書房新社

  不可解な小説。

  『Ⅰ. 偽ルナールの野球博物誌』『Ⅱ. ライプニッツに倣いて』『Ⅲ. センチメンタル・ベースボール・ジャーニー』『Ⅳ. 日本野球創世奇譚』『Ⅴ. 鼻紙からの生還』『Ⅵ. 愛のスタジアム』『Ⅶ. 日本野球の行方』によって構成されています。章ごとに登場人物も、内容もバラバラ。

  「野球」を巡る小説と捉えていいのかどうかすら、いまいち分かりません。その最も大切なテーマというべき部分には「野球」ではなくてたとえば「文学」という言葉を代入することも可能なのではないか。いや、むしろ日本野球とはすなわち日本文学なのではないか。

  踊る言葉の意味が分からなくて、読めば読むほど奇妙な気分になります。現代演劇に近い。

  ポップでサクッとした文章は意味不明でありながら意味深長。いくらでも意味や問いかけを見出すことが可能な気がします。しかし、意味を文章の中から読み取ろうとすることに意味があるのだろうか。『優雅で感傷的な日本野球』は、意味なんていうものはどこからでも拾いだすことができる、と教えてくれているような気がします。

  笑えるところは良いです。『Ⅳ. 日本野球創世奇譚』の辺りになってくると少しうんざりした気分になってきますが、それでもやっぱり面白いです。「日本野球」の誕生を神話で説明してしまうとは・・・ 劇作家が「1985年、阪神タイガースは優勝しなかった」と語りだす『Ⅶ. 日本野球の行方』が最も分かりやすいです。優雅で感傷的な日本野球というものの姿が案外明確に示されます。

  記念すべき第1回三島由紀夫賞受賞作。


自森人読書 優雅で感傷的な日本野球
★★★

著者:  中山可穂
出版社: マガジンハウス

  王寺ミチルは、演劇を熱狂的に愛する女性でした。彼女は脚本家・演出家・主演俳優として小さな劇団カイロプラクティックを主宰する一方で、様々な女性の家を泊まり歩く毎日を送っています。少年のような容姿が女性をひきつけるのです。ミチルの周りには立ち代りに様々な女性が現れます。しかし、彼女は自分だけを愛しているため人から愛想をつかされてしまい・・・

  中山可穂のデビュー作。

  演劇の面白さ、怖さを存分に教えてくれます。読んでいると中小の劇団の現状がちょっとだけわかって面白いです。

  慢性的な金欠とめまぐるしい人の入れ替わりのために劇団を存続していくこと自体がまず困難なのだけど、大劇団のように売り上げを重視して演劇とはいえないような安全なものをつくりたくはないという強烈な自負心に支えられ、必死で頑張っているらしい。凄いな、と感じます。

  それにしても、どうして表現(演劇とか、大道芸とか、舞踊とか)を生業とする流れ者の人たちはくっついたり離れたり、やたら恋愛とセックスばかり繰り返しているのだろう。やっぱり、色気を保つことが大切だからなのか。

  しかも、あとさきのことは考えていません。なんというか、エキセントリックというか、破滅的です。まぁあとさきのことなどまともに考えていたら、表現に全力を注ぐことができなくなってしまうか。何かを表現するというためには捨て身で望まなければならないのかも知れないなぁ、と感じました。


自森人読書 猫背の王子
★★

著者:  中田永一
出版社: 祥伝社

  短編集。『百瀬、こっちを向いて。』『なみうちぎわ』『キャベツ畑に彼の声』『小梅が通る』収録。

  『百瀬、こっちを向いて。』
  高校1年生のモテない男の子が主人公。彼には宮崎瞬という兄貴のようなかっこ良い先輩がいました。宮崎瞬は美人の神林先輩とつき合っていたのですが裏では百瀬という女の子ともつき合っていました。宮崎瞬は、百瀬とつき合っていることを他人にばれないため主人公に「百瀬とつき合っているふりをして欲しい」と頼んできます・・・

  『なみうちぎわ』
  高校生になったばかりの私が主人公。私は、不登校の男の子の家庭教師になります。2人はだんだんと仲良くなってくるのですが。ある日、私は入り江に浮かぶ男の子を見つけて海へ飛び込み、おぼれてしまいます。そして・・・

  某作家(というか乙一)が別名義で出版した恋愛短編小説集だそうです。

  甘酸っぱいというか、淡いというか、恋愛と呼べるか呼べないか分からない瀬戸際にある微妙な感情をさらりと表現した作品群だなぁ、と感じました。さっぱりとしていて読みやすいのに、ぐっときます。バリエーションも豊かで、小説としてのつくりが巧いです。

  なんというか、褒めるしかない小説です。かえって、その巧みすぎる部分が鼻につく、ということもできるかなぁ。


自森人読書 百瀬、こっちを向いて。
トトロのトポスが再開する予定です。

自由の森学園図書館からの発信。

新 トトロのトポス
★★★★★

著者:  ジャネット・ウィンターソン
出版社: 白水社(訳:岸本佐知子)

  オレンジを12個口に入れることができ、象さえも吹き飛ばすことができる大女は、たくさんの犬を引き連れているため「犬女」と呼ばれていました。そんな彼女は、あるときテムズ川で赤ん坊を拾い、ジョーダンと名付けます。成長したジョーダンは、踊り手フォーチュナータを探すたびに出ます。一方、犬女は処刑された王の仇を討つために、ピューリタンたちを叩き潰していきます・・・

  あらすじを追って説明していくことは難しいです。「わたしはいま・ここに縛られているわけではない」という考え方が、『さくらんぼの性は』という物語を支えているからです。最初は混乱するのですが、読み進めていくうちに物語の中に吸い込まれていきます。

  猥雑なのに美しくて、幻想的なのにきちりとまとまっていて、残酷なのに優しくて、壮大なのにすかっとしています。最初はジョーダンの旅と犬女の日々が交互に綴られています。

  ジョーダンの旅は壮大なる叙事詩です。彼は、空が言葉に埋め尽くされてしまうためそれを清掃する人がいる世界にまぎれこんだりするのです。とんでもなくぶっ飛んでいて残酷なところはとても童話的。そして時には神話的。

  一方、醜く巨大な犬女の大活躍は爽快です。王の首をちょんぎり、全てを清潔に規律で縛ろうとしながら自分には甘いピューリタンの男たちを片っ端からぶちのめしていくのです(確かに革命というのは高貴なものを引きずりおろす蛮行ではあるのだけど全否定してしまって良いのか、と僕は少しだけ感じました。王を敬うイギリスの国風が感じられます。)。しかし、息子ジョーダンには彼への愛を素直に告げられません。その不器用さもまた印象的。

  女を支配していると思い込んでいる男たちを見つめる女たちの辛辣な感想は怖いけど、小気味良いです。世界は多面的に見ることが必要なのだなぁ、と感じました。

  最後の章では物凄いことが明かされます。しかし、なぜかすっと受け入れられます。想像力が世界を創り、繋ぐのかも知れない。


自森人読書 さくらんぼの性は
480海に沈んだ対馬丸―子どもたちの沖縄戦
★★★★★ 早乙女愛

479柳生十兵衛死す
★★★★ 山田風太郎

478居場所もなかった
★★★★ 笙野頼子

477アンダーソン家のヨメ
★★ 野中柊

476人類は衰退しました②
★★ 田中ロミオ
★★★★★

著者:  早乙女愛
出版社: 岩波書店

  1944年10月10日、沖縄本島の那覇はアメリカ空軍の空襲を受け、大変な被害を受けました。それは10・10空襲と呼ばれていますがその空襲が沖縄戦の始まりだというふうによく言われています。しかし、実はそれ以前にも沖縄の子どもたちの命が数多く失われていました。疎開のために九州を目指して沖縄を出立し、アメリカ軍に沈められた船があったのです。対馬丸といいます。

  『海に沈んだ対馬丸―子どもたちの沖縄戦』は、7人の生存者の証言をもとにしながら、対馬丸沈没のときの様子を明らかにした1冊。

  20万人の方が亡くなったと言われても、いまいち理解できません。だからこそ「100万人死んだ」とか普通に書いてある軍記物が読めるのだろうと思います。一方『海に沈んだ対馬丸』は視点をぐっと個人にたぐり寄せています。ずっと泣いていたという妙、泣かず無駄口も叩かない強い清。1人ひとりの人が克明に描かれていてそれが積み重なり、伝わってきます。ずしりと重く考えさせられる本です。

  ふと思い出したのですが、中学修学旅行のとき、お会いした金城重明さん(「集団自決」を経験した方)は「沖縄戦は、軍官民共生共死が強要された残酷な戦い」と語っていました。その第一歩が、この対馬丸による子ども達の疎開とその沈没なのではないか。対馬丸の沈没は「離れるも地獄、残るも地獄」といわれた沖縄戦の端緒、ひいては「人類史上最大の戦争」第二次世界大戦の一部なのであって、その背景も含めて考えていくことが大切だと感じました。

  妙さんが「戦争が終わってからが本当に大変だった」と語っているのも印象的でした。事実のもみ消しによって対馬丸のことを喋る事が許されず、沖縄とは異なる地での暮らしに苦しみ、戦後は故郷・沖縄が米軍に接収されることになる・・ 記録上の終戦は本当の終戦ではない、たくさんの傷痕が残されていたんだという当たり前のことを痛感しました。


自森人読書 海に沈んだ対馬丸―子どもたちの沖縄戦
今日、自由の森学園の入試みたいです。
入試か・・・
★★★★

著者:  山田風太郎
出版社: 富士見書房

  長大なため上下巻に分かれています。

  柳生十兵衛が額を割られ、殺されているのが発見されます。一流の剣士として知られていた彼がいかにして殺されたのか、その顛末を綴る物語だという説明が入り・・・ 江戸時代を舞台にした柳生十兵衛と竹阿弥、そしてその子たち金春七郎、りんどうらの物語が始まっていきます。途中からは突如として室町編に突入。一休さんも登場。ここまでが上巻。

  下巻になると物語は佳境に突入。室町時代の冷徹な柳生十兵衛と江戸時代の陽気な柳生十兵衛がくるくる入れ替わるため、そのたびに物語は大混乱。しかも、2人とも修行と言いつつ片っ端から人を殺しまくり、物凄く都合の良いときにタイムスリップして入れ替わるから笑えます。そして、15歳の一休さんと15歳の義円(足利義満の子)がくるくる動き回り、そのたびに敵に捕まります・・・ その2人のちょっと間抜けな魔童子たちのおかげで物語はどんどん進んでいくわけです。

  もう完全にSF小説。能や剣の道を極めることで、タイムスリップが可能になってしまうところは人を食っていて面白いです。

  1991~2年に書かれた作品。山田風太郎は70歳の時に『柳生十兵衛死す』を書いたそうです。強烈なエログロナンセンス要素が抜け落ち、とんでもない忍法も陰を潜め、案外渋いのですが、やはり、とんでもない物語です。芸といっても過言ではない「とぼけ」が最高。もうどこもかしこも笑えます。

  ラストは、山田風太郎らしく哀しいです。


自森人読書 柳生十兵衛死す
『初子さん』『うつつ・うつら』
『初子さん』『うつつ・うつら』収録。

『初子さん』のもくろみは、よく分かります。京都という町を覆っているおもい空気のようなものを表現しようとしているようです。しかし、だから、妙に薄暗いです。そして、読むのが、つらいです。

『うつつ・うつら』は、滑稽な部分が結構あるので、楽しいです。「あっれーぇーぇーぇー」「あっれーぇーぇーぇー」「あっれーぇーぇーぇー」とくるのです。しかし、作品全体が「繰り返される時間にうんざりする」を表現しているので、やっぱり読むのは辛いです。


読んだ本
赤染晶子『うつつ・うつら』
★★★★

著者:  笙野頼子
出版社: 講談社

  『なにもしてない』に続く笙野頼子の短編集。『居場所もなかった』『背中の穴』収録。

  『居場所もなかった』
  私は東京に住む小説家。気に入っていた部屋を追い出され、どこかへ引っ越すことになるのですがオートロック付きの部屋に拘るため、なかなか良い部屋が見つかりません。そして、最終的に引っ越した先では狂いそうなほどの騒音に苦しめられます。再び部屋を探す中で、女性・無職な人間に対する差別というものをひしひしと感じるようになります。彼女は過酷で卑劣な現実との格闘を、現実を露骨にしたような妄想(虚構)を交えつつ、書き綴っていきます。

  『背中の穴』
  奇怪な布を被った人と普通の人に手伝ってもらい、引っ越すのですが、その中で背中の穴があった母や祖母のことを思い出します・・・

  笙野頼子の小説は、全く爽やかではありません。陰鬱です。読んでいると少し辛いし、主人公の暗い感情が伝染してきそうです。しかし、今回は主人公の暴走しまくりの妄想が各所に入り混じるので少し笑えます。「私」の徹底的な拘り(オートロック付きの部屋でないとヤダ)は滑稽です。けれど、分からないでもありません。「私」の妄想は、生きることが困難な社会に対する過剰反応なのではないか、と思います。

  それにしても引越しを書くことで、社会と「私」の病気を明確に抉り出していく笙野頼子の筆致は素晴らしいです。小説というもの自体に対するツッコミすら挟まれています。本当におかしい。藤枝静男の影響が全体的に感じられます。

  文学を蹴落とそうとする人間たちを罵倒しまくるあとがきがまた凄いです。あとがきも1つの作品と化しています。


自森人読書 居場所もなかった
★★

著者:  野中柊
出版社: 福武書店

  『アンダーソン家のヨメ』は野中柊のデビュー短編集。『ヨモギ・アイス』『アンダーソン家のヨメ』収録。

  『ヨモギ・アイス』
  第10回海燕新人文学賞受賞作。野中柊のデビュー作。ヨモギは白人ジミーとの国際結婚の後、アメリカへ行きます。彼女の朝の日課は体重を測ること。アメリカの食べ物のために太ってしまうのがいやなのです。そんなある日、引越ししたはずの隣人の飼い猫・タマを見つけ・・・

  『アンダーソン家のヨメ』
  ウィル・アンダーソンと国際結婚することにしたサトー・マドコ。彼女東南アジアでのハネムーン旅行の後、アンダーソン家を訪ねます。そしてそこで結婚を祝ってもらうことに。マドコはアンダーソンと名乗りたくはないのですが・・・

  全体的にけっこうサクッとしていて軽いです。

  横文字やカタカナが多用されています。それによって異質な何かが含まれているような感じがします。非常に巧い仕掛けだなぁ、と感じました。雑多なものを受け入れる(受け入れられる/受け入れてしまう?)日本語ってなんだろう、と少し考えてしまいました。

  人種を越えて結婚する男女が描写されることによってそもそも家族とは何なのか、と考えさせられます。それは何に裏打ちされているのか。というか、何のためにあるのか。結婚することによって2人が幸せになることを目指しているのだろうけど、幸せってそもそもなんだろう。平等に幸せになるなどということは多分ありえないわけだし。う~ん、難しい。


自森人読書 アンダーソン家のヨメ
★★

著者:  田中ロミオ
出版社: 小学館

  『人類は衰退しました』の続編。

  人類が衰退して数世紀がたちました。人類最後の学校を卒業し、調停官となった旧人類の少女は、新人類「妖精さん」たちと仲良くなります。「妖精さん」というのはお菓子が大好きな小人さんみたいなもの。わらわらと集まるととんでもないことをしでかすのですが、すぐに散らばってしまいます。『人間さんの、じゃくにくきょうしょく』『妖精さんの、じかんかつようじゅつ』収録。

  『人間さんの、じゃくにくきょうしょく』
  私は妖精さんのつくったと思われるスプーンを使ったためにハムスターサイズになってしまいます。もとに戻るため妖精さんを探すのですが、なかなか会えず、大変な目にあいます・・・

  『妖精さんの、じかんかつようじゅつ』
  助手さんを出迎えに行った私は妖精さんのつくりだした時間の中に取り込まれ、ループしてしまい、お菓子をつくり、つくり、つくるはめになります。

  1巻以上に面白いです。1巻以上にふざけています。小説という枠組み自体に対するギャグまではさまれています。いつの間にか「・・・なのです」というあまりにもわざとらしいお嬢様の語り口に慣れてしまい、なんだかその語り口がかえって心地よくなってきました(まずい気がする・・・)。

  異様なまでに読みやすいです。それでいて面白いし、ちょっと深いものがあるように感じさせてくれます。


自森人読書 人類は衰退しました②
475円陣を組む女たち
★★★ 古井由吉

474平和ってなんだろう 「軍隊をすてた国」コスタリカから考える
★★★★★ 足立力也

473パリ・ロンドン放浪記
★★★★★ ジョージ・オーウェル

472夫が多すぎて
★★ サマセット・モーム

471共産党宣言
★★★★★ カール・マルクス、フリードリヒ・エンゲルス
ウェブサイトhttp://jimoren.my.coocan.jp/
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